第13話 大川受難
そんなこんなで、利尻先輩はしばらく指導を続けていたのだが。
「あーっ、もう我慢できねぇ! 大川、お前はなんでそんなに下手なんだ! 教えても教えてもうまくなりそうにない!」
ついに爆発してしまった。
「まあ、今日のところはもういいんじゃないですかーー大川も少しはうまくなりましたよ。少なくともボールをキャッチできるようにはなりましたから」
「確かにな! でもそれだけなんだよ! まだよく取り落とすし、さらには、投げてもコントロールがまるで定まらないんだからな! まだ花野の方が教えがいがある! ーーあっこら、喜ぶな花野! 別にお前がうまいとは言ってないからな! 普通というだけだ!」
まあ、これ以上練習を続けても、大川に進歩が見られそうにはない。それに、利尻先輩もそろそろ練習に戻らないと。
「あとは僕がやっておきますから、利尻先輩は練習に戻っていいですよ」
僕がそう言うと、利尻先輩はほっとしたような顔で練習に戻っていった。
「ひぇぇ……」
そのとたん、大川はがっくりとその場に座り込んでしまう。
「大川、そんなに利尻先輩が怖いの?」
「当たり前だ!」
花野の問いかけに、大川は蒼白な顔で首を横に振った。やはり利尻先輩に拒否反応が出始めているのだろう。少しフォローしておく必要があるだろうか。
「まあ、彼はああいう人だから……悪気はないんだよ、きっと……」
「そういう問題じゃないんです!」
「現実にスパルタなんです!」
完全に誤解されてしまった。利尻先輩はいい人なのに。なんとかして仲直りさせないと。
「まあ、僕は何も言わないから、そこらへんで練習してて」
僕がそう言うと、二人はまたキャッチボールを始める。やはり大川は下手だ。ーーもしかすると、花野にあまりにもセンスがあって、大川が普通という可能性もあるけれど。いや、まさかそれはないだろう。利尻先輩も普通と言っていたし、僕から見ても、ちゃんとボールを投げて受けられるだけで、フォームがもうできあがっているとかいうわけではない。
僕はレギュラーたちが練習している、グラウンドのメイン部分に視線を向ける。明日も初心者指導が利尻先輩では大川に酷だろう。烏野にでもやらせてみようか。
本当はそこまで初心者の育成を急ぐ必要はない。経験者だけで試合のメンバーには足りるのだ。でも、もちろん控えは一人でも多いほうがいい。ーーでも、一番心配なのは、今日しごかれすぎた大川がやる気をなくしてしまうことだ。大川は今も表情が固いままだ。辞めないといいのだけれど。
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