大道楽
あーこへの応援を呼びかけた動画を公開し、多くの方々、特に、ローレルクラブで馬を持つ人たちのご協力を得て、無事、YouTubeの収益化ができ、多少の資金を得て、あーこを維持できる運びとなりました。
その時、多くの方々から、クラウドファンディングをしたらどうか、という意見や、支援金を送りたい、などという申し出がありました。
確かに、私の公開する動画は乗馬関連なので見る人が限られ、広告収入だけではあーこを維持するだけの資金が集まりません。支援したい人から、直接資金を集めた方が、はるかに効率も良く、純粋にあーこ維持に回すことができます。
ブレイクしているこの段階で資金援助を求めれば、それなりの金額が集まったかも知れません。
でも、私には、できませんでした。
あーこの維持に危機感を持っている支援者の皆さんには、随分とヤキモキさせてしまったかと思いますが。
理由は色々あります。
一つは、先にも書いたように、夫の理解を得るために、YouTuberとして稼げることを示す必要があったこと。
でも、それよりも大きな理由は、あーこを維持することは、私の大道楽に過ぎず、ただいただくだけになってしまうことを恐れたからです。
オリンピックに出る馬を得るためにある馬術選手が利用したり、引退競走馬を扱う牧場が新しい厩舎を建てるために利用したり……というクラウドファンディングの例はあります。
でも、あーこは、オリンピックに出て多くの人に夢を与えるわけでも、引退競走馬を多く救うわけでもありません。
ただ、私を乗せて、日々、幸せに過ごすだけです。
大変残念なことですが、世の中には、かわいそうな馬を救うため、と称して大金を集め、実際は何もしない、もしくは、簡単に投げ出してしまう人たちもいます。
簡単に投げ出さずとも、馬を扱う仕事は体力勝負なので、老年になり、後継者が見つからず、牧場をたたむしかない、という場合もあります。
馬の世界を知っている人は、ある程度鼻がききますが、気持ちだけで支援すると、騙されてしまう場合も多いのです。
もちろん、私はあーこを投げ出しませんし、騙すつもりもありません。
でも、自分の道楽の範疇を越えない限り、かわいそうな馬を餌に私腹を肥やす輩と50歩100歩、つまり、ただ自分の趣味のために金を集めて使っているんじゃないのか? と思えてくるのです。
個人的なことではなく、何か大きなムーブを起こそうと動かないことには、クラウドファンディングでお金を集めちまえ! という気持ちにはなれない。
そして、多くの人の気持ちのこもったお金が、きちんと馬のためになるように動いてほしいと願っています。
「良いわね、お金持ちは。私だってお金さえあれば、馬を持って優雅に乗馬をやってみたいわよ」
などと、よく言われます。
私に限って言えば、確かに貧乏ではないかも知れませんが、ただお金の使い道が違っているだけで、そういう人たちと生活レベルが違っているわけでもなんでもありません。
シェルを持って以来、私の家の冷蔵庫からビールが消えました。
満ち足りた人生のはずなのに、何かが足りず、ストレスを感じていた、キッチンドランカーだった私が、もうお酒の力に頼らなくなって良くなった、飲酒代が全て馬の維持費に回ったのです。
買う洋服も全て乗馬用になり、お出かけする時に着る服がないことに気がつきました。でも、お出かけする機会もほぼなくなってしまった、趣味の旅行も行かなくなってしまった、それで大満足になってしまったのです。
毎日馬房掃除に自転車で通う日々、まるで馬丁のようにボロに塗れた生活が、優雅で貴族のような趣味をしている有閑マダムのような言われよう。
お金さえあれば乗馬をしたいという人の大半は、友人と楽しむ飲食やブランドのバックや服、旅行など、ちょっとした楽しみを馬のためには諦められない人たちです。
私は諦めた……というよりも、自然とそうなった。
おそらく、私にとって、おおよそ女性が喜ぶような楽しみは、お金をかける価値がない、いわば逃げみたいなものだったのでしょう、旅行以外は。
旅行は私の長年の趣味で、随分とあちらこちら海外旅行を楽しみました。
でも、それももう馬の魅力の前には色褪せてしまいました。
乗馬を趣味にしている人には、自分の生活を切り詰めてでも、馬に情熱を注いでいる人たちがたくさんいます。
決して裕福だから乗馬をしているのではなく、馬が好きだから、なんとかして工面して乗馬を続けているのです。
良い馬を持ったら活躍できる若手の有望な選手はいるのに、お金がないばかりに馬術を諦めて、別の道を歩む人がたくさんいます。その人たちが、乗馬を続けられれば、きっともっと乗馬が身近になり、多くの馬の居場所ができるのに、多くの馬に幸せに生きるチャンスが与えられるのに、と思います。
馬を維持するには、お金はもちろんたくさんあった方がいいですし、今はなんとか回っているけれど、将来的には不安もいっぱいです。
ですが、その人たちのことを考えると、私の大道楽にお金をもらっている場合じゃないぞ、と感じてしまうのです。
私を乗せて、あーこがほこほこ幸せに過ごしている、そんな動画を楽しんでいる人が、少しでも応援してくれたならば……という気持ちです。
それが、YouTubeの収益にこだわった理由です。
とはいえ、青天の霹靂から約1年。
あーこっこファンも去る人は去り、定着した人は定着しました。
今は、あーこのことをとても大切に考えてくれる、新たな家族となりました。
これから、あーこっこクラブをどのように運営していくのか、新たに考えなければならない時期に立っているのかも知れません。
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