第7話 5週間後の日曜日

 今日の先週1週間分の調査報告会も

「おはようございます」と俺ら家族一人ひとりにきちんと挨拶してくれる丘頭警部も顔を出す。

 その手には浅草喜久屋のよもぎ、あん入りみたらし、ゴマ、ご存じの団子だ。突然、それまでの騒めきが鳴りを潜める。静はすっとお茶を入れに立つ。一心は黙って生唾を飲み込む。

 

 ご馳走様でした、の掛け声で警部が報告の口火を切る。

 警察は強盗殺人事件の犯人の一人として外立貢を逮捕し、詳しい犯行内容や共犯者、金の行方について厳しく追求している。

 しかし、外立は共犯者の名前をげろしない。

 金については、犯行当日の午前中数百万円が大岩商事という闇金へ返済されているが、その金の出処は競馬だ。自分の分前は戸田から貰った3千万円だ。

 店長殺害については、自分はそんな話は聞いていない。刑事から聞いてビックリした。自分が裏玄関に行ってる間にもう1人がやったんじゃないかと嘯く。

 犯行については、ひと月前、飲み屋で店長から声をかけられ先棒を担ぐことになって、2週間ほどしてに銃と麻酔銃を貰った。使い方はその時に教わった。麻酔銃にレーザーポインターがついていたが、犯行後それを欲しくなり自分の引き出しにしまってある。自分は横玄関から3時ギリギリに侵入し、玄関と反対側のカウンタードアから事務室に侵入、計画通りに、窓口の女1人、近くの男2人とその横にいた女1人の4人を眠らせた。そして店長に銃を突き付けた振りをして一緒に金庫室に入って、キャビネットから偽1億をバッグに入れた。金庫室を出たところで銃を2発天井に向けて撃って、客に「金庫室に入れ!」と怒鳴った。客が動き出してから、裏玄関へ行って、ビニール袋と新聞紙をゴミ箱に捨てて、黒いバッグにオレンジのバッグと銃と麻酔銃を入れて裏玄関に置いてから、一旦ロビーの様子をみて外へ逃げた。

 事件の時に男性客を銃身で殴ったか?との問いには、いや知らない、と答えた。

 戸田英子との関係は、事件の3週間くらい前、きちっとした身なりの中年男と女が、ラブホテルから出てくるところを偶然に見た。年齢が不相応だし女が高校の同級生だとすぐ気づいた。それで不倫だと思い写真を撮って、クラス名簿から電話番号を調べて、小遣いをもらえないかと電話した。初めは間違いだと言ってたが、撮った写真を旦那に見せると言うと、その日の夜これしかないとラブホテルで10万円寄越した。俺は男から貰うつもりなので、男の連絡先をと聞いたがダメだという。俺は金が無くなったらまた電話しようと考えた。たしかその2週間後くらいにもホテルへ行った。と何の躊躇いもなくさらさらと自供した。


 警察は当たり馬券の話などまったく信用していない。外立が強盗を自供したのに、何故金の出どこに嘘をつくのか、その理由は強盗の分前と殺人の報酬の二つあるから、というのが一番自然だと考えている。

 一心の考えも警察の考えに一脈を通じている。

 外立は自ら金庫室にいたといい、男性客を殴ってないとも言っている。しかも金庫室にもう1人の賊が入ったところは誰も見ていない。そうすると殺人犯は外立以外に考えられない。午前中に返済した金が強奪したものだとすれば、分前を2回に分けて貰った事になる。それは強盗の分前と殺人の報酬だとしか考えられないからだ。


 少し間があって、静かが、

「例えば」と言って新たな犯行説を唱える。

「出納の女性行員吉井克絵はんが事件の前日の精査終了後、金庫室から一億円を抜きはってロッカーに隠してな、帰宅時に共犯者に渡すのや、当日は、理由は分かれへんやけど店長はんを共犯者が殺害しキャビネットに閉じ込めはった。そん犯人の外立はんは店長殺害の報酬としいや、共犯者戸田はんから3千万円を貰ったとこを逮捕された。と、ゆーのはどうどすやろ。・・・そやから、事件後に吉井はんを尾行しいやも何にも出へんのとちゃいますか」と。

  

 金庫室は出納の担当者が実務を、役席と店長はそれを管理をする立場。つまり、前夜吉井さんが帰った後に店を出た役席や店長も、静のいうやり方は出来る。

 だから、どうしても前日の夜に金が盗み出されている事を示さない限り、謎解きは前に進まない。やはりそこだと一心は思う。


 また、戸田は警察での事情聴取で、外立に渡した3千万円と自分の借金返済数百万円の返済財源については、店長が犯行の前日の夜、車で戸田の自宅に来て玄関前で預かってくれと言われたもの。何のお金かは聞いていない。近所の目があり急いで受け取った。店長が殺されたと聞いて、もう脅迫されずに済むと思った。お金も返さなくても良いと感じてすぐ自分の借金を返した。外立に脅されていた事もあり、殺してくれたお礼という気持ちで3千万円をあげるというと、もう強請るのは止めると言ってくれた。

だから、殺人には一切関係は無いと主張している。

ロビーで男性が殴られたことについては、店長から外立が強盗に入る事を聞いていたので、自分が外立に知らせた。と話した。

 しかし、一心の考えはこうだ。

 戸田は3週間前店長とホテルへ行った時、強盗の話を聞いて、店長の取り分の4千万円を預かる話しも聞いたはずだ。そして強盗犯の一人に高校の同級生だった外立がいることも知った。そしてその帰りを外立に目撃され脅された。

 戸田が美月から夫殺しを依頼されたのは、1週間前の日中で、その夜にホテルで外立に店長殺しを 報酬 3千万円で依頼した。

 こう考えて時間的に矛盾は無い。


「その主犯についてだが」と警部は報告を続ける。

 警察は店長のパソコンの中に犯行を臭わす文書を見つけた。

細かな手順は書かれていなかったが、自分が4千万円、共犯者Aと Bは夫々3千万円と書かれていた。動機については、警察が把握してる派閥の問題で、自分が昇進を望めなくなった事を怨んでいたこと、もっと海外旅行や豪遊する金が欲しいとも書かれていた。そして文書の最後には、この計画が成功すれば自分の老後は楽できると結んでいた。警部はそう言ってコピーをテーブルに置いた。

 さらにパソコンの中には、店長に脅されて関係していた女性達の画像や動画が保存されていた。女性達もはっきり言わなかったが、初めの時だけでなくホテルに行く都度撮影されていて、個人別にフォルダ管理されていた。

後からそれを見ていたのかもしれない。 


 そこで一心が今後の方針について皆んなに同意を求める。

 「明らかにすべきなのは、殺人の実行者は誰か?1億円のまだ分かっていない金の行方だ。」

「確定しているのは、外立の3千万円と戸田の1千万円の合計4千万円。

怪しい金は、当たり馬券が原資という、当日午前中の山居の新規預金1千万円と外立の借金返済数百万円の合計1千数百万円。

山居が犯人とすると、後2千万円がまだ何処かにあるはず。

外立が殺人犯とすると、後2千数百万円がまだ何処かにある。

これらを合計すると、丁度1億円になる。

 勿論、全く別人が犯人で、3千万円を持っている可能性はあるが、今の時点では、この考えで調査するしかない。だから、先ず金庫室の前日の夕方以降の出入りを監視カメラの映像で検証しようと決めた。それが突破口になる。どうだ?」と一心は噛んで含めるように話した。

 岡引一族は皆、我が意を得たりと頷いた。

 しかし、警部は「自分を含め多くの捜査官がそのビデオを何回となく確認しているので、恐らく何も出ないと思う。見ることに差支えはないが・・・」と虚な眼差しで口をつぐんだ。

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