第11話 街道の若者達

薄く紫色がかった空に桃色や橙色の雲が流れる夕暮れ時、草原を割るように延びる街道沿いの岩場。モリシゲとシャンユンと共に携帯食の干し肉をかじるウォンジュンの表情は不満で歪みきっていた。

ウォンジュン達の周囲には略奪品と思われる色褪せた旗袍に動物の毛皮で作られた外套を纏い、棍棒や斧などの武具を手にした5人程の男達。この一帯で略奪行為に勤しむ盗賊達だ。


「兄ちゃん達、命が惜しかったら置いていけるモンは全部置いていくんだ」


盗賊の頭と思われる男が青龍刀を突きつけながら脅す。

対してウォンジュン達の反応といえばごくごく薄いものだった。ウォンジュンは溜息をつきながら干し肉をかじり続け、モリシゲは酒を煽り、それをシャンユンが「飲みすぎ」とたしなめる、ただそれだけ。腕に覚えのある剣士が2人、火や風を起こす術を持つという術師が1人という武闘派な一行にとっては盗賊なんぞより毒虫が飛来してくる方が恐ろしいというものである。


「オイ何か反応しろ!」


「なんか虫多いな〜大小に関わらず」


「人を虫とか呼ぶな!こっちは切実なんだぞ!」


「ていうかシゲさん、お酒ちょっと分けてよ。癒女辞めたら飲むぞって思ってたのに今に至るまでぜんっぜん飲めてないの」


「えぇ〜…入れる器ある?」


「呑気に酒飲むな!命狙われてんだぞ!」


盗賊のツッコミも虚しくウォンジュン達は食事を続ける。

そこへ突如、土を強く踏みつける音がウォンジュン達の背後から迫ってきた。それは一切の間も開けずにドドドと響き続ける。まるで複数の馬が走っているような。


「兄貴、アレ」


盗賊の1人が岩場の上を示す。

直後、ウォンジュン達と盗賊達の間に3頭の馬が降り立った。それぞれの馬には頭巾を目深に被り直剣を携えた人物が乗っており、盗賊達を警戒している。


「オメェら村の周りで何しとんじゃぁー!」


馬に乗った人物の1人が叫びながら直剣を振るった。刃先は眼前の盗賊を捉え、腕を切りつけた。


「やばいってコレ!」


「逃げろ!逃げるから追わないで!マジで!」


一気に怯んだ盗賊達が、躓いたり転んだり起き上がれずに匍匐したりしながらも草原の中を逃げ去っていった。

彼等は近隣の村から巡回に来た若者らしい。そう察したウォンジュンは自分達まで賊扱いされないよう国境の通行証を掲げ「旅行者でぇす」と声をかけた。すると若者の1人が馬から降り、被っていた頭巾を取り払った。そして現れた容貌はウォンジュン達を驚かせた。

後頭部で団子型に纏めた髪は眩いまでの輝きを放つ金色をしており、ハッキリとした顔立ちの中では瑠璃の宝玉を思わせる鮮やかな青い目が2つ。顔の下のスラリとした細い首筋には喉仏が無く、この人物が女性であることを物語っている。

これは天女か何かかと眼を見張るウォンジュンに、女性は拳を突き出し「うぃ〜」と声をかけた。


「お兄さん肝座ってるぅ〜」


続けて2人の若者が馬を降り、同じく頭巾を払うと─2人とも黒髪の年若い少年だった─女性と同じように「うぃーす」と拳を突き出してきた。

やけに陽気な3人組の拳にウォンジュンが自身の拳をぶつけてやると、彼等は「うぃ〜」と楽しげな声を発して両手の人差し指でウォンジュンを差しながら後ずさった。ウォンジュンは思わず「どういう絡みなの?」と問う。


「恐らくだけど君達って自警団か何かだよね?」


「うぃ!地元の治安を守る為に巡回してまぁす」


「俺らの地元は俺らで守るんですわ!」


「他にも10人ぐらい仲間いるんで呼んできましょうか?」


よそ者を見ると仲間を呼ぼうとするのは田舎の少年少女の性なのだろうか。要人の警護で訪れた村落でも子供達から同じような絡み方をされたことを思い出しながらウォンジュンは「いいです」と拒否した。

しかしこんな街道の真ん中で村人と出会えたのは幸運というもの。空の東端が藍色を帯び始めているのを見ながらウォンジュンは「君達の村に泊めてもらえないか」と頼もうとしたが、それよりも先に若者達がウォンジュンの背負鞄やシャンユンを馬に乗せ始めた。


「早くない?」


「多分『泊めて』って頼まれるだろうなと思って」


「とても野宿するようには見えないし」


「ウチの村にも宿ぐらいあるから」


若者達はウォンジュンの考えを先読みしたらしい。

何はともあれ野宿は避けられたので良かった。ヤッタヤッタと小躍りするシャンユンとモリシゲを一瞥してから、ウォンジュンは若者の先導のもと街道を進み始めた。

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