第10話 練習になったが……

 ということで、いろいろな学校行事のもろもろが終わり、めでたく部活の時間になった。入学式でも特に変わったことは起こらなかった。ひとつ挙げるとすれば、烏野が新入生代表あいさつの人に選ばれていたことだろうか。なかなかやるものだ。スピーチの才能もあるとかどんな天才だよ。


「いや、中海、それは当然のことなんじゃないか? だって、烏野は全国一位を何回も取っているんだろう? そりゃあインタビューされる機会も増えるよ。場慣れしてるんじゃないかな」


 富風はそう言っているけど、やっぱり才能が多い人はうらやましくなるものだ。


「ははは……それより、そろそろ練習を始めるから、みんな集まって」


 一年生たちも真面目にみんな出席している。よい傾向だ。


「さあ、今日から一年生は、本格的な練習の始まりだ。昨日は少しオリエンテーションっぽいところがあったから、みんなはまだあまり近山高校の練習がどんなものか理解していないと思う。もしかしたら少しハードかもしれないけど、がんばってついてきて」


 全員が大声で「はい!」と言う。さすが野球部、自動的に返事をする習慣がついているようだ。僕は別に監督でもないし、この上下関係はなんだかむずがゆいように感じるのだけれど。現に上級生たちは、そんなに律儀に僕に返事をしていないし。


「いやいや、いいんだぜ、中海。俺たちは一応中海の先輩だったり同級生だったりするからな。でも、一年生はさすがに中海に従う立場じゃないか」


 桐原先輩が、俺は今なんといいことを言ったのだろうという顔でにっこり笑った。


「まあ、そこまで神経質にならなくてもいいんじゃないですかね……あんまり絞ると、一年生辞めちゃうかもしれませんし」


 僕はやわらかく桐原先輩をたしなめておく。僕は特に優しい人というわけではないけれど、平和主義者ではある。戦うのは相手チームとだけで十分だーー味方同士で内乱をやっている場合ではない。


 といっても、ここはあくまで野球部で、やはり少し保守的な人が多いのも事実なのだ。一応僕は行き過ぎた縦社会は打破すべきだと思っているのだが、桐原先輩のような人ともうまく付き合っていかなければならない。それに、桐原先輩だって悪い人というわけではないのだ。


 でも、ひとまずそれは脇に置いて、僕には今日の練習をどうするかという課題がある。公認初心者の花野と、もう一人の隠れ初心者を、さてどう指導したものだろうか。


 みんなはウォーミングアップのランニングを続けている。いや、もうこれはランニングではなくて、ある種の全力の競走のようになっている。烏野がぶっちぎっている。利尻先輩も遅い方ではないけど、烏野にははるか及んでいない。

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