　都楽高校の1番、谷口（たにぐち）が打席に入った。彼はかなり打率の良い左打者だ。警戒しないといけない。

　烏野が一球目を投げた。カーブだ。谷口はほぼ無反応で見送り、ストライクが入る。

　二球目。ストレートだが、谷口が手を出した。しかし、うまく当たらず、三塁側のスタンドに入った。

　三球目。烏野のスライダーはわずかに右に外れた。谷口は振るそぶりも見せない。

　四球目。勝負球なのか、さっきよりもやや速いストレートだ。

　いやーー打たれた。完璧に当たってはいないけど、ボールはうまくレフトの前に落ちた。もちろん谷口は一塁に余裕で間に合う。

　マウンドの烏野は、顔をひきつらせながらサードからのボールを受け取った。烏野は今日が高校最初の実戦になる。ここで落ち込んだりしなければいいが。

　2番の及川（おいかわ）が打席に入った。明らかにバントの構えをしている。データから見ても、都楽高校がバントをしてくるのは珍しい。いったいどんな狙いがあるのだろう。

　烏野が初球を投げた。及川は待ちかねたようにバットを持ち替え、バットを強振した。同時に一塁の谷口がスタートする。

　だが、運のいいことに、そこまでうまく事は運ばなかった。及川のすぐ手前で、ボールは勢いを失ったのだったーーチェンジアップだ。及川の打ったボールは、元気なく三塁線に転がっていった。

　サードの小宮（こみや）がすぐに捕球し、一塁に投げてアウトにした。でも、結果的には谷口が二塁に進んでいる。都楽高校としては、たまたまうまく送りバントができてしまったわけだ。

　さて、ワンアウト二塁となって、次のバッターは都楽高校屈指の強打者、望月士郎（もちづきしろう）だ。パワーのある打者で、ホームランもよく打つ。

　烏野の一球目、ストレートは少し下に外れた。烏野も緊張しているのか、すぐには次の球を投げようとはせず、手の中で何度かボールを握り直している。

　二球目はまたストレートだった。望月はにやりと笑って、思いっきりバットを振り抜いた。

　左打者の望月が引っ張った当たりは、ライトの多賀の方向に伸びていく。

　本当に勢いのある当たりだった。僕もすわホームランか、と心配になった。でも、もうひと伸び足りない。深く守っていた多賀は、フェンスのすぐ手前で振り向き、捕球した。

　僕を含め、近山高校のベンチ陣はほっと息をついた。あと二、三メートル伸びていれば、望月の当たりは誇張なしにスタンドに入っていただろう。まったく、一打者ごとに点を取られるかひやひやするような展開だ。僕は改めて都楽高校との力の差を実感した。

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