第8話 メインストーリー???が解放されました(前)

 僅か数メートル離れた場所では、待ちに待った昼休みに浮かれている賑やかな声がいくつも響いている。それなのに、僕と何人かの上級生が対峙するこの場所には賑やかな声どころか浮かれ騒ぐ明るさすらない。

 僕の目の前に立つ、頭痛がしそうなほど若々しい新緑のような髪と瞳の男は、僕という獲物を計画的に追い詰めた喜びに鱗を鳴らしていた。元同族の僕でさえ、全身の鳥肌が一斉にゾワッと立つ嫌な音だ。

 つい数分に声をかけられてあれよあれよという間に物陰に連れ込まれ取引を持ちかけられたが、少しでも恐怖を感じていると気付かれたら一巻の終わりだということをよく知っているので、嘘でも平常心を装おっていた。だがそれにもいい加減疲れてきたのでさっさと話を切り上げて帰ることにした。

 「つまり、あの龍の石をとってくれば、もう僕のこと放っておいてくれんの?」

 「約束しよう。俺は仮にも山龍。その誇りに賭けて、あの石をもってくれば、樹千おまえに『昇龍乃試練』を迫ることはしない」

 他の上級生――現・山龍の一味にして元・山蛇の一族であった面々は不満そうな顔をしたが目の前の男には逆らえないのか口を開くことはない。それでも、蛇の名残を残した瞬きの無い目には異様な圧迫感がある。常日頃から「なにが山龍だ」と言っていても、経験や能力差を否でも分からされる場面ではそんな威勢は引っ込めるほか無い。

 「反故にするなよ」

 「この山龍の一味がおさ樹永じゅえいの信用が無いとはな」

 「僕にしたことを覚えていてそんなことが言えるのか?」

 「もちろんだ。それはお前も重々承知しているだろう?寧ろ、?」

 「っ、」

 ほんっとうに

 「あんたなんか、大っ嫌いだ」

 「褒め言葉として受け取っておこう。我が血を分けた兄弟といえども、山蛇に誇りを見出す者など。『昇龍乃試練』を越えし山龍の爪先ほどにも及ばない」

 


――――――――――――――――――――



 「おい」

 隣から聞こえてくる不機嫌な声は、最早朝のルーティンだ。5cmほど横に移動すると声の主はドカッと腰を下ろしてきた。

 「おはよう樹千君」

 「うるせぇ」

 俺がどんなに端にいても必ず邪魔だと示してくる樹千君。初日こそあんな具合だった樹千君だが、2週間も経つと否が応でも距離感というものが分かってきた。クラスメイトは俺が青龍の一族と関わりがあると知って極端に避けるか程々の関係を保ってくるかの2パターン化し、樹千君はこちらからけしかけるような真似をしなければ(するつもりもないけど)特に何もなかった。つまり、平和。授業も座学系はひたすら好きなゲームの解説本を読んでるようなもんだし、実技系は道具を使って出来ることはやってそうじゃない時は先生の雑用をして過ごしている。巫祝ふしゅく見習いで同じようにしていた生徒もいたらしいので、先生たちも慣れてる感じだった。いや正直、これまでの学校生活にロクな思い出がない俺にとっては夢のような毎日だ。今日は座学系が多いウハウハ時間割の日だし、尚更楽しみo(^o^)o

 「・・・お前、月末試験受けるのか?」

 と、珍しく樹千君から声がかかった。相変わらず10人が見たら10人とも「彼は不機嫌だ」と言うような声色と顔であったけど。

 「受けるけど、なんで?」

 アプリ版キセモリでは、毎月末に「月末試験」と称してプレイヤー対抗のイベントが開催される。内容はキセモリのクイズ、育成したキャラクターのコンテスト、pvpバトルの豪華3本立て。来週もまた見て下さいね、じゃんけんぽん✌うふふふふ、なんて月曜日の訪れを感じるボケは置いといて。

 それなりにやり込んだ俺は、キセモリの世界に来てしまってもまぁ大丈夫だろうと気楽に構えていた。育成したキャラクターのコンテストがどんな感じかはまだ分からないけど、クイズは筆記テストだろうしバトルは実技試テストだろう。どちらも今のトコ何とかなりそうだ。でもそれがどうしたと言うのか。頭の上で「?」が輝いた気がした。

 「・・・・・・お前、僕と勝負しろ」

 「え?」

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