第17話 中海の奇策
「つまりですね」
僕は口調を改め、静まり返った円陣の中心で切り出した。
「都楽高校を都楽高校たらしめているもの、そのほとんどはエースの斎藤良純にあります。もちろん他のメンバーの中にも力のある選手はいますが、斎藤はその中でも飛び抜けています。ですから、斎藤に対抗できない限り、僕たちに勝機はないと言っていいでしょう」
これはどうしようもない事実だ。まずは斎藤の投げるボールを打ち返さないと、僕たちは勝負ができないのだ。守備陣で弱いところがどこかを考えたところで、斎藤がこちらを全員三振に取ってしまえば意味がないし、そもそも都楽高校ほどになると『守備のスキ』などは存在しない。というか、そんなものがわかりやすくあるためには、粘喝高校のレベルまで下らないといけない。
さらには、いくらこちらが都楽高校の打線を無失点に抑えたところで、こちらが都楽高校から点を取らなければ、引き分け以上にはすることができない。今日はこのあともう一つ試合をすることもあって、都楽高校には九回まで同点だったら引き分けにするように言ってある。けれども、正直なところ、もし延長戦になれば、選手層の厚い都楽高校が有利になっていくのは自明だ。こちらとしては、なんとかそれまでに決着をつける必要はない。
「ということで、今回の作戦名は……」
実は単純なものなのだけど。
「『大振り一本勝負』です」
みんながそろって目を点にした。それはそうだ、こんなのはもう作戦とはいえない。単に当たって砕けろと言っているにすぎない。
でも、僕は大真面目に続ける。
「いくら齋藤が速球を投げるといっても、たまにはこちらもバットに当てられるわけです。ですから、どうせ当てるのなら、ホームランを狙いましょう。ただのヒットでは、何人も続けて打たないと点が入りませんね。でも、ホームランを打てば、一人で一点が入るわけです」
まあ、最後まで全員が大振りしかしないというわけではないのだけれど。
「少なくとも一周目の打席では、打者みんなに大振りを実践してもらいます。ただ、二周目からどうなるかはわかりません。向こうの出方を見ながらです。それはまたあとで言おうと思います。ーーでは、先発の烏野の健闘に期待しましょう。以上です」
桐原先輩がすかさず「頑張るぞ!」と大声を出し、みんなが「おー!」と応じる。こちらの士気は上がり切っている。あとはそれをぶつけるだけだ。
「おーい、そろそろ始めるぞ!」
向こうのベンチから、都楽高校のキャプテンでもある斎藤が呼んでいる。こちらの選手たちも、すぐに円陣を解いてホームベースまで走っていく。両チーム整列して、球審をやるのだろう、都楽高校の顧問の先生が「礼!」と言う。
「「お願いします!!」」
ベースの両側から頭が一斉に下がり、また上がってくる。
コイントスで都楽高校が先攻と決まった。こちらの守備陣がグラウンドに散っていく。髪がないため初見では男と見間違いそうな烏野を筆頭に、全員が守備についた。
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