それは忍び寄る影

葛鷲つるぎ

第1話

 〇月〇日

 今日は右に曲がる。あんぱんがあった。


 〇月×日

 今日はまっすぐ進んだ。パイナップルがあった。


 ×月〇日

 どういうわけか、一本道しかなかった。人影。どこまで歩いても姿は見えない。これは、どんな梦なんだろう。この前、まっすぐ歩いたせい?




 本日分を書き記し、イヴは日記帳の手を止めた。

 いつの頃からか、夢に出てくる分かれ道。その道を進んだ先にあるものは、現実世界にも反映されると気づいてから、イブはずっと日記を付けていた。

 あんぱんの日は、現実でもあんぱんを選んだら、図書館で好きな子と席が隣になった。初めて満席の状況に感謝した。

 パイナップルの日は、現実ではオレンジを選んだら、トラックが跳ねた水に頭から被った。

 だから、夢で選んだ道にあったものは、絶対現実でも選ぶようにしている。

 ここで、今のイブに迷いがあった。今回の夢は、今までとは様子が違ったのだ。


「人影は、何を示しているんだろう」


 何か特別なことでもあるかと思ったが、代わり映えのしない一日だった。

 ほかに夢に特徴はないかと日記帳のページを過去にさかのぼってみる。すると、どうだろう。人影ではないが、人影と類似性があるようなアイテムが出てくる出てくる。

 かたっぽだけの靴。手袋。携帯。などなど。現実でも、実際に失くし物を見つけるなどということがあった。

 そうするうちに、日記帳の夢から、ぼんやりと人の姿が出来上がっていく。

 それは、まるで――。


『まるで、自分自身のようだ?』

「誰!?」


 イブはバッと後ろを振り向く。そして次の瞬間には、その姿は消えていた。

 残された物は、一つ。

 窓や扉が開いていない部屋の中で、日記帳がパラパラとめくれている。



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それは忍び寄る影 葛鷲つるぎ @aves_kudzu

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