あーこっこ再生計画
覚悟を日記にしたためる
2017年9月17日
あーこは、本名ローレルアウェイク、10戦2勝(2勝は大井での勝利)8歳の元競走馬。
クラブのレッスン馬で、愛馬のシェルが故障の時など、50鞍ほど乗せていただいたことがあります。
ある日、この馬が体調を崩して、体もガタガタで、もうこれ以上、レッスン馬として使っていけば、そう長くはないうちに、乗馬としての寿命を終えてしまうのではないか……という話を聞きました。
そこで、いてもたってもいられず、自分で持つことにしました。
これはかわいそうな馬への同情ではありません。
もう乗れない馬になってしまったのなら、私もすんなり諦めるしか有りません。
でも、今ならまだ乗馬として再生できる、あーこは、たった8歳で使えない馬になってしまうには、とてももったいない馬なのです。
ちょっと気難し屋さんでツンデレですが、その分一途な馬で、とても賢いのです。
多くの人に乗られて、その度に一生懸命だったので、ストレスが溜まり、体調を崩してしまったのだろうと思います。
時に、私のような怖がりで心の弱い人間は、馬乗りに向いていないのでは? 馬に乗る権利もないのでは? と悩んだことがあります。
そんな私を救ってくれたのも馬、ところが、この世界はどういうわけか、そういう心やさしい馬の方が生きにくいようです。
あーこも、そんな1頭になろうとしている……。
経済的な理由と自分の体力的な問題から、あーこをそう長くは維持できないでしょう。
それまでに、あーこにふさわしいオーナーさんを見つけ出さなければなりません。
馬を大事に扱ってくれる心やさしい一人のオーナーさんと巡り合えれば、その人をハッピーにしてくれる馬だ、と信じての投資です。
正直、想像するだけで私にはかなりの重荷になると感じています。
でも、あーこを持つことは、過去に出会った馬たちへの感謝の気持ちでもあり、あーこにふさわしいオーナーを探すことは過去の自分を救うことでもあり……。
きっと、素晴らしい充実した日々が待っていると信じています。
*****
私は、ずっとmixiで乗馬日記をつけています。
ともだちまでの公開なので、読んでいる人はそれほどいません。
それでも、誰かに読んでもらえているかも? という期待は、三日坊主で長続きしない私に、10年以上も日記を書き続けさせてくれ、今となっては大事な記録となっています。
あーこに乗った日を克明に覚えているのも、日記のおかげです。
この日記は、私の記憶違いを修正してくれて、シェルの故障の推移も明確に書かれていて、未来につながるものとなりました。
上記は、その時に書いた文章そのものです。
友人が読むかも知れないので、怒りの部分は控えめな表現です。
でも、当初から私があーこに望んでいたことは、終始一貫、何も変わっていないのです。
「この世界はどういうわけか、心やさしい馬の方が生きにくい」
それを知らしめ、考えてもらい、人々の心を変える、少しでも馬のウェルフェアに貢献する、それが私の希望でした。
純粋なシェルへの愛に比べると、自分の主義主張のためあーこを持った、見方によれば、実に邪な野望です。
それを実現させるためには、やらなければならないことが2つありました。
一つは、ボロボロになってしまったあーこを乗馬として再生させる。もう一つは、新しいオーナーを見つける、です。
そして、これには、経済的なタイムリミットがありました。
私の貯金が尽きる前に、なんとか、あーこを引き取ってくれる人を探し出さなくてはなりません。
乗馬として再生できたとしても、再びレッスン馬に戻せば、たちまちボロボロになることは目に見えている、だから、新しいオーナーを見つけることはとても大事なことです。
そのためには、もちろん、乗馬としての再生が大事なのですが、もう一つ、あーこが作ってしまった数々の「ダメ馬伝説」を払拭し、多くの人が持てたら持ちたいと思うような、アピールが必要でした。
そして、オーナーはこのクラブで見つけなければなりません。
というのも、先に書いたようにあーこは買い取った馬ではなく、預託料を払いさえすれば自分の馬として扱っていい、というレンタル自馬だったからです。
クラブ外に出す場合は、馬を買い取るというハードルがあり、難しくなります。
あーこと出会った頃の、クラブ側との最悪の関係は改善されていました。
しかし、私が、クラブ側にとって気持ちのいいお客さんではないことは、変わらないでしょう。なので、私は、あーこを自馬にする時に、あーこの状態を知らないふりをして「もっと真面目に馬に乗りたいと思って」と言いました。
当然、この馬の状態があまりにもひどいから私が引き取る、なんて、喧嘩を売るようなことは、おくびにも出さないよう気をつけました。
2年前に2ヶ月間、乗っていた馬ですから、クラブ側は納得し、快く受けてくれました。
後に、クラブを創設し今は隠居の身となっているクラブオーナーが慌ててすっ飛んできて、私に違う馬を持つように言い出しました。
「あの馬は膝が曲がっているし、もうボロボロですよ。とてもモノになるとは思えない、そんな状態の馬を持たせるのは良心が痛む、もっといい馬を探しますから、待ってください」
古き時代の馬乗りであるクラブオーナーは、間違いなく善良な人でしょう。
ダメな馬だと知っていて騙して売る、押し付ける、ということは、馬の売買ではよくあることで、そのせいで、
そして、長年馬を見てきた人が言うのですから、あーこは本当にひどい状態でした。
でも、この提案は、とてもありがたいと思いましたが、魂の色が完全反対色で決して交わることのない、いくら説明しても、きっとこの人には私が理解できないのだろうという、諦念しかありませんでした。
「あの馬がいいんです」
そう言った時の、困惑したクラブオーナーの顔が忘れられません。
人それぞれの乗馬ライフを歩んできて、それぞれに魂を得た、その色を塗り替えてやろうとは思いません。
人に色々な魂の色があるからこそ、馬も色々な馬が生きていけるのです。
優しい馬しか扱えない私ばかりしかいない世界なら、危険だと言われる馬たちは全て生きる道を失います。
しかしながら、この世界は、まだまだ私のような魂を、どうやって扱ったらいいのかわからない困惑と異端者扱いで満ち溢れています。
私の魂は、主張し続けなければならないのです。
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