サラブレッドは乗馬に向かない?

 よくサラブレッドは乗馬に向かない、と言われます。気性が激しく、危険だと。

 でも、私が知っている限り、そんなことはありません。

 シェルとあーこを見れば、実に大人しく、私のような素人でも扱える馬です。

 シェルは、シンボリルドルフの血を持っているし、あーこは、あの気性難で有名なヘイローの血を引いているのですけれどもね。


 引退競走馬の場合、リトレーニングをしても、何かのきっかけで昔を思い出し、爆走する可能性が多いのは間違いないと思います。

 しかし、実は、乗馬用の馬よりも従順で生真面目な、そう、あーこのような性格の馬が、割と多いのです。ゆえに、精神的に病みやすい、ともいますが。

 そもそも、故障するかも知れない危険を犯してまで、あのスピードで走る、乗っている人間を信頼する、それくらいの従順さは、サラブレッドくらいです。

 ゴールドシップは、大変賢い馬だったと言われていますが、本気で走って故障するのは嫌だったのかも知れません。

 あくまでも私が知っている限りですが、乗馬用の種類の馬たちは、我が強い馬が多く、ヘソを曲げやすく、調教を誤ると手におえない馬が多いように思います。

 サラブレッドは、生産頭数が多いので、乗馬に上がる馬が特別そうなのかも知れませんが、我慢強く従順な性格が多いと思います。

 私が出会った馬に限っていえば、サラブレッドの方が心優しく、扱いやすい馬が多かった、決して、乗馬に向かないわけではありません。


 向かないとすれば、気質よりもむしろ、身体的なことかと思います。

 サラブレッドは、速く走るための体型をしており、首や胴体が長い馬が多いです。皮膚が薄く、おまけに蹄が弱い馬が多いのも特徴です。

 首のつき方とお尻の筋肉の感じで、サラブレッドか乗馬用の品種か、見分けられることが多いです。

 そして、早くに結果を出さなければならないので、早熟な馬が多いです。

 さらに、故障なく無事に乗馬として上がってくる馬は、そうそういません。ほぼ、古傷を抱えてきています。

 背中が弱い、蹄が弱い、元々故障を抱えている、しかも、早熟で寿命も短い馬が多いのです。

 乗馬のために生産された馬に比べると、骨格・筋肉からして違うので、競技でいい成績を残そうと思えば、厳しい戦いになってしまいます。


 本気で馬術をやりたいのであれば、少しでもいい馬に乗りたいに決まっています。バブル時期あたりから、海外から優秀な乗馬が入ってきて、徐々に引退競走馬の居場所がなくなってしまったのも、乗馬というスポーツが成熟していく過程で仕方がないことなのだと思います。

 競馬と同様、乗馬の世界もより良い馬を持つことが、勝負になるからです。

 しかし、だからといって、サラブレッドが乗馬に向かない訳ではないのです。サラブレッドの良さを取り入れるため、乗馬の品種改良のためにも利用されていたりもします。

 決して、かわいそうだから乗馬に向かない馬を仕方がなく使う、ではありません。乗馬の世界でも素晴らしい役割を果たしています。

 サラブレッドの血統の中には、乗馬の世界でも高く評価されているものもあるようです。ちなみに、シェルの父方のおじいさんの血統は、かなり評価が高いようで、ちょっと嬉しいです。


 先にも書きましたように、昔から、引退競走馬を乗馬として使うことはよくあった……むしろ、昔の方が盛んだったと思います。リトレーニングの話を聞いて、何を今更、と思った乗馬関係者も多いと思います。

 でも、昔と今では、ちょっとニュアンスが違う、と感じています。

 農耕馬も軍馬もいなくなって久しく、乗馬用の馬をわざわざ生産することも少なく、乗馬クラブや大学馬術部では、ただ同然で譲ってもらえる引退競走馬が主流でした。よい乗用馬を買うのは高いだけではなく調教失敗のリスクも考えると、安価で使い捨ててもいい引退競走馬は使い勝手が良かったのだと思います。

 昔は、馬の行く末を追ってはいけないという常識があり、馬は回り回され行方不明という形で処分されていた、全ては闇の中でした。

 競馬関係者も、肉にした方が値段がつくのに、僅かな希望を持って、ただ同然で馬を乗馬として渡していたのだろうと思います。


 しかし、今は違います。

 今は、その行く末を追う人たちがたくさんいます。

 馬の個体管理もマイクロチップになり、取りちがいもできません。ちなみに、現在16歳のシェルは、まだ、馬の特徴を細かく明記されているだけの識別方法、でも、13歳のあーこにはマイクロチップが埋め込まれているのです。

 多くの人が、引退後の馬の行方を見守っており、応援できる世の中になりました。

 引き取ってリトレーニングする方も、何としてでも乗馬として使える馬にしようと必死です。

 競馬界も馬を使い捨てるイメージを払拭したいし、競馬で人気のあった馬を引き取れば、乗馬クラブの広告塔にもできます。

 競馬から馬に興味を持った人には、昔走っていた馬に乗れる、というのは、とても嬉しいことです。

 乗馬の世界での引退競走馬の活躍は、多くの人の夢と希望になるはずです。

 引退競走馬が乗馬としてセカンドキャリアを生きるのは、競馬の世界の人たちにも、乗馬を楽しむ人たちにとっても、意味あることだと思います。


 私のように趣味で乗馬を楽しむのなら、優秀な外産馬でなくても十分、お手頃価格で手に入る引退競走馬は、むしろお勧めだと思います。

 先入観を捨てて、運命の出会いを果たしてほしいと思います。

 

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