ペーパードライバー歴30年を捨てる

 あーこを100キロほど遠い牧場に置くことになり、いよいよ、車がないとどうにもならないところに来てしまいました。

 思えば、学生の頃、乗馬を続けるために免許をとったのでした。

 それが巡り巡って、30年経ってから、実現することになろうとは!

 

 しかし、車を運転しなければならない、買わなければならない、という状況に追いやられても、私は車を運転する自信がありませんでした。

 そもそも、車の知識もゼロでした。

 とりあえず、馬を2頭買ってお金もなく、YouTubeで収入が入るといっても微々たる金額、中古の軽自動車でも買って何とかしようか、と思っていましたが、夫が大反対。危険すぎるということで……なんと、夫のセカンドカーという名目で買ってもらえることになりました。

 こうして私たち夫婦は、私の馬大道楽が高じて、散々の散財、夫は度々、あーこを持ち続ける理解を示したことを、後悔する羽目になりました。


 夫が選んだ車は、トヨタのヤリスでした。安全第で至れり尽くせりの車で、マニアル時代に免許をとった私には、もっと早くに車を運転していればよかった! と思うほど、快適でした。

 その横で、夫は苦虫を噛んだような顔をしていましたが、最終的には、車を買って夫も助かることになりました。

 ご存知の通り、この冬は大雪になってしまい、FRの夫の車はほぼ動かせず、四駆で燃費も良く小型で小回りのきく私の車はとても役に立ちました。

 私が使わない時は、夫も好んで乗っていたので、半年も経たないうちに走行距離は1万を軽く越え、買った甲斐のある車になってしまいました。


 それまでの私は、出かけるとなると自転車でした。

 健康的でよかったのですが、長距離を毎日走るため、膝に負担がかかっていて、サポーターなしでは痛くて歩けないほどになっていたのです。それが、一気に良くなりました。

 かつては、自転車でやはり1時間近くかけて通っていたシェルのクラブも、車ではわずか20分、ちょっとした寄り道気分で軽く行けてしまいます。

 膝が痛かったり、股関節が痛くなったり、肩や肘が痛くなったりと、体も老齢化して若い時のようにはいかない、それが、自転車をやめたことで楽になりました。

 シートの高さの微妙な調整で、自転車の快適さは変わるようですが、地面に足がつかないとこけてしまう私には、膝に負担がかからない高さでは乗れなかったのです。


 車は、私たち夫婦には莫大な出費となってしまいましたが、それ以上に生活を楽にしてくれて、利便性が増して、良い結果となりました。

 いつまで運転できるかはわかりませんが、これだけの安全機能がついているのなら、自転車を使い続けるよりも老後に便利です。これ以上の膝の酷使は、私の体に重大な影響を与えていたかも知れず、それを思っても、とてもよかったと思います。

 車まで買う羽目になって、結局、以前のクラブにいた方が、ずっと経済的に楽だったんじゃないのか? などと、夫に叱られましたが、トータルで見ると、全て良い方に転びました。

 老後の資金を心配するより、今の無理をしなくて済んだ、それは、人生を豊かにすることなんじゃないのかな? と思います。



 クラブの値上げは、今となってはいい方向に向かっています。

 これぞ、人間万事塞翁が馬というものでしょうか?

 

 色々なクラブで色々な経験をしてきたつもりでしたが、12年もいたクラブを出てみると、世界はまた少し変わっていました。

 シェルとあーこを別々にしたことも、また、それぞれの場所の特徴があって、馬の扱い方を学ぶ上で、興味深かったりもします。

 客層が違うことも、また、馬の扱い方に大きな差ができます。

 馬は人なり、人次第で、変わるのだな、とつくづく思います。

 もうそろそろ引退を考えねば……などと考えていたけれど、私にはまだまだやらなければならないことがある、馬のことももっと勉強しなければならないことがある、そして、今まで経験したことを、誰かに伝えていかなければならない、そういうふうに、運命が動いているのだ、と感じました。


 私でも、まだできること。

 幸せな馬について、考えること。


 私には、多くの馬の命を救うことはできません。命さえ救えば、それでいいのか? と思うと、現実はそれほど甘くないからです。

 でも、目の前にいる馬を、幸せにすることなら、できるかも知れない。

 そして、多くの人が、自分の目の前の馬を幸せにしたいと願ったなら、多くの馬が救われる。

 きっとそのために、運命が、あーこをYouTu馬にして、多くの人に、馬の幸せについて、いろいろ考えてもらうよう、計らったのだろうと。

 そう思えてならないのです。



 

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