万事塞翁が馬
実は、あーこにはオーナーが付くチャンスが何回かありました。
その時に話がまとまらなかった経験が、私に「あーこにいいオーナーをつけるためには何が必要か?」を学ばせてくれました。
一度目は、高齢の女性が、自分の馬を持ってみたいといい、その候補にどうか? という話がありました。
私が2ヶ月持って手放したばかりの時で、試し乗りしてみると言われた日には、張り切ってクラブに行き、あーこをピカピカにお手入れして、いい馬っぷりを披露するよう、期待して様子を見ていました。
ところが、あーこは乗ってから腹帯を締める時に後退してしまい、さらに、その女性が乗るには反応が良すぎて、怖がらせてしまいました。
自馬候補から外れてしまい、私ががっかりする横で、あーこは清々しい顔をしていました。
どうやら、あーこ自身がその人を気に入らなかったようで、オイラはお前がいるから、他はどうでもいいんだぜ! と言っているように思えました。
そして、後々、この女性が自馬を持ってみたいと思った理由が、インストラクターの個人指導を受けたかったからだ、と判明しました。
当時、自馬とレッスン馬では担当インストラクターが違っていて、レッスン馬は基本部班でのレッスン、自馬は個人レッスンでした。
部班でレッスンを受けている人にとって、自馬での個人レッスンは憧れでもあったようです。
一対一で教わりたい、という願望が、自分の馬を持ってみようかしら? という決断になったそうです。
この時のあーこの態度に、あっちゃーという気持ちになりましたが、後々思えば良かったのかも知れません。
結局、別の馬を持ちましたが、この人は病気になってしまい、乗馬を続けることができなくなってしまいました。1年ほどで馬を手放してしまったからです。
手放された馬は、その人の願いもあり、ホーストラストで余生を過ごしましたが、数年後に亡くなりました。
高齢馬でしたので、この最期は馬としては幸せなものだったと思います。
短い期間でしたが、とても可愛がられていました。
でも、まだまだ若いあーこは、手放されてもレッスン馬に戻る可能性が高く、再び手放される=捨てられる思いを味わったことでしょう。
もう一つは、いよいよもってあーこがダメになりかけた時のこと。
私にはシェルもいるし、経済的にも2頭は厳しいので、誰かあーこを引き取ってくれる人はいないのだろうかと探していました。
その人が自馬を持つのが厳しいのであれば、なんぼでもお手伝いするし、共有して経済的な負担を負ってもいい、とさえ、思っていました。
レッスン馬時代、あーこのことを「自分の馬のようなものだ」と宣言して可愛がっていた人がいたので、早速、彼女の説得にあたりました。
あれだけ可愛がっていたのだから、命の危機なんだ、と切々と訴えれば、何か協力してもらえるのでは? と期待しました。
しかし、彼女から返ってきた言葉は、あーこは大会経験もない、A2を踏んで帰ってきたこともない、とても持てる馬ではない、ということでした。
春になったら、彼女は乗馬のB級ライセンスを取る、その時に一緒にライセンスを取れる馬じゃないと持つのはちょっと、という話だったのです。
そして、なんと彼女は友人と一緒に、2ヶ月間という期間限定で別の馬をもってしまったのです。
あんなにあーこを猫可愛がりしていたのに、結局はそこなのか! と腹が立ちました。
しかし、その人たちの馬にならなかったことは、あーこにとって幸運でした。
その時に持たれた馬は、とてもかわいそうな結果になってしまったからです。
私は、ずっとレッスン馬は、猫カフェの猫のような存在、もしくは、孤児院にいる子供たちのような存在だと思っていました。
オーナーという愛情をかけてくれる存在がいないのは不幸だと思っていたのです。
そして、どんな人でも、その馬に対して愛情さえあれば、なんとかなるものだ、と思っていました。
それは、私という決して馬に乗ることが上手でもない素人が、シェルのような馬を持てて、幸せに日々を過ごしたからです。
こんな私にもできるのだから、誰にでもやる気さえあれば、愛情さえあれば、できると思い込んでしまっていました。
でも、命に責任を持つということは、そうそう簡単なはずはありません。
あーこにふさわしい、良い出会いを演出しなくては、と肝に銘じる結果となりました。
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