新天地へ
6月に青天の霹靂があり、7月にYouTubeの収益化がなり、7月30日に、あーこは新天地に移動しました。
私にとって、この1ヶ月半はものすごく長く感じられていて、毎日が緊張の連続でした。
引っ越す決意は当初からあったのに、この後に及んでも、本当に私は馬を買い取って移動させるのか? そんなことをしてやっていけるのか? と不安でいっぱい、今からでも遅くはないぞ、何もかも無かったことにして、つらっとこのクラブに居続けることだって可能だぞ? と、自分のどこかで自分を疑っていました。
かれこれ、このクラブに12年も居続けているのです。それがたった1ヶ月半で変わってしまうとは、どうしても体が追いついていない感じなのです。
周りも、出ていくと息巻いているものの、私はこのままクラブに留まるのではないか? と思っていた人もいたと思います。
しかし、ついにあーこが引っ越すこととなり、もう2度と戻れない、後へは引き返せないところまできたんだな、と思い至りました。
私は、大騒ぎにならないよう、前日までクラブ側にしかあーこが出ていくことを伝えていませんでした。
一時期は、みんなでクラブ側に働きかけて、何とかしようという動きや、馬を買い取って出ていくのも、残るのも自由にしようという動きがありましたが、一転、クラブに残ることを決めた人たちは、もう大事にしたくない、揉めたくない、丸く収めて収束したいと思っているようなので、そっと出ていく方がみなさんのためだと思いました。
しかし、Fさんには連絡を入れました。
手放したとはいえ、あれだけ可愛がってくれた人ですし、何も言わずに出ていく訳にはいきません。
彼女はあーこを見送りに来てくれました。
何かがほんの少しだけ違っていたら、あーこは今でもFさんと楽しく仲良くやっていたのかも知れません。
運命というものは、何とも不思議なものです。
彼女が作ってきてくれた人参ティアラは、あーこにとてもよく似合いました。
その後、すぐに食べてしまいましたが。
あーこは、なんか今日はいつもと違うな? とは思っていたようですが、暴れることもなく落ち着いていて、馬運車に乗る時に少し躊躇はしたものの、私が引き入れるとすぐに入りました。
でも、私が降りる時には、えー! お前降りるのか? 騙された! という顔をしていましたが。
他にもう1頭馬がいることで、さほど道中は問題が無かったと聞いています。
新しい牧場は、毎日、広い放牧地に放牧してもらえます。
でも、新入りの馬は、他の馬との折り合いがあるために、慎重に様子を見て、少しずつ、仲間入りをさせるそうで、その期間は長くなってしまうこともあるそうです。
あーこは、新しい場所に馴染むのに数日かかり、しばらくは借りてきた猫のようにじっとしてていは、時々、いなないたりもしていました。
しかし、思った以上に適応力があったようで、放牧に出されると、すぐにボスの馬の腰巾着になり、いつも一緒にいて、他の馬から身を守ってもらうようになりました。
そして、いつの間にか、随分と偉ぶってきて、オラオラオラ! と、他の馬を追い払っては、ここの草、全部オイラんだからな! と、本来の気質を出しまくっています。
賢い馬なので、世渡りも思った以上に上手だったようです。
元々、無駄な喧嘩をふっかけたり、暴力を振るったりする馬ではなく、自分のテリトリーを守りつつ、他も犯さず、マイペースなのでしょう。
やはり、もっと近くに……という気持ちは、いまだにあります。
シェルのクラブに空きができたら? と思うこともあります。
が、引っ越しして馴染むまでの期間がかわいそうに見えたこと、これだけ伸び伸びと放牧できる環境から、再び馬房のみの生活に戻すのは、あーこの気質上、難しいと思えることなどから、あーこのことを思えば、ここで乗馬として再生し、余生を送るのが一番なのかな? と思っています。
そして、シェルも私が乗馬として引退させた後は、こちらに置いてもらうのがいいのかも知れない、と思いつつあります。
私にとって、通いにくい場所に馬を置くのはとても辛いことではありますが、馬の幸せを一番に考えて、何事も決めていきたいと思います。
でも、今は……。
それぞれの新天地にて、乗馬としてまだまだ頑張ってほしい、私と一緒に歩んでほしい気持ちでいっぱいです。
乗馬を引退すれば、もう私との深い絆は消えてしまう。
いやいやそんなことはありませんよ、と思う人もいるでしょう、でも、一度馬から離れたことのある私には、わかるのです。
気持ちはあるかも知れませんが、もう共に歩む同志ではなくなる、別の愛情に形を変えてしまうのです。
それほど、馬に乗ることは馬との絆を深める、貴重な時間なのです。
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