第11話 初心者対策
ひとまず僕はみんなに一斉に準備運動をさせてから、桐原先輩に「いつものメニューをやってて!」と言っておいて、問題の三人を集めた。花野、大川、そして利尻先輩である。
「さて、初心者のみなさんは、このままでは標準的なメニューをこなすことができないのはよくわかっていると思います。ですから、なるべく早くそれについていけるようになるために、しばらくは短期集中の特訓をしたいと思います」
三人はそれぞれ違う表情を浮かべた。
「おい、中海、ちょっと待て! 何かの間違いだろう、俺が初心者だなんて……」
案の定、利尻先輩が真っ先に僕に詰め寄ってきた。
「いやぁ、利尻先輩の実力では、ほとんど初心者と変わりないかと……あ、すみません、もちろん嘘です。実は、利尻先輩にはいわゆる指導役をやってほしいんですよ。僕はお手本を見せることはできませんからね。ぜひエースらしい風格で教えていただければなと」
「ふーん、それならいいんだが……」
まあ、それはともかく、僕は大川に聞きたいことがあるのだ。
「大川、なんで自分が初心者だと言わなかったんだ? あのバッティングは、どう見ても野球をちょっとでもやっていたようなものではなかったぞ」
だが、隠れ初心者の大川は、あまり悪びれた様がない。
「申し訳ありません。ちょっと僕は野球を甘く見ていたところがありまして。利尻先輩なら初心者でも余裕で打ち崩せるかと思ったのですが、現実はそう甘くはなかったようです」
やはり大川も我が校の伝統をよく理解しているようだ。利尻先輩はいじられるべきである。そして律儀に大川を全力でにらんでいる利尻先輩も良い。
大川はさらに主張を続ける。
「しかしですね中海先輩、僕がただの初心者と思ったら大間違いですよ。僕の三回の守備を見たでしょう? レフトフライをしっかり捕球したじゃありませんか」
「嘘つけ! あのレフトフライは、レフト真正面のイージーフライだっただろう! あれでレフトフライが取れたとは言わせんぞ!」
さっきの煽りに反撃したいのか利尻先輩は問題のレフトフライに言いがかりをつけているが、それでも大川がレフトフライを捕ったことは事実だ。
「む、もしかして大川、元運動部だったりする?」
「あーそうですね。実は中学はバスケをやってたんです。ですから運動神経はそれなりにありますね」
やっぱり。でも、これはプラスなことだ。大川はもしかすると、かなり早く即戦力になれるかもしれないぞ。
「……でも、花野は完全な運動部初心者なんだっけ」
花野はちょっと縮こまった。
「ひゃあ、肩身が狭いですね……でも、できるだけがんばります」
まあ、とりあえずは二人とも、利尻先輩に基本から教えてもらうことにしよう。
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