第5話 3週間後の日曜日

 今日は丘頭警部も参加して、いつもの警部と探偵事務所との情報交換が10時から始まる。

 静が先週に続いてラブホテルの監視カメラの録画と事件に巻き込まれた客および行員の顔写真との照合で、もう一人わかったと言って、テーブルに写真を2枚置く。

 一心が見ると、また戸田英子だ。相手は戸田より同年代か少し若いかといった感じの男だ。ジャンパーを羽織って頭はボサボサ、あまり小綺麗ではない。が、随分親しそうだ。警部も知らない顔だという。時刻は夜7時と9時だ。一助が調べると写真を取る。と、続けて

「大外山道子の夫竜人のアリバイが証明できた」と自慢げに喋る。警部も

「えっ、捜査会議でもまだ捜査中としか聞いていないのに」と、驚いたようすを見せた。

 一助がいうには、竜人は外回りの仕事をしているので、時間を見つけは自宅を見張り、道子が出かけたら後を尾けていたそうだ。5日前、一助が尾行している途中で、自分を追い抜いた車が少し先で停まり、夫が降りてきて妻の尾行を始めた。暫く歩いて午後3時半頃、あるラブホテルの近くに大分代理の姿が見えてきた。道子は近づくにつれ、手を上げ小走りになって腕を絡め、そして一緒にホテルの門を潜った。その場面を一助は写真に撮ったが、夫は二人のところまでダッシュして、大分の肩を引いて振り向かせ殴りつけた。妻をも殴った。そして倒れた大分に馬乗りになって、何回も殴り続けるので、一助が夫を羽交締めにして引き離した。そこへパトカーが来て4人とも事情を聞かれた。その後警察署へ連れて行かれた。事情聴取の合間に、身分を明かして夫と話をしたら、尾行は何回もしたことがあって、事件の時も尾行していたが途中で配達が入って見失った。それで確信は無かったがホテル街をウロウロして次の配達まで道子を探していた。と説明した。で、自分がその周りにある何ヶ所もの監視カメラを覗かせてもらったら、この写真の通り彼が写っていた。そう言って写真を1枚テーブルに置く。

 その写真には3月25日15時5分と時刻が印刷され、写し出された夫の背後に店舗名が読み取れる。支店から1キロほど離れた床屋の名前だ。警部はそれを掴んでありがとうと言った。これで警部の手柄で容疑者が一人減った。

 一助はその後、道子に夫の行動の説明をして、当日の不審な動きについて説明を求めた。警察にも話したのにと、文句を言いながら、代理と3時過ぎにホテルに行く約束をしていた。家を早く出過ぎたので、好きな代理の顔でも見ていようとロビーに居た。と俯いて少女のように頬を染めて恥ずかしそうにに話した。夫のことも別にイヤとか嫌いではない。ただ、今は大分が好きなだけだ。と言った。

「俺にはさっぱりわからないと」一助は両手を広げる。

 だから、私は疑われているようだが、事件とはまったく関係ない。と今度は顔を上げて一助を睨み付けるように強調した。

 事情聴取のあと夫婦は、付かず離れず言葉を交わす様子もなく帰っていった。

 一心はひとこと言いたかったが、静の視線を感じやめた。


 警部が

「良いかい、阿蘇都について重大報告があるの!」と手を上げていう。

 事件の日の午後5時頃、大岩商事という闇金に借金の全額に当たる200万円余りを返済した。大岩商事に残る完済済みと書かれた借用証写しの提出も受けていた。阿蘇都を警察に呼び取調室で、強盗の件と金の入手先の追求をしているところだという。警察は間違いなく犯人の一味だと考えている。

 美紗の怪しげな女の情報から被疑者が特定きたと、警部は大層美紗を褒め、礼をいう。美紗も得意の鼻を膨らませて自慢げだ。

彼女の飯野辺は、全く知らなかったと主張するが、一緒に住んでいて知らないはずはないと、金の行方を含め自供を迫っている。

 そして

「次の情報いいかしら?」とみんなを見回して。

 美月が歳の差の随分ありそうな、チョット太めで180くらい背丈のある作業着を着た男とラブホテルに入ったところを、尾行していた刑事が撮らえた。2時間ほどホテルの前で待って、出てきた美月に声を掛けたそうだ。美月は驚いた表情を隠そうともせず、尾行について文句を言ったようだ。警察手帳を見ながら

「何!、人の後をコソコソと、私がなんか悪いことしたのかっ!」と大声で眉を吊り上げた。そして男を返した。当然、別の刑事が男の尾行についた。

「美月さん、今の男性は?」

「あんたに何関係あるの?」とすっかり開き直った様子で、

「旦那が死んで男と付き合って何が悪いのさ!」とくってかかる。

刑事が何とか宥めて話を聞くと、男はカラオケ屋で知り合った友塚清二郎といった。電気工事をやっている。友塚電気の二代目。店長も知っていて、今では自宅の電気関係は全て任せている。と吐き捨てるように話して

「もう、ええんやろっ」と返事をする間も与えず小走りに去っていった。

 一方、男の方は浅草六区通りの西端近くの友塚電気店が自宅らしく、ただいまーっと入っていった。

 その後、家族には刑事だと言わずに、外に呼び出して話を聞くと、友達と二人でカラオケ屋へ行ったら、受付に酔ったおばさんが二人いて、一緒に歌おう奢るからと誘われたのがきっかけ。それからは美月の自宅に様々な電化製品を納入させて貰ったり、ご飯をご馳走してくれたり、カラオケにも何回も行った、ラブホテルにも誘われた。自分には他に好きな娘が居るんだけど、仕事もくれるから、嫌だとは言えない。ただホテルで自分の上に乗ってドスの効いた声をあげられ、胸より腹が上下に大きく揺れる姿は、乳房が3つも有るのかって思わさるので白ける、本当はホテルなんか行きたくはない。

 最近は、パソコンでの色々の操作の仕方とか携帯も操作を教えた。

そこから急に口籠もりながら、余り言いたく無いんだけど、と前置きしてから、亡くなったご主人の女関係を調べたい。と言われ、店長のパソコンを美月のパソコンから覗く方法やデータをダウンロードしたりアップしたりする方法も聞かれた。

それはチョット難しいから、自分が代わりにやってあげた。中身は見ないようにした。それが約束だった。それをやると小遣いをくれた。3万、5万だが自分には大きな金額で助かっている。ホテルへは事件の半年以上前から誘われていた。と話し、

「美月さん、店長の殺害には関わって無いんですよね。仮にそうでも自分は関係ないから、だから秘密を全部話したんだからね。」と、友塚は強い口調で言って店に帰っていったそうだ。


 それから、と警部は続ける。

 先週もらった店長とホテルに入る女の写真4枚は、それぞれ裏が取れた。と話す。

4人は戸田と同じように融資の条件に身体を求められ、写真を撮られて関係を無理やり続けさせられたと証言した。戸田を含めた5名の夫は、何となく感じていたようだが、自ら蒔いた種なので何も言えなかったようだ。警部は5組の夫婦の当日の行動を洗った。そして全員サラリーマンで社内での仕事をしていたと複数の社員などの証言がとれ、犯行は無理だと判断した。

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