第5話 エースはどうなる!?
カコン!
あまり元気のよくない音がして、上級生チームの3番、中岡が打ったボールがぽとぽととショートの前に転がった。ショートは余裕を持って捕球し、一塁に送球、アウトになる。これでこの回ーー四回裏はスリーアウトだ。
「よーし、じゃあここらへんでゲームセットといこう! そろそろ暗くなってきたしね。片づけをして、いつものように集まって」
僕は大きな声でメンバーたちに言う。
やることがないようだったので点付けを任せていた花野が、スコアボードを押して物置に向かっていく。スコアボードの内容をまとめるとこのような通りだ。
1 2 3 4 計
一年生2 0 1 0 3
上級生0 0 0 0 0
一年生が完封勝ちしてしまっている。上級生たちは、4番の桐原先輩と、3番の中岡先輩の二回目の打席のときしか、バットにボールを当てることができなかった。つまりそれ以外は全部三振なのである。それに、当てた二人もそれぞれピッチャーゴロとファーストゴロで、間違ってもヒットになりそうな当たりではなかった。
さて、僕の前にメンバーたちが集まった。上級生たちは揃って元気がない。これだけ最初から一年生に及ばない上級生も珍しいだろう。少なくとも表面的には。
そう、表面的には。
「まず言いたいことがあるんだけど」
深層はそうではない。
「結果として、紅白戦は一年生チームの勝ちになったけど、実はそんなに一年生と上級生に差があるわけじゃないんだ」
何人かがぱっと顔を上げる。うすうす勘づいていたけど、やはり誤解していたのだろう。
「一年生の勝因は、ほとんど烏野の能力ががあまりにも飛び抜けて優れていたからにすぎないんだ。烏野を除くとヒットは2本しか打てていないし、烏野がほとんど三振にしてしまうから、野手の守備がどれだけうまいのかは測ることができないしね」
不本意だけど、僕は今日少し間違った練習メニューを選んでしまったんじゃないかーーとまで思っているほどだ。烏野がイレギュラーすぎて、本来の新入生の実力計測という目的がうまく機能しなかった。
「だから、今日の結果はあまり気にしなくていいよ。わかりやすく言うと、一年生はおごらず、上級生はくさらずといったところかな。明日からは本格的に練習をしようと思う。じゃあ、今日はここまで。解散!」
みんなは少し元気が戻った様子で、帰り支度を始める。と、そのとき、僕のところに桐原先輩と利尻先輩が近づいてきた。
「お疲れ、中海。それにしても、烏野のスペックは段違いだな。あれで女子だからな。これで今年の近山高校はさらに強くなるぞ」
桐原先輩は純粋に喜んでいるようだ。
「もうだめだ……これでは俺は万年ベンチになっちまう……どうすればいいんだ……」
利尻先輩は落ち込んでいるが、これはしょうがないというしかない。烏野とは実力が違いすぎる。
「はあ……」
利尻先輩は、とぼとぼと校門の方に歩いていく。
ところで、僕と利尻先輩は帰る方向が同じなのである。普段の利尻先輩は饒舌で、ややこちらが疲れるくらい喋り続けるような人なのだが、今日は元気がなさそうだ。僕も黙って見ているわけにはいかない。なんとか利尻先輩を慰めなければ。
「ええと、利尻先輩……」
僕はとりあえずそう言いかけた。
しかし。
「あっ! 中海先輩と利尻先輩じゃないですか! もしかして帰る方向が私と一緒なんですね! よろしくです!」
後ろから、なぜか烏野の明るい声が聞こえてきて、僕は頭を抱えた。
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