第4話 2週間後の日曜日

 丘頭警部は昨日一心に報告したという事で今日は来ていない。残念だおやつが今日は無い。


 10時、全員が事務所の所定の位置に着くと、一心の店長に関する報告から始まる。

 店長は自分の置かれている処遇に不満があり、部下を育てようなどという考えは全くない。日頃の鬱憤を部下にぶつけるようになってしまった。と、融資担当の狩野さんは話し、だから自分も今の店長の下にいたら役席にはなれない、と転勤を希望していたようだ。

 そして店長は闇金の大岩商事社長の大岩大吾とは大学の同期で悪仲間。融資係が融資の申込みを断わったのをみて、その客を店外で呼び止め良心的な金融会社があると言って大岩商事を紹介する。暫くして、その客が借金を返せなくなって、再び窓口に何とかしてくれと、夫婦で泣きついてくることが良くある。だが、借金整理に融資は出来ないと断ると、店長が店外で奥さんの方に、今は忙しいが夜8時頃には時間ができるので、自分の知り合いのバーに来てくれ融資の話しがあると声を掛ける。勿論、主人は?と聞かれると奥さんだけに内緒だから旦那には言うなと口止めする。言ったらこの話はなしだ。断るのも自由だという。そうすると大体の夫人は待ち合わせ場所に来るようだ。そこでは融資する見返りに夫人に一晩付き合えと迫るらしい。断れば勿論融資の話は無かったことになる。

 夫人らの中には、一晩だけと覚悟を決めてホテルに付いて来る人もいるようだ。店長はその夫人の裸や縛った姿を写真に撮る。さらに自分の背後から女の顔が見えるように動画を撮影する。それをネタに行為を繰り返していた。そして店長は大岩から見返りとして金を受け取っているらしい。

 たまたまボックスバーで支店の顧客が、店長と背中合わせに座ってホステスと談笑していると、店長と大岩と言う人が、そう言う話を自慢げに周りに気を使うこともなく大声でホステスに話をしていた。と融資係の狩野さんがわざわざ応接室に呼び出されて、そこで聞かされた。そういう行為に狩野さんは怒りを覚えていつかばらそうと思っていたそうだ。

「そしたらその女達には相当の憎しみがあるな。」と数馬。

「静の検証待ちだな」と一心。

「後でまとめて言うけんど、その女子はん見つけたえ」静がいつもの優しい笑顔で告げる。

一瞬、静に視線が集まる。

 「じゃあ、次は大分傑内部役席について」と一心は報告を続ける。

 大分は都内の三流大学の出、役員になる夢など端から持っていなかったと自分でいう。気力がないから営業成績も並み以下だし融資も出来ない。結婚はしているが子供はいない。酒も強くないしギャンブルは嫌いだそうだ。だから、内緒だが不倫をしていると自ら語る。そのくらい許して欲しいと一心に話すが、返事はしなかった。と一心。

 ふと殺気を感じて静に目をやると、目がボクサー色に染まっていた。彼女は健康のためにジムに通い、プロにならないかと何ども誘われるほどの実力者。一心も何度か腹にパンチを受けたが、一発で死ぬと思った。

そのことが頭を過ぎり、思わず両手を左右に振った。

 大分には大した借金も無いようだ。妻の操は夫の立場を理解している。と話してくれたが、よくよく話を聞くと、時々女の匂いをさせているのは絶対許せない。いつか見つけて叩きのめすと拳を強く握った。この時だけは荒々しい息遣いをしていた。

 少し前には店長夫人に相談したこともあったと話してくれた。

 

 一心が視線を向けると、静が待ってましたとホテルの映像と写真の照合結果について話す。

 「店長はんは何回も女とホテルに入いらはとる。そん中で写真と一致したんは戸田英子どす」と、写真を2枚テーブルに置く。入るところと出るところ。時刻は午後3時過ぎと4時半前。

「おれが詰める」一助が写真を手に持った。

 次に、静は大分代理と女の写真を2枚テーブルに置く。

「女は大外山道子どす」と静。

時刻は3時半と5時丁度。

事件ときに怪しいと睨んだ二人とも行員と不倫関係にあったのだ。

一心が

「後は?」と訊くと。

 更にもう2枚テーブルに載せる。

男は融資の狩野忠之で女は吉井克絵。二人とも独身で狩野32歳、吉井30歳年齢も良い。恋人同士と一目でわかる、楽しそうで彼女は入口で飛び跳ねている。本当に好きだと身体で言ってる。写真もそんな感じで写っている。犯罪の臭いなどどこにも無い。ただ、静は念を入れ借金を調べたといって、車のローン明細の写しをテーブルにポンと置いた。250万円の契約。だが、期日は5月だ。あと2回で終わり。

 皆んなで顔を見合わせて、一心が二人の写真と明細を破り捨てようとするが、

「それも証拠。捨てるな」と美紗。

「確かに」と一心はテーブルに戻す。

「なんだ、俺、折角何日も尾行して、やっとホテル入るとこ撮影してこれから皆んなに自慢しようかと思ったのに。母さんにやられたじゃ」と一助は悔しがる。

「そやかて、しよおがない。一助の調べもだいじないことやし、写真は一緒にしなはれ」と静は慰める。


 一心は忘れてたと頭を掻きながら、盗まれた金のことだと言って、現場にいた主婦の一人吾田良子(あがた・りょうこ)が夫の恵一に付き添われ、警察に自首してきたと話し出す。

誰も考えもしなかった人物だ。彼女が言うには、事件の時、金庫室に入れと言われ、一番先に入った。月中に自分や夫、子供の春服などを買い過ぎて月末期限で20万円の請求が来てビックリして困っていたそうだ。で、金庫室に入るとキャビネットの上にお皿が置いてあって、そこに輪ゴム留めのお札が載っていた。それを見た瞬間、悪魔が耳元で、盗れと囁いた。反射的に札をバッグに入れてしまった。と涙を流した。

その金額は23万5千円。

 丘頭警部が支店の大分代理に吾田良子の自首を伝えると、少しでも戻って良かった、監督官庁などにも既に届出しているので、事実をそのまま報告するという。あとは警察にお任せしますと、重たい口調でボソボソと警部に言ったそうだ。

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