第10話 そのまま、いけるか
学校帰りに公衆の面前の大通りの道を、とんとんと、とかけてゆく猫をみかけた。
いままで見たとのない猫だった。
無意識のうちに、あとを追っている。すると、猫はふだんの帰り道では入らない脇道に入っていた。
そのまま追いかける。あたまのなかでは、よしより、あの猫のいい写真をとってやろうと、たくらんでいた。
でも、次の角でその猫を見失う。見当たらない。
どこかに町の隙間に入ってしまったのか、しっぽの先も見当たらない。
さては、こちらの写真を撮りたいという邪心に気づかれて、逃げたのか。
腕組みをして、考えてしまう。
そして、ぽつんと立ったその場所は、ちいさな神社の前だった。こんなところに、神社があるとは知らなかった。
ちいさな神社の境内には、ちいさなお社があって、プラスチックの古いベンチと、自動販売機と、それから彼女がいた。
なせぜか、いる。背中しか見えないけど、背中を見ただけでもうわかる。
こんなところで、なにをしているんだろう。
やあ、さい銭どろぼうでもしようとしているのかい。
と、いう冗談もおもいついたけど、勇気がないので言うのは、やめておきつつ、境内へ入った。
彼女のそばへゆく。声をかけるまえに、彼女は気配を察してか、ふりかえった。
あいかわらず、はんぶん閉じたような目をしている。
近づくと、彼女はいきなり顔を左右に振った。なんだろうと思って立ち止まりと、彼女がそろりそろりとした動きで、よってきた。
「ムズイ局面である」と、急にそう言い出す。
そういわても、意味かはわかるはずもなく、瞬きしながら見返していると、彼女は視線でこちらの視線を誘導する。
見ると、おみくじの自動販売機がある。
そういえば、境内のあらゆる場所に、おみくじの紙が、まんかいに咲いた花のように、くくりつけられている。地面へ散っているのもある。
長方形の赤い箱の型のおみくじの自動販売機を見て、彼女がいわんとしていることはわかった。
おみくじ機の上に猫が乗っている。さっきの追いかけた猫じゃない。べつの猫だった。長方形の赤い箱の型の上に横たわって、しっぽをゆらゆらさせている。
こっちをコワがる感じはなかった、人になれているらしい。
なるほど、あの猫の写真を撮りたいのか。わかりやすかった。
彼女は「おみくじを買いたい」と言い出した。
「つまり、未来が不安なんだね」
と、いったけど、それに返しはなかった。かわりに彼女は「しかし」と、いった。
次の発言にして見返すと、彼女はいった。
「ねこが上に状態のまま、買わねば」
「ねこがのったまま」
「あの状態で、おみくじを引くべき」
言われて、あらためて、おみくじ機と、その上にいる猫を見る。
猫はそこが好きなのか、機械の上へ横たわっている。
そうか、猫が乗っている状態で買いたいのか。
「なるほど」といっておいた。
「邪心のまま近づけば、脱出される」
「それでなかなか近づけないのか」
確認すると彼女に「これはこれで、血が猛る」と返された。
ハードな心境を発表してくる。
とりあえず、ここは見守るしかない。
やがて彼女は、すう、っとした動きで、おみくじ機へ近づいてゆく。まさに、さい銭どろぼうみたいな動きみたいだった。
とたん、猫はおみくじ機の上から飛んで、ぬるりと地面へ着地すると、ととと、走ってどこかへ逃げてゆく。
邪心を隠しきれなかったらしい、あっけないものだった。
でも、しかたない。彼女の様子は、猫でなく、人間だったとしても、邪心を感じざるをえない動きだった。
あれは、しかたない。
と、思っていると、どこからとこもなく、もう一匹のべつの猫が姿を現す。
見覚えがある。さっき、ここまで追いかけきたあの猫だった
猫は、とんとんと、けいかいなステップで砂利の上を歩くと、飛んで、おみくじ機の上へ乗り、そこで丸まった。
なんだ、交代時間だったのか。猫たちの間で、そこにのっかる当番の時間でもあるのか
そう思っていると、彼女は、はんぶん開いたような目で、青空を見上げて言った。
「本日は、大吉である」
おみくじを引く前に、そうそういった。
そして、写真を取り出す。
めでたし、めでたし。
なんだろうな、これはこれで。考えながら、猫が乗っかったままで、おみくじはおみくじで引いてみる。
小吉だった。すると、彼女がおみくじをのぞき込んできた「小吉か」と、だけ、いった。
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