第4話 オタク君、予告される。
さて、液状化現象が解決する頃にはすっかり夕飯の時間になってしまっていた。彩雲さんを先頭に、右へ左へ下へ上へとグネグネ廊下を進んだ先の和室みたいな部屋へと移動した。青林から何事もないように「ここがいつもの食事場所だ」と言われたが、ここでなら国主催のパーティーくらい開けるんじゃないかと思えるくらい広くて調度品も障子も華美な部屋で、俺は安い靴下を履いたその足でこの畳を踏んで良いものかと盛大にビビり散らかした。すかさず手を引いてくれたイケメンな青林が上座に座ったのでその向かいに座ろうとすると、何やら言いたげな顔でこちらを見てきた。
「ご、ごめん。マナーとか分からなくて」
なにかやらかしたかと焦っていると、青林は至って真顔で
「お前の席はここだ」
と胡座をかいている自分の膝の上をポンポンした。んえ?????
「あっ、座布団になれとかそういう・・・?」
「そういうのが好きならまたいつかやってやるが、そうじゃねぇよ。ほら来い」
グイリンッという効果音が聞こえてきそうな程の勢いで引っ張られてはひとたまりもない。元より体格差は歴然(自己申告170cmの俺が斜め上を見ないと青林のカッコイイイイイイイイイ顔は見えない&運動系龍様なので肉体が素晴らしいのですよ)としていたが、すっぽりと収まってしまった自分が悔しいやら青林が本当にイケメンでまた溶けそうやら。
「お待たせ致しました」
しばらくしてどこからともなくやって来た彩雲さんが大きな二つの盆を俺らの前に並べた。そこには中央に可愛らしく置かれたおにぎり3兄弟と豚汁のような汁物があった。いや絶対これめっちゃ美味いやつやん。お米なんて輝いてるし汁物も出汁の良い香りがこれでもかとする。こういうの大好き。
もう体が食べる準備を終えていた俺だったが、しかし俺の手を握ったり俺の頭に頭を乗せたりと忙しく(?)していた青林はそれを見て何か違ったらしくガバッと動いた。あっぶね。
「なぜ握り飯と汁物だけなんだ?今日は我が愛し子と邂逅した祝うべき日だぞ」
「青林様、青林様」
言葉の端々に疑問を湛えている青林に口元を近づけた彩雲さんはそのままヒソヒソと耳打ちした。
「今宵は確かに初夜でございますが、今抱き潰されては、セイ様がお可哀相で。それに中身はとびきりの物をご用意致しましたのでご容赦下さいませ」
あの、俺お膝の上にいるんで全部聞こえてます。うん。確かに初めての夜だから初夜だね。うんうん。俺は別に受けでも良いってか寧ろ青林が受けとか解釈違いが過ぎて憤死する勢いだけど。待って今抱き潰すって言った!?俺、潰されちゃうの!?テンプレみたいに!テンプレみたいに!!ていうか彩雲さんのそのご配慮はなに!?青林が確認したってことはそこら辺は共有されてないってことだよね?もしかして俺こんな美人さんの自我に心配されたの?恥ずか死ぃ!!!死!
悶えている間に渋々納得したような青林が、おにぎりを取って俺に差し出してきた。受け取ろうとするとヒョイッと取り上げられる。ついでにその長い御御足でがっちり拘束されれば俺の自由は跡形もなく消え去った。
「青林さん?」
「お前は賢いだろ?」
・・・もしや。いやでもまさかそんな。
「早くしろ」
彩雲さーんって、いない!?
「は、や、く、し、て」
でもって急に口調可愛いな!?あああああああもうやってやるよ!男、誠いっきまーす!
口をパカッ
俺超真っ赤
青林ニコニコ
(字余り)
「良い子だ」
どうしよう、俺あーんされてる。お膝の上であーんされてる。まだ誰にもされたことないのに←?
「いつか、覚悟しろよ?」
おにぎりが入っていて口は開けないので、視線で「?」を伝える。
「婚姻前でも遠慮はしないからな」
ここ、と人差し指で下腹部をトントンされれば嫌でも分かった。なるほど。なるほど。
「幸せ過ぎて腹上死したらごめんなさいっ♡♡」
こうやって俺はドンドン落とされていくのだな。なるほど。なるほど。なるほど。なるほど。なるほど・・・
夕飯の味?覚えてないよ(泣)もちろん彩雲さんには後でめちゃくちゃ謝罪した。本当に申し訳ありませんでした。でも御陰様で明日の俺が守られました。ありがとうございました。
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