第7話 オタク君あるある~知識編~
「ってなことがありました」
「あの気配はそういうことか」
一騒動あった入学初日の夜。例によって例の如く、青林の膝の上で彩雲さんお手製の激ウマな夕飯に舌鼓を打ちながら今日あったことを話した・・・いや、話したというよりは尋問されたので答えた。「石に触ったのはどこの山の者だ」と怒りオーラ増し増しな青林には、美形は怒ったってサマになるのかと大変にオタク心を擽られたりした。
「山蛇の一族って、実は青龍の一族とは仲悪い?」
「ほぉ?何故そう思う?」
「蛇は龍と重ねられて、水や雷や山の神ってされた訳でしょ?それってつまり、『蛇=龍』であって『蛇〈龍』では無いじゃん?だけど、この世界では『蛇〈龍』の図式が出来てる。しかも青龍は、東・木・青を司る存在。樹千君に山蛇神としてのプライドがあるなら、青龍はライバル的ポジションになるかなーと」
「なるほどなぁ」
「で、どうなの?あーでも、蛇が龍に尊敬と敬愛の念を抱いてるっていうのが不文律じゃなければ成り立たないか」
「いや概ね合ってるぞ」
「まーじか♪」
「ちなみに愛し子、山蛇神についてどの程度知っている?」
「三輪山伝説とかなら知ってるけど、割と蛇に関する逸話は、なんつーか、そのぉ」
三輪山伝説とは、ざっくり言うと『古事記』に書かれている蛇神の婚姻譚だ。
「なんだハッキリしないな」
「いやあのね、あーの、俺、蛇っつったらさ、そのお・・・ピンク系のイメージなんよ」
「つまり?」
「いやだから」
「明確に言わないと分からないぞ?」
「・・・青林さん、分かってるでしょ」
「くふふふふ。お前が可愛くてな」
いじめられるのしゅみじゃないはずなのになぁ。ひらいちゃいけないものがひらいたきがするなぁ。
溶けた俺になでなでの追撃をしつつ青林は箸で空中に蛇の絵を描いた。行儀悪い、とは龍神には言えない。まぁそれ以前に、俺は基本的に青林肯定botなんで。
「お前の言う通り、この世界でも蛇といえば水神雷神山神の他に、色欲の存在とされている」
金色のその蛇の横に川と雷、山、ハートが描かれる。それぞれが蛇と線で結ばれているが、一番太いのはハートとの線だ。
そう。日本古典文学で蛇といえば、八岐大蛇や三輪山の蛇神といった神々の他に、割とエグめの色欲の動物である。『今昔物語集』とかのエピソード(有り体に申せば特殊性癖)、耐性がある方はどうぞ。「今昔物語集」「蛇」で一発で出るz☆
「山蛇の一族は、特にその印象が付けられてるな。それに反発するのもいれば気にしてないのもいるようだが。樹千は反発組筆頭だろう」
「だよねぇ」
俺の脳内に流れる、学校の図書館にあった『古事記』や『日本霊異記』『今昔物語集』の内容では山蛇が色々やっていた。アレ思うんだけど、『日本霊異記』に関しては仏教を信じる心って大事よねーみたいなテーマなのに蛇と女性のアレコレあるのは何なんだろうね。
そのこともついでに言ってみると、青林は軽く目を見開いた。
「よく知っているな」
「まーこれはオタクあるあるというか、好きだから覚えてしまったというか」
そのジャンルやら元ネタやらの知識が異様に増えるのはオタクあるあるだろう。ちなみに俺のオタク仲間には、推しが成績優秀(という設定)だったからという理由でリアルで学年1位を量産しまくったり化学の知識を蓄え過ぎておじいちゃん先生にドン引きされた化け物がいる。アイツ、今日も元気にスパチャしてるだろうか・・・。いやしてるな、絶対。赤スパを泣きながら投げてるだろう。
「では、俺のこともか?」
「青林、というか青龍に関してはそりゃもう」
「なんだか妬けるな」
「ゑ?」
膝の上で、更に体重をかけて俺を折り畳もうとする青林はぷくっと頬を膨らませていた。は?あざと。可愛い。優勝。あんたがチャンピオン。
「俺も愛し子のことはよく知っているつもりだが、まだ知らないことがあるのも、悔しいが認めざるを得ん。なのにお前ときたら」
あっきょりちかい。すとっぷすとっぷ。
「・・・本当にズルい」
なんだろ、195cm♂のぷくっと顔にこんなにドキドキするとかもう末期だ。本望ではあるけど、背中がぶわっと熱くなって首から上が熱中症みたいになって、頭の中がパヤパヤするの「ああ、俺はやっぱ青林が好きなんだな」ってなってくすぐったくなる。嬉しいけど堪らない。
「これから、お互い知っていけば良いじゃん」
「ふふふ。真っ赤な鬼灯のような顔してよく言う」
その夜は中々寝かせて貰えなかった。何故かって?
「だから個人的にはアイツは妖怪だと思ってるんだよ」
「白澤でもあるまいに、そんな存在がホイホイといて堪るか」
「いや本当だって!」
お互いのことから始まり、古典についてやら伝承についてやら白熱した語りが止まらなくなったから。
いや、ド健全!
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