大転換期、来たる!
家畜と家族
なぜ、クラブは一気に3万円もの値上げをする気になったのでしょう?
諸経費が上がっているとはいえ、その当時の物価上昇は、10年前の倍にはなってはいません。税率が上がっただけでも苦しい時に、一気に1万円も値上げして、その時も自馬オーナーたちは悲鳴をあげたのに。
私は、クラブ側は、値上げによって自馬を手放してもらい、馬房を空けたかったのでは? と考えています。
明らかに、経営方針が変わったのでは? と思える変革があり、それに続く値上げでした。空いた自馬用の馬房に、入れたい馬がいる……。
昔とは違い、レンタル自馬制度に、クラブ側のメリットがなくなったのです。
かつては、馬と馬を置く場所を提供してあげればそれでよかった、レンタル自馬オーナーは、自分のやりたいように馬を扱っていて、クラブ側は何もしなくていい人たちばかりでした。むしろ、クラブ側に余計な手出しも口出しも望まない、馬を自分の思うように作ってみたい人たちばかりだったのです。
今の人たちはかつての人たちのように自分で馬を作ろうとは思っていない、プロにきっちり馬を作って欲しい人ばかりで手がかかります。しかも、レッスン馬よりも待遇良く扱わなけばならず、飼料も馬房も良くしなければクレームが出ます。クラブにとっては手の抜けない部分なのです。
馬の頭数に比べてスタッフが少ないクラブです。レンタル自馬オーナーは、割に合わない客になってしまったのではないか? と思うのです。
それならば、もう馬をお返ししてもらおう、でも、返却の際の取り決めがないので、レンタル自馬オーナーに自主的に返してもらうしかない、それには極端な値上げをするのが一番だろうと考えたのではないかと。
説明会の中で、自馬の預託料は上げるのに、レッスン馬の騎乗料が据え置かれるのは不公平で納得ができない、と訴える人がいました。
飼料などの物価の上昇で、今の預託料では維持できず、やむなく値上げに踏み切ることになった、と言うのがクラブ側の言い分、それならば、均等に負担すべきではないですか? という意見です。
クラブ側は、自馬を手放したら皆さんはその馬にレッスン馬として乗るだろう、その時に値上げしているのは申し訳ないと考えた、そこで据え置きにした、と説明しました。
しかし、長年、その馬を持ってきた人たちには、もう自分の馬同然の馬を、値上げしたからといって手放そうとする人はいません。だから、余計に足元を見られた、馬を人質に取られた感覚があったのです。
私の感覚からすると、それが当たり前でしょう、と思うのですが。
このやりとりで、私は上記の推測に至りました。
お客さんにはレンタル自馬をやめて、レッスン馬に乗る方へ移行してもらいたいのだと。
もしも、その推測が正しいとしたら、値上げしても今までと変わらない、どころか、もっと悪くなってしまう可能性だってありえます。
月々22万円も払って、馬房掃除も自分でして、それで邪魔者扱いされては、たまったものではありません。
他の人たちは、自分の馬を思って、それでも残るんだな、と思いました。
もしかしたら、私があーこに思ったように、レッスン馬に戻したら、馬はすぐにダメになるだろう、と思った人もいたのかも知れません。ただ、私のようにストレートに顔に出てしまわない、大人の対応ができる人だっただけで。
私は、説明会ではほとんど何も言いませんでした。
このクラブには残らないので、何も言うことはありません。
その後、上手な交渉事は苦手なので、ズバリ、出て行くので売ってください、と伝えました。
もしかしたら、2頭とも失う危険な方法だったかもしれません。ダメなら、書面がないので勝ち目はありませんが、裁判を起こしてでも、2頭を手に入れようという強い気持ちもありました。
提示された金額は、決して安くはありませんでしたが、かつて読んだ「愛馬物語」という本で著者が馬を買い取った金額とさほど変わらなかったので、納得できるもので感謝すら感じました。
高額で買い取らせるのが目的ではなく、馬をお返ししてもらいたかっただけ、という推測が正解だったのかも知れませんが……。
クラブ側は、悪徳でもなく、足元を見るような真似もなく、むしろ誠意ある対応をしてくれたと思います。
ただ、馬に対する考え方の違いが、埋まらなかっただけで。
「馬は家畜ですよ、そこまでしなくても」というクラブ側に「家畜ではなく家族です」と言っても、理解できないのです。
馬は家畜、そうわきまえて、付き合うように……と育ってきた人たちにとって、そういう愛情の掛け方は邪道にしかすぎません。
きっと、いつまでも平行線のままでしょう。
こうして、一番の難問は突破できました。
馬の代金は、私の貯金を切り崩すことで支払いました。
共同馬主になってくれたまこさんとFさんの存在がなかったら、もうとっくに消えて無くなっていた貯金ですから、ここでもあーこの馬徳の致すところといいますか……強運を感じます。
私の計画はことごとく破綻したけれど、それが、なぜか巡り巡ってあーこのためになっているのですから。
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