第27話 小平の本気
打順は一巡して、1番富風が打席に向かった。いくら相手のピッチャーがすごいレフトだとしても、粘喝高校の守備はひとたび打ってしまえばヒットになるレベルだし、そもそもうちの上位打線は都楽高校の斎藤と互角に戦えるレベルだ。
「くっ! いくら上位だからって……」
小平は何やら呟いているけど、いかんせんどうしようもない。
「やったれ富風! レフトに負けるな!」
こういうところで利尻先輩のヤジには熱が入ってくる。なんか烏野が冷たい目で見ているが。やっぱり裏切っている気がする。
ところが。
「あれ……」
「ホームランきたと思ったのに……」
「運が悪いな……」
「さすが小平さんです!」
それぞれ僕、利尻先輩、桐原先輩、烏野の談だ。
富風はうまく初球を捉えた。しっかり上に上がっていればホームランにもなりそうな当たりだった。ところが、その打球は、小平がジャンプして手を伸ばし、彼女のグローブに収まってしまったのであった。
「おのれ烏野! やはり裏切っていたな! 成敗してくれる!」
「ひええ、違います! そんな意図はなかったんです! 単に富風先輩を尊敬して言っただけなんです!」
利尻先輩が時代劇っぽい口調で烏野を追いかけている横で、桐原先輩に小平が近づいてきた。2番の多賀はもうバッターボックスにいるのだけれど、小平は見向きもしなかった。
「あの、もうそろそろ終わりにしませんか?」
小平はもしかしてコールドゲームを希望しているのだろうか。
「私としては非常に残念なのですが、うちの守備陣では、近山高校からまともにアウトを取ることはできません。相手を間違えたようです……平澤が『とりあえず一番近い高校と練習試合をしようぜ!』と言うのに釣られてしまったのです。実は今日、うちの一年生がそちらの都楽高校との試合を観戦していたのですが、なんでも互角に戦っていたとか。そんなチームと試合をしたところで、お互いに時間の無駄かと思うのです。そちらも、これではつまらないでしょう?」
とはいえ、桐原先輩もいきなりそこまで言われるとは思っていなかったようだ。
「いやいや、それはちょっと早すぎませんか? まだ粘喝高校は初回の攻撃すらしていないじゃありませんか。せめてそれくらいはしたらどうです?」
小平はとんでもないというようにぷるぷると首を振った。
「それこそ無駄ですよ! 私もわかっているんです、そちらの利尻さんの実力は……さらには、蘭ちゃんまで入部したとか。私以外があの二人から打てるとは思えませんもの」
やはり小平と烏野は知り合いだったらしい。当の烏野はまだ利尻先輩と鬼ごっこを続けているが、ちらっと振り向いて「あっ、小平さん、お久しぶりです〜!」とか言っている。
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