引退競走馬の幸せを考える

 競馬関係者が、現在、元競走馬のセカンドキャリアの道を作ろうと尽力しています。とはいえ、彼らができることは、救うことではなく、生き残るための道を作ってあげるまでで、その後は、引き取り先次第となります。

 生きるための道筋を、さらに幸せに生きるための道にするのは、私たち乗馬愛好者の役割となります。

 

 馬は人なり、出会う人次第で、幸せにも不幸にもなります。

 でも、そもそも出会いがなければ、不幸にしかなりません。

 良い出会いを作るのが、乗馬だと思うのです。

 写真で見る馬よりも、触った馬、触った馬よりも乗った馬、1度会った馬よりも何回も会った馬、そういう馬の方が、心から救いたいと思うからです。


 人間は、不幸なニュースを見て同情をしても、次のお笑い番組で笑うことが出来ます。でも、その不幸なニュースに自分の知り合いが絡んでいたら、お笑い番組を見る気も起きません。

 それと同じように、絆が深ければ深いほど、その馬の将来を気にするのです。

 私も、過去にあーことの2ヶ月がなければ、手を差し伸べることなく見捨てていたでしょう。今まで出会った多くの馬たちの行く末を知りつつも、見送ったのと同じように。


 引退後、そのまま養老牧場に行ってしまうよりも、乗馬として多くの人と出会い、良い関係を作って行った方が、その馬のためになると私は考えています。

 引退競走馬の行く先も少ないでしょうが、乗馬として長く人間に貢献してきた馬の行く先も、まだまだ十分ではないのが現状、できれば、働けなくなった馬のために、その枠は取っておいてほしい、まだまだ元気な馬は働いてほしい、という願いも確かにあります。

 でも、それだけではありません。

 気持ちを繋ぎ止めるには、馬の一生はあまりにも長い。

 皆さんは、馬券で自分の懐を温めてくれた馬たち、全ての馬を覚えていますか? ましてや、その馬全てを見守り、一生応援してくれる人が何人いるでしょうか?

 薄情なのではなく、競馬はそういうものなのです。 

 競馬ファンが、次から次へとデビューする馬たちへ気持ちが移っていったとしても、幸せに養老牧場で過ごしている馬に、自分一人が出資するのをやめても問題ないだろう、と去って行ったとしても、乗馬時代の新しい絆が、その馬を支えてくれるでしょう。


 ある引退競走馬が、乗馬を引退することとなりました。

 今後は、ホーストラストで余生を送ることになります。

 競走馬時代は、あまりいい成績を残せず、中央から地方へ移籍して走り続け、引退後は乗馬として長い間頑張ってきた、その余生を支えるのは、競馬ファンではなく、彼がかつて在籍した馬術部のメンバーだそうです。

 出会った人が多ければ、乗馬としての仕事ができない体になってしまっても、ただ、生きて元気に幸せに過ごしているだけで、幸せを感じてくれる人たちが、たくさんできる。多くの人に、必要とされる。

 だからこそ、乗馬として生き残る道を模索するのです。



 幸せな馬の受け皿としては、乗馬の世界はまだまだかも知れません。

 あまりにも乗馬人口が少なすぎて、たとえ、リトレーニングされたとしても、就職先が見つからないなど、問題はたくさんあります。

 就職先の乗馬クラブで酷使されて、使い捨てにされ、やはり屠場へ行く運命かも知れません。そんな過酷な道を生きながらえるのなら、安らかに死なせた方がマシ、と思う人もいるかも知れない。

 新しい馬を受け入れるには、古い馬を出して、馬房を空けなければなりません。リトレーニングが進めば進むほど、古い馬を処分しましょう、という流れになるのでは、本末転倒になってしまいます。


 実際に多くのクラブを渡り歩いてきたわけでもなく、現状を全てスパイのように探って歩いているわけでもないので、ネットの情報と想像でしかありませんが、不幸な馬たちばかりの乗馬クラブは、まだまだたくさんあるのです。

 そして、悲しいことに、それが馬の当たり前の姿だと思い込んで、せっせと馬を酷使してしまう人たちも、まだまだたくさんいるのです。

 臭いものには蓋をし、見せないようにして、ただ、表面上のお付き合いをさせることで、商売にしている乗馬クラブ。また、それを望んでいる乗馬愛好者。馬が大好きだけど、重たい責任を持ちたくない、持てない人、本当の馬を知るのが怖い人もいます。

 残念ながら、もう何年も乗馬を趣味にしてきて、競技会にも参加しているのにも関わらず、ポンと馬を渡されてしまったら、何をしたらいいのか途方に暮れてしまうような馬をよく知らない人たちも、まだまだたくさんいるのです。


 馬の使い道も、まだまだ、多様性がありません。

 馬それぞれの適材適所が少ないのです。

 乗馬は怖いからお手入れするだけで十分という人たちもいますし、グランドワークだけやりたい、という人もいるでしょうが、まだまだ、馬は乗るもの、で止まっています。

 色々な道があれば、たとえ、乗れなくなってしまった馬でも、仕事を見つけて大事にされる可能性が広がるのでは? と思っています。

 そして、まだまだ乗馬は敷居が高い、とても手が出るスポーツじゃないと、どうしてもチャレンジできない人たちもいます。


 ですが、私が乗馬を始めた頃に比べると、はるかに乗馬を始めやすい環境になっていますし、馬のウェルフェアも格段に上昇しています。

 時代が変わり、馬は人々の余暇の相棒となった、心の支えとなった、その存在が末長く幸せであることが、人々の喜びになった、多くの人たちにとって、馬はもう生活を支える糧ではないのです。

 10年後は、さらに良くなるでしょう。

 多くの人が馬を救い、これからはその馬の幸せを願って、行動するからです。

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