第14話 都楽高校

「まあ、利尻先輩は県随一のスパルタ先輩として有名だからねーー言っとくけど、大川は別にセンスがないわけではないよ。つーか運動部だし。そんじょそこらの初心者よりかは覚えも速いと思うのだけど……」


 翌日になった。今日の初心者対策は烏野にやってもらっている。かなり人道的な指導をしてくれているようでありがたい。大川の表情も心持ち明るそうだ。


「……ということで、まあとりあえず素振りでもしてなさい。私は中海先輩に話があるから」


 烏野が指導を一旦切り上げて、こちらに向かってくる。そう、今日僕が烏野を初心者指導に選んだのには、別の理由があるのだ。


「さて、烏野、明日の試合のことなんだが……」


 実は、近山高校野球部は、明日の土曜日に二本立ての練習試合を控えている。そのうち最初に対戦する都楽とらく高校は、県内でも屈指の強豪で、簡単には勝てない相手

だ。


「わかっているかと思うけど、都楽高校には、あの斎藤良純さいとうよしずみがいるんだよ。あれをどうにかしない限り、うちに勝ち目はないといっていい」


 斎藤良純とは、都楽高校の絶対的エースのことである。およそこの国で野球をやっている者であれば、斎藤良純の名前を知らないものはないーーというほどの知名度を誇っているほどだ。


「ですよね。なんといっても、斎藤良純は160キロ出るといいますからね」


 斎藤良純のストロングポイントは、やはりその球速にある。160キロを出す高校生なんて、数年に一回しか出ないほどのすごさだ。間違いなく彼はプロにスカウトされるだろう。


「でも、私に斎藤対策の意見を求めてどうするんですか? 同学年の利尻先輩とか桐原先輩に聞けばいいじゃないですか」

「もちろんそれはやったんだけどな……」


 いったい何回、先輩たちと斎藤対策について話し合ったことだろう。僕たちに限らず、この県の野球部の者なら、一回はどのように斎藤を打ち崩すかについて議論したことがあるはずだ。


「斎藤というのは、通り一遍の作戦で倒せるものではないんだよ……」

「つまり打つ手がないということですか?」

「…………」


 しょうがない。斎藤が都楽高校に入学してからというもの、近山高校は都楽高校に勝ったことがないのだ。そもそも、斎藤のおかげて都楽高校は全国大会常連になっており、こちらとは格が違うともいえる。


「まあ、それはともかく、そんな強豪校を含むダブルヘッダーなんて、明日は大変そうですね」


 烏野の心配はもっともだが、実はそうでもない。


「いや、実は二校目は、かなり弱い学校なんだ。こっちが胸を貸している感じだな。だからそんなに気負わなくて大丈夫だぞ」


 もちろん油断は禁物だが、かなり楽な相手であることは間違いない。

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