あーこっこ名馬の素質

付き合ってみないとわかりにくいあーこの魅力

 ここまでの「ダメ馬伝説」を披露してしまうと、どうして、あーこを? と思う人もたくさんいることでしょう。

 昔、可愛がっていた馬だから、なんとか救いたいんだな、と思う人がいても仕方がないですし、実際、そう思っていた人がほとんどだったと思います。


 私も、初めてあーこがレッスンで使われているのを見た時、それほど見どころもない普通の馬、大人しそうなので、レッスン馬としては使いやすそうな馬だな、程度にしか思っておらず、実際に、レッスンで当たって乗る時も、インストラクターから、「こんな何もできない新馬ですみません」と言われたくらいでした。

 しかし、乗ってみると、速歩の質の良さを感じて、むむむ? これはもしや? と、才能の片鱗を感じたのでした。

 やりようによっては、化ける馬なんじゃ? と思ったのです。

 馬場馬として上を目指せる、とは思いませんでした。走り方が前のめりで、体型的なものもあり、これをどうにかするのは、相当な乗り手でも無理なんじゃ? と思いました。でも、A2なら、これだけ綺麗な速歩ができるのですから、十分通用するでしょう。

 他にファンがいない、来たばかりでまだあまり使っていない、クラブも使い方を模索中、という理由で、あーこを2ヶ月間占有しましたが、他にも、この馬をA2を踏める馬にするのも面白いかも? と思ったのが、選択のポイントでした。


 競走馬時代のあーこは、筋肉質で逞しく堂々とした体だったようです。

 過去を知る人からは、良血の御曹司、王子様っぽい言われようですが、私が知っているあーこは、げっそり痩せこけて草の食べ過ぎでお腹だけがポンポン膨れた、どう見ても田舎臭い馬でした。

 申し訳程度の額の星、鼻先のちょぼっとした白、たてがみは擦り切れていて、尻尾だけはふさふさ豊かな馬でした。

 派手な栗毛でお目々キラキラのシェルに比べると、見栄えしませんでした。

 しかし、それも、2ヶ月間、一生懸命手をかけると、競走馬時代の片鱗が見えてきたといいますか……ピカピカの馬体になり、ふっくらしてきて、本当に化けちまった! と思えるほど、立派になりました。


 そして乗る方も……最初の1ヶ月は、馬体のケアで手一杯でそれほど進まなかったのですが、後半は驚くべき理解力で、A2が踏める馬になっていたのです。

 実は、あーこはものすごく賢い馬で、教えたことはすぐに吸収、乗り手が何を望んでいるのかを、あっという間に理解する馬だったのです。

 もちろん、素人の私が教えたことですから、きっちりA2をマスター、などとはいいません。経路をなぞって帰ってくるだけ、とも言える出来です。

 しかし、ウーウー唸ったり耳を絞ったり、決して楽じゃない苦しい練習だったのかも知れないことを、反抗せず、コツコツと従って、健気にやり遂げようとする、生真面目さがあり、途中で投げ出すこともありませんでした。

 体がついてきたら、喜んでやってくれるだろう、と思えたのでした。


 あーこの賢さは、グランドワークでも発揮されました。

 その頃の私は、見よう見まねでナチュラルホースマンシップのグランドワークをやっていたのですが、これもあーこはすぐに理解してくれました。

 シェルも、過去に習ったことがあるんじゃ? と思えるほど、できることはすぐにできるようになったのですが、その3倍速の速さで習得したように思います。


 実は、私がこの馬をこのままで終わらせてはいけない、なんとか乗馬として復活させなければならない、と思った理由は、あーこの賢さにあります。

 今までも賢い馬はいましたが、ずる賢い方に働いてしまって、悪い方に頭を使う馬が多かったように思います。

 ところが、あーこは、今まで出会ったどの馬よりも相当賢い上に、一途な性格のせいか、ずる賢いとろこがほとんどなく、賢さを人間の言葉を理解する方向に使っていたのです。

 これほど乗馬として優れた才能があるでしょうか?

 それなのに、いつの間にか、人間はあーこの健気さにつけ込んで、無理難題を押し付けて、それに気が付かず、ダメ馬のレッテルを貼って処分しようとしている。

 その不条理さが許せなかったのです。


 あーことの2ヶ月は、その当時すっかり凹んでいた私に、乗馬の楽しみ、馬と共に成長し、変わってゆく姿を目にできた、初心に戻してくれた素晴らしい日々でした。

 残念ながら、さまざまな経験があーこを変えて、その時ほど、全てが簡単ではありません。しかし、あーこが賢いことは変わりません。

 新しいオーナーを見つけるために、良い馬アピールをしなければならなかったことも事実ですが、そうでなくても、多くの人々にあーこが良い馬だとアピールしたい、あーこは本当に賢い良い馬なのですから。

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