勘違いの温度差 ~でもだからってそれはないっ!!
藤瀬京祥
森村さくらに告ぐ
「あ、そうだ! ねぇ見て、琴乃!
見て見て」
「ん?」
不意に声を掛けられた
口の端にケチャップを付けてしまう。
しかも美少女にあるまじき横着をして、舌で舐め取ろうとする。
そこにお弁当箱を置いた机を挟んで向き合ってすわる
「ちょっと待って、これなんだけど……あ、違う」
何度も自分から見てとせがんだくせに待たせた挙げ句、ようやくのことで画面に開いて見せてきたのはさくらと、最近出来たばかりの彼氏である
さくら:昨日の晩ご飯、わたしの大好きなシチューだったの。
さくら:佐竹君の好きな食べ物って何?
佐竹君:なんだろう
さくら:今日のお弁当にほうれん草のおひたしが入ってて、ご飯がおしるでべちゃべちゃ
さくら:お母さんのバア
さくら:最悪
佐竹君:サイアク
さくら:佐竹君、今日はなにしてた?
さくら:琴乃ってばよくなにもないところでこけるんだよ
さくら:今日もこけてた
佐竹君:ふーん
さくら:今日の体育、サイアクー
佐竹君:ダル
さくら:だよねー
さくら:熱いし
さくら:アイス食べたい
佐竹君:俺も
(これを見てわたしにどうしろと?
しかも誤字が……)
食べる手を止め、付き合いたての二人のL○NEを読まされた琴乃はリアクションに困る。
LI○Eやツイ○ターに誤字はつきものだし、意味はわかる。
二人が付き合いだして間もないと聞けば初々しいという見方も出来なくはないけれど、それもかなり無理矢理。
さくらが送っている内容もそうだが、佐竹のリプもひどいものだ。
あまりにも内容がなく、あまりにも素っ気ない。
(これを初々しいというのも無理がありすぎだよね)
もちろんラブラブなやり取りを読まされるのも迷惑だが、これはこれで非常に困る。
しかもさくらはこんなやり取りをどう解釈したのだろう。
「そんなマジで読まれるとちょっと照れるんだけど……」
などと言いながら、フォークを持ったままの手で顔を隠してみせる。
自分で見て欲しいといいながらも照れる、その気持ちもわからなくはない琴乃だが、終始この調子のやり取りは照れるような内容だろうか。
延々この調子で、日付を見ればすでに一週間以上続いている。
やはり日付を見れば、毎日さくらは何かしら送信しているが、全て既読は付いているものの佐竹からのリプはあったりなかったり。
佐竹のほうから送られてきたメッセージは一通もない。
一通も
これはどう見てもおかしいだろう。
彼氏いない歴
だがなぜかこのLI○Eには危機感のようなものを感じてしまう。
そう、思い出してしまったのだ。
それは何かの雑誌で読んだ記事。
女性はよくこういう意味のないことを彼氏に送るが、送られた彼氏は全く興味が無いという内容で、これを頻繁にする彼女はウザがられるという。
もちろん全ての男性に当てはまるわけではないことは琴乃もわかっている。
しかも記事は一般的な社会人カップルの話として書かれていて、さくらも佐竹も高校生。
当てはまらない可能性は高そうだが、内容は当てはまる可能性が極めて高い。
まして佐竹は自称二刀流のバイセクシャルで、さくらにも 「浮気は男としかしない」 と公言し、
そのことをさくらがどう思っているか?
その本心まではまだ聞き出せていない気もする琴乃だが、このやり取りには明らかな危機感を覚える。
(だってこれ、どう見ても佐竹、さくらに興味ないよね?)
可能性としては、佐竹が格好をつけてわざと素っ気ない振りをしている事も考えられるが、その場合は佐竹のほうがイタくなる。
それでもまだ男子高校生としては許されるレベルだろう。
さくらの気を引きたくてわざと素っ気ない振り。
だとしたら大成功である。
ものの見事にさくらは夢中になっている。
しかもこのやり取りをどう誤解したのか?
どう解釈したのか……
「これってさぁ、ちょっと交換日記っぽくない?」
「……は?」
(日記? ……え? これ日記のつもりなの?)
完全に食べる手が止まってしまった琴乃は、言ってはいけない言葉だと思ってその疑問を声に出すことは辛うじて留めるけれど、言わずにいられない気持ちで口をパクパクさせる。
(ちょ、さくらってひょっとして……地雷系?)
仲のいい友人の言動に危機感を覚える琴乃だが、急なことでどう反応していいのかわからない。
わからないけれどなにか言わなければと気ばかりが焦り、やはり口だけがパクパクと動く。
ついでに冷汗がじんわりと滲み出す。
だがそんな友人の困惑をよそにすっかり幸せモードのさくらは、その幸せを琴乃にお裾分けでもしている気分なのだろうか。
地雷の埋まった危険地帯を邁進するような発言を続けてくる。
「もうすぐ付き合って一ヶ月記念なんだよね。
なんて送ろうかずっと考えてて。
ね、琴乃、なんて送ればいいと思う?」
「な、なんてって……」
「とりあえず毎日なにか一言以上送り続けるのが目標なの。
目指せ、皆勤よ!」
そうして100メッセージ記念、200メッセージ記念も祝うつもりらしい。
もちろん佐竹からのリプも含めての数で、10メッセージ記念を祝い忘れたと口を尖らせるさくらを見て、琴乃は彼女が地雷を踏んで吹っ飛ぶ姿を予感する。
(いや、それはそれでいい?
いっそそれで
そんな琴乃の思惑など気づくことのないさくらはさらなるノロケを始める。
その内容もまた、琴乃に、地雷を踏み抜く日が遠くないことを予感させるほどであった。
ー了ー
勘違いの温度差 ~でもだからってそれはないっ!! 藤瀬京祥 @syo-getu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勘違いの温度差 ~でもだからってそれはないっ!!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます