第12話 ハザルの娘
金髪の少女が率いる自警団の案内のもと、訪れた村は、盆地を開拓して築かれた長閑な農村だった。
広大な田園に囲まれてミッチリと詰まった石造りの住宅群。田園の間にポツリポツリと平屋が建っていたデハンミングの農村とはあまりにも違いすぎる光景に、ウォンジュンは改めて自分が外国にいることを実感した。
感動を覚えながら田園の間に延びる畦道を進み住宅街に入ると、家々に挟まれた幅の狭い石畳の路地をいくらかの人が行き交っていた。誰もがウォンジュン達を物珍しげに見ている。
ウォンジュンはふと、少女の容姿が村の中においても浮いていることに気づいた。少女が率いている少年達もそうだが、村の人々は皆紙が黒く目鼻立ちはのっぺりとしている。
「ここにアタシと血が繋がってる人はいないよ〜」
ウォンジュンの様子から察したのか、少女がウォンジュンの隣に並んで言った。
「えっあっそうなの」
「アタシは15年前、ここの入口で見つかったんだって。アタシと同じ特徴をした女の人に抱かれて。その人は死んでたらしいけど」
「もしかして貴女、ハザルの人じゃないかしら?」
馬上からシャンユンが声をかけてきた。
ハザルといえばインストースよりも北方に位置する国の1つで、ここに住む人々の多くは少女と同じように金髪と瑠璃の瞳を持っている。十数年前─少女が赤子か幼子だったであろう頃には大規模な内紛が起こり、多くの国民が国外退避を図り散っていったこともある。
少女はそうしたハザル国民の1人なのかもしれない。一緒にいた人物も死に、たった1人外国の地で暮らす少女の寂しさを考え表情を曇らせるウォンジュンの肩を、少女がバシンと強く叩いた。
「勝手に人を寂しい女にしてんじゃねーぞ」
「すみません」
「ここの皆が小さなアタシを育ててくれたんだ。アタシにとって故郷は覚えてもいない出生地じゃなくて、沢山の思い出があるここなんだ。ねぇユーチェン、ユーチュン!」
ウォンジュン達の背後で談笑していた自警団の少年達が、唐突に名指しされたことに慌てながら「おう」と返した。
確かに生まれ故郷でも覚えていなかったら郷愁もクソも無いか。少女の言葉から学びを得たウォンジュンは「ごめんよ」と謝った。
「あ、着いたよ。ここがお宿ね」
少女が立ち止まり、ウォンジュンの袖を引いた。目の前には屋根瓦の所々崩れた、他の住宅とそう変わりない石造りの建物。しかし玄関には『招待所』というインストースにおいては宿を文字が掲げられている。
「ここは裏に温泉が湧き出ててね、よく他所からお客さんが湯治に来るんだ。おばあの作るご飯も美味いからね、ごゆつくりぃ」
語りながらウォンジュン達の荷物を降ろすと、少女は少年達と共にその場を離れていった。
『裏には温泉が湧き出ている』
その言葉に、ウォンジュンは一抹の不安を抱いた。
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