14.食事に集中出来たら最高なのに……
「こちらへどうぞ」
促されて入った大広間には中央に長方形のテーブルがドーンと置いてあった。執事が順番に座るよう、案内していく。
一番向こうのお誕生日席は、多分王様と主賓のラジア王子の席だろう。そのすぐ横の先頭席も空席で、少し開けてからエドワード、その横に私、向かい側にはワカナ、それから他の貴族達も多分偉い順番になっているのだろう。あんな端っこの席なんて、ラジア王子の声聞こえるのかな……。
ピカピカに磨き上げられた銀食器が、パリッとした真っ白いテーブルクロスの上にきっちりと並んでいる。完璧に整えられたテーブルを見ただけで、ことの重大さを痛感する。どうか、何も起きませんように……。
「まぁ……! 映画で見たような光景! 素敵!」
……うん、何も起きないなんて無理そう。他の貴族達に冷ややかな視線を向けられているにも関わらず、どこ吹く風で目を輝かせているワカナ。あの空気の読めなさ、すごく主人公っぽい。
レイリーや、他の専属騎士達は、自分の主の後方壁際にずらりと控えている。きっとユーリックも戻ってきたらそこに並ぶのだろうけど、騎士達も一緒に食事をすればいいのに。なんだか申し訳ない。
「エド」
後ろから声がして振り向くと、第一王子のジャックと、第二王子のオリバーが立っていた。
「第一王子殿下、第二王子殿下、ご挨拶申し上げます」
エヴァリアの身体が勝手に動いて、完璧なお辞儀をした。
「挨拶に来てくれないなんて寂しいじゃないか」
「レトゼイア嬢、学園で素晴らしい魔力のコントロールを発揮したそうですね? カーディアン家で聞きました。ぜひ、今度は私の実験の」
「もう、いいですね? 席で待とうではありませんか、兄さん達」
騎士道を選んだというのにどこかチャラさを感じるジャック。スラリと背が高く、きっとすごくモテるはずだ。そして魔力に関することになると会話が止まらなくなるオリバー。私のことはルリミエに聞いたんだろう。その会話を遮るエドワード。王子スマイルは完璧なはずなのに、やっぱりどこかトゲトゲしい。
「おお怖い怖い」
「ああまだいろいろ聞きたいことがあるのに」
エドワードの隣にジャックが、その向かいのワカナの隣にオリバーが移動する。
「あっ、第三王子のお兄様ですよね? お会いするのは初めてですね、よろしくお願いします〜」
オリバーに早速話しかけるワカナ。せめて遠い席だったら気にしなくて済むのに、今から先が思いやられる。
じゃあ残りの空席はジャクリーン妃、オードリー妃、エイシア妃、国王、そしてラジア王子か。
パパパパーン―――。
唐突にラッパの音が鳴り響き、扉が開いた。
ゆっくりとした足取りで、落ち着いた(でも華やかな)装いの王族のトップが歩いて来た。その後ろにゆったりとした白い装いのラジア王子。インドとかアラブとか、そういうところっぽいゆるっとした涼し気な格好だ。ドレスやスーツのようなこの国ではかなり異色の格好と言える。そしてその後ろからはお妃様達が連なって入場した。
「みな、良く集まってくれた。今宵は、我らイグラント王国の友好国であるウィジャラ王国より、ラジア・ウィジャラ王子がこうしてお越しくださった。しばらくのうち、我が息子も通っている学園に留学なさるそうだ。両国のさらなる発展と、豊穣に寄与するその提案を受け、こうして盛大に祝うことにした」
満足そうに言う高身長イケおじの国王。お父さんがこんなにイケメンなんだもん、息子達だってそりゃイケメンになるよね。遺伝子、すごい。そしてお妃様達の美しいこと。聖女伝説ではエイシア妃のビジュアルが少し出て来るだけで、あとの2人は名前だけだったから実物を見るのは初めてだ。エイシア妃に勝るとも劣らない美しさで、美男美女で目のやり場がない。目の保養どころか、毒である。このレベルの世界で生きていたら、なんだか、ダメになっていまいそう。上手く言えないけど。
「……ということで、こちらに世話になる。両国の架け橋を担うことができて、大変光栄に思う。存分に学び、交流し、語らい、かけがえのない時間を過ごせることを確信している」
考え事をしていたら、いつの間にかラジア王子の挨拶になっていた。盛大な拍手がラジア王子に送られる。私も合わせて拍手をした。
「それでは我が国イグラントと、友好国ウィジャラの繁栄を願って……、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
グラスを掲げ、着席した。待ち構えていたかのように、給仕のためにメイドや執事たちが出入りをして料理を運んで来た。お腹はすいているけど、この状況では食事に集中できなそう。斜向かいにはワカナがいるし、隣はエドワードで、何をするのか、言われるのか、気にしたくなくても気になっちゃうし。エドワードの婚約者として、またレトゼイア家としての振る舞いを見られている、と思うと、ちょっと緊張する。
と、思っていたんだけど。
目の前に運ばれてきた食事を見たら、不安の方が吹き飛んでしまいそうだった。宝石箱みたいなサラダや、虹を詰め込んだようなパテ、完璧な構図のムニエル、どっしりとしたステーキ……。私って、こんなに食い意地張ってたかな……。山田ハナコの時は食事と呼べないような食事ばっかりだったけど。レトゼイア家でだって美味しくて素敵な食事だったと思うのだけど、やっぱり王室の食事は別格。
エヴァリアの完璧な所作が発動しているから、淑女らしく小さめ一口、優雅に咀嚼しているのだけど、本当はもっと食べたい!
「ラジア王子、同じ学園に通うことになる者が我が息子の他に2人、この場にいるので紹介しよう」
「それはありがたい。そういえば、異世界から降臨した聖女様もご一緒だとお聞きしましたが?」
「おぉ、耳が早いな。そう、異世界から突然現れた高橋ワカナ嬢だ。王子から見て右手の者だ」
食事に集中してる場合じゃなかった。聞こえてきた会話の内容に、身体が強張る。ワカナが何を言うのか。どんな態度を取るのか。
「陛下、ご紹介いただきありがとうございます。ラジア王子、初めまして。私が高橋ワカナです」
ワカナはイスから立ち上がり、軽く会釈をした。その至ってふつうな行動に、私は拍子抜けした。また何かやらかすかと思っていたのに。
「ワカナ嬢、この世界にはもう慣れたかね?」
「ええ、陛下がよくしてくれるおかげです。学園に通うのも楽しいですし、毎日充実しています」
「この世界の作法をわかっている聖女様は賢い方なんですね」
ラジア王子が褒めると、ワカナは嬉しそうに顔をほころばせた。
「とんでもない! この世界の作法が全然なってないって、いつもご指導いただくばかりです。……特にこのレトゼイア嬢には、いつもご迷惑をおかけするばかりで」
私のことを指し示すワカナ。ラジア王子の視線が動くのがわかった。
「ラジア王子、我が息子エドワードの婚約者にして、我が国の大貴族であるレトゼイア家の息女エヴァリア・レトゼイア嬢も、そなたと同じ学園に通う者だ」
仕方なく私もイスを引いて立ち上がり、完璧なお辞儀を披露した。
「ご紹介にあずかりました、エヴァリア・レトゼイアと申します。我が家門は卑しくも商業を生業としております故、ウィジャラ王国とは様々な取引をさせていただいており、ラジア王子がお見えになるこの場にご招待いただきましたこと、大変嬉しく存じます」
「ほう、レトゼイア家か。いつも良質な物が届くと、民は大変感謝しているぞ」
「お褒めのお言葉、恐縮でございます。我が家門も微力ながら、2国の繁栄に寄与出来たら、と、父も仕事に励んでおります」
「その隣にいるのが、我が息子のエドワードだ」
口から勝手に零れる言葉に安堵しながら、国王の紹介の順番を不思議に思った。ふつう、紹介の順番逆じゃない?
「ラジア王子、初めまして。第三王子のエドワードだ。同じ学園に通うことを楽しみにしている」
「おぉ、噂には聞いていたが、イグラント王国は本当に美男美女揃いだな。どなたもみな、美しい」
「そうですよね! 私もこの世界に来た時に同じことを思いました!」
大人しくしてくれるのかと思いきや、やっぱりそうはいかなかった。
ラジア王子の言葉にカットインしたワカナに、会場の視線が一斉に注がれた。
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