第8話 6週間後の日曜日
今日は丘頭警部が手土産に、全国で唯一のもなかの専門店「浅草ちょうちんもなか」のアイスもなかを買ってきてくれた。皆んな大好きな雷門の形をした皮でアイスを包んだ浅草名物である。アイスの味は小豆、抹茶、きな粉、黒胡麻などがありどれも美味しい。
食べ終えてから、警部が
「外立貢を殺人罪でも逮捕した」と胸のすくような報告を口にした。
「何かでたのか?」と聞く一心に
「店長の死体にかけられていたビニールシートに一滴の汗を発見して、そのDNAが外立のものと一致した。本人はそれを聞いて肩を落として全てを話すと言った」と警部もちょっと愁眉を開いて一層滑らかに口が回る。
外立の自供では、
事件の2ヶ月くらい前、飲み屋で友人と二人で盛り上がっていたら、見知らぬおじさんが話しかけてきた。それから1時間も一緒にワイワイやってたら、儲け話があるんだけどと突然真顔で言って、内容は話さずでかい儲け話だと、でかいでかいを強調していた。二人とも冗談だと思って笑って聞いていたが、明日その気になったらまたここに来い、奢ってやるといって先に帰って行った。それから暫く二人で飲んで帰りに会計しようとしたら、「もう、料金は頂いております」と言われた。あのおじさんが払ってくれたのだと思った。
それで、次の日もゴチになろうと店に夕方7時過ぎに行った。その時はおじさんはいなかったが、8時過ぎにポンと背中を叩かれ、振り向くとおじさんだった。それで、儲け話になった。
銀行強盗だといきなり切り出され、思わず
「それは無理」と言ったら、まあ聞けと具体的に話し始めた。人は傷つけない。行員を麻酔銃で眠らせる。客は銃で脅して一箇所に集めてバッグとかコート、男は尻ポケットに携帯入れてるやついるから、要は携帯電話さえ奪えば通報されない。それらを全部袋にいれてしまうんだ。行員も非常ベルを鳴らせない。そして俺がそこの店長だ。
えっと思った。
「何で自分の銀行をやるんだ?」と聞いたら、詳しくは言わなかったが銀行に相当恨みがあるようなこと言ってた。
そして一人は客を監視。一人は俺と金庫室へ入るんだ。鍵は俺が脅されているふりして全部開ける。開戸のキャビネットに一億円のビニール包装された現金がある。本当は、だ。前夜、俺が金を盗み出して、お前達が裏玄関まで分前をとりにくる。そこで現金は渡す。で、キャビ内にあるのは、一応見た目が一億のビニール包装で中身は新聞紙。それを持ち出し、裏玄関横のゴミ箱に新聞をぐちゃぐちゃにして捨て、ビニールはプラスチックゴミ箱へ捨てる。だからそとへ出るタイミングで目出し帽は脱ぐ、家で細かく切って、翌日コンビニのゴミ箱へ捨てる。バッグはでかいオレンジ色。目立つから中に黒い小さいバッグ入れてある、外へ出る前に黒いバッグに入れるんだ。銃もだ。そして予め決めとくゴミ箱に捨てる。銃は前もって渡すけど絶対素手で触るな。ゴム手履いて触るんだ。撃ち方は渡す時教える。あとは手ぶらで歩く。だから絶対に捕まらない。
と、まあ、こういう感じで店長と名乗る男から聞いて、出来そうだと思った。
「何で俺たち?」と聞いたら
「がたい良いし、飲みっぷりもいい、度胸有りそうだ。それが理由」って言われた。
借金あるなら強盗する日の午前中に返せ。警察に訊かれたら競馬と言っとけば良いんだ。強盗する前に返済すれば強盗と結びつけるのは無理だろう。って言われてすっかり信じた。細かな手順とかは犯行のひと月前くらいに決めた。という内容だ。
しかし外立はもう一人の名前を吐かない。が、その話から、山居犯人説が大抜擢だ。山居と外立の関係を徹底的に洗った。
まだ、わかっていないが、じきわかる。
何故、その店長を殺したのかを問うと、1週間ほど前ホテルで戸田英子に頼まれ、3千万円が報酬だという。だから、何故店長が殺されなければいけなかったか?という問いは未だ答えが出されていない。今、戸田英子を尋問中だ。
「戸田は何て言ってるの?黙秘か?」と一心。
「店長の妻美月から頼まれた」と言ってる。
「美月は強盗を事前に知っていたのか?」
「いや、知らなかったと言ってる」
「戸田は店長から金を預かったんだろう?」
「そうよ」
「したら、美月に言われたとしたら、見返りは?」
「その話になると、だんまりなのよ」
「二人の関係に何かあるのか?」
「元々、戸田は店長を憎んでいた。そこへ4千万円を店長から預かる話がきた。それをほとぼりが冷めた頃店長に返すなら、殺しに使った方が・・と考えられないかしら?」
「そうすると、店長殺人に関する主犯は戸田と言うことになるな。で、3千万円は外立に渡したから、自分は1千万円だけか?少ねえなあ・・」
一心と警部の会話に静が加わる。
「それでええんやおまへんか?だめだっしゃろか」
少し考えてた警部が、それは良いとしても外立の自供についての疑問を投げかける。
「前日に店長が金庫室から金を盗んだと言ってるんだけど、監視カメラを見る限り、持ち出された形跡はないのよ。カメラは24時間稼働してるし、時間も飛んでない。テープだから編集のしようもない。だから本庁も何が真実で、本当に外立は強盗犯なのかと言い出す奴が出るくらいスッキリしない事件だ」、と。
警察内部も混乱しているようだ。
「警部さんそのテープ貸してくれない?こっちで見てみたい。先週の話しで貸してもらえそうだったから、月曜日に行ったら、まだ整理が出来てないとか何とか言って、貸してくんなかったのさ」美紗は警察のとろい捜査にイライラしている。
「ごめん。警察でも何人もが何回もテープが擦り切れるくらい見てるから、良いよ、明日警察に取りにきて。用意させとく。但し、絶対無くさないでよ。始末書じゃ済まないからね」
「大丈夫。私が管理するから」と美紗は一心、静、数馬、一助を一人ずつ睨み付ける。
「借りたらダビングして夫々のパソコンに送っちゃるから、それで確認せえよ!」美紗の喋りは何とかならないのかといつも一心は思い静を見る。当分は嫁に行けないな、とため息がでる。
どうせ静に言っても
「そなこといわいでも、彼氏はんでもでけたら、言葉使いは変わるんやおへんか」とか「どないかせんとなあ、かなんわあ」とか言うに決まってるし。
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