第15話 偵察を成敗せよ!
「ところで、明日の先発はどうなるんですか?」
烏野がそう聞いてきた。
「ああ、烏野に行ってもらうよ。やはりいくらか奇策を使わないと、都楽高校には対処できないからね。利尻先輩はもう慣れられているだろうから。もちろん、あんまり打たれたら交代させるけどね?」
「まさか。きっとうまく抑えてみせますよ。利尻先輩の出番はないと思います」
「よーし、その心意気でやってくれ」
とは言いながら、せっかく使えるピッチャーが二人になったことだし、適当なところで継投させるかーーと思っている僕なのである。
と、そのとき。
「こらぁ、お前ら、何をやってる!」
何やら大声を上げながら、向こうでみんなと練習をしていた利尻先輩が、フェンスの方に走っていった。
見ると、フェンスの向こうに二つ人影が見えるーーが、利尻先輩のあまりの形相を見て、「や、やべぇ!」とか言いながらダッシュで逃げていく。利尻先輩は追いかけていったが、見失ったのか諦めたのか、すぐに戻ってきた。
「どうした、
すぐに桐原先輩がそう質問した。ところで、修斗というのは、利尻先輩の下の名前である。
「まったく、見えなかったのか? 今のは
粘喝高校とは、明日僕たちが二試合目に対戦する高校ーー胸を貸す弱い高校のことである。
「ええっ? そうなのか。ーーしかし修斗、そこまでムキになる必要はないんじゃないか? そもそも粘喝高校は弱いことで知られているし、偵察に来たくらいでキレるのはさすがにマナー違反だろ」
「単に偵察に来ただけなら言わないんだがな。なんとあいつらは、粘喝高校のユニフォームを着てやがったんだよ。わざわざ見せつけに来るなんて、こちらを侮辱しているにもほどがあるだろ。さらに言えば、普段あれだけ弱いことを考えると、何様のつもりだ、と思えちゃうんだよな」
利尻先輩の言うことももっともだ。普通はそういう敵情視察には私服で行くものなのだ。もちろんこちらが偵察しているということを知られれば相手に警戒されてしまうということもあるけど、確かにわざわざ自分の所属を見せつけるのは、敵の気分を害するもとだ。
まあ、偵察に行くこと自体は悪いことではないし、利尻先輩は少しやりすぎたとは思うけど。とはいえ、こちらも今、一年生の多賀を都楽高校に偵察に行かせているのだ。
「でも、あながち油断もできませんよ、先輩方。粘喝高校の偵察が無礼だったのは、おそらく粘喝高校が偵察慣れしていないせいだと思うんです。つまり、裏を返せば、粘喝高校は新しく偵察という事業を始めようとしているということなのです。もしかするとあいつら、少し真面目に練習をする気になったのかもしれませんよ」
ショートの富風がそう発言した。
「うん、確かにその通りだな。ちょっと心配になってきた。粘喝高校の様子も見てきた方がいいかもしれないぞ。多賀についでに見に行かせようぜ」
桐原先輩の言う通りだ。せっかくだから多賀にもう一働きしてもらおう。
「それじゃあ、僕が今から多賀に電話します」
そう言って、僕はスマホを取り出した。
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