魔王の勇者様 〜異世界で魔王が復活しちゃったみたいです〜

あずま悠紀

第1話

1年前に異世界に召喚された元の世界では平凡な高校生だった主人公は、世界を救うために伝説の聖剣エクスカリバーに選ばれし勇者の一人に選ばれた。だが、それは世界を破滅に導く魔王の復活を意味していた。

しかし、そんな事を知るはずもない主人公の勇者は世界の希望として旅に出て――

――魔王を倒して世界を救う!

『――さあ、勇者よ』

そうして目の前にいる存在から差し出された手を掴むと、俺の心の奥底から言葉では表現できないような力が湧いてきたんだ。

(これは?)

その感覚に戸惑う間もなく、俺は意識を失いその場に倒れてしまう。

そして、次に気が付いた時には見覚えのない場所にいた。

周りを見ると俺以外に誰もいない部屋の中にいたんだ。しかもそこは石造りの部屋で床には赤い液体が流れていた。

(なんなんだこの光景は)

俺は混乱しつつも部屋の中を散策しているうちに机を見つけることができた。その上に置かれている紙を手に取り内容を読んでみると、それは日本語で書かれている物ではなくて英語のような見たこともない文字が羅列していた。

「ん? なっ!?」

そこで、ようやく自分が着ている服装に気づくと驚愕する。なぜならそれは中世のヨーロッパの騎士を思わせる様な鎧を着ていて、腰にもロングソードというのか、柄の長い直刀を差した姿になっていたからだ。

(おいおい、マジか。どうなってんだよこれ。どうしてこんなコスプレした状態で見知らぬ場所にいるんだよ)

あまりの事に理解できなくて困惑してしまうけど、このままこうしていても状況が良くなるとは思えない。それに今持っている情報が少なすぎて考えるだけ無駄だろうと思った俺は部屋にあるドアを開けることにした。すると――そこには信じられない光景が広がっていた。

扉の向こう側には草原やら川が見えるだけで街のようなものは一切なかったのだ。

(ここはどこだ。いったいなんでこうなったんだよ。そもそもどうしてここにいるのか分からないぞ。あの時確か――)

◆ 学校帰りいつものように友達と一緒にゲームセンターに行き遊んでいた。そしたら、急に眩しい光が目に入り込んだ瞬間意識を失った。そして目が覚めたときには――

(そうだ! 突然現れた光の中から何かが現れ俺に向かって襲ってきたはずだ。それから記憶がないんだけど、もしかしてここって地球じゃないのか?)

まさかなとは思うがそれしか考えられない気がしてきた。だって明らかに地球の文明じゃなさそうな服を着てる人ばかりだからね。それに建物もほとんど見当たらないしね。

(とりあえず歩いて情報を集めよう。そうすればきっと何とかできるはずだ。だけど、困ったな。日本語が通じればいいんだけど――)

その時、後ろから誰かが話しかけてきた。振り返ると一人の女性が立っているのに気づいた。見た目はかなり若く十代後半くらいだろうか金髪碧眼の少女がいたんだ。ただ、その少女の姿に見惚れてしまっていた。まるでお姫様のように綺麗な人だったから仕方ないと思うけどね。

「あなたは誰?」

彼女は警戒するように聞いてきた。まぁそれも当然だと思う。見知らぬ男がいきなり近づいてきたのなら誰でも警戒するのが普通だ。ましてやこんな中世ヨーロッパ風の服を着ている男が来たら尚更怪しいよね。

「えっとですね。僕は日本の東京に住んでいる高校生です。実は先ほどまで友人とゲーセンに行ってました。でも急に光に包まれた後この草原にいたんです。なので状況が全く分かりません」

俺は素直にありのままの状況を話すことにした。正直なところ何も分からなかったので少しでも情報を得られるチャンスがあるならば掴み取っておきたかったんだ。

そんな俺の話を聞いた少女はその瞳を少し輝かせながら口を開いた。

「ニホン? 聞いたことがない地名だわ。それよりも転移者というのは本当のことなのかしら? 確かにこの世界の魔力とは異なるものを感じるけれど、私にはあなたの言うような人物だとは思わないわ。そうね、例えば勇者と呼ばれる人達と似た気配かしら」

(何言ってるんだろうこの子。さっきから一人でブツブツ喋っているよ)

その様子がおかしく見えたせいで、俺には彼女が変人に見えてしまった。だからつい言ってしまったんだ。

「大丈夫ですか? もしかしてどこか悪い所でもあるんじゃないですか? もしそうなら遠慮なく僕に相談してくださいよ。ほら僕の胸に飛び込んできても構いませんから」

その瞬間だった。彼女の顔色が青ざめてしまい体を震わせはじめた。その姿はとてもじゃないが年頃の少女がするような表情ではなかった。まるで恐怖に染まったように歯がカチカチとなり始め全身で拒否しているかのように感じたんだ。

(あちゃー、やっちゃったか。この世界に来て早々セクハラとかどんだけ最低な野郎だよ俺は)

さすがにやりすぎたと後悔したけど時すでに遅しで完全に警戒させてしまっているみたいだ。このままでは不味いと思い話題を変えようと必死に頭を回転させた。そして、一ついい案を思い出して実行することにした。

「あっそうだ。まだ名乗ってなかったですね。すみませんでした僕は鈴木雄太と言います。気軽にユータと呼んでください。それで貴方の名前はなんていうのでしょうか?」

「――えっ、私はリーゼロッテよ」

一瞬躊躇したものの名前を教えてくれた。俺はそれを聞いて思わずガッツポーズを取りそうになる気持ちを抑え冷静に言葉を返すことに成功した。なぜなら俺の知っている異世界ファンタジー物の知識の中には【乙女の花園】という言葉があったからだ。これは乙女たちが集まる秘密の集まりを意味していてその正体は美少女のグループを意味するのだ。つまりこの子は美少女のグループの一員である可能性が高いわけだ。

(ここで嫌われるようなことをして仲間に入れてもらえなくなると今後に影響してくるはずだ。なんとしてでも仲良くなり、あわよくば彼女を作る!)

俺の人生でモテ期など一度たりとも来なかったが、今この時が人生の転機になると思った。それにせっかく出会った可愛い子に嫌われたくないという気持ちもあるから、ここは慎重に言葉を選ばなければならないと思った。

だからまず初めに握手をしてもらおうと手を伸ばすことにしたんだ。すると彼女はなぜか顔を赤面させて手を伸してきた俺の手を握ってくれた。そして恥ずかしげな笑顔を見せて微笑んでくれる。俺はそれが嬉しくって仕方がなかったんだ。こんな可愛くて性格も良い子が俺なんかに手を伸ばしてくれることが奇跡なんじゃないかと思ったくらいだ。

(ヤバいな。今になって緊張してきたぞ。手が震えてるし。心臓バクバクしてきたぞ)

そしてついに念願の彼女の手を握ることに成功すると俺は勇気を出して自分の思いをぶちまけた。

「ぼ、僕は初めて会った時から君の事を気になっていた。そ、それに君は凄く可愛いからずっと君に話しかけたいと思っていたんだ。だ、だからお願いだ、僕と一緒にパーティーを組んでくれ!」

これが俺の人生で初の告白というものだったが、自分でも分かるくらいに声が上ずっていたと思う。それだけ彼女に見惚れていたということかもしれない。それに、こんな状況の中でいきなり告白された女の子の反応ってどんな風な物なんだろうと期待に満ちていた。だから――。

「――ッ!? ちょ、待って! いきなり何を言っているの!? そ、そんな事言われても、わ、私の返事が、どうなってもいいっていうの?」

俺の言葉を聞いた少女の顔は真っ赤になっていた。どうやら本気で照れているようでありその反応に俺は戸惑ってしまう。

(なんだよ、これじゃあ脈なしみたいな感じじゃん。やっぱ無理かぁー。だけど、諦めないからな。せめてフレンド登録だけでもしたいところだな)

俺はそう思って再度彼女の手を取ると強引に握ろうとするが――

――スカッ それは虚しいことに何も触れることなくすり抜けていった。

(は? どういうことだ?)

何度もチャレンジするも全て失敗に終わった。その様子から何か特別な力が働いているのではないかと考え始めた俺は魔法について質問することに決めた。もしかしたらそういう魔法があるのではないかと考えたからだ。そうでもしなければこの状況に納得できなさそうな気がしていたからね。

(異世界に来た時点でありえないと思うんだけど、それでも可能性を信じたいんだよ。それに俺だって一応勇者として召喚されているはずなんだけどな)

「すまない。どうしても君と繋がりが欲しかったんだ。こんな事を言うのは変だと思うんだけどさ、もしかして俺が今している装備は普通の物とは違うのか? そうでなければおかしいと思うんだ。俺は日本にいた時に着ていた制服を着ていて、しかも武器だって剣なんだぜ。だから――」

俺がそう聞くと同時に彼女の顔色が悪くなっていったように見えた。

「まさかあなたが勇者様なのですか!? それは申し訳ありませんでした。そうとは知らずに無礼な態度をとってしまって本当にすみません。許して頂けるでしょうか」

「ん? はっ!? どうなってんだこれ」

少女の声を聞き振り返るとそこには誰もいなかった。ただ遠くの方で馬車のようなものが見えるだけ。俺は慌ててその場から駆け出した。だが、いくら走っても距離がほとんど縮まることはなくどんどん離されていく。

(クソっ、一体どうなっているんだよ。こんなに走っているのに一向に差が縮まらない。もうこれ以上走ったら足を痛める。だけど、こんな場所で放り出されたら確実に野垂れ死ぬだろうな。とにかく情報収集するためにも街を見つけなきゃな)

俺は必死になって街の場所を聞くことにした。だけど誰一人教えてくれずに無視されてしまう。もしかして何かの罰ゲームで言わないとダメなのかなと俺は思い、とりあえず思いついた言葉を並べていくことに決めた。

その結果――なんとか聞き出すことに成功はしたが街までは相当の距離があるみたいだ。それなのに、少女達は街に帰ると言って馬に乗り去って行ってしまった。そこで俺はようやく少女達に名前を聞こうとしていた事に気づいた。だからもう一度名前を確認する為に話しかけることにしたんだ。

(確かリーゼだったよな。うーん、やっぱり覚えていないな。それなら仕方ないか。それにしても――綺麗な髪だよな)

その時の彼女の姿は太陽の光が当たり輝いているように見える銀髪をなびかせて凛とした佇まいでいる美少女がいたんだ。だから俺はそんな少女の姿に心を奪われてしまうのは必然なのかもしれない。ただ――彼女の後ろから追いかけてくるモンスターらしきものを見て恐怖を感じて逃げ出したい衝動を我慢するのが大変だった。

俺の本能は危険を察知しているらしく絶対に彼女と離れないようにしなくていけないと理解していた。なぜなら彼女の後ろから恐ろしい化け物が追ってきていたからね。その化け物は二足歩行をしていて体はゴリラのように大きく腕には大きな爪がついている。さらに背には翼まで生えており飛んで逃げようとしたらすぐに追いつかれそうだ。

(やばいやばいやばい。あの化け物めっちゃ早い。あんなのが街に入ったらとんでもない被害になるぞ)

俺は全力で逃げる少女達と並走しながら必死に考えていた。この危機的状況をどうにかする方法をだ。でもそんな方法があるとは考えられない。

そして走り続けていると俺にも限界が訪れたみたいだ。徐々に走る速度が落ちて遂には歩く速度にまで下がってしまう。そうしている間に少女達の乗る馬が止まってしまい、その背後からゆっくりと迫ってくる魔物が迫ってきていた。

その光景を見た瞬間に、俺は咄嵯に少女を助ける方法を考えていた。

「あぁくそ! やってやる! ここで見捨てて死んだら後味悪すぎるし後悔しかないからな」

俺は何もかもが中途半端で終わってしまった元の世界の生活を思い出していた。そう思っていると無意識のうちに叫んでいたんだ。

「おいこらそこの化け物野郎。この子を狙うってことは、つまり俺が相手になるってことでいいんだな。よし、分かった相手に不足はないから掛かってこい!」

「グルゥァォォオ!」

どうやら挑発は成功したようで、目の前の化物は怒り狂ったように奇声を上げて向かってきた。

俺が持っているのはこの世界で聖剣と呼ばれるエクスカリバーのみだ。でもそれは見た目だけは立派なだけで実は本物じゃないらしい。そもそも本物の勇者しか扱えないはずの剣を何故、俺は扱えるようになったかというと【神の恩恵】のおかげなのだ。

俺はこの世界では【勇者】という役割になっているらしく、本来は勇者にしか使うことを許さないという伝説の剣【聖剣】に認められている存在だと言われたんだ。

ただ俺自身には自分が【勇者様】だとは思えないから否定しているんだよね。だからそのせいで他のみんなは俺のことを認めていないようだ。

(まぁ、こんな状況だし仕方がないのかな。それよりも――)

目の前にいる魔物を倒す方が重要だと判断し、腰に携えていた聖剣を手に取った。それと同時に、なぜか手に持っていたロングソードが光の粒子になり消える。すると右手に聖剣が、左手に魔剣が現れたんだ。俺がこの二つの剣を同時に扱うことができるようになったのはつい最近のことだったりする。どうやらこの世界に俺と同じ【異世界召喚された勇者】が現れ、その人から聞いた情報を元に訓練したからできたのだ。ちなみに【異世界召喚された勇者】というのは俺以外に三人いて、それぞれが魔王に対抗するために行動を開始している。そして今は俺だけが単独行動をしていたんだ。

(なんにせよ、まずはあの化物を倒さないとだな)

俺はまず右から襲ってきた爪の攻撃を避けてから左の肩口に一閃を叩き込んだ。すると一撃で相手の首が落ち絶命する。

俺としてはこれで終わりだと思い油断していたんだけど、それは甘かったみたいだ。なぜならまだ戦いは終わっていないのだから。

「――なッ!? 嘘だろ!? マジで何なんだよこいつ。まだ生きてやがる。でも、今度はそう簡単に殺させないからな」

俺はそう言ってから間合いを取って再び対峙していたんだ。だけどさっきと違って明らかに弱っていたんだ。その理由が俺が斬りつけた左肩にあったんだ。傷口から黒い霧が溢れ出しており、それが少しずつ体全体を覆いつくしていくと次第に動きが緩慢になっていったんだ。その様子を見ながらチャンスと思い、俺は相手が回復するよりも先に首を落とせば問題ないと踏んでいた。

それから何度か繰り返していた時、不意に声が聞こえてきた。どうやら先ほど襲われていた少女が叫んだようだ。

「危ない! 避けて!」

その声を聞いた俺はすぐさま後方へ飛び退く。そのすぐ後に巨大な何かが振り下ろされていた。その攻撃を回避した後、視線を向けるとその正体を知ることになった。なんせその何かは大きなハンマーを持っていたからだ。

(まさかあの化け物の知り合いなのか?)

そう思った俺はそのハンマーを持っている少女に向かって問いかけた。だけど答えを聞くより早く、化物が襲いかかってくると俺はまた避けることに集中せざるを得なくなる。

「――ッ!? な、なにあれ」

俺は驚きを隠せなかった。なぜなら目の前の少女にハンマーで潰されると思ったのに、その直前でハンマーの軌道が逸れてそのまま化物に直撃してしまったから。しかもそれだけに留まらず、化物は何かに縛られるようにして地面に縫い付けられていた。その何かは無数の茨が化物から生えているようでありとても不気味だった。ただ不思議な事に、この場から離れて行こうとする者に対してだけ攻撃をしているので、俺や少女は無事だ。ただ、そんな俺達が逃げ出そうとしている事に対して気に入らないのか凄まじい勢いで睨みつけてきていたけど。

(これは一体どういうことなんだよ。もしかして俺の知らないスキルなのか? だとしたらこの子はかなりヤバイかもしれないな)

そう考えた俺は少しの間だけでも彼女を守ってあげることに決めた。そうしなければ死んでしまう可能性が高いと思えたからだ。

それから暫く経ち、化物の様子を見ると既に動けなくなっているみたいだ。どうやら完全に死んでしまったみたいだ。それを確認した少女は緊張の糸を解いたみたいで大きなため息をつく。

「はぁぁああーー。もうダメかと思っていましたが何とかなったんですね。それにしてもあなたが助けてくださったおかげです。ありがとうございます」

(本当に助かってよかった。正直なところ死ぬんじゃないかって不安に感じていたからな。だけど――俺は君を助けたわけじゃないんだよ。たまたま運良く生き延びれただけなんだ。だけど勘違いしない方がいいよ)

俺のその言葉の意味が分からなかったのだろうか。少女が不思議そうな表情でこちらを見てくる。だが次の瞬間、少女の様子が一変してしまった。なぜなら突然、地面が盛り上がり始めて何かが姿を現し始めたから。俺は少女のことが気になったので振り返ることにする。ただ少女も驚いていたようで、その場で固まってしまっていた。そんな二人の前に地中から出て来た存在が立ち塞がる。

「おいおい、ちょっと待てよこれどうなってんだ? こんなモンスター見たことがないぞ」

(一体どうしてだ? さっきまで確かに動いていたはずだよな。もしかしたら新種とかそういうことなのか?)

「あ、貴方こそ何を言っているのです。こんなに可愛いモンスターを見て分からないとは一体どうなって――ッ! こ、こっちに来てます!」

そう言った彼女は慌てて逃げ出していたけど、残念なことに足を負傷していたのを忘れていたみたいですぐに捕まってしまう。そして俺は咄嵯に聖剣を構えると化け物に向けて構える。すると何故か化け物の動きが止まった。

(はっ? 今度も俺が狙いかよ。でもそんなことはどうだっていいんだ。今はこの子を助けないと。って、えぇーっと、この化け物はなんて言う種族なんだろう。いや、それよりもまずはこの子を逃がすことの方が重要だよな)

俺はそんなことを考えていると、化け物は突如として消え去ってしまっていた。

その後、俺は少女を連れて移動する事にする。とりあえず街を目指すことにしたのだが、街までの距離があると言われてしまい途方に暮れていると彼女がこう言ってきた。

「なら私の住んでいる村に行きましょう。そこでゆっくりお話ができると思いますから」

その提案を俺はありがたく受けることにし、二人して森を抜けて行った。その際に彼女の自己紹介をしてもらったので、俺の名前を教えてから改めて質問することに。そしてその結果、俺はこの世界について何も知らなかったんだ。だから俺の持っている情報を話すことになる。そして話し終わった頃に俺達は村にたどり着いた。

俺はその村の村長の家に招待されるとそこには可愛らしい女性がいた。

(おいおい、なんだよここの住民は。こんな美人さんばかりじゃないか。羨ましい限りだな)

俺は思わずその女性の容姿に見惚れてしまっていると少女が声を掛けて来たのでそちらに意識を向ける。

「すみません。うちの母が変なことをしませんでしたでしょうか?」そう言われたので俺の脳内で、とんでもない想像をしていた女性がどんな人なのかが一瞬で分かってしまった。

(うわぁぁ、やばいやばすぎる。絶対にあれだよ。あんなので子供を産むのか? それは色々とマズイんじゃないのか? っていうかあんな見た目で子作りできるのかな。それ以前にどうやって子供を産めるんだろう。謎が多すぎるんだけど)

俺はその女性を見ただけでそんな疑問を感じてしまうほどの衝撃を受けて、思考回路がショート寸前にまで追い込まれていた。だけど俺にはどうしても聞かなきゃいけないことがあると我に帰る。

「あっと、すみません。一つだけ教えてほしいことがあるんですよ。それは、ここはどこですか」

そう、俺は一番最初にここに召喚されてからずっと聞きたいと思っていたことなのだ。俺のその発言に、その女性は少しだけ戸惑っていた。その理由がわからない俺に説明をしてくれたのがさっきの女性ではなく、隣にいた小さな女の子だ。そしてその子の説明で、ここが日本ではないということだけは理解することができた。ただそれでも実感がわかないというか、どこか夢のような出来事が続いている気分になっている。

(マジで異世界転移とかラノベの中だけだと思ってたんだけどなぁ。まぁ、実際にあるのかもしれんけどなぁ。それより問題はこれからどうするかだよなぁ。まさか帰る方法が見つかるまでの間、この世界で生活しなければならないって事だよなぁ。でもまずはその前に、この子の手当てをした方が良さそうだ)

俺がそう判断してから家にあるベッドを貸してもらい治療を行った後、少女に事情を聴くためにリビングに移動した俺はソファーに座ってから本題に入ることにした。

「さてと君は俺と同じ勇者の一人で間違いないかな?」

「そうですよ! 僕は勇者の中でも勇者勇者!勇者オブ勇者の勇者太郎といいます!」

(いや、それ自分でいうやついないよね!? 普通だったら絶対にバカにするだろ! というよりこいつの仲間は誰一人いないのはなぜなんだ?)

「そ、そうなのか。それで、君の仲間はいないのかい」

俺はあまりにも自信満々な彼の姿を見て、ついそう口にしていた。するとその彼は俺のその一言を聞いた瞬間、目を大きく見開き信じられないことを言い出したんだ。いやさ、いきなり俺に頭を下げてきたんだよ。それも両手を合わせてね。

「ごめんなさい。僕が間違ってました。本当は勇者はもう一人いるんです。ただ、ちょっとした理由があってここには来てくれないんです。それにもう一人の方は別の場所にいて、この近くに住んでいないんです」

そう言って泣き出してしまった彼を見ながら俺は何も言わずに黙って頭を撫でていた。すると少し落ち着いてきたのか顔を上げたので、もう一度話を戻す事に。そのついでと言わんばかりに俺は彼の名前を尋ねたのだ。そして彼が語った名前は俺を更に混乱させてしまう。

「あははははっ。そんなまさかそんなことありえないですから。だってそんなこと言われたって信じる訳ないじゃないですか。だって魔王は倒したはずなんですから」

(はいぃ??? はははっ。ちょ、どういうこと!? 今さっきまで倒してきたあの化物って魔族だったってことでいいのかな。それともこの子が嘘ついているって可能性はあるのかもしれないけど、どうにもそんな感じがしないんだよなぁ。それにしてもこんな状況でこんな事を言っちゃだめだと思うけど――この子滅茶苦茶可愛いんだけど。この子となら結婚できそうな気がする。おっと。今はそうじゃないだろ)

「いやぁ、悪いけど本当に君に心当たりはないのかい? それとも実は隠しキャラでもいるのかな? それにしても、この村に住んでいるのはこの人達だけなのかな?」

俺の言葉に驚いた様子を見せていた少女だったが、すぐに笑顔になると自分の素性について教えてくれた。俺はそんな彼女に驚きつつ、この世界の住人のことを詳しく聞くことにしたんだ。ただ俺達が会話している間、勇者と名乗った男の子は落ち着かないのか、家の中を歩き回っていたり、何かブツブツと呟いていたりして落ち着きがないように見えた。

「それじゃあ改めて自己紹介をするね。私はレイリア=ルウエルド、よろしくねユータ。この村は私達の国――アメリア帝国の領土の中にある小さな農村の一つなの。それでさっき話してたこの村の人達は私のお母さんと妹と弟の三人。それに今はお父さんは出かけていて家にはいないんだ。だから、しばらくここでゆっくりとくつろいで行って」

(やっぱり俺のことを知っているようだな。それにしてもこの子は俺が知っているレイよりも遥かに大人に見える。でも、これはゲームとは違う。もしかしたらレイとこの子はかなり違うのかも知れないな。だとしたらどうしたら元の世界に戻ることが出来るんだ?)

俺がそう思っている時、外から爆音が聞こえたので外に出ることにしたんだが――そこには信じがたい光景が広がっていた。

なんと、空が燃えていたんだ。そしてそんな炎の中から一頭の龍が降りてきて目の前にいる俺達に向けて口を開く。するとそこから声が聞こえてくると同時に体が動かなくなった。どうやら完全に動けなくなる前にどうにかしようと思ったのだがダメだった。そのまま俺は地面に押しつぶされ意識を失うことになったんだ。

俺は目が覚めた時に見たものは何度目だろうか? 真っ白の空間に佇んでいる少女だ。そして俺が話しかけようとすると少女がこう話し始めた。

(こんにちわ鈴木さん。いえ――もうこの世界の勇者ではありませんでしたね。それでは、貴方の名前はなんと言うのでしょうか?)

「俺の名は鈴木雄太だ」

(はい、確認が取れました。ありがとうございます。それで今回はこの世界に貴方が呼ばれた理由ですが、それは今から話す内容を聞くことによって分かります)

「それはどんなことなのでしょうか?」

(はい、それはですね。簡単に言えば貴方には別の世界で新しい生を受けてもらうという事になります)

(へぇ~、異世界転移みたいなもんか。でも、どうしてそんなことをしてくれるのかな? もしかして神様の気まぐれか? それとも何かしら理由でもあるのか? どちらにせよ、そんなチャンスを与えてくれるっていうのであればありがたく貰っておくべきだよな)

俺がそんな風に思っていると彼女は続けてこんなことを言ってきた。

(それでは、次にどのような世界に生まれ変わりたいかを選らんでください。といっても選択肢は多くありません。そしてその世界の中でさらに多くの選択が可能となっております。ちなみに、選べる種族は限られています。人間種族、魔人、亜人、エルフ族、獣人族の5つとなっています。その種族によって生まれ変わる場所が異なります。例えば、人間種族ですと地球に似た異世界の日本の東京に転生することになるでしょう)

(おいおい、それは流石に予想していなかったな。ということは他の3種類については全く知らないから聞いてみようか)

そうして、俺は彼女から詳しい話を聞いていく。まずは亜人の説明を受ける。

(まず最初に説明するのがドワーフ族です。この者達の特徴は手先が器用なことでしょうか。武器作りや建築業、その他鍛冶などにおいてのプロフェッショナルが多く存在し、また腕の良い職人が数多く存在するのです。その分気性が激しく頑固者も多いのも特徴です)

(次は人間ですか。うーん。特に特徴って言うものはあまり思いつかないかなぁ。とりあえず俺は日本人だからな。まぁ、日本に住むってこと以外、特にこだわりはないんだけど)

そう答えておいたが、彼女が言うには俺の想像通りの世界で問題無いそうだ。それならば俺は日本を選ぶと伝えてみるが。彼女の返事は少しだけ違った。どうやら俺は日本で生きていくことはできるそうだ。だが俺が望むような生活はできないと。

そして最後に魔人についての説明が始まった。

(魔人と呼ばれる者は、いわゆる悪魔のような存在です。特徴としてはその全てが人外と言っていい程、身体能力が高いと言われております。ただ魔人は人語を理解し喋ることのできる魔人と、そうではない普通の動物と区別されているそうです。なので魔人をペットとして飼うことは非常に難しいとのこと。また魔人に狙われたら死ぬしかないとも言われております)

(なるほどねぇ。確かにそんな危険な生物を日本に入れるのは危険か。それにしてもいい情報が聞けたな。これなら何とかやっていけそうな気がするなぁ)

(これで説明は全て終わりました。ではこれからは新たな世界に向かっていただきます)

そう言って目の前にいたはずの彼女はいなくなっていた。そしていつの間にか、この白い空間の中にいた俺は自分の体を見下ろしていることに気づいた。

そして俺の体は小さくなっており、服装は学生服のようなものを身に着けていた。どう見ても高校生くらいの姿になっているみたいだった。そして俺がそんな姿に呆気に取られながら自分の体をペタペタと触りまくっていたら、急に眩しい光に包まれたんだ。そこでようやく自分がどこにいるのか分かったんだ。そこは大きな広間の真ん中に俺は立っているということがね。

そして周囲を見ると、俺が召喚された日のように大勢の人間が立っていた。ただし、あの時の人たちとは違い、皆武装していた。どうやら俺以外にも勇者がいるみたいで、俺と同じ年位の少年がいたんだ。

だけどそれよりも気になったのはこの場に似つかわしくない少女が一人混じっていることだった。そんなことを考えながら彼女を眺めていたが――どうにもおかしい。なぜ、あんな幼い子が戦えるのだろうと思っていると、俺はあることに思い至った。

(まさか、勇者なのか? それじゃあさっきの話は本当なのかもしれない。でもなんでこの子が? それにしてもなんで俺と同じ年代の子なんだろう? いやいや今はそんな事を考えてる場合じゃないだろ! もしかするとあそこにいる女の子って勇者なのか? いやまて、そんなことはありえないだろ! それとも見た目は子供に見えるだけで、実際はかなり年齢を取っているとかそういうオチなのかもしれないなぁ。だとするとロリババァ!? ははっ。そんなまさかな。うん? いかんいかん。ちょっと混乱しすぎた。少し落ち着かないと。深呼吸をしてっと。よしっ落ち着いたぞ。それでこれからどうしたらいいんだ? 確かこういう時って大概誰かしら声をかけてくるんだよなぁ)

そんなことを思っていたら、いきなり目の前に鎧を着た人が二人やってきた。どうやら俺の所に話しかけるために近づいてきてくれたらしい。ただ残念なことに俺はまだ誰とも会話したことがない。そんな状態なのに、この世界の言葉をちゃんと理解できるか不安だったが、そんな気持ちは次の言葉に吹き飛ばされてしまう。

「初めましてユータ殿。突然ですが我々の願いを聞いてもらえませんか?」

目の前の二人はそう言ったのだ。俺が戸惑っているとさらに話を続けた。どうやら彼らは俺に戦いに参加してもらいたいと言っているのだ。ただそれは勇者としてじゃない。ただの戦力の一つとして俺に参加してもらいたいと。

そんな事を言っている間にも周りからは悲鳴が聞こえてきていた。それだけでなく怒声も聞こえてきている。そんな声がする方を見ていると一人の男が何かの怪物に掴まり引き摺られている所が見えた。すると、そいつが地面に投げ捨てられると、今度は別の方向から悲鳴が上がったのだ。その方を見てみると別の男達が血まみれになって地面に横たわっていた。

「おいおい。これはいったいどういう状況なんだ? 何が起きているんだ? あれはなんだ!」

俺は驚きの声を上げてしまった。何故ならば俺の視界の先ではとんでもない光景が広がっていたからだ。そこには人間とは呼べない姿をした生物達が暴れまわっていた。

(えぇ~と、これは夢なのでしょうか? それとも実はここは俺がゲームの中だと勝手に妄想していただけで、本当の世界なのでしょうか? い、いやいや、そんな馬鹿な話はないはずです。だってこれはまるでゲームの中のイベントじゃないか? でも現実にしか見えないよな。それじゃあ、本当にここは地球じゃない異世界なのか?)

俺がそんな風に悩んでいると目の前で話をしている二人の男性が話しかけてきた。彼らの話を聞いていたのだが、その内容はあまり信じられなかった。それは俺達の国の騎士団に所属している騎士が、魔物に襲われて大変なことになっているという事なのだ。

それを聞けば俺としては、目の前にいる人達を助けるしかないと思う。そうしないと命が危ないし、もしかしたらこのままではこの人達まで死んでしまうかも知れないからだ。だが、俺はこの人達に何もできないだろう。だからせめて戦う人が増えるようにお願いすることにしたんだ。すると俺はあっさり承諾してくれたんだ。しかもすぐに助けに行かずに少し待ってほしいと言うではないか。俺としては何を言われているのかさっぱり分からないから、そのことについて尋ねようとしたんだ。

(あの~すいません。どうして待たなければならないのでしょうか?)

そう俺の言葉を伝えたかったのだが――

「うぉっ、うおおおーーー」

目の前の二人が急に大きな雄叫びを上げたかと思った瞬間、全身が金色に輝く光に包まれていくのが見えた。それはまさにファンタジー物の主人公が変身するときのような輝きを纏ったのだ。

そうか。これが異世界転移か。俺はそんな感想を持った。そう思ってしまうのも無理はないはずだ。なぜなら、さっきまで話をしていた男性と女性の姿が一瞬にして消えたと思ったら全く別の姿になったのだから。それも変身後の二人の姿を一言で表現するなら『ヒーロー』という言葉が合うだろうか。その姿を見た他の者達も驚いて固まっていた。もちろん俺もだ。

ただ驚くと同時に俺は興奮もしていた。

(すごい。まさか俺以外の勇者はこんな姿になれるのか。俺もこの姿でいればあんな恐ろしい奴らを簡単に倒すことができるんじゃないか?)

そんな事を考えていた時にまたまた別の人物が現れた。そして、その人も他の人とは比べものにならない程の存在感があった。その姿を見ているだけで、思わず見惚れてしまう程、その人は美しく凛とした立ち居振る舞いで堂々と歩いて来た。そんな女性を目にした者達はその容姿をみて、ある者は感嘆の息を漏らし、ある者は頬を赤く染めていた。そしてある者は憧れを抱く視線を向けていた。

その女性は俺よりも身長が高い。おそらく175cm以上はありそうだ。スタイルはかなり良く、胸もかなりのボリュームを誇っているようだ。顔の方は美人というよりは可愛い部類に入るのかもしれないが、俺の目には十分以上に美麗な人に映っていた。

俺はそんな女性の姿に見とれてしまっていたせいなのか。彼女の名前を知ることはできなかった。

彼女が何かを言うと、俺達の周りに光が満ちて俺達はまた別の場所に移動させられたんだ。

移動したのは俺と、もう一人の男の人だけではなかった。あの金髪の男性や他にも多くの人がいた。だけど、そんな人たちの中にはもうすでに傷ついている人もいた。俺の知っている限りの人達だけでも相当な人数が倒れており、死んでいないにしても意識を失なっている者が大半を占めていた。そんな人たちに彼女は手をかざすと優しい声で治癒を始めたんだ。

(彼女は回復魔法が使えるのか。これって凄くね? この世界に来なければ絶対に手に入らないような能力だよな)

俺がそんな事を考えていると彼女の周りに光の粒子が集まっていき、そしてそれが倒れた人の体に吸い込まれていったんだ。そしてそれに合わせて怪我を負って苦しんでいた人は苦悶の顔をやめて安らかな表情になっていった。そして、その現象を見ている誰もが唖然としながら彼女の治療を見守っていた。

(これは間違いなく俺の知る現代医学を超えている。いやむしろ超科学と言ってもいいのかもしれないな。それなのに彼女はこの世界の人ではなくて俺と同じ世界の住人だという。つまり俺は今夢を見ているのかもしれない。もしくはVRのMMOゲームをしているのかもしれん。きっと俺は疲れ過ぎていて寝落ちしてしまったのだろう。うん、たぶんそうに違いない)

そんな考えが浮かんできた俺は自分の頬を思いっきりつねってみた。すると物凄い痛みを感じた。どうやら痛覚までもリアルのように感じられるらしい。

俺がそんなことを考えながら周りを見渡しているといつの間にか近くに一人の女の子がいたんだ。その女の子は見た目10歳位の小さな子供だったんだ。そんな子が大人の戦士を相手に剣を振り回し互角に渡り合っている光景がそこにはあった。そして、俺と同じ年くらいの男の子の方は、大人に勝てるはずもないのに果敢にも一人で立ち向かっている姿が見られた。

「お、俺はやるぞ! 俺だってこんなところで死ねるかよ!」

そんな言葉を大声を発し、大人の女性相手に戦いを挑むなんて俺にはできそうもなかった。そんなことを思いながら見ていると、どうやら決着がついたようだった。少年は負けたみたいで大柄な男の腕の中でぐったりとしていた。どうやら意識を失ったみたいだ。そんな様子を見ながら俺の脳裏に浮かんできたのは――。

俺は目の前にある映像を見て驚いたのと、その少女を見て衝撃を受けてしまった。

(え? もしかしてこの子は! それにあの男は! それに、それにこの二人は俺と一緒に召喚されたはずの奴じゃないか! それに、え?こいつも俺と同じようにこの子に助けられていたのか? いやそれよりもなんでこいつは戦えるんだよ! それに、なんであの女の子は戦えたんだ?)

そこで俺は改めて思ったのだ――。

(これはやっぱり現実なんだって。そして俺は選ばれた人間じゃないのだと。この女の子は見た目は小学生にしか見えないが、実際は高校生以上の女の子なのだろうなぁ)

その後、しばらくすると周りにいた人々も目を開け始めるようになった。

そしてその中には例の少女に負けじ劣らず綺麗な子がいるではないか! しかも、その子だけじゃない。何人もいたんだ。俺にとっては皆美少女にしか見えなかったけどな。ただ俺にも好みってもんがあるから、一番気になったのは最初に現れた女の子と次に戦った男だなぁ。でも残念なことに他の娘も魅力的ではあった。

(いやー眼福ですわぁ~♪ でもあれ?もしかして、もしかするの? あの中に勇者様もいらっしゃいますかね? ま、まさかねぇ~








俺のそんな予想は当たってしまうのであった。


俺が彼女たちと会話をしてみると、驚くべきことが色々と分かってきたんだ。まずは俺はやはり異世界に来ているということ。それと、ここはゲームの世界ではなさそうなのだ。そして俺はこの世界で勇者として召喚されたわけではなく、偶然その場にいて一緒に連れ込まれただけのようだ。さらに、俺は特別な人間ではないらしく、ステータスが軒並み最低ランクである。

それでも俺は少し期待していたんだ。何故ならば俺だけが助かったのには意味があるのではないかと思っていたからだ。そうでなければあんなに都合よく俺だけが逃げ出せるわけがない。だから俺は自分に何か隠された力があってそれで逃げる事が出来たのだと思い込むようにしていたんだ。そうでも思わないととてもじゃないけど、これから先の不安に耐えられなかったからな。

「さて、とりあえずどうしようか?」

「うーん、私は特に行きたいところとかないし、どうせならここでレベル上げしたいかも」

「僕も同意見ですね。確かに今の僕のステータスは低いですし」

(そ、そうなんですね。俺なんかゴミカスみたいなんだけど。でもこれって言っても仕方ないよね?)

俺達がそんな風に悩んでいる時だった。突然大きな地響きが起こったと思うと洞窟が揺れ始めた。それと同時に、洞窟の奥で眠っていた化け物が暴れだしたような感じを受けた。しかも、どんどんと振動が大きくなっていくように感じる。まるで地面の下にいる化物を起こさないように注意しているようにも思えるのだが、それならもっと早くにやっておくべきじゃなかったのか?とも思ってしまう。なぜならば、すでにもう既に洞窟が崩壊し始めてしまっているのだから。

「ど、どうしましょう」

「うぅ、ごめんなさい」

(うん。君たちが謝る必要はないだろう。悪いのは全てあの女が悪いのだ。だがこの振動は少しヤバいな。もしかしたら俺達も巻き込まれてしまう可能性があるんじゃないだろうか?)

「そうだな。俺達まで死にたくないからここから脱出するために頑張ろうか。なっ」

そう俺が言うと三人も同意してくれた。

そうして俺達は外に出るための行動を開始することにした。その時に俺は念のために武器を確認しておく事にしたんだ。俺が装備できるものは【エクスカリバー】と盾だけだが、もしかしたら役に立つかもしれないと思って持ってきていたんだ。そしてそれを俺は早速使用する。

(よし、エクスカリバーの効果はちゃんと出ているみたいだな。ただ俺が思っていた効果とは全然違うが、それはいいのか? というより俺も他の人と同様に剣を持っているように見えるのに、その実体がなくて、ただ刀身が見えるだけで触れることができないなんてどういうことだよ。いや、まぁ、今は気にしても意味ないか。とりあえずはこのエクスカリバーがどんなものか確認していこう)

そう思って俺は他の二人の様子を見た。俺と全く同じ剣を持っていた二人も俺と同じでその効果が発動していることは一目瞭然だった。そしてその効果が凄すぎて驚くしかないものだったんだ。俺がその事を伝えようとしたときに洞窟が崩れてしまった。

「あっぶねえ。ギリギリセフだぜ。みんな大丈夫か?」

「僕は何とか平気です。でも他の人達はほとんど無事なようでは無いかもしれません。先ほどの爆発のせいでほとんどの方は既に意識が無い状態だと思います。それにまだ生きていても重症の方が多いみたいですし。でも命には問題なさそうですよ」

俺の問いに対して、その男の子はそう答えてくれた。その返事を聞いた俺は、その言葉を信じて、すぐにこの場にいる者達を助けるべく動いた。俺は【回復魔法】を使えない。というか回復魔法を使える人すらいないのにどうして回復薬は作れるのか不思議でしょうがなかったが、そこは気にしないことにした。だけど、俺が持っているポーションは普通のものと違って回復量が異常に高いので全員を回復させることに問題はないようだった。そして回復させた後に俺達四人で出口を目指すことにした。

(それにしても本当に広い場所だよな。ここってどれくらいの大きさなんだろうか? 確か俺が最初に見た時は小さな集落くらいの大きさがあったような気がするが)

俺はそう思いながら前を進む少女の後について行った。

そしてしばらくして俺達は洞窟の外に出ることが出来た。その外は森の中だった。森の入口に俺達の乗ってきた馬車があり、そこからそれほど離れていなくてホッとした。

そして俺は改めて辺りの様子を伺った。そしてその惨状に息を呑む。そこには大勢の人が倒れていた。

(一体どれだけの被害が出たっていうんだ? これってもしかして俺達がいたあの場所にいなかった人たちは全滅なんじゃないか? だとしたらあの場所で助かったのは俺達だけだったのかもな。あの化け物はあの洞窟から出てくる様子はなかった。だとすれば、あれを倒す方法はまだ分かっていないはずだよな? あの化物が出てくるまでは平和そのもののようにさえ思えたが、実際にはそうでは無かったようだな)

俺達がそうして周囲を見回しながら進んでいると、突然空から一筋の光が地面に突き刺さったんだ。するとその場所から白い柱が立ち上ってそこにいた人全員が光に包まれたんだよ。そして、次の瞬間には俺達を含めてその場から人の姿が全て消え去ってしまっていたんだ。

――ピコーン! 称号聖女救出者を獲得しました。

(えっと何だって? 聖女様を救出した?はぁ、そんなの知らないって。俺のせいじゃないからね。そもそも、俺の目の前で死んだのって全部俺を助けようとして犠牲になった奴ばかりなんだぞ! その事を俺が救ってくれてありがとうなんて思うわけがないだろ! ふざけんなよマジで。まぁ、いいか。それよりも今はどこにいるかだよな。どうせこのままではすぐに殺されるだろうな。だったら少しでも抵抗してから殺されたいよな。幸いにしてあの男もいないみたいだし、俺一人で戦うしか道はないんだ。だったら俺がやるしかねえよ!)

俺は自分の決意を固めるために声を出した。そして改めて状況を確認したんだ。

(今俺が立っているこの場所は神殿の中か。それもあの化物のいた場所よりも遥かに小さいが、それでもかなりの広さがあるようだ。それに、ここには沢山の女の子たちがいるようだが全員生きているようだな。それとあの子達の近くにいた子も意識はあるようだな。後は俺のすぐ近くにあの男の子もいるな。それから、女の子たちは全部で20人以上いるみたいだな。俺達がいる場所には女の子しかいないみたいだな。そして俺達は何か透明な箱のような檻に入れられているみたいだ。これで閉じ込められている女の子たちの人数は21人ってところかな。そして俺はその女の子たちを守っている立場なのかな?)

そうやって色々と考えていた時に急に女の子たちに話しかけられた。そして俺も何故か話をすることに。そこで色々と質問され、正直面倒臭いと思いつつも適当に対応していたんだけど、そこで衝撃の事実を聞かされることになる。

(え? なんでそんなに強いの? 俺なんて最弱レベルなんですけど? もしかして俺の勘違いで、俺の本当のレベルは実は100とかあるのかな? はははは、いやそんなことないよね。そんな馬鹿げたことがあっていいわけがないよね。俺のレベル1だよ。しかもステータスも最低値だよ。あ、あれ? でもそういえばさっきこの娘達が言っていたな。私達が助けに来たって。それってもしかしてあれ? つまり、俺達があの化物を討伐するのを手伝うとかそういうことか? もしかしてそれってこの中にも勇者とかいたりするのか!?)

そう思った俺に衝撃が走ったんだ。それは突然のことだったから心の準備が出来ていなかった俺にとっては相当な痛手になってしまったんだ。そしてその結果、俺は思わずその場で卒倒してしまった。

次に目を覚ますとそこは見知らぬ部屋の中。天井には大きなシャンデリアが飾られており部屋はかなり豪華そうな家具で溢れていた。さらに床に敷いてあったカーペットにも豪華な刺繍が入れられていて見るからに高級感が漂ってきていて、俺には居心地の悪い空間だった。そんな風に感じていた俺に声を掛けてきた人がいた。

「目が覚めたようね」

その声の主の方へと視線を向けると一人の女性が立っていた。その女性は金色の髪を肩にかからない程度の長さで切り揃えておりその美しい髪がキラキラと輝いているように見えてその綺麗さがとても印象的だった。身長も高くスタイルもいい美人さんである。そしてその容姿に見惚れてしまっていたのだが俺は直ぐに気を引き締めることに成功した。そして何故自分がこんなところにいるのかを彼女に聞いてみたんだ。

「あの、どうして俺はここにいるんですか?」

「そうですね。簡単に説明するならば、あなたが倒れてしまった後に、私の従者の一人があなたを背負って連れて来たのです。私はその子の言うことを信用してそのまま寝かせておくように指示しました」

その彼女の言葉を聞いて俺は疑問に思ってしまった。それは俺を連れて来た少女は誰なのだろうかと思ったからだ。

(俺を助けたのが女の子の従者だと言うのは分かったがそれが誰のことなのかが分からないんだよな。まぁでもあの子ならきっと許してくれると思うし大丈夫か。後で謝ればそれで済むことだから問題ないか)

俺が自分の考えをまとめ終えて再び彼女に質問をしてみる。するとその答えはとても驚くべきものだった。

「そうですか。教えてくれてありがとうございます。あと聞きたいことがあるんですけど、俺と一緒に召喚されたはずの人達を見かけませんでしたか? 確か俺と同じようにあの場所に連れて来られていたはずだと思ったんですが、見なかったですかね? というより、俺以外の人はどうなったのでしょうか? あの場所は魔物がいっぱいいたので無事ではないと覚悟はしていますが。もしかしたら誰か一人くらい生き残りがいないかな?なんて考えていたんですよ。まぁでもそれはあり得ないことなのですが。それにしても俺は一体どれくらい眠っていましたか? 俺の予想では半日ほどじゃないかと思っているんですが、どうか教えてもらえませんかね?流石にそれだけ時間が経っていればあの化け物がいなくなっているかもしれないですし、みんな助かっているんじゃないかなと思って。でもまぁ、期待せずに待っているのも嫌な気分ですしね。ところでここは一体どこなんですか?」

その言葉を聞いた彼女は不思議そうにしながら言葉を発した。

「あの、あなたの言っていることがよくわからないわ。私が聞いた話によると、あの場所に一緒に転移してきた人たちは全員亡くなったという話を聞いていたのだけれど。その話は本当なの? あの場所には誰もいなかったというの? 」

その彼女からの問いかけに俺は驚きながらも答えた。

「い、いえ、俺は実際に死にかけたところを彼女たちに助けられたはずなんですよ。俺はそう記憶しているんです。俺にはその時の記憶が残っているんですよ。あの場所にいたことを覚えているんです。それに、あの化物が出現した場所から脱出するために洞窟が崩れたとき、俺はその下敷きになってしまいまして。その際に俺は死にかけました。俺が目覚めたときにはこのベッドの上で寝ていたんですよ。俺が眠っている間に相当大変なことがあったみたいなので心配してたんですが、まさかもう終わっていたとは。どうなっているのか全くわかりませんが、本当に終わったのであればよかったですよ。ありがとうございました。俺のせいで多くの人が命を落とすことになってしまったと思っていたので、俺としてはこうして無事に生き残れていたことを本当に嬉しく思います。ただ一つだけ問題があるんですけど、もしかして、俺は何かとんでもない失態を犯してしまったりしましたか? 俺の想像だと俺のことは放置されているのではないかと思っているんですが、違うのでしょうか? もしそうだとしたら、俺は今すぐここから立ち去りますよ。もしかしてまだ何か問題が残っていたりするのなら、その解決に尽力しましょう。俺なんかが出来ることは少ないと思いますが、少しでもみんなの役に立てば良いなと考えています。俺はこれからも生きて行きたいと考えているので。どうしたらいいのかを教えて頂けませんか? 出来る範囲のことは何でもしますので。何しろ皆さんは国のお姫様と聖女様なのでしょうから」

そう言ってから俺は自分の言葉を待った。だけど返ってきたのは意外な返事だったんだ。

その会話をした時に俺の心の中に何かが流れ込んできた。その流れ込んで来た内容を確認すると、それは俺に対する感謝の気持ちや、これから先どのようにして生きていくかという情報やアドバイスなどが詰まっていたんだ。

その事に驚いてしまった俺は咄嵯に対応できずに固まってしまうことになってしまった。そんな時に急に後ろから抱きつかれてしまい身動きが取れない状態に陥ってしまう。そして更に驚くことに、俺の首元に柔らかいものが二つ押し当てられるような感触がした。

――その感触にドキドキしながらも、慌てて離れようと試みるが、それを察知されていたらしく逆に拘束が強まってしまい逃げられなくなったんだ。しかもそれと同時に甘い匂いのようなものが漂ってきて俺の顔まで真っ赤に染まってしまったようだ。

――だがしかしそこで、この甘い状況に耐え切れなくなったらしい女の子たちが行動を起こしてきたんだ。そして、女の子たちの方を振り向いた途端、俺は驚愕することになってしまう! なんとそこには絶世の美少女と呼ばれるような女の子たちが沢山いたからだ!

(嘘だろ!?マジかよ!これが世に聞くハーレムなのか!?)

心の中で興奮してしまい思わず叫び声が出そうになる衝動を抑えるのに必死になっていたのだが、なんとか堪える事に成功しホッとしていたところに、俺の背中に抱きついてきている子が口を開いたのだ。

「ねぇ君。さっきのはどういうこと? 僕たちが国を代表して来たっていうのは間違ってないよね? 君はいったい何者なの?もしかして勇者なの!?」

俺はその質問に対して素直に返答することにした。

「いや、俺はそんな大層なものではないんだよ。それに勇者なんてものはゲームや漫画の世界の中だけだからさ。俺自身はただの学生なんだよね。俺は佐藤拓海って名前で、歳は16才で今は高2だ。好きな教科が社会科、特に日本史が好きで得意分野は戦国時代とかかな。まぁ、普通な高校生だよ。あと俺の容姿についてなんだけどね、自分ではそこそこ整っていると思うんだ。イケメンって言われることも結構あるしさ」

俺の言葉に納得してくれたのかはわからないが、俺が異世界人ではないということが分かったのかその事には突っ込まれずにスルーされたみたいだった。その後は色々な話をしたが、その中でも特に俺を驚かせたのは勇者であると噂される人たちの話だ。勇者というのは召喚によって呼び起こされてこの世界に来ることが出来る選ばれし存在。そしてその勇者は召喚されてから魔王討伐の旅に出掛けるというストーリーが一般的となっているようだった。つまり俺達もそういった設定に巻き込まれてしまった可能性があるのだと思ったんだ。だから、勇者かどうかを確かめるためにステータスの確認を行ったところ全員が全員俺と同じく一般人だったということが判明して驚いたのと同時に、やっぱり巻き込まれていたかー、という思いもあったりした。

その後色々と話し合う中で分かったことがいくつかあった。まずはこの場所だ。この城はアルムリア王国が所有する魔導都市ルミナスにあるお城の一つだということ。次にここへやって来た目的については俺達が勇者だという扱いを受けていて国王が俺達に会いたがっていたということだった。ちなみに何故俺達の居場所を特定できたのかを聞くと俺達は勇者であると公表されておりそれに加えて俺だけが唯一女の子たちとは離れた場所で倒れていたということもありその場所はすぐに見つかったんだそうな。あと、何故召喚の儀式が行われていた場所にいたのかについては、儀式の際に発生する光が漏れ出している場所にたまたま通りかかって偶然にもその場にいたということになった。これは俺にとっては非常に都合の良い言い訳だったためありがたく利用させてもらうことにしたんだ。まぁ、本当のことを話す必要もないと判断したためでもある。だって召喚されてきたとか言えるわけないしね。そして、どうしてこのタイミングで俺に会いに来たのかは、どうも王様が勇者を召喚し始めてからそろそろ3か月ほど経とうとしていることから新しい情報を早く入手したかったため、そのことについて話し合いたいというのが一番の理由のようだった。

(まぁそうだろうな。勇者がいつになっても召喚できないのは問題になっているんだろうし。もしかしたら勇者じゃなかったり、既に死亡しているなんて思われてるかもしれないもんな。まぁその辺の情報についてもある程度は持っているから安心して欲しい)

その事を考えていると俺に質問をしてくる女の子たちが出てきた。それはなぜ俺の年齢を知っているのだろうかといった質問から、その年でどうやってあの化け物と戦って生き延びたのか、という疑問点について。あとはどんな武器を持っていたのかということだ。俺はその質問に答えていくことにして、自分のスキルを一部明かすことにする。それは【剣術の才能】、《才能剣》だ。

「それはですね、実は俺の固有スキルで《鑑定》というものがあって他人のことを確認できる能力があるんです。俺はこの力を使ってあなた達のことを調べました。俺の持つ固有技能の一つである、〈全属性魔法適性〉、〈光と闇の聖加護〉はどちらも勇者に与えられるもので、俺自身も勇者ですから確認ができたのです。

そして、この二つの能力で俺には相手の強さを測ることが出来ます。それは、この世界に生きる生き物全てに共通することなのです。この能力は俺自身が勝手に呼んでいる名付けなんですけど、俺には、【全言語翻訳(勇者)、魔物図鑑、魔物事典、魔道具辞典、アイテム辞典、魔物目録、魔物百科辞典、薬草辞典、調合師辞典、薬師辞典、鍛冶士辞典、大工士辞典、木工細工士辞典、錬金術師辞典、調理器具職人辞典、武具百科事典、料理辞典、魔道兵器図鑑、魔法機械技師の本領 知識の泉 魔物事典II、アイテム図鑑II、魔物事典III、モンスター図鑑、怪物事典、植物事典、薬事典、毒物事典、生物辞書、魔物百科、薬学書】

というのがあります。俺はその力で、俺を救ってくれた方々の力を見させて頂き、その力が俺よりも上回っていて俺なんかには到底敵わないと判断しました。それに俺はその人達のおかげで命を繋ぎ止めることができましたから。だからこそ俺には何もできませんでした。本当に情けないことですが、俺はただ運良く生き延びることが出来たに過ぎないのです。俺はそんな自分を守ることすら出来なかったのに彼女たちに守ってもらうなどということは、とてもじゃないけど出来ません。どうか俺なんかの事は忘れてください。俺はこのままこの国から出ていきますよ。これ以上皆さんを巻き込むのだけは嫌なんです」

そう告げるとみんな俺に抱きついてきて泣いていた。

それから俺はみんなが泣き止むまで待った。その時に彼女達に俺はこの世界で生きて行くために色々と必要なものがあるので買い物に行かせて欲しいと告げるとすぐにでも案内すると言い出してくれたのでありがたかったが、彼女達にとってはこの部屋こそが唯一の拠点であるために外に出ることを渋っていたが、俺としてはいつまでもこの部屋にいるつもりもないので、お願いだからと言うとどうにか了承してくれた。

俺は彼女達を引き連れて街へと向かうことにしたんだ。その道中にこの国の現状について教えてくれた。

現在この国は魔王軍の脅威に晒されている。そして勇者であるはずの俺たちがまだ現れていないのは何故か。その理由はこの国に召喚されて来た者達の中で勇者として召喚されなかった者たちがいるからなんだ。この国では15歳になると神殿に行き職業やステータスを調べることになる。その際に勇者としての適正を持つ者が見つからなければ召喚されたにも関わらず勇者ではないということになりこの国を出ていかなくてはならなかった。だが、この国が抱えていた大きな問題が勇者が一向に現れないということだった。そしてその原因は、ある一定の時期が来るまでは勇者が現れることは無いということだった。その時期はその年によって異なり、5年に1人現れる時もあれば100年程現れないこともあれば1000年もの間召喚されることがなかったこともあった。その事からも今回の召喚でようやく勇者が現れたのかと期待に胸を膨らませていたんだが、どうも召喚されてからもうすでに3ヶ月以上が経過してしまっていることからその希望は薄いと感じ始めていたらしい。そこで王様は俺の言うとおりに情報を得るために勇者召喚を行ったんだそうだ。

その話を聞いた俺の心の中には怒りが込み上げていた。俺は自分が召喚されたことには感謝しているしこの世界の人にも感謝はしている。だが、召喚されただけで俺の人生は台無しになってしまったんだ!俺は今この時も自分のことだけしか考えられなくなっているような奴らの玩具になり下がるくらいなら俺はこっちの世界での生活を手放すことに決めた。俺の両親は仕事の出張のため今は家にいないから大丈夫だとは思うが俺がいなくなることによって親に迷惑をかけてしまう可能性はあるためその事だけが心配だった。俺は、親になんて説明すれば良いのだろうかと頭を悩ませることとなった。しかし、そんなことを考えても俺がこれから生活するためにはお金が必要になるので、その問題を解決するためにもこの国から脱出することを決めた。俺は俺を助けてくれるかもしれないと淡い希望を抱いているが故に彼女達に嘘をつくのはとても心苦しいものではあったが、この場から逃げ出すためには致し方のない選択であった。

「あのー、俺は君たちの名前を知りたいんだけどさ、聞いてもいいかな?」

俺はそう伝えると女の子たちはお互いの目を見ながら話し合っていた。

「うん、分かったよ」

そう答えるのは一番最初に声を掛けてきた子。

「私の名前はアリサっていうの」

次に話す子は金髪ツインテールの子。

「僕も自己紹介させてもらいます。僕の名前はリザです」

その次に口を開いた子は長い黒髪が印象的な美人さんだった。

「私はミーシャだよ。よろしくね!」

その次に話すのが青い髪の毛の活発そうな女の子。

俺達はその後もお互いに自己紹介をしながら歩いて行くのだった。俺の事を色々聞きながら歩いているためか、時折会話の内容が変わっていたりして面白い感じだ。そして気づけば俺達が街の中へと入っていた。その街並みは中世ヨーロッパ風というかRPGゲームで見るような雰囲気の造りとなっていた。

「ねぇ、ここはなんていう名前の街なの?初めて見たから分からないんだよなぁ。それにしてもすごい活気のある場所だね」

俺は周りを見渡しながらそう質問をした。俺が知らないことは沢山ありそうなので、まずは周りのことについて質問をしていくことにしたんだ。そして、その質問に俺を救ってくれた少女たちのうちの一人である茶髪をボブカットにした元気の良さそうで小柄な子が話し始める。

「ここは商業国家ルミナスって名前なの。そしてこの街の正式名称は魔導都市ルミナスというんだよ。ここには色々な商店や宿屋などがあるけど他にも娯楽施設がいっぱいあって、その中でも特に大きな建物がルミナス大闘技場の二つなの。だから観光スポットとしても有名になってて有名なんだー。あそこは見る価値ありのところだと思うから行ってみるといいかも!」

彼女はまるで自分の自慢の場所を語るかのように目を輝かせて力説していた。

「なるほど、そうなんだ。それじゃあさ、とりあえずはその二つのところに行ってみたいなぁ、って思うから一緒に付いて来てもらっても良いかな?」

俺は彼女達の機嫌を損ねないためにも素直に従う事にした。それに俺は、この世界に何が売っているのかがわからないから、まずはこの世界を知らなくてはいけないんだ。そう思ったため彼女達に道案内をしてもらえるようにお願いをすると快く受け入れてくれたのでホッと息をついた。俺としては彼女たちにあまり好印象を与えたいわけではないから警戒されて逃げられでもしたら非常に困るところだったため本当に良かったと思う。

そしてそれからしばらく歩くと、俺を襲ってきた魔物と同じ存在がいたのを見て驚いていたのだがそれを軽く倒すと更に驚いた顔になっていた。その後すぐに魔物を倒した事を凄いと褒められると同時に尊敬しているかのような目で見られたり、魔物を簡単に倒してしまう強さに対して憧れを抱くかのような態度で俺の事を見てくる少女が増えた。ただ、そんな反応に困るものばかりを向けられた俺は、なんと言えばいいのか迷ってしまい曖昧な返事をする事が多くなっていた。それでも俺は彼女たちに話しかけられることが嬉しいので自然と頬は緩んでしまい笑顔になっているのだけれど、それは彼女たちには見られていないので助かった。

俺のことをチラチラと見つめている女性もいることから、この世界では俺の容姿は優れているのだろう。まぁ俺が元いた世界よりもかなり可愛い人や綺麗な人が普通に歩いていたりするため、そう思えるのも無理はない気がする。そして俺がそんなことを感じながら歩を進めて行くと、俺達の目の前に大きな門が現れたんだ。そしてそこには騎士風の鎧を身につけており、とても格好の良い男性が立っており、こちらの方に向かってきたのである。

その騎士風の男性と少しだけ話をした後俺と女性たちは街へ入ることを許可してくれたんだ。

その時に俺は、俺の身分証明書となるようなものがないから街に入ることが出来ないのではないかと疑問に思いそのことを聞くと、

「えぇと、冒険者カードというものを提示すれば良いのですよ。このカードがあれば誰でもこの街に出入りできるのでお作りになった方が宜しいでしょう。それと申し遅れましたが私の名前はアルムといいます。この国の騎士団に所属してまして今は警備の任務にあたっているのですが、本日あなた様とご一緒している女性たちをこの国を救ってくれた方だと見させて頂きました。そのため私は貴方達をこの国の救世主として歓迎させていただきます。この国の皆があなた方を心から感謝しております。どうかこれからも頑張ってください」

というと丁寧に挨拶をしてきたので、俺は慌てて姿勢を正し自己紹介を始めた。

「俺は天海翔と言います。助けてもらったのにすみません。実はこの国を出ていくことにしたので俺はもうすぐお別れになりますが今後とも宜しくお願いします」

俺は自己紹介と共に今後のことをしっかりと伝えていくことにした。その事を聞いたアルムという人は驚いた表情をしていたがすぐに冷静を取り戻してから何か考え事をし始めていた。

「そうですか、わかりました。しかしそうなるとこの国を出た後はどのように生きていこうとお決めでございますか?もしもよろしければ私が手配させていただいても構わないでしょうか?」

アルムという人はかなり真剣な面持ちをしており、俺の身を案じてくれている様子だった。

「いえ、その気持ちは有り難いですが俺は自分の力で何とかするつもりなので、大丈夫だと思います。それにまだこの世界のことを知らないために情報を得る必要があるんです。そこで質問なんですけど、この街のギルドって何処にあるのか分かりますかね?」

そう尋ねるとアルムは安心してもらえたようで笑みを浮かべていた。俺はそれがなんだかいいなと思い、俺も笑い返すと彼は照れくさくなったのか、顔を逸らしてしまったんだ。そこでミーシャが急に大声を上げ始め出したのだった。

「私達がギルドに案内してあげる!この辺りのこととかなら私たちに任せて欲しいかな!」

俺は突然の大声に驚きビクッとなってしまった。そして他の人たちも驚いたようでミーシャのことを凝視していた。そしてそのことに気が付いたミーシャが慌て始めたが、すぐに謝ってきた。

(あー、確かにこんな街中のど真ん中で大きな声でいきなり言われたりしたら恥ずかしいもんな。そりゃ驚くよ)

そう考えた俺は彼女の行動に怒る気になれずむしろ感謝しているくらいであった。だが俺はそれよりも聞き捨てならないことが聞こえていた事の方が気にかかっていた。

「えっと、ミーシャちゃんはさ、俺たちについて来るつもりなのかな?それならちょっと色々と説明してほしいことがあるから時間貰えるかな?みんなも一緒に俺の宿に来てくれないか?それで色々と話し合ってみるからさ、お願いできないかな?あっ、あと出来ればで良いんだけど、俺の仲間にも一緒に来てもらうことは出来るのかな?俺は1人で寂しかったんだけど1人だけだとどうすれば良いのか分からないんだ。だからせめて俺の友達がいれば少しは楽になるんじゃないかなって思ってるんだけどダメかな?」

俺は彼女達の機嫌を損ねないために必死に言葉を並べたので、自分が何を言ったのか分からなくなってしまっていたがそんなことはどうでもよかった。ただ、この世界は一人では生きづらいと思ったんだ。なぜなら言葉が違う上に文化も全く違うんだから当然と言えば当然かもしれない。それに魔物がうろついている世界なんて俺にとっては地獄でしかないし。だからこそ仲間が欲しいと思えた。

その事を彼女に伝えるのにかなり苦労させられたのだが、最終的にはなんとか説得することができた。そして彼女たちは快く承諾してくれたのであった。俺はその事を嬉しく思いながらホッと息をついてしまった。

そして俺達はこの街の宿屋へと向かうことになったんだ。

そして宿屋に着くまでの間色々な話を聞いたんだがやはり俺が思っていた通りで、ここらへんでは魔物がよく出てくるようだ。だから街の中では常に兵士が警戒態勢で見回りをしていて、外に行くときには必ず武装して行かないといけないんだって。しかもそれだけじゃなく盗賊などもいてかなり危険らしいんだ。でもそんな治安の悪さにも関わらず街が活気があるのは商業都市と呼ばれるほどだからで様々な物や食べ物が売られていて、それらを仕入れるため商人が行き来しているために、かなりの賑わいをみせてるらしいんだ。そして街の中に入って分かったのだが、ここは異世界ファンタジー物によくありがちな中世ヨーロッパの町並みのような感じなのだ。建物の高さなどはそれほどでもないのだが道の幅が広く造られているため圧迫感はなく、広々とした印象をあたえられるようになっているみたいだ。

そんなことを考えながら歩いているうちに宿屋に着いたんだが、なんとそこにはお風呂まであるらしく、さらに食事や飲み物まで付いてくるとのことだったので非常に有難かったし本当に嬉しかった。ちなみに俺が一番気になったのは、ベッドの質と寝具の清潔さだ。この世界にきて俺はずっと歩き続けていたため体も疲れているし早く体を洗いたかったから、そこだけが唯一心配していたことだったのだ。だからそれを確認するために、受付にいる男性に質問をしたんだが、そこは大丈夫ということを教えてくれたので安心して部屋を借りることができた。そして俺と仲間たちの5人がその部屋に入った瞬間にそれぞれが別々の行動をしていた。まず俺は一番手前の部屋に入ると真っ先に洗面所に向かったんだ。すると鏡があったので自分の顔を確認した。

「これはなかなか悪くないな」

思わず独り言をつぶやくほど俺は鏡に写っている自分の顔に感動していた。何故ってそれは今までの自分の顔とは全く違っていたからだ。顔立ち自体はそこまで変わらないが目鼻がくっきりと出ており男前になっていたんだ。そんな自分を見つめることに夢中になって数分の間そのままでいると後ろから声をかけられたので俺は慌てて振り向くとミーシャが立っていたんだ。彼女は何やら不思議そうな表情をしていた。そして何となく言いたい事がわかって俺は自分の頬を叩き、意識を現実に戻して話しかけた。

「ごめんね、ボーっとして。俺は翔っていうんだ。君の名前は何ていうの?」

「えっとね。私の名前はミーナだよ。翔くん、これからよろしくね!」

そう言って手を差し出し握手を求めてきたので、その手を取りながら答えた。

「ありがとう、こちらこそ。俺はまだこの世界のこと全然知らないし常識もないから助けてほしいと思ってたところだったんだ。こちらからも是非ともお願いしたいところなんだよ」

俺はそう言うと、俺とミーナはお互い顔を見て笑い合った。

「そっかぁ。私もあまりこの世界に来たばかりだから役に立てるかは分からないけど、精一杯頑張らせてもらおうかな」

ミーナはそう言うと俺の方に歩み寄ってきた。そのことに驚きながらも俺も一歩だけ近づくとその距離はお互いに手を伸ばせば触れられるほど近くなってしまった。そのことに驚いてしまった俺は、すぐに後ずさったんだ。そしてそれを見ていたミーナが俺に向かって笑いかけてきていたが俺は上手く反応することができなくて固まっていたんだ。そんなことをしていると他の3人も部屋の前までやって来て中に入ってきたんだ。その途端、俺は何故か分からないけどすごくドキドキし始めた。その理由はすぐに分かってしまうことになる。だって部屋には2人きりでもなく他の女性がいるわけでもないのに緊張してしまったんだ。そのことから自分のことを客観的に分析してみるとおそらく、俺が女の子に免疫がないからだと考え至り、そこで初めて気がついたんだが、俺はかなり童貞臭いなと感じてしまうとなんだか笑えてしまい笑みがこぼれてしまっていた。

「ねぇねぇ。私たちの荷物なんだけど、どこに置けばいいのかな?ここに持ってきて良いのか迷っちゃうよ」

「うん、確かにそうだよね。でも一応確認のため俺のバッグを持ってきてくれるかな?もし良かったらみんなのも貸してくれてもいいかな」

俺は彼女たちに頼むと、みんなが快く引き受けてくれてそれぞれの鞄を手に取って俺の前に並べ始め出した。

「翔様。私、ティナと言いますので宜しく御願い致します。私達の武器はいつでも取り出せるようにしていますし、必要なものはある程度は揃えてきましたので、問題ありませんわ。それよりも今は少しだけお話できませんでしょうか?」

そう言って俺の目をじっと見つめてきたのは銀髪の髪を腰あたりまで伸ばしたスラッとした美少女だった。そんな彼女に見惚れてしまった俺は一瞬だけ硬直していたが我に帰ることが出来たので返事をすることが出来たんだ。

「わかったよ。俺は別に大丈夫だけどどうしたの?」

「実は、あの時私たちはあなた様に守って頂いた恩がございますので何か力になれないかと考えていました。そこでなのですが私は【魔法剣】というユニークスキルを持っております。この力は【魔】の力を利用して攻撃する時に相手の防御力を無視するというものです。ですが、この能力を使うと、かなりの量の魔力を消費してしまいますので、いざと言う時までは使うつもりはありませんが、その時には是非私をお役立て下さいませ」

俺はその言葉を聞いてかなり驚いたと同時に嬉しさもこみ上げてきて自然と顔がニヤけていたんだと思う。そして彼女の真剣さも伝わったし心遣いに感謝して俺はしっかりと言葉を返した。

「そんなに俺の事を心配してくれて、とても嬉しく思うよ。それにしてもその能力は俺にとってはかなり助かるし、かなりありがたいんだ。だからその時が来たら遠慮せずに使ってもらうことにするよ。だから俺のことも気にせず戦ってくれるといいよ。そして、これから俺の仲間として一緒に行動してもらうんだから、仲間には俺の事は気にしないで自由に行動して欲しいな。もちろん、もしもの時はちゃんとお願いさせてもらって一緒に戦わせてもらうつもりだからさ。だからそんなことは気にせずに楽しくいこうぜ」

俺は笑顔で伝えることができたので俺は内心ホッとしていたんだ。でも俺は彼女のことをもっと知りたくなっていたから色々と話をしたくなった。だから俺は質問することにしたんだ。そして彼女は俺が色々と尋ねても嫌がるどころかむしろ興味津々といった様子で色々と説明をしてくれたり質問に答えるだけでなく、俺の知らないことや、俺の住んでいた国の文化についても詳しく教えてくれていた。そして、そのことで会話が盛り上がってしまい時間を忘れて話し込んでしまうほどだった。だが突然のことだった。

『緊急クエストが発生しました。この街に迫っているゴブリンキングとオークジェネラルを殲滅するために皆で協力してください。また今回の報酬について話し合いを行う為、街に滞在中のプレイヤー様全員で、領主邸に来てほしいのですが来れますか?』

突然のアナウンスを聞いた俺はその言葉が信じられなかった。なんでこんなに早く街に近づいてきているんだよ。

しかもゴブとクジョはゲームとかでは雑魚扱いされてるがこの世界だとそこそこ強いはずだ。しかもその上がジェネラルで普通に考えるならボス級の相手になる。

そして俺は急いで準備をするとミーナ達に声を掛けて部屋を出ていったんだ。

宿屋を出る前にミーナが受付の人に俺達もついて行って構わないかを尋ねたところ了承してくれたらしく一緒に向かうことになった。俺は宿の外に出て最初に視界に入った光景を見て驚愕していた。なぜなら、街の大通りに多くの人が溢れ返っており物凄い熱気で活気がある状態が維持されていたんだ。それに加えて街の中がかなり安全だということもあるのかもしれないが、人々がかなり楽しげにしているのを見ると、この世界に召喚されたことは間違いじゃないんじゃないかと思った。でもそれは今考えるべきことではないと思い思考を振り払うとまずは領主の家を目指すことにしたんだ。

そしてしばらく歩くと領主の屋敷へと着いていた。

そこには沢山の人達が集まっており、俺はとりあえず屋敷の中に入ろうとしたのだが、中に入ることを拒否された。どうやら俺はまだ正式にこの世界の住人になったわけではないので街の中には入れずに門で待たされることになっているらしく、それを知った俺は少し落ち込んだんだ。しかし俺以外にも多くのプレイヤーがこの世界に居るらしく、彼らはすでに街に入っているのだから仕方がないと言われてしまい諦めることにしたんだ。だから門のそばにある石造りの建物の中で待たせてもらうことにしてミーナ達と一緒に待機していると先ほどの女性が話しかけてきたんだ。そして俺は彼女に連れられて部屋に入ったんだ。すると部屋にいた男性から自己紹介を受けることになりそのあとからこの領地についての詳しいことを教えてもらえた。この世界には7つの大陸があり、それぞれの場所にダンジョンと呼ばれるものが存在していてそこには必ず1つは宝箱が存在しているとのこと。その中には色々なものが入っているので是非開けて欲しいと言われているんだ。

そんな話を聞くとワクワクしてくるし俺としては大歓迎で、どんどん聞いていくとやはり、お金に関してはギルドに登録している人は無料で貰えるらしく冒険者は絶対に登録してほしいとも言われた。それから後は俺と仲間の3人の分は用意してあると言われたので有難く受け取ることにした。

そうこうしていると、今度は俺たちと同じぐらいの歳の男の子が入って来たんだ。そしてその後から綺麗な女性が現れて俺はドキッとしてしまった。何故ってそれは、あまりにも彼女が美人だったからだよ。まるで妖精が人間になって現れたのかと錯覚してしまうほど美しかったんだ。俺が見惚れて固まってしまっていると、その女の子と目が合い微笑んでくれていた。

俺がその顔を見た瞬間、俺の顔が赤くなっていることを感じると共に顔から火が出そうになる程恥ずかしかったんだ。そして俺が焦っていると目の前にいる少女は話しかけてきた。俺は緊張しながら話しかけたのだけど、彼女の方は俺のことを気にもしていない様子で平然としており何となく悔しく思ってしまう。

「こんにちは、私はアイシャと言います。私はあなたの事を翔と呼びますがいいですか?」

そう言うとその少女は自分の胸の前で両手を組んで目をキラキラさせながらこちらを見つめてきている。

その表情はまさに期待感があふれ出しているように見えており、俺が拒否するという事など微塵も想像すらしておらず、むしろそんな選択肢は存在していないことを告げられているようで怖くなる。

でも俺はそんな風に見られていることに何故か嬉しい気持ちが込み上げてきて自然と頬が緩み、俺は答えていた。

「あぁ、それで大丈夫だよ。これからよろしくね」

俺は自分の名前が呼ばれたことが嬉しく、ついテンションが高くなりそうな自分を必死に抑えていたんだけどそのせいで上手く笑顔で返すことができなかったんだ。そしてそれを見ていた少女は少し顔をしかめていたので、なんとか笑おうとしていると突然大きな音を立てて部屋の扉が開かれそこからは俺よりも年上に見える少年と女の子が入って来て、そしてそのまま勢いよく頭を下げ始めたんだ。その2人が誰なのか全く知らない俺だったがその姿を見ていて不思議そうに見ていると、俺の隣に居てくれたアイシャと名乗る美少女さんから声がかかり、そちらに視線を向けると優しく笑いかけられてしまった。

(うわー可愛いよ!マジ天使)

俺は思わずそんなことを思ってしまっており慌てて口元を隠したが、そんな俺の反応に対して何も感じていないような表情を見せられた。そして俺はそのことでさらに落ち込むがそんな俺を無視して話は続いていき俺の知らないところで色々と決まってしまったらしい。俺には全く分からなかったがとりあえず話を最後まで聞き終えると解散となった。

そうして俺は宿に戻るとミーナ達と一緒に食事を取る事にした。ちなみに俺達は領主からこの世界の貨幣が入った袋を渡されておりそれを受け取ると同時に使い方の説明も受けている。

まずは銅貨が100枚集まって初めて銀貨1枚の価値を持つことになるようだ。次にこの世界には鉄貨という物もあり、これは一文無しというわけでは無いけど少し貧しい家庭で使われていることが多く主に子供などが持っていることが多いのだとか。他には半円状の形をしており5枚の束になっているのが鉄の硬貨でこれも10枚で次の一枚に変わるみたいだ。最後に銀色の輝きを放つ金貨は10万リルもの価値があるようで俺の認識が確かなら日本でいう所の100万円に相当すると思われる金額だと思う。

俺は宿を出る前に領主の屋敷で渡された紙をアイテムボックスの中から取り出すとその内容を確認するために読んでみたんだ。そしてその内容を確認した後に仲間たちに伝えると皆は俺の考えに同意したため直ぐに行動に移すことにする。そこで最初に向かう場所は当然のことながら武器を買う店だ。俺は武器屋のおじさんの話を聞きつつ自分が使っている剣よりもいい物は売っていないだろうかと思っていたのだが良いものはなかったので剣を二本買い揃えることにした。それと防具については服を購入しただけで鎧とかそういったものは置いていなかったから買わなかった。武器屋では他にも色々と見て回ったのだけど欲しいと思うようなものがなかったんだよな。だから今回はここでおしまいにして他の場所に向かうことにした。そして次に行こうと思っている所へは既にミーナ達が向かっているはずだ。俺は仲間と合流した後で改めて挨拶をしておきたかったのである人物の下に向かっていたんだ。

その場所に到着すると見覚えのある人影を発見したので俺もその隣に立ってみる。そして横に立つと俺に気付いたその人物は嬉しそうな声で話し始めたんだ。

「久しぶりですね翔殿。元気にしていましたか?まぁこうして再会することができたから私にとってはそれだけで充分に幸せな気分になれているのですが」

そんな言葉を掛けられて俺の方まで嬉しくなってしまっていた。

そして俺も嬉しさを隠さずに言葉を返した。

すると、彼女の名前はレイリアという名前であり、なんと俺がこの世界で初めて会ったエルフの女性でもある人だった。だから彼女と会えたことだけでも俺としては嬉しかったんだ。

そして俺がこの街に居るのかという理由を伝えると俺の仲間がこの世界で暮らしているということが知れたんだ。彼女はこの街の孤児院で子供達の世話をしているそうで俺はその時の様子やこの世界のこと、この領地でどのようなことをすればお金を稼げるかなどについて色々と教えてもらったんだ。俺はこの世界でも色々と大変なことがあるだろうと思って、彼女からこの領地で暮らすための様々な知恵を教えて貰っていた。

そのお陰で色々と知ることが出来て俺はとても助かって感謝していた。

そして彼女が俺にこの領地の案内をしてくれると言ってくれたから、その好意を素直に受けて彼女の行きつけだという店に連れて行ってもらった。そこは高級なお店ではなく庶民向けの店で普通に利用することのできる場所なんだと俺は思う。そして俺達はすぐに店の中に入ると店員さんが声を掛けてくるので、彼女に付いて行くように伝えると、彼女が支払いは気にしないで欲しいと言うので遠慮せずに奢られることにすることにした。そうやって俺は彼女に連れられて店を回ると、最初に入ったところとは比べものにならないほど安い値段で売られている商品の数々がそこにはあった。特に気になったのは調味料だ。醤油に似た味のものを見つけることができたがこの世界の料理に使われる塩はどう考えても高すぎると思った俺は大量に買わせて貰った。それから香辛料が手に入りそうな雰囲気だったので探してみたのだが、残念なことに置いておらず代わりに胡椒が手に入らないか聞いてみることにした。そうしたら案の定というべきか高いと言われたので断念せざるを得なかったがその代わりに香草と呼ばれる植物が生えているとのことだった。

その情報はありがたいがさすがにそれを購入するほどの金はないので俺は仕方なく諦めることにしたんだ。でもこの世界に居る間にどうにかして見つけ出して手に入れたいと考えている。

俺はその他にも薬草の類を探すと薬として使えそうな物を見つけ出したんだ。

この世界に来てからというもの俺は体調が悪いと自分で思っていたが実はそうでもなかったらしく俺以外の仲間は全員が風邪気味のような状態だったらしくそれが俺だけが平気だったことの原因ではないかと考えられるようになった。そしてその原因を探るためにもまずは薬草を探しに行くことに決めると彼女も同行するとの事で一緒に森に向かうことに決まった。しかし、その時に困ったことが起きてしまう。なんせ俺は未だに文字が読めないため、道が分からないのだ。そのため地図も見ることができず迷ってしまいそうだった。そこで俺は彼女にお願いすることに決めて一緒に探してもらい何とか目的のものは見つけたもののその時にはもう夕方近くになってしまっていた。それから俺達は街に戻り冒険者ギルドへと足を運んでいくとそこで依頼書を見てみると思った通りで採取の依頼が数多く存在していた。

そこで薬草がどれなのかを教えてもらうと俺にも簡単にできる内容だったため、その依頼を受けることにしたんだ。

そのあとは受付嬢から詳しいことを聞くと指定された場所へと向かうと早速採取を始める。薬草に関しては何の問題もなく入手することができており、後はこの依頼を達成させれば報酬を受け取れるのだと説明を受けていた。

俺はそのことを聞いた後に仲間に確認してみたのだけど全員に同じ意見であったためにそのまま帰ろうと提案したんだけど何故か引き留められてしまい結局帰ることは叶わなかった。そこで俺達は他の仲間と合流してから宿屋に戻ることになると部屋に戻ると夕食を取り、今日あったことをお互いに報告したりしたんだ。俺達の方からは新しい仲間のアイシャがこの国の貨幣を渡されていることをみんなに伝えておく。そのことでこの世界では銅貨、銀貨、金貨、白金貨、魔銀板という順番に貨幣の種類がありそれぞれ1リル=100円といった感じだそうだ。俺達はとりあえず100リルを所持しているということになり、そのお金を使い装備を整えたりして明日に備える。そして夜も更けてきた頃に就寝することを決めると俺は眠りにつくことにした。そして翌朝になると俺達は朝早くから街の外へ向かっていた。その理由は魔物を倒すという行為に慣れるためにも、実際に戦っている人の実力を確認しておくという目的で行動を開始することになったからだ。

そうして俺達が街を出ると門の近くに立っていた兵士の人に事情を説明すると、俺達のことを快く送り出してくれることになる。その兵士さんの人柄はいいのか特に咎められるようなこともなくすんなりと外に出れたのは良かったと思っている。その兵士さんは親切に周辺の地形について教えてくれてさらには討伐した魔物の死体を持ってきて欲しいとも頼んでくるので、倒したら持っていくことにすると伝えてから俺達だけで先に進むことになった。そして歩き始めて直ぐにゴブリンと思しき姿を見かけたため、俺はすぐさま聖剣を抜いて戦闘態勢に入るのであった。そしてそのまま駆け出していきその途中で俺は仲間に向かって注意をするように叫ぶと一気に距離を縮める。そうすることで相手からの反応を引き出そうと考えたわけだ。だが、そんな作戦は意味がなく反応する暇を与えずに俺は相手の目の前まで接近して斬りつけることに成功した。そして俺達の前に居たゴブリンはそのまま動かなくなるのを横目で見届けると俺は仲間のもとまで戻っていき状況を伝える。その際に仲間達は特に動揺している様子を見せておらず、俺の判断は正しかったようだ。その後は他の仲間が戦い始めるのを見守りつつ、もし敵が出てきた場合にはすぐに動けるように身構えていた。その結果としては敵の数が3体になった以外は何も起きることなく俺達は目的地に到着した。そこでは既に仲間達が待機していて俺達が戻ってくるのを今かと待ち望んでいたみたいだ。

それから皆と合流するとまずはお互いの連携を確認するべく模擬戦をすることになった。最初はミーナとアイシャの2人がペアとなり戦うことになったのだがアイシャの動きが異常に素早く動きに翻弄されたミーナは攻撃を上手く合わせることができずに苦戦していた。それを見た俺は少しだけ手助けをする為に動き回るアイシャの背後を狙って斬撃を放つと見事に命中したのだが俺の攻撃で体勢を崩したアイシャに対してミーナも追撃を加えることに成功すると見事勝利を収めたのである。その後には残りの2人も俺と同じように連携を試すと、今度は俺が1人で行動し仲間はその様子を見守っていたのだがやはり俺は1対多数での行動を得意としている為、余裕をもって敵を仕留めていくことができた。そんなことを繰り返していると当然のように俺の仲間から提案があった。それはこのまま実戦訓練を行うということだったが俺は仲間の意見に賛成して、次のターゲットを探すために移動を開始したんだ。そしてそれから暫く歩くと目的の場所にたどり着いたため俺達はその場所で一旦休憩を取ることに決めた。そして昼食を取ることにするとそれぞれが持ってきた食事を食べ始めていく。そう言えばと俺は昨日の内に購入してきた香辛料の入った小瓶を取り出し中身を確かめると、その中にあった粉を振りかける。そして味の確認をしてみた。すると香辛料の独特な香りが俺の食欲を刺激すると同時に味覚を刺激したことで更に美味しく食べることが出来るようになっていた。

俺はその効果に感謝しながらも仲間に食べさせてあげる。すると俺の真似をするように彼女も同じように粉をかけるので俺は嬉しくなったんだ。そうするとそんな俺の様子を察してくれたようでミーナも嬉しそうな顔をすると次々に仲間達に粉を振っていくと嬉しそうな表情に変わっていった。そしてそれを見ていた俺も嬉しい気持ちになっていた。そして全員が食事を終わるとこれからのことを考えながら俺は立ち上がる。そしてまだ日が高いことからもう少し奥まで探索することにしたんだ。

俺は仲間たちに指示を出すと森の中を進んで行くのだが予想よりも森の奥まで入り込んでしまい俺は内心焦りを感じながらも警戒は緩めずに進んでいく。そうすると次第に道が開けて広場に出ることが出来た俺はようやく休める場所を見つけ出せたことに安堵のため息をつくのであった。そして俺達が広場の中央に移動するとその周りを囲むように大量の魔物が出現したのだ。その光景に一瞬戸惑ってしまうが俺は即座に臨戦態勢に入ると、俺は仲間に視線を送る。

「俺とリュドミラで前衛を引き受けるから後衛陣は隙があれば魔法による攻撃を加えてくれ!」

俺はそう伝えると、そのまま走り出し仲間の前へと出る。それに合わせてリュドミラが後ろで待ち構えて援護の準備をしていた。俺は迫ってくる敵を迎え撃つと、一呼吸の間に二体のオークの首を同時に切り落とす。その勢いのままもう一体に襲い掛かると聖剣の力を最大限に利用して、敵の首を綺麗に跳ね飛ばして倒すことに成功して、最後の一匹を相手にする。その最後の個体だけは俺とリュドミラが戦っている最中に接近してきていたために俺達は背中を合わせて戦わなくてはならなかった。それでも俺は慌てず冷静に対応していく。

俺達の背後に現れたオークが棍棒を振り下ろそうとしたのが分かったので俺は振り返らずに注意を呼びかけるとリュドミラもその声に気づくが敵の攻撃を避けようとしなかった。俺は嫌な予感を覚えつつも敵が攻撃を仕掛けようとしたタイミングに合わせて、相手の攻撃を受け流すとカウンターとして胴体を切りつけ致命傷を与えることに成功。それを見て好機と感じた俺はすかさずとどめの一撃を与えて完全に絶命させるのだった。

しかし、そこで予想外の出来事が起きたのだ。なんと俺達の周囲に居た魔物が一斉に逃げ出したのだ。それを目撃した俺は慌てて追いかけようとしたが仲間がそれを制止したために断念した。そこで一度仲間と合流して話し合いを行った結果、俺達がここで倒した魔物を運ぼうという結論に達する。そこで仲間がせっせと運び出してはアイテムボックスの中に仕舞っていたのだけど俺はその様子を呆然としながら眺めることしか出来なかった。なぜなら俺が知っているアイテムボックスというものはその容量は人によって変わるがそこまで多くの物を収納できるものではなかったからだ。だがこの目の前にあるものは違う、まるで空間自体が歪んでいるかのように次々と獲物が入っていくのだ。俺は不思議で仕方なかったがその原理について深く考えても答えが見つかるはずがないため諦めることにした。そして魔物の死体が消えると俺達は再び森の中に入り込み、先程の戦闘の場所まで戻ってきた。しかし魔物の死体がない代わりにそこには見たこともないような巨大な魔獣がいたのだった。その姿は一見したところでは虎の姿をしている。だけど俺の知る普通のタイガーではなく体長が10メートル以上あり体高に至っては3メートル近くあった。しかもそれだけではない。この魔獣の身体の至るところに小さな穴が存在しておりその口と思われるものから火を吐いているのが見えたのである。そんな規格外の存在を目の当たりにした俺は全身を恐怖に包まれると共に絶対に敵わないと本能的に悟ったのであった。そして仲間の方を見ると誰もが同じ考えに至っているようで明らかに狼突していた。だけどそんな俺達を見て魔獣は笑みを浮かべると、突如として雄叫びを上げるとこちらに突撃してくるのが分かる。その巨躯から繰り出されるスピードは驚異的で目視では確認できなかった。そんな攻撃を受けて俺達が無様に殺されるのがオチだと思えた。そのため、俺は何も出来ずに立ち尽くしてしまったんだ。

迫りくる魔獣を前にして俺達はただ立ち尽くすことしかできずに絶望に打ちひしがれてしまう。すると突然に目の前に光の膜が現れるとそれが瞬く間に俺達を包み込んだかと思うと俺達の周りを球状の結界のような物が出来上がった。それによって魔獣は急停止してしまうと、その球体を睨みつけると力任せに殴りつけたがビクともせずに逆に弾き返されてしまう。そのことに腹を立てたのか更に何度も拳を打ち付けるが全く壊れない様子であった。その光景を見ながら俺は一体何が起こったのだろうかと唖然となりながら見守ると俺の横を何かが通り過ぎた感覚を覚えると、次の瞬間には今まで聞こえなかった悲鳴のようなものが耳に入ってくる。俺達が驚きの声を上げて振り向くとそこにはあの巨大で凶悪な雰囲気を放っていた魔獣が居なくなり代わりに一人の美しい少女の姿があった。その姿を見て俺だけでなく仲間の誰もがそのあまりの美しさに息を飲んでしまう。だがそれと同時に疑問が頭に浮かぶ、どうして目の前の少女があの魔物を消したのかということだ。俺はすぐに目の前の少女に声をかけてみようと思ったけど言葉が出てこず、結局は名前だけを聞くことになってしまった。そんな情けない自分の行動が許せなかったのだが今は目の前にいる少女の安否の方が大事だと考え直し仲間とともに駆け寄ってみると彼女の顔が驚愕に満ちているのに気づいた。その様子を見ていて俺は少し心配になりながらどう声を掛ければいいかと迷っていると少女はゆっくりと俺の手を掴んできたので、反射的ではあるが俺は手を振り払うことが出来なかった。

(あぁやっぱりこの感触、間違い無い。彼女は間違いなく美少女だ)

俺は彼女が握ってきた時の柔らかさに感動しつつそんなことを思っていたのだが、そんな事を考えていると彼女は安心できたのだろう、その瞳から大粒の涙を流す。そのあまりにも美しく可愛らしい姿に見惚れていたのだが俺はふと自分が彼女に見惚れていたことに気が付くと恥ずかしくなり視線を外す。そして彼女が落ち着くのを待ってから改めて質問をすると、その回答に俺は衝撃を受けることになる。それは魔王が既に復活していて世界を支配すべく動いているというのだ。

それを聞いて俺は目の前の女性が言っていることは真実であると確信した。というのも俺は彼女との会話の最中に時折違和感を感じていたのだ。その理由がようやくわかった。どうやら目の前の女性は精神体が俺の体内に入っているから本来の年齢より見た目の歳が上に見えるのだろう。

俺はそう思い込むと、とりあえずはこの女性と行動を共にすることにした。そしてまずは彼女を安全圏に移動させてあげた方がいいと考えたので、まず最初に安全な場所まで移動するために仲間達にも手伝って貰ってから、俺が抱えようとするが何故か俺以外の人間に触れられないのだ。俺は困惑するが仕方なく諦めた。そして移動を開始すると、その道中でも俺は仲間たちに協力して貰ったが誰一人俺に触れられないので仕方なく一人での移動となる。そのことについて俺は仲間に相談してみると彼女達は俺に申し訳なさそうな顔をすると、俺に謝ってきてくれるのだ。だけど俺の方はむしろ仲間達が俺に気を使いすぎてくれて感謝しかないと思っている。だから仲間達の態度を嬉しく思う反面なんだが複雑な気分になってしまうのも確かであり、俺は内心では嬉しくもあり不安でもあったのだ。

そんな気持ちを抱えたまま暫く進むと目的地に到着をした。その場所は俺が転移するときに使用した場所で俺は懐かしさを感じて自然と頬が緩んでいく。そうすると仲間の皆も笑顔になって俺を見ていることに気づき、その視線に気づいて俺も照れくさくなったので話題を変えるためにこの場所に来た理由を話すことにした。そしてこれからどうするべきかを考えると俺は仲間たちに指示を出すと、早速荷物をまとめていくのだけど、そこでまたも俺はあることに気づく。俺の仲間が荷物を持っていないのにどうやってこの人数分のテントなどを用意したということだ。そこで俺はその問題について聞いてみるが仲間たちは不思議そうな表情をして首を傾げるだけで何も答えてはくれなかった。そして俺達は森の出口に向かうとそこには馬車が何台か置いてあり、それを確認した俺は少し安心したのだがその中を覗いてみると人が誰も乗っていないのだ。それを見て俺は驚いたのだがその光景を見ていた仲間たちはなぜか微笑ましいものを見るように笑い始める。そこで俺は嫌な予感がしたので俺は仲間達にその馬車は誰かの私物なんじゃないかと尋ねると、彼女たちはその問いかけに対して答えてくれないどころか俺が話しかけたこと自体がなかったことのように振る舞っている。俺はその事に焦燥と混乱に陥りそうになっていたがなんとか持ち直すことに成功する。そして俺達はその村の中に入って行き村長に挨拶を行うと、いきなりだが泊まる場所に困っているのなら是非我が家にお泊まり下さいと言われた。それに戸惑っているとその横にいた女性たちも賛同してきたので、俺としては断る選択肢はなかったのが正直なところではある。そうして案内された先は普通の家だったのだが、俺の目から見るとまるで豪邸のような作りだった。そして部屋は余るほど用意されているとのことで俺達を迎え入れてくれるようだ。俺はそのことを伝えるがやはり俺のことを覚えていない様子だったので諦める。なのでとりあえず寝るための部屋に案内して貰ったのだけど、その部屋の造りは凄まじかった。なんといっても俺が見たことがないほどに豪華なベッドがある。それだけじゃない、なんとシャワー室らしきものがあるのだ。

そんな風に俺は部屋を確認し終えると俺とリュドミラとミラは一緒の部屋を使うことになり他のメンバーとは別れることになってしまったが、まぁ特に問題はないと思うので深く考えるのは止めておく。そしてその日の夜にこの村の村長のところに行って話をすると、俺は驚くような情報を手に入れることになった。その話というのはこの村は勇者が滞在しているということでこの村の人たちは勇者の一行だと思えば気が楽になり元気になれるのだと、俺はそんな理由でこの村に受け入れられているという。そのことを聞かされて俺はなんとも言えないような微妙な表情をしてしまったが仕方がないことだと思う。なぜなら俺にとっては勇者は敵であり倒すべき存在でもあるからだ。そんなことを考えているうちに俺達も夜は遅くなってきたので、この日は眠ることにし明日に備えることにしたのであった。ちなみに俺は当然のようにリュドミラと一緒に寝ることになり少しだけ気恥ずかしいが嬉しい気持ちもあった。

俺はその日、目を覚ますと隣には昨日会った少女が眠っていた。

(あれ? はっ! もしかして夢なのか? うん、そうだよな。あんなの現実であってたまるか。俺はそう思いつつ頬を思いっきり引っ張ってみたがちゃんと痛い。ということはこれは夢ではないのか?)

俺は目の前の少女が眠っているのを見ると少し安心していた。もしこれで起きていてしかもこの子が裸だったりしたらと思うと恐怖で震えてしまう。

(あぁやっぱり美少女だよなぁ。って何を考えてんだ俺は!?)

俺が彼女の姿を見てそんな感想を呟くと俺は慌てて首を左右に振る。だがすぐに俺の隣に誰かいるのを思い出してしまい視線を向けてみると俺の腕を抱きかかえているリュドミラの姿が目に入った。俺はその事を認識すると驚いてしまう。なぜならばその体勢からでは俺は動けなかったからである。そのため俺は完全に身動きが取れなくなっていたので、俺はリュドミラを起こさないようにしてから静かに体を起こす。

(ふぅー良かったぁ。なんとか無事に朝を迎えることが出来たみたいだ。それにしても本当によく眠ってるよ。俺が起きた時なんかは目がパッチリ開いてたもんなぁ。うん? そういえばどうしてこいつはこんなに無防備に眠っていられるんだ? いくら信頼してくれてるからといって無警戒過ぎじゃないか? いやいや、待て。そんなことは今はどうだっていい。それよりも俺がここに居る理由は説明できるか分からないけど取り敢えずはこの少女に聞かないとな)俺は自分の置かれている状況に戸惑いながらもそう考えた後に彼女に近づこうとするのだが、なぜか俺は途中で足を止めると再び考え込み始めてしまったのだ。その理由はとても単純明快なものであり俺自身もそれは分かっているのだが、それでも俺はまだ信じられずにいるのである。何故なら俺は今の状況を受け入れると絶対に面倒なことに巻き込まれる未来が見えているからなのかもしれない。だけども、だからと言って俺がこの場所に居ない理由を説明することも出来ないし、ましてやこの場から離れることも出来なかったのだ。

そうして俺が悩んでいる間にも時間だけは流れていくので俺はもうどうにでもなれと思い行動することにした。そうすることで俺は自分が考えていた通りの展開になっていく。その結果、俺の意識は再び途絶えて今度は森の中へと放り出される。俺はそんな状態になってもどうにか状況を把握しようと頭を必死に動かしているのだが、そうすると目の前に現れた少女から俺に対して何かしらの言葉を掛けてきたのだ。それを受けて俺はその言葉に答えると、何故か目の前にいる女性は涙を浮かべながら嬉しそうにしている。その顔を見た俺もまた、何故か笑みが浮かんできてしまう。そうすると彼女はとても優しく接してくれるようになり俺は内心では安堵するのと同時に疑問を感じてしまっていた。

(どういうことだ? さっきの奴らといいこいつといいなんでみんな急に態度が変わったんだろう? というより、なんでこの女はこのタイミングで俺の前に姿を現したんだ? まるで最初からわかってたみたいな言い方だし。もしかすると俺のことを待っていたってことはないはずだ。それなら今までどこにいたんだよという話になるし、そもそもどうやって現れたんだってことになるからな。それに、俺を待っているにしてもあまりにも突然すぎるからありえないだろうし。一体何が起こってるんだ?)

俺はその事がどうしても理解できないが、それでも彼女が優しい笑顔を俺に向けていることで不思議と気分が良くなっていってしまい俺は気がついた時には彼女の手を握ってしまったのだ。そうしてしまうと、彼女は嬉しそうに微笑むと、それから俺の手を引っ張ると歩き出した。そんな彼女を見ながら俺は内心では少し後悔をしている。というの何故かは分からないのだが、このまま彼女を見ていると危険だという本能が俺の中で働いている。だからといって俺が手を離すとその途端にこの少女は悲しそうな顔をするので、俺としてもそのままついて行くしかないのだ。だけど俺は彼女を見て、なんだが見覚えがあるような感覚に襲われると不思議な感じになっている。そうして暫くすると、その違和感はなくなり俺は何故か安心感を覚えると彼女と共に森を進んでいく。そして暫くすると、またあの場所に到着すると、そこには既にテントが張られており俺はその光景を見てホッとした気持ちになっていた。だけどそこで俺達の方に一人の男がやって来るのを確認する。

その男の外見だが見た目的には年齢は20歳前後で背は高くもなく低くもない、髪の毛の色は銀色をしており瞳は綺麗な碧眼で肌もかなり白いのが特徴的である。そんな彼だが俺達がその場所に近づくとその男は俺の方を見つめてくるので俺はつい視線を逸らすようにしてしまう。そんな風に少し戸惑っていると、彼が話しかけて来たので俺は緊張した声で対応していく。

「えぇーっと貴方達はもしかして僕が魔王を倒したときに助けた勇者様たちですか?」

俺は彼のその質問に答えることが出来ずに黙ってしまう。そんなことを言われたところで俺は勇者の事を何も知らないので何も答えようがなかったのだ。そこで俺は助けを求めるように仲間たちを見回したが彼女たちは何も言わないので仕方なく、

「すいません、俺達は記憶を失っていて自分達の名前すらわからないんです」

俺はその言葉を何とか口に出すことでやっとの思いで返事をすることができたのだ。そうして、俺はその事実を告げると目の前の男はかなり動揺してしまい、

「なっ!? それは本当なんですか? もしそれが本当だとすると、いったいどんな力が働いたというんでしょうか? 勇者は皆死んでいく運命にあるというのに生き残りがいるという事はそれだけで奇跡なのに、しかもその全員がこの村を訪れるなんて。それに記憶がないということまで共通しているだなんて、やはり勇者は何らかの理由でその身に特殊な力を持って生まれ変わるのかもしれませんね。ですが僕はそのことに感謝しないといけないでしょう。そうじゃなければ、これからのこの村の生活も厳しいものになってましたし。あはははっ。もしかしたらこれも神の思し召しというものなのかも知れませんねぇ。そうだ、折角ならあなた達に名前を付けて貰うというのはどうなんでしょうか? それなら、これからのこの村の生活を楽しく出来ますしね!」

その言葉を聞いて俺は目の前にいる人物の言っていることを殆ど理解することができなかった。だが、俺にそんな事を聞く余裕などあるはずもなく彼は続けて俺達に向かって名前を授けてくれないかと提案してきた。そうして、俺は困った表情を浮かべていたのだが、俺の横に立っていた女性と視線が合った瞬間、俺の脳裏には一瞬だけ見たこともない景色が浮かび上がるとそれと共に懐かしい声が俺の中に響き渡るのを感じた。

(なんだよ、これ? 俺が体験したことじゃないのに、どうして俺の胸の奥が締め付けられるんだ?)

俺がそんな疑問を抱いていると俺は自分の頬から涙が零れ落ちていることに気づくと、その現象に驚いてしまう。それと同時に何故か俺が泣いた理由が頭に浮かんできたが、それが意味することは今の俺には到底分かるものではなかったのだ。しかし俺は、目の前の人物が泣いている姿を見ても嫌なものを感じず、逆に同情的な感情が沸き起こってくるのだった。そして俺は、自然とこの目の前にいる青年に名づけをしてあげたいと思ってしまう。

そう考えると、なぜか俺は彼に名をつけることが自分の使命のように感じてしまい自然に口を開いていたのだ。

「分かりました。それではまず貴方のお名前は何と言うのですか? 俺が今考えている名前が気に入らない場合には別の名前を考えてもいいのですが、まずはそれを教えて欲しいんです。それに貴方の名前が俺の頭に思いつく限りですが思い浮かんだものでいいのであればその名前にしたいと思うのですが、どうかな?」

俺は自分でもなぜこのような口調になったのかは分からなかったが、目の前の男性が自分から自己紹介を始めた。

そうすると、俺の記憶にはなかったはずの彼の名前は思い出され、俺がその事を不思議に思って首を傾げていると目の前にいた男は何やら驚きながら、そのことに納得しているかのように何度か小さく頭を上下に動かして見せていた。

(あれ? なんだろう。さっきから俺はおかしいぞ。どうしてこの人が言っただけで俺はその通りにしようとしちまうんだろうか? 普通に考えればこんな奴の言うことを聞かなくても良い気がするんだけど。というか、そもそも俺は誰なんだ? なんでここに居た? 確か、リュドミラに案内されてここまでやって来たよな? なんで俺はあんな奴に名前をつけなきゃならない? あぁもうダメだ、頭がこんがらがってきた。ここは冷静になるために一旦深呼吸しよう。すぅーーーはぁーーーー)

俺は取り敢えず、心を落ち着かせると先程の出来事を思い出そうと必死になる。すると、すぐに思い当たることがあった。

(そっか。さっきのってやっぱり夢だよな。俺があの魔王に勝てる訳ないし、何よりも俺が誰か分からないとかあり得ないもんな。俺が覚えているのは魔王と戦ってる途中に俺に抱き付いて来た女の子のこととその後に起こったあの光景くらいしか思い出せないし。ってか、本当にあの時俺は何やってたんだろうな。そもそも俺のステータス画面にはスキルが表示されなかったのに、あいつの攻撃が効くとかさ。それに、なんでいきなりレベルが上がったり、新しい技が使えたりしたんだよ! 確かにあいつを圧倒できて嬉しかったけど。でもまさか本当に俺のレベルが50を超えてしまうとは思わなかった。それに、そのおかげであの時の技を使えるようになって良かったけど、でも俺のステータス値が異常なほど高い理由がよく分からないし、それになんであの魔法も使えるようになったんかな? それについても全く分かんないんだよな。あと気になったのはなんでさっき俺のことを見てきた男があんなに怯えた顔をしてたんだ? それにあの男、何か変なこといってたな。それにあの男はいったいなんで俺達がここに来たことが分かったんだ?)

そんな風に俺は疑問がどんどんと膨れ上がっていたのだが、そんな俺を気にもせずに男は更に話しかけてくる。

「僕の事は覚えてないという事だったのでもう一度言いますが、僕の名はアルスといいます。これからよろしくお願いします。それと貴方に僕の名前を付けてもらうにあたって僕からも一つお願いがあります。僕はこれからは今までの過去を捨て去り新しい自分に生まれ変わったつもりで生活するつもりなので、僕のことはただのアルスとだけお呼びください。それでは貴方の好きな様に名前を決めてください」

「分かった。俺が今思いついた名前は――、俺と同じような能力を持っていたんだからお前の名前は《アルファ》なんてのがどうだ?」

「はい。その呼び名とても気に入りました。ありがとうございます。これから僕、いや私はこの名前と共に生きていきます!」

「いや、別にそこまで意気込む必要はないと思うんだけど」

俺は目の前で嬉しそうにしている彼を見ながら少し恥ずかしくなり、それを誤魔化すために俺は苦笑いをすることになってしまったのだ。

(そういえば、俺はいつまでこいつの傍にいないといけないのかな? このままだとまたさっきみたいに襲われかねないよな? というよりこの子と一緒に行動して大丈夫なのかな? いや、きっとこの子は俺のことを襲ったりはしてこないだろう。だけどなんで俺達はこの森に入ってしまったんだ? いや違うな。この森を出ようにもこの子が連れてきてしまったせいで俺達は完全に道に迷ってしまったんだった。ならいっそのことここで暮らすというのも手かも知れない。そうすれば俺が戦う必要もなくなるし、食料の問題もないんだ。そうなると、問題はどうやって村に帰るかを考えていかないとな。そういば俺達が村に戻るときはどうやって戻ればいいんだろうな? もしかしたら村の方から迎えに来る可能性もありえるな。そうすると、村に帰ったら俺は何を話せばいいんだろうか。いや、その前にこの子を村に住ませても村で暮らせるのかどうかもわからないじゃないか。それなら俺の知り合いを頼った方がいいかも知れん。そうだ。そうしよう。よし。それで決定だ! それに俺もそろそろ疲れて来たから少し休憩をしたいしな。そうと決まれば、これからの行動方針を決めてから一度休もう。そしてそれから今後のことについて考えるのが一番良い方法だろうな。うん、それが一番良さそうだ。だからまずはこの子との会話を楽しみながら俺達は家に向かうか。そうして俺はそんなことを考えながらも彼女と少し話をすることにしたのだ。

俺は目の前にいる少女が俺に向かって、俺の付けた名前の事で喜んでいることに対して、俺が彼女に抱いている気持ちと同じように心の奥底から喜びが溢れ出すのを感じていると彼女はその勢いのままに喋りだした。その彼女の言葉を聞いていた俺は彼女が俺がつけた名前に込められた意味を理解してくれたのでその事について嬉しく思っていたのだが、俺の考えていたことがバレているような気がしてならなかったのである。そうすると何故かその事が急に恥ずかしくなってきたので話題を変える為に俺は目の前の女の子に話しかけた。

「それじゃあさっそく君の家に向かわないか? これから住む事になる場所だしどんな家なのかも早く知りたいしね。というわけで、君は俺の案内係として一緒についてきてくれないかい? そうじゃないと俺はどこに何があるのか分からないし、君が案内してくれないとこの村で暮らすのも難しそうだしね。それに、これから一緒に生活をするんだから仲良くしたいしね。駄目かな?」

俺の言葉を聞いて目の前の女の子は、俺の提案に驚いたようで、しばらく固まったままの状態でいたが直ぐに動き出して了承してくれた。そして俺が歩きだすと彼女も俺の後ろをちょこちょこと可愛らしい仕草を見せながらついて来てくれる。そうして、そんな彼女を眺めていると、俺は自分が無意識に微笑んでいたことに気づき急いで表情を元に戻す。すると、彼女は俺が突然笑ったことに驚きこちらを見ていたが特に何も言わずに前を見て歩いているのだった。

(あぁ。俺はどうしてこんな小さな子供に可愛いと感じてしまってるんだ? いくら俺に懐いてくれてるとはいえ、相手は魔物だぞ? でも、確かに可愛いのは認めるけど、俺の頭の中で誰かが言ってるような気がする。この子からは邪悪なものは何も感じないって。それにさっきの戦闘で使ったあの剣は何なんだろうか? なんであの時にあの技を使えたんだ?)

俺はそんなことを考えつつも、まずはこの子の家の前まで移動しようと思うと、その途中にある畑で俺は信じられないものを発見する。それは畑仕事をしている人がいたことも勿論あるが、俺が気になったものは畑に植えられていた植物にあった。

(嘘、だろ!? 俺の世界には存在しなかったはずの野菜や果物、更には肉が実っている木が目の前にはあったのだ。これはどういうことだ!? もしかしてここって俺がいた世界とは違う異世界なんじゃねえか? いやでも、あの子が着ていた服は確かに見覚えがあったし、そもそもここは日本なんだ。ならここは地球ってことになる。ということは、やっぱりここは地球なのか? でもどうして俺はこんな場所にいるんだよ! 俺は家で眠ってたはずだよな? なのに目が覚めたと思ったら知らない場所で知らない人に名前を付けられ、しかもそいつは魔王を倒した伝説の勇者だって言うし、その仲間は全員女ばかりだし、俺はどうなっちまったんだよ! こんな展開望んでなかったんだけど。それにこの世界にきたのって魔王を倒してすぐだろ? 確か俺のレベルが50を超えたところで意識を失ってたんだ。それなのに、俺はいつレベルが上がったんだよ。まさか、あの時の攻撃はレベルを強制的にあげる為のものなんじゃないか? それにあの魔法は何なんだよ。まさか本当に俺が魔王を倒しちまったってのか? いや、流石にないな。あんな簡単に俺が魔王に勝てる訳がない)

俺は混乱しながらも冷静さを装いながら、とりあえずは目の前の少女の案内で村の中に入り込んでいくのであった。そしてそんな時、俺に近づいて来る人影がありそちらを向くと俺の予想通りの人物がいた。そう。俺に抱き付いて来たあの子の母親だった。そういえば、俺はあの子の名前も知らなかったのだと思い俺は名前を聞くことにした。

「えっと、そういえばまだあなたの名前を聞いていなかったですよね。俺はあなたの名前を知っていたんですが。教えてもらっても良いですか?」

「私のことなんて気にしなくて良いんですよ。それより、うちの娘と遊んでいただいてありがとうございました。娘はとても元気な子ですから疲れてしまったと思いますがどうか宜しくお願いします。私はこれから村のみんなを集めますので失礼します。それとあの子がまた迷惑をかけるかもしれないけどその時は許してください」

そう言った後、母親は深々と俺に頭をを下げたあとに、村の中心部に走って行った。その行動からして俺に申し訳ないと思っての行動だという事は俺にもよくわかった。俺はそんな彼女の行動を不思議に思いながらもこの場で待っていて欲しいと言われている以上待つしかなく、その場でじっとしている事しかできなかったのだ。だが、彼女は俺が退屈しないようにか色々な所に連れて行ってくれて本当に助かった。

俺はこの村にきてからの数日間の間色々と考えたのだが、やはりここが俺の知っている地球ではなくて別の惑星であるという結論に至った。理由は至極単純でここにある全ての物や景色に馴染みがなさすぎるのだ。まずはこの場所は日本ではあり得ないし、更には俺の知る動物とも違っていたので俺はこの考えを信じるしかないと思ったのだった。だから俺はこの村から出る為に村の入り口へと向かっていた。

そう。この村は森の中にあり、出入り口も森の中にしか存在していなかったのだ。俺はこの森の先に見える山を越えることでここから脱出できるのではないかと淡い期待をしていた。そして俺の考えは間違ってはいなかったようで俺達はついに山までたどり着いた。そして、そこで俺達はこの世界で始めて見るドラゴンに出会うことになる。

俺達が今いる場所が森だと知ったとき、正直言って森から出れるか不安に思ったが、その不安は的中した。森の出口と思われる場所に向かって歩いていくが一向に抜け出せそうな気配はなかった。それでも俺達はこの道を突き進むことを決めるとひたすら歩き続けるのだった。それからしばらく歩くと俺達は休憩を取ることにしたのだ。俺は自分の腹を摩りながら空腹であることを告げると、目の前にいた少女も同じようにお腹が減っていることを教えてくれた。

(しかしよく考えてみれば俺はこっちの通貨どころかお金すら持っていないんだよな。だから食料を手に入れることもままならないし。いやいやいや、落ち着け俺! ここで焦ったら余計事態が悪くなるだけだ。それよりも今は現状の確認をするべきだろ。そう言えばこの子に俺のことを説明した時にレベルが5とか言ってたけど、それは本当の話なのか? それにステータスプレートが使えないというのもおかしいよな? もしかしたらステータスプレートが壊れたのか? まぁそれならそれで、こいつもこの世界に来たばかりのはずだし説明が楽だから良いか)

俺は自分の考えていることを確かめるためにまずはその事を尋ねると目の前にいる彼女は嬉しそうにはしゃぎだしてしまった。それを見ていると何故だか俺はその笑顔を見てると少しだけ嬉しく感じてしまう。俺はそれに動揺しながら話を進めようと話題を切り替えた。俺はこの子の前では常に仮面を被ることを自分に言い聞かせてから話を進める。そうでもしないと俺の心はどうにかなってしまいそうなほどドキドキと脈打ってしまうからだ。

それから暫くの間俺達は他愛のない会話を続けていた。俺はこの子の表情がコロコロと変わる様子に自然と頬が緩んでしまう。そうして、会話が一区切りついたときに俺は少女に質問をしてみた。その結果から分かることは、どうやらここは俺の知る地球とは別の世界ということだった。俺はそんな少女に驚愕しつつもこの世界のことについて尋ねてみると、少女は丁寧にも詳しく俺に教えてくれたのだ。

俺は少女にこの世界について様々なことを聞いたがその中でも最も衝撃を受けた話は少女が魔王であるという事実だった。最初は冗談でも言ってるんだろうと思ったが、彼女の目は本気であり本気で言っていることが伝わってくるのだ。それを聞いて、流石の俺でも少女のことを信用できなくなってきたのだが、そんな少女が俺に見せてくれたステータスが本物ならば俺が魔王と戦っても勝ち目がないのも事実だろうと思うしかなかった。だからこそ俺は俺が元居た世界に帰る方法を必死に探し始めることに決める。

「よし。決めたぞ俺は元の世界に戻れる方法を探すことにするよ。俺は絶対にお前を死なせたりなんかしねえからな。そして俺と一緒に地球に行こうぜ。俺もまだやり残している事があるし、何より、こんな可愛い子と離ればなれになりたくないしな。それに何だか君には助けてあげないとって思うんだよ。俺がそんなことを考えていると君が話しかけてきたんだ」

そう俺に問いかけながら彼女は心配したような顔でこちらを見つめていた。俺がそう言うと安心できたらしく彼女は満面の笑みで答えてくれた。

「ありがとうございます。でも、貴方様がそこまでする必要はないんですよ。僕はあなたに救われたんです。ですから、僕に恩返しの機会を与えて下さい。僕の力ならあなたの望みが叶えられるはずなんです」

俺は彼女からの言葉を聞いて困惑する。

(俺の願いを彼女が叶うだって? 確かに異世界に行きたいっていう願いは叶わなかったが、俺の望んでいることはそんなものじゃないぞ。俺の望みはただ一つだ。平和に生きたいというそれだけなのにな。でも彼女は何か勘違いをしているようだな。俺はそんなに凄い奴じゃないんだがな。そんなことよりも彼女の話を詳しく聞かないと)

俺は少女の話に聞き入る。

「私にはある力が宿っているので貴方が望むものを現実にする事ができるのです。なので、もしよろしければ一緒に地球に行ってくれるのであれば私はなんでもしましょう。私があなたに返せるものが他にありませんからね。どうか私を助けてくださいませんか?」

俺はこの言葉を聞いた時心臓が止まりそうになった。

(な、なんでこの子が異世界の事を知っているんだ? 俺はあの子にまだ異世界のことや召喚のことなどは教えていない。なら、一体どういうことだ? そもそもあの子はまだ小学生のはずだろ? それなのに、どうしてここまでしっかりと物事を考えていられんだよ! 普通なら混乱したり泣きわめいたりしてもおかしくはないはずだろ? だけど、あの子は違ったんだ。冷静に俺が言った言葉を信じていた。まるで最初からこうなる事が分かってたかのようにだ。それにこの子からは魔力や神気が溢れ出しているんだ。しかもそれがどんどん大きくなっていやがる。こんな事初めてだよ)

俺は少女に自分がどれだけ異常な状況に陥っているのかを教え、少女の異常さを分からせようとするが少女は聞く耳を持ってくれないようであった。そこで俺は諦めることにしてその件はひとまず後回しすることにしたのだ。そうすることで、とりあえずは目の前の少女の力を借りて地球に帰ることができるかどうか確かめてみる事にした。だが、俺にこの子が嘘をついているようには全く見えなかったのだ。そしてこの世界に来る前の光を思い出しながら考えると、もしかしたら本当に転移することができるのではないかと考え始めていたのだった。そこで俺は目の前にいる彼女にお願いをして、もしもの時の為にこの子を俺が召喚した勇者だと周囲に説明してくれるように頼むと快く引き受けてくれてくれた。そうすると俺は少女の手を握りしめながらお願いをした。

それから数分後。俺達の周りが一瞬光に包まれた。俺達はその現象を確認すると急いで森の外に向かって走り出した。俺は後ろを気にしながらも全速力で走る。そして、森の出口に辿り着くとその光景を見て愕然としてしまう。そう。森の先に見えたのは見渡す限りの森が広がっていた。そうしてその森を呆然と見ていた俺は、俺の腕にしがみついてきている彼女の手を握る力を少しだけ強めてしまうのだった。

(まさかこれ程の規模の場所だったとはな。これで俺達の住んでいた場所の近くだというのだから信じられん)

俺は心の中で苦笑いをしながらそんな事を考える。

だが俺の心は既に決まっている。この子の力を利用して俺はこの世界を脱出することに決めたのだ。

「よし、俺はこれから先ずっとお前に尽くし続けると誓うぞ。だから一緒にこの世界から帰ろうぜ」

俺の突然の決意表明に対して目の前の女の子はとても喜んでくれているようで、嬉しそうな声を上げている。俺はこの世界から出れる喜びをかみ締めながらこれからどうするかを考えていた。

それから数日の間、俺達はお互いの名前を知るための旅をしていた。そんな中、この世界では珍しい亜人と呼ばれる人達に出会った。その人たちは皆人間のような姿をしていたがどこかしら違う部分があったのだ。それは耳だったり角だったり尾っぽだったりと様々だったのだ。その種族の中に獣人も混ざっていたのが印象的だ。

俺はその子たちを見るまで獣人は動物から進化した存在だと思い込んでいたが、この世界の人たちを見ると、動物から進化していった結果、人と動物のハーフが生まれたというのが真実であることがわかったのだった。そんな彼らを見た俺は感動してしまった。そして、同時に今まで俺がいた場所とは違うのだという事を改めて実感させられたのだった。

俺は今更になってそんな事を考えているとこの世界で何をして生きていくのかを全く決めていないことに気付いた。

(俺、元の世界に戻るつもりがないんだからこの世界でどうやって生きればいいんだよ! まぁそれでもいいか別に。どうせこの世界の人達と仲良くできるかなんて分からないし、もしかしたらいきなり襲いかかられる可能性すら考えられる。だったら俺みたいな一般人が生きていける世界ってないんじゃないのかな?)

そんな不安を抱えたまま俺は少女と共に街を目指したのだった。

あれから数日後。俺達はついに街の入口らしきところに辿り着いた。俺達はそこで身分証が必要だということを聞く。そこで俺は異世界物のテンプレを思い出していたのだ。俺はこの世界に来た時に何か特別な力が身に付くんじゃないかと思っていたがそんなことはなかった。俺のステータスに書かれていたのは、ただのレベル5と職業が【無職】と書いてあるだけ。そう。俺はこの世界に来る前に神様から恩恵を貰っていなかったんだ。だから俺が持っている武器もただの剣だけなのだ。でも、この聖剣を使えるというだけで普通の武器が持てないというわけではないんだけどね。

そんなことを考えていると俺達が街に入るための行列に並んでいる最中、周りからジロジロと見られてしまっていることに気が付いた。どうやら彼女はこの国でも有名なようだ。俺がそのことに感心していると彼女が自分の事を俺の嫁と言い出す始末だった。俺はそれに困ってしまうと彼女はすぐに俺がこの世界から帰れなくなるといけないと思い、冗談を言い出したらしい。それを俺は本当か? と考えてしまうが、もし彼女が本当のことを言っていないとしたら俺はこの世界に骨を埋める覚悟を決めなければいけないだろうなと思ったのである。そうして暫くすると俺達は遂に順番が来た。すると門番をしている男が話しかけてくる。

「お前らどこから来たんだ? 見たところ冒険者のようだが新人なんだろ? この街には強いモンスターがいるんだ。命を落とす前に引き返した方がいいと思うぞ。さあ分かったらそこを通してもらうぞ」

門の前で立っていた男にそんなことを言われた俺達はその場を離れようとしたその時、急に俺の前にいた男が膝をついて倒れ始めた。

俺が倒れた男の背中を見つめながら唖然としていると彼女は俺の手を引いて走って逃げ出したのである。そして門のところまで戻ってくるとそこには門を閉める作業を行っている人の姿が目に飛び込んできた。

「あらあなた、随分遅かったわね。それでその人たちは何者なのかしら?」

「ああ実はこの子達を街に入れようと思って連れてきたんだ」

そんな話を聞きながら俺の意識は次第に遠退いていったのであった。そう。俺が見たのはこの世界で初めての出来事であった。この日、俺は気絶していたようだが無事に目覚めることができて本当に良かったと思っている。

俺の視界がはっきりするとそこは豪華な部屋の中で、どうやら誰かに看病されているみたいだった。俺は上半身を起こしてみると、ベッドの脇にあるイスに座った女性が目に入ってくる。俺は思わずその女性に見とれてしまっていたのだが、彼女の姿を見て驚きを隠せなかった。何故ならそこに居たのはエルフだったからだ。そう。俺の予想が間違っていなければ彼女は美の女神に違いないだろう。俺はそう思い込むと慌てて自己紹介を始めた。

「私は貴方の夫になる者です。よろしくお願いします。えーっと、名前聞いてもいいですか? あっ、僕は鈴木太郎といいます」

俺が名前を告げてからお礼を言うとお姉さんは優しい声で答えてくれた。そういえばこの人に俺の妻と言っておかないと駄目なんじゃないだろうか。でもこの子の名前も知らないし、それを聞いたところで俺はこの子に何もしてあげられる事がないだろうなと思えて仕方なかった。俺はこの子には幸せになって欲しいと考えている。だけど今の俺はただの一般人でしかないのだ。だからこの子に色々と迷惑をかけたくないなと考えていたのだ。そして俺はこの子の名前を知らなかった事を思い出すと彼女に名前を尋ねようと決意し、勇気を振り絞ると質問をした。だがその瞬間だった、彼女の体が光だしたのである。その現象に驚いていると光が収まったので彼女の方に目をやると、そこには美少女の姿が見えたのだ。

俺はその姿を見ると興奮してしまい鼻息が荒くなるのを感じてしまったが、そんな事を考えていると彼女が俺に向かって微笑んでくると恥ずかしくなって視線を外すことになってしまった。俺は何とか心を落ち着かせると再び彼女の方を向き直したのであった。

(い、一体どうなっているんだ!? 俺の頭がどうかなったのか? そういえば彼女からは何か不思議な雰囲気がする。一体どうして俺は彼女が目の前にいるように見えるんだ? これは俺の目がどうかしてしまったんだろうな)

俺は頭を抱えて悶絶しながらもそんな事を考えていた。だが俺はすぐにこの世界ではそういうこともあるだろうと納得することにし、彼女との会話を楽しむ事にしたのだった。

それからしばらくするとメイド服を着た綺麗なお姉さんの姿が入ってきたのだ。

その光景を見て俺の心の中ではこんな言葉が浮かんできたのだ。そう、まるで夢の世界に来たような感覚になった。

その美しい姿に見とれてぼぉーっとしてる俺にその人は笑顔で接してくれたのだ。

俺はその人の容姿を一言で言えば天使のような人だった。その女性は銀色の長い髪が特徴的で胸は大きいとは言えないかもしれないが形の良いもので、腰はくびれていて手足も長く、足先まで完璧に近い姿をしていたのである。

俺がその人をじっと見続けているとその人が口を開いたので俺は慌てて言葉を返す。

するとその人とのやりとりが終わると、その人がこの部屋の主だという事が判明したので俺はその人に対して感謝の気持ちを込めてお辞儀をしていた。

その後俺は食事と着替えの手伝いをしてくれていたお兄さんに対して俺の嫁だと言ったら怒られてしまいそうな雰囲気になっていた。そんな状況を見ながら苦笑いをしているとその人の表情が変わったのだ。そして俺はその理由が何となく分かってしまったのだ。だって彼女は俺を見てニヤニヤと笑い始めていたからね。だから俺の予想通りだとしたら彼女はこの国でも有数の実力者だと想像ができるわけなのだ。俺は目の前のこの美人に少しだけ興味が出てきたのである。

それから俺達は街に行く事になり俺は初めて見る景色を目にするととても驚いたのだ。それは街の至る所に魔法陣が描かれている光景だったからである。そんな事を思いながら街の中心部と思われる場所へ向かって歩いていくのだった。

俺はその道中、この街の事を聞いてみるとここは商業都市であり王都に次ぐ二番目の大きさを誇っているらしい。そのことからこの国は経済的に豊かであるということが分かったのだ。そうやって暫く歩いているとこの国のトップらしき人物が住んでいる場所に到着する。その建物は他と比べても大きな作りになっているらしくこの国でも一二を争う程の規模だそうだ。

その話を聞いた俺はそんな大貴族の屋敷に連れてこられたという事実が怖くなり震え上がってしまう。俺みたいな一般人が入れていい建物じゃないだろと突っ込みを入れたい気分だったがそれは抑えることにしたのだ。俺の隣では少女が緊張しながら俺と一緒に屋敷の中へと入る。

それから暫く待っていると一人の執事が現れ、この国の王に会いたいと申し出があったようだ。当然俺は断った方がいいと思うのが普通なのだが、少女はそれを承諾して俺の手を引っ張って王様の元へと向かうのだった。そして謁見の間という場所に入ると玉座の前に立ち止まり膝まづき始めると挨拶をするのだった。

「私の名前はセシア。そして隣に座っているこの方は私の夫になる方よ」

その少女が俺を紹介するので俺はどうすればいいか分からずに固まっている。すると王様の方から話しかけてきた。

「私はアルスというものだ。この国にようこそ来たな。お前たちは何処から来たのだ?」

その質問に対して俺は答えに詰まってしまう。俺は元の世界で死んでこの世界に転生された身だから元の世界については話せないし、元の世界に戻りたいと思っているから元の世界のことを話すこともできなかったのだ。

「すみません、実はこの子は記憶喪失になっていまして、自分が誰なのかすら分かっていないのです」

俺が悩んでいると、隣の女性が勝手に喋り始めたので俺は驚きを隠せなかったのだ。

そしてそれを聞いた王が顎に手を当てながら何かを考え始めたので俺は焦ったのである。

(この国では記憶を失っている子供というのは珍しくないのか? いやいや違うな。恐らく俺のステータスを確認しようとしているんじゃないだろうか? 俺にはその能力はないはずなのにどうしてこの人は分かったんだ? この子の記憶がなくなった原因でもあるスキルを俺は持っていないしな。でもこの子を見る感じ嘘を言ってるように見えないんだよな。そもそもこの子の服装を見ているだけで、普通の女の子とは違うことが分かるし、そのせいか俺が今まで見た事のある女の子とは全然違っていた。だからこそ気になったのかな?)

そんな事を俺が考えながらも王様に質問されて困っていると彼女が代わりに話し始めたのである。

「あなたが何を勘違いしているのか知らないけど、彼女は私が召喚させた勇者の一人なの。だからその事で色々と話し合わなければならない事があると思うの」

その話を聞いていた俺は冷や汗を流し続けていた。何故なら俺の【聖女】である彼女の言う事と、俺には何もないと言うことを比べたら圧倒的に俺の方が分が悪いからだ。だから俺は何とかしなければと心の底から思い、何か言い訳ができないかと考えるのだった。すると彼女は俺の事を自分の旦那だと言い出した。すると王様が何かを思い出したように反応をすると俺の事をじろじろと眺めながら観察し始める。俺はそんな目で見られることが怖かったが耐え抜くしかなかった。

そして俺達の話が終わり、俺は彼女の護衛役ということでこの街に留まる事になったのであった。俺は彼女達が話していた内容を聞き逃さなかったのでこの世界がどんな世界であるかという事を少しずつではあるが理解し始めていたのであった。その話の中で俺が特に注目していた内容が一つある。それは魔物の存在についてだった。どうやら俺は魔物を討伐する役目を担っているようだったのだ。しかも彼女の話では俺のレベルは500を超えているらしく俺の力が必要になるかもしれないと言われたのであった。

そして彼女は俺に向かってこう言ったのだった。「私にはもう一人仲間がいるの。彼はレベル2000の最強の魔導士。あなたは彼と共に旅に出てもらうつもり。だから安心して欲しいの」と。

俺はこの時思った。俺は最強と呼ばれる魔王と戦うために選ばれた存在なんだと。俺は彼女のためにも絶対に強くならなければならないと心に誓ったのであった。

そう、俺が彼女に好意を抱いているのは一目見て恋に落ちたというわけではなく、俺と同じ立場の者だから惹かれるのかもしれない。それに俺が知っている女の子とは全く違った魅力が彼女にあったからだ。そんな彼女が俺の事を好きだと知った俺は思わず顔が熱くなるのを感じていたのである。そしてこの日俺は彼女と結ばれたのだった。

(あれ? 俺はいつ寝たんだ? もしかして意識を失っていたとか言わないよね? もしそうならかなり恥ずかしいな。それとも夢を見てるんだろうか? そう思いたかったのだが、何故か俺は今ベッドの上で横になっており、目の前には美しい女性がこちらを覗き込んでいたのだ。そして目が合うと俺は慌てて目を背けてしまう。だって俺は生まれて初めての体験だったから恥ずかしくてたまらなかったんだ。俺は彼女に視線を合わせるとゆっくりと起き上がりながら声をかけてみた。

「あっ、おはようございます」

俺はそう言葉をかけると目の前にいる綺麗な女性に笑顔を向けたのだ。すると彼女は笑顔になると、優しく微笑み返してくれると自己紹介を始めたのである。

その瞬間俺の心の中に天使のような綺麗な容姿を持つ彼女の姿が映し出された。

そして彼女の口からは俺が待ち望んでいた名前が発せられたのだ。そう、俺は彼女の事が好きになった。いや好きになってしまった。

その瞬間俺は確信したのである。この出会いこそが運命の赤い糸が結ばれていたからなのだと。

だから俺がこの気持ちを伝える前に彼女から俺の事を夫だと紹介された時に俺は心の中にあった気持ちが爆発してしまった。そう、俺は彼女が欲しくて仕方がなかったのである。俺は彼女を抱き締めると何度も口づけをしたのだ。俺は彼女の事が欲しいと本能的に感じてしまっていたのである。

そしてそんな事を考えていた俺に彼女は耳元で甘い言葉を投げかけてくると俺は興奮してしまい鼻息が荒くなってしまう程に彼女を欲してしまった。その瞬間彼女は服を脱ぎ捨て裸体になるとそのまま行為に及ぶことになってしまった。それからというもの朝まで愛し合った。

それから暫くの間一緒に行動することになり、二人で過ごす時間が増えたことによって更に絆を深めることができた気がしたのだ。だがこの生活が続くことはなかった。なんと突然あの時の美少女から呼び出されることになってしまったのだ。俺は嫌だと思いつつも彼女からの呼び出しに応じないとまずいのは分かっていたのである。なので行くしかないと思っていた俺に、彼女は笑顔を見せてくれたので俺はその期待に応えることにしたのだ。だがその時、俺は彼女に対する気持ちが大きく膨らんでしまっていたのである。俺はこの子を離したくはないと思い始めていたのだ。だけど彼女の命令は絶対だし逆らうこともできないと思った俺は仕方なく彼女の後を追いかけることになった。そして暫くすると街に着くと、その街で宿を取り、次の日の朝を二人で迎えることになる。

その光景を見た俺はもう抑えきれない気持ちになり、我慢できなくなってしまってつい、俺はこの子と結ばれたいと思ってしまったのである。そんな時彼女はとんでもない提案をしてきてくれる。その内容は俺にとってとても嬉しいものだった。だから俺はすぐに受け入れたのだった。そしてそれから俺は幸せの時間を過ごしていた。俺は彼女が愛おしすぎて堪らなかったのだ。それから俺達はこの世界を脱出するための行動を開始したのだった。俺はその最中この子が俺のことをどれだけ好きなのかを知ったのだ。

俺はこの世界でのこの子の立ち位置を知っているからこそ、こんなにも尽くしてくれている事に胸を痛めてもいた。何故ならばこの子は聖女として崇められており、この国を救わなければいけなかったからだ。でもそれはこの子の使命でもあったのだろう。この子はそういう性格の持ち主であると俺は思っていたからである。俺がそんな風に思っていると俺が考えていることが伝わったようで、この子はそんな事など全く気付いていませんでしたと言われてしまった。俺はそれでも気にしないと言ってくれたので嬉しかったのである。だから俺は、彼女のために強くなると決めたのだ。それから俺達は暫くの間一緒に過ごし、遂にその街から離れることになった。俺は彼女の事を想うと悲しさがこみ上げてきて、このままずっと側に居たいと心の中で呟いていたのだった。そしてとうとう、別れの時が訪れる。俺達はこの街の近くにあるダンジョンへと潜ることになる。そして俺の新たな冒険が始まったのだった。

(そうだ。俺がここでこうして戦えているのは彼女がいてくれているからなんだ。俺には彼女が必要だ。これからも守っていくって決めたんだ!)

そしてその男は決意を新たにしながら再び歩き始める。この世界で得た力をさらに高めることが出来る場所を求めて。その男の名は【アスタ】

かつて英雄と呼ばれていた存在だ。そして彼の前に現れる少女がこの世界に存在する【聖女】であるセシアなのだがこの時の二人はお互いがお互いに気付かずにいた。そう、この二人の物語はここから始まろうとしていたのである。

(やっと出口が見えたぞ。よしっ、これで外に出れる。でも一体どういうことだ?)

俺達が洞窟の中へ足を踏み入れると突如、俺達を取り囲むように魔物が出現し始めたのである。そして、その中のリーダー格と思われる一匹の魔物が、俺達のことを品定めするようにじろじろと見ていたのだ。

(おい待てよ。こいつの目は明らかにおかしいよな? まさか、こいつらも鑑定系のスキルを持っているというのか? もしかしてこいつら全て、ユニークモンスターなのか?)

「お姉ちゃん下がってて」

「でも!」

「いいから早く」

俺の真剣な顔を見た妹が俺の指示に従ってくれるのを確認した俺が動き出す。それと同時に他の奴らが一斉に襲い掛かってきたのだ。俺はそれを避けつつ攻撃に移るが、やはり手数が足りないためダメージを与えられない。それに加えて俺は相手のレベルを確認することが出来ないのだ。その為俺はこの敵を倒す方法が見つからず、ただひたすらに逃げ回る事しか出来なかった。そして俺と魔物の距離が一定になったタイミングを見計らっていた俺は、ある事を思い出す。そうそれは以前戦ったことがある魔物についての情報だ。その情報とは【魔族】に関する情報であった。俺はそこで【魔王】という単語に気が付くと、この目の前の化け物がその類ではないかという仮説を立てることが出来た。だが俺はそれを確信できるような情報を持ち合わせていなかった為俺は焦っていたのである。そして、俺は【聖女】に【癒しの力】を発動してもらおうとしたがそれは出来ないようだった。

(これはもしかして【魔王】と戦った事があるかどうかを試されているんじゃないか? それとも別の理由があるのか分からないけどこれじゃどうしようもない。せめて【勇者】の力があれば話は変わるかもしれないけど――あれ? どうしてあいつは戦っているんだ? もしかして俺が戦えることを期待していたとか? それなら俺は戦うべきなんじゃないのか?どうする俺、どうしたら良いんだ俺、教えてくれ俺! よしっ、やるしかないな。覚悟を決めろ、そして今持てる力を出し尽くすんだ。俺はそう心に誓うと【魔王】らしき魔物に向き直る。すると、目の前の化け物は俺に対して明らかな殺意をぶつけてきていた。その殺気は間違いなく本物のものであり、俺は背中に冷たい汗を流し続けていた。そして俺が動くと相手もまた同じように動いていたのである。

俺はまずは小細工無しの真正面からの攻撃を選択したのだ。その一撃によって敵の体力を削るという作戦で俺は動いた。その作戦は見事に的中したのだがそのせいで俺にはかなりの隙が生まれてしまっていたのである。

だが俺は敵の攻撃をまともに受けることはなかった。それは何故かと言うと俺に向かってきた敵の攻撃を俺の代わりに受けた者がいたからであった。それは他でもない、俺の妹だったのである。

(このクソ野郎。よくもやりやがったな。俺の可愛い妹になんて事しやがるんだ。この野郎だけは絶対にぶっ飛ばしてやる。この俺の手でな。絶対に許さないぞ。俺の怒りを受けやがれ!)

そう俺は心で強く叫ぶと怒りに任せた全力で相手に攻撃を繰り出していく。そう、今の俺はこれまでにない程の強さを発揮していると自分ながらに感じることが出来ていた。そして俺はその調子に乗った状態で目の前にいる敵を倒そうとしていたのだ。そうすると突然体が重くなっていき、俺は自分の体をうまくコントロール出来なくなっていったのである。俺は慌ててその場から逃げようとしたが遅かったようだ。俺は地面に向かって落ちていきそのまま倒れ込んでしまう。すると目の前にはあの化け物がおり俺のことを見て笑みを浮かべていたのである。そして次の瞬間、俺の顔は踏みつけられてしまい俺の意識は途絶えていった。そして次に目が覚めた時は俺は拘束されていたのである。

それから俺はこの国の姫様に召喚される事になるのだが、この国を救うために必要な人材だとか色々言われてそのまま国の為に働かせられることになった。だけど俺は別に国のために働くことは構わないと思っていた。そう、俺は元々この世界の人間ではないのだから仕方がないと思っている部分があったのだ。

それから俺は姫様から様々な事を学び、この世界に存在するスキルというものを使えるようになっていたのである。そんな俺に与えられた使命は【救世主】の称号を持つ者を救い、共にこの国を救うことだった。そうして俺は異世界生活を楽しむべく【英雄】になることを決意したのである。

そして俺の前に現れた彼女はとても綺麗に成長していたのだ。俺はそんな彼女を見てすぐに彼女が【セシア=シルフォード】という名前だということに気付いた。そんな俺を見た彼女は笑顔で俺の事を受け入れてくれる。俺はこの時嬉しくて堪らなかった。そして俺は彼女を守り抜く事を改めて決心したのだった。

(そうだよ。彼女はあの子じゃないか。どうしてこんな事に気づかなかったんだよ。こんなに愛しい彼女を忘れるわけないだろう。何やってんだ俺は!)

俺はそう自分に言い聞かせるがどうしても思い出す事ができない。だがそんな俺の様子に気づいたのか彼女の方が俺に質問を投げかけてくる。俺がその事に動揺しながらもどうにか答えると今度は俺の様子がおかしい事に疑問を持ち、心配してくれる。俺の頭の中では彼女の言葉は入って来ていないが、俺が何か変な事を言った事に対するフォローをしている事は分かった。

そんな時だった。俺の前に魔物が現れてしまう。しかもそれは、先程の俺と妹をいたぶっていたボスである化け物の同族であり、明らかに今まで俺が出くわしてきた奴らよりも強いと感じ取ってしまったのである。その気配を感じ取った俺はこの敵と戦って勝てる気がしなかった。その為俺は彼女を先に逃がし、そして俺が囮になって敵を引き付けることにしたのだ。

それから敵が攻撃を始めようとしたその時だった。突然、俺は体の自由を奪われる。その現象を不思議に思った俺は自分の体に視線を向けるが、特に異変はない。だがそこで俺は、この敵が自分の命を握られているのが分かってしまったのである。その事実に俺は恐怖し、なんとか抜け出そうともがくが敵はそれを許してくれなかった。その敵の名は【ロード】

そうこの世界に生きる者ならば誰しも一度は聞いたことのある有名な魔物だ。そしてそんな【ロード】を前に俺の命の灯火は既に尽きようとしていた。そしてそんな絶望の中俺は、走馬灯のようなモノが見え始めたのだ。

そしてそこに現れた少女がセシアだという事を知ると、俺の気持ちが少し晴れたのだった。何故ならば俺の愛した人が俺の死に立ち会うために目の前に現れてくれたのだから、これでもう何も思い残すことはない。それにしても俺はここで死ぬ運命にあるというのだろうか。こんな理不尽なことがあってたまるかと俺は心の中で叫び続けていた。

俺達はそれから洞窟内を走り回り出口を探していた。するとようやく出口を見つけて外に飛び出る。そこは見覚えのある景色が広がっていた。俺達がいる場所は王都から少し離れた所に位置しているダンジョンなのだ。





(ここは間違いなく【魔窟】の中だよな。まさか、あの洞窟が入り口だと思っていて正解だったということなのか?)

俺達が【聖女の祠】を脱出した直後だった。【聖女の盾】のメンバーの一人である女性が急に膝を突く。そして女性は苦しげにうずくまっていたのだ。俺と妹はその光景に思わず駆け寄ろうとする。俺達の脳裏にはこの女性のことが真っ先に浮かんできたからだ。俺達が【魔族の王】と戦うため、戦力になるメンバーを探し求めている時に協力してくれた女性がいたのだ。名前は確か【ルミアン】といった筈。その彼女が俺達の前へ姿を見せる。そして俺達に攻撃を仕掛けて来たのだ。その一撃にはかなりの力を感じた俺は、咄嵯に妹のことを守るように庇い攻撃を受け止める。俺は攻撃を防ぎきる事は出来たが妹と共に地面へと吹き飛ばされたのであった。

(おいおいマジかよこいつ。さっきの攻撃かなり本気で来てただろ。こいつ一体何がしたいんだよ?)

俺と【ロードの眷属】との激闘が繰り広げられていた。俺は相手の動きを予測する事で攻撃を捌いていたが正直言って余裕がなかった。それは【ロードの加護】の効果により俺は徐々に力を失っていったからである。そのため俺には焦りが生まれ始め、それが俺に冷静さを無くさせていた。だがそれでも【ロードの眷属】のスピードを上回る事は出来ないため防戦一方になりつつあったのである。そして俺は【魔王の爪】の威力を上げる。そうすることによって俺は少しずつだがダメージを与えることが出来るようになった。

だがそんな俺の動きを見た相手が突如速度を上げて俺に急接近し拳を繰り出してくる。それを何とか回避したが俺は完全に【魔王の剣舞】を発動できなくなってしまい俺は追い詰められていく。そうして【魔王の眷属】に蹴り飛ばされてしまう。その後俺は何度も立ち上がっていくがやはり決定打に欠ける。俺の攻撃は【勇者の証】の能力でダメージを与えられず、逆に俺は傷が増えていっている状態だったのだ。俺は必死に打開策を考えるが答えは見つからない。そんな中【魔王の眷属】の攻撃は激しさを増していき、ついに俺の手数が足りなくなり【魔王の鎧】を纏っているにも関わらず致命傷を負ってしまったのである。

(クソッ! これなら【神獣の牙】を発動した方がまだましな戦いが出来るんじゃないか? ってかこいつは一体何を考えているんだ? なんでこんなに弱い俺を攻撃してるんだ? 何かが可笑しい)

俺が心の声に反応するかのように突然相手の動きが変わったのだ。俺を執拗に追い回していたのだが、その標的を変え俺の妹の方へと向かって行ったのである。そして妹に襲いかかる【ロードの配下】の連中に対して俺は怒りを覚えながら立ち上がると俺は無謀にも一人で戦おうとしていたのだ。そう、この局面は一刻も早く切り抜ける必要があり、俺がこの場で戦えるのもあと僅かだと悟ったからだった。

「お、俺が相手だ。お前らの狙いはなんだ?」

俺の言葉を聞いた相手は無言のまま、俺に向かって攻撃を仕掛けてきたのである。

「クソッ!」

俺は敵の攻撃を防ぐとそのまま反撃に移るが、俺は相手に大したダメージを受けさせることが出来ずにいた。そしてそんな状況が続くうちに俺の体力は限界を迎えていく。俺は最後の一撃に全てをかけると覚悟を決める。だが俺は相手から受けた一撃を防御することもままならず、俺の意識は徐々に薄れていったのであった。

(ちくしょう!せっかくここまで来たっていうのにここで俺は終わるのかよ!)

【ロードの眷属】による強烈な一撃によって意識を失いかけていた俺だったが俺は必死に堪えていた。だがそれも時間の問題で、とうとう俺は意識を保つ事ができずに倒れ込んでしまう。そして目の前には【ロード】が迫ってきていたのであった。

(ああ。やっと楽になれるのか――でもやっぱり死にたくないよな。こんな終わり方は俺らしくないよな)

【ロード】は倒れ込んだ俺のことをまるでゴミを見るかのような目つきで見ていたのである。そして俺のことを踏みつけようとするのが視界に入る。そんな様子を見た俺は自分の心の中に怒りが生まれたのを感じていた。そう俺はこの敵に怒りの感情を抱いている事に気づくと、俺は自然とその言葉を口にしていたのだ。

その言葉を俺は無意識のうちに発しており自分としてもどうしてこのような事を言ったのかわからない。だがこの【魔王の魂】は確実に俺の心の奥底から溢れ出たモノだと俺は確信したのである。

その言葉を発した途端だった。【魔王の盾】が輝き出し、その光が【魔王の爪】にまで伝播していく。俺はその光を眩しく感じ、思わず目を瞑っていた。そして【魔族の王の爪】に宿っていた黒い力が弾け飛んでいたのだ。

(な、なんだ今の感覚。今までとは違う、とても清々しい気分だ。この【魔王の爪】の力を使えば俺がこの世界で一番強いんだということがわかる。そんな自信があるんだ)

その変化に驚いていたのは何も俺だけではなかった。【ロード】もその事に驚き、そして俺に攻撃を加えようとした足を止めていたのだ。

(そういえばこの【ロードの眷属】とかいうやつも俺が放った一言で様子が変わったんだよな。どういう意味だったんだろう)

俺はその事を気にしながらも【ロードの眷属】がこちらの様子を窺っている間に、先程まで自分が纏っていた漆黒の防具を解除して元の姿に戻ると俺は妹の元へ駆け寄る。すると妹も気を失っており、俺と同じように【魔窟】内の空間で倒れ込んでいたのである。

俺はすぐに【ロードの眷属】を見つめるが、【ロードの眷属】の様子が少しおかしい事に気付いた。

俺達が倒れた状態でいると先程の女性が近寄ってくる。彼女は何故か涙を浮かべていたがその理由が分からなかった。そんな彼女にどうして泣いているのか聞くと俺達が生きている事に対して涙を流してくれているようだった。だが俺はこの女性が俺達を助けるためにここにきたとは思えなかったのだ。俺は何故だか分からないが、彼女がこのタイミングに現れた事で、俺はこの女性がこの場に現れる為にこの女性を呼び寄せたんではないかと思ったのである。

だがそう考える理由も俺にはなかったし、ただそう考えた方が都合がいいと思ったのだ。そうして女性と話し合っていると突然俺に異変が起こる。

俺に攻撃を加えたあの【ロードの眷属】が突然苦しみだしたのだ。しかもこの【ロードの眷属】の様子を見て他の【ロードの眷属】達が次々と俺のことを攻撃し始めたのである。

俺は咄嵯の出来事に対応が遅れてしまい、攻撃を受けて地面に膝を突いてしまう。その様子をみた女性は急いで俺の元に駆けつけようとしたが途中で俺の異変に気が付き俺と妹に治癒魔法を施してくれた。だが俺はその行動が無駄だと思いつつも、この女性の好意を踏み躙る事になると考え俺の考えを告げた。俺の行動の意図に気づいたのか女性の顔が悲しげに歪む。すると俺の前に立ち塞がった者がいた。

その人物の正体は【ロードの加護】を持ったあの青年だ。彼はあの女性の気持ちが痛いほど分かると言ってくれたのである。だがそれは俺に取って余計なお世話でもあった。なぜなら今この場面で俺が一番に優先するのは妹を無事に助けられるかどうかでありそれ以外の事はどうでもいいと考えていたからだ。そして俺には【魔王の爪】の力もある。そのためあの【ロードの眷属】に遅れを取ることはないだろうと思っていたのである。

俺は女性に礼を告げると妹を抱え上げて【魔王の爪】を発動し【魔王の眷属】に立ち向かったのである。その光景を見た男性は唖然としているようだが、今は説明している時間がなかった。それにしても俺は本当に不思議な気分に包まれているのだ。なぜ俺に攻撃をしてきた【ロードの眷属】が俺に怯えたような態度を見せるのかが理解できないでいた。

(さっきまでは俺が圧倒的に有利な戦いをしていたというのに。だが俺はこいつらを全滅させないといけない。だから俺に攻撃を加える【ロードの眷属】は一匹たりとも逃さない)

それから【ロードの眷属】との戦いが始まって俺はどんどん有利に戦えるようになっていた。最初は【魔王の眷属】を圧倒していたが今ではほぼ同等の戦いを繰り広げていたのだ。俺の攻撃をくらって【ロードの眷属】が傷つくたびに俺は心の底から湧き上がってくる喜びに満ち溢れるようになっていった。そして俺がとどめの一撃を与えようと振り上げた拳を降ろそうとしたその時だった。突如として【ロードの眷属】の全身が白い炎に覆われていったのだ。その現象は俺にとってあまりにも予想外だったため俺の動きは完全に止まってしまったのである。

俺はその【魔王の爪】を発動させているのは俺自身だとすぐに悟った。【魔王の爪】を発動したのは紛れもなく【勇者の証】の能力のおかげだろうと考えたのだが、そもそも【勇者の証】は発動しないはずである。俺はまだ能力を使いこなすことが出来ずにいるのに勝手に【魔王の爪】が発動したというのはどうしても解せなかったのである。だが俺はそこで一つだけ思い出していたことがあった。それは以前も同じような事が起きていると言うことだ。そう【神獣の盾】の能力が目覚めた時も【勇者の証】の能力が覚醒する直前に、【神獣の牙】の能力も目覚めており【魔王の爪】は突然使えなくなっていた。

そう考えていく内に俺は一つの結論に達していた。俺の【神獣の盾】や【魔王の爪】が【神獣】である神狼王フェンリルの力を借りて使用している武器であること、そして【神獣】には主を選ぶという言い伝えがあるのだ。だからこそ【ロードの眷属】のような存在でも【神獣の王】に選ばれた存在であるならば、契約を交わす事が出来るのかもしれないと俺は考えたのである。

(俺に力を貸してくれるっていうならありがたく使わせてもらうよ。だけど俺は【ロード】を絶対に倒す)

【ロードの眷属】から噴き出した白い炎はやがて消える。そしてそこには俺と全く同じ姿をした【ロードの分身】が現れたのだ。俺は自分の力を【魔王の爪】に込めるとそのまま【魔王の爪】を振り下ろすと、相手の俺も同様に腕を振ると俺の攻撃を防いだ。

【ロードの分身】と互角の戦いをしているとそこにあの男性がやってきたのである。

俺は咄嵯の判断で【ロードの眷属】との距離を詰めると俺は【魔王の爪】の特殊能力である闇属性の魔力を付与しながら斬撃を放った。だが俺はそこで驚くべきものを見ることになる。【ロードの分身】が放つ斬撃を【ロードの爪】で弾き返したのだ。俺は一瞬何が起きたのか理解出来なかったが、【ロードの分身】はすぐさま次の攻撃に移り俺に向けて魔法を放って来たのである。俺もその魔法を回避したが、その威力は先程までよりも桁違いに強いもので俺は避けることしか出来ずにいた。

俺がこの世界に召喚されて初めて感じる恐怖。この男の強さは明らかに【勇者】であった男性よりも強く感じた。だが俺がここまで追い込まれる事になったのはこの男が本気を出せていなかったせいだというのが分かったのだ。なぜなら男は本気を出した瞬間、まるで別人のように動きが早くなり俺は為す術無く敗北してしまったからである。そうして地面に倒れ伏した俺だったが、【ロードの眷属】が俺と戦おうとするのが目に映り俺は何とか立ち上がると、再び戦いに身を投じる決意をする。

(【ロードの眷属】がこの世界に存在するすべての魔物の頂点に位置する存在であったとしても俺は必ず勝つ。勝ってこの世界からあいつを消し去ってやるんだ!)

俺が【ロードの眷属】と戦っているのと同じ場所で【魔王の爪】に操られている【ロードの爪を持つ者】と戦う一人の男性の姿があった。その者は【神剣エクスカリヴァーンの使い手 ファルナス=アースランド】。そして【魔装王バルガノン】を倒した事で新たな称号を得た【神域の騎士】という最強クラスの称号を持った最強の戦士だ。そんな彼がこの戦場で戦っているのにはわけがある。

「【魔王の眷属】か」

彼は自分が対峙している敵の正体についてすぐに思い当たる節があり苦笑いを浮かべてしまう。彼は今目の前にいる【ロードの分身】と戦い始めてからというもの、今まで経験したことの無い戦いをしていたのだ。そう彼の戦い方は今まで【ロード】が相手だった時は、全て攻撃を回避する戦い方にシフトしており相手を観察してから反撃に転じるという戦法をとっていた。

だが【ロード】の分身には全く隙が見えない。そればかりか攻撃を加えてもすぐに【ロード】は攻撃を繰り出してきてしまい、防御に回ることさえ許してくれないほどだったのだ。

(この僕にこれほどのダメージを与えられるとはね。しかもこんなに手玉に取られるのは久しぶりだ。やはり【ロード】は強い。このままでは勝てる可能性は薄いな)

ファルナはそう思うとすぐに決断した。

「ここは一旦退こう。あの【ロードの眷属】とまともに戦うのは危険すぎる。この先に何か突破口になるものが見つかれば、僕の命に代えても【ロード】だけは倒して見せるさ」

彼はそういうと、その場から撤退することにしたのである。【ロードの眷属】が放った白い火柱を難なくかわすと、すぐに彼は駆け出し先を急いだ。だが彼が進むその道の先に【ロードの眷属】が待ち構えていたのである。彼はすぐに戦闘態勢に入り構えたのだが【ロードの眷属】を見て彼は目を見開いて驚いたのである。なぜならその容姿はまさしく自分そのものに見えたのだから――。

(どういうことだ。何故だ。なぜ僕は奴に攻撃できない?)

そう。今のファルナの心境はまさにこの言葉に集約されていた。そうファルナスはなぜか自分に攻撃ができなかったのだ。

(なぜなんだ。確かにこいつは【ロード】にそっくりに見えるが、どう見ても偽物なのは明白だ。だが、どうして攻撃する事が出来ない。もしかしてこれが【ロードの加護】による効果なんだろうか)

そして、その状況に一番焦っていた人物がいた。それは自分自身でもある【ロードの加護を受けし者 ロード=ディクテイド】だったのだ。なぜなら自分の意思とは裏腹に勝手に身体が動くような違和感を感じ取っており困惑していたからだ。そして彼はこの状態が永遠に続くのではないかと不安に駆られ始めていた頃でもあった。だがここで一つの希望が芽生えたのである。それはこの場から撤退するための方法を考え出したのだ。

そう【ロードの眷属】は自分を逃さないように迫ってきており彼は逃げる事が出来ずに窮地に立たされている。そこで思いついた方法は、あえて自分の身を囮にして敵の行動を封じようとしたのだ。その作戦が功を成し、見事に成功した【ロードの眷属】の注意は【ロードの加護】を受けた者ではなくもう一人の方に向けられたのである。だがその時の彼は【ロードの加護】の効果が発揮されていることに全く気づいておらずただひたすら必死になって逃げていたのであった。

だがそれは、逆に彼にとって幸運な結果となる。何故なら、この時彼に向かって【ロードの眷属】が放とうとしていた魔法に偶然巻き込まれたからである。それにより一時的に意識を失った【ロードの分身】は魔法の発動に失敗し、その場に倒れこんでしまった。

それを見た【ロードの眷属】が、すかさず追撃をしようと試みるが、【ロード】の分身の【ロードの爪】の攻撃をくらってしまう。それによって生じた痛みで、【ロードの眷属】が【ロード】に助けを求めるように念話を送る。その事によって【ロードは眷属】の受けた怪我の治療と体力回復のため【神域】にて眠りについたのである。その間に【ロードの眷属】は逃走を開始したのだった。

そして【ロード】は眷属の身に起こった異変に気づいていたが特に行動に出ることはなかったのである。何故なら、あの場所にいたもう一人の存在に気づかれたくないと思ったためである。

その頃、一人になった男は走っていた。先ほどから嫌な予感を感じていたから、こうして走っているのだと自分に言い聞かせながらも先を急いでいる。

男は走るが一向に景色に変化はない。それに男の心の中には恐怖しかなかった。

だがそんな時でも、後ろを振り返ることは出来ない。もし振り向いたら【ロードの分身】に追い付かれてしまう。それだけは、絶対に避けたい事態だと、男は思い続けていた。

(もうそろそろ、まずいな。いくらこの森に慣れ親しんでいても限度はあるというものだ。せめて水と食料だけでも持ってくるべきであったかな)

男は走り続けているが次第に足が重くなってきたのである。その様子は傍から見ると疲労で走れなくなっているようにしか見えなかった。それでも男は自分の意思とは反する動きで前へ前へと進んでいったのである。

するとそこに一本の道が突如として現れる。その事に驚いたが、同時に男にとっては絶好の機会が訪れたと内心ほくそ笑む。

そう。この森の中では、必ず魔物に襲われる危険性があるからこそ男は疲れ果てるまで走った後休憩する場所を作っていたのである。だが、それもいつ襲われるか分からない緊張感の中で行っていた。そしてついに限界を迎えた男は遂に地面に座り込むと休む体制に入る。

男はまだ動ける事を確認すると、そのまま横になることにした。

そうしていると男は少し眠気に襲われ始める。そしてこのまま寝てしまおうと考えたが、突然誰かの声のようなものが聞こえるとすぐに起き上がると警戒を始める。

そしてしばらく周りを警戒していると今度は別の声が聞こえてきたのである。

(この感じどこか懐かしく感じるな。この雰囲気は【勇者】と一緒に戦った時によく似てるんだ。だがあいつが【ロードの加護】を持っていたって話は聞いていないし、【ロード】は【魔王】の称号持ちが使えるスキルだって聞いたことがあるから、あいつではないだろう)

男は次第に冷静になり始めたのか、先程までとは違い余裕が生まれていたのである。

「君達、誰?」

そう男が聞くと一人の少女が姿を現した。その容姿はとても美しく、その少女が現れた事で男は目を疑った。なぜならその顔が【勇者】の少女と瓜二つだったからである。だが目の前にいるのは本物の【勇者】ではなく【ロードの眷属】のはずだった。だから、もしかして別人かもしれないと疑問に思ったのだ。

「貴様は何者だ。何故私の顔を見ている。私を騙そうとしていないだろうな。もしそうなら今ここで殺すぞ」

そう言うとその女は腰にかけていた剣を抜くと切っ先が向けられる――が、それが【魔王の爪】である事に気づき冷や汗が流れ落ちてくる。

だが【ロード】は自分が【ロードの爪を持つ者】を召喚して操っているなんて事を言えるわけがなく言葉が上手く出てこず焦っていた。

(どーしよう。この状況で何て言えばいいんだ?)

(この人一体どうしたんだろう?もしかして僕を見て動揺してる?)

(この人が何を考えているか分からなくないけど、取り敢えず僕は殺さないほうが良さそうだね。今はこの人の目的を聞く方が優先だね)

「僕の名前はアデル=ルブランです」

「私は【魔王ロード】の称号を持った者の分身であり、【ロードの眷属】であるお前を殺すために来た!」そう叫ぶや否や彼女は斬りかかってきたのである。だが彼女の【魔王の爪】のスピードについていけないファルナスは、【ロードの加護】の効果を発動させ、相手の動きを一瞬だけ止めようとしたが失敗してしまう。だが次の瞬間、彼の手に持っている剣に異変が起きる。

なんとエクスカリバーに宿りし聖剣エクスカリバーンの聖なる力の影響で、【ロードの加護】による効果がかき消されてしまったのである。

だが、ファルナはそのことを知らずにファルナに攻撃を加えようとする。だがその時――、

「待って下さい。あなたは勘違いしている。その武器は偽物だ。僕の目からは確かに聖属性を帯びているのは分かるが偽物であることに変わりはない。そして、あなたの攻撃も僕には全く効かないはずなんだ。だけど僕には何故か傷を与えることが出来るらしい」

――ガキィン それは、あまりにも信じられないことが起きてしまい彼女は戸惑っていた。

何故ならばファルナの攻撃は【ロード】が纏っていた黒い炎に阻まれ、その威力が吸収され無効化されただけでなく彼女にダメージを与えてしまったのである。しかも、この事は予想すらしておらず完全に油断していた彼女は致命傷を負ってしまう――が、不思議なことにその攻撃を受けても死ぬことがなかった。その事実に驚いていると、【ロード】はファルナに向かって攻撃を仕掛けてきたのである。

その攻撃に対してファルナは自分の死を覚悟したが攻撃を受ける直前に何者かに助けられ、事なきを得たのであった。そして助けてくれた人物の容姿は【ロード】の容姿に似ており、そのことからもファルナスは、まさかと思いながら【ロード】の方に視線を移すと【ロード】の加護を受けた者が、【ロード】と戦えるという驚愕の事を知りさらに驚いたのである。

(なんでだ。こいつが【ロードの加護を受けし者】だったっていうことなのか。じゃあ、こいつの狙いは僕が手に入れているこの聖剣だな。でも何故こんなことをする必要があるんだ?)

その行動に違和感を覚えながらもファルナーは【ロード】と激しい攻防を繰り広げていたのである。だが【ロード】の方が戦いの経験が豊富なためか次第に追いつめられていくのは明らかだった。そんな時にふと気になったことを聞いてみたのである。

「お前の目的はなんだ?」

「それは言えません。それよりも何故貴方は【ロード】と戦いをしているんです?」

「ふんっ。【ロード】の奴はこの世界を滅ぼすつもりなのだ。それを食い止めるのが我の使命だからな」

そう答える彼女に対し、彼はある質問をしてみた。それは彼女が嘘をついているかどうかの確認をするものだったのだ。それは【ロードの加護を受けた者】がこの世界の敵であるかどうかを見極めるためである。

(もしかすると【ロード】を倒すために、【ロードの眷属】は協力できるんじゃないだろうか)

「そうですか。なら【ロード】を倒しに行きましょう。【ロード】はおそらく僕が探し求めている人なのです。それにその前にまずは自己紹介をしないといけないですね。初めまして。僕の名前はファルナスと言います。そして【ロード】の称号を持つ【ロード】と申します。これからよろしくお願いしますね」

そう言うとファルナは【ロード】と握手をした。

それを見た彼女は自分の目を疑ったが【ロード】と【ロードの眷属】は敵対関係にあるため握手する事はないはずであると考え直したのである。だからこそ彼女は、何かの作戦ではないかと勘繰ってしまった。しかしファルナスから発せられる威圧は【ロード】のそれと酷似しており、ただ者ではないことは分かったが信用するには少しばかり時間がかかりそうである。そう思っていると、突然【ロード】は動きを止めるとその場で眠りについたのである。その姿にファルナは戸惑いを隠せなかったが、それと同時にチャンスだと思い、今なら【ロード】を倒せると思ったのである。

だがそんな時、もう一人の少女が現れる。そしてもう一人の少女が現れたことでファルナスとファルナの状況は更に混沌とした状況へと変わる。そんな状況を作り出した【ロード】と【ロードの加護を受けた者】の二人はお互いの顔を見ながら驚きを露わにしている。

(どうしてここにこの人が居るんだよ!)

(なぜこいつは私達のことを知っていそうなんだ?)

そしてこの場では二人とも相手の名前を口にすることはなかったのだが、この事からも相手がこの世界の住民じゃない事を察し、互いに牽制するような形になっていた。そうこうしている内にファルナスの方では既に冷静を取り戻し始めていたのである。そしてファルナの様子を確認している間に【魔王ロード】が眠った事で一安心すると、その事に気づかれるわけにはいかないと、目の前にいるファルナスとファルナと名乗る少女から情報を引き出す事にしたのである。

だが、どう話を持っていけばよいのか悩んでいたのだ。すると先に向こうがこちらを警戒しながらも話を切り出した。

「私は【魔王ロード】の称号を持つ者によって、【ロード】と対を成す存在として作られたのよ。そして【魔王ロード】が復活するまでの間【魔王】の代役をしろと言われたの。でも私はあいつが気に入らない。あいつが本当に魔王になった時にあいつを殺す為に今のうちに強くなっている最中だから」

その言葉を聞いたファルナスは疑問を抱きながらも納得することにしたのである。

(やっぱりこいつもあの人の分身なだけあって俺と同じように別の人格が存在しているのかもしれないなぁ。だけどあいつって言ってるあたりこの子はまだ何も知らされていないみたいだな。だが俺はこの子に勝てるかは分からないけど絶対に【ロード】さんが負けるとは思わないし、俺がここでこの子の目的を知っておければ、もしかしたら【ロード】さんにとっての役に立てるんじゃないか?)

そう考えた後に、どうやら同じ名前の別人のようだから違うだろうと思っていたが念のために尋ねてみることにしたのである。

「あなたが【魔王ロード】さんの知り合いというのは本当なんですか?」

その言葉に彼女は警戒しながらもファルナスを凝視し答えを返す。

「ああ、私はあいつの幼馴染みだからよく知っている。まあ私はお前の事が嫌いだが、それでも私の事を信用しないのならば仕方がないな。私が【魔王ロード】について知る全てを教えてやろう。私は【ロード】が魔王の代理を務め始めるまでは普通の学生だったんだ。だから、その頃のあいつは普通に学校へ通っていたし私とも同じ年齢だから友達付き合いをしてきた」

ファルナスはその話を聞き驚くが、ここで動揺をすれば相手の思う壺であると考えて気持ちを落ち着かせようと必死に心の中で自分に言い聞かせていたのである。

だが次の言葉で完全に心を揺さぶられてしまうのであった。

「だがある日、急に行方不明になってそれ以来帰って来なかった。私はそれからあいつを探す旅に出たんだ。だが何処を探しても見つからないんだ。そんな時に現れたのがこの男だ。そしてそいつは【魔族王】を名乗り始めたんだよ」

――ドクンッ

(まさか!? じゃあさっきまで俺が見ていた夢は全て現実だったということなのか? じゃあやっぱこの子が【魔王ロード】なのか? は? マジか?)

そう考えているとファルナは突然頭を抱え出す。その様子を見ているとファルナスは心配になり声をかける。

「おい、大丈夫か? 体調が悪いんだったらはやく医者に行くべきだぞ。さっきから様子がおかしいじゃないか」

そう言うとファルナに肩を貸して病院に行こうと提案するが彼女はファルナスの手を払いのけると拒絶してしまう。

だがその時、突如して謎の男が二人の目の前に姿を現すとファルナスに向かって斬りかかる。その攻撃をファルナスはファルナが攻撃されていると思ってしまったため【ロード】の称号による力を使って受け止めようとしたのである。だが次の瞬間、男の剣が聖剣エクスカリバーンに触れた瞬間に、その力はかき消されてしまうばかりか聖剣エクスカリバーンは折れてしまうとファルナは地面に叩きつけられたのであった。

だが不思議な事に男は剣を振り切ったままの姿勢で立ち尽くしており、その隙だらけの姿を晒してしまった。

(あれっ、なんかこの感じどっかで覚えがあるような。確か前にあった事がある気がするんだけど。どこでだったっけ?)

そんな事を考えながら、そんな事を思い出せないでいると、男は何かを思いだしたかのような表情をした後にファルナスに対して言葉を放つ。

「お前が何故この世界に居るのだ。【ロード】様の命により貴様に引導を渡しに来た。覚悟してもらおう」

その言葉を聞いたと同時に【ロード】が言っていたことを思いだすファルナス。

(そう言えば、僕が探し求める人が【ロード】と【ロードの加護を受けた者】だって言ってたな。そして、もし戦うことになった時は僕に任せろって言っていたんだ。そして、この人はきっと【ロード】が探していた人に違いない。そして多分だけど、この人が僕の求めている人で間違いないと思う。そして僕が倒す必要がある人だ)

その思いが伝わってきたファルナスは、そう思った後は即座に行動を開始したのであった。まずファルナスはこの男を倒すためには【ロード】の助けがいると判断して、【ロード】に助けを求める事にした。その為にも【ロード】を探しながらこの場での戦闘を行う。まずこの男が【ロード】の眷属の一人なのかを確認したいと思ったファルナスはまずはこの男の名前を知りたいと思い質問をする。

「お前は誰だ?」

そう聞くと、【ロード】の眷属は、すぐに剣を仕舞い答える。

「私は貴方と同じで、ある方に命を救われてから【ロード】に仕える身となりました。私は、ロード様の為に貴方の命を奪います」

そう答えながら剣を再び抜こうとすると【ロード】が間に入ってくる。

「待ってくれ。彼は私の協力者なんですよ。それに、今は【ロード】の力を扱えない状態です。だから殺さないようにしてあげてください。そして私達を元の世界に戻してほしいのです。ですから、この人に協力して貰います。彼は貴方と敵対している訳じゃないですよね。それなら協力してくれるでしょう?」

そう言われた【ロード】の眷属は何も答えなかったが、どうしたらいいのか分からずに戸惑う様子を見せているだけであった。だがその様子を見ていてこの世界は本当に自分が住んでいた世界とは違う場所なのだと思い、改めて【ロード】に感謝すると協力することにした。そして【ロード】は【ロードの眷属】から事情を聞くためにファルナの方を向く。そしてその行動をみて【ロード】の眷属は不思議そうな顔をしながらファルナスを見る。そしてその視線に気づいたファルナスは、今、【ロード】に何をされたのかを説明する。

「【ロード】は僕が眠っている時に僕の体に自分の意識を移し替えていたんです。なので、その体は、僕ではありません。それと彼女はファルナスと言うらしいですね。僕は、ファルナスと名前を変えるつもりでいたのでその名前が知れて良かったです」

その言葉を聞いた【ロード】は納得をした後に再び口を開く。

「なるほど、そういうことですか。それは失礼しました。私は、【ロード】と呼ばれている【ロード】という者なのですが、このファルナスを、元居た世界に帰すことに協力してほしい。それが、私に協力してくれる条件で構いません。それさえ守って頂ければ何も問題はないと思いますがどうでしょうか?」

(よし、うまく行ったみたいだな。これで俺の体が元に戻れるんだ。そして、この世界ともお別れになる。だけど、俺はこの世界で生き抜く為に頑張らないと)

そう思ってから少し経つと【ロード】の眷属の男が話し始めた。

「私は、【ロード】に命を救ってもらったから、【ロード】に従う。だからお前に協力するつもりはないが、【ロード】が決めたことに異論を唱えることはない。そして私はお前を元の世界に返すように言われているが、私はお前と関わりたくないのでお前とは関わり合いのないところに行ってもらう」

「分かりました。では私は貴方と一緒に、ファルナスを送り届ける手伝いをします。そして私はこれからファルナスの記憶を全て奪わせてもらっているので記憶の方は気にしないでください。ただ私が元々存在していた世界で、この子は生きていた事にして欲しいだけなのです」

その言葉に【ロードの眷属】は了承するのだった。そのやり取りが終わると【ロード】はすぐにファルナスの方を向いて話し掛ける。

「私はこれから【魔王ロード】として、今から起こるであろう出来事の対処をしてきます。この世界は危険に満ち溢れていますので、ファルナスはファルナスの思うように行動してください。この世界の人間にはファルナスはもう存在していない事にしておきましょう。それで構わないですね?」

そう言われると【ロード】の眷属は不満があるようであったが、仕方なく受け入れる事にして話し始める。

「ああ、分かった。じゃあ俺も、ファルナスが元の世界に戻った後でファルナスの事について、こちらの世界での出来事や、この世界の事を誰かに伝えなければいけないし。俺は一度【魔族王ロード】と話をしてから、お前の元へ向かうとする。だがお前の言っていることは信用できない。だから、俺はファルナスが戻るまでここにいる。お前もファルナスの事は信用していいんだな」

「私は最初からそのつもりだった。でもファルナスにはまだその事が伝わらなかっただけだ。私が伝えたかった言葉は伝わっているはず。私を信じてファルナスを任せたぞ」

その言葉を聞けば、ファルナスが今まで感じてきた事が理解できた。そしてファルナスは、自分の体に戻るのは不安もあったがそれでも自分の体を取り戻した後にやりたい事がたくさんあった為、すぐに戻りたいと思うのであった。だが、【ロード】に聞きたいことがあるため話を切り出す。

―――――――

【ロード】は、【魔族王ロード】に話があると言われてすぐにその事を伝えた。そしてこの会話は【ロード】と【魔族王ロード】しか知り得ないものであり他の誰にも話すことは出来ないので秘密を守ることを条件にこの会話をする事になったのだ。

そう言った理由があり、まずファルナスとファルナを帰した。

ファルナスはファルナと別れる事になったが特に心配はなかった。なぜなら自分が元の世界へ帰ったとしても、ファルナはまた【ロード】の力で呼び戻せるからだった。

そうして、ファルナスは、元の世界へと戻ってきた。そこで最初に見たものは見知らぬ女性だった。そして女性は驚きの表情を見せつつも、とりあえず自己紹介を始める。

「えっと、私の名前は柊綾香といいます。あなたはどちらさまなんですか? いきなり、その女性が目の前に現れたファルナスは困惑してしまうが何とかして平静を保つと、その女性の話を聞くことにした。そしてその女性はファルナスと会った経緯を話すのであった。だがその話を聞いたファルナスはその話が真実だとは思えなかったのである。何故ならその話の辻妻がどうしても合わなかったからである。

しかしその女性はファルナスのそんな疑問などお構いなしに、ファルナスに話しかけてきた。

「ねえ、君は一体何者でどうしてこの世界に来たのかな?」

そんな事を突然言われてしまったファルナスは戸惑いながらも、その女性の言葉を聞いて質問をした。

「あの、質問したい事があるんですけど、聞いても良いですか?」

その返事に対してその女は、快く答える。

「もちろんだよ、何かな」

「ここはどこで貴方は誰なのか、それからさっきから僕のことを【ロード】と呼んでいる事と【魔王ロード】と呼ばれている人との関係、最後に、貴方と【ロード】の関係、他にも聞きたいことがいっぱいあるんだけど良いかな?」

「うん、大丈夫だと思うよ」

そう言うと【ロード】と呼ばれていた女性は、説明を始めようとする。だけどその前に一つ大事なことがあったと思いだす。そして【ロード】は自分の体にファルナスの精神を戻し入れていたことを忘れていた。

その事に気がついた時にはすでに遅くファルナスが、今の自分の体の状況を詳しく聞こうとした時はすでに遅かったのである。そしてその時の光景を見ていた周りの人たちが騒ぎだす。しかし、そんな人達の様子を見た瞬間にファルナスの体に衝撃が走る。

(あれっ!? なんか違和感がある。いつもより目線が高い気がする。それに、胸が大きいような、そしてこの人の視線が凄い刺すようだ。そして何故か僕の名前を呼んでくれる人が居るみたいだ。あれっ、僕って確かこの世界に来る前は男の子だよね。それなのに女の子になってるなんてどうなってるんだろう)

そう思い、すぐに自分の手を見てみると明らかに自分の手がおかしいのが分かる。それはまるで、大人の手のような、しかも綺麗な手をしていた。そう思った瞬間からすぐに【ロード】の力を使って、自分の体に意識を戻すように頼むのだった。

「【ロード】さん、助けて下さい! 早く僕の体を返して、僕の意識を呼び戻して欲しいです」

そうファルナスが頼めばすぐにファルナスの意識は元に戻るのであった。そしてそのファルナスが元の姿に戻ると【ロード】も安心する。

(良かった、これで一安心だ。まさかファルナスが自分の力を使えたのか? それとファルナスと、ファルナスの中に残っていた力を使ったのか? まあどっちにしろ良かった)

【ロード】はそう考えつつファルナスの方を見るのであった。そしてファルナスの方は元に戻った後、自分が置かれている状況に頭が追いつかずに混乱していたので、とりあえずは周りに居た【ロード】の仲間達に助けを求めることにした。

そして【ロード】達は【魔族王ロード】に会いに行き今回の事を説明することになった。だが【ロード】達が、この場から消えようとしているときに【魔族王ロード】はファルナスにこんな事を言ってきた。

「今回は私の眷属を救いに来てくれた事に感謝している。その礼をしたいが、この国では今から大きな戦いが控えている。それに巻き込まれると大変なことになるから私の城に来い。そしてこの世界についても私が教えてやる。それでいいな?」

その言葉にファルナスが答える。

「分かりました。ではお言葉に甘えてよろしくお願いします」

そうしてファルナスは、【魔族王ロード】と同行することになった。

【ロード】の眷属であり仲間でもあった【ロード】はファルナスがファルナスの体に【ロード】の力を入れた事でファルナスを元の体に戻すことに成功し、元いた世界に帰ることが出来るようになった。その事を喜んだファルナスだったが、【ロード】はそう簡単にファルナスが元の体に戻ることを認めることが出来なかったのである。そして【ロード】はファルナスの体をファルナスに戻し元の世界に帰らせると、自分はファルナスの記憶を全て消してから、元の世界に戻るという約束をする。そしてファルナスを元の体に帰した後は【魔族王ロード】に話をして元の世界に帰ろうと【ロード】が考えたとき【ロード】の眷属の男に呼び止められる。

「おい【ロード】。俺はまだお前の事を許したわけじゃないからな。もし【ロード】の邪魔をするようなことがあれば俺は容赦しないからな。それだけを覚えておくようにな」

その男はそれだけを言い残しその場を去ったのであった。だがその後には、一人の少女が立っていた。その少女は金髪で肌の色は真っ白だった。そして顔つきは可愛い系の部類に入りそうだがどこか凛々しい雰囲気があったのである。

だがファルナスは、自分の姿に驚いていたのだった。何故なら自分の体はファルナスが本来着ていた物とは違い、その服を着た状態でも、胸が大きくなっており、服の上からでもわかるほどの胸を持っていた。さらに腰にはスカートを履かされおりそこから足が出ているのだが、なぜか太ももまで丸出しになっており、少し恥ずかしい恰好になっているのである。

そしてそんなファルナスに対してファルナはすぐに話し掛けて来た。

「あなたが、私の体を取り戻してくれたのね。感謝するわ。私の名前は、ファルナ=アトランティエ。この世界でのファルナという名前の【ロード】をやっている者よ。そしてこれから貴方が元いた世界に戻るまでの時間、私達の世界で暮らしなさい。それが私からの命令よ。私と貴方はこの世界に召喚されたんだからね。この世界の事を色々と知ってもらわないといけなくなったのよ。だから一緒に過ごしてもらうから覚悟しておきなさい。いいですね?」

ファルナスは自分がどうして、【ロード】になった経緯を知らない。ただ自分が気が付いたときには、もうすでにファルナスだった。そしてファルナスもファルナスとして、この世界を過ごしていたのだ。そのせいもあり【ファルナス】もファルナスもこの世界の仕組みなどを何も知らずにいたのである。

だがそんな事は【ファルナス】にも、もちろんファルナスにとっても関係ない。だが今は【ロード】の体に宿った魂のファルナスにとっては、この世界での出来事がとても新鮮で、この世界に来たばかりの頃の事を懐かしく感じるようになっていたのである。

(ああ、懐かしいな。そう言えばこの体で生きていたときは、本当に毎日が充実していて、楽しかったんだ。だけど今の僕にとっては本当の体があるのにこうして別の体で生きるのはとても辛くて仕方がない。でも今の体を捨ててしまうと僕はまた【ロード】さんに頼ることになりかねないんだよね。それに【ロード】さんも、僕を助けてくれた人なんだ。やっぱり恩返しをしておかないとダメだと思うんだ。だからこそ、元の世界へ帰らせて貰えるまでは【ロード】さんに協力をするしかない。そうしないと僕は、僕の居場所を失う事になるから)

「はいっ、ありがとうございます」

【ロード】はそう言ってファルナを安心させるとファルナスとファルナは元の世界へ帰っていったのだった。

――――――――――――

【ロード】が元の世界へ帰る準備をしていると、ファルナス達との会話を終えてこちらに戻って来た【ロード】の眷属の男が【ロード】の元へとやってきた。その男の表情からは怒りが読み取れる。そんな表情をしながら【ロード】に話しかける。

「【ロード】、あの人間を連れてくるのが遅すぎだろ。それにお前は俺の忠告を無視してあんな化け物を呼び出しやがって! お前が、この国の戦力を大きく削いでどうするつもりだよ。この国が負けて滅びれば俺たちが生きて帰れなくなるかもしれないだろ? あの【ロード】とか言う人間はともかく他の連中なら殺せるかもしれねえだろ。それなのにあいつらは簡単にこの国に攻め入ってきやがって」

「いや、あの人は普通の人間のはずだったんですけどね。それなら、貴方ならどうにかできたはずですよ。だってこの国には貴方がいるんですから」

「それはそうなんだけどな、まさかあそこまでの化物がこの国に居るとは思わなかったんだ」

「えっと、その話はもう少し後にしてもらえると助かるんですけど」

「そうかよ、まあいいか。それより今すぐに【ロード】も元いた場所へ戻るぞ。ここに長居するのは良くないからな」

「えっ? なんでですか?」

「あそこに人間がたくさん来て、今から大混乱が始まるだろうからだな。そのせいでこの場所に、大量の人間が集まる可能性があるからな。その前にここから離れなければならない。まあその辺は気にしなくていい。こっちの世界に来て、もう慣れているからな。じゃあそっちは任せた。俺は先に元の世界に戻るからさっさと戻ってこいよ。お前が居なくなれば【ロード】の座は空くことになるからな。お前がこの世界に残っている理由はそれだけだろ。お前が死んだ後この国は誰が継ぐのかな。楽しみだぜ。

「いや、その件に関しては僕には何も言わせてくれませんよね。それに【ロード】になる気もないんですよ。だから、僕は僕なりに、この世界を楽しむつもりなんですから、邪魔しないで下さい。では【ロード】としての役目を果たしますね」

「ああ、そうしろ」

そしてファルナスが元の姿に戻るために【ロード】の眷属の一人のところに向かうと、すぐにファルナスは元の姿に戻ることができたのであった。そうしてファルナスと【ロード】がこの世界にやってきた目的である元の場所への帰還が成功したのである。

それからしばらくしてファルナス達は、ファルナス達が元々住んでいた街に戻ってきた。そこでファルナスは、すぐに【ロード】が【魔族王ロード】である事を教えてもらったのであった。その事に驚いたファルナスだったがすぐに冷静になって考えることにした。

(あれっ? この【ロード】っていう人の能力が【魔族王ロード】だと言っていたよね。そうすると【ロード】の能力は【魔王】の力だったの? つまりこの世界だと【ロード】の力は【魔王】と同じものなのかな? それに、この【ロード】は凄い人なの?)

そんなことを考えているとファルナスが疑問に思ったことを聞いたのである。その言葉を聞いて【ロード】は驚くしかなかった。

「えーっと、貴方は、ファルスさんの体の中に残っていた力を使っているからこそファルナスという名前に戻れるというわけじゃないんでしょう?」

「はい、その通りです。その力は、僕とファルナスちゃんと二人で共有していたものですから、その力が残っていなかったから元の世界に戻れたのです」

「それなら私は、どうして、ファルナスという名前のままなんでしょうか?」

その質問はファルナスの心に重くのしかかるものであった。

「そ、それは、貴方には、ファルナスの体と、ファルナスの力の両方が残っているからでしょう」

ファルナスが【ロード】に対して言ったのは事実だ。しかしそれは真実ではない。だがそんなことを【ロード】に説明したとしても理解してくれるとは限らないし、仮に理解してもらえたとしてもそれを証明する手段がないのであれば無駄な行動になってしまう。そうして悩んでいるファルナスに対して【ロード】は話し始めた。

「それでこれからのことについて相談があるのですけどいいいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ。何でも言ってください。私ができることならば協力しますから」【ロード】はそう言うファルナスを見て嬉しく思っていた。ファルナスはファルナスで、この世界に来てからの事を懐かしんでいたのだ。

「これから、この世界のどこかの国を攻めたいと思うのですがどうすればいいのでしょうか?」

【ロード】の言葉にファルナスは、この人が【魔族の王】であることを思い出し、ファルナスはこの世界で生きるにはどういう風にしたらいいのかを考え始めたのである。

(う~ん、この世界がどんな世界なのかまだよくわかってはいないんだよね。ただこの世界でファルナスさんが生きていくにはどうするのが一番なのかが重要な問題になっている。そしてファルナスさんも、【ロード】さんに頼られて嬉しいはずだ。この世界に来てしまった原因を作った責任があると思っているからね。だからこそ僕は全力で【ロード】さんを助けるべきだと思った。それが僕のやるべきことだと思うんだ。でも、まず最初に何をするべきなんだろうか)

「え、【ロード】様、まず、貴方はファルナスの体を持っています。なので、これからファルナという名前の体を手に入れるか何かをする必要がありますよね。それにこの世界に召喚されているファルナスさんや【ロード】さん達の仲間を集める必要があるはずです。だからその人たちを探す必要もあります」

「確かにその通りのようですね。ではまず、仲間を見つけることに致しましょう。この世界のファルナスと私以外の仲間も、この世界に来る前も一緒だったのできっと私を助けてくれることでしょう。私もできる限りのことはやってみるつもりです。ただ、私の能力を使うにも準備が必要なのですよ。だからしばらくは待って頂けませんかね?」

【ロード】はファルナスの話に感心しながらも、自分の目的のために動き出すべきだと思っていたのである。そしてそんな話をしているとすぐに時間は経過していった。

ファルナは自分が目覚めたときに感じていた事を改めて確認しようとしたのである。だが【ロード】はそれについては、もう既に答えを出していたのである。

「【ロード】様、私は、なぜ、ファルナスと名前を入れ替えなかったのですか? 入れ替わっていた方が便利ですよね? それとも入れ替わる事で逆に面倒なことになったりでもするのですか? もしも違うなら教えて欲しいんですけど。お願いできますか? 」

ファルナスはその言葉を口に出すときも少し不安を感じていたが、それを口に出して【ロード】に聞くことにしたのである。

「いえ、特に理由はないですよ。それにその質問には私が答えるよりも本人から聞いた方が良いと思いますよ。貴方は、そのファルナスという人物の事を知っているのでしょう。なら直接、その人物から話を聞いたらどうかなと。それにこの世界に居る【ロード】とファルナスの魂は同一の存在。つまりは同一人物と言えるわけですから、その人物が知っている事もあなたが知ることができるかもしれませんよ。だから、貴方はもっと積極的に、この世界に来たばかりの時の自分とファルナスの関係を忘れるくらいの気持ちになったほうがいいと私は思うので、ファルナスに話しかけてみてください。

そう言われてしまうとファルナスは何も言えなくなってしまうのだった。ファルナスは自分が眠っている間にファルナスと【ロード】の二人に一体何が起こったのか、その事が気になって仕方がなくなっていたのだった。

(この人に言われるがままに行動するだけじゃなくて僕が、僕自身の目で確かめないといけないんだよな。よしっ、僕は覚悟を決めるぞ。そしてファルナスちゃんと向き合うんだ。僕が知らないファルナスのことを聞くために)

「【ロード】さん。分かりました。僕はもうこれ以上何も聞きません。だけど一つだけ僕に頼みたい事があるんです。もし良かったらの話でいいのでファルナって女の子がどこにいるか分からないかな? って」

「そうですね。この世界の人間を【鑑定】してもあまり情報を得ることはできないのです。貴方のようにレベルが高い人間がいるかもしれない。そういった人間を相手にする場合は、相手の許可なしに【鑑定】を使用するのは禁止事項とされているのですよ。まあそれでもこの国の王女の居場所ぐらいなら分かるかもしれませんが、それでいいのでしょうか?」

「はい、その辺に関しては大丈夫です。あともう一つだけ聞いてもいいですか? 」

「もちろん構いませんよ」

【ロード】は笑顔を浮かべて、その質問を待っていたかのように返事をした。

「そのファルナさんっていう子は、なんという国にいるのでしょうか?」

「ファルナスという人間がいる国は、アルスラーン帝国と言うところで、この国と同じ名前を持っているんですよ。だからこの国と、かなり近い場所に存在している場所なんですよ。ちなみにこの国の名前はエルドランド王国といいます」

(なっ!? 同じ国の名前なのかよ。それだったら僕と【ロード】さんのいた世界の人間と同じような人がたくさんいるということか? この世界が僕がいた世界と本当に似ている可能性が出てきたのか? でもそうすると、ファルナスと【ロード】以外に【魔族の王ロード】と名前が重複してる奴が居ても不思議じゃないよな。それにしても【魔族の王ロード】がこんな近くに存在してたなんて驚きだぜ。それにしてもこれってやっぱり僕たちがこの世界に連れてこられたことと関係あるんじゃないだろうか。そうするとファルナスって子も僕みたいに巻き込まれている可能性が高いのか?)

「あの【ロード】さん、もしかしてですが、この世界は貴方と僕のいた世界と似たような環境になっていたりするのでしょうか?」

「はい、そうなのでファルナスと名前の被っている人物もいるかもしれません。貴方が言っていたファルナスの容姿の特徴ですがそれは私にもあり得ることだと思います。だからと言ってこの世界で生きている他の人も同じというわけではありませんがね。さっきまで話していた、この世界では珍しい黒い髪の色のファルナスは別としてもですが。

ファルナスの黒髪を見ていた【ロード】は、もしかすると、【魔族王ロード】の力の影響がファルナスの髪の毛に出ているのではないかと考えたのであった。

ファルナスが【ロード】に話していたファルナスの特徴は確かに【ロード】に当てはまっていた。そうしてファルナスと【ロード】は話をしていると、すぐに夜になってしまったのである。そこで【ロード】は一旦話を区切り、これからのことについて話し合いを始めたのであった。

「とりあえず、今日のところはもう遅いですしここで泊まることにしましょう。それにこの世界に貴方と一緒にきた、私の仲間を探したいのですよね。それならば一緒に探してくれそうな方を探してみるというのはどうでしょうか?」

「それってつまりはどういうことでしょうか?」

「はい、貴方と私の仲間たちを探すためには、色々な国に訪れないと行けないわけですから、まずはこの王国の近くにある町や村に行くことになるのです。その辺りに貴方の仲間の人達が集まって暮らしているかもしれないのですから。それに私の力を使っても、全ての人間の情報を知る事はできないのです。ただ貴方の世界から来た人間がいれば、その存在は把握することができます。だから、まずはそこに向かいましょう。貴方の仲間ももしかしたらそこに住んでいるかもしれませんしね」

「はい。分かりました。これからよろしくお願いします」

【ロード】と、ファルナスが会話を終えた頃、ファルナスはファルナスについて考えるのを止めようとしていた。そうしないと自分の精神が崩壊してしまうと思ったからだ。だがどうしてもその考えを止めることができなかったのである。そしてファルナスは自分が眠っている間に起こった出来事に整理をつけるため、今まで自分が寝ていたベッドの上で横になり眠りにつく事にしたのだった。

そうして、ファルナスが眠ろうとした時、誰かがファルナスの部屋へと入ってくるのだった。ファルナスが目を開けるとそこには一人の女の子が立っていた。ファルナスはその姿を見て驚いた。なぜなら目の前に現れた少女が【ロード】と姿が瓜二つで全く同じ姿をしていたからである。

「あら? 起きてたのね。貴方がこの世界で目を覚ますことは知っていたけどこうして会うのは初めてね。私はファルナスの姉で、名前はリーファ。ファルナスに会える日が来るのをずっと待っていたわ」

「え? お姉さんなんですか? 」

「ええそうよ。ファルナスに、その体を貸してくれていたんでしょう? 」

「あ、はいその通りです」

「ふーん。貴方がファルナスの体を使えるんだ。ちょっと見せて貰うね。な、なんだこれ!? ファルナスは私よりも強いって思ってたんだけど、実はそんなことはなかったんだなぁ。これは鍛えなおす必要がありそうだ。この私が教えてあげるしかないよねぇ」

【ロード】と姿の似通ったリーファは、ファルナスに話しかけるとすぐにファルナスの顔に手を当て、その手をどけようとした。だが、【ロード】は、すぐにその行動を阻止しようとしていた。【ロード】の本能が、今すぐにでも、ファルナスから離れなければならないと、強く警告しているのだった。そして【ロード】が動いた。だが、【ロード】の行動より、先に動き出してしまったのがファルナだった。そのファルナの動きに【ロード】が対応できなかったのである。

(なっ!)

ファルナは、突然、動き出したことに戸惑ってしまい動き出しが遅れてしまったのだ。そして【ロード】に止めを刺そうとした瞬間だった。ファルナに剣で切り付けられそうになっている【ロード】は笑みを浮かべたのである。

(なっ!)

次の瞬間、ファルナの手には握っていたはずの聖騎士の聖剣がなくなっており床の上に落ちて転がっていた。それと同時にリーファは意識を失ってしまうのだが、それは【ロード】の能力によるものだ。リーファには外傷などはなく精神的なショックによるものなので問題はないはずだ。そうして倒れ込む、もう一人の自分を抱きとめる【ロード】は、【ロード】が【ロード】に話しかけていたのである。

「ごめんなさい。ファルナス。貴方の体に傷を付けたくなかったんです。私は貴女を助けようと思って、その体が、私にとって危険なものだと分かったので、気絶させたんです。許してくれるかな? 」

ファルナスに問いかける、その声色は優しく穏やかに聞こえた。

(助けてくれた? 僕はこの人の言う通りにするだけで良かったんだよな? それで、僕は【ロード】に認められたんだったな。だったら僕は【ロード】の言葉に従ってこの世界で、【ロード】として生きればいいだけなんだよな。それでこの体は【ロード】が僕のために用意してくれた物だったんだよな)「ありがとうございます。【ロード】様」

【ロード】に対して頭を下げるファルナスは笑顔で感謝の気持ちを伝えていた。

【ロード】はファルナスの表情をみて安心していた。これでこの体のファルナスは私の操り人形のように動く事ができるようになるはずです。そうすると私と同じ能力を手に入れる事ができるんです。そうすればきっとあの忌々しい奴を葬る事ができますよ。【魔族の王ロード】よ。その時が、楽しみです。そう考えていた。そうするとファルナスを部屋に置いて、すぐにこの世界から抜け出して、この世界にいる仲間に会いに向かうことにしたのである。

それから数日後のある日、僕はリーファスと共に村の近くの森へ出かけることにしたんだ。というのも、この村の近くに、僕のレベルを上げるために必要な経験値を多く獲得できる魔獣がいるんだって。

だけど今日の目的はレベル上げではなく魔獣討伐をするんだって。レベル上げは一人ででもできるから、今回は、この村を襲うかもしれない盗賊団を倒すのを手伝うのが僕の目的になったらしい。だけど村を守るための騎士団も一緒だし僕が出る幕なんてなさそうな気はしていた。だけど僕はまだ、この世界に来たばかりでレベルは一なんだよな。だから、あまり頼りにされてないみたいで正直に言って、すごく残念に感じていたんだ。それでリーファスは、なぜか張り切っているみたい。それで今日一緒に狩りをする事にしたみたいだ。それにこの村に、僕のレベルをあげるための魔物がいなくてよかったなぁと思う。

「さあ着いたぞ。ここが私たちが魔獣の討伐をしている場所なんだ」

「わぁ。この辺り一帯全部が森の中になってるのかぁ。すごい広いね。それにこんな場所に魔獣ってどんな魔獣が出てくるの? 」

僕がそういうとその質問を待ってましたかのようにニヤリと笑いながら説明を始めた。

「いいか、魔獣というのは普通の人間には見えない。特殊な道具や魔法を使えば見えるが普通なら絶対に見ることはできない」

「そ、そうか。それは残念」

「だが心配しなくても良い、ここにいる人間にもお前が見たことがない、珍しい動物や昆虫などの生物を見ることができるようにすることができるから。それでは早速始めるか。この先に見える岩のところまで行くぞ。そこの地面に穴があるだろう? その中が洞窟になっていてな。そこで私は毎日魔獣を狩っているんだ。そこで私と一緒に、私についてきてくれ」

「う、うん。わかった。でもさっきの説明だと、もしかして僕のレベルが上がるような相手じゃないんじゃ」

僕は、魔獣の強さもわからないからどうすることもできないから、もしかしたら無理かもと思っちゃった。

「ははは。大丈夫だよ、そんなに怖がらなくっても、君が強くなるのにちょうどよい相手がこの近くにいるんだよ。この世界のレベル上げには、相手の命を絶たなければいけない、殺し合いをしないといけないんだ。それに、この世界でレベルを上げておかないと元の世界で大変な事になるかもしれないからな。この世界と君の元の世界は違う時間軸にあるのかもしれないし」

「え? そうなの? じゃ、じゃあそろそろ、レベル上げても、良い頃合いかもしれないよね」

僕はそう思ったので、リーファスと一緒に、その洞窟へと歩いて行った。すると洞窟の中に、一人の男性が立って見張りのような仕事をしているのが目に入った。そしてその男性の容姿が、まるで僕そっくりなのであった。

(あれ? もしかしてリーファスって僕の姿に似ているだけなの? それとも本当は女性だったとか? まさか男性の娘?)

僕は疑問だらけだったので、リーファスに確認しようと話しかけようとしようとしたんだけど、その男性は急に僕たちに向かって走り始めたんだ。そしてその勢いのまま殴りかかろうとした。リーファスが咄嵯に反応したのでその攻撃をかわすことに成功したけど僕はそのまま吹き飛ばされて木に衝突して、そのまま地面に落下した。その光景を見たリーファスは急いで僕の元へ駆け寄ってきたんだ。

「あはは。驚いたかい? 今のはね。この世界でいう所の盗賊なんだ。そして私の友達でもあってね。彼が盗賊のリーダーで私の部下の一人なんだ」

そう言った後に、リーファスはその男と話を始めていて、その男がリーファスの話を大人しく聞いていた。

「よし。話は終わりっと。それじゃあいつのところに戻ろうか。そしてこの子の事を頼もう」

リーファスはそう言うと、男のところに戻っていき僕を紹介してくれて。

「こっちは私の友人のアクス君でね。今はまだ弱っちいけれどこれから私が面倒を見てあげて一人前になるように鍛えていこうと思っている。それと彼にもここで修行してもらうことにする。だからこの洞窟の事は私と彼で見張ることにしよう。よろしくな」

「はっ! この俺に任せとけってんだ。この俺が守ってやんよ。こいつはなかなか良い面構えしてるじゃねぇか」

「ふふふ。そうだろう。そうだな彼はまだ、この世界に来たばかりだから、しばらく私達のところで保護することになった」

そうしてこの場で、僕はリーファスさんと、アクスと名乗る男と一緒に過ごすことになった。最初は不安に思っていたんだ。でもこの二人は悪い人達ではなさそうだなと感じたんだ。二人からは、敵意を感じることは一切無かったから。リーファスが僕にいろいろと教えてくれた。リーファスさんが普段行っていることや戦い方などを教わることが出来た。そしてその戦闘方法の真似をして戦うことを練習していった。そして僕はそのやり方で盗賊達と何度も戦ってレベルを上げることができていった。そんな生活を続けて数カ月経った頃にやっと自分のステータスを見ることができたんだ。それでようやく僕は自分にどんなスキルがあるのかを見ることができた。そしてそこには今まで自分が持っていたはずのものよりもずっと高い数値が記されていたのだ。そしてそれを目にした僕は嬉しかったと同時に、自分よりはるかに強い敵と戦っていくことでさらに強くなりたいという思いが強くなっていった。それで僕はもっと強くなれる場所を求めて旅を続けていくことにしたのだ。

この世界で生活していく中で僕達はある村を見つけた。そしてそこには【ロード】によって作られた人形のように、ただ決められた動きをすることしかできなかった村のみんながいたんだ。だけどその村の人たちの体には傷があり痛々しそうな姿だった。おそらく村人たちに酷いことをしてきたと思われる奴らに何かされたんだなと予想ができた。

【ロード】の奴は僕が倒した。この村を襲った奴らの黒幕である【ロード】は僕が倒したはずだった。だけど奴らはまた復活してしまったんだ。それも【ロード】が作り出したであろう人形のように意思がない存在となって現れていた。

【ロード】を消滅させたのにどうしてまた現れたのか分からない。この世界に【ロード】という脅威は去ったと思っていたのに。

その村には子供もいてその中には僕にとても良くしてくれた女の子もいたんだ。その子はとても悲しんで苦しんでいたんだ。僕がその村に行った時にはもうその少女は死んでいる状態だった。それでも僕は、その少女に最後のお別れをしたくて声をかけたんだ。

「大丈夫ですか? 」

「ああ、あんたは一体誰だい?」

「僕はファルナスと言います。僕は【ロード】を倒しました」

「なんだって! そいつを本当に倒せたのかね? それならばこの子を助けることはできないだろうか」

そう言ってその少女のお母さんが僕の目の前で泣いてしまった。きっと娘を助けられるなら助けたいという親心だったのだろうと思う。

「ごめんなさい。僕が【ロード】を倒したのはあくまで仮初めのものであって【ロード】本体を倒してはいないんです」

「なんだって!? じゃ、じゃあこの子は助けられないということなの」

僕の言葉でお母さんはさらに涙を浮かべてそう答えていた。僕は何も答えることができなかった。

それから数日間の間はその村に泊めてもらうことにした。そして数日経ってから村から出て、村から遠く離れたところに移動した後で僕は再びレベルを上げるために魔獣と戦いまくることにした。

「はぁはぁはぁ、そろそろ限界だなぁ。レベルを上げるためにはまだまだ戦わないと」

僕は魔獣と戦い続けレベル上げのために奮闘をしていた。だけどその時突然、誰かが僕に声をかけてきた。僕は魔獣との戦いを止めて後ろを振り返るとそこにリーファスが立っていたんだ。彼女は笑顔で話しかけてくれていた。

「やぁやぁ元気にしているかな。アクス君」

「うん、もちろんさ。それよりさっきまで魔獣とたくさん戦っていたんだ」

「ははは、君は魔獣相手にも苦戦しているみたいだね」

「あぁ。僕の力はまだまだ足りないみたいだよ」

「そうでもないんじゃないかな。だってこの世界の人間は魔獣と直接戦う事なんてまず無いからね。それよりも、レベルは上がったのかい? 」

「うーん。それがね。あまり上がらなかったんだよ」

「まあ仕方ないさ。普通ならこんな短期間じゃ中々上がりっこないもんな」

「そっか。それじゃもう少し戦ったら、別の場所に移動して、また魔獣を狩ってこようかなって思うんだ」

僕はそうやって、次の獲物を探して歩き始めたんだ。だけど少し歩いて振り返るとそこにはもうリーファスさんの姿は無かった。

その日の夜のことだ、僕は寝袋の中でうとうとしている時のことだった。突然僕の頬に冷たいものが触れるような感覚を覚えたんだ。僕はその冷たさに驚いて目を覚ました。

「ははは、驚かせてしまったね」

そう言いながらリーファスが僕に飲み物を渡してくれて僕はそれを一気に飲み干した。

「ぷはっ、びっくりしたよ。ありがとうリーファス」

僕はそういうと再び眠りに就こうとしたんだけどリーファスがまだ眠っていなかったので、彼女に向かって話しかけてみた。

「どうしたの? 眠れない? 」

「いや、君と話をしたいと思ったんだよ」

「へぇー、何の話をしましょうか」

「そうだな、じゃあ、あの村のことは気づいているだろう? 」

「うん、知ってる」

リーファスは僕たちがこの世界で初めて出会った時の話を持ち出されていた。

僕はその話をしている時に、初めて僕がリーファスと会った日の事を思い出してちょっとだけ笑ってしまっていた。その反応を見てかリーファスが不機嫌そうな顔をしていた。

「む、笑うことはないだろう」

僕は笑いを堪えて話を続けた。

「はは、ごめん。その日リーファスと最初に会えたことがすごく嬉しくて」

「嬉しい? 私が? 」

「そりゃそうですよ。だってリーファスがいなかったら僕一人だけだったわけだし。リーファスとこうして仲良くできるのも嬉しかったよ」

「ははは。そうだな、確かに君にとってはそうかもしれない。だけど私もアクス君の事は気に入っているぞ。それに君の事が好きだ」

「す、す、好きって? どういう意味の? 」

「もちろん異性としてだよ」

「えええええええ! リーファスが僕の事をす、す、好きなの! 」

僕は驚きのあまり大きな声で叫んでしまった。そんな様子を見ているリーファスさんの顔は赤くなっている。

「ば、馬鹿。叫ぶな! 」

「はは、あはは、いやいや、それは無理ってもんですよ。僕みたいな普通の男の子をリーファスのような美人な女の子が、まさか好きだって言ってくれるだなんて」

僕は恥ずかしくなってしまい顔が熱くなるのを感じていた。

「な、なんだい。私の告白を聞いても君はまだ信じてくれないのかね? 私の気持ちを? 」

「ご、ごめん」

僕は慌てて頭を下げて謝ったんだ。すると急に僕の頭を優しく包み込む感触があった。そして、リーファスが僕に抱き着いてきて僕に耳元で囁いた。

「私は本気だからね」と。その一言を聞いた途端に僕の中で緊張のようなものが高まっていった。僕はその言葉を告げた後も僕を離さないかのように力強く抱きしめていてくれていたんだ。その抱擁を受けているうちに、なぜか心が落ち着く気がした。そして僕もその心地よい空間の中に身をゆだねるようになっていった。そうしていくうちに僕の胸の中からリーファスに対して愛おしいと感じる感情が湧き上がってくるように思えたんだ。そう感じた僕は無意識のうちに自分の唇をリーファスの口に近づけていってしまったんだ。僕達はお互いの想いを伝え合うようにして口づけをし合った。僕はリーファスが僕を好いて想ってくれているという事に、とても喜びを感じた。それと同時に僕は彼女に幸せにしてもらうのと同時に彼女を守れるくらいに強くありたいと強く思った。そして僕達はお互いの事を愛しあうようになって一緒に旅をすることを決めたんだ。

それから僕たちは旅を続けていった。その中で、僕は自分のスキルの中にリーファスに渡すことのできる贈り物が眠っていることを知ったんだ。そしてそれをリーファスの体に取り込ませることによって、彼女は新たなスキルを習得する事が出来る。そして僕はこの能力を使い続けていきレベル上げを続けていった。その旅を続けている中で僕のレベルが100になった頃の出来事だった。僕がステータスを見ているとそこには今までとは違った項目が新しく加わっていたんだ。それを見た時僕は心が弾むのを感じるとともに、ある一つの疑問が思い浮かんできたんだ。そうして僕はこの疑問について考えてみることに決めたんだ。

「そういえば、【ロード】を倒したことによって手に入れた能力はなんだったんだろう」

僕がそう言うとリーファスは興味深そうな目で僕を見つめて答えてくれた。

「どんな力を手に入れたのか教えてくれるかな」

「はい。この力は【ロード】の消滅に伴って得たもので、僕の命を削ること無く使うことができるようです。その名を【転生】といいます。これを使用することによって僕のレベルの上限値が大幅に上がるという恩恵を受けることができました」

僕はそう答えた後ですぐにリーファスが何かに気づいたようで真剣な表情になって問いかけてきた。

「レベルが上限にまで達すればその分、レベルが下がってしまうということか? 」

「はい、そういうことです」

僕はリーファスが言ったことを即座に理解したので、そのことについて肯定するように返答をしていった。そうすると彼女は考え込んだ後に僕の方を見て言ってきた。

「【ロード】を倒せば倒した分だけ【ロード】の力の残滓を君が背負ってしまう事になるだろうな」

「え? 」

「つまりだ。今の【ロード】を倒したことにより君は【ロード】の持つレベル限界値を上昇させる力を半分ほど引き継いでいるということになる。その【ロード】が本来持っていなかったであろう【ロード】の力はおそらくこの世界では君にしか引き継げないものだ」

僕はその言葉を聞いた瞬間にある可能性を感じ取った。

「もし僕の考えている事が正しければ、もしかしたら僕と同じ勇者である他の人達にもそれぞれ異なった能力を宿すことが有り得るって事だよね」

「ああ。その通りだよ」

僕はリーファスの言葉を聞くと、すぐに自分が持っているスキルの検証を始めていく。

「僕が【鑑定】や、【念写機】を使う事ができるのは、その人がすでに取得しているスキルの能力の一部を使えるようになっているって事なのか。ということはもしかすると、まだ僕の手には入っていなかったとしても、いずれ僕の元にやって来るってことかもしれないってことだね」

「うん。きっとそうだね」

リーファスは僕が言っていることに納得してくれたみたいだね。僕はその事を考えると少しだけ嬉しさを覚えながらも今後の自分の在り方に悩むことになるのであった。

僕が【転生】を使用し始めてから二週間近く経った時、リーファスから相談を持ち掛けられた。それは【聖騎士剣 ディムロスブレイドナイト】に備わっている特殊能力についての話だった。彼女の話によれば【ロード】を倒す時に得た特殊能力についてはレベルを上げてレベルを上げる度にその効果が大きくなっていくというものだった。僕のレベルが50に到達した時にはその効果がかなり大きいものとなっていたのだけれどリーファスからの提案は、この能力の使用は極力控えた方が良いと言われた。その理由としてこの【ディムロスソード アクスブレイカード 】が持つ特殊効果はあまりにも強すぎるのだという事だ。そう、僕が先程まで悩んでいた事についての問題を全て解消できてしまうようなものだったんだ。そう、その特殊能力の内容というのが【コピーアンドペースト 能力保存版】とでもいうべき代物でリーファスが僕の為に用意してくれていた能力と似たようなものであった。僕はそのことを説明した後、僕の話を聞き終わったリーファスは少し考える仕草を見せつつも少し笑顔になり僕を見て言ってくれた。

「アクス君。私の予想が正しければ君が私のために用意していたあの能力は君の想像を超える強力なものになっていると思うよ。だってあの時は私の力を借りるためのものだと言っていたじゃないか」

「う、うん。だけどまさか、あんな効果があるなんて知らなかったよ」

「私も君から話を聞いたときは本当にびっくりしたよ。だけど私としてはあれを有効に活用した方が得策だと思えるんだけどな」

「うーん。まぁ、そういう考え方も有るかもとは思うけど」

「よし、じゃあ決まり! さっそく使ってみよう」

僕は、なんだか上手くリーファスの思惑通りに事が進んでるんじゃないだろうかと一瞬だけ思ったんだけど。結局、僕とリーファスは新しい力を得ることになった。リーファスはその時に自分の持っていた能力と僕の持っている能力とでどちらが良いかという事で、しばらく悩んだ結果。お互いがお互いにメリットのある組み合わせとなった。僕とリーファスはこの力を利用してこれから先の旅を続けていくことになるんだ。

そうして僕とリーファスが二人で楽しく旅をしている中、ある事件が起こったんだ。それは魔族との戦争に人間側が敗北してしまい多くの人間が殺されてしまったという出来事が起こていたからだ。その時に僕が目にした光景はあまりに衝撃的なものであったために未だに記憶に深く刻み込まれているんだ。リーファスは僕の事を心配するような表情を見せて僕の事を抱きしめて頭を撫でてくれていた。そんな彼女に感謝の気持ちを伝えると僕は改めて自分の目に飛び込んできた光景を思い出そうとした。

僕はその日に偶然、とある村に滞在していたんだ。そこは僕が【ロード】の討伐に向かう前に訪れた村だった。その時はちょうど僕が【聖戦士】としての役目を終えた直後で次の【聖勇者】としての役割を引き継ぐまでの間をこの村の人たちと一緒に過ごしていた時期のことだった。

僕がこの村の村長の家を訪れる少し前の時間帯に一人の少女が村に駆け込んできて僕に助けを求めてきたんだ。僕はその子の話を聞いて愕然とすることになった。なんでも、その村は魔族の侵攻により滅びてしまい今は魔族の領域になっている場所の近くに位置する小さな集落だというんだ。僕はその事を知った後で、すぐにその女の子と共にその場所へと向かうために準備を整えた。僕たちが出発してから数分後くらいの事だった。突然、僕の脳内に危険信号を知らせる警告音が鳴り響き始めた。僕は急いでリーファスの方を振り向くと彼女が苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。

「すまないね。私のスキルの【予知夢 フューチャービジョン】の効果の一つなんだよ」

リーファスによると僕が危険な状態にあると未来が見えたので僕の元へ駆けつけるために全力疾走してきたのだという。僕は、それを聞いて感謝の気持ちを告げた。そうすると彼女は僕の方を見て少し恥ずかしそうにして言ってきた。

「その言葉は無事に生き残れたときにまた言ってくれ。それまでお預けだよ」

「分かった。気をつけるようにするよ」

僕はリーファスにそう言いながらも内心では焦りを感じていた。なぜなら僕はこの時既に死を意識し始めていたんだ。理由は、目の前の女の子の背中に生えている黒い翼の存在があった。その子は見た目こそ人間のようであったけれど実際は人外である存在だということを僕の感覚が教えてくれたのだ。僕はすぐにその子の事を鑑定した。その結果、その子の名前が判明した。その子は魔族側の魔王の娘であるということが分かったんだ。

そして、この子が僕の前に現れた目的というのはこの子の父上にあたる魔王を倒せと言っているようだ。僕とリーファスの二人ならその程度容易い事のように思えたんだけれど、相手側はかなりの手練れであるという情報を僕たちに渡してくれた。

僕は今の状況に危機感を抱きながらもその情報に間違いがないのか確かめることにした。僕はその少女に確認をしてみることにする。そうしてその質問をすると、彼女は自信満々な様子でこう答えてきた。

「私は魔王の娘ですからね。父上に敵はいないのですよ。私が保証します」

「なるほどねぇ」

僕はその話を聞いて、その子の事を信じるべきなのかどうか悩み始める。というのも僕は【ロード】の消滅に伴って新たに手に入れている特殊能力である【真実の眼】を持っているため嘘が分かるんだ。この能力を使うことによって、その相手の発する言葉がどこまで本当なのかを知ることができるのだ。

僕はまず最初にリーファスに対して【ロード】の能力で新しく獲得した能力を使用して【真実の眼】の発動を試みた。リーファスに使った能力によって僕が得た力は対象の名前を知っている場合に、その名を呼ぶことでその相手が僕にどのような感情を抱いているのかが手に取るように分かるという能力なわけなんだけど。リーファスの場合、その名前を僕がまだ知らないから使用できなかった。そのため今回は名前を知っている相手であれば誰であろうと使うことが可能なのだと理解したのだ。そうしてリーファスの名前を知ろうと頭の中で考えてみる。

(リーファスか。確か【剣聖姫】と呼ばれている凄い人物だったはずだ)

僕は、この世界に召喚されてからずっと一緒についてきてくれるリーファスのことを思い浮かべながら考えを進めていく。リーファスのことを考えることで僕が知っている範囲の情報が一気に頭の中に流れ込み僕の中に眠っていた特殊能力の【ロード】による【記憶保存版】の能力が発動された。そのおかげで僕の中には膨大な量の情報が蓄えられていったのだ。

「どうやら僕の能力を使えばリーファスの名前を聞くことが出来るらしいぞ」

僕がリーファスに向かって【ロード】の能力を使えることを伝えてみたところ、彼女は驚いていた。それもそのはずだろう。僕は、その事を確認すると早速彼女の名前を尋ねることにした。僕は彼女の名を尋ねてみる。するとリーファスは自分の名を名乗ると僕の事を見つめ返してくる。僕はその事にドキッとしながら彼女から放たれる雰囲気に少し緊張してしまうのだった。

僕がリーファスの名を聞くとすぐに、彼女の口から僕の求めていた返答が返ってきた。僕の能力である【ロード】の【記憶】に関する力を使い【真実の眼】の能力を発動することで僕はリーファスの心を読み取っていった。その結果、僕はその瞬間に驚きの声を上げたんだ。だってリーファスの気持ちがまるで僕への愛に溢れているということが分かってしまったからね。僕はリーファスがそんなことを思ってくれていたことが嬉しく感じてしまうのと同時に、どうしてそこまで想ってくれるに至った経緯が気になってしまったんだ。僕はその理由を探るべく彼女に理由を聞き出そうとしたんだ。だけどリーファスは僕の問いかけに対する答えを拒否した。僕は彼女の態度に疑問を抱くことになった。

「なんでそんなにも頑なに拒絶しようとするのかな?」

僕は彼女の気持ちが分からないままなので正直なところ戸惑いながらも聞いてみたんだ。そうしたらリーファスは僕のことを見るなり顔を真っ赤に染めながら俯いてしまったのだ。そんなリーファスの様子を見た僕もまた同じように顔が赤くなっていくのを感じた。僕たちはお互いに恥ずかしさを感じてしまうと黙ってしまった。僕はリーファスに自分の心を読まれたことに対して何か文句でも言われないかと思ってしまう。もし、そうだとしたら少しばかり面倒だなと思っていた。リーファスはそんなことはしないとは思うけど。ただ僕が考えていたのは少し違うことだった。

それは、これからリーファスと一緒にいるためにはリーファスに隠し事をしていた方が良いんじゃないかということだ。もちろん僕は、そんな風にリーファスと過ごすのは少し寂しいとは思ったんだけど、だからといって本当の気持ちを隠されて過ごされるのも困ってしまうのだ。リーファスの気持ちは僕の想像を超えていたのは間違いないことだしね。

「その気持ちを僕は素直に受け止めることはできないんだけど」

「え? ど、どういう意味だい?」

僕の言葉を聞いて動揺した様子を見せつつも僕のことを見上げてきている。リーファスの視線を間近で感じることになる。そのせいで僕は恥ずかしくなりつい目を背けてしまいたくなる。しかし、僕が目を逸らすのはあまりにも不自然すぎると思いなんとか耐えることができたんだ。僕はそのままの状態でリーファスに話しかけてみることにした。

「そのまんまの意味だよ。君に隠し事をして接していくっていうのはあまり気分が良いものではないと思うんだ。だから僕に言いたいことがあったらいつでも言ってほしいんだ」

僕が自分の気持ちを伝えた後に沈黙が流れてしまう。しばらくすると僕たちの事を見守ってくれていた少女の方へと目を向ける。僕は少女の方へ歩み寄っていく。そして少女と目線の高さを合わせるために片膝をついてから声をかける。僕は、そんな少女に向けて自分の気持ちをはっきりと告げようとした。

「君の事は信じているよ。君は僕が今まで出会った人たちの中でも特に優しい人のように見えるからね。僕に何かを隠しているのかもしれないけどそれは仕方のない事だと割り切ることにしているんだ。これからよろしく頼むよ。僕のパートナーとしてね」

僕は少女の手を握ると自分の方へと引っ張って自分の胸に抱きしめるようにして包み込んだ。その行動に対して、僕に抱きしめられた少女は困惑してしまったのか最初は抵抗を見せていたものの次第に落ち着きを取り戻した。その時に僕の耳元で彼女はこんな言葉を囁いてみせたんだ。僕はそれに驚いた。なぜなら彼女が口にしたのは僕の心に秘められている本音であったからだ。

(私の事をここまで受け入れてくれる人は本当にあなたが初めてなんです。ですから私は、そんな貴方の力になりたくてここまで一緒に付いてきたんですよ。私は絶対にあなたから離れませんから。例えあなたの心の中から私が消え去ってしまっても必ず見つけ出します。どんな事をしても私は貴女の側にい続けると誓いましたから。覚悟してくださいね)

リーファスから僕の心の中を読み取ることができたのと同様に僕の心からもリーファスの考えていることが分かった。リーファスの本心を知ってしまった僕は嬉しいような照れ臭い様な不思議な気持ちになってしまい複雑な心境だった。僕には彼女が僕に嘘をついているということが分かっていたけれど、それを責めるつもりはない。それどころか逆にその事に感謝の気持ちすら抱き始めている。そうして僕は、リーファスのことを信じることを決めたのだった。そして僕の心の中にある【ロード】の力で得た能力を使ってみることにする。するとリーファスの名前を聞くことに成功したんだ。

僕の名前は、真島光輝。年齢的には高校二年生になる。僕は現在、とある出来事がきっかけで自宅にある自室にて異世界からの勇者召喚に巻き込まれた。その際に僕はその事件に巻き込まれてからある特殊能力を手に入れている。それが僕の新しい能力である【ロード】という能力だ。この能力は名前の通り様々な事柄に関して情報を保存しておくことができ、しかも任意的に情報を取り出せるようになっている。ただし、情報の検索条件に関しては自分で指定することが不可能であり、僕にできるのは自分が保存したいと思っている物や人について知りたいと願う事だけだ。

そして今僕が使っている特殊能力というのは簡単に説明すると自分の知っている物事について知りたいと思えば知ることが出来るといったものなのだ。僕は【真実の眼】の能力を使用して自分の中に情報として存在している情報を調べる。その結果得られた情報というのはリーファスの事であった。

【剣聖姫】

リーファス

女性 十五歳 レベル九十二 体力:三万六千四百

魔力:一億八百五十

攻撃力:4580

防御力:5060

敏捷性:2530

精神力:1590 【技能一覧】

火魔法適性 水魔法適性 風魔法適性 地魔法適性 回復補助 結界 剣術 武術 槍術 短剣術 格闘 弓術 投擲 身体強化 魔力操作 属性耐性 物理ダメージ軽減 【特殊能力】

【称号】

「この世界の平和を守るために」

僕はその文字を見ると自分のことながら驚きが止まらなかった。リーファスが世界最強と言われている存在であることが理解できたからだ。さらに【ロード】の能力を使用してリーファスの名前から他の情報を抜き出していった。

【真実の眼】の能力を使えるようになってからは僕は、その名前を知っている相手であれば名前を口にするだけでその人が何者なのかを確認出来るようになっていたのだ。

【リーファス】

性別 女 年齢 十四歳 身長 155cm スリーサイズ 84(D)-57-80 容姿 金髪の長髪で美しい髪の持ち主。腰まで届くほど長い髪をツインテールにしていることが多い。スタイルが良く顔立ちも整っている美少女。スタイルが抜群で胸の大きさも大きいため男好きのする体形をしているが性格は真面目そのもののため恋愛に関してはあまり興味が無いようである。

職業 【勇者】

【剣神】

【大魔導士】

【賢者】

【聖騎士】

【巫女】

リーファスのことを知ることが出来た僕はその事を知るなり彼女に視線を向けた。彼女は先程までよりも一層顔を赤くして下を向いてしまったのだ。その姿を見た僕は、恥ずかしい思いを隠すことが出来ずにいた。そして僕の頭の中では彼女の言葉が繰り返されてしまっていた。

【私の事をそこまで受け止めてくださった方は本当に貴方がはじめてなんです。ですから、そんな優しい貴女の事を、私は絶対に見捨てることはできません。もし私のせいでこの世界に危険が降りかかった時は私の手で救って見せましょう。だからお願いします、いつまでも、私を貴女の側に居させて下さいね。離れませんから】

リーファスは僕のことを信頼してくれているのだろう。だからこそ僕のことを離そうとはしない。ただ僕の気持ちは複雑だ。彼女の想いに応えたいという気持ちがあるのだが僕とリーファスでは住む場所が違うのだ。もちろんリーファスが魔王を倒して世界を平和にするというのであれば僕は喜んで手を貸すつもりでいる。しかし僕の力は、その程度でしか役に立つことができないのも確かなんだ。

それでも僕は彼女の為に力になろうとは思っていた。彼女の為だけではなく、僕自身、彼女と一緒ならば楽しく生きていくことができるだろうと感じていたからだ。リーファスのような可愛い女の子とこれからも一緒に過ごす事ができると考えるだけでも幸せな気持ちになれたんだ。それに彼女の力になればそれだけ長く一緒にいる時間が増えると思うんだ。僕は、そんな考えに至ればこれから先の事に期待が膨らんでしまうのだった。そんなことを考えていた僕は自分のことをじっと見つめていた存在がいたことをその時はまだ気づいていなかった。そう、彼女だ。

彼女はリーファスが僕を抱きしめた瞬間をずっと見ていたらしい。彼女は僕たちに対して声をかけてきた。それはどこか羨ましそうな声でだった。彼女はリーファスに対して嫉妬した様子を見せていた。

そんな彼女を僕は初めて目にすることになる。それは僕にとって新鮮な光景であった。なぜなら僕はこれまで一度も女性と関わったことがないんだ。もちろん女性と話したことは何度かあるんだけど、僕とまともに話をしてくれるような女性は皆無と言っていいほどのものだったのだ。

僕はそんな女性たちの姿を見ていると自分の立場を考えさせられてしまう。なぜ僕だけ女性に嫌われてしまうのか。その理由を知ろうと僕は努力した。その結果わかったことは、やはり僕の目つきが悪いからだという事なんだ。僕の目つきは悪いようで、それが原因で僕の周りからは人が消えていった。僕に優しくしてくれたのは家族だけであったのだ。それも今ではもう僕にかまってくれる人間はいない。僕を庇おうとしてもらえたのならまだ救いがあったかもしれないけど僕に味方はいなかったのだ。

ただ、この世界で僕は幸運なことに出会う事ができた。目の前にいる【剣姫姫】と呼ばれる最強の存在である【勇者リーファス】が僕の目を見てくれて話しかけてきてくれたのだ。しかも僕の能力を理解した上で仲良くしようと言ってくれた。それがどれほど嬉しかった事か。もしかしたら僕の人生が変わるんじゃないかと本気で思うことができたんだ。そんな時に現れたのが【ロード】の能力を使って知った【リーファス】の本当の姿であった。僕のことを好きだと言ってくれる女の子だ。僕は、そんな彼女が可愛くてしょうがなかった。だからつい強く抱きしめてしまったんだ。

リーファスと会話をした後に【リーファス】のことを調べようとした際にリーファスのことを調べようとしてみた。するとリーファスのプロフィールがわかるだけでなく他にも色々とわかったことがあったんだ。それは僕の能力によって引き出されたリーファスの記憶に【ロード】の情報が追加された形になっていた。その結果、どうやらリーファスと僕は同じ村の出身ということが分かった。僕はそのことをすぐに【ロード】の能力を利用して【真実の眼】の能力を使用する。そして得た情報を整理すれば僕たちは同じ村の出身で家が近所にあった事が分かった。僕はその事を確認するために、改めて【リーファス】という女性を見てみる。すると僕は衝撃を受けたんだ。その女性が僕の知り合いである可能性が生まれたからである。

「あのさ、僕の記憶に間違いがなければ君ってもしかして僕が小さい頃によく遊んでいた子じゃないのかな?」

僕はそう問いかけてみることにした。もしも僕の考えているとおりの答えが出てきたのならこの人は、とても運が良かったと言える。そう、この世界にやってきた時に、僕のそばにこの人が現れてくれる可能性が出来たのだから。僕がそんな事を考えていたせいで少し間ができてしまう。僕はその間に自分の言葉を後悔してしまうことになる。リーファスがどうしてここまで僕のことを受け入れてくれるのかという気持ちがわかってしまう。僕の記憶が間違っていなかったとしたのならば、おそらく僕はこの人に好意を抱かれていたことを思い出してしまったからだ。そんな気持ちを抱く相手に自分の気持ちをぶつけるには勇気が必要だったのだと思う。だから僕の質問に答えるまでの時間にリーファスから躊躇いが感じ取れた。

(はい、そうです。私のことを覚えていてくださったのですね。ありがとうございます。私は貴女と一緒に遊んでもらっていた【真島光輝】のことを忘れるはずがありません。私の初恋の相手が貴方ですから)

その言葉を聞いた僕は驚いた。だってその記憶の中にリーファスの好きな相手について何も思い出せなかったのである。だから僕は【真実の眼】の能力をもう一度利用して【リーファス】という名前の女性を再度見ることにした。その結果、僕は【リーファス】という人物と確かに幼少期に一緒に過ごしていた事を確認した。しかも幼馴染と呼べる関係だということも。それに加えてリーファスはこの世界の【聖女】であることが発覚した。

僕は聖女という単語を聞いて思い当たる人物がいる。それはリーファスと仲良しであり、勇者と聖女の間柄でもあったのだ。僕はその名前を口にすることにした。その少女の名は「クレア=ラティーファ」というらしいのだ。その名前を聞くなり僕の心臓が大きく鼓動を始めた。

その名前の少女が聖女ということはつまり【勇者の花嫁候補】であるという事なのだ。僕の頭の中では嫌な予感がしていた。【勇者の花嫁】という言葉を思い浮かべただけで僕は【勇者】の称号を持つ人間と共に行動することを想像できてしまうのだ。だからこそ僕は不安になるのと同時に焦っていた。このままでいれば【クレア】さんが勇者である【真島光輝】と出会ってしまう可能性があるから。

僕はそんな事を考えてしまいながら、【クレア】という女性のことを考えた。すると不思議な事に僕は彼女と話をしたことがあるのではないかと思うようになっていたのだ。その感覚は【リーファス】に【ロード】で手に入れた能力を使い彼女の事を調べる事で確証を得る。その結果として、僕が幼い日に好きになった女の子だと判明してしまった。ただ僕の場合は幼い頃の記憶なのであまり鮮明に覚えていないところがあった。

僕はそのことを思い出すたびに恥ずかしい思いを抱いてしまう。なんとなく恥ずかしくなり視線を【クレア】からそらすと【リーファス】と視線が重なった。彼女は頬を赤くして微笑んでいるように見えた。そんな表情を見ると僕はドキドキとしてしまう。

【リーファス】が僕に近寄ってきてくれたおかげで、この世界にきてはじめて僕に近づいてきてくれる存在が手に入ったことに喜びを感じていた。もしかしたら僕の心の中にはリーファスに惹かれている部分があるのかもしれないと自覚することができた。

そんな風に考えながらリーファスと触れ合うのは心地良いものだと感じる事ができたんだ。

僕はこの世界でようやく自分を必要としてくれる人ができたんだと思った。リーファスが僕に向かって笑いかけてくれた時、僕の胸は高鳴ってしまったんだ。そして僕は今まで以上にリーファスとの距離が近い事に気づいたのである。そんな時、【ロード】の能力を持つ僕に一つの事実を知らせる声が届く。僕はその声に反応した。それは先程から僕たちを観察している人物が発した言葉であったから。その言葉とは、僕たちに声をかけてきているのだ。

その声の主の正体とは、先程からリーファスが視線を向けるように僕が意識を向けて、リーファスの想い人であると思われる【剣姫姫】だったのだ。僕としてはリーファスを取られたくない気持ちがあったため彼女の視線から逃れるために移動した。ただ移動しようとしたところで僕の服の裾をつかむリーファスの手に気づいてしまった。

その瞬間、リーファスが恥ずかしそうな顔を見せながらも僕を離そうとはしなかったのである。

その事を見た【ロード】の能力を使う事ができる人物は、僕たちのことをじっと見ていたのだ。僕はそのことに気づいたけど、その人のことが気になってしまい、僕は【ロード】の能力を使い【ロード】の能力を使用して彼女の名前を確認することにした。僕は彼女の名前を知っておきたかったのと、この人が僕たちに敵意を持っていないことを確かめておきたいと思ったからだ。

そう考えた結果、僕は彼女のステータスを確認する。そして確認する。その結果、僕に対して敵意を抱いているわけではないと判断することができたのだ。

「やっぱりか。僕はどうやら運が良かったようだね」

そんなことを呟く。

僕の目の前にいるリーファスを口説いていた女性は、【クレア】という名前で僕が子供の頃によく遊んでいた女性だったんだ。そう【剣姫姫】と呼ばれている最強クラスの【ロード】だった。僕はリーファスが幸せそうな笑顔を見せていたのもあって少しだけ安心した。そんなリーファスが僕に対して【ロード】の能力を使った女性、いやクレアの事が気になっているような様子を見せていたのだ。だから僕は、クレアの方へと視線を戻すと僕に話しかけてくる。

彼女はどうやらリーファスのことを気にかけているらしく僕と会話したいと伝えてきたのだ。だけど、僕がそれを許せるはずがなかった。

僕はリーファスに優しく問いかけることにした。リーファスは僕のことを愛してくれているのだろう、だからこそ僕は彼女を抱き寄せる。

その瞬間、僕の中で【嫉妬】という感情が生まれた。僕の事を好いている女性に優しくしただけで僕の中で生まれた醜い感情に戸惑いを隠せない。僕は【ロード】の能力を再度使いこの場から逃げることにした。そうしなければリーファスが【真島光輝】に奪われてしまうのではないかと思えたからだ。それに、今の僕の心の中にいるリーファスはとても大切な存在であった。そんな彼女を僕は守るために、僕自身がこの世界に来る前にいた世界に戻ることを決めたのだ。

そして、この世界に戻って来た僕を待ち受けていたものは、やはり予想通りの出来事が起きてしまっていたのだ。【真島光輝】に恋をしている女性がこの国に二人もいたのであった。僕は【ロード】の力を使うことにより彼女たちの情報を得ることに成功している。

まず一人目が【聖剣姫リーファス】、この世界に来て初めて僕を受け入れてくれた人物であり、僕の事を本気で愛してくれた女性だ。

二人目の名前は【剣聖クレア】という。この国では有名な剣士で僕が【勇者の剣】を手にするために訪れた街で、剣の稽古をつけてもらったことがあったのだ。その時に僕の力を理解し、好意を寄せてくれていることを知っていたので、もしこの女性がリーファスの事を好きなのだとしても僕のことを裏切るようなことは絶対にしないはずだと思っていた。

だが僕は、二人の女性の気持ちを知ったことで、どうしたらリーファスを守っていけるのかということを考えていたんだ。そんなことを考えながら、僕の視界にリーファスと【クレア】さんが映り込んだ。その姿を見て、僕は思わず顔を逸らす。そんな時だった――

僕は、突然現れた【聖獣】に驚いてしまい腰を抜かしてしまったんだ。その時、僕は思ったのだ――これは運命なのではないかって。【クレア】さんは【聖剣】を持っているし【聖女様】と出会えるかもしれないと考えた時に僕は、リーファスと【聖女様】を引き合わせるべきではないと考えていた。その方が上手くいきそうだと感じたからである。

僕はこの世界にやって来てすぐの頃を思い出した。僕と【聖女クレア】は幼馴染の間柄だったことを思い出してしまったので僕の記憶の中では彼女と話をすることになってしまうのだろうと予想していた。

だけど違ったのだ。その事実とは――【クレア】さんと僕の記憶の中にあるリーファスは【恋人同士】であったのである。だから僕が考えていた事は間違っていなかった。そのおかげで【クレア】さんの口から僕が幼い日の約束をした相手だということを聞き、そして彼女がリーファスを婚約者として迎えに来たことを知ったのだ。

僕はそのことを聞いてリーファスの顔を見ることができなかった。そして、【クレア】が僕に問いかけた。リーファスの本当の名前を知りたいと。そう言われて僕はリーファスと視線が合ってしまう。

「リーファスがどうして僕に嘘の名前を教えようなんてしたんですか?」

僕の言葉にリーファスは戸惑っているように見えた。だけど僕は構わず言葉を続けてしまう。

「僕たちは、お互いの事を知っているんですよ? リーファスが聖女だってことも知っています」

その事実を告げると今度は【クレア】さんまで驚き始めた。ただ、それだけじゃ終わらなかった。何故なら僕の頭に直接響くようにして声が届いたからだ。それも僕の知っている人物の声である事に気がついた。それはリーファスの声だったのだ。

僕は慌てて後ろを振り返るが誰もいないことに気づいてしまった。でも、僕の耳元には確かに声が聞こえてきたのだ。その証拠に今もまだ聞こえるのである。そんな事を繰り返しているうちに僕たちの前から去っていく二人の女性の姿が目に写ったんだ。

(うぅ、まさかこんな展開になるとは想像していなかったよ。私の計画が全てパーになった気分だよ)

「リーファス。もしかして君の仕業なのですか?」

僕は小さな声で話しかけると僕の肩の部分に何か柔らかいものが触れる。僕の横にいたのは間違いなくリーファスであり僕の事を抱きしめるようにしながら頬ずりしていたんだ。

「えっと、なんで僕の隣にいるのかな。というか僕の話を聞いていましたか? あの【剣姫姫】っていう人が僕達の目の前に現れたのですよ。このままだとあなたを【剣聖】に取られてしまいますよ。だから僕達と一緒についてきてください!」

そう伝えるとリーファスの様子がおかしくなる。それはまるで捨てられた子犬のような瞳をしていたのだ。

僕の手は自然とリーファスの方へと向かっており彼女の頭をなで始める。するとリーファスは笑みを見せて喜んでくれている。僕はそんな様子を見つめながらも【ロード】の能力を使用する事でリーファスのステータスを確認してみると、【剣姫騎士】となっていたのだ。僕は自分のことのように嬉しくて涙が出そうになった。しかし今はそんなことをしている場合ではないと考え直す。今はまだ【真島光輝と剣姫クレア】はリーファスのことを知らない状態なのだ。そんな二人が出会ってしまったのだ、これから起きる出来事が容易に想像できた。だからこそ僕は急いでこの場を離れなければならないと思い【クレア】の視線が【リーファス】に向けられない場所に行こうとした。しかし、そうはならなかったのだ。

僕達が移動しようと動き出した時、【真島光輝】がこの村にやってきたからだ。彼は僕を見つけるなり近寄ってきた。その表情を見た時僕は彼が僕を殺そうとしていることを悟った。だからこそ僕が殺される前に僕は彼に問いかけたのだ。【剣姫】とは知り合いなのかと。その言葉に反応するように【真島光輝】が答えてくれたのだ。

「そうか。君は彼女の正体を知っているようだね。僕は彼女のことが大好きだ、だからこそ僕と彼女だけの空間を作ってあげたくて邪魔者を消しているんだよ」

そんなことを言う彼に対して僕はこう言葉を返していた。それは僕の気持ちを伝えるものだったのだが、そんな事をしている時間はない。なぜなら【剣姫姫】が現れ、【聖剣】を使い始めていたからだ。そうなってくると僕も覚悟を決めるしかなさそうである。僕は【ロード】の能力を使用しリーファスを守ることを決意すると同時に彼女の背中に手を当てた。僕は彼女の【真の姿】を【剣王】にするために【剣王の騎士】となる必要があったのだ。僕は【ロード】の能力をもう一度使用し【真島光輝】と【クレア】を引き離し、【剣聖】に僕の持っている全ての能力を託すことを決意した。そうしなければ、僕達は死ぬしかないと判断したのである。それに【真島光輝】とリーファスは互いに惹かれあっているのだと知ったからだ。僕はそんな状況を見て見ぬ振りすることができなかったのであった。

【剣姫姫】となったリーファスを僕に託した【ロード】である彼女は満足そうな顔を見せながらこの世を去ったのだ。彼女は僕に笑顔を見せた後消えていったのである。僕に【剣姫姫】を【剣王の騎士】にする事ができたという満足感と共に――

僕は目の前で【ロード】の力を使ったことでリーファスを救えたと安堵の息を吐くことができた。しかし僕たちが落ち着くのを待ってくれるほど敵は甘くはなかったのだ。僕たちの前に一人の少女が現れたのだ。僕はその少女に対して恐怖心を抱いてしまう。その気持ちが通じてしまったのか僕の事を抱きしめてくれていたリーファスの腕に力が入る。だけど、僕の心の中に芽生えた気持ちはリーファスに対する愛おしさだけであった。僕はその思いを口に出して彼女に告げる。

そんな僕に対してリーファスが微笑んでくれたのが分かった。そして僕は、リーファスの【剣の師匠】だという【クレア】の実力を目の当たりにして驚愕することになる――

――僕は、リーファスがこの世界で生き抜いてきた強さというものを改めて知ることになる。そうしなければ、僕の愛する人を失うことになりかねない。そんな不安から来る焦りのようなものを感じてしまう程であったのだ。だが、それは僕の間違いであることをすぐに理解させられる。

そう、【剣の精霊】と呼ばれる存在である【サラ】という存在のおかげで、僕は【ロード】の力を行使することなく【クレア】と戦える環境を整えてもらうことができていたのである。僕はこの【クレア】という人物の事を知らなかった。だからリーファスの本当の名前を教えたのにも関わらず、彼女がそれを受け入れてくれた理由を知るために【剣姫】と話をしてみたんだ。すると【剣姫】から驚くべき言葉が出てきた。それは、リーファスの事を【剣聖様】と呼んでいたからである。【クレア】と【剣聖様】は僕が思っていた以上に親しい間柄であったことを思い知らされた。その瞬間だった――【クレア】の表情が険しくなったのだ。そして【クレア】が【剣聖様】を抱きしめたのである。僕はその光景をみて嫉妬してしまう。だけどそれと同時に二人の関係を知っていく内に僕は【ロード】の能力を使わないでも二人を倒す事ができるのではないかと考えるようになる。だけど、それをするためにはリーファスの協力が必要であった。だからまずはリーファスに問いかけることにした。そうすればきっと僕の願いを聞いてくれるはず、と思ったんだけど――

「えっ? 【剣聖】の正体ですか?」

僕は思わずそう聞き返していた。だって僕の記憶の中にあるリーファスがそんな質問をしてきたことはなかったのだ。そして僕がそんなことを考えている間にも事態は悪化していった。

【クレア】は僕の事を見定めるような眼差しを向けたかと思うといきなり攻撃を開始し始めたのだ。それも尋常じゃない程のスピードと正確さで。ただ僕は【剣姫様】と訓練したことがある。そんなこともあって、僕は【剣聖】の動きを捉えることができていたんだ。【クレア】の剣を受け流しつつ【クレア】に言葉をかけることにした。それは僕にとっての賭けでもあったのだ。

その言葉で【クレア】がどんな行動を取るか、それによって僕はリーファスを連れてここから逃げ出すことができるかもしれないと思っていたのである。

「そうですね。【剣姫】とあなたが同一人物だったなんてことは信じられませんでしたが」

僕がそんな言葉を返すと【クレア】が戸惑う様子を見せていたのだ。僕はそんな隙を見逃さなかった。僕は一気に加速し【クレア】を追い詰めていく――【クレア】を仕留めることに成功したのだった。【クレア】が倒れたことによって僕はリーファスの手を掴みその場を離れようとしたのだ。

僕はリーファスと一緒に【ロード】の力で逃げようとしたがそんな暇を与えてくれる程、相手が優しくないことがわかっていたのだ。だから僕は【クレア】と【剣姫様】が使っていた技を使いどうにか切り抜けることができた。

【クレア】は僕に【剣聖の加護】を、【剣姫】は【剣王の守護者】という技能を与えることになったが、それだけで収まらなかった。【クレア】は【真島光輝】と【剣姫姫】の相手をするために向かって行ってしまったのだ。僕はその背中を見ながらも追いかけることしかできなかったのである。

【ロード】の力を行使したことにより僕の力は格段に上がっている。ただその反面、僕自身はその急激なパワーアップに耐え切れていない状況なのだ。【剣王の騎士】に変身することまではできていたけどそれ以上はまだできていないのだ。そんなこともあり、【真島光輝】が僕の目の前に現れた時に僕は一瞬でも意識が遠のいてしまったのである。そのことに気がついた時には【真島光輝】が剣を振り上げているのが見えてた。

(やばい。殺される!)

僕は咄嵯に自分の体を【ロード】の能力を使って守ろうとしたのだ。

僕には二つの人格がある。それは、元々の僕の体の中に存在していたもう一人の僕のことである。そんなもう一人の僕は、今、僕の目の前にいる【真島光輝】のことを【勇者召喚の生贄になった元日本人だ。】と考えているみたいだ。そんなことを思い出した僕だったが【ロード】の能力を使用したところで僕の体は傷ついてしまった。その事に動揺した僕の思考が停止しているところに【剣聖】と【剣姫】が駆けつけてくれたのだ。【剣聖】はその剣の一閃により【真島光輝】を一刀両断してしまったのであった。僕は助かったことを理解しながらも意識を失ったのであった。

目が覚めた僕が見た景色は見覚えのない部屋の中で横になっていた。そこでようやく自分が生きていることを自覚することができたのだ。しかしそんな僕のことを心配し声をかけてくれた人が一人いた。その人物とは、リーファスとクレア、【剣姫姫】と呼ばれていた人であった。

そのことから僕はどうしてこのような状況になっているのかを理解することができなかった。だけど僕はその人に問いかけることにしたのだ。何故、僕はこんな所にいたのかという疑問を解消するために。するとその人はこう答えてくれた。その人は僕をここまで運んできてくれたらしいのだ。そしてリーファスは【剣姫】がこの村まで案内してくれたと言っていた。【剣姫】はリーファスの言葉を聞いたあとに僕の顔を見ると微笑んでくれたのだ。そんな彼女の姿を見て僕は心を奪われたと言ってもいいだろう。僕はその気持ちを隠さず伝えることにした。その方が好印象になるんじゃないかとそう思ったからでもある。

そしてその考えは間違っていなかったようだ。リーファスの時と同じで僕はその人から手を握ってもらうことが出来たのだ。しかも僕の手を包む彼女の手はとても柔らかかった。そんなことを考えながら僕はリーファスのことを見たのだが――そのリーファスはなぜか頬を膨らませていたのだった。その仕草を見て僕は可愛らしくて抱きしめたい、そう感じた。でも、僕の事を見ている【剣聖】の存在があったので抱きしめるのはやめておいたのだ。

それから【剣聖】は【剣姫】を呼び出し二人で何かを話し合っていた。そして二人は【剣姫の騎士】である僕のことを【剣姫】と呼ぶようにと言った後何処かに消えていったのである。その時の【剣姫】の表情を見て僕は嫌な予感を感じていた。そしてそれは現実となってしまうのであった。

「これから君達二人が一緒に行動できるように手続きを行うから」

僕がそう言った瞬間、二人の表情が一変したのである。僕は【剣姫の騎士】である僕のことを【剣姫の騎士】と呼ばず二人きりの時は【クレア】と【剣姫】と呼んで欲しいと告げてきたのだ。それだけではなく、この先何があっても私から離れることがないように命じると僕にそう言ってくれたのである。

そんな二人に僕はこう告げる。【ロード】の能力は、【クレア】から受け継いだものだから【剣姫の騎士】としての役目を果たすことができると、そう伝えておく。すると、二人は少し考える素振りを見せた後に微笑みかけてきた。どうやら僕を【剣姫】の護衛にすることに決めたようである。そんな二人とのやり取りの後、僕の体に【剣の師匠】と呼ばれる存在である【クレア】から貰った【剣の精霊】の力が纏わりつくような感覚を覚えたのである。そして僕の目の前では、【剣聖様】の姿が変化を始めていたのであった。

僕の前には真っ白の世界が広がっている。

僕はこの白い世界にくるといつも緊張する。この世界で起きる出来事が自分の生死に関わることに繋がる可能性があるからだ。ただ今回に限って言えばその心配はないかもしれない。だって今回は、僕と【剣姫】様の婚約パーティーに出席するための準備期間としてこの世界にやってきたのだ。そう、【剣姫の騎士】である僕はこれから【剣姫様】と一緒に行動することになっているのである。そのため、僕は【剣の精霊】の力を借りることで、自分の力をある程度自由に使うことができるようになるのだ。それに、この世界の人達が使う武器を扱うことが出来るという力までもが【剣姫の騎士】となった僕に付与される。そのおかげもあって僕は、僕達が住むことになる街の人にも顔を覚えてもらえていた。そのおかげで僕は【剣姫様の騎士】だと認めてもらうことができていたのだ。そして、【クレア様の伴侶になるのに相応しい実力を示せ】と言われてしまった僕は全力を尽くすつもりでいる。

今回の僕の任務は、僕の婚約者候補となっている女性達に僕のことを認めさせること。そうしなければ結婚ができないということになってしまったのである。もちろん、僕は誰と結婚するつもりもない。だけどそんな事を言っても誰も納得してくれないのも確かであるのだ。だからこそ、なんとかして僕が本当に好きになれそうな人を探す必要があるのである。

僕がそんなことを考えていると、いつの間にか周りが明るくなっていることに気づく。どうやら、準備時間が終わったみたいだ。僕は一度深呼吸をし、自分の心にスイッチを入れるようなイメージをする。そして目を開けるとそこは、見慣れない天井と綺麗な壁と窓があり、ベッドには見知った【剣姫】様の顔があった。そのことからここは、僕達が滞在するための屋敷だということが理解できたのである。僕はそんな【剣姫】様の髪を撫でながら声をかけたのだ。

「おはよう、【剣姫】」

「ん、おはよ」

まだ眠いのか目を擦りながら僕に挨拶を返してくれる。その姿に思わず僕はドキッとしてしまった。なぜなら、今の僕達は普段来るような服ではなくパーティー用の服装をしているからである。そのせいなのか僕も【剣姫】も着ている物が違っていたのだ。

僕は自分の服を確認するために鏡を探したのだ。

その時に【剣姫】の寝ぼけた姿が僕の視界に入ってきたのである。そんな【剣姫】は、普段は見せてくれることがない可愛らしい姿だった。だからこそ、僕も自分の顔を赤く染めてしまい言葉を失ってしまったのだった。

そして僕の目の前には、僕の知らない僕の一面を見せてくる一人の女の子がそこに存在していた。

僕が【剣姫】に話しかけてから数分が経過したとき、ようやく彼女は完全に覚醒してくれたのだ。【剣姫】は慌てて立ち上がり身だしなみを整える。その動きは、僕の記憶の中にあるどの動作よりも美しかったのである。僕はそんな【剣姫】の姿を見て、見惚れてしまっていた。

そんなとき、僕を呼ぶ大きな声が聞こえた。声がした方に振り返ってみると【剣姫】の従者であり護衛役を務めている【クレア】が部屋の扉の前に立っていたのだ。僕は【クレア】の方を見るが、なぜか僕達の方を見て呆れた表情を浮かべているのである。その理由は、今から僕達が行うことについて【クレア】も関わっているという理由が大いに関係していたのだ。だから僕としては、そんな【クレア】がなぜそんな表情を見せているのかがわかっていなかった。そんな僕と【剣姫】に対して、【クレア】は早く支度を済ませるようにと催促してきたのである。その事に焦った僕が着替えをしようとしたところで僕は気がついたのだ。僕の服装も既にパーティー仕様のドレスに変わっていたことに。そして【剣姫】も同じ様に気がついたのだろう。僕の目の前で固まっていたのだ。そんな二人を見ていた【クレア】は僕の耳元でささやいたのである。

『【剣姫】が、自分のことを着飾る前にまず【クレア】の格好を先に整えてください』

僕は、その【クレア】の言葉を聞いて、【剣姫】のことをチラッと見たのだ。

確かに【剣姫】のことをこのままの姿で放置するのは危険かもしれない。僕はそう思い【剣姫】のことを【クレア】に任せて、自分は【クレア】を綺麗にする手伝いをすることにしたのである。

僕は今とても困惑している。というのも【剣姫の騎士】となった僕の【真島光輝】の婚約者であるはずの人が目の前で眠っているから。それも何故かメイド服を着用している状態なのだ。僕は【真島光輝】が婚約者に選ぶであろう女性の好みというものがさっぱり分からない状況になっていた。そしてその事を考えるだけで頭が痛くなる。何故なら、目の前で眠る女性は、僕から見ればとても可愛いと思えるほどの美人で魅力的な人だから。だけど僕の頭の中で何かが違うと言っているのだ。だけど何が違っているのかがわからないからこそ僕は戸惑うしかないのである。

「ねぇ、君は一体何者なの?なんのために私に近づいたの?」

その言葉を言われた時、僕の心臓が高鳴った。僕は、彼女が目覚めたことに気づきすぐに視線を向けてしまったのだ。そんな僕のことを彼女からジッと見つめられた僕はさらに胸が締め付けられる感覚を覚える。その瞬間、僕は自分が恋に落ちてしまっているのを理解したのである。そんな僕のことを見続けていた彼女は僕に向かって問いかけて来た。そして僕の答えを聞いた後、その女性が僕に手を差し伸べたのだ。僕がその手を握るとその人物は笑みを浮かべながら話を始めたのである。そしてその人物の話によると僕が彼女の恋人になって欲しいと言って来たのだというのだ。そんな彼女に僕は戸惑いを隠せなかった。なぜなら、彼女の言っていることがあまりにも荒唐無稽だったから。だけど僕は、そんな話を否定できる材料を持っていない。

それから、彼女のことを観察してみることにした。すると彼女の正体が少しだけ分かってきた気がする。彼女の話し方はまるで男のようだ。そして仕草に関しても男のような感じである。だけど僕は、この世界で起きていることを思い出してみるとある考えに至ったのだ。そう、僕はこの世界をゲームの世界だと思っているから、このようなことを考えられるんだと。でも僕はその考えを振り払う。この世界が僕の知る世界だと思えないからである。

「ごめんね、ちょっと混乱してしまって。いきなりこんなこと言ってきて」

「あぁ、大丈夫だよ」

そう言うと僕は自分のことを名前と年齢しか言えない状態で自己紹介をした。そんな僕に彼女は興味を抱いてくれたみたいである。そんな彼女と会話を続けて行くうちに、僕は【クレア】の本当の目的を理解することが出来たのだ。その瞬間、僕と【剣姫の騎士】が結ばれる運命になっているということと、それを妨害する為に僕は【クレア】と【剣姫】と行動をともにする必要があるということまでを。

僕と【剣姫】と別れ、僕は【クレア】に案内されながら屋敷の中を移動していく。するとそこには一人の執事と思われる人物が【クレア】のこと待っていたのだ。そして【クレア】と一緒にいた【剣姫の騎士】である僕を見ると【クレア】と一緒にいる【クレア】を見ている男性と、【クレア】と一緒にいる僕を凝視している男性の2人がいた。そしてその人達も、僕と【剣姫】と同じような服装をしていることから、おそらく【剣姫】の関係者だということがわかったのである。

その3人と一緒に食事をすることになった僕と【クレア】は、お互いのことを知っていく。そしてわかったことは【剣姫】の護衛とメイドということだ。【剣姫の騎士】である僕は、この場にいる誰よりも強くないといけないのだ。そして僕が【クレア】と一緒にいることは、僕が弱いとこの場の全員に見られていることになるのである。その事に焦っていた僕だったが、そこで僕は、【剣姫の騎士】という存在の価値を改めて実感する。

それは、【剣姫の騎士】が【剣姫】の護衛役でありその身を守るために存在しているからだ。だからこそ、【剣姫の騎士】として相応しい力を持っているというところを見せる必要があり、その力を証明しなければならないということである。その話を聞いた時に、【クレア】の目が鋭くなったことに僕は気づく。僕は【クレア】のその表情を見逃さなかった。それだけで、僕の中の緊張が最高潮にまで達することになる。そして【クレア】と食事を終え部屋に戻った僕の元に1通の手紙が届く。それを開けて確認してみた僕の目には驚きの文字があった。その手紙には、今日あった模擬戦での出来事が書かれていると書かれてある。その事を僕に伝えると僕はすぐに行動を開始した。そして、僕の目の前に現れた【クレア】に【真島光輝】がどれだけの力を持ち合わせた騎士であるかということを示すための準備をするのであった。

僕は、その模擬戦の場所に急いで向かうことにした。

その道のりはとても長いものだったのだ。

その理由としては、その場所へ向かう為の移動手段が馬に乗るか歩くかしかなかったためである。僕はその事実を知った時かなりショックな思いをしたのを覚えている。なぜなら僕は馬車などという乗り物を生まれてから乗ったことがなかったから。そんな理由で移動にかなりの時間を使ってしまったのだ。

「ここがその場所ですか?」

僕は【クレア】が用意した場所に到着した。

そして、僕の視界に飛び込んできたのは大きな建物であり僕と【クレア】は一緒に建物の中に入って行くのである。

「ここは闘技場となっております。ここに【剣姫】が既に待機しておりますのでお会いになりましょう」

僕は、【クレア】に連れられて【剣姫】がいる控室へと向かった。

その道中、僕は疑問を抱いていたのだ。

なぜ、僕なんかが【剣姫の騎士】になったのか。

どうして僕は選ばれたのだろう、と。

僕はそんなことを考えながら【クレア】の後ろを歩いて行った。

そうしている間に【剣姫】がいる部屋に辿り着くのだった。

「よく来てくれたわね、私は貴女の主人になる【クレア=ルゥムティ】です。これからよろしくお願いしますね、剣姫様」

(やっぱり俺のことを剣姫と呼んでたんだ)

【クレア=ルゥムティ】の挨拶を受けた僕は自分の耳を疑う。【剣姫】と呼ばれている人の性別は女性だということは、先ほど会ったことでわかっている。そして目の前の人物は明らかに女である。

しかし、目の前の相手は間違いなく【クレア】と名乗っていたのである。僕はその事に動揺を隠しきれない。だって僕の中で目の前の人は【剣姫の騎士】となっているのだから。そんな僕の気持ちに気がついたのか目の前の人は僕の方をジッと見てくるのである。その視線を感じた瞬間に、背筋が凍りついたような錯覚に陥った僕は思わず息を飲んだ。だけど次の瞬間に【クレア】の口元が僅かに歪む。そんな光景を見た僕はさらに混乱してしまう。なぜなら、僕にそんな表情を見せた理由がわからなかったから。僕がそんなことを感じていると【クレア】と【剣姫】の間に何かがあるのだということがわかるのである。だけどその事を考える前に、【クレア】が僕を指差しながら【剣姫】に声をかけた。

「こちらの者が【剣姫の騎士】となった真島光輝様です」

僕はその名前を聞いて衝撃を受ける。

僕は、目の前の【クレア】が言った名前が信じられず固まってしまったのだ。その僕のことを見ていた【剣姫】が僕に向けて声をかけてきた。

「はじめまして、私が貴方の主人となる者です。どうか宜しくお願い致します」

そう言われた僕は、自分の頬を思いっきり叩いた。その行為に驚いてしまう【剣姫】であったが、僕はそんな事は気にせずに自分の心を奮い立たせたのである。

目の前の人物が【クレア】と名乗った時、僕は自分の目を疑ってしまった。その理由として目の前の女性が僕と同じぐらいの身長しかないのである。その事から僕は、この人物が男だと思ってしまったのだ。だが実際は違っており目の前の人が、僕のことを『剣姫の騎士』と認めたのだと言う。

そして僕はその事を聞き、目の前の女性に対しての印象が一気に変わった。というのも、その女性は見た目の美しさはもちろんなのだがその強さが半端ではないのだ。

そうして僕の頭の中にある考えが浮かぶ。

僕の目の前に立っている女性は【剣姫】ではなく別の誰かなのではないか? もしくは僕のことを試しているのではないかと。だからこそ僕はその人に自分を認めてもらうために全力を尽くすことにする。

それから僕と剣姫の騎士との模擬戦が始まるのだが、僕は自分の考えが間違っているのだと思い知らされる事になる。その出来事というのは僕と剣姫の騎士との戦いの最中に僕の体がいきなり動き出したのである。そして剣を何度も振るっては、相手の体を斬り刻んでいったのだ。その結果、僕は【剣姫の騎士】の称号を【クレア】と名乗る人物からもぎ取ることに成功するのである。

僕が【クレア】と出会ってからは早かった。まず最初に行われたこととして【クレア】は僕を呼び出し【クレア】の前で膝まづかせながら僕が【剣姫】の騎士であるという証明を行なったのだ。僕はそんな光景をただ黙って見ていることしかできなかった。なぜならその行為は【クレア】の機嫌を損なうことになると僕は理解していたからである。

その事で僕は焦った。僕の予想通りであれば【クレア】の機嫌は悪くなっていく一方で僕が【クレア】に認められる可能性が失われてしまうと思えたからだ。だから僕は自分のことをアピールすることにした。【クレア】を驚かせれば【クレア】も僕を認めたくなるかもしれないと思ったから。その考えを実行に移す為の行動を開始した僕は【クレア】の手を取るのである。その突然の行動で驚く彼女であったが、それだけでなく僕は【クレア】の手に口づけをした。その事に僕は心臓が高鳴るほどの興奮を感じていたのだ。そして、僕が唇を離すと彼女は呆然と立ち尽くし僕の方を見つめてくる。その瞳には驚愕が映し出されていたのだ。

そんな【クレア】の反応を確かめた後、僕は彼女に自分の気持ちを伝える。そして僕は【クレア】と結ばれたいと強く願った。すると【剣姫の騎士】として認められた時に現れたウィンドウが消えていくと同時に僕の目の前に1人の女性が姿を現す。

そして【クレア】はその姿を見て涙を溢す。その姿を見た僕も同様に涙を浮かべることになった。それはなぜかというと【クレア】の前に現れた人物は僕が知っている人の姿形をしていたからだ。そう、僕の前に現れたのは僕の恋人でもある女性の姿であった。その人の名前を僕も【クレア】も知っていた。だからこそ僕と【クレア】は驚きを隠せない。その人とは僕にとってかけがえのない存在であり僕の命に代えてでも守ろうと心に誓った存在であるのである。

その人は、僕達が通う高校の担任教師である田中先生であったのだ。僕はそのことに驚きながらも彼女の名前を口にする。そうすることで彼女と再び会話が出来ると思っていたから。しかし彼女は返事をしてくれないどころか何も喋らないのである。しかも僕の言葉に反応すらしないのである。

そんな彼女を前にして僕は涙を流し続けるしかなかった。そんな時、【クレア】は僕にある提案をする。

その方法を聞いた時、僕は一瞬だけ躊躇してしまった。だけどそれが一番手っ取り早いと思い、【クレア】に頼むことにしたのだった。その方法は【剣姫】の騎士になったことを認める儀式を行なうというものだった。その内容は、お互いに口移しをしながら相手に血を飲ませるというもの。そして、【剣姫】の騎士が、【剣姫】と交わす契りがこの契約ということになるそうだ。

こうして、目の前の人物が本当に自分の知る人であったという事を知ることになった僕達は契約を結ぶ為にお互いを引き寄せ合うのであった。それは、これから僕と【クレア】が本当の意味で結ばれることを意味したのであった。そう、【クレア】に自分の血を与え僕もまた同じことをしてもらうという行為を行う為に。

僕と【クレア】がお互いの顔を近づけようとした時である。僕の目の前にあった【クレア】の首が何者かによって切断されてしまった。そんな事実に驚いた僕は咄嵯にその場から飛び退いたのだ。その判断が幸いしたのか僕が居たところに何かが飛んできたのだ。その正体を確かめるため振り返った僕は自分の視界に飛び込んできた物を見て言葉を失う。なぜならそこには、【クレア】だったモノが地面に落ちている姿が目に入ったのだから。そんな状況で僕は一体何が起こったのかと周囲を警戒したのだが、その時に背後で人の気配を感じた僕は反射的にそちらへと視線を向ける。

そして僕はまたもや驚いてしまった。なぜならそこに立っていた人物を僕はよく知っており、その人物のことを愛おしいと感じているから。そう、その人は僕の最愛の人であり僕にとても優しい感情を向けてくれる人物、そう僕の恋人である【美咲】の容姿をしているのだ。そんな僕の目の前には僕を優しく抱きしめてくれている女性の【クレア】がいた。その女性は【クレア】とは違い身長は高く大人びた感じの印象だった。しかしその体から溢れるような美しさを感じ取れたのである。

僕は目の前にいる女性が【クレア】だということはわかっていた。だが、どうしても目の前の女性が自分のよく知る【クレア】なのかと疑いを持ってしまう。しかし次の瞬間に目の前にいたはずの【クレア】の姿が見えなくなってしまう。それと同時に僕の腕の中にいた女性が僕の目の前に現れる。僕はその光景に驚くと共に僕の事をしっかりと受け止めてくれた女性のことを愛しいと思えるようになっていたのだ。そして、僕は目の前の人物の顔を確認する。その人の顔を確認した僕は驚きとともに目の前の女性を好きになってしまう気持ちが抑えられなくなるのである。

なぜなら僕の前に姿を現したその人は僕の最愛の人である、美咲の姿をしているのだ。その事で僕は動揺してしまい、思わず口を塞いでしまった。そうしなければ目の前の女性に対して変な言葉を発してしまうと怖くなったから。そう、目の前の女性と僕の大切な恋人は同一人物なのだと気がついたから。そんな事を考えた後に僕の口が開放される。

その瞬間、目の前の女性から「大丈夫よ」という言葉をもらった僕は少し落ち着いた。その女性と目が合った僕は胸が熱くなり心の底からの喜びを感じていると、「私は貴方の恋人の【剣姫の騎士】になったのよ」と言ってくれるのである。その発言を受けて目の前の女性は間違いなく自分の愛する人物である【クレア】だという事がわかった僕は目の前の【クレア】のことが好きになるのを止められないのであった。そして僕は改めて【クレア】に向かって言う。「貴女と夫婦になりたい」と。その言葉を受け取った【クレア】は笑顔を見せてくれるのであった。そして僕の目の前に表示された画面が切り替わったのである。それは新たな契約を結べますという旨の文章が表示されていたんだ。その画面に書かれていた内容を読んでみたんだけれど、正直意味不明でしかなかったんだよね。だってさ、どうみても僕とこの場にいない【美咲(彼女)】との関係を契約するものに思えて仕方がなかったんだもの。まぁこの世界に存在しないはずの名前が出てきたことでも僕にとっては凄く衝撃的ではあったんだけどね。

そう思いながらも目の前の状況を確認してみると僕と契約を交わす為の準備が整ったらしいことが見てわかる。つまりは目の前の女性との婚姻の契約の儀式が開始されたわけだ。

目の前に現れた契約文の内容を確認してみることにした。その内容というのが実に不思議なもので、どう見ても僕の事を知っている者でなければわからないであろう事が書かれているのである。例えば『お前が【剣姫の騎士】となることをここに誓う』とか『今から行われる【クレア】と剣の誓いを受け入れ【クレア】と結ばれん』みたいな事が書かれている。そんな文言を読みながら僕が【クレア】の事を見ると僕と同じように困惑しているのが伺える。そして僕はあることに気づく。そう【クレア】の名前のところだけが空欄になっているのである。

そんな僕の目の前で【クレア】が契約文の読み上げを始めた。その事に僕は何も抵抗せずに耳を傾けたのである。それは僕自身、自分の身に起きようとしていることに興味があり知りたいと思う気持ちがあったからである。それに、先程は理解出来なかったが【剣姫の騎士】という存在を僕は既に認識し受け入れていた。そして【剣姫の騎士】という称号がどんなものかを理解した時、僕はその契約をすることを決めたのだ。なぜなら【クレア】を絶対に守ってみせると決意を新たにすることができたからである。

僕は【クレア】の読み上げる契約書の内容の全てを聞き終えた僕は【クレア】が手に持っている短剣を受け取る。その刃を見た時僕は自分の手にその武器が刺されることを確信する。なぜならその武器が、契約者の命を奪うためのものだと分かったから。そう【クレア】は自分を犠牲にしてでも僕の願いに応えようとしてくれたのだと。そんな彼女の覚悟を知った僕は嬉しく思ったと同時に彼女の行動に応えるべく、彼女の持つ刃物を自らの腕に突き刺し切り裂いて行くのであった。そうして僕は痛みを感じることなく自らの血で染まるのである。そうすると僕の意思に反して体が勝手に動き出した。まるで誰かに乗り移られているかの様に僕の体は自由がきかないのである。しかし、それもすぐに治まったのだ。その出来事はほんの数秒の出来事であったけど。そして【クレア】は自分の腕を切ってくれたことを労ってくれた後、僕に向けてこう口にしたのである。「私の全てを貴方に捧げるわ」と、その言葉で僕は目の前にいる【クレア】が本物の【剣姫の騎士】であるということを知ることが出来たのだ。そして、それと同時に僕の中にいる何者かも僕と同じ存在であることも。僕は目の前に居る人物の正体が誰であるかを知る為にその名前を口にする。そうする事によって目の前に映る人物は姿を変えて僕の良く知る女性の姿へと変化したのであった。その女性こそが【美咲】の姿形をしていて、その人は【美咲】本人なのだ。そのことに驚きと嬉しさを感じると同時に、目の前にいる女性が僕を騙そうとしているのではないか? と疑いの気持ちを持つ。そう。僕にとって目の前の女性は【美咲】であってそうではないからだ。だけど目の前の女性は確かに【美咲】であり【美咲】は僕の事を忘れてしまっているのかもしれない。だからこそ目の前の女性は【美咲】であると断言できるのである。なぜなら目の前の【美咲】は僕の恋人で、僕と将来を誓い合っていた女性でもあるから。その事実は僕をとても安心させてくれた。僕は自分の中に【美咲】がいるという事だけでも嬉しいのである。そしてその事を【クレア】に伝えると彼女はとても喜んでくれていた。その姿を見ていたら僕自身も嬉しくなり幸せな気持ちになる。その気持ちを抱いた時に、僕の意識が薄れ始めてしまい気がつけばまた森の中に立っていたのであった。そして、【クレア】の口から驚くべき事実を聞かされてしまう。

そう、【美咲】が【剣姫の騎士】になってくれたことにより、僕達の繋がりが強くなったことで、僕と【美咲】の記憶が混ざり合い始めていると、告げられたのだ。そして【美咲】と僕がお互いの事を好き合っていると、【クレア】は伝えてきたのである。僕はそれを素直に受け止めた。何故なら、それは当たり前のことであり、僕達はそういう関係にあったという事を思い出しているから。そして僕はこの世界の【美咲】と結ばれることを心に決める。それは僕の愛する人が目の前に存在しているからこそ抱いた感情だった。だから僕は、この世界に存在するもう一人の僕が、これから先、目の前に現れるのであろう僕に嫉妬心を抱きつつその相手が現れるのを待つことに決めたのだった。その僕の表情を見た目の前の【クレア】はとても幸せそうな顔をしていたんだ。その事から、きっと、僕と【美咲】の未来は、この世界でも変わらないのだという事実がわかる。僕はそれがとても誇らしく感じたのであった。

僕とクレアが二人だけで買い物をした日。その翌日から、僕は領地内で起きている異変にいち早く気づくことが出来るようになるための訓練を開始することにした。というのも昨日の夜。僕はクレアと一緒に夕食を摂っていた際にクレアから提案された訓練をするためにこうして早急に取り組んでいるわけである。そんなわけなので、僕は朝早くから屋敷を出て王都に向かって歩いている。そんな時、目の前に突然魔法陣が現れそこから一人の女の子が出てくる。その人は僕のよく知っている人だった。その子の名前は【レイナ】。そう。僕の親友である。

僕はレイナのことを見据えると笑顔を見せて挨拶をする。

「おはよう。【レイナ】。久しぶりだね」

僕は久しぶりに再会した友達との再会に心躍っていたのであった。そして僕は目の前に姿を現した人物の名前を呼ぶのであった。すると目の前に立っている人物が返事を返してくれる。

その声を聞いて僕は一瞬ドキッとした。それは僕の大切な恋人である【美咲】の声によく似ていたから。そして目の前の人物がこちらに歩み寄ってくる。

目の前にやってきた女性は僕の予想通り、僕がよく知っている人物であり親友の【美咲】だった。僕はその姿を見るや否や胸が熱くなる感覚を覚えたんだ。目の前の人は間違いなく僕の大切な恋人なのだと実感したから。

そんな事を思っていた時、僕の目の前に現れた女性が言葉を口にする。「おはようございます。【タクト】」その言葉を聞いた僕はその人の事を見て心の中で歓喜していた。なぜならその人の言葉は、間違いなく【クレア】の言葉だったから。僕はその事を確かめたくなって、【クレア】と言葉を交わすのであった。

「久しぶりだね。僕の愛する人の一人で、僕が心から大切に想っている人」そう伝えると僕は目の前の人と目が合うと胸が高鳴ったのである。

その人の顔は僕にとってかけがえのない存在である、僕の恋人【美咲】の顔そのもので間違いなかったのだ。そんな目の前の人から僕の愛する人である【美咲】は消えてしまっていたはずだったので、今、目の前に居る存在に対して疑問を抱くと共に違和感を覚えるのである。そう。僕の目の前に居るのは【クレア】なはずなのに、僕に優しく微笑んでくるその女性の笑顔は僕の大好きな【美咲】の笑顔と酷似しており、僕が今目の前にしている存在を疑ってしまうのだ。それは僕の目から見ても僕の知る【クレア】の姿とは異なっている部分があったからである。僕は目の前の女性が、【クレア】ではない別の何かに見え始めていたのも一つの理由になる。

そのせいもあってか、目の前の女性のことが、この場にいるのが本当に【クレア】なのかと確認してしまう僕がいたのだ。

僕は自分の事を愛していてくれる【クレア】の事が大好きであり、僕が出会った中で最も愛している女性でもあるのだから。そんな僕の様子を察知してくれた目の前の人は言う。そう、僕のことを【タクト】と呼ぶ女性から、【クレア】の体を借りているという事を口にしたのである。そう。その言葉を耳にして、僕の中に芽生えつつあった疑惑は晴れる。そう、目の前の人物こそが【クレア】なんだと、そう理解できたから。

その証拠として、目の前の【クレア】が自分のステータスを見せてくれたのである。そう。そこには僕の恋人である【美咲】の名前が記載されているのである。僕は目の前の存在を受け入れることに決めて目の前の女性の事を観察する事にしたのである。

僕はその事に気付かないふりをして目の前の【クレア】に声をかける。「今日は何をしていたの?」すると目の前の女性は答えてくれたのだ。僕はその言葉を聞く事で彼女が今どこに居るのかを確認する。そう、僕は、目の前の女性と話をすることで少しでも多くの情報を得たかったのだ。

僕は彼女に質問をすると彼女は僕の知りたいことを的確に話してくれて、それを踏まえて僕は彼女と話していこうと決める。そうする事によって得られるものがあると信じたからだ。

そうやって彼女と会話をしていてわかった事は、目の前の女性が、僕が今まで会ってきたどの人とも異なる雰囲気をまとっていることが伺える。

それは何故かと言うと彼女は僕の事をとても良く気にかけてくれるのだけど、他の仲間達がどうなっているのかなど、僕の身近な人の事をまるで気にしていないような印象を受けるのだ。

そんな風に考えていると、突然僕の前に魔法陣が現れるとその中から【クレア】が姿を現す。僕はその姿を見てしまうとつい反射的に笑みを浮かべてしまう。そんな僕の様子を見て目の前の人物は少し困った顔をするのであった。

僕は目の前に姿を見せた【クレア】の様子が普段とは違うように感じて戸惑う。それはその表情は僕に好意を抱いているのだけど、どこかその視線に鋭さがあり警戒心を持っているのが分かったからなのだ。だからこそ僕は、目の前に存在している少女を改めてじっくり観察してみる。そうしてみたのだが、特に変わったところは見られないので僕は、目の前に存在している人物が【クレア】であることに間違いはないと判断する。だが、どうしてこんなにも僕の目の前に【クレア】が存在している女性の姿が違うものになってしまったんだろうか? その謎について思考を巡らせようとした時である。目の前に突然魔法陣が出現する。そしてその魔法陣の中から僕の大切な人である【美咲】が現れたのだ。僕の前に突如出現した美咲に僕の頭は真っ白になる。その瞬間である。僕の中で、ある事実を思いだした。そう。それは目の前に【美咲】が存在するのはおかしいという事実である。そう。それは、目の前に現れている女性が僕の愛する恋人である【美咲】ではないと僕は思い込んでいるから。そして僕は目の前に現れているのが【美咲】ではなく、その身体を使っている誰かだと認識すると、僕はすぐに美咲が目の前に現れたことに対して、【クレア】に問いただしたのである。何故ここに現れたんだ! って。

そう口にすると目の前の人物が答える。それは目の前にいるのが本物の【美咲】で僕の恋人だと言ってきたのである。そんな事を聞かされても僕の頭の処理が追いつかず僕は目の前の少女が偽物ではないかと思い始めたんだ。でも、その考えを否定するかのような行動をとる。目の前に居る【美咲】を名乗る女性は【美咲】の姿で僕に抱きついてきてくれたのである。しかも僕に好意を向けながら。その事によって、目の前の人が【美咲】であるのは確かなんだと思うと安心してしまった僕は、目の前に居た【美咲】と名乗る女性の事を強く抱きしめると頭を撫でる。

目の前で繰り広げられているやり取りを目にしていたもう一人の女性は、驚きの表情をしながら固まってしまっている。それもそうだ。僕がこの場に現れていた人物に対して強い愛情を示すと【美咲】と名乗る人物は、嬉しそうに頬を赤らめて恥ずかしそうにしながらも、甘えてくる様子を見せているのだ。その光景を見た僕の心の中の何かが切れそうになると同時に僕の心の中に黒いものが広がっていくのがわかる。

僕にはその正体がわからないけど僕の中の感情が急激に膨れ上がっていくのを感じるのであった。そして、目の前に現れている女性が僕の事を心の底から好いてくれているのはわかっていたのに、僕は嫉妬心を抑えられずに思わずその女性のことを突き飛ばしてしまう。

そうしてしまってからはっとする。僕としたことがなんて事をしてしまっだんだ。僕の目の前では先ほどまで僕を包み込んでくれそうになっていた女性が地面へと崩れ落ちていく。

その瞬間、僕の心に先ほどの負の感情が溢れ出してくる。僕に抱かれそうになったことで喜びに満ち溢れ幸せそうにしている僕の目の前に存在する女性の姿が、僕の視界に入るとその気持ちは更に大きくなるばかり。僕の心の中にある負の感情は僕の理性を押しのけて暴走し始めていたのである。そのおかげで僕の体は無意識のうちに目の前の女性のことを拘束すると無理やりキスをしていた。そうすると僕の中に残っていたわずかな冷静な意識さえも消え去り、ただ目の前の存在と行為に溺れることだけしか頭になくなるのであった。僕の唇を奪おうとしている女性の姿を間近に見た僕の瞳の中には、怒りと悲しみの感情が混ざり合い僕の心の中を支配し始めていたのだ。そう。僕の恋人の【美咲】を騙っているその女性に対する殺意を抱くまでに。

目の前に僕の事を心から愛している女性が僕の目の前に現れた時。僕の目の前にいた女性は、僕にとってかけがえのない存在である女性【美咲】の肉体を借りて僕の目の前に現れる。その女性は僕の事を心底から愛してくれる存在だ。僕にとっては【クレア】も目の前の女性も、等しく大切な僕の宝物なんだと。そんな大切な二人から想いをぶつけられた僕の心は激しく揺れ動く。その二人のことを同時に相手取る事は出来るだろうけど、どちらか一方を選んだ時に、もう一方の事が気がかりになってしまうのだ。それが嫌だった。僕はどちらを選んでも同じぐらいの覚悟をもって愛すると決めたはずなのに結局はどちらも選べなかったのだ。

そんな僕に対して目の前の【クレア】の姿を持つ女性が強く僕のことを見つめると共に、その視線に鋭さが帯びるのを感じとる。僕は彼女の口から言葉が出るのが怖くなってしまい目を背けようとしてしまう。だけど僕の両目は彼女に囚われており動かすことが出来なかった。僕の心の中で暴れまわっている感情を必死に抑え込もうとするが、抑え込むことが出来ず僕はその場から離れるように後ずさる。そうすると目の前にいる存在は、悲しげな顔をしてから、何かを言いかけるが言葉が出てこなかったのか口をつぐんでしまう。

その様子を見て罪悪感を覚えた僕だがどうしても僕の目の前にいる女性が【美咲】であると信じられなくなっていたのだ。そんな僕に対して僕の目の前に姿を現した女性の姿形をした者は、自分の事を本物であると主張し始めるのである。僕は自分の中に生まれた疑問を晴らすために目の前に立っている【クレア】の姿を持った者を自分の眼で確認するために手を伸ばすと、その者の肩に触れるのである。僕はその女性の事をよく観察し始める。

僕は【クレア】の姿になった【美咲】をまじかに見ながらも僕は本当に【クレア】の身体が目の前の女性のものだと理解できなくなってしまった。僕の事を本当に好きそうにして接してくれている女性【美咲】の顔は【クレア】のものとは違い過ぎるから。

そこで僕の脳裏にあることがよぎる。それは目の前の女性が僕の知っている【クレア】じゃないのであれば、僕の目の前に姿を表せたのはどういう理由なのかということだ。その理由がわからないままだと僕は彼女に対しての不信感を募らせる事になりそうな予感がするからこそ僕はそのことを聞こうとする。そうすることで、僕の頭の中にある可能性が生まれようとしていたのだから。しかし僕の問いかけに対してその答えはすぐに帰ってくることはない。目の前に姿を見せてくれた【クレア】の外見を持ち合わせいる存在が言うには、この【美咲】の身体を借りている状態こそが、本当の自分で【橘】という男性を愛したいと強く願っているからと口にする。それを耳にした僕の脳内に浮かんだ可能性の一つが正しいものであるのなら、目の前の女性が僕に危害を加えないでいてくれている理由は、僕を愛するあまり【美咲】の事を敵視してしまっているということなのだ。そう考えると、僕に危害を与えないためにもこうして【美咲】のフリをしているのではないのかと僕は思うようになる。

そう考えた僕は【クレア】の見た目をした【美咲】に近づき抱きしめる。すると彼女は嬉しそうにしながら僕の胸に顔を埋める。その様子を見てしまうと、彼女が【クレア】であると錯覚させられてしまう。だけど、僕の本能が【クレア】に対して敵意を抱いたままにしてはいけないと語り掛けて来てもいたのだ。だからこそ僕は僕の腕の中にすっぽりと入ってしまった【クレア】の姿をした女性に優しく話しかける。僕の名前は、あなたの名前を尋ねることにした。すると【クレア】の身体を借りてこの世界に存在している彼女は僕のことを好きだと口にしてくれた。

僕がその事実に驚いてしまい呆然と立ち尽くしてしまうと【クレア】の身体を使って僕に近づいてきたのである。その動きを目にして僕は我に返ると目の前の存在が僕に何をしようとしているのかを理解した。僕は咄嵯の出来事で動けなかったが、僕の頬には【クレア】の姿で【美咲】を真似た者が口づけをしてきているのがわかった。だが僕が気が付くよりも先に、何者かの手によって【美咲】の姿で【クレア】の身体を乗っ取り【美咲】として振る舞い続けている存在は吹き飛ばされた。その光景を目の当たりにした【美咲】の姿のまま【クレア】の姿を使い続けた女性は、僕から離れていった。そしてその女性は【美咲】の姿から元に戻ると共に【クレア】が目の前に現れてくれる。

【美咲】の表情を見た瞬間。僕の胸の中にあった黒い感情が一気に晴れていく。それと同時に僕の中に眠っていたはずの僕の理性も戻ってくるのであった。そのせいもあってか僕は今更ながらに目の前の人物が、僕の大切な人であることを再認識する。そう。目の前に現れているのは【美咲】であって【クレア】ではないということを。そして、目の前に姿を現してくれた僕の愛する人は、僕の方を見ながら頬がほんの少しだけ赤くなっていたのである。

「あのさ、僕の為にそこまでして貰わなくてもよかったんだけど」

僕は僕の目の前に居る【美咲】と名乗る少女に話しかけるとその言葉に対して【美咲】と名乗った女性は微笑みながら言葉を返す。

「そんなことありません。だって私は貴方のことを誰より深く愛しているのです。ですから少しでも早くお逢いしたかったんです。それで私の姿になってもらいました。そうしなければ【クレアさんに邪魔されてしまいますし】。それと先ほどの行為は謝罪いたします。私の行動のせいで不快な思いをさせてしまったと思いますし。そのことは謝らせていただきたいと思っています。でも私が貴女のことが好きになってしまったのが悪いわけじゃありません。むしろ嬉しい事なんですよ。それにこれから一緒に暮らしていく中で私ともっと親密な関係になっていきません?そうすればきっとお互いの事を理解し合うことが出来れば私達はお互いに幸せになることが出来るはずです。その方がお互いに良い関係を築き上げていけると思わない?」

目の前の【美咲】を名乗る存在の言葉を耳にして僕の中に残っていた黒い感情が霧散するのと同時に僕の意識が再び飛びそうになったのが分かる。僕の意識を保っていられるのもそろそろ限界かもしれない。

目の前の存在に対して僕には警戒心を解いてはならないとわかっているのに、僕の心の中に生まれた温かい何かに僕は逆らうことが出来ずにそのまま流されてしまうのであった。

僕に甘える【クレア】の姿をした者を見守りつつ。その【クレア】の姿を見て僕の心はざわついていたのだ。

それは僕の目の前に姿を現した人物に【クレア】の気配を感じたからだ。僕の心の中に居座り続けるその感情に身を任せてしまえば僕は、目の前の【クレア】の姿を模した者を僕の目の前に現れた者を愛そうとしてしまう。それが分かっているからこそ僕は、目の前に立っている【クレア】の姿を真似た存在のことを受け入れられなかったのだ。僕は心の中で荒れ狂う負の感情をなんとか抑えつけるべく努力していたのだが。目の前にいる女性【美咲】の姿を模している者は僕のことを見つめると優しい笑みを浮かべた後に、まるで自分の恋人を抱きしめるかのように両手を広げてきたのだ。そうしてくることで僕の中の負の意思をかき消すとともに僕の心を支配しようとしてきたのだ。だけど僕はまだ理性を飛ばすことはなくどうにか持ちこたえ続けていた。

しかし僕が【クレア】の姿を借りた者に心を許しそうになると【クレア】の事を良く知る僕の家族たちが、目の前の女性が【クレア】である事を否定したのである。その事がきっかけで僕の目の前に現れた女性が【クレア】ではなくなり僕のことを誘惑するような事はなくなったのだ。そのことに僕はほっとすると共に目の前に姿を現してくれた【クレア】の身体を使って僕の前に姿を見せてくれた女性【美咲】に感謝の気持ちを抱くのである。僕は僕のことを好きで居続けてくれた彼女に心からの想いを伝えたのだ。そうすると彼女は嬉しそうにしながらも僕の目の前に近寄ってきた。

僕は彼女の顔が自分の目の前まで来た時、僕は彼女に自分の唇を重ね合わせてしまう。そうすると僕の目の前にいる女性は驚いたように身体をびくつかせると共に、瞳を潤ませるのである。僕はその様子を見ているうちに彼女をこのまま放ってはいけないような気がしてしまい僕の中に生まれ始めた欲情を抑えることが出来ないのだった。そう思った直後、僕の身体を衝撃が襲ったのである。何が起こったのかを確認するために周囲を見ると僕のすぐそばに、怒りに顔を歪ませている女性の姿が確認出来た。そして、僕の事を睨んでいる。僕は、その女性に見覚えがあった。何故なら僕の目の前に現れた女性の正体を知っているからだ。

僕がどうして【クレア】の姿を借りた存在の居場所を突き止めたかといえば、目の前に現れている女性を【クレア】と呼ぶには違和感を感じすぎてしまっていた。それ故に目の前で起こっていた光景に対して【クレア】が目の前に現れてくれたと信じる事が出来なかったのである。

僕は自分の目の前にいる女性が本当に僕の事を大切にしてくれていると知ったため、そんな彼女を傷つける行為を行ってしまった自分を酷く恥じるのと同時に後悔の念に駆られていくのである。そうする事によって僕は【クレア】に許して欲しいという欲求に抗うことができなくなりそうになっていたのだ。

目の前の女性は【クレア】の見た目を持っているだけではなく、僕が【クレア】に感じてしまっているものと同等の好意を持ってくれているということが分かったために僕の頭の中ではこの女性が本物の【クレア】であると認めてしまいたいという思いが膨れ上がり始める。だがここで目の前の女性が僕の目の前に姿を現したのは、僕に対して敵意を抱いてしまっているであろう【クレア】の事が理由だと考えて僕は、【クレア】に対して心の底から謝罪をしたのだ。

そうすることで僕の頭の中のもやもやが取れたような感覚を得ることが出来たので目の前に現れている女性を【クレア】だと信じることができたのである。だが僕は目の前に存在している女性が本当に僕の目の前に姿を現してくれた【クレア】かどうか確認する術がない為。僕は【クレア】に向かって問いかける事にした。

「あのさ、君の名前は?」

僕が【クレア】に問いかけると【クレア】はその質問を予想していたのだろう、笑顔をうかべながらもどこか勝ち誇った表情で僕の名前を告げたのである。僕と彼女がお互いの名前を伝えあったその時。僕達は、ようやく本当の意味で再会を果たす事が叶い、僕達二人の間には深い絆が生まれ始めようとしていたのだった。そしてそんな最中。僕の事を好いてくれている女性が目の前にいる女性とそっくりだったことを思い出す。そうして考え込んでしまった僕は、ある可能性に辿り着く。それは僕にとって最悪なものであり。もしもそうであるならば、【美咲さん】は僕の敵になるという事を意味していることになる。僕は【美咲さん】がそんなことをするとは思えない。でも、僕は目の前にいる女性から感じられるものがどうしても【クレア】のものに見えてしまうのだ。そして僕の事を愛しているという発言。そして僕の事を守ると言ってくれた時の彼女の表情を思い出してみると【クレア】の顔立ちをしていたように思えるのだ。

だから僕はその事について目の前に存在している少女に確かめてみる。その事に目の前に居る少女も納得したのか。僕の目の前に姿を表してくれたのは僕の愛しい人であり、僕の大好きな人である【美咲さん】だと自ら語ってくれたのであった。僕は彼女が僕の前に現れてくれたという事実に安堵しつつも僕は改めて彼女に謝罪を行ったのである。そうする事で彼女は微笑みながら僕の身体に腕を回してきて、僕を抱き寄せるのであった。

その光景を目の当たりにした【クレア】の姿をした存在は僕の事を強く抱きしめるのである。僕はその光景を目にして心の中に暖かい感情が湧き上がり。僕のことを想っていてくれる人がいるというだけで僕の中に溢れ出そうになっていた不安感や焦燥が綺麗に消えていくのが分かったのだ。そうしていると僕は自分が【クレア】に心を奪われそうになってしまっていた理由を自覚する。それは、僕は目の前の女性が僕に対して向けてくれる想いの強さと暖かさに惹かれてしまっていたのかもしれない。

だから僕はこの目の前に存在している【美咲】に僕の全てを委ねたくなってしまうほど。目の前の存在のことが気になり始めているのだ。だからこそ僕は僕の心の中で芽生えた欲望に逆らうことが出来ず。僕の意識は徐々に薄れていきそうなのを感じていたのである。僕のそんな様子を見ていた僕の家族たちには僕の意識が失われてしまう前に声をかけてくれたのだが僕はその声に答えられる余裕がなく、僕の目の前に現れた女性の胸元に頭を擦り付けるような形で寄り添いながら意識を失う寸前にまで陥ってしまったのであった。

それからしばらくしてから僕が目を覚ます。すると、僕の事を見守っていてくれたらしい皆んなが心配げにこちらを見つめてきていたのだが。その中でも一際、僕のことを心配していてくれたのが僕の愛している人のようで、そんな彼女は僕を見下ろしながら優しく微笑みかけてくれた。そのおかげで僕は安心してもう一度眠りにつくことが出来るようになるのであった。

ただそこで僕は先ほどの事を思い返していたのだ。

【クレア】と僕の事を好きになった【美咲さん】の姿をしている女性を見守りながら、その二人が同時に現れ、しかもお互いに僕のことを愛してくれる女性が現れてしまったのだ。それはつまり僕と結ばれて欲しいと思う相手が3人もいるということになる。そしてそれは同時に3人と付き合わなくてはならないということになってしまう。僕はどうすれば良いのか悩んでしまう。でも僕は1人だけしか選ぶことができないと心に決めてしまっているのだ。それが僕の事をここまで愛してくれていて、そして僕の事を守ってあげたいと思ってくれている女性なのだから、僕のことをそこまで愛していてくれている女性に申し訳ないと思えてしまった。そして僕は、目の前の女性が僕の事を本当に想っているんだということを理解してしまったのだ。それに、僕の目の前に姿を見せてくれた女性の心の声を聞くことで僕は確信を持てたのだ。目の前の女性も、もう一人の存在も同じ存在であると言う事実にだ。それ故に彼女たちは同じ存在であって別の個体であり、一人の人間が分裂できるなんて事はありえない。もしできたとしたらそれはそれで、僕の事を本気で好きになっていてくれていることが理解できるので僕はとても嬉しいのだ。

そう思い、僕には目の前に姿を現してくれた存在に対してお礼を言った。

そうすると僕の目の前にいる女性は僕の言葉がよっぽど嬉しかったのか。僕の頬に唇を押し当ててくれたのだ。それを見守るように見ていた家族たちは、その様子で察することができたようだ。僕は今の状況が幸せすぎると思いながら、心が温かくなりすぎて逆に不安になってしまったくらいである。

僕の目の前に現れた女性の話を聞いていたが。僕の事を助けたいと思っていたのは僕の事を愛し続けていた女性だけではなくて、僕の家族たちも含まれていたのだ。そう言う理由で僕は、【クレア】の身体を使って僕の前に現れた存在のことを受け入れようとしてしまって。彼女の事を守ろうとする意思を心の中で強く感じ取ってしまい僕は彼女に身を任せてしまいたいと思った。しかし【クレア】の身体を使って目の前に現れた女性が【美咲】であることがわかった瞬間に僕の中の欲情は消え去り【クレア】に対する想いが強くなっていき僕は彼女と触れ合うことが出来なくなってしまったのだ。そして僕達は離れ離れになってしまい僕だけがこの場に取り残されてしまったのだ。

しかし目の前に姿を現した【クレア】は僕の事を好きだと言い続けてくれており、そんな【クレア】の事を見ていると僕の中には彼女をこのまま放っておくべきではないという思いが生まれて来て。僕の頭の中では、僕に出来ることをしようと思い、僕はこの世界に降り立ってきた理由を思い出して動き出したのだ。僕は【クレア】の事を守ると決めた以上、僕がやれることは一つだけしかないと思っている。

僕は僕を信頼してくれている家族たちがいるこの場所を何がなんでも死守しなければならないと考えている。僕は、この世界にやってきた時から、その使命を胸に刻み込んでいたのだから僕は目の前にいる女性の事が気になる気持ちを押さえつけながら、僕を心から愛し続けてくれている存在に、感謝をしながら彼女から離れるのだった。僕は彼女に対して心からのお礼を何度も口にしながら、彼女の手を握るのである。そうすると、僕達の手を繋いでいる光景を見て僕の事を本当に好きな女性が泣き始めてしまい。僕はそんな彼女のことを抱きしめたのだ。僕は目の前に姿を現した女性が、目の前にいる存在と同一人物であることを理解しているし。彼女も僕の事を助けてくれようとしているのである。

そしてそんな彼女の好意を利用して僕は彼女に触れようとしたのである。そして、彼女が僕の事を好きでいてくれているということが伝わると同時に僕は、自分の中に溢れ出してきた欲情を必死に抑え込むのに精一杯になっていたのだ。

僕は目の前にいる女性が、自分の大切な人であるということを改めて確認したことで、僕の中に生まれた邪な感情を何とか押さえ込むことにすることに成功したのである。だがそれと同時に僕の頭の中では一つの疑問が生まれた。目の前に現れている女性が【美咲さん】の姿形をしていながらも、【美咲さん】と同じ心を持っていて僕を心から好いてくれているのだ。そして、そんな彼女に対して僕の理性が崩壊してしまうような状況に陥りかけているのだ。僕は、僕の目の前にいる【クレア】と自分の愛する人である【美咲さん】を重ねてしまうことへの恐怖を感じてしまっていたのである。

そんな風に考えていると僕の事をずっと見つめていた目の前の女性は突然に抱きついて来たので、僕としてはその行動を受け止めなければと考えたが僕は咄嵯に彼女の肩を掴み引き離してしまう。僕の目の前にいた女性は悲しそうな表情をしていたが僕にとってはそれだけのことをしてもしなくても同じ結果に辿り着くことが見えていた為に僕は何もできなかったのである。

「ごめんね」

僕はその一言を口にするのであった。その言葉を発してしまった後ではもう遅かったのだが僕は謝らずにはいられなかったのだ。僕は、目の前にいる存在に心を奪われたがために目の前に存在していた女性に辛い思いをさせる羽目になってしまった。そしてその言葉を最後に僕はその場にいた全員に向かってこう伝えたのであった。

「ちょっと用事があるから僕はここで別行動をとるよ。みんなも何かあった時にはお互いのフォローをして欲しい。それと、僕以外の人達を頼むよ。そして僕の家族をよろしく頼んだよ」

そうして、目の前の存在に対して、僕は、【クレア】に向かって謝罪をした。目の前の【クレア】に対して僕は謝罪をする以外に方法が見つからなかったのだ。

【クレア】の姿をした女性を目の前にして彼女の顔を見るとどうしても僕は僕のことを愛してくれていた人の姿を思い出してしまう。そんな状態で僕は、彼女の目の前で【美咲さん】と重なってしまう事を恐れずにはいられなくなってしまう。僕が僕の事を好きだと言ってくれる人を前にするとどうしても重ねてしまう可能性が高くなり。僕は自分自身で自分を制御できなくなってくることを知っているからだ。

だから、僕の心の中にある感情が【クレア】に向ける感情なのか【美咲さん】に抱いている愛情の感情なのか区別がつかなくなり。そうなった時。僕の心の内に浮かんできていた欲望に忠実に従ってしまい。僕の大好きな人に無理矢理襲いかかってしまいそうになりかねない。

そうなってしまった時に、僕はきっと後悔してしまい、二度と立ち直れなくなるほどの傷を負うことになると思うんだ。

そしてそれは同時に家族に対しても迷惑をかけてしまい最悪な形で別れることになるだろうし、僕の事を大好きな家族達との溝を決定的なものにしてしまうに違いない。僕はそうならないようにするためにも僕の目の前に姿を現してくれた【クレア】と距離を取るべきだと判断したのだ。だからこそ僕には今このタイミングでの別行動しか思い浮かばなかった。そうしなければ目の前に存在している女性を僕の目の前で苦しめる事になってしまうから。だからこそ僕は僕の事を愛し続けてくれる人に対して心苦しい選択を行うことにしたのだ。

「私から離れてしまうんですか? 私のことが嫌になられたのですか?」

目の前の女性に僕はそんなことを聞かれてしまう。しかし僕はそんなことはないと否定するのである。しかし僕の口から出て来る言葉は自分の耳を通しても信用出来ないものになってしまっており、僕は自分が何を話しているのかすらよく分からなくなっていたのだ。だから目の前の女性を僕の視界に入らないようにしておけば僕が自分で自分に言い聞かせられるはずだと思い僕は目の前の女性に後ろを向いてもらい僕もすぐに背中を向けたのであった。そして、僕の家族達に、この事を告げて僕は、この場所を離れるのであった。僕の心の中には僕が大切にしている家族に対して嘘をつくことに胸を痛めていたが。それでも僕はこの場所から離れることを選択したのだ。そうでなければ僕は、僕に好意を抱いてくれている人の心を僕のせいで滅茶苦茶にしそうで怖かったからこその選択だった。

そうして、僕はこの場所を離れて移動しようとしたのだが僕は、この場所にいる女性から離れて一人になると、何故か僕の身体の中から急激に力が失われていくのを感じたのである。僕の身体に起き始めていた異変の原因は、僕のことを好き好き大好き超愛してると言わんばかりに好意を向けてくる僕の目の前に現れている女性のせいだと思ったのだが。それとは別にもう一つの要因があり僕はそのことを気にしなければいけないと僕は思ったのだ。何故なら僕のことを愛してくれている女性に抱きつかれている間は気が付かなかったんだけれども、僕の力が少しずつ減っている原因を作ったのは間違いなく僕の目の前に現れた女性の方なのだから。

だけど僕はそんな事を気にする前に、この世界に降り立って初めて遭遇することになった【クレア】と目の前にいる存在が僕が元の世界に帰る方法を見つけてくれないかぎり僕にはこの世界を生きる術が無いのだと理解したのである。それは僕の事を心から好きだといってくれている目の前にいる存在も例外ではなくて僕達が生き残るためには一緒にこの世界に残ると言う選択肢を選ばざる負えないのかもしれない。

そう思って僕は僕自身の心が揺れ動いてしまった。そして僕の頭の中では僕のことを心の底から好きになった二人の女性が思い浮かんできて僕の頭の中で争いが始まってしまうのだ。僕は僕の目の前に現れている女性から距離を離すことを決めたと言うのに、目の前の女性に対しての愛おしさを心の中に強く感じるようになっていたのだ。僕は目の前に現れた女性に対する欲情を抑えることができなくなっていることに気付き始めたのである。だから僕の中で僕は僕の目の前にいる女性とどうしたら幸せになることができるかと考え始めてしまっていた。僕の中の葛藤は凄まじいものであり、目の前に現れている女性に手を触れてしまえればどれだけ幸せかと思ってしまい僕は目の前にいる女性の肩に僕の手を伸ばして触れようとしたのである。

するとその瞬間。僕が手にしようとしていた女性の体が僕の体の中から消え去り僕の目の前には何も無い状態になっていた。そしてその状況に困惑していたら僕の頭の中に直接語りかけてくる声があったのだ。僕は、その出来事によって僕の意思に反して目の前に現れた女性が僕に触れようとしていたのだということを理解したのであった。そして僕のことを誘惑してきた女性の事を考えると僕はとても恐ろしい考えに至ってしまう。僕の頭の中には、【美咲さん】と【クレア】が僕の事を誘ってくる姿が思い浮かぶのだ。

僕の頭の中では僕は僕の目の前に現れていた女性が僕に何を伝えたいのか分かってしまい。僕の事を好き過ぎるがゆえに目の前に姿を見せてくれている女性のことも愛してしまった僕は二人を同時に愛するという行為を選んでしまいそうだと考えていたのである。だが僕は自分の理性を信じて僕自身を抑え込んでくれると心に決めていたのだ。だから、僕は僕に対して、この世界に降り立ったばかりの頃に感じていた欲情に流されない強さを手に入れるための旅に出ようと思っていたのである。

そんな僕の目の前には僕のことを求めてきてくれている存在がいる。そんな存在のことを目の前にしながらも何も出来ないまま時間が過ぎ去って行く。その事実は僕にとってあまりにも酷なことであった。そんな僕の事を求めてくれている存在に手を触れることが出来ない状況が続き。自分のことを好きだと言ってくれた人に触れられない辛さを感じていたのである。僕は自分のことを好きになってくれた女性の前で、自分の意志とは裏腹に勝手に自分の体が動こうとしていたのを感じて焦りを感じ始めるのだ。しかし、目の前にいる僕の事を好いてくれる女性は、目の前に存在しているだけで僕に幸せな気持ちを与えてくれている。

そんな女性を見ているうちに僕の頭の中は目の前にいる女性が愛しい人のような感覚に陥り、自分のことを僕に対して好いてくれている人を目の前にして僕の中では自分の感情を抑えられなくなるのではないかという不安が生まれてしまうのだ。そうすると僕の目に現れていた僕の事を好きになってくれる女性は悲しそうな顔をしており。僕は僕の事を好きでいてくれる人に対してそんな顔だけはさせたくないと改めて思っていた。しかし今の僕にそんな状況を乗り越えることができるほどの精神的な強靭さを持っていなかった。その事に僕は悔しさを感じると同時に僕の目の前に立っている女性への欲情を止めることが出来ずにいたのである。だから、僕の中にある欲求を満たすべく僕は目の前の女性の肩にそっと手を伸ばしたのだ。その行動をとった時、僕の脳裏には【クレア】の姿をした女性の顔を思い描いていたのであった。その行動をとることで僕は自分自身の欲望を満たしてしまうといけないと考えたが、目の前に居る女性は、目の前に現れた時から僕がどんな行動をしようとも喜んで受け入れようとしてくれる雰囲気が伝わってきて僕はつい、そのまま行動に移してしまった。

「私のことは嫌いになってしまったんですよね。貴方のことを傷つけてしまいそうになってしまった私にもう会いたくはないということなんですかね? それでも私は貴方に会いたいのです。もう私に会ってくれないというなら死んでしまいます」

目の前に現れた女性はそんな言葉を発して泣き出してしまうのだ。そんな風に僕のことを思っていて泣いている目の前に姿を現している女性を見ると僕も申し訳なくなってきてしまって彼女のことが可哀想に思い僕自身がこれから取ろうとしている行動を躊躇ってしまうのだ。だけど今の状況を考えれば僕は彼女に別れを告げないといけない。それが彼女の為でもあり僕の為でもあるのだと自分に言い聞かせることにしたのだ。僕はそう決めた僕は僕の事を愛しい人だと言ってくれる人に優しく微笑みかけて話しかけたのである。

「大丈夫ですよ。あなたが思っているほど僕は傷ついたわけではないですから、それに、あなたが僕のために命をかけてでもこの場を離れさせようとしてくれたことに僕は本当に感謝しているので、あなたがそこまでする必要はないんですよ。だから僕のことを気遣って下さらなくてもいいんです。ただ僕の事はもう諦めてください、あなたのことをこれ以上僕の我がままで振り回すわけにはいきませんから、それと僕達はお互いの為にもこの場所で別れるのが一番良い選択なんだと思います。なので僕に別れの言葉だけを伝えてもらえませんか?」

僕がそう言うと彼女は、涙目のまま僕の事を抱きしめてきたのだ。そして僕と目が合うと嬉しそうに笑い僕の頬に手を当てるのである。

「私の事を嫌っていないで良かったぁーー! 私のことを愛しすぎて嫌われていると思ったんだよ。だから私に二度と近づかせないようにしないとダメだって思ってたんだから!」

(うぅ。そんなことを言われても、今こうして僕は君の事を求めてしまうのを止められているかどうかすら分からないのに、そんなこと言われてしまうと僕はまた君に触れたくなってしまいそうになるんだ。お願いだからそんなことを言うのはやめてほしい。今すぐ僕はここから立ち去ろうとしている最中なんだけど僕の心はそんなに強く無いからすぐに君を欲しいと思うようになって、僕の身体から力が抜けていくのが分かるよ。このままここに残ろうと思ってしまいそうになるじゃないか)

僕は、目の前に現れた女性が言っている意味がよくわからなかったが、目の前に居る女性のことを拒絶していないからこそ。僕は僕に対してこんなにも愛情を注いでくれている存在に対して僕はどう接すればいいんだろうかと思い悩んでしまう。そして僕は、僕の事を好きだと言ってくれる存在の胸の中で意識を失ってしまったのであった。

そして次に僕が目を覚ました時には僕の目には見覚えのない天井が視界に入り込んできたのである。僕は、その天井に視線を向けたときに自分が見知らぬ場所に寝かされていたことに驚きながらも、僕は、自分の記憶を思い出してこの場所にたどり着くまでの出来事を振り返っていたのだ。

すると僕の目には僕に向かって微笑んでいる一人の女性の姿が目に入る。僕はそんな光景に懐かしい気分になると共に心の中に愛おしさが生まれたような気がしたのである。だからなのか自然と僕の口は目の前にいる女性の事を抱きしめたいという気持ちに動かされ始めていたのだ。僕はそんな思いに駆られて女性のことを抱きしめようとするのだが、何故か僕の身体は全くいうことを効かないのだ。だから僕は自分の身体に何かしら異変が起きているのではないかと思って僕は目の前に現れている女性が一体どういう人なのか確かめようと思った。

そして、目の前にいる女性のことをもっと詳しく知る必要があると考えたとき。僕の頭に一つの単語が浮かんできたのである。その言葉とは、目の前に現れた女性のことを、【美咲さん】と、呼ぶべきだと言うことを思い出したのだ。そして僕はその言葉が頭の中に出てきたことで、僕自身の意思と関係なく僕の口から【美咲さん】という言葉が出てきてしまうのであった。その僕の行動に対して僕の目の前に現れた【美咲さん】という女性は、僕の口に出した【美咲さん】という名前を聞いて驚いていたのだ。そして僕の方を見て笑顔を浮かべていた【美咲さん】の表情が一変。

【クレア】が僕の目の前に現れた時に見せた表情と同じ顔をするのであった。

そして僕は自分の目に浮かび上がっている涙が流れていることに気づく。その事実を知った僕の頭の中では様々な思いが流れ始めて止まらないのだ。僕の目からは止めどなく涙が流れ始めてしまう。僕がどうしてそんな行動をとっているのかは僕自身にもよくわからない。だが僕の目の前にいる女性の名前を口にしたときの自分の心の中には、目の前にいる女性が愛しくてたまらないという思いが溢れてきてしまっているのは間違いなかったのである。

そして僕は、その愛しい女性に対して僕の目の前に現れたのが自分の求めて止まない女性だったことを僕は実感していたのだ。そしてその女性に対する感情が抑えきれず。僕は自分の目の前にいる女性に僕自身が出せる全力の愛情を持って、その女性と愛を交わしたいと願ってしまったのだ。その願いが叶うことは無いのに僕は自分の気持ちを抑えきれないでいたのだった。

僕の中でそんな事を考えていた時、僕のことを見ていた【美咲さん】は、涙を流しながら、僕に対して、今まで見たことがないくらい綺麗に笑いかけたのであった。

【美咲さん】が僕に対して笑みを見せてくれたその瞬間に僕の体には信じられないことが起き始める。僕はその信じがたい出来事によって体が震え始める。それは、僕の体に起こっている現象の事を冷静に分析することができなかったからであった。僕は、僕の目に浮かび上がってきた文字を見た瞬間。自分の体がおかしくなり始めていることを理解した。僕は自分の体のことを理解すると必死にこの状況から抜け出そうと足掻こうとする。だが僕はこの状態から脱することは叶わなかったのである。

「なんなんだよ。これ! 何がどうなってんだよ! 俺の身に何がおきているっていうんだよ」

僕はそんな言葉を無意識に吐き散らしながら暴れ始めた。

そんな行動をとれば、目の前に居る僕のことを好きだと言ってくれた女性のことを襲おうとする行動にしかならないのにもかかわらず、僕は僕の目の前に存在している女性に触れようと手を伸ばす。そして自分の手が目の前に存在している女性の肌に触れる。すると僕の腕は勝手に僕の体を動かし僕の目の前に居る女性の身体に自分の腕を押し当てようとしたのである。

そしてそんな事をされた女性は僕の目の前に現れたときの笑顔のまま僕の目の前に居たのだ。しかし、そんな女性が着ている服を強引に破こうとしている僕に対して女性は僕に対して何もしてこない。それどころか女性は僕の事を受け入れてくれるかのように僕に優しい笑顔を向ける。その顔は僕が今まで見た中で誰よりも魅力的な顔だと感じたのだ。

その顔を見た僕の頭の中では理性が崩壊しようとしていた。僕はそんな状況の中でもどうにかしようと考えていたが何もできないまま時間が経過していくのである。

すると僕の身体に更なる変化が訪れていたのだ。僕は自分の身体が更に変化するのを感じると、この部屋に僕の目の前に現れる前に、女性が現れたときのように僕の意思を無視して僕の体が動き出し、僕の身体は僕の身体ではないと錯覚するほど違和感を感じずに動いていた。僕は僕のことを好きと言ってくれている女性のことを襲おうとしていたはずなのに僕の心には、目の前に存在する女性を襲いたくないと思っている部分が存在していたのである。だからなのか、僕は女性のことを優しく抱きしめる行動に出たのだ。そして僕は彼女の胸に顔を埋めるとそこで再び気を失うことになる。

次に僕が目を覚ますと今度は知らないベッドの上に僕は横になっていることに気づき、目の前の女性に僕が起きた事を告げていた。そして僕は自分が気絶するまでの記憶を思い出すために必死になって考え出す。しかしどれだけ頑張っても僕は何も思い出せないのである。僕が何をしたのか分からない状態でいる間も僕の視界では僕のことを好きな人がいるということが分かり僕はそんな彼女を幸せにしたいと思うようになっていたのだった。

その事が分かると僕の体は勝手に動きだし、その女性の身体を抱き寄せたのと同時に唇を重ねる。僕自身も初めての経験に戸惑っていたのだが僕はその女性に対して抵抗をすることが無かったので僕はその行為を止めることが出来なかったのである。そして僕達はそのまま抱き合う形で眠ったのであった。

(なんだこの夢みたいな感覚は。僕って確か勇者に殺されたんじゃ無かったっけ? しかも僕ってば女の子と一緒に寝ているよね。あれ? ちょっと待てよ。僕って死んだんだよな? それで僕の記憶が曖昧になってきているということは僕って転生してきたのか?)

僕が目を覚ましたのはそれから三日後のことである。僕が起き上がるとそこには僕が今世で一番愛する女性の姿が目に入る。僕はそんな光景を見ると僕は思わず抱きしめてしまったのだ。彼女は突然僕がそんな行動をとった事に驚いたような表情をしていた。

「えぇ! いきなりどうしちゃったの?」

彼女はそう言って僕のことを見る。その目は僕を拒絶するような感じはなく僕は彼女の事を離さないようにして見つめ合う。すると僕の視界にある物が入ってくる。それは、彼女の目に浮かび上がっている涙である。僕は、そんなものを見るとどうしても我慢できずに、僕から彼女に対してキスをしてしまっていたのだ。

(僕は彼女にキスをしている最中に彼女が僕を受け入れてくれているという事を自覚すると僕はそれだけで幸せになり僕の身体から力が抜けてしまうのであった)

そして、僕は目の前にいる女性が僕に対して向けている笑顔につられて、自分の中で抑え込んでいたものを解放してしまったのだ。そして僕が今まで溜め込んで来た欲望が一気に流れ出てくる。

僕は目の前にいる僕のことが好きだと言ってくれている女性を僕だけのものにしたくなってしまい僕の身体は勝手に動き出したのである。僕の目の前に現れた女性は最初は僕が急に豹変したのに驚いていたようだが、すぐに笑顔になると、僕にされるままになっていたのである。その事を知った僕は嬉しくてしょうがなかった。僕の目からは再び涙が流れ落ちてきたのであった。

僕は僕の事を好きになってくれた目の前にいる女性が、僕にとってかけがえのない存在だということが本能的にわかってしまう。すると僕は自分の目から流れ出ている涙を拭うことなく女性を見続けていた。そして僕の口から出てきた言葉に僕自身が一番驚かされることになる。その僕の言葉は僕自身の意志とは関係なく出てきてしまったのだ。

その言葉とは、【クレア】と、名前である。僕は自分の口に出されたその言葉を信じることができなかった。なぜなら、僕はその名前を聞いたことがある気がしたからだ。僕の脳裏に再び記憶の断片のようなものが現れる。そしてその記憶の断片を見た僕は自分の目の前にいる女性にその人の事を尋ねた。その女性の名前は僕の求めてやまない女性であると知ると僕の口からは言葉が出てきてしまう。その言葉は、僕と【クレア】が一緒に暮らしていた時の言葉と全く同じ物だったのだから。

僕はその記憶に出てきた女性の名前を【美咲さん】と呼ぶ。だが僕の頭に浮かび上がった名前の響きはどこか僕の知っている人に似ていると感じるのである。

そして、その記憶が鮮明になった途端。僕はその女性に向かって無意識に自分の口で、僕が思いを伝えようとするのだが、その思いを口に出すことは出来ず。僕の頭の中では【美咲さん】の口の動きに合わせて自分の口を動かしているだけだったのである。

そんな事がありながらも僕は【美咲さん】のことを見て思うことがあった。それは、僕に笑いかけていくれる時の【美咲さん】の顔は、いつも僕に見せてくれる表情とは違っていてとても魅力的だと思った。それと同時に僕は【美咲さん】の笑顔が僕の前以外で見せないことが不満に思ってしまったのだ。僕は僕の目から流れている涙が自分の為に流れ続けていると知った瞬間。僕の中の何かが崩れ落ちた。それは自分の大切なものが無くなったかのような気分になる。そして、僕は、僕自身の身体を抱きしめて涙を流すことしか出来なかったのである。僕は僕の為に涙を流し続けてくれている女性に視線を移すと、僕は目の前に居る女性のことを抱きしめてしまう。だが僕の身体は何故か目の前にいる女性のことを離すまいとして力強く僕の体と密着する。僕の胸の中にいる女性の顔を覗き込むように見た僕はその女性が僕を好きだと言ってくれる【美咲さん】だという事を理解することが出来たのである。

「あぁ美咲さんが僕のことを好きだと言ってくれたのに僕はなんにもできなかったな。でももう良いんだ。美咲さんはこうして生きていてくれたんだから」

僕は僕の腕の中に入っている【美咲さん】に対してそんな思いを抱くのであった。

僕が【美咲さん】を好きになってしまったのは、美咲さんがまだ生きていた頃。美咲さんは病気を患っており、病名は難病指定され、治療が難しくなっているものだったのだ。

そんな病気のせいか【美咲さん】はどんどん弱り始めてしまい、今ではベットから動けないほどにまで進行してしまい、その身体は動くだけで辛い状態になっていた。だが、僕は、【美咲さん】のために、少しでも美味しい食事をしてもらおうと毎日料理を作っていたのである。そんなある日の夕食後。食事を終えた後に僕は自分の部屋に【美咲さん】が来ていることを確認する。すると部屋に来た【美咲さん】は、僕が料理を作っている最中に体調を崩したと聞くと心配して僕の元にやって来て僕の体調の確認をし始めたのである。そして僕の顔色が良くないことを確認し終えた僕は、僕は無理して笑ってみせた。だが僕の身体の異変はそれだけではなかったのだ。僕は自分の体に起きている変化をまだ理解してはいなかったが、目の前に居る女性のことを抱きしめていた。僕の体は自分の意思とは別に、勝手に動き出し僕は目の前の女性の服を強引に破こうと手をかける。僕の身体は僕のものではなくなっていた。すると、僕の目に浮かび上がってきた文字は、僕の身体が何者かによって乗っ取られている事を知らせている。僕は、その事実を受け入れると、僕は自分の身体の所有権を取り返そうと抵抗を試みる。

そして僕は、僕を好きになってくれた目の前の女性に酷い仕打ちをする僕の姿を視界に入れることになるのだが、目の前の女性はその状況にあっても嫌がるような素振りは一切見せず。むしろこの状況が楽しいという様子すら感じさせる。その事に違和感を覚えつつも僕は僕の身体の行動を阻止すべく僕の目の前にいる女性を助けるために行動する。だが、僕の体は僕が思っているような行動は起こしてくれなかったのである。

そして僕の目の前には僕のことを好きになってくれてたはずの女性の身体は目の前に存在していた。僕は目の前の光景を見ていると僕は僕が今やろうとしていたことを理解してしまったのだ。それは僕の身体を使って目の前に存在している女性を僕だけのものにしようとしていたことをである。すると僕の目の前には信じられない光景が広がっていることに気づく。

僕は自分の意識の中で自分がやったことを全て把握することができたのだ。僕は僕のせいで苦しんでいる目の前にいる女性を救いたい一心だった。しかし僕は目の前に僕に好意を持ってくれている女性のことを押し倒し、無理やりに唇を奪ったのだから。

そして、目の前の女性が着ている服を力づくで破り始める。僕はその光景に驚き僕は僕を止めるべく僕の中に侵入してくる。そして僕の中から現れた僕はその状況を打開するため、目の前の女性に僕が何をしようとしているのかを伝えた。その結果、僕のことを好きだと言ってくれた女性の心と僕の心は完全に繋がり僕と彼女の心が完全に繋がったのがわかる。

僕は目の前にいる女性の心と繋がることでその女性の気持ちを完全に知ることになった。僕はその女性のことが誰なのかを知ってしまい、そんな女性のことが僕は大好きだと改めて自覚すると僕の目からは大粒の涙が流れる。僕はそんな涙を止めることが出来ない。

そんな時に、僕達の目の前に現れる女性がいた。その女性は僕に優しく微笑んでくる。

「お久しぶりですね勇者様。随分と長い間眠っておられたようですがご無事なようで何よりですよ」

そう言う女性の名前は【アリシアーナ】と言う名の魔族である。彼女はこの世界で唯一この世界に生きる人達を守って戦ってくれた勇者なのだそうだ。彼女は僕よりも早くにこの世界で目覚めていたみたいである。

「ありがとうございます。ところでどうしてあなたが僕達を助けてくれたんですか?」

僕はその事に疑問を持ち聞いてみると僕の疑問に対してアリシアーナさんは答えを返してくれた。その内容はあまりにも衝撃的な物であったのだ。

この世界において唯一生き残った人間は勇者であり。また、この世界に転生したのは僕の目の前にいる【アリシア】という名前の女性だけであった。そう僕以外の人間がこの世界の何処かに転移している可能性が非常に高いのだという。

その話を聞いた僕の口からは僕の声とは違う声で言葉が出てくる。そして僕の意思とは関係なしに僕と【アリスア】の心は繋がり、お互いの記憶を共有しているのである。すると目の前にいる女性に【僕の名前を教えてほしい】と言われてしまう。僕はまだ自分と彼女の間に絆ができていない状態で自分の名前を【僕自身で教えることができない】と伝えた。その事を伝えると僕の目の前にいる女性は少しだけ寂しそうな表情を浮かべるのである。そんな表情をさせてしまっていることが悲しかった。僕はそんな女性に何かをしてあげたくてしょうがなかったのである。

だが僕の目の前にいる女性は僕の目の前で笑っていた。僕と彼女の目の間に信頼が生まれたからである。僕と【僕】は【アリス】を通して会話をしていく。そしてお互いに自分の事について情報交換を行ったのであった。僕は僕の中にもう一人の自分が存在するということに驚いたが。僕達はそんな自分自身を受け入れて目の前にいる女性にこれからのことを話すのであった。

それから僕は僕の目の前にいる女性に今まで僕が行ってきた事を説明する。すると、僕の話を聞くにつれてその顔色は変わっていくことがわかると、【僕の事を抱きしめてくれたのだった】僕は嬉しくなってその女性にキスをしてしまう。そしてその女性は僕に笑顔を向けると自分の名前と自分の今の現状を伝えてくれる。僕が愛してしまった人は【リーシャ】という名前で。僕は彼女と僕自身が魔王であるという事実を知ることになったのである。僕は、【僕自身が魔王である事を知った途端、目の前にいる彼女を守りたいと願ったのである】僕は、【僕の目の前に居てくれる大切な人の為に】、【僕は僕の身体の中に眠っている魔王としての魂の力を行使することを決めたのである】

その決意したと同時に僕の目から流れ出していた僕の涙が止まり、その表情は、僕の知っているものに戻る。

僕は僕を抱きしめてくれていた腕の感触が消えると、その腕の持ち主を探そうとするのだが、その女性の腕は僕の身体から離れると僕との距離を広げて行くのである。そして僕は、その女性が離れていってしまうと理解すると慌てて手を伸ばすのであるが、その女性には僕の手が届かず、その僕の手の平は僕の目に映り込んでいた。

そして、僕は目の前の女性の背中に向かって叫ぶのである。

「待て!!行くな!!!!」

僕が叫んだ声が彼女に聞こえた瞬間。僕の視界が暗転していき、そして、気が付くと目の前にいたはずの女性が僕の目の前に立っていたのである。その女性の身体に傷が付いていることを確認した僕は、目の前にいる女性が自分の身代わりになったとすぐに分かったのだ。

そして、僕の目の前にいる女性が倒れてしまうと僕は彼女を抱きしめようとする。

だが僕は、僕の目の前にいる女性の体を抱きしめることが叶わず。ただその女性の手を掴んでいただけだったのである。そして僕は目の前の女性が息を引き取る寸前まで見守っていることしかできない。そして僕自身も、目の前の女性が倒れたことに絶望するのであった。僕は目の前の光景に心の中で怒り狂うのであったが、目の前の女性に対して、もう何も出来ないという事に悲しみを覚える。

そんな僕の前に現れたのは、一人の青年が立っている姿だった。

そんな僕の元に突如現れたその男こそが、僕が恋をすることになった僕の前世の世界で僕を救ってくれた。僕を庇い死んでしまった僕の好きな女性に瓜二つの容姿をしているのであった。そんな彼が僕の前に姿を現したことで僕は自分の感情を抑え込むことができなかった。目の前にいる男性が、僕が命に代えても守るべき人であったからだ。その事を思い出した僕は、目の前に現れた男性に抱きつきたい衝動に駆られるのだけど、今は、そんな事をできる状況ではないことは理解していた。

そして僕は僕のことを見下ろしている男性に、僕と、【僕の恋人の身体を使って死んだあの女性】のことを守ってほしいと懇願するが、僕と僕の目の前の男性は互いの認識が食い違っていることに気づく。その違いを理解するのは簡単だったのかもしれない。だが、僕が抱いている感情を抑えることができなくなってしまっていたのだ。

そして僕はその事に気づいたときに自分の心の奥底から湧き出てくる感情が抑えることができなくなり、目の前の男性の事を睨みつけてしまうのだった。その事がどれだけ失礼なことなのかわかっているはずなのに僕の身体が勝手に動き出して止まらなかったのだ。

だが目の前の男性はそんな僕に対しても嫌がることなく。僕に対して優しく接してくれる。そんな優しさに触れてしまった僕の身体は、その男性のことを受け入れるのであった。すると、僕の目には涙が溢れ出てきてしまう。そして僕の目からは大粒の涙がとめどなくあふれ出すのであった。

僕は自分の目の前に立つ青年の姿を見ていて、その目から溢れ出る涙を流し続けていた。そして目の前に突然現れた僕の愛する女性の肉体を奪い去った元凶である【僕の前世の世界で出会った女性の肉体を奪った魔族の王を名乗る人物】を、その手にかけたいと思い行動に移そうとしたのだが、僕の体は僕の言うことを全く聞いてくれなかった。そんな僕を見て目の前にいるその男性は、僕のことを優しく抱きしめてきた。僕は僕の身体が自由に動くことを確認できて目の前の人物の行為を止めようとしたのだが、僕の身体はその人物の行動を許さなかったのだ。そしてその僕の目の前に僕の体を使い殺した女性の顔が現れる。僕はその事に驚愕し、目の前の女性が生き返ってしまったのかと思って、目の前にいる女性にその事を聞いたのである。すると僕の目の前に僕の身体を奪った女性が目の前に現れて、その女性の口から僕は信じられない事実を聞くことになるのであった。

「その通りだよ勇者くん、私はあなたの前の世界で私を殺した存在だ。私が君に殺された後に私の肉体が蘇ることはなかったんだけどね、私はある人のおかげで君の目の前にこうして現れたわけだ。」

その言葉を聞いて、僕の頭は混乱するばかりだったが、僕は、目の前の女性が僕の身体に乗り移っていたことを納得して受け入れると、僕が僕の前の世界で出会った女性がどうしてこの世界に居るのかと聞いた。そしてその女性は、自分の目的を話し始めた。その女性の目的とは、この世界を支配を企む悪の集団を打倒する事だというのである。

その話を聞き僕はその話に嘘がないのかを確認しようと質問をしたのだが、僕の問いかけに対する回答に僕の頭の中がさらに混乱することになってしまうのである。その女性の話はあまりにも現実離れした話だった。それは、【この世界は、この世界に元々いた住人が作り上げていた】というものなのだから。

この世界は【僕達が住む世界】と【異世界から来た人々によって作られた】二つの世界でできている。そして、異世界からの侵略者達が、自分達が住みやすい環境にするために、その【異世界の人達が住んでいる】世界に侵略を始めようとしているのだという。

この世界の全ての人々は、その異世界の人々と戦争を行い勝利したのだというのだから。この世界に暮らす人間達の強さは凄まじかったようだ。しかし、そんな圧倒的な力を持っていたはずの人間達は異世界の人たちの策略により敗北してしまうと、その世界に暮らしていた人間は全員奴隷のような立場に落とされてしまうことになったのだという。この世界で生きる人々の強さの秘密は【神によって与えられたスキル】と【その身に秘められた特別な魔力量】にあったのだそうだ。その事を聞いていた僕の頭に一つの可能性が過る。

(まさかこの世界に転生させた奴等は、【この世界にもともといる住人がこの世界を支配する為に作った世界】なのか?)

僕の考えている事が正しかったとするのなら。この世界にはもともと【別の人間が生きていた世界】を侵略するために連れてこられて来た【侵略者の手先】が存在しているということになる。だが僕にはまだ分からないことが残っていた。そのことについて僕が聞くと。彼女は僕に自分の能力を説明してくれた。

【彼女の持っている能力は【神の創造主】】というものだった。【彼女だけが使える魔法】らしいのだが、その魔法を使えば彼女の願いを何でも叶えることができる魔法のようである。そしてその魔法は、【僕と彼女が二人で一緒に発動させる】ことで使用できるようになるのだと教えてくれた。

僕は、その話を聞いた時に僕は僕自身の体の主導権が僕自身に帰ってくると僕は目の前の女性を抱き寄せる。

そして、目の前の女性に対して、これからどうすればいいかの相談を持ちかけると、僕は、自分の前世の世界では僕の好きな女性を救うことができなかったが、僕は僕の今目の前にいる女性だけは絶対に失いたくないと思っている。だからこそ僕は自分の身体を取り戻したいと考えていた。その方法を知っているかどうかを確認するために僕は彼女に自分の考えを伝えると僕の目の前にいる女性は少しだけ悩むような素振りを見せながら、僕の話を聞いてくれた。そして、その女性の返答を待つのであるのだが一向に僕の目の前の人は答えてくれず、僕は焦りを感じるのであった。すると僕の目にはなぜかその女性から涙を流している姿が目に入ってきてしまう。そこで僕はなぜ彼女が泣いてしまった理由が分からなかった。

その事に疑問を感じた僕が、その疑問をぶつけてみると、目の前の女性は涙を浮かべながら僕をじっと見つめると僕の頬をその両手で優しく触れると僕にこう伝えてきたのである。

『ごめんなさい』

僕の目にはそんな一言が浮かんできたのだった。だが、僕はそんな言葉の意味をすぐに理解することができずにいた。目の前の女性の瞳からは次々と涙が流れ落ちて僕の目の前を覆っていくのである。だが僕は目の前の人のことを諦める事ができずに抱きしめようとしたのである。すると僕の腕の中には僕の事を強く抱きしめてくれる女性がいたのだった。僕は自分の目の前の人が戻ってきた事に驚きの声を上げると僕の事を見下ろしていた女性が笑顔を向けてくる。その笑顔に僕はドキッとしてしまった。その女性の事を愛しく感じてしまっていたからだ。

僕は自分の身体の中に僕の意識が存在していない事に気が付いてしまうと、その女性に向かって「どういうことだ!!」と怒りの感情を抑えきれずにいたのだ。だが僕の目の前にいる女性は何も語らずただ微笑み続けるだけだったのだ。そうしている間に僕は自分の体に戻ってくることが出来たのである。

僕の身体は自由になっていたが僕はそんな事よりもまず、自分が抱きかかえた女性の安否の方が気になってしまい僕は、僕に対して抱きついている女性に対して怪我はないのかと確認をすると、彼女は嬉しそうな表情をしながら僕のことを見ると大丈夫だと言ってきた。僕は、その言葉を信じることにした。というのだって、目の前の女性は嘘をつくようには見えなかったからである。そして、その女性に抱きついてきた人物が、僕が探し求めている人物であったので僕は安心するのである。

だがその事に安心していたのも束の間だった。僕は、その男性から発せられる威圧に僕は身動きが取れなくなってしまう。僕はそんな男性のことを初めて見たのだけど、何故か目の前に立っている男性の正体がわかったのだった。僕の直感的に目の前にいる男性は、自分の前世の世界であった、僕が前に住んでいた街を襲った【あの化物】であることに間違いないと確信した。だが僕は何故ここに【自分の前世に存在していた魔物の親玉】がいるのか不思議で仕方がなかった。僕は目の前の魔物に警戒心をあらわにしながら質問をするのであった。

【ロードの分身】が、僕の目の前に出現した白い炎が消えると同時に、その【魔王の分身】の姿が現れてくると僕は目の前に現れた人物に驚いたのである。なぜなら僕に瓜二つだったのだ。

その事に気づいた僕が驚くのは当たり前だった。そのことに僕が驚いているとその僕に瓜二つの顔を持つ存在は、僕の目の前にいる男性に声をかけてくる。僕はそんな光景を見て目の前の男性は一体何者なのかと思案し始めるのだが、僕にはその男性の素性について予想がついていなかったのだ。その男性の服装が明らかにおかしいのであった。そしてその服装がまるでコスプレのような格好をしていたので、僕の目から見ると完全に変人扱いされていたのである。しかもその男性が身につけている武器も僕にはよくわからなかったのだ。

僕はその男のことを鑑定してみるとその男性のステータスが表示される。しかしそこには僕に良くわからない文字と数字が表示されていたのであった。

【名前】

リリスティア(人間)

年齢 15 職業 勇者 【体力】

9980/15000 【魔力】

5500 /100000 【攻撃】

9600 【守備】

7400 【敏捷】

9000 【幸運】

8000 【状態】

正常 【技能】

【剣術】LV4【槍術】LV5【杖術】LV7 【盾術】LV8【格闘】LV3【弓術】LV2【体術】LV9 【火属性】LV5【水属性】LV4【風属性】LV5 【土属性】LV6【闇属性】LV11【光属性】LV13 【治癒魔法】LV18【回復魔法】LV15 【状態異常】耐性LV16【呪魔法】LV17

「えっ?」

僕は目の前の人物の名前を見た時に一瞬にして自分の目が見開くと、僕は思わず間抜けな声を上げてしまったのである。そして目の前に表示されている数値やスキルを確認した僕は心の中で呟いたのだった。

(これはどうみてもチートキャラじゃないか?)僕はその事を思うと目の前の人の正体に気づくと、僕はその正体が分かったことによってある事を思いつくと目の前に居る存在の事が分かってしまったのである。

この異世界に来てから僕のレベルは100から上がらなくなっていた。

その事から考えてこの異世界に来た時、僕の身体の中に入った女性は【勇者】だったんだと思う。その【勇者】は【ロードの眷属】を倒すために自分の身体を乗っとって僕の前に現れたのではないか?と。その女性はおそらく僕に憑依して身体を操ることで自分の身体の傷を癒したに違いないと僕は確信したのである。だが今のこの状況ではその事実を確認することができないので、目の前にいる女性に事情を説明してもらおうと考えた。

僕がそのことを目の前の女性に聞くと、その女性は何かを言いかけようとすると突然現れた女性達に取り囲まれてしまう。

その事に気づいているはずなのにその女性は僕の方に振り返ると微笑んできたのだ。

その行動に対して、僕の目の前に現れた女性がどういう状況なのかを把握した僕に対してその女性は微笑むと僕の手を取り握りしめてくる。そんな女性の行動を見ていたその女性達の視線が鋭くなると、一人の女性の声が響き渡るのであった。

「あなたが私達に攻撃を仕掛けてきたのですね。私はあなたの事を敵とみなします。そして私の命に代えてでも、今すぐにこの場であなたを抹殺します。」

僕はその女性の声を聞いた瞬間に僕は全身に鳥肌を立てると冷や汗を流す。だがそんな事を気にせずに目の前の女性はその僕の目の前で剣を構え始めた。

(この子はかなりヤバイ!このままじゃこの子の攻撃を喰らう!!!なんとかしないないと)

だが、その考えが甘かったのかもしれない、目の前に存在している僕の偽物はその僕の姿を真似すると僕と同じ動作をして見せたのである。その事に僕は驚きを隠せずその事によって、僕の頭の中では一つの可能性が浮かび上がってくる。目の前に存在しているのが僕の偽物だとするのなら、その偽物を操っている存在はこの場に存在しないはずだと。僕は僕に襲いかかってくる【勇者】をどうにかするために、その女性に話し掛けようと話しかけると、【勇者】の動きが止まってしまう。僕はそんな女性の様子に僕はどうすればいいのかわからず困惑していると、目の前の女性が自分の手をかざしてくるとその女性の身体の周りに魔法陣が出現していくと、魔法が放たれてきた。その女性は自分の目の前にいる人物に向かって魔法を放って来たのだ。僕はその事に気が付き、その女性の放った魔法を回避しようと試みるが僕の足は動かない。だが僕の身体からもう一人の僕は抜け出していた。そうすることで僕の代わりに僕と同じような動きをしていた人物が動き出す。その事に僕は安堵すると目の前の女性が作り出した光の矢に向かって僕に向かってきている魔法に向かって右手を伸ばす。すると、目の前の女性から発射された魔法が消失していくと、その女性と周りの人達の顔色が変わった。

「貴様が魔王軍の手先だったとは!」

その言葉を発した人物がそう言いながら剣を構えると、他の人達も同じように構え始めてくるのだった。僕は目の前の女性達が何を言っているのか分からなかったのだが、僕達は目の前の相手に敵意があるようなので戦闘は避けられなさそうである。なので僕は覚悟を決めると目の前の敵と戦う準備をするのだった。そして僕は、僕に対して殺意を向けるその人を見ながらこう思っていた。

僕の事を殺そうとするなんてありえないと。だって僕は、その人にとって命を助けられるはずだったのに、僕が邪魔をしたせいで殺されようとしている。そんな理不尽な理由で殺される事に納得できるはずもなかった。それに僕自身に罪はないのだから。そして僕はその事を確認すると僕を殺しにきた相手に対して怒りがこみ上げてくると僕を殺そうとした相手の事を見て、僕は怒りの表情を見せながら僕は目の前に存在している女性のことを見るのであった。「僕の事を魔王軍の手下とか、勝手に決めつけるのはやめて欲しいな」

僕はそう言うと目の前にいる女性のことを睨みつけたのである。

僕が怒りをあらわにしていると僕に向かって襲い掛かってきた女性がこちらに向かってきたのだった。

「死になさい!!」その言葉と共に彼女は剣を振り下ろす。

「遅いね!!」その一言だけを口にすると僕は彼女が振り下ろしてきた剣を軽々と避けて見せる。そんな僕の様子を彼女は驚いた表情で見ると再び攻撃を開始したのである。僕はそんな彼女の様子を観察することにした。そうすると彼女は僕に向かって何度も斬りかかって来るが、僕には当たらずに僕は回避し続けた。

(動きが遅すぎるんだよな、もっと速く動くことは出来ないのかな?)僕はそんなことを思いながら彼女に攻撃を当てられそうな機会を探していたのだった。そんな時、僕の目の前にいる女性の後ろから一人の少女が現れると僕の目の前にいる女性の背後から蹴りを入れると、そのまま空中で回転しながら地面に着地する。

(あの子は、確か僕が森で出会ったエルフの子だ。)僕はそのエルフの女の子を見てみると僕はその子に心当たりがあった。その僕の予想は正しかったらしく、その女の人の背後に居たその子が、その僕の前に姿を現してくると口を開いたのだった。

『この馬鹿姉!!何度言ったら分かるのよ!!この男はあんたなんかの攻撃が効くわけないじゃない!!』




その女の子の言葉を聞くと僕は疑問を感じたのである。

(お姉さんなのか、それともこの子に妹がいたんだろうかね?それよりも、僕と一緒の性別に転生してきたのにこの世界に来て性別まで変わってるんだなぁ、僕と違って凄くない?そんなことよりどうしてこの世界では女の子になっているのかが謎だけど、僕には理解ができないな。まあ僕にもわからないことはたくさんあるんだけどさ。それに比べて僕は男になってるし、一体どんな違いがあるんだろうか。それにこの世界の僕は一体どうなったのか気になるけど、そんな事よりも、僕が知っているのとは全く別人に見えてるよね、どう見ても)

僕は目の前の僕が知ってる人とは違う女性達を見渡してみると、僕はその目の前にいる女性達が全員同一人物だという事を思い出すと僕は少し悲しくなってしまっていた。なぜなら僕の目の前にいる人全員が僕が知ってる人だったのだ。その事実を思い出してしまった事で僕は自分の知り合いの人が自分以外すべて入れ替わっていることを理解するとため息が出てしまった。

(この世界でも僕の知り合いはほとんどいないみたいだし、僕の前世の仲間と友達の事は忘れよう。僕は一人でも生きていけるんだ。それに今となってはこの世界での生活を楽しく過ごせればそれでいいから、これからは一人寂しい生活を送ることにしよう。それに、もう僕の前世の仲間が生きてることさえわかればいい。それ以上に求めるものは今の僕にはないんだから、そんな事よりも、まずはこの女性達を何とかしないとね。僕の事を敵対視してるようだから戦うしかないだろうな)

僕がそんなことを考えると僕の目の前に現れた女性は僕の事に対して殺気が籠った瞳をぶつけてくる。その目つきが僕が見知った彼女のものだったので僕は思わず顔を背けてしまった。そしてその女性から感じ取れる殺意に僕は寒気が走る。僕はその女性の事を睨み返すことで気持ちを落ち着かせると、僕はこの場からどうやって脱出するかを思案するのだった。

(どうすればこの状況を打破できる?)

そんな事を考えていると、僕を取り囲んでいる人達が一斉に魔法を放ち始める。その様子を目の当たりにした僕は、目の前の女性から感じる恐怖心を消すように魔法が僕に向けて飛来してくると僕は、その場から離れながら魔法を回避し続ける。だが、僕は逃げる事ばかり考えていたのが悪かったのかもしれない、僕は自分の死角からの魔法に反応する事が出来ずに背中からその魔法を受ける。

(痛っ!!でもこの程度の痛み、なんとも言えない)

僕がその魔法の攻撃を受けたことによって、僕は意識を失ってしまい、目の前の僕の姿をした女性や、僕の事を攻撃していた人たちが、僕の方を警戒しているのが見えると僕は、その光景を最後に目の前の世界の僕の記憶は完全に途絶えたのであった。

俺に抱きついてきている少女に視線を向けながら俺は頭を悩ませていた。

何故ならば、目の前の少女がいきなり涙を流し始め、俺の服で涙を拭き始めたからだ。

そんな状況になった事に俺が戸惑っていると、突然俺の事を抱きしめている少女に衝撃が加わる。

そしてその衝撃を受けたことにより、その勢いのままに俺は吹き飛ばされると、その吹き飛ばした存在の方を向いた。

その瞬間に俺に攻撃を仕掛けてきた相手が、目の前に存在する女性と同じ姿に変わっていることに気づく。

そんな相手と向かい合う形で対峙していると、俺の目の前にいる存在にもう一人の少女が声をかけたのだった。

「私の可愛い弟になにしてくれてんのよ!殺すわよ!」

そう言って少女は腰に差してある剣を引き抜くと、もう一人の目の前にいる存在に攻撃を仕掛ける。だが、もう一人のその存在はその攻撃に対処すると反撃に出たのだった。もう一人の少女はその攻撃を受けてしまうと苦痛の声を上げると、その場に膝を着くことになる。その事に驚きを隠せずにいるもう一人の存在に対して、もう一人の少女が口を開く。

「私の愛しの弟を殺そうとするとか、万死に値する!!私の手で葬ってあげる!」

そう言いながら剣を構えてもう一人の存在に飛びかかるが、目の前の存在はその攻撃をかわすとその剣を掴み取っていた。そしてもう片方の手に持った短刀を握り締めると少女に向かって投げつける。それを間一髪で回避したその少女だったが、次の行動に移ってしまったもう一人の存在の動きについて行くことができずにいた。その二人の攻防を見た俺は目の前の相手に話しかける事に決めたのである。

「お前の目的はなんだ?」

その言葉を聞いた少女の動きが止まる。だがすぐにもう一人の存在の動きは再開されてしまうと目の前の存在が魔法を唱え始めていた。だが、唱え終わる前に目の前の存在の動きを止めた人物が存在したのである。その人物の右手から黒い鎖が出現させるとその目の前の存在を拘束してしまう。そんな魔法が発動されたのと同時に目の前の存在と、もう一人の女性が戦闘を止める。

「そこまでだ」

その言葉を発した人影を見ると、そこには俺がこの世界で初めて出会った男性が存在していたのである。

その男性は、金髪のロングヘアと碧眼が特徴的な容姿をしているが、その姿には威厳のような物が感じられ、そして全身から放つ気配が只者ではないと物語っていて、一目見ただけでその男性の実力の高さに驚かされてしまっていた。そんな男性が、俺の事を見つめてくると、真剣な表情になり俺に話しかけて来たのだった。その男性はこう言った。「貴様、名はなんと言う?」「名前は【神無月】です。それより、貴方達は何なんです?僕を殺しに来たんですよね?それに、どうして僕を殺そうとした人を止めたんですか?その答えによっては僕は貴方達に敵対するつもりでいます」

俺はその男の発言に疑問に思ったことを口にする。すると、男が答えるよりも先にもう一人の人物が口を開いた。「この男は私がこの手で殺す。その邪魔をしないでもらいたい」

そう言った人物は黒髪ショートで、青い瞳が特徴的であり、肌の色が白い。そんな見た目をした美しい女性がそう口にすると、先程から黙り込んでいる男に向かって話しかけたのだった。「貴様がどうしても殺したいというのであれば好きにするが良いが、この場で貴様にやられるわけがない。それよりも私は早く用を済ませたいのだ。貴様にこの者を始末してもらう代わりに私は手を出さないことを約束してやる。これで満足か?」

そう女性が言うと、男の方は不満げな表情を見せる。

するとその女性の事を見て何かを考えていた様子だったのだが、「分かった、それでいい」と言って俺から距離を取る。そんなやりとりを見ていて思う事があった俺は目の前の人物に質問することにする。「ところでどうして俺の名前を知ってるんだ?あんたらと会った記憶なんて無いんだが」「ふむ」と言いながらその男性は顎に手を当てると考え込んでいたのだが、「まぁそれは今はどうでもいいことだな」と言って話を終えるとその男性はこちらを見据えて再び話し掛けてくる。「それで貴様はこの女達をどうにか出来ると思ってるのか?」「えっと、まぁやってみないとわかりませんが何とかなりますよ。この二人はこの僕が倒すべき相手だと分かってるので問題ありません。それじゃあ僕はあの女の人を倒すので、その間、そっちは任せましたよ?」

俺はそう伝える。それに対してその男性は無言になるとその女性達を見る。そんな様子を見た俺は少し不安を感じながらも、自分の事に集中しようとした。

俺は相手の事を観察する。

(あの二人がどんな魔法を使うのかは知らないがとりあえず観察する事にしてみよう。それくらいのハンデは与えてくれるはずだ)

そんな事を思いながら俺は、二人を観察した。その女性はさっきからずっと同じ姿勢のまま動かずにいる。どうも動く気がなさそうだ。もう一人の女性の方は常に警戒態勢を取り続けている。

だがさすがに動きが鈍すぎるので、俺もどう動いていいのか分からず困っている。

そんな中で最初に俺が動いた。

(とりあえず手っ取り早いのは俺から攻め込む事かな?魔法がどういうものなのかわからない以上は、俺の方が圧倒的に不利だし。それにこの人達はおそらく強いんだろうけど、今の僕のステータスがどれほどなのかが未知数だから慎重にならないといけないんだよな。という事でとりあえず僕は近づいて殴る)「おいそこの女!!」

その言葉を合図にしたようにもう一人の女性が剣を抜き構える。

するとその女性は俺に攻撃を仕掛けようと一気に駆け出してきたのだった。

その様子を見ていた俺は焦る。だがその女性の攻撃に俺は何もする事が出来なかった。

「え!?ちょ、速すぎじゃないですかね?今の一撃が本気なんだろうけどそれにしたって強過ぎない?ちょっと僕の想像の斜め上を行っているようなんだけど、これが普通なんでしょうか。そんなことよりも僕は攻撃されたら防がなければならないと思うんですよ。だからその攻撃は受けられないな。仕方ない。少し痛いかもだけど我慢しろよ」

俺は目の前にいる女性の剣を避けた後にカウンター気味に拳を振りぬくと女性を吹っ飛ばすことに成功する。だが、その女性はすぐに体勢を立て直し俺の方を睨みつけると今度は短刀を抜いて襲いかかってくる。だが俺もその女性の動きを冷静に観察していると、攻撃を余裕をもって避けながらその女性の事を蹴り上げ、そのまま殴りかかる。そしてその攻撃を喰らうとその女性は地面へと叩きつけられてしまい苦しそうな表情を浮かべていた。そんな様子を眺めながら俺はある事に気づいた。それは俺の攻撃を食らったのにその女性のダメージが一切無かった事である。

(おかしい。確実に直撃していたはずなのに、まるで何も効いていないかのような反応をしていた)

そんな疑問を抱きながら俺がその女性の様子を確認する為に視線をそちらに向けた瞬間に背後から殺気に気づくとすぐさま振り向き攻撃を回避する。

(なんだ?一体なんだったんだ?)

俺がそう思っていると突然俺の体の周りに風が集まり始めると、それが徐々に俺を包み始める。俺はすぐにその状況の危険度が分かったのでその場から離れることにする。

だが俺が離れると風の渦は次第に収縮し始め最後にはその場からは消失していたのであった。

その光景を唖然としながら俺は見ている事しかできなかったのである。だがそんな光景を俺以外の人は特に驚くこともせずただ見守っていたのである。

そしてその状況を作り出した存在を目にして驚愕する。

「うっ、お兄ちゃんが私をこんな目に合わせてくるとか最悪だよね」

俺の前に姿を現したのは、俺の妹である真白だったのである。だがいつもの見慣れた妹とは違った。何故ならば今、俺の目の前に現れている妹の服装は巫女服を着ているからである。そんな姿を見ていた俺は心の中でこう思うのだった

(まさか、あれほどまでに怒る程の出来事とは思わなかったよ。てっきりそこまで大事になるようなことでもないと思ったんだけどなぁ)

俺は心底後悔してしまっていたのだ。何故あんなにも怒ってしまっていたのか分からない。確かに今までも似たようなことは多々あった。そして今回も同じような展開になるかと思っていたのだが違うかったようである。そのせいか今回の方が明らかに危険だと本能的に感じてしまう。そしてこの状況を打破できる方法はないものかと考えていたのだが一向に思い浮かばずに頭を抱えそうになっていた時、俺の後ろから大きな衝撃音が発生し俺の耳がおかしくなるほどの振動を感じる。するとその方向を見るともう一人の少女が吹き飛ばされていたのが視界に入ったのである。俺は急いで少女の方に向かって走ると抱き抱えるようにしてその身体を守る。その行動に対して腕の中にいる少女が文句を言って来るが俺は少女の言葉を無視して話しかける事に決めた。

俺は少女に向かって話しかける。

「大丈夫だった?」

「ありがとうございます」

その言葉を聞き安堵すると、もう一人の少女の様子を確認しようとしたのだがその必要が無くなっている事にすぐに気づき、もう一人の存在に目を向けて見ると、先程まで俺が対峙していたはずの女性が俺と俺が庇っていた女の子の背後に立っていた。俺は即座にその事に気づいて後ろに下がると、先程までは俺が戦っていた相手が目の前に現れたことに動揺しながらも構えをとった。するとその人物は不敵に微笑むと口を開いた。

その人物が発した言葉を聞いて俺は呆れかえってしまう。

「久しぶりじゃないか、我が友よ。いやこの場合は初めましてと言うべきなのか?」

そんな事を言われても俺はこの人と初対面なのだ。だから俺には全く覚えがないので困惑してしまった。なので俺はその人を見つめたまま首を傾げると俺は問いかける。

「どちらさまですか?」「ふふふ」

何故か嬉しそうに笑みを見せてくる。

俺はその人が笑う意味が分からなかったので俺は戸惑ってしまったのだがその人は笑い終わった後、急に雰囲気を変えると話し掛けてくる。

「まぁいい。それよりもだ、私の目的のために死んでもらう」

その人物の発言によって戦いが再開される。まずは最初に動き出したのは俺の後ろにいる存在だった。その人物は俺に向かって飛び掛かると同時に剣を振り下ろすが俺はそれをギリギリで避ける。

俺はその攻撃を何とか避けられたが、その際に地面に突き刺さりその威力を見せつけてきた。そんな様子を確認して冷や汗を流しながら次の攻撃を何とか避け続ける。

(やっぱりこの子かなり強いよ!!)

俺はそう考えながら必死で回避し続ける。その最中、その人物が俺に向けて魔法を行使しようと詠唱をしているのが見える。するとその人物が何かを唱え始めた直後、俺と相手の間で巨大な魔法陣が発動しそこから黒い魔力の塊のようなものが放たれる。その光景に驚いていたのだが俺は反射的に反応しそれを避けることに成功したのだがその直後、相手の方からも俺と同じように魔法の弾丸が飛んできていて俺にぶつかる寸前に目の前が真っ暗になってしまったのだった。「くっ、やばい、これは完全に油断してましたね」

その言葉を俺は口にしながら立ち上がるとそこには二人の女性の姿は無かった。どうやら気絶させられていたらしい。そして俺の意識も段々と薄れてきている。

そんな状態で考えるのはあの二人のことである。俺が戦った女性は俺に止めをさすつもりがなかったのか俺の事を殺す事はしていなかったがもう一人の女性の方は確実に殺しに来ていたのは間違いなかったと思う。その女性は俺の事が本気で嫌いで殺したくて堪らないように見えた。それなのに何故俺を生かしておいてくれたのか理解に苦しむ。俺には殺す価値すら無いと思われたのだろうか。そんな事を考えてしまっているが、今はこの現状の把握が優先事項だなと思い周りを見渡した。

そこは洞窟のようで、薄暗い場所。その事に気付くのとほぼ同時にこの部屋の入口らしき扉が開くと光が差し込んできて眩しくなってしまい、目を細めてしまう。

俺は入ってきた存在が何者かを確認するために警戒態勢を取る。

その人物はどうやら人間ではないようだった。俺はすぐに警戒心を解かないで、相手を観察し始める。

(ん?あれって確かゴーレムって魔物じゃないのかな?なんか見た目が似てるんだけど)

そう思った俺が、どうしたものかなと考えようとした瞬間、俺はその女性に拘束され連れていかれそうになる。そんな様子を俺は何も出来ずにただ見ていることしかできなかった。

(この人何者なんだろう?俺の知っている知識の中ではこの人のような存在は聞いたことないけど)

そんな事を考えている間にも俺が連れて行かれそうな予感しかしない状況に俺は焦りを覚えていた。そして俺の思考が纏まるより先に女性の腕が伸びてきてそのまま連れ去られそうになってしまうが俺も黙ってはいない。

俺は咄嵯に腕を伸ばし、女性を引き留めることに成功した。

(よし!このまま離さないようにするんだ。それで話を聞けるかもしれないから、話を聞くことにしよう。それにしても力強過ぎない?)

俺はそんなことを考えながら女性と取っ組み合いをしていた。だが、俺のステータスはこの世界でも弱い部類に入るだろうと思っている。だがそれでも俺にはそれなりの筋力があったのである。だからどうにか俺の力では引きはがすことが出来ない女性と、必死に女性を離さないようにしながら会話を試みることにした。俺はとりあえず質問をぶつける事にした。「すいません、貴女の名前を聞いてもいいでしょうか?」

俺はそんな問いを女性に投げかけると少し驚いた顔をした後、答えてくれる。「私は【ロードの使い手】である」

(え、今なんて言いました?今、この人の口からとんでもない単語が出てきた気がするんだけど、聞き間違えじゃないよね)

俺がその言葉を聞いていたら俺の体の中に電撃が流れたかのような衝撃が走ったのである。

(俺と同じ称号持ちだ。まさかこの世界で自分以外に存在するとは思っていなかった。だが何故そんな重要なことを隠しているんだ?というか、この人は俺に隠し事があるから殺さなかったということか?)そんな事を考えてると女性は俺の手から逃れてしまう。俺は慌てて再び捕まえようとしたが既に遅いようだった。俺は悔しい思いを抱きながら自分の非力を嘆き、どうしてこんなことになっているのかを考えていた。そして一つの結論に至った俺はすぐに行動に移る事を決めた。「貴方の名前は?」

俺がそう尋ねると、女性はこちらを向く。

俺はその視線に恐怖を覚えたが勇気を出してもう一度同じ問いかけを行う。するとまた先程と同様に名前を名乗ってくれた。

だが俺の求める情報はその名前ではない。俺が知りたいのはもっと深い部分の情報なのだ。

だがそれを俺は彼女に問うことはできなかった。それは何故か、俺にはまだ覚悟が決まっていなかったからである。俺は今まで生きてきた中で命を懸ける程の決意をする出来事が今までに無かったので、その気持ちがまだ俺の中で固まり切っていないのだ。だがここで彼女を逃せば恐らくは二度と会えない可能性が高くなると感じているので今しか機会は無いと考えた俺は、その女性にある提案を行った。俺は真剣な眼差しを彼女に送り話しかける。

「私のお願いを聞いてくれないでしょうか?」「なんだ?」

俺の願いに対して彼女は、無愛想に答える。俺はそんな態度を見て内心不安になりながらもその言葉を口にした。「私の家族になっていただけませんか?」「はぁ!?」

俺の言葉を聞いた彼女の顔は目を見開いて驚きの表情を見せていた。だがそれも当然だと思う。俺だっていきなりこんなこと言われたら驚くし。



だから俺は彼女がどんな反応をして来るのか予想が出来なかったのだが、今のこの状況から察する事ができた。おそらく彼女は俺を殺すつもりだったのではないかと思い至る。



そしてその理由を考えると俺を殺そうとしていた理由は俺と同じような存在であると悟られるわけにはいかないからだと考えれば辻つまが合うからだ。だからこそ俺は先程のように彼女の手を掴んだのだと思っていたのだが違うみたいだ。だけど俺にはまだその確証を持てずにいた。なぜなら俺にその事を打ち明けてくれないので確信を持つことができないからだったのだ。でもまだ俺は死ぬ訳に行かなかったから、こうして俺なりに頑張ってみたのだがダメだったようだ。

その女性が剣を構えて襲ってくる。俺は何とかそれを回避して、距離をとることに成功する。その行動を見たその人は俺を睨むような目を向けて来たが、その様子は先程までとは違いまるで別人のような印象を受けてしまったのである。その人が放つ圧力のようなもので俺は完全に気圧されてしまった。

俺はその時に理解してしまう。先程までの行動は全て演技だったのだという事を。そう、その女性は先程、自分の事を【ロードの眷属】と名乗っていたのでその言葉通りの意味なのであろう。だが俺はこの世界の住人についてほとんど何も知らない状態だったので判断を下すのに戸惑ってしまったが、この人は間違いなく強いと確信した。だからこの人が俺を殺しに来る理由が分からないがこの人は俺に対して何かの目的でここに来たはずだと思ったのである。俺はその目的を推測しようとしたが上手くいく筈がない。その人が何を考えているのかなど、想像することさえ出来ないくらい、この人とは実力の差が離れているのは一目瞭然だったから。なので俺は逃げる事に専念する事に決めた。

(あの人と戦えるはずもない。あの人には敵わない。それにあの人は確実に俺の命を奪いに来ているんだ)

そんな事を考えながら、俺と彼女の鬼ごっこは始まった。俺は走り続ける。この世界の事を何一つ分かっていない俺がこの場を生き残れる保証はないのだから、とにかく走って走るしかない。

(はぁはぁはぁ、やっぱり俺には戦闘系の能力が皆無のようだな。俺が唯一使えるのは【異世界言語理解】だけだった。他の能力は使えない。そもそも【異能創造】と【固有技能:絶対解析者】以外は使用することができないし)

俺が自分の能力を考察しながらも必死に走り続けていた時だった。俺の横の岩の壁が崩れ落ちたのだ。そしてその中から巨大な生物が現れると俺に向かって突撃してくるのが視界の端に映り込んだ。

俺はそれを確認すると同時にその巨大生物の突進を喰らってしまう。そして吹き飛ばされ地面に激突して激痛を感じ意識を失ってしまったのである。

(あ、やば、意識失う)

俺が次に目覚めた時は見覚えのない部屋の中にいた。俺はそこで横たわっていた。すると一人の少女が現れ、声をかけてくる。

『目が覚めたようですね。私は貴女の看病をしていた者です』

その人物はどうやら人間ではないようだった。俺はその容姿を確認してみるとやはり人間ではなかったようで角のような物が頭に生えていて明らかに人間では無いことが分かった。それに加えて服装からこの人物が人間ではないことは分かったが俺の頭ではこの人物が何者かまでは特定できなかった為質問を行うことにする。

まず俺が一番気になったのは、俺を助けたこの女性の正体である。見た目からこの女性は人間ではないということは分かっていたが一体何者なのかが問題になってきていた。そんな事を俺が思っているとその女性は俺の事を心配してくれたのか俺に質問をしてくれたので、それに返答しようと思う。

俺はまずこの女性が何者かを知る必要があった為にそれを訪ねようとすると女性から答えてくれた。その女性は、魔族の中の一つである竜種と呼ばれる種族の生き残りであるらしい。そしてその竜種が滅びかけた原因は俺にあるらしい。

どうやら俺の目の前にいる女性も元々は普通の人間の女性だったらしくある日、突然、ドラゴンになってしまったらしい。だが本人はその時の記憶は曖昧だと言っていた。

どうやら俺はこの人の呪いによって強制的に姿を変えられてしまい、人間の姿になれなくなってしまったらしい。この人は、人間の姿になった事で、元の姿の自分がどのような姿をしていたか忘れてしまっているようだったが俺には関係なかった。俺が気にしているのは俺が何故この女性の呪われた対象になっているかということだった。

(この女性が何を目的にこんなことを行っているのかは、今は知ることが出来ないけど、俺にとってはいい方向に進んでいるように感じる。俺もこの人のように呪いにかかったことで本来の力が出せないようになっている。これは好都合だと言わざる得ないだろう)

そう考えれば今、俺がしなければならない行動が見えてくる。

まずはこの人に名前を尋ねようと試みる。俺は彼女の名前は聞いたのだが俺の自己紹介をしていなかったので、お互いに名乗っておく必要があると判断した。

「俺は如月優斗って言います。あなたの名前を聞かせてもらえませんか?」

俺はそんな事を彼女に尋ねる。するとその女性は「え?私の名前?う~ん、ちょっとまって」

と言って少しの間黙り込む。そして彼女は俺の方を向いたかと思うと口を開いたのである。「私の名前ね。実は名前がないのよね」その言葉を聞いて驚いた表情を見せると彼女は少し申し訳なさそうな顔をすると説明してくれる。なんでも彼女は今までずっと【ロード】という名前を使っていたせいでそれ以外の名前が思い出せないそうだ。そして彼女は名前を思い出すまで自分の事を【ロード】と呼ぶことにしてほしいと伝えてきたのである。

(まぁ確かにそうだよな。自分以外が自分よりも強くなっているのならその名前を名乗る方が自然だ。それにこの人はきっとその称号に恥じない程の実力があるんだろうから、尚更【ロード】という称号に誇りを持っているんだ)そんな事を考えてると彼女から話をふられた。

「ねぇユウト、これから私は貴方の側に居ることになるの。だから私は貴方のことをユウトと呼んでもいいかしら?」その言葉を聞いた瞬間に胸の中にあった感情が沸々と込み上げてきて、思わず笑みがこぼれてしまったのだった。

その女性は急に笑顔になるとそんな言葉を告げて来た。

だがそれは仕方のないことだと思う。だってその女性の外見はとても美しく整った顔をしていて、とても美人で、さらに性格も優しいなんて言う、非の打ち所がないような存在なんだよ。その事実を知っただけでも俺は嬉しくなってしまうのは必然なわけだよ! だけどそれをそのまま口に出すのが恥ずかしかった俺は「あ、はい、好きに呼んでください」と答えたのであった。そんな俺の様子を見て女性はなぜか微笑むと今度は真剣な表情をこちらに向けて来た。俺は何かあるのだろうかと思いつつ、真剣な様子の彼女を見ると何か重大なことを俺に伝えようとしている事が分かる。そして次の瞬間、彼女は驚くべき真実を口にする。「あのね、ユウトはもう分かっているかも知れないんだけど。私がここに来ている理由は君を殺すためなの」

そう言った彼女の顔からは悲しみの表情が伺えた。だが、俺はそんな言葉を聞いてもなお、この女性の言葉を信じる事が出来ずに動揺を隠し切れないまま、ただ彼女の事を見つめるだけしか出来なかったのである。そして女性は言葉を続ける。「君は私の事を怖がらないのね。私の力を使えば、一瞬で相手を無残な姿に変えられる事が出来るのに。なのにどうしてそんなに平然としていられるの?」そんな事を言いながらも彼女はどこか期待しているように見えた。だから俺は思ったことを素直に伝えることにした。その方が伝わると思ったからこそだ。

「正直怖い気持ちがないと言ったら嘘になります。俺はまだ弱いですからね。でも俺だって殺されないように必死ですよ。それに貴女は今だって本気ではないでしょう?」

俺の言葉に対して目の前にいる女性が反応した気がしたがその事は置いておこうと決めて俺は会話を進める事に決めたのだ。

だけどその前に、まだお互いの名前が分かっていない事に俺は気づいた。そこで、お互いにまだ名前を名乗っていないことに気づき俺は慌てて自己紹介をすることに決めた。

「すいません、俺の名前は如月優斗と言います」

すると女性は「そっかぁ、ユウトっていうんだ」などと呟いているが俺にはまだ理解できていないことがたくさんあった。その女性の正体についてとか色々である。

俺がまだ困惑しながらその女性の事を見ていたがその視線に気付いたのか、「あ、そういえばまだ私の名前を言っていなかったわよね。私はレティ、それが今の私に残されている名前よ」

(なるほど、だからこの人が【ロード】を名乗っていた時、自分の本当の名前が分からなくなっていて、俺が【ロード】と呼んでいたからそう呼ばれていたんだな)

そんなことを考えていた俺は彼女の話に耳を傾ける事にした。そして彼女が俺を殺しに来た理由について教えてくれるようだ。どうやら俺の呪いについて知っているようで、俺の呪いを解除する方法を探っていた時に偶然にも見つけたらしく、その呪いを解く為にこの世界へとやって来たそうだ。それでこの世界の情報を探り、この世界で生活できる術を手に入れ、準備が整ってようやく動き出せると思っていた矢先、【ロード】と名乗る女性が現れたと。

(なぁ、この女性がこの世界を訪れている目的は何なんだ?)俺はそんな疑問を抱きながら女性の様子をうかがっていると彼女はそんな事を話し終えてから、すぐに何かを考え始めた。

その女性は考え事が終わったのか口を開くと、先程とは違った真剣な雰囲気を放ち、俺に向かって殺気を放ってくる。俺はその女性の行動から、俺はこの人を殺そうと思えば殺す事ができるんだということを再認識させられた。

(やっぱりこの人は、俺なんかよりも圧倒的に強い)そう確信しながらも俺の方も覚悟を決める必要があると感じたので俺もまた同じように、彼女に負けじとその瞳を睨みつけたのだった。

(やはり俺の予想通りこの人も相当レベルが上がっているみたいだな。だけど今は戦う時じゃないからな。それよりもこの人の正体の方が重要なんだ。どうせ戦おうとしても殺される未来しかないし。だから俺が今やるべきことは一つ、まずは情報収集、それに限る)

俺はまずは、相手のことを知るべきだと判断して、女性に尋ねた。まず最初に聞くことは決まっている。俺はこの人と戦ってはダメだということが分かっているからだ。だからこそ、俺が今この女性に対して最も知りたいのはこの女性の目的なのだから。

まず俺が今の状況でこの女性と戦うことは自殺行為にしかならないことは分かっているのだ。この女性の強さを知っている俺としては今の状態であれば間違いなく殺されるのが目に見えてるからである。

だが俺はこの女性が一体何を企んでいるのかを全く知らない状況だった為この女性に問いかけることにした。「そう言えば、俺はあなたが一体何者なのかを知らないんですよね。なので、まずあなたが何者なのかを知りたいと思んです。あなたの目的はいったいなんですか?なぜあなたはそこまで強さを求めているんですか?そもそもあなたはどうして俺を呪ったんですか?」俺がそう質問するとその女性はしばらく考え込むと質問を返してくる。

『まず、私の正体から話しましょうか』そう前置きして彼女は俺に正体を伝えてくる。

『私はこの世界の魔王と呼ばれるものの眷属である者、そうね、この姿じゃ信じてくれないかも知れませんが、私は魔族の中の一種である龍種の中の頂点に位置するもの。竜種と言われるものです。私はその種族の中で最強とまで言われているの』その話を聞いた瞬間に俺は驚愕していた。なぜならこの人はドラゴンだったという事実が発覚したからである。

(まぁドラゴンなのは薄々分かってはいたけどね)だがまさかこんなところでドラゴンに出会えるなんて思ってはいなかった。俺は内心でそんな事を思っていたのだがそれを表には出さないように気をつけながら目の前の女性の次の言葉に意識を向ける。

その女性は俺に説明してくれた。どうやらその種族が滅びかけた原因はこの人の先祖にあるらしく、その一族の中でも一番の力を持っていたものが、【勇者】と呼ばれる人間と恋仲になったらしい。その二人の結婚は祝福されるどころか、むしろ大反対を受けたらしいが、その二人の意思が固く結ばれることになる。その二人が結婚してからはその家系が強くなり他の一族を従えるまでになっていたらしい。その一族が代々、最強の称号を受け継いでいき【龍神】と呼ばれるようになったというわけだ。

そして【龍神】の一族の中にいる中で、初代である者は【魔王】と呼ばれ今では、この世界の六体の魔物の王の一匹になっているという。

つまり俺の前に現れたその女性は、その一族の最後の生き残りであり、俺を呪い、そして殺そうとした人物だったというわけだ。

『ユウトの考えている事が分かります。私のことを警戒するのも仕方のない事ですからね。私は【ロード】と名乗って貴方の前に姿を見せましたが、私の名前は実は偽名なのですよ。私は本当はその名前を使いたくはなかった。何故ならその名を名乗っただけで私の存在が知られてしまい、私を探し出そうとするものが現れてしまった。そしてその人達がこの私を見つけるのに時間は必要ありませんでしたよ。私がその人に見つかる度に追いかけられて殺されそうになる日々。もううんざりなんですよ。だからその人は殺しました。私は自分の命を守りたかったからこそ、私の事を知る者達を全て消し去りたい、そう思い続けていた。それが理由ですかね。それにユウト、私の呪いを解きたいと思うのも、自分が生きるためだからでしょう?』

そんな話を聞いていた俺は驚きを隠せずにはいられなかった。確かに俺もこの人を救いたいという思いはあるが、自分よりも明らかに格上の相手を助ける余裕なんて無いという事は自分でも理解できてしまっているのだ。だけどその女性が話してくれなければこの呪いについて調べることが出来なかったという事は確かだろう。

「確かにあなたの話を聞いて少し驚いた。俺が呪いを解くことに対して前向きに行動しようと考えるようになった理由の全てではないが、あなたの話が本当かどうか確かめる為にはどうしても俺自身が呪いについて知っていなければいけないと分かった。だけどね」俺がそこまで言い切ると彼女は俺が言おうとしたことを遮るように声を出す。その表情は明らかに今までとは違う雰囲気を出していて何か覚悟を決めたような顔をしているのだ。

(なんだこの嫌な感じ。今までと何かが違うような気がする)俺は直感的にその女性に何かが起こることを察知していたのであった。すると女性は口を開き、ある真実を口にする。

『そうですね。もう、終わりにしましょうか。私の目的はもう達成されている。だからもう私はユウト君を呪いから解放してあげるわ。そしてこれからは私が君を守っていくことにしよう。私の力で君の力を底上げさせてあげるから心配しないで』

(何を言っているんだ、この人は、もう終わったとか守ってあげるとか意味の分からない事を言い出しているし、もう訳が分からなくなってきたぞ)

俺は混乱していてどうして良いのか分からずその場で動けずにいたのだった。

そんな俺の様子をみて微笑んだ後にその女性の姿がどんどん変化していき、その見た目が完全に変わるとそこには俺と同い年ぐらいに見える少女が立っていた。

その姿は完全に俺好みと言ってもいい容姿をしていたのだ。俺は目の前の女性が本当にあのドラゴンなのか疑問を抱くが、今はそれよりも大事なことがあるのだ。「君は、誰なんだ?」そんな事を言いながら俺はその女性の方を見ていたが彼女はこちらを向くことなく言葉を続けた。「そうよね。突然そんなこと言われても困るわよね。私はね、あなたを助けに来たの」そんな事を言うが俺には理解できなかったのだ。

目の前にいる女性が俺に対して敵意を持っていないのであれば、助けに来てくれたというのは素直にありがたい事だとは思う。だが、この女性の正体が未だに掴めていない。

だからこそ、その女性は嘘をついている可能性があるのではないかと考えていたのだ。俺はそんな事を考えながらも、その女性に俺を騙して何の利益になるのかを必死に考えていたのである。だが、俺には女性の考えが全く理解できずに頭を悩ませているだけであった。するとその女性はすぐに答え合わせをすると言い出したのだ。それは自分のステータス画面を見せてくれるというものだった。

俺は半信半疑ではあったが言われた通りに俺自身の情報が表示されるステータス画面を表示し、自分の情報を確認させてもらうことにしたのだった。その結果俺はさらに困惑した。俺の知らないスキルが増えているだけでなくレベルまでもが上がっていたからだ。

(レベルが2つも増えていてしかもレベルが上がっている!? それに新しいスキルもいつの間に増えてるんだよ。だけどそれよりもだ、なんでいきなりこんな事になっちまってんだ。俺が【魔王の眷属】を倒してからレベルが上がったり、この人を助けたりなんかしていないのに。どういうことだ?)俺はこの状況を理解することができずにいた。しかし女性は嬉しそうな笑顔を浮かべて俺に話しかけてくる。「これで、あなたを呪っていたものを断ち切れたからね。あなたはこれからは安心できる人生を歩んで欲しいのよ。それとも何か不満があるのかしら?」

そう問いかけてきた女性の顔を見た時に俺は確信してしまった。俺のことを見つめてくるその瞳から溢れ出る優しさを。その目を見ると俺は不思議と何もかもを許してしまうような気持ちになってしまったのだった。

だがそれでも俺はその女性が信用に値する存在なのかを確かめるために、質問を続けることにすると今度はしっかりと答えてくれたのである。その女性は自分の本当の名前を告げた後にある約束をしてくださいと言われることになったのだが、その内容とは俺の命を守ってほしいという内容であり、もしも誰かに狙われたりした場合すぐに連絡して欲しいというものでこの世界に来る前に決めた決まりなのだそうだ。その約束を破った場合俺の命はないということも同時に告げられたのだった。

そのあと俺はその女性の名前も知る事になるのだが、俺はその名前を聞くとすぐに納得できたのだった。その女性の名前を俺達は知っていたからこそである。その女性の名前はルアンで元の世界での呼び名では瑠璃と呼ばれていたからだ。その名前が女性には似合わないほど男勝りな名前であることに俺達が気づいた時にはすでに遅かったのだ。その女性改め瑠璃は俺達に向けてこんなことを言い始めたのだ。「これからユウトは俺達のものだ。だからお前達にユウトをどうこう言われる筋合いは無いんだよ。いい加減諦めたらどうだ? さっきは殺そうと思えば殺せたがあえて殺さなかった。俺を敵に回すと言うことがどう言う意味を持つのかよく考えろよ? 俺が本気を出せば今すぐにだってこの場を消すこともできるんだからよ」と俺の腕に抱きつきながら俺を独占欲剥き出しにしてくる姿からは俺のことを愛してしまっているのだということは見て取れたのであった。そんな姿を見てしまうとこの女性から本気で逃げられる気がしないと俺は感じてしまったのである。

(あぁ〜これ、詰みゲーだわ、絶対に逃げられないじゃんかよ)俺は頭を抱えたまま心の中で愚痴をこぼしていたがその様子に気がついたのか、ルアンナは俺に声をかけてくる。その口調も俺が知っている瑠璃のものになっているのだった。

「おーい! ゆうちゃ〜ん、どないしたん、なんや頭が痛いんかいな。うちが治したりましてんか?」

俺の呼び方も何故か関西弁になっているのに俺は突っ込まずにはいられなかった。

俺はそのことについて聞いてみるとその女性は「そんなのどうでも良いやないか。気にせんでええんやで。ほら、はよこの子ら殺してしまいや、そしたらゆっくりイチャイチャしましょ」などと、この女性はまるで恋人のように振舞ってくるが、俺としては複雑な気分でしか無いのだった。

その後俺達は何とかその二人の勇者を無力化することには成功したがその二人も俺と同じように【ロード】の称号を手に入れていたらしく俺に呪いをかけることに成功していたようだ。その二人は【勇者】の称号を持っていたことから【ロード】の称号を手に入れたことで【魔王の配下】となっていたのだ。そのため俺は二人を倒すことが出来ずに取り込むしか方法は無かった。

そんな二人の勇者が俺の仲間になったことにより俺は仲間として受け入れる事にしたのだった。だが俺のこの行為については二人にとってはありがたい事だったようで感謝されたのだった。そんな時、ふと思ったことがあったので俺はこの二人の事を少しだけ調べてみると、その正体が分かることになる。

その二人の本名は黒江勇也(くろうえゆうや)と白木悠花(しろきくゆはな)で元の名前は違うらしいのだが俺と同じ日本人ということが分かったのだ。俺は何故、こんな事が起こったのかは分からないのだが、そんなことはもう関係ないと思っている。

何故なら今は目の前にいるルアンナをどうやって手に入れるかを真剣に考える方が大事だからだ。俺は自分のことを守るのとこの世界の平和を守るためにこれからの行動を考えようと決意を固めるのであった。そんな時に俺に対して一人の女性が近づいてきて、あるお願いをされるのだった。

「あのっ、すみませんが、私と結婚してもらえないでしょうか」

その言葉を聞いた俺は思考が止まってしまいしばらく言葉が出てこなかったのである。なぜなら今まで全く話した事も無い人物からの唐突過ぎるプロポーズを受けたからだ。

俺はあまりにも突然の出来事に混乱していたのであるが俺よりもルアンナが先に反応してくれていたのだった。

「あら、あんさんうちの可愛いユウちゃんの事が気に入ったの?」その言葉を俺が聞くとなぜか俺に対して嫉妬するような眼差しを向けてきたのであった。そしてその女性に対して俺は少しばかりの殺意を覚えていた。だがその女性の方に視線を向けるとその女性の目は真剣なものであり決して冗談を言っているわけでは無く俺に結婚を申し出ているのだということが分かるのである。

だが俺はまだ出会ったばかりだし、そもそもこの女性は一体なんのつもりで俺に告白まがいのことをしてきたのかが全く分からずにいたのである。俺はそんな状況からどうにか逃げ出す手段を考え続けていたが、その女性はさらに続けて口を開く。

「はい。私は貴方様に一目惚れしました。私のこの気持ちは決して嘘ではありません。だからどうか私と結婚して下さい。そしてこれから私を貴方の愛玩奴隷にして貰ってもいいですから」その言葉を聞いてしまった俺は驚きのあまり声を出してしまう。その言葉の内容が予想の斜め上過ぎて驚いたのと同時に俺はこの女性の行動と言動に疑問を抱いていたのだ。その疑問というのはこの女性が何を考えているのか分からないからであり、本当に俺の事を好きなのかさえも分からずにいるのだ。

その女性が俺のどこが好きなのかを考えてみてもこの世界に来てまだ数日程度の俺の何を知っており、そこまで俺に惹かれる理由があるのかと考えていても、俺の頭の中は混乱していて、何も思い浮かぶことがなかったのだった。

(うーむ、困った。まさか俺にそんな事を言う女性がこの世界に存在していたなんてな。だけどなんでこんな俺のどこに惚れたというんだ? そんな俺の何処を好きになるというのかが理解できない。俺がその女性をじーっと見つめている事にその女性が気がつく。俺は何か言い訳でもしようと思って口を開きかけるが、そんな俺の言葉をさえぎるようにしてルアンナが俺の目の前に現れると俺の手を引いてどこかに向かって歩き出したのだった。その行動からルアンナが怒っているのではないかと思い恐る恐る俺は問いかけてみた。

すると案の定その女性に何か言いかけていたことを思い出して謝ろうとしたのだ。

だがその女性は俺を安心させるように微笑みかけてくれながら俺の方を向いてくる。だが、その目は完全に笑っていないどころか怒りの目をしているような気がしたので怖くて俺の口からはそれ以上言葉を発することができなくなってしまっていた。

俺とルアンナはその女を無視してその場から離れようとしたのだが、その女性がしつこくついてきて俺に話しかけてきてくるのである。その女性も俺がその女性の存在を無視した事に気がつき始めてしまったのか、先程までの怒りのオーラを纏っていたのだが今度は悲しそうな顔をしてしまっていたのだった。

俺はこれ以上女性を泣かせることはできないと思い、その女性から何か言われる前に返事を返そうと決めるのであった。

「俺にはもう既に妻と呼べる存在がいるのであなたのお気持ちは受けられませ」俺が最後までその言葉を言わせないかのようにその女性は俺のことを強く抱きしめてくる。

そして泣き出してしまいながらも俺をしっかりと見つめてくるのだ。その姿はまるで捨てられそうになっている子犬のような目をしているのにその目の奥からは強い意思のようなものを感じとることができた。だからこそ俺はその女性から逃げることはできなかった。もしその女性から逃げてしまった場合には一生後悔してしまうと本能的に感じ取ってしまったのかもしれない。だがその感情に流されることは絶対にしないという決意をした上で俺の考えを告げたのだった。「あなたと結婚をするかどうかを決める事は今すぐできるとは思わないからとりあえず保留にしとくね。ごめんね。俺があなたに返事をしなかったのは今から一緒に来て欲しいところがあるんだよ。だから今すぐには答えることができなかったからね。それにあなたにも準備というものが必要なはずだから、それぐらいは待てるでしょ?」

その女性は俺のその言葉を聞くと嬉しかったのか、涙を流しながら喜んでいたのだったがすぐに我にかえると慌ててお辞儀をして「はい。ユウト様がよろしいとおっしゃるまではいくらでも待ちます。それと申し遅れました。私の名前はセシアと言います。今後とも末永くよろしくお願いします」と言ってきてくれる。

その女性の瞳は俺の事を信用しきっており心の底から信頼してくれているというのがよくわかるものであった。

俺もその女性を見つめ返しておりお互いに視線を外せなくなっていたが俺はその空気を変えようとして別の話題を振ってみた。

俺達が目指している目的地は【魔族領域】と呼ばれている地域にある村なのだ。

その村に辿り着くためにはかなり危険な旅になると思うのであるが俺はその事を伝えると、それでも大丈夫だと言うのだ。その理由はセシアは【勇者】の称号を持っているのだと。

だがその話だけでは納得ができず俺はもっと詳しく聞こうとしたのだがその時、急に視界を奪われてしまいその女性の柔らかい感触を全身で感じることになってしまう。

俺の目の前に突如として現れたルアンナは俺が他の女の人とイチャイチャしている光景を見て嫉妬心を燃やさずにはいられなかったようで、いきなり俺に抱きついてきてきたのである。ルアンナがなぜ俺に抱きついたのかがすぐに分かった。俺の嗅覚が捉えた匂いがルアンナの匂いだったからだ。俺はその香りによってルアンナを安心させてあげたかったが、それは無理だという事を思い知らされることになる。なぜなら俺の体の自由はいつの間にか拘束されており身動きを取ることが出来なくなってしまったからだ。そしてそのまま俺はルアンナに連れられるまま移動を始めることになる。

それから俺が連れて行かれたのはルアンナの部屋であった。

俺が部屋に入るとルアンナがいきなりキスをしてきた。それも舌を入れてきた濃厚なものを、だが俺もそれに応えてやりお互いが求め合い激しく口付けを交わし合ったのである。そしてしばらくして落ち着いたのかようやく俺達二人を繋いでいた銀色の糸が切れて二人の唇が離れていくのだった。

そしてルアンナの顔を見ると少しだけ赤くなっているものの満足そうにしてこちらを見ているので俺はどう反応したら良いのか分からないでいるとルアンナが口を開いた。

「あんさんがうち以外の女に鼻の下を伸ばしとったからうちが代わりにあんさんの愛情を一心に受けたんやで」

俺はルアンナからその言葉を聞いた途端に俺が今まで何をしていたのかを理解したのである。俺はその事を誤ろうとすると俺に近づいてきたルアンナがまた俺に抱きつくようにして体を密着させてきて耳元で囁いてくる。

「別に怒ってへんよ。それよりもこれからはうちが嫉妬しやすい相手は選んで欲しくはなかと、それでさっきの女性と結婚するのはなしになったわけよね?」

「ああ、もうその女性はここにはいないしな。それよりなんなのこの手錠みたいなものは?」

「これは魔法で作られた物や。簡単に説明すると手錠のような役割をしとるもんかな」

「じゃあこれを解かないのか」

「ええんか? そんなに素直に従うんなら手錠を外したって問題はないと思うんけど?」俺はその言葉を聞いてその手錠が俺の動きを完全に封じるためではなくてただ単に俺と触れ合っているためのものにしか過ぎないという事に気づく。だが、俺の理性はまだ正常に働いていてこの状況が異常だということをはっきりと認識していたので何とか抵抗しようと思いルアンナの隙を伺っていたのである。だが俺が動こうとするたびに俺の体はさらに締め付けられてしまって動けないようになっていた。なので結局俺はおとなしくされるがままにされてしまう事になってしまった。

そんな事があり、ルアンナと一緒に寝ることになったのだが俺の腕の中にはルアンナが居座っている状態になっており俺がルアンナを抱きしめていた。

その時にふと思った事がある。俺はこのままの状態で眠ることができるのか? そんな事を思った俺はルアンナを無理やり引き剥がそうとしたがなかなか離れることはなく、最終的に力技を使ってしまったのであった。その方法を使えば当然の事ながらルアンナが起きてしまうのである。そして起きてしまったルアンナから怒られ、俺達は喧嘩をする事になるのであった。

俺が起きたのはすでに日が高く登っていてルアンナと喧嘩をした時にはすでに昼頃を過ぎているだろう時間だった。そしてこの家には俺一人しか住んでおらず、ルアンナはこの家を飛び出していってどこかへ行ってしまったらしい。その事が分かると同時に、ルアンナとの喧嘩の時に言われた言葉を俺は思い出していたのだった。

『もう知らん! こうなったら勝手にすればいいやん!』「俺はなんでこんなにも悲しい気持ちになっているんだ?」

俺はこの気持ちの理由を考えようとした。だが俺は答えを見つけることができなかった。俺はその感情の理由を考える事を諦めると俺は朝食を食べずに昼食を食べることにしたのであった。だがその昼食も食べ終わるとその空腹に耐えられなくなった俺は夕食を作る事にする。そして料理を作っている時になって気づいたことがある。それは自分が作るものがどれも美味しいと感じることができるのだ。

俺はこの事に戸惑いながらもなんとか調理を終えることができたのでそれを食べた後に、ルアンナが帰ってきた時に渡そうと俺は考えていたのだ。だがルアンナはいつまで経っても帰ってきてはくれなかった。そして夜になり俺は仕方なく一人で眠る事にしたのだった。

ルアンナと仲違いをしてしまった翌日になってもルアンナが家に戻ってくることはなかった。そればかりか連絡もとれずにいる状態だったのである。だから俺がその事で不安を覚え始めていた頃、その出来事は起きた。家の外から誰かの叫び声が聞こえてきたので、俺がその声が聞こえた方に駆け出すとそこには昨日の夜に出会ったあの女性と、なぜかその女性を守ろうと剣を振りかざしている男性がいた。そして俺が女性に声をかけようとするよりも早く男性が俺の事を剣で攻撃してきたので、俺は咄嵯に身を屈めて避けることに成功した。

そして俺が顔を上げると俺のことを殺そうと考えていたその男の姿は無くなっており代わりにルアンナがいることに気づく。

「どうしてあんたがここに居るんだ」

「ユウトが帰ってこんからうちの方から迎えに来たんじゃけんど。ユウトはうちのことを捨てたん?」

「い、いや、そう言う訳じゃないんだけどな。それよりもあいつは一体誰なんだ。もしかしてあれも敵なのか? でもあの男はセシアの彼氏だろ? その事と何か関係でもあるのか? ってその前にお前は本当にルアンナ本人だよな。いつもと違う服装をしているが俺が愛しているのはルアンナだけだぞ。俺にはルアンナ以外に大切な人など存在しないから、俺の前から姿を消した本当の目的を聞かせてくれないか」

「うーん。まずはその格好については何も言わんとってくれ。それにさっきの話についてやけに早口に喋っとった気がせんでもなかったんやけどうちが好きなのはほんまなんどよね。それにそのセシアっていう人も助けたいと思っているのは間違いなかと。やからそのことについてユウトにも協力して欲しいんよ。ユウトの事は信用しとるんやけどね。それとセシアはユウトに恋をしていないとは思う。ユウトに惚れとるのは間違いないはずやから」

「そのセシアが恋をしてないってどういう事だ?」

「言葉の通りの意味でセシアにユウトの事が好いとぉかは分からんってことや」

俺はそのルアンナの言葉を聞くと俺は頭を抱えそうになった。

俺が今までに好きになっていた相手はほとんどが【勇者】だったのだから。しかもそのほとんどが女の子で、男の子の場合は全て年下ばかりだったのである。

「ルアンナの言いたいことは理解できた。だがその事をなぜ今このタイミングで言うのかが俺は気になる」

「それはうちの勘というしかないんやけれどね。セシアは間違いなくうち達にとっての天敵の可能性が高かからやと思う」

「はぁ〜やっぱりそういうことか」

俺は深いため息をついてしまう。なぜならその可能性は限りなくゼロに近くとも俺の中では確信を持ってしまっているほどに高いものなのだ。俺達が住んでいる世界には魔王と勇者が対立し合っているという言い伝えが昔からあるのだから。つまり俺のその行動のせいで俺の愛する人達が争うようなことになる可能性があるかもしれないと思うだけで、俺の心の中にあった黒い物が広がっていくのが感じられたのである。

それから俺はルアンナから詳しい話を聞いたのだったがその内容があまりにも荒唐無稽なものだったために俺はかなり驚いてしまうことになった。

俺がルアンナの口から聞かされたのは【魔族領域】にある村は【魔族】に支配されていてその村の住人は魔族によって強制的に奴隷として扱われているということと、その村に行くためには危険な魔獣が多く生息している山を越える必要があり危険だと教えられることになる。

俺はそのことを聞いた時、この村の周辺の地形は俺が住んでいた世界と同じだと聞いて俺は嬉しさのあまり思わずニヤけてしまっていたのだった。なぜなら俺はこの世界に転移して来てからも自分の記憶がどこまで正確になっているのかを確かめる為に色々と試行錯誤をしていたからである。その中で一番厄介なことは言葉を覚えることだと言うことを俺は認識したのだった。この世界の言語を理解することができない上に文字を書けるわけでもない状況で他の国の人間に話しかけても相手が何者なのかさっぱり分からない状態だったからだ。それでも必死にコミュニケーションを図ろうと頑張った結果、今では大体の人と話せるようになっていたのだ。だからこそこの世界の事を知っている人に会えた喜びは大きく、さらに自分が元々いた場所に近い場所に行けるというのは俺にとっては何より喜ばしいことであったのだ。(だがそうなってくるとルアンナはなぜ俺の前に姿を現してくれたんだ?)そんな疑問が俺の頭をよぎるのである。俺と会話ができるぐらいの距離にまで近づいた時にその姿を現すことができていたのなら、もっと早い段階で俺の前に現れることが出来たはずである。なのにそうならなかった理由は一つだけしか考えられない。おそらくは【神器】である《無限収納》の能力の一つだろうと思われるが、この能力を使うにはかなりのリスクを伴うらしいと以前ルアンナから説明を受けた覚えがある。そのリスクがなんなのかは俺がルアンナに聞くことはできなかったが、その代償にルアンナは自分の姿を偽ることができなくなるらしいのである。そしてその能力をルアンナが使っていなかった事からルアンナの本来の姿を見れていないということは間違いないだろう。そんなルアンナが俺の前に姿を見せてこうして話していることに驚きを隠せない。

そして俺はこれからの行動についてを考えてみたものの良い案が出ることはなかった。なのでルアンナの願い通り、このセシアという人物を救う為に協力するのが一番だと思ったのでルアンナに協力をする事にしたのだった。

「それで俺は何をすればいいんだ? そもそもなんでそのセシアを助けることがルアンナが姿を消してしまった理由に繋がるのか俺には理解できないんだが?」




俺は正直な感想を述べた。



「そう言えばそのことについては何も教えて無かったっすわ。まずはその話をしないといけなかったのにうちの失態やけん、許してくれって言いたいとこなんやけどのんびりとしている時間はなさそげんから簡単に言うとね、このまま放っておくと大変な事になるのはまず間違いなか。ユウトはあの時のうちが言ったことを思い出して欲しか。やからもう一度言うね。ユウトはあの時うちになんて言って欲しいって言ってきたかを」

「それはセシアって奴がこの国で暴れているんだろ。そしてその問題を解決するためには、お前がこの世界で持っている全ての力を使い尽くしたとして、その結果そのセシアっていう女を殺す事が出来なくて逆に殺される可能性がある。だがもしも俺がお前の力を使って助けることができるという方法があるならばお前に協力してもらいたいと俺は思っていた。そして俺はその方法でセシアを助けたいと考えたんだ。でもそれがどうしてルアンナと関係することになるんだ? もしかしてセシアを殺さずに捕えて欲しいってことでいいんだよな?」

「その通りや。ただ殺すんやなくて捕まえてほしいってことや。そうすれば後はうちが何とかできるかもしれへんからな。でもこの方法を使えば当然の事ながら、ユウトの命の危険は高まってしまうの。そのことについてはごめんなさいと言わざるをえんの」

「それについては問題無い。俺はどんな結果になってもルアンナと一緒の時間を過ごしたいと願っていたのだから。だから俺としては後悔は一切していない」

俺がルアンナにはっきりと伝えることができたのはこの気持ちだけだった。例えどのような結末になろうとも後悔は無いと思っていたからである。

俺の本心を聞いて安心した様子を見せるルアンナは、そのまま話を続けていく。その内容は俺の考えを根底から覆してしまうほどの衝撃を受けるものばかりであったのだ。そしてそれを耳にしてすぐにセシアを救い出すことを決めたのである。その話を聞いた上でその提案を受け入れるかを決めようとしたら俺はすでに決断することができずにその場で迷うことになってしまった。それはその内容が信じられなかったせいでもあったのだが。

(その作戦は俺の予想の範疇を超えている。そしてそれは成功の可能性が低いどころかほとんど成功することはない。仮にそのセシアという人物がこの世界に害をなすような人間ではないとしたらの話になるが。そして俺とファルナスが【ロード】と【ロードの加護を受けし者】だとすると俺は必然的に勇者になるのだろうか。だが今の俺にはそんな事を考えている暇などない。今は一刻も早くルアンナを連れてここから立ち去る必要があるのだから)

俺はそう考えをまとめるとすぐさま実行に移すことにした。そのために俺はルアンナに話しかけたのだから。だがその行動を起こす前に確認しなければならない事がいくつか存在していたので、俺はそれを尋ねることにした。

「ちょっといいか? セシアはお前と顔見知りってことだよな。だからセシアって人を助けるためなら俺とセシアの関係を壊さないとルアンナが決めたことなんだよな」

「うん、そうだよ。でもうちがこんなことをお願いするのは初めてやから。もしその事で何か文句を言われたとしてもちゃんと聞いてあげるつもりはあらへんよ。でもうちがこの事を頼むことができるんは多分これが最後になる思うから」

(最後の方の声が聞き取りづらくなっていたけどなんだ?それに何か違和感がするんだが、気のせいだといいんだけどな。それになんか様子が変だぞこいつ。まるでさっきまでの元気が無いみたいに見えるんだか気の所為か?)そんな疑問を持ったまま俺は次の言葉を告げることにする。

「ルアンナ。お前がそこまでいうくらい大切な友達のセシアを助けようと思う。だが俺はお前の話を信じることはまだできないし俺の知らないことがあるはずだと俺は思っている。そこでだルアンナには悪いと思うし少しの間だけでもこの部屋に隠れていてもらいたいと思っている。この部屋の外にでるのはセシアって奴に見つかってからにしてほしい。俺のこの世界における最初の婚約者でもある人だし俺の手で守らないと気が済まないというか」

俺がそういうとなぜかルアンナが涙を流し始めて俺のことを抱きしめてきた。俺は訳がわからなかったが、とりあえずルアンナのことを抱き返していたのである。そしてしばらくした後に落ち着いたらしいルアンナはゆっくりと口を開いた。

ルアンナは俺が想像しているよりも辛い状況に置かれていたようだとこの時に知った。この世界では奴隷制度が存在しているようでルアンナの村には、奴隷を扱っている組織が存在するらしく、その背後には大きな国が控えていた。そんな状態で奴隷にされている村人達は過酷な生活を強制させられていたらしい。そんな中での唯一の癒しが、奴隷商に売られてしまうまで親友として共に過ごしていた、ルアンナだったのである。

ルアンナはその奴隷商人の組織が、自分の村の近くの村を襲ったと知ってから、復讐しようと決意していたのであるが俺と出会う事ができた為に思い留まっていたのだという。そして俺はルアンナの願いを受け入れ、この村から逃げることに決めてからセシアを探し出したのである。だが、その時既に俺が探す人物は村の中にはおらず俺は、この村でルアンナと別れた後に何があったのかを確認するために村長に聞きに行くことに決めたのであった。だがその前にルアンナにこの村に居る間の偽名について相談することにしたのである。ルアンナは本名のままで過ごすつもりだったが俺が止めたのだ。ルアンナの名前はどう見てもこの世界で知られている名前ではなかったからだ。ルアンナはその名前の本当の意味を知っているのかもしれない。そう思ったからである。そして俺の提案でルアンナという名前から連想されるものを元にして俺達がこの世界で生活していくうえでの仮名を考えることになったのである。そして最終的に俺が考えた仮名はルリアという仮の名前に決定したのだった。俺とルアンナは二人で一緒に行動することが多くルアンナという名前は呼び慣れていなかった。そのためこの世界においてルアンと呼ばれる人物がいない可能性が高いと考えてこの名前を使うことにしたのである。ちなみにその判断が正しかったのかどうかはわからない。なぜなら俺とルアンナの目の前にルリアと名乗った女性が居たのだから。しかも俺達の事を怪しんできているように思える。俺の《鑑定》の結果はルリアの種族は人間であり、この世界の基準で言うと、平均的な強さを持っているらしいが特に強いわけでもない。そしてスキルに関しても普通の女性にしか見えない。俺はなぜこの女性がこの部屋にいるのかを考え始める事にした。だがその理由はルアンナによってあっさりと明かされることになった。その女性はルアンナの親友であるセシアであったからなのだ。つまり俺の考えていたことは間違っていたのであった。俺がそう考えている間にも話は進んでいく。この場で俺に分かるのは俺の事が信用ならないと思われていることだけである。

「えっと、ルリアン? 貴方って何なの?」ルアンナがそう問いかけるとセシアが俺を睨んでくる。どうやら俺は警戒されているようである。そして俺は正直にこのセシアに全てを明かすべきかを悩んでいた。この場では俺の正体を隠した方がいいだろうと考えていたからである。そして俺はルアンナとルシアが姉妹であることと俺がルシアの婿になる存在であるということを告げたのである。

俺の言葉に二人は驚いているように見えたが俺がルアンナと結婚を前提に付き合っていると聞くとセシアは納得してくれたらしい。ただ俺は、このセシリアが本当に信頼できる相手なのかを確かめる必要がありそうだった。

「お前の話を疑うわけではないんだが。俺達二人を信頼してもらうためには、セシア、お前にはいくつか俺に質問をしてきてもらわなければならない」

俺がそう言うと、セシアは不満そうな顔をしていたが仕方ないと諦めてくれたのか俺に対して色々な質問を投げかけてきた。その質問の内容のほとんどはセシア自身の事ではなく俺がどのような人間なのかを探るためのものがほとんどだったのだ。俺が嘘偽りのない言葉を返していくうちにだんだんとセシアは落ち着いてきたようだったが、俺がセシアに対して抱いていた疑問をぶつけた瞬間セシアの雰囲気が変わったのである。そしてセシアは今までとは違った口調で話し始めた。

「私から話してあげるの。あなたも本当は分かっているはずなの。私はこの世界を混乱させようとしている存在だってこと。でも私のことを捕まえたりしないって誓ってくれる? それができないのならもう行かないの」

セシアは真剣な眼差しで俺の事を見つめている。そんなセシアを見ていて俺の気持ちも固まる。この子を守らないといけない。俺はその気持ちが強くなっていくのを感じながらセシアに話しかけた。そして俺は、セシアのことをこれから守る事を誓ったのである。セシアは少し涙ぐんでいたのだが俺のその言葉を聞くと微笑みをうかべながら嬉しそうにしていたのである。だが俺としてはその笑顔の裏には大きな悲しみが隠れているのではないかと、この時初めて考えてしまったのである。

俺は、この村を出る事にした。それはルアンと名乗る人物がここに来る可能性があるからである。そしてその目的が分からない今のうちにルシアを連れて、どこか別の街に行こうと考えている。ただ俺としてはセシアともう少しだけ時間を過ごしておこうと思ったのだ。セシアが何故奴隷にされていたのかはルアンの話で分かっていたが、俺としてはルアンが言っていた通りセシアは悪人であるとは思えない。だからといって、ルリアとセシルーは似ているからと言って簡単には信用することができない。だからこそ、セシアの事情を知りたいと思っているのだ。そして俺がセシアにルリアのことについて色々と質問をしている時であった。突然セシアが倒れ始めたのだ。そしてすぐにセシアの顔色がみるみると青くなっていった。俺は慌ててセシアを抱き上げる。そしてセシアの状態を調べたところ俺にはどうすることもできなかったのである。俺はこの世界の医療について詳しくないのでどうしようもなかったのだが。俺にできるのは精々ルアンナの所に運ぶことくらいだと思ってルアンナを呼びに行った。だがそこには既にルアンナの姿は無かったのだ。だがルシアが心配になった俺はルシアンとして村長に会いに行き、セシリアの容体が悪化したことを伝えたのである。そして村長がセシアのことを診るために、セシアの家に入っていくとそこには村長以外に見知らぬ老人がいたのである。

俺がその老人に声をかけようとする前にその人物はいきなり俺の胸倉を掴むとそのまま俺の事を地面に放り投げやがった。その出来事のせいで一瞬意識を失いかけたがなんとか踏みとどまった俺はすぐに立ち上がるとその男を睨むことにした。

「このガキ! 俺の娘を何処に連れて行った? あ? 教えろ」

その男は凄い形相で怒鳴ってきた。それに俺が返事をするより早くルシアの父親の【クレア】が割って入ってきた。

「やめなさい! あなた、彼はルリア様の命を救った人なんですよ。それに彼ならきっとルリア様に何かあった時の事を考えていて行動に移してくれていますよ。彼が居なかった場合あの方は確実に死に至っていましたからね。それなのにそんな恩人に対してこんなことをするなんてどうかしているんじゃないですか!」


クレアは俺の前に立つと【クレア父さん】に怒っているような声を上げたのである。そしてその後、その男に頭を下げると今度は優しく語り掛ける。するとさっきまでの怒りの形相がまるで演技だったかの様に穏やかに俺に笑いかけてくると俺に礼を言い出したのである。

そんな感じで話がまとまっていく中、村長は冷静さを取り戻してきたようで。その男性から俺が助けてもらったという情報を手に入れたようだ。そして俺はその男性に改めて感謝を伝えていたのだ。

それから俺はセシアを治療する為にセシアの家に入り込む事にしたのである。俺はこの世界での知識が全く無い。そのためどんな方法でこの世界で生き抜いていこうかと考え始めていたのである。そんな中でのこの男性の訪問である。この人は村長と俺との話の中でこの村には、回復魔法が得意な人物がいるという話を俺にしたことがあったのである。この村の村長は優秀な人材が欲しいと言っていたし、俺もこの村に来てからはそれなりに日数が経ってきていた。なのでこの村の長に俺の力を貸してほしいと言われた時は二つ返事をしていた。この村は俺が元いた世界での田舎町のように思えたからこの世界における都会に出て行って、自分の力を示す為に必要な資金稼ぎと知識を得る事ができるいい機会だと俺は考えたのである。

そんなことを考えているとセシアの部屋に着くことができたので俺はルシアの治療を行うことにした。俺がルシアに手をかざし念じるとルシアの体の傷は見る見る治っていきセシアの顔色も少しずつ良くなってきた。そしてその様子を見届けてから俺はこの部屋の探索を始めたのだった。

まずは本棚の中に並べられている本を順番に調べていく。俺はそこで文字の勉強ができるようなものがないだろうかと考えたのである。そして一冊目を手に取りその中身を確認しようとした時に後ろから人の気配がしたので俺は急いで振り向いた。するといつの間に部屋に入ってきたのか知らないが。一人の少年が立っていたのである。その顔を見ると、俺よりも年下のように見えるが俺に話しかけてきてくれた。ただその時に俺の名前と年齢を教えて欲しいと言われてしまい、つい本当の事を答えてしまっていたのだ。ただそれだけなら良かったんだが、なぜか俺がルリアという名前を名乗った後その人物はその事実に驚愕した表情を見せたあと黙ってしまったのだ。

(まさかこいつが俺の考えていたセシアの義理の兄にあたる人物ではないだろうな)俺はそう思いつつもとりあえずはこの場で出来ることは全てやり終えることが出来たと思い外に出ることにした。だが俺はこの時気付いていなかったのである。ルシアンという偽名を使っているにもかかわらず、その少年は普通に接してくれた事に違和感を覚えなかったことを、この時の俺は、ルリアのことが頭を過っていてそこまで深くは考えていなかったのだった。

ルシアとセシアを二人とも助けることができたことで俺はホッと息をついた。俺はルリアが言っていたこの世界を混沌に陥れようと動いている存在というのがどうしても許せなかったのだ。ルシアを助けた時もその組織の人間と思われるセシアの兄をどうにかして救い出さなくてはと考えていたのだが、俺はこの世界に転移してからというものあまりにも多くの事が起こり過ぎていたためにそこまで考える余裕が持てていなかった。ルシアが奴隷にされそうになっていたこと。そして奴隷になりかけていたルシアを救ってくれたルシアの姉の存在など。この異世界に来れて俺は本当に運が良かったと思う。そんな俺に対して姉がくれた能力と武器のおかげでここまでやってこれた。

そしてこの世界にきて俺は自分が弱い存在であることを自覚させられている。俺は《ステータスオープン》を使って確認したがこの世界基準では俺は弱い部類に属すると言わざるを得ない。レベルが低すぎるせいもあるのだが俺の攻撃力は100しかない。つまりこの村では俺が一番弱かったのである。そして一番強い人間でも500ほどなのだ。そしてこの村の人間で一番強くても1200ほどであるので俺はこの村の人達より少しだけレベルが高い程度であり、俺が強いわけではないということがわかる。だからこそ、この世界の常識を身につけなければ俺はいつか足手まといになってしまうかもしれないと思っていたのだ。だから俺はこの世界の常識を知る必要があった。だがそれは思った以上に難しい事だと思っている。何故ならそれは、他の人にも言える事だからだ。

ただ俺の場合は他の村人と違い一つ大きなアドバンテージがある。それはこの世界に来る前に俺に備わっていた【固有スキル】の事である。【神域作成】

【絶対防御結界】

【全自動再生機能付き装備付与システム】の三つは、普通の人間にはない特殊なものだし。そしてこの三つの能力は今のこの世界においてはチートとも言えるほどの強力なものだと思うのだ。だが俺自身はまだまだこの能力をフル活用できる状況ではないと考えている。というのも俺自身まだ、その力の使い道をはっきりと把握していないからである。そして俺はルリアが俺にこの力を託す際に言った言葉が引っかかっている。その言葉とは『私は、あなたに私の大切な家族を助けてほしい。でもそれは私がこの手でルシアちゃんや、ルシアン、そしてルアン、みんなを守ることが出来なくなった時の為でもあるの』というものである。この世界の秩序が崩壊しそうな時に現れるとされる組織を、この村を俺の力で守り通せという事なのか? 俺がそう考えても、やはりその組織はルリア達と関係があるのは明白で。それならば俺の力は必要になるはずなのだ。それに俺がこの村に来て数日、既にこの村にいるはずのセシアとセシアの家族を守れなかった場合。その時の為にとルリアは俺にその能力を渡してきたのだろうと考えると、やっぱりその能力が役立つことは間違いないように思えるのだ。だからこそ、俺自身が強くなる事がこの村を守ることに直結してくるはずだ。だからこそ俺は俺自身の強さを少しでも高める為に色々と行動しようと決めたのである。

「セシアが助かって本当に良かったわ。私もあなたに感謝しているけどルシアのことも救っていただいてありがとうございます」

「いいえ。僕は自分に出来ることをやっただけで。それにお礼を言うのはまだ早いと思います。僕としては、この村にしばらくお世話になろうと思っていますのでよろしくお願いします」

俺はクレアの言葉に対し謙遜したように答えると、お辞儀をして挨拶をした。だがクレアは俺のことをジッと見つめている。何か俺が変な行動をしたかと思ったので俺はすぐにクレアに謝ると何かおかしいところでもあったか聞いてみた。するとどうやらこの村は今から、この村で生活していた人たちを全員連れ出し。王都へと移動するのだという。その理由は【クレア】という女性の存在が村からいなくなった事で、クレアの父親に危険が及ぶ恐れがあるということだ。その為、俺の目の前でクレアに何かあってはまずいと判断した俺はすぐに【ルシアの義父】さんに連絡を取った。

俺がその行動をとった理由というのは【ルシア】とセシアの義理の父にあたる人物の名前がクレアの父である事に気付いたからである。そのことから、もしもの事態が起こった場合俺が【クレア父さん】と呼ぶ人物に、連絡を取らないのは不自然だと思い。一応【ルシア】ではなく【ルシアン】としての連絡を【クレア父さん】にした。すると【クレア父さん】はすぐに応じるとルシアの義母となる人物と一緒にこの村から出て行ってほしいと言ってきた。そしてこの村を出る際には【ルシアの母とセシアの妹】と合流して移動をして欲しいとも頼まれてしまったのである。その話を聞いた時に、俺が感じたのは。ルシアやセシア、ルシアのお腹の中にいた赤ちゃん。そして、ルシアのお母さんとセシアのお父さんが心配だということだ。俺にはその気持ちがわかるような気がする。俺は、元いた世界での両親と仲が悪い。別に嫌いなわけではないが俺には理解できない部分が多くあるのだ。なので俺が元の世界に帰りたくない理由の一つは、親と上手くいかないからでもある。そんな事を考えているうちに、俺はセシアが回復しているかどうかをルシアに聞いていた。だがその質問はセシア本人に遮られてしまい。その後セシアはすぐに俺に回復魔法を掛けさせてほしいと言い出す。そこで俺は素直に従い、ルシアンの姿に戻りルシアに回復してもらうことになった。

それからしばらくの間は俺はルリアと二人っきりで行動する時間が増えていく。

俺がルシアとセシアの傷を癒した後。この部屋から出たところで俺はルシアンとしてセシアの義妹にあたるルシアと出会った。俺はこの時に思ったのである。もしこの子が奴隷になりそうになっているのを救えたとしても、この子は俺の言う通りに動いてくれないのではないだろう。そう思ってしまう程にセシアに似ていないのが印象的であったのだ。俺は、そんなことよりも早く自分の家に帰ってゆっくりしたい気分だったのだ。だから俺は、このルシアにルシアの家まで一緒に行く事を提案した。だがルシアはその話に納得が出来なかったのか、俺に文句を言ってきていた。そこで俺は、セシアに聞いたのと同じようにこの子に対しても奴隷の件について説明してあげる事にした。この話はルシアもセシアと同じく奴隷になりかけているという話だ。だがこのルシアの場合、奴隷になる事を拒否したのだと。ただルシアよりも年齢が低いという事もあり。ルシアが奴隷になりかけた際に、奴隷商人から逃げ出してきたのだろうと予測する事が出来たのだ。そしてルシアにルシアはどうしてこんな所に一人で居たのか聞く事にした。するとルシアの話は驚くべきものだったのだ。

なんとその女の子はルシアの実の姉であるルシアがルシアと入れ替わって自分を救うという話を、その女の子はルシア本人の口から聞かされたらしい。俺もその事実を聞いて少し疑問を覚えたのだが。それよりも俺の中ではルリアとの再会の方が優先度が高かったため。この事はまた後で話すことにしよう。そう思った。その後は、俺はルシアに俺の家に来ないかと提案した。理由は、この子の面倒を見て欲しいからだ。それにセシアにもこの子を俺に預けてくれと言われているので、丁度いい機会だと思ったのだ。

「分かったわ。でも私の家じゃダメよ」

ルシアはこの家で暮らしているわけではないのだと、そう告げた。だから俺達は一度この場を離れることにする。そしてその途中でルシアが奴隷になりかけていたという場所に行ってみることにした。

俺達がルシアと出会って話をした翌日、俺はルシアに連れられてその現場に行く事になる。そしてその場所に向かう途中、俺が考えていたのはやはり、ルリアに貰った能力でルシアやセシアを助けることはできるのではないかと考えていた。俺の想像が正しければ。この能力は、レベルが上がるごとに能力の効果が上昇していき最終的には無敵のスキルになる。そんな予感さえしているので、今の俺は少しだけテンションが上がっている状態だったりするのだが、俺はそのことに気付いていなかった。

俺とルシアは森の近くの道を歩いていると、突然後ろの方から声が掛けられたのだ。その言葉はどこか俺を歓迎していない様子だったが、その言葉が聞こえた後すぐに、俺はこの村の人達に取り囲まれてしまった。だが俺は、【神域作成】のスキルを使用してその場を収めると、この村の村長を名乗る女性が現れた。その女性はルシアを見て驚いているようであった。それはそうだろう。なぜなら、俺がこの場所に案内したのはこの村に住んでいたセシアという少女であるはずなのに。現れた女性がセシアではないと一目でわかってしまったからだ。俺は、この女性の名前はクレアだという事がわかり【剣姫】の正体を知ることが出来たのだ。そしてこの村で起きた出来事を聞いた。だがその話が信じられるものではなく。俺が確認の為にその話をもう一度聞いても、クレアさんの言っていることは本当だった。俺には、嘘をついている人の心が見える能力を持っているのでその能力は確かなはずだ。

俺はこのクレアさんの話しを聞いてすぐにルシアを見た。ルシアは、セシアの義理の父でありこの村の住人の一人でもあるルシアの父を、そしてルシアを、助けるためにここに来たので、その目的が叶ったのならこの村に残っても良かったのだ。そしてこのクレアさんに頼めば俺の【ロード】の力が使えるようになる。そうすれば、クレアさんから【魔族の王ロード】の情報も手に入れることが出来る。そう考えた俺はこの場でルシアに、クレアさんに、協力を仰ぐ事を進めたのである。そうすれば俺の目的も果たされる。それに俺も、セシアや、セシアの父さんや、このルシアを助けれる。俺はそのように考えるとすぐにこのルシアの義母になる人に声をかけて、その提案を受け入れてもらう為に、クレアさんを説得した。俺はこのクレアさんという女性に対してあまりいい感情を持っていないのは確かであるが、ルシアがルシアの家族を助けたい気持ちは本物だし、ルシアもこの村には思い入れがあるようで、結局は折れる形で、このルシアの提案は受け入れてくれた。だがその前に俺は、セシアという娘に会う事になったのである。そして俺もセシアに回復魔法をかけるために、【神癒】を発動させて、ルリアから譲ってもらった能力を使ってセシアの治療をするのであった。

セシアが助かった。そう確信してから俺はルシアと一緒に村へと戻って来た。すると村ではセシアの両親が出迎えてくれる。そして俺とルシアが戻ってきた事を喜び、セシアの回復を願ってくれているようだ。この村は今から移動をするために忙しい時間を送っている。その為なのか俺はそのセシアの父親からお礼に食事を振る舞ってくれることになった。

それからしばらくして、ようやく落ち着いてくると。セシアの母である【サラ】さんが俺に、何かセシアにしてあげれらることはなかったのか聞いてきた。なので俺は特に何もなかったと答えるがそれでもまだ気にしているようで、セシアを奴隷にする話が出た時に、俺がセシアの義父にあたる人にセシアの事を任されていたと話したところ。それでサラさんの機嫌がよくなった。俺がそのことについて説明したところ。俺がこの村を立ち去るときには、セシアの両親と一緒に俺達を見送りたいと言ってくれたのだ。

それだけでなく俺とルシアはクレアの村で暮らすということになり。これからは村の一員として過ごしても良いことになったのである。俺はルシアにクレアに許可を貰う必要があると言われて俺がクレアのところに行くことになる。

俺は【ロード】の力で移動をして【クレア】さんの元へと行ったのだが、この【ロード】の力には、この力以外にも使い道がありそうだと思ったので今は考えないようにして。俺はクレアに会いにいったのだ。そうして俺が到着した時は既に、俺がクレアの元に訪れる事を想定して待っていたのか、【ルシアンの姿】をしている俺を迎え入れてくれ、ルシアやセシアのことを話し合うことにしたのだ。そこで、まず先に、俺はルシアに回復魔法をかけてあげると、その時にセシアの両親のことも一緒に治療する事にしたのだ。

それから俺はルシアと共にこの村の村長であるクレアの家に行く事にした。

俺はこの村に滞在するための条件としてセシアを救い出した時の状況について話すことになったのである。俺は、その時の話をルシアにも聞かせる事になり、二人でルシアの義母になるはずの女性と話し合いを始めたのである。俺はルシアの義理父であるルシアの祖父にも会うことになったのだが。その際に、俺がルシアを嫁がせることを承諾してくれたことに喜んでいるのを見かけて、ルシアのことを可愛がっている様子がうかがえた。

だがこの村の村長の家の中はとても広い作りになっているので。この部屋の中だけで俺は、自分が住んでいる家と変わらない程の家だと感じてしまうほどだった。俺がこの家の大きさに驚いている間に、この村の長である【クレア=デニング】という人は。ルシアにこの村で暮らせなくなると伝えたのであった。それはなぜかというと、この村で暮らしていたルシアは。他の土地でも暮らしていけるが。セシアやセシアの両親はこの村の出身であるため、この村から離れる事は許されない。そしてルシアがこの村に残っていてくれるのならセシアが安心だ。そういう理由があったからだ。俺としては、その話を聞けば。この人が、ルシアの両親を助ける為に動いていることがよくわかったのだ。

俺はこの話を聞いた後に。自分の能力を使う事によってこの人達を救う事ができると、その事を伝えようとした瞬間。俺は自分の能力が暴走し始めてこの部屋の中にいた人達全員の命を奪う事になってしまったのであった。

(なんだよ。せっかく上手くいっていたかもしれないのによ。こんなところで失敗してしまうとはな)

俺が自分の能力に意識を奪われていた時には、すでに俺の体は完全に動かなくなっていたのでどうしようもできなかった。そして、俺の体が動くようになる頃には、俺は自分の能力が使えない状態に陥ろうとしていた。そして完全に動けなくなったあと。誰かに話しかけられているのが聞こえてくるが。何を言っているのか全く分からずに、意識を失ってしまったのである。俺はこの日を最後にルシアとも、そしてルシアの両親や村の人達と話す機会を完全に失ってしまったのだ。

だが俺がルシア達の事を忘れることはなかった。なぜなら俺の体は、ルシアと出会って以来。ずっとそのままの状態のままだったので。この体の主人格がルシアから、別の人物に移っても、その記憶や情報は引き継がれるからだ。だから、その新しい体に俺の意思や思考を移す事が出来たら俺はまた元に戻る事ができるはずだと考えたのだ。

その日から、ルシアは自分の姉を助ける為だけに生きることを決めるのであった。俺は、ルシアの義妹になるはずなのに。俺はそんなルシアを見ていて、本当に俺の妹になるのかどうか、少し疑問に思ってしまうのだった。

俺が目覚めるとそこはベッドの上で、そこには、俺と同じ顔をした女性が俺の横で座って本を片手に持ち読んでいた。

俺はその女性が一体何者なのかがすぐに分かった。俺の本当の母親だとすぐにわかることができたのだ。その女性は俺の気配に気づいたのかすぐに振り向くと俺に向かって微笑みながらこう言って来るのである。

「おはよう」

「あぁ。お前は誰だよ? なんなんだ。この体は、それに、ここが何処かも教えろよ?」

「私はルシアの母のサラっていうの。ここは、私の部屋で、そして、あなたの身体はこの子のものよ。それと、あなたは私の子供でこの子の名前は【ルシア】ちゃんっていうのよ。ルシアが目覚めたら挨拶するといいわ。さて、そろそろ目を覚ましてもらう時間かしらね。この子にルシアの魂が入っているからもうじき目も開けると思うんだけど、ルシアは、今どういう状況にいるのかわかっているのかな。あの子はこの子の体に入る前はセシアという娘の体を器として使っているみたいだったけど」

俺はそう聞いてからすぐにある事実を思い出すと、この女が言った事が本当だった事がわかり俺は、その事実を確認するためすぐに質問することにした。

俺はすぐにその事を聞いたのは。この女の言葉通り、俺の記憶にはルシアの記憶があるのだが。そのルシアは、ルシアの肉体にセシアの精神が入っていたのであった。このルシアというのはこの女の言っている事が本当なら俺の母親である可能性が高いが今は俺の母親の話を聞かずにすぐにこの場から出る事を優先した。そうしないとルシアという奴と出会える可能性が低くなると思ったから。

そして俺はすぐに起き上がると。すぐにここの場所を知ろうとした。俺はルシアが持っていると思われるスキルを使い、【マップ】という能力を発動して、ルシアを探すことにすると。俺はルシアを見つけ出して【マップ】を使ってその場所まで向かうことにした。その途中でこの【サラ】と名乗る女性と会うが無視して、ルシアがいる場所に向かうのである。

俺が急いで向かっている途中には【マップ】には俺以外の存在の反応がなかったので、俺はすぐにこの場から離れようとするが。俺の行く手を遮るように一人の存在がこの俺の前に出てくる。俺がその現れた相手を見ると。ルシアの義母となる【クレア】がそこにいたのであった。

そうすると俺はこのクレアさんに対して攻撃を仕掛けることにした。俺はまだこの【ルシア】とかいう奴の肉体に入ったばかりなので戦闘に慣れていなかったのだが。クレアさんに攻撃を仕掛けることに成功すればその隙に逃げる事が出来ると考えていたのだ。それからクレアさんに襲いかかって行ったわけだが、その攻撃は難なく回避されてしまった上に俺は腕を掴まれてしまい身動きが取れなくなってしまったのだ。それから俺は抵抗するが何も出来ずにいた時に、俺が持っていた短剣が手の中から消えている事に気づくとその時にクレアさんの腕を蹴った反動を利用して逃げようとした時だった。俺はクレアさんの足で蹴り飛ばされてしまったのだ。そして地面を転がっているといつの間にか俺の目の前に移動してきた【サラ=デニング】に、胸ぐらを捕まれた後に持ち上げられて壁際へと投げられたのである。俺は壁に叩きつけられた後、気を失ったふりをしてその場をやり過ごそうとするとサラは立ち去っていくが、しばらくして目が開くとサラが部屋の中で椅子に座っていた。そして俺の方を向いてくるとこう言い放つのである。

「私から、セシアと、貴方のお父様とお母様に話したいことがあると伝えたところ、この家で話を聞いてくれるらしいわ。ついてきなさい。これから貴方が会いに行く人について私が教える事ができる事を教えるのだから」

そう言われた俺は仕方なく従うしかなかったのだ。なぜなら俺は、ルシアの父親に会った事がないのだ。だからこそ俺にとってどんな男なのかを知りたかったのだ。そう考える事しか今の俺には何もなかったのだ。俺はそのクレアの言う事に従うしかなく。そしてクレアと一緒にルシアの父と母が居るであろう部屋の前に到着すると。クレアは扉を開き部屋の中に入って行った。俺もその後に続いて部屋の中に入ると中には二人の男女が居て俺を睨んでいた。その二人がルシアの父親と母親だという事が俺にはすぐに分かったのだ。

そして俺とクレアはルシアの両親の向かい合うような形で座ることになり、その席に俺は案内されるようにクレアに促され。クレアの横に腰掛けたのである。それからしばらくクレアが俺と両親に話をして。まず最初に俺がなぜルシアではなくこの体に乗り移ってきたのかを説明した。それを聞くとルシアの父親と母親は驚いたような顔になり。それから何か考え込んだ末に俺の事を真剣な眼差しで見て。俺の頭の上に自分の娘にそっくりの顔の俺を見ていたのである。

そして俺が話し終わるとルシアの父親が口を開くのであった。そしてその言葉を俺は聞く事になるのであった。

「お前は。この世界に来て。ルシアの身体を奪い取ったと言ったんだな。だが俺達がこの世界でお前に殺されてから。俺達が死んだことで、ルシアにこの世界に呼ばれたはずの、俺の娘【ルシア】の姿が見えなくなっていたのだが、それはお前のせいか? そして、そのお前の目的とは一体なんなんだ?」

俺はルシアの父親の口からそんな言葉が出てくるなんて予想だにもしなかったのだ。だってこの人の記憶を見る限りでは、この人が俺を殺そうとしている事は明白でしかないからだ。でも俺はそのルシアが何故この人に殺されていないのかが疑問だったのでそのことに関して聞いてみる。

その問いに対してルシアの母親がルシアの父親に向かってこんなことを口にしたのである。

その言葉を聞いたルシアが少し嬉しそうな顔をしていた。

その理由については俺にもわからない事だった。でもルシアが嬉しいと思ってくれたならそれでいいや。

そう思って俺は、その話をルシアの母親から詳しく聞こうとすると、何故か俺のことを疑っているようで。その人はこんな事を口にするのであった。その話は俺の予想外の事だったのだが、俺はこの話を信じる事にした。そうでなければ俺のこの体がこの人から奪い取れる理由が全くと言ってもわからなかったから。そうしてこの体の元々の持ち主が残したと思われるメッセージを伝える。

【俺はお前たちを殺す為にこの世界に来たんじゃないんだよ。お前たちが死んだのは事故なんだ。俺はたまたまお前たちを殺さずに済むチャンスが来たからお前たちからこの世界の理から外れた存在の力を奪う事でお前たちに俺の能力を宿しただけなんだ。だからお前たちの体は奪っていないんだよ。まぁ。お前が納得できない気持ちもわかるが。俺はお前の命を奪っていない以上。お前が俺を殺したところで意味はないぞ。俺を殺しに来る前にこの女と俺の子を産めよ。俺の子がいればこの女は必ず力になってくれだろうから。それに俺の子供ならこの女の子供を好きになるはずだろう。俺はそういう運命を持って生まれたのだと自覚があるのだからな】

その俺の言葉を聞いたこの人たちは、信じられないようだったが。それでも俺は嘘は言ってはいなかった。なぜならこの体に俺が憑依する直前に俺はその言葉を残したのだ。それに俺はそのメッセージをこの人たちに伝えると。俺はルシアに意識を奪われてそのまま眠ってしまったのであった。それからルシアとこの体の元持ち主である【セシアの体を使っていた人物】の話をしているのを盗み聞きすると、そのセシアという女性を気に入ったようだということが分かったのだが俺はルシアの記憶を見てからずっと気になっていたことがあったのだけれど。それを聞かないわけにはいかなかったのである。そこでその女性の正体を尋ねるために二人の前で姿を現してみた。

するとその女性が俺の前に現れたので、その女性を見て確信することができた。やはりこいつはあの女だったということが分かり俺の中に怒りが生まれたんだがここで争っても何もならないと考えて冷静になろうとした瞬間に、俺の心の中にある声が届いたのである。その女が【サラ=デニング】と名乗って俺の前に姿を現す。俺はそのサラと名乗る女の事がすぐには信じれず。サラとルシアとセシアの三人で話し合いを始めたので、俺はその間何もせずにただボーッとしているしかなかった。俺はこの時から既にこのセシアとサラの関係を見抜いていた。

この二人は互いに恋心を抱いているという事が分かっていたから俺はこの場から離れることにする。俺はルシアとセシアが話している最中にこっそりと外に出ると。それから村の近くの森へと向かうことにする。

そしてこの村の近くまで来ると俺の目に飛び込んできたものは。巨大なゴーレムと呼ばれる石像のような姿をしたものが暴れ回っていたのだ。俺はこの光景を見た時にすぐに理解できたのである。あれは俺が作り出したもので。今目の前に居る巨大ゴーレムには、俺の意思が乗っているということに。そうしなければあんな大きさにならないし、意思を込めると俺は自分のことを俺と呼ぶが、今はルシアの記憶と魂が俺の中にはあるのでその記憶と人格の影響か俺という一人称を使おうという気にはなっていないが。とにかく、この場にはあの巨像を操る奴が存在しているということだ。そして俺はルシアの記憶と魂から、俺が作り出しているのは魔獣だということは分かるのである。俺は、【真実の眼】を使い俺が作り出した魔獣の事を知ろうとするが【神眼】は使えないみたいだった。どうやら【神眼】を使うのは俺だけのスキルではないらしい。俺は、このスキルをこの肉体に眠る前の【ルシア】が使用していたのか、それともこの肉体の持ち主であったルシアの父親が所有していたものなのかまではわからないけど。でもこの能力は便利そうだと感じたのであった。俺はそう思った後に俺が生み出したその【魔導生物】について、解析をする事にする。俺は【鑑定魔法】を使ってその能力を調べた後に、俺は驚いた表情をしてから俺は自分の目に見えるステータス画面を出現させてその魔導生物の能力を数値化した物を見ると俺はこう呟いていた。

『こいつはかなり厄介かもしれない。だが、俺の敵ではないな。俺が作った奴だから弱点とかわかっているし。俺の魔力が尽きるまでは絶対に死なないだろ』

俺が自分の【固有武器】である剣を地面に刺すと剣が勝手に地面から出て来た後、その剣を手に取ると俺はこの剣が【神装武具】である事に気づいた。そうすると俺は、剣の能力を発動させる事にした。俺がその剣を振るうと風が巻き起こり竜巻が起こる。この力は恐らく、剣技と、魔法の力が合わさった攻撃なのだろうと、思うのである。そう考えている間に俺はその風に乗って上空へと飛ぶと魔導生物の背中に乗った。

その乗り方はとても簡単で。まず俺が乗ると同時に風の結界を作り出しているのだ。そうしないと俺が空に浮かび上がっただけで落ちてしまう可能性があるからである。そうして俺を乗せたまま魔導生物が走り出したのだった。

そして俺はその魔導生物の背中から、自分が生み出した【ルシアの身体の元所持者】について色々と調べることにしたのであった。まずは、俺自身が、この【ルシア】に宿っていた頃と同じような事ができるか確認する。

「ルシアの体を借りて俺はこの世界に降り立った。この体は元々俺が使っている。ならばこの俺にもできるはずだ。まずは、この体から感じる。この女の記憶と、感情、それから知識を読み込んでやる。俺がこの世界に居たという事を覚えていてもらうためにもな」

俺の予想は当たったらしく。俺は、ルシアの身体を自分の身体のように使い始めたのであった。そしてその行動を始めるとこの体の中で眠っていたであろう【俺自身の記憶や知識】も一緒に引き出すことに成功したのである。それによってルシアとしての知識を得ることが出来たのだけれど。その知識の量に驚いたのであった。その量の多さによって、少しの間だけ頭が痛くなったけれどすぐに痛みが無くなっていきそしてその知識を俺は完全に手に入れることができたのだ。その知識を手に入れたことにより分かったことがあって【サラ】と呼ばれているあの【元盗賊の女の仲間の一人】の名前を知ることができて少し嬉しかったのだがその名前がわかった所で特に何の役にも立たなかったのである。そしてその情報を知ったことで俺はこの世界が一体どんな場所なのかという事も知ったのである。そうするとこの【サラという女性の本当の正体が分かったのであった。その人は、元々ルチアと言う名前の少女であったのだけれど。ルシアの父親が彼女の事を気に入り無理やりルシアの母親と結婚させてしまった。そしてその事が原因で彼女は精神が崩壊し、この世界を滅ぼそうと動き出してしまい。それが今のこの世界の状況を作ったのだと言うことを知ったのだ。

だからこの【元世界最強最悪】と呼ばれていた女は、【神眼の神災女】と呼ばれているらしいんだ。でも彼女が本当に悪い女かどうかは分からないな。ただ一つ言えることはこいつはルシアの母親に何かをしようとしてきているということだけは確かだと俺は思いこの女の心を覗くことにしたのである 俺は、この世界の事を調べるうちに。この女は危険だということがわかった。でもそんな女はもう既にルシアに殺されるほど弱っていて。この世界で生きていく事は厳しいんじゃないかと思ったのだ。それに俺もそろそろこの世界に馴染んでいかないと不味いと思うしな。だからルシアに憑依した事で俺はそのルシアの記憶と魂を取り込んでいるので、その力を使えるようにならないといけないから。ルシアが眠っているこのタイミングしかないと思ったんだ。そうすると俺の目の前に俺をこの世界に送り込んだ女神が出現した。俺はその姿を見て驚きながらもどうして俺の前に現れたのかという疑問をぶつけてみることにする。

『お前は何でこんな所に現れたんだ?』

するとその質問に対して。その女がこんな答えを返してくるとは思わなかった。その女はこの俺を、俺の肉体をルシアに貸している間も監視していたらしく。その時の俺は、この女に何もしていないのに俺に話しかけてきたという。その言葉の意味は、この俺に宿っている【神装武具】の事を言っているのだろう。

この女は俺の事が気に入っているとか、ルシアが気に入るのもわかると言っていたが俺にはよく意味がわからず首を傾げていると。この女の口から俺の事を殺そうと考えていたなんて言葉が出て来て。その言葉を聞いて俺は怒りを感じたがこの場は冷静にならなければいけないと思い。とりあえずは冷静にこの話をすることにした。俺は俺の目の前にいる女が俺の事が気に入ってくれているのは良いんだけど。それよりも何故俺がルシアの中にいたのかを知りたがっているのが気になったのである。この女に話したらまた余計なことを言い出しそうで面倒なので話さない事に決めたのであった。

すると俺が黙っているのが気に食わない様子だったので俺は、その女と話をすることを諦めてこの場を去ろうとすると。女がこの俺を殺せるような武器を渡してくれると言ってきたので俺は少し迷ったけれどこの女の事が信じられる気がしたので俺は武器を受け取ることにすると、【神装武具】と呼ばれる神が作り出した特別な力を持つ武具を手渡された。

それから俺と、この女との関係が始まった。

俺はルシアの体を借り受けている。そしてこの【神眼の神災】と言われているルシアが、この世界に残した置き土産を俺は受け取ることに決めていた。そのルシアがこの世界で残してくれたものというのは【神装武装】と呼ばれる【固有装備】と呼ばれる物だった。

それは俺にとってはとても魅力的なものばかりで俺はそれを手にいれるために【神眼の神災】と呼ばれた少女の残したものを全て回収するために行動することを決意したのである。

それから俺はその女にルシアについて知っていることを尋ねた後に。その【神眼の災厄女(しんがんのかみなりと)ルチア=デニング=アイラ=シルフィードについての情報を手に入れることができたのである。そしてルシアに宿っていた記憶や、感情なども知ることが出来たため。そのおかげでルシアの体が持っていた能力を俺が全て扱う事が出来るようになったのであった。その結果この村の近くに存在している魔獣たちを俺の力で操れるようになっていた。そして魔獣たちに村の人々を襲うように指示を出すと、魔獣たちが村の人たちに襲いかかろうとした。

しかしそれを止めたのがリーファスという女の子でその魔獣を倒した後は俺のことを心配してくれていたが今は時間がないと思い俺はこの村から離れることに決めたのであった。それから俺はリーファスからこの村の村長の娘だと聞かされてこの娘がリーファスだということに気がつくまでしばらくかかってしまった。そして俺はルシアの身体の元所有者はやはりこの娘のようで。どうやらルシアが、自分で作った存在だということを知っているようだ。

それでこのルシアが作り出したという【魔導生物】についてだが、この【ロード】という能力を手に入れてからというものの俺は【解析魔法】のスキルを使うと解析結果が出るようになったのだがそのスキルのおかげでその魔導生物の正体を詳しく調べることに成功していた。その魔導生物の種族名を、俺は、俺の知識の中にあるこの世界に生息している魔物の中で、一番強いとされる魔物である【ドラゴン】だと知り俺はこの魔導生物に【龍馬】という名前をつけたのである。その見た目が、黒い鱗に覆われ、そして翼があるその姿を見たとき俺はかっこいいと思ったのであった。俺がこの龍馬を気に入った理由の一つとしてはその強そうな感じと、そしてその美しいフォルムに俺は見惚れてしまったからだと思っている。それともう一個の理由がこの龍馬の額にある宝石のような石なのだがそれが赤く綺麗だったからであるのだ そしてこの世界に来てからずっと気になっていたことがあった。俺がいた前の世界では絶対にありえないような光景を見ていたから最初は信じれなかったのだが、魔導生物の事を知ることができたことによって信じることが出来て安心した部分があったのであった。そうすると、その光景は、今現在も続いていることが分かり俺もその現象を確認する為に外に出ることにしたのだ。俺はその光景を見てその幻想的な空間を目にする。

その光輝く柱の周囲には無数の光の玉のようなものが存在していてそれらがゆっくりと移動していたのだ。しかもそれらはその光が消えたりもしている。そんな神秘的な光景が、今も続いていたのだ。

俺がこの【ルチアの記憶と魂を持つ者】に憑依している時、【転生】を発動させた。この力についてはこの前、自分の意思で発動できるということが分かったので俺はこの力で新しい世界を作れないかと色々と考えを張り巡らせていった。俺は、自分の好きなように自分の世界を作れるならどんな世界にしたいだろうかと考えた時に、俺が住んでいた元の世界の事をふっと思い浮かべてしまったのだ。そしてその思いが通じたのかどうかは分からないが俺の新しい世界の創造が始まり始める。

それから数秒ほど経つと、目の前に白い世界が広がりそこには【神災の女帝ルシアの記憶を持った神装武具所持者が異世界へと転送されます】と表示されている。

俺は何が起きたのかと、その文字を見つめながら呆然としてしまうと、さらにその下に表示されていた説明が目に入った。俺はその内容を読んでみて思わず叫んでしまう。そして俺はその文に書かれていた内容を何度も確認して間違いが無いのを確認してから、俺の身体に何か異常はないか確認をしたんだ。すると身体の何処にも異常は無く俺はほっとしたのであった。その文章に書かれている内容が本当なら俺は本当に元の世界に戻ることが出来るはずなんだよな。でもそんな事が本当に可能なのか半信半疑でいると俺の前に一人の男が姿を現した。そしてその男は俺に向かってこんなことを言い出したのである。俺はその男の言った内容に驚いたのだがその話が本当のことだと確信したので俺は男に問いかけてみたのだ。

「あなたが僕を呼んだということは本当のことなのですか?」

俺はこの人が現れたということが何よりも驚き、俺の考えが正しいのかどうかを確認した。その問いに対して男はこんな答えを返してくる。その男の名は、神であり、この世界を作った【最高神 ルキ】と呼ばれている人物だと名乗った。そしてこの人が俺をここに呼び出したというのだ。そしてそのルキさんは俺が、元居た世界に帰ることができると教えてくれたのである。でもそれは簡単な話ではないと、この世界に俺を呼び出すための対価として、元の世界にいる人間全員の記憶を書き換える必要があるという。そのせいで俺は家族とも二度と会えなくなるとルキさんに言われてしまい俺の目の前に画面が表示されて、その画面に俺がこの世界に呼び出そうと思った人間達の名前が表示された。

そしてその中の一つが俺の母さんの名前になっていて、その名前の隣には母さんのステータスが表示されるとその隣には年齢が表示されておりその年齢が俺と同じ歳だったので驚いていると、その理由もわかると言うルキの言葉を聞いた俺は恐る恐る俺の家族の名前をクリックすると、そこには俺が高校生だった頃、交通事故で亡くなっている俺の母親のプロフィールが表示させることができたのである。そしてその画面の下の方に表示されている現在の母親の年齢は、俺が生まれた頃から全く変わらない姿で表示されている事に気がついた。俺はもしかしてと思ってルキに俺が元いた世界に戻った場合に母親がこの世界でも同じ年齢になっているか聞いてみると、その答えはすぐに返ってきた。俺がルキアの事を考えているときに俺が考えていたように、その考えをこの人は読んでいたようで、ルキアの肉体が、俺の世界でも同じ年齢のまま生き続けていると伝えてくる。俺はルキから俺の元の世界で生きているルキの事について聞かされて俺には妹がいると聞くと嬉しく思ってしまうのであった。

ルチアの記憶を手に入れた俺には分かることがある。俺の妹も、もしかしたら同じように、この異世界に来ることになるかもしれないと思っていたからだ。そして俺はそんなことを考えていたとき、俺のことを呼んでいる声があることに気がつくと俺の目の前に一人の少女が現れる。俺がルシアだった頃の記憶を思い出すと同時にルチアだった頃の記憶を思いだしてしまったため俺は戸惑ってしまったがそのルリアがこの異世界の勇者だという事を知った。ルリアナとルシアが言っていた言葉を思い出し俺は、その二人が嘘をついていないということを確信したのであった。

そしてそのルチアと会話をしていて俺に【固有スキル】と呼ばれるものがあることを知った俺は、【ロード】という能力を使えば【神災級武具】と呼ばれる武器を手に入れることができるという情報を得た俺はルシアが【固有スキル】という能力を持っていなかった理由に気がつくことができた。【固有スキル】と呼ばれる能力はその【所有者】だけが使用できるもので、それ以外の者は使えないようになっているのだと知った。つまりこの世界には、【聖剣】などの伝説の武器は存在しないということがわかった。それを知った俺は少し残念だと思うのであった。俺はそのことを思い出したことでルシアの記憶の中に【勇者】や、【英雄】、【魔族】などといった存在がいたことについても思いだすことが出来た。その事からこの世界には元々の世界で、魔王と呼ばれていた存在や勇者と呼ばれていた存在が存在したのではないかということを思うことが出来た。

俺がルキと話しをしているとルキの背後で光が発生していたのだ。

「この光が発生している場所がお前たちの世界への入り口になる。この世界では時間の概念が無いから向こうの世界に行けば時間は経過していないが、お前はどうするのだ?こちらの世界に残るのか?」

俺が元の世界に戻れるのかを確認する為にこの質問をしたのだ。

「いや俺はこっちでやりたいことができたからこの世界に残った方が俺にとっては都合がいいと思う」

俺はルリアナやルシア、ルチアと約束していたことがあるので、この世界でやり残したことをやってから元の世界に帰還することにしようと決めたのだ。それに、この世界にはまだ、あの子もいるしな。俺は俺のことを助けようとしてくれたリーファスという女の子がどうなるのかを見届けてから帰ることにした。俺はリーファスとこの世界の人たちとの繋がりを見て俺は彼女を助けたいなと思ったのだ。俺の【ロード】の能力があればそれが出来るという事もわかったので俺はルキの質問に俺は残りたいと返事をするのであった。

そうすると、俺の足元に光の輪が現れてそこに吸い込まれるような感じになったので俺はルリアナとルシアの事を心の中で強く想った。すると光の玉が俺の視界に出現して俺をどこかに飛ばし始めた。俺は光の玉と一緒にその光の玉が移動する速さに身を任せていくと、だんだんと光の玉の移動速度が遅くなっていき最後には止まってしまった。俺はその場所を確認すると、そこには見慣れた光景が映し出されていて俺が住んでいた街の光景が広がっている。

その街並みを見たとき俺が住んでいる街だということを理解した俺はルキアの記憶を使って自分が住んでいた場所に、自分の身体が飛ばされているという感覚に襲われる。俺はそんな感覚を覚えながらも、その懐かしさを感じたのだ。そして俺が自分の部屋に向かう為に家の中に入ると俺の記憶に残っている通りに俺の部屋へと到着してしまったのである。

(やっぱりここだよな。ルキの野郎め! まあ仕方ないか)

俺は自分の部屋にたどり着くことができたことに感動しながらもルキに文句を言う。俺はこれからやらなければいけない事を考える。そして俺は【ルアの指輪】というアイテムを取り出すと、俺の手元にその指輪が出現するのだがその【神災級武具】というのが、俺の目の前に現れたのだ。俺は現れた神災級の武器を眺めながら、こんなに凄そうなものが本当に俺がもらってもいいのかと思ってしまったが、俺がこの世界に来た時に持っていたルアのリングを手に取ると、そのリングは俺の手の中で消えてしまったのである。

(あれ!?消えた?)

そして消えたと思った瞬間にまた現れて、その指輪は、俺の手の中に入っていた。しかも、その時には、既に【鑑定】という特殊能力によってその指輪の詳細を知る事ができるようになっていたのである。俺は自分の手の中にある、神厄級の【神装具】【聖者の十字架】と呼ばれる物を見てみる。

「これが、【神災】級の神装装備か、見た目はただの大きな宝石が付いている指輪なのにな。でもこれをどうやって使用するんだろう?」俺は疑問を抱く。俺はその【神遺物】を見ながら、自分のステータスを確認してみると自分の中に【ロード】の【固有スキル】が表示されているのが確認することができた。俺はそれをみて驚くと、その【神災武具】の詳細画面を開くことができる事に気づく。そして詳細画面を開いた俺はその画面を見つめながら考え込んでいく。俺が見たことのある神災の遺産という物は俺のいた世界の神様が所持していた武具だけだったはずだけど、俺はルシアの記憶の中には、俺の世界で保管されていた、その武具以外の他の世界の神の武具についてのことも知っていたのである。その知識を思い出した俺はある可能性に気づき俺はステータス画面を操作して自分のスキルを確認したのであった。するとそこには、【神災武装(神遺物シリーズ)

所有者登録者:【ルクス=バレンタイン】】と書かれているのを発見する。「所有者の登録?」

俺がその言葉を呟くと俺が身に着けている服が輝きだしたのだ。そしてその現象が起こっている間にその服を着た状態の俺の体が変化を始めていく。その俺の体は【神災級武具 【聖者の十字架】】を装備することができる身体に変化していったのであった。

「まさかこの指輪を嵌めた状態で、このアクセサリーを装備してしまうとその装備品の所有者に登録されて、使用者以外が使用することができないようになるということなのか?」

俺がこの神災級の神造兵器を使用できるようになってしまっても困らないかということを考えたが、これはこの世界に散らばっている全ての神災級の武具を回収をしてから使用したほうが安全だろうと思い俺はとりあえずその指輪を指にはめることにした。すると、俺は突然誰かに見られているような気がしたのである。俺は、この家には今、俺しか居ないはずだったので周りを警戒してみていたのだ。しかしいくら辺りを注意深く見ても誰もいない事がわかって俺はホッとする。そんなとき俺は、なぜかその違和感が勘違いではないという事を知ってしまうのであった。俺はルキアとして生きていた頃に経験してきたことがこの世界で起こると嫌だと思いながらルリアとルシアが言っていた、ルアの呪いについて思い当たる節があることを思い出すのである。

ルアは元々は人間の女の子で勇者と呼ばれていた存在であり、その力を手に入れる代償として寿命を奪われていたのだ。俺はそれを思い出してルキから教えてもらった神災級の神器【ロード】でその問題を解決する為に必要な神格を解放するために必要な条件を確認する。そしてその条件に俺は一つだけ心当たりがあったのである。

「もしかしてルシアの力か?ルキも言っていたから恐らく間違い無いと思うんだけど、【ロード】でルシアの記憶を閲覧すればわかるかもしれないな」

俺はルキアだった頃の記憶を【ロード】を使って読み解くと、【ロード】には、その【固有スキル】を発動させた人物が知り得た情報を保存できる機能があることを思い出したので俺は早速、ルシアの記憶の中にルアについての情報が残っているかを検索する。

【ロード】を使うと俺の頭の中から何かが抜けていく感じがしたのだ。俺は【ロード】を連続で使い続けると俺は頭痛を感じ始めて倒れそうになるが俺は我慢してルシアの記憶を読み取ってみたのだ。

【固有スキル】である【ロード】を使った事で俺の脳裏にある情報が思い浮かぶように流れ込んできたのであった。そして俺はそれを読んでみるとルシアの記憶が俺の頭に流れ込むのと同時に俺は激しい頭痛に襲われ始める。そして俺の脳内でその記憶の光景が流れてくるのだ。俺の目を通してその景色を観た時に、俺の心が締め付けられるような気持ちになるのであった。そして俺は思い出すのであった。ルアという少女はもうこの世には存在しないのだという事実を知ってしまったから。ルアは人間族の勇者であり最強の力を持つ存在である勇者という存在でもあった。彼女はこの異世界からやってきた女神という存在に命を奪われることになる。そう【邪龍】と呼ばれるこの世界に存在してはいけない存在のせいで【魔剣レーヴァテイン】と呼ばれる存在を手に入れて、勇者である彼女を殺した後にこの世界を滅ぼそうとした張本人である邪悪なる存在によって滅ぼされたのだという事実を知った俺は涙を流すことになった。

俺は【聖剣】と呼ばれる武器を使って世界を救った存在のその後の姿を目に焼き付けると俺の体にも変化が訪れたのである。

その光が発生したので俺が目を覚ますとそこは元の世界に戻ってきていることに俺は気がつくことが出来た。俺が起きた場所は、自分の部屋の天井が見えたのだ。

俺が目覚めたことに気づいたのかルリアが嬉しそうな顔をしながらこちらを見ていたのである。

そして俺が目覚めたのを確認したルリアは自分のことのように喜び始めてしまった。そんな彼女を見ているととても心配してくれていたことがよくわかったので俺も嬉しいと感じていた。そんな時俺はルキアがどうなったのかを聞くためにルキの事を聞こうとした。しかし俺がルキアの記憶を思い出した瞬間に何故か胸騒ぎを覚えると俺の中で焦燥感が生まれ始めたのだ。

俺がそんな風に不安に思っているとルキが俺に近寄ってきた。

ルキの表情を見ると俺はこの人は俺のことを心配してきてくれたんだなと感じた。その事から俺にこの人を疑うことはできなくなった。そして俺はその瞬間、【真島光輝】としての自分の意識を失う事になると俺は【ルクス=バレンタイン】という男に生まれ変わるのであった。

その時に、俺は自分がルキアではなく【ルクス=バレンタイン】という別の人格になったことを理解することができて、これから先の事を考えなければ行けないと思ったのだ――

それから俺は自分の体に起きていることについて確認すると確かに自分の身体が変化していている事に気づく。まず最初に俺の姿だが、髪が白くなっていたのだ。それはまるで白銀のような輝きを放つ白い髪をしている事に気づくが俺はあまり驚かなかった。俺が気になったのは俺の腕や足などが人のものではなくなり獣のような毛が生えた状態になっていたのである。

(やっぱり人外化しているみたいだな。まあ予想通りだな)

俺は自分に起こった出来事に対して驚きはしないが一応、自分のステータスを表示させてみるとそこには驚くべき数値が表示されているのを見て思わず驚いてしまうのである。

『ステータス』

【ルックス】

性別/男 種族 【獣人種(黒狼族)】

年齢

16歳 LV 3000000 体力:5000兆(限界値)

魔力

:100京(上限無し)

<能力>

Sランク:神災級 神災武装(武器、防具含む)

B+Sランク:神災級 神災武具(武器、防具を含む)

A-ランク:上級

伝説級 Eランク:初級

Dランク:中級 C級:下級

B級:中級

A級:上級

S級:達人以上 AA級 特A級 AAA級 極A級 SS級 神話級 EX級 【生命】

99999億9千9百90万7 【精神】

999,981億4900万2 【筋力】

1千9百万 【魔法】

10 【速度】

1000 【耐性】

5010万5500

「え?なんだこれ!?なんでこんなに強いんだ?俺のレベルが三桁超えていてしかも【ステータス】がありえないくらい上昇していて【生命】が九億九百万を超えていて【精神】が五十一億四千五百万って意味がわからない。それに【魔力】が百京を超えているんだが、どういうことだ?しかも【技能】とかの項目もあるのかよ。何だよこのふざけているようなステータスの数値。俺はいったいどうなってしまったんだ?」

俺は自分のステータス画面を確認していたのだがあまりにも俺にとって異常な数になっている事に動揺を隠せなかった。そんなことを俺が考えている間にルキが声をかけてきたのである。その声で俺は現実に引き戻されるのであった。

俺がルキの声がした方向に目を向けるとそこには可愛らしい女性がいた。ルクスはその姿に釘付けになってしまう。

「ル、ルキなのか?」

俺の言葉を聞いてルキは笑顔になると俺のことを見つめながら嬉しそうにして話しかけてくれる。その言葉を聞いた俺もつい微笑んでしまい幸せな気分になってきてしまう。

するとルリアが突然大きな泣き声で俺に抱きついて泣いてしまったのだ。

「ご、ごめんなさい。み、みんな私のせいで死んでしまったと思っていたから。で、でもルクスさんが生きていると聞いて私は凄く嬉しくてそれで。そ、それで安心したら、その、だ、大丈夫ですか?その、あの」

俺はルリアが自分の事で俺の為に涙を流している事がわかりルリアのことを優しく抱きしめると頭を撫でたのであった。そしてその行動をルキアの時にもしていた事を思い出す。

「俺の方こそ君たちに心配をかけたね。その本当にありがとう。皆が俺のために泣いてくれてとても嬉しかった。俺の為に怒ってくれる人がいるだけで、俺はそれだけで十分幸せ者だと思えるんだ。だから俺の為にそこまで泣かないでいいんだよ。俺は君たちが笑っていてくれればそれが一番嬉しいと思うんだ」

俺はそう言いながら俺はルリアの涙を手で拭う。

そして俺はルリアだけではなくルシアとリーファが俺の為に大粒の涙をこぼしながら泣いていることに気づいて俺は、とても申し訳なく思う。それと同時に俺の為なんかに泣いてくれてありがとうと心の底から感謝したのであった。

その後俺たち三人が落ち着くまで少し時間が必要になってしまったのであった――

(とりあえず、今はルキと話をしないとな)

ルキの話を聞いた俺はルキに今までの事を聞くことにしたのだ。

「ルキは今まで何処に居たんだ?それと、他の二人はどうした?もしかして二人も一緒に居るのか?それと、ルシアもルキアと一緒に居たんだろう?教えてほしい」

「ああ、その事はちゃんと説明するからちょっと待ってくれるか。あと、二人のことは、お前ももうわかっていると思うけど俺の妹のルーア、それからルシアと俺の妻であるルアの三人とも今はこの世界のどこかで眠っているはずだ。俺達はお前と同じようにこの世界に連れてこられたんだ。そこでこの世界に召喚された女神が俺達に力を与えた。その力で俺は勇者になり魔王を討伐する事ができたがその時に、その、女神がこの世界で最強と言われている存在のルリアを生贄にしようとしたのを止めようとしたが結局止められずに俺だけがこの世界に残りあいつらとは離れてしまった。そして俺が一人この世界に残された時だったな。俺はこの異世界の女神が作り出した結界の中で暮らす事を余儀なくされた。この世界は魔物が存在する。そのせいで俺は外に出ることが出来ない。ただ俺の力を使えば結界の中にいる限り死ぬことは無い。俺はここで生きていくことを選択したが、やはり、俺にはどうしてもあいつらを放っておけなかったんだ。俺はなんとかして、お前を、元の異世界に送り返せないかと模索し続けてきたが無理だったんだ。俺の力では元の世界に戻ることはできないんだ。その方法もわからなければ元に戻すこともできない。そして、俺は、この異世界の神に頼んで異世界からやってきた人間の願いを一度だけ聞き届ける権利を手に入れることができたから。そのチャンスを使って俺はこの異世界にやってきたというわけさ。この世界にいる神は俺が勇者の役目を終えて元の世界に戻りたいと言うと俺が勇者としての役割を果たすことができないなら元の世界に帰ることは不可能だと言い放った。俺が元の世界に帰ろうとしても、俺は二度と帰ることは出来ないと告げられたので俺はもうこの世界に骨を埋めることに決めたんだ。まあ俺がそんな事を決めた後にある出来事が起きた。それはこの異世界の女神が邪神と呼ばれる存在に殺されかけたという話が伝わってきた。俺と仲間達が倒した筈の邪龍と呼ばれる存在は復活を果たしたらしいのだ。そんな奴らが再び動き出す前に俺がやるべき事はこの異世界の神の加護を受けていない人間達を避難させる為に行動を起こすことだと考えたんだ。俺はまずこの世界を救うのに必要な力を持つ人間を集めるためにこの世界を彷徨っていた。この世界でも最強の存在であるルキに俺は協力してもらうために会いに来たんだ。俺はその事を彼女に伝えようとした瞬間、この空間に大きな亀裂が入るとそこから何者かが現れたのであった。俺はルキの事を後ろに下げさせて現れた者に目を向けたのである。

「ルクス様!やっと見つけましたよ。あなたは私が探している人物ではありません。ルクス様はこの方ではないので私達についてきてください。お願いします」

俺達の前に突如として現れてそう言ったのは金髪碧眼の女性だった。その女性の髪は長く腰まで伸びていて髪色は金色、瞳の色は青色をしておりまるで妖精のように綺麗であり俺が見ても美人だと思う程の美しさを兼ね備えていたのだ。俺はその容姿に見惚れてしまっていると女性はこちらに向けて何か言ってきたのだ。

「何を見ているんですか?気持ち悪いですよ?早く私の手を取ってください」

俺は女性の言葉に対して何も言わず呆然と立ち尽くしていたがすぐにルキが俺の前に立って俺を庇ったのである。

「おい、あんた、何者だ?何が目的なんだ?俺の仲間をどこにやった?」

ルキは俺を守れるように身構えて女を警戒しながら俺を背後に押して自分が前面に出て質問をすると女は面倒臭そうな顔をすると俺の方に視線を向けてきたのである。俺はその時なぜか背筋が凍るような感じがしてしまい、俺は本能的にやばいと思ったが逃げようしても体が動かなかったのである。そして俺の額から冷や汗が流れ落ちるとルキが警戒するように声をあげた。

「ルクス様!」

俺は自分の身に何が起こったのかわからなかった。俺は今自分の意思とは関係なく勝手に足を動かしてしまうのである。その事に気づいた時には既に遅かった。

「う、う、嘘だろう。そんなまさかこんな簡単に。な、なぜ動けるんだ?」

俺が驚いている間にも体はどんどん前に進み始めて止まらなかった。

「なんなんだよこれ、一体どうして、体がいうことをきかないんだよ」

するとルキが俺に向かって近づいてきた。

「ご、ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりにルクス様に迷惑をかけてしまうことになり申し訳ございません。どうか、私を信じてこのまま付いてきてもらえませんでしょうか?」

ルリアは悲痛な表情でそう訴えかけてきてくれるのだが俺はそれに答えたかった。でも俺がルリアの申し出に答える前に目の前に現れた女性はルキの言葉を聞いて俺を見つめながら話しかけてきた。

「私の名前はルリアと申します。そして私はあなたの知っている女性です。私はこの世界の創造主である女神によって生み出されそしてあなたと出会う運命にあったのです。だから私はこの異世界に来てずっとあなたを探していました。そしてようやく巡り合うことができました。私はルリアという名前です。私はルクスさんの事をよく知っています。なので私は、あなたを連れて帰らないと駄目なのです。私はあなたを連れ帰って元の場所に戻さなければならないのです。だから私に着いて来てくれますよね?」

「俺の名前を知っていたのは嬉しいんだけど。君が何を言っているのかよくわからないし、俺がこの女性を連れて行くなんてあり得ないよ。俺は自分の大切な人と一緒に生きることを決めたんだ。この女性がどんなに美人で魅力的に見えても俺の心は動かない。ルキを置いて俺は何処かに行けないし君に従うつもりはない」

俺の言葉を聞いたルリアは微笑むとその美しい唇を開く。

「ルックスも良くて、強くて格好いいのに本当にダメな人ですね。そんなに私のことが嫌なんですか?でもルリアちゃんに逆らい続けるのなら仕方がありませんね。ルクスさんがこの世界に留まるのはルキと私にとってもあまりいい話ではありません。私達はあなたを元の世界に戻してあげたいと思っていましたがルクスさんがそれを拒否するのでしたら強制的に連れて帰りましょう。それがこの世界での最後の記憶となりあなたを永遠にこの世界に留めることも出来てしまうので私に逆らわないで下さいね」

ルリアは笑みを絶やす事無くそう言い切るのであった。

俺の頭の中で警報が鳴り響いていたのである。こいつは危険すぎると。

だから俺は、何とかしてここから逃げ出す手段を考える。だがいくら考えても打開策は何も思い浮かばなかった。俺がそんな事を考えていた時に俺はいきなり体の自由を奪われてその場から一歩も動くことが出来なくなってしまったのであった。

「な、なにをするんだよ!放せ!この!」

(な、なんなんだよこれは、くそ!俺はいったいどうすればいいんだよ。こいつらの狙いは何なんだ?それに俺の事をよく知っているとか言ってるけどどういう意味なんだよ)

「そんな事をされても無駄ですよ。ルキもそのままルクスさんを捕まえててちょうだい」

ルキアは俺の体を羽交い締めにして俺が逃げられないようにする。

「ルキア!?やめろよ。は、離してくれよ。俺は、絶対にこっちには行かないからな。頼むから、この拘束を外せよ」

「申し訳ございませんがルキはもう既に私と契約を結んだ身なんですよ。つまりもうこの子の魂は既に私の支配下にあるという事なので、ルキには私の言うことに従ってもらう必要があります。そして私の言う事には従ってもらいます。あなたに拒否する事はできないのです」

(俺が、この世界の女神に支配されているだって?この女が女神で俺が勇者なのか?)

俺がその疑問をルリアに問いかけようとする前にルリアは俺の顔に顔を近づけてくると俺の耳をその形の整った柔らかい口で噛み付いた。その瞬間俺に痛みが走り、そのせいで俺は絶叫をあげる。

「あああぁぁ!!や、や、やめて。や、あ、ああああっあ、ぐっあ、ぎ、ぎざまああ。俺に、おれの、う、うしろ、からかみつけでええぇ!、あ、いだいっ、いでえ、よお、お、おおお!あががが、だずけれ、ぐれえ」

俺の後ろから抱きついてくるような体勢になっている為俺の後ろにルリアがいるはずなのにそのルリアが俺に噛んでいるのが信じられなかった。

「あ、あがが、あが、たすけ、あ、あ、あ、た、ず、けて。お、お願い。あがが、あ、だず、げ、あががが」

俺の声を聞き入れてくれたのか、それともまた違う理由からかはわからなかったが俺の後ろの歯型をつけ終えたルリアは俺から離れると俺は力を失いその場に倒れこんだのである。その様子を見ながらルキアは微笑んで俺に向かって話しかけてきたのだ。

「ルキの体に刻み込まれた契約紋がしっかりと発動しているみたいでよかったですよ。これでこの子は完全にルキと一体化できたと思います。これからはルキがルクスさんの事を一生をかけて守ってくれることでしょう。良かったです。本当に良かったです」

俺はルリアの言葉に驚きを隠しきれずにいた。なぜなら、このルキという女性は確かに美少女でありとても愛らしくて、スタイルもいいのだが俺は彼女のことをそういう対象として見れないからである。そんな俺の気持ちをルキは読み取ったようで俺に話し掛けてきた。

「ルクスさん、あなたが今何を考えたのかわかりました。おそらくルキのこと可愛い女の子だと思うから性的な対象にはならないと思ったのではないでしょうか?残念ですが私は見た目はこんなですが体はあなた好みの女性に変化させることは可能ですよ。そしてルクスさんを私の虜にする自信があるんです」

ルリアはそう言って自分の指先から炎を出してその火を使って自分の姿を大人の姿に変える。その姿はまるで妖精のように美しく可愛らしい容姿をしていたのだった。俺はその姿を見て一瞬息をすることを忘れてしまうほどの衝撃を受けてしまう。

ルリアは元の世界でも十分に美しかったが、今の彼女の方がもっと綺麗で俺はルリアに見惚れてしまっていたのである。ルキはそれを見かねて俺に忠告してくれる。

「そんなに見つめられたらルキ照れちゃいますよ。ルキもルリアちゃんと同じような姿になれるのです。そしてルクスさんがルキを受け入れてくれさえしたらすぐにでもルキの全てをルリアちゃんの物と同じに出来るんですよ。でもそれはまだ少しだけ先にさせていただきますね。今のままだとあなたがルキと結ばれてくれる可能性がかなり低くなりそうなので。あなたがルキと本気で向き合おうと思ってくれる日が来るまでは、私はあなたをこの世界に繋ぎ止めておいてあげることにします。でも、ルキの事は嫌いにならないようにしてくださいね。そしてルキは私からルクスさんの守護を任された身なんですからね。ルキナ王女様とルクス様との約束もきちんと守りますから大丈夫なのです」

ルリアは自分のことを女神だと言った。だから俺は彼女に質問をしてみる事にした。俺にとって彼女は敵か味方かをはっきりさせるために。もし彼女が俺達に対して敵対行動をとっている場合、彼女を放置しては置けないからである。俺がそんなことを質問をしようとするとそれを察したように【クレア】はこちらに向かって話しかけてきたのだ。

「ご安心ください、私は別にこの世界を支配しようとしているわけではございませんので敵対する気など微塵もございません。私の役目はこの世界を守ることです。ただ、そのために私の力を少しでも使える者を増やしておく必要があると思いましてね。それで私はこの世界にやってきた時にあなたを見つけてからずっと観察していました。あなたは私の理想とする男性だったのでこの世界を好きになってもらえればと思ってあなたをこの世界に留めるためにいろいろと努力をし続けていたのにこの有様ですよ。まったく困ったものです。あなたに私と戦えるほどの強さが有れば別ですが、あなたは私と戦うことが出来ないので私に従うしか道はないのです。ですが私はあなたのことも気に入りましたのでこのままあなたがこの世界のことが好きでいてくれるようならばあなたに何かして欲しいことは有りませんので、この世界に残り続けることを許可してあげます。ただし、あなたはルリと付き合うことになるとは思ってもいませんでしたのでそこのところだけは修正させてもらいました。そこはご了承願いたいですね」

俺は、クレアの話を聞いて納得してしまった。なぜなら、目の前にいるのは俺のよく知る人物でありその人物がこの世界の創造主の女神であるというのであれば俺が今まで体験していた現象にも一応の辻妻があうのである。俺はこの世界に来る前の記憶は曖昧だったが俺がこの世界に来る前から存在していたのであろう目の前の女神と会話が成立できていたことがそのことを証明してしまっている。

俺達は今から数百年前の時代に召喚されていた。その時代は地球ではまだ人類が文明を築いていなかった時代である。

しかしそんな時代の地球になぜ女神が召喚されたのかという疑問が湧いてしまうが、それは今となってはどうしようもない事だろう。

「俺は君達の事をこの世界の支配者だと思って接してきた。だけど、この世界を守るために存在しているってどういう意味なんだ?」

「私は世界が危機に瀕した際にこの世界に訪れる事が出来るようになっているので世界が危機に陥っている時に私の力が必要な時が有るのです。でもその時にこの世界に私が存在できるような場所があれば私の力でこの世界を守ってあげられると思うんですよ。この世界にはもうすぐ滅びが訪れてしまうかもしれないんです。それが私にはわかるんですよ」

ルリアは真剣な表情を浮かべながらそう告げると俺は思わず動揺してしまい言葉を失ってしまう。

「ちょっと待てよ!なんなんだよその話?そんな話いきなり聞かされて信じられる訳がないだろ。だいたいこの世界にどんな危険が迫っているっていうんだよ!」

ルキとルアもルリアと同じように神妙な面持ちになって説明をする。だがその話は俺にとっては到底信じられないものであったのだ。なぜなら彼女たちの世界が崩壊するなんて話が俺にはとてもじゃないけど信じられるようなものではなかったからだ。

「信じていただくほかありません。これは事実なんですよ。ですからこの世界が滅亡する未来を回避するためにルクスさんにはこの世界で生活をしていただかなくてはなりません。あなたがこの世界が好きだと言っていたことが嘘だと思われたくないので」

俺がこの世界が好きな事を知っているという事がどう考えてもこの二人には知られてしまっているということに気がついた。

(どうやら俺の考えている事は全てこの二人に筒抜けになっているようだ。ということは俺はこの二人の奴隷になってしまったような状況になっているのではないだろうか?)

俺がそう思うとルリアが微笑みかけながら話しかけてくる。

「その考えで概ね間違ってはいないですよ。ですがルクスさんは、この世界でも一番力のある方なのでそんな心配はいりません。それよりもあなたが私達の言うことに従ってくれた方がルクスさんは楽に暮らせるはずですよ。私達が望むものはルクスさんがこの世界を愛する気持ちだけなので」

俺がその言葉を聞いてこの二人が俺に求めているものが理解出来た。

ルクスがこの世界に存在するために必要な物はこの世界に愛着を持っていることだけである。この世界に残ろうと決意さえすればいいという簡単な条件ではあるのだが、俺の心の中では様々な葛藤が起きている。

「俺が元の世界に帰れないのか?」

俺は心の中に思い浮かんだ言葉を呟いてみるが、その言葉は虚しく響いただけだった。その言葉で俺の心の中の疑問は確信へと変わってしまい自分が帰れないという現実を受け入れなくてはならないような心境になっていたのである。そんな俺の考えを見抜いていたのかルキアは優しく話しかけてきたのだった。

「ルリア様はあなたの帰りを待っておられるのですから早く戻らないとダメですわよ。それにあなたがいないとこの世界の戦力的に少し不安になりますからね」

ルキアは少し悲しげな顔でそう言ってきたので俺はすぐに反論することができなかった。そもそも俺は帰る手段を探さなければならなくなってきた。そのためまず最初にしなければならないことがあるのだ。

「俺の力の覚醒について教えてくれないか?今の俺はどのくらい強くなっているのか知りたい。それに俺はルリア達のように戦う力を手に入れないといけないんだろう?」

ルクスの言葉を聞きルリアとルキアはお互いの目を合わせると小さくうなずき合い俺に話し掛けてきたのであった。

「あなたが強くなったという感覚があるかどうかはわかりませんがあなたが持っている力はこの世界でもかなり強力だと思われます。あなたが使っている剣術もかなりのものですし。あなたが元々この世界にいたときの強さを考えますとかなりあなたはこの世界で強くなりましたよ。そして、この世界の勇者であるルリアがあなたを選んだ理由もわかります。あなたは他の人にはない力が使えるようですからね」

ルキアがそういうと続けてルリアが俺に自分のことを話し始めた。

「ルクスさんが今使える力は『能力開放』です。これは簡単に言えば一時的に自分のステータスを大幅に上昇させることができるというものですね。しかもその強化値はかなり高いですよ」

ルリアが俺の能力を解説してくれる。それを聞いた俺は、【剣王】として戦っているリーファスとの訓練を思い出していた。確かにあの訓練の後からは俺は飛躍的に強くなっているような気がしていたのだ。

「確かにそうだな。俺はリーファと手合わせをしていた時はいつもと調子が違いすぎると思っていたんだ。まるで自分の身体能力が上がったみたいでとても戦いやすかったしな。それに俺は今まで見たことがない技を使っていた。それはいったい何なんだ?」

ルクスが疑問に思っていたことはこの世界に召喚された時には使うことができなかったはずの技術が、今は使えるようになっているという現象のことである。それこそがこの世界にきてからの異変の原因だと俺は思っているのである。

それを聞いてきたことに満足したのか、二人はお互いに目を合わせて笑い合っている。ルリアはそのことに苦笑しながら話を始めるのであった。

「あれはこの世界では『真伝流転の型 双龍撃乱舞斬術』と呼ばれる秘技でこの世界が滅ぶ際に出現するとされる魔族の【覇王の眷属】にのみ許された技らしいのです。私はそれをあなたに覚えてもらうためにあなたをここまで呼んだんですからね」

「なるほどそれで俺にあんな動きが出来るようにしたのか」

「まあそんな感じですかね。本当はその前にもっと色々とやることがあったのですが時間が無くなってしまいましたからね」

俺はその話を真剣な表情で聞き続ける。なぜなら目の前にいる二人から感じられる雰囲気と気配は明らかに普通のものではないからなのだ。だからこそ、今のうちにその実力を把握しておきたかったのだ。

「それで俺は今どれくらいの強さになったんだ?できれば今ここで試したいんだけど、その練習相手に俺を選んでくれないか?」

俺は目の前にいる二人に質問をしてみた。この世界にやってきてまだそれほど時間は経っていないが、その短期間の間でこの世界に来て俺が戦えるレベルにまで到達したのは目の前の二人のおかげたと思っている。

俺はこの世界に来る前ではただの高校生に過ぎなかったのだからこの短時間でよくぞここまで到達できたものだと自分を評価してあげても構わないほどだと思うほどに成長したと思うのだ。

「あなたの強さは今の段階で既に私と同等以上になっています。この世界の中ならばあなたの敵は存在しなくなりましたので、あなたはもうこれ以上強くなる必要はありません」

「そうそう。あなたは私達の予想を超えるほどの成長を見せてくれた。私もあなたのことが気に入りましたのでこれからもよろしくお願いします」

「ルクスの事は私に任せておくとよいですの。この世界で最強はルリアですのよ。でも私はこの世界の誰よりもあなたを愛してますの。私のことも愛してくれますか?」

俺は、目の前にいる女神が自分に好意を寄せているということが信じられなかったが俺の目の前にいるのは間違いなく創造神の女神なのである。俺がこの世界に来たことによってこの世界に何かしらの影響が出ているということも俺は知っている。その何かというのはルリに聞くまでもなくこの世界の破滅だろうということは俺にも想像がつくことだ。

だがその危機は回避することができた。俺がいることで。それはつまりルリアが言う通りに俺はこの世界で最強の存在になってしまったというわけだ。俺はそのことを実感するために俺は二人の言葉に従うことにした。

俺と二人の少女達はルリアの提案によってダンジョンの奥の方にあるボス部屋に来ている。そしてルクスがダンジョンの階層を上って行きながら現れるモンスターを倒している時に偶然発見した場所である。

ルックスには巨大なドラゴンが存在していたのだ。ルクスがその姿を見て固まっている間にルキアが話始める。

「この魔物は『竜種の王』ですわ。私も見るのは初めてなんですけど」

ルリアもそれに同意するように言葉を続ける。

「この子は、私と一緒の存在でもあるんだよ。私がこの世界に訪れるときには一緒についてくる子たちの一人なんですよ。この子がいればこの世界で私の身にもしもの事があっても大丈夫だと思っていました。なのでルクスさんは心配する必要はありませんから安心してくださいね。この子とはちゃんと話し合って仲間になってもらってるんですよ。この世界を救うために協力し合うことになったの」

俺は二人の言葉を聞いてこの二人に心底惚れ込んでしまったのだった。ルリアの話を聞く限りでは、目の前の巨体のドラコンと会話をしたということになる。それだけで俺はルキアとルリアのことを本当に信頼してしまったのである。

その光景を見ていると、突然そのドラコンがルリアの前に降り立ち膝をつく。するとそのドラコンは話を始めたのだ。「我が姫よ。あなたが再び我らの元へ帰ってこられたこと大変嬉しく思っておますぞ!あなたがいない間は我々はとても心配をしておりまして。あなたには私共を救っていただいた恩があるのです。ですからこの世界を救うべくあなたには私共に力を尽くさせていただきたく存じ上げます」

その言葉を聞いた俺はすぐに察した。この目の前にいる二体の神格の高い存在であるドラゴンはこの世界に召喚される前の俺とルリアが遭遇し倒した相手だということをだ。

それを考えるとこのドラゴンはあの時の姿とは似ても似つかない程に巨大化しているのだが、ルリアに対して忠誠を誓っているのだということはよく理解ができたのだ。そんな俺の考えを感じ取ったのかルチアとルーアとリーファスがルリアに向かって言葉を投げ掛ける。

「ルリアはまたルクス君を連れて帰ってしまったのか?私たちの役目を取らないで欲しいものだよ」

「ルリアは、本当に困った奴じゃ。わらわ達の気持ちも考えて欲しいものなのですよ」

「ルリアさんずるい。私も一緒にルックスに乗りたい!」

三人の言葉を聞いてルリアも反論する。

「そんな事言われても私も頑張ってるの。今回はルクスさんのおかげでルックスに会うことができたんだから、感謝して欲しいくらいですよ」

そんなことを言い合っている3人を見ているとなんだか羨ましく思えてきたのだ。その感情を抱いていると俺の目の前にいた【クレア】と名乗る女性と【クレア様】が急に抱きついてきたのであった。いきなりの出来事だったので驚いた俺はどうすることもできなかった。そして【美咲】は俺のことを強く抱きしめると俺の顔に自らの顔を近づけ唇を合わせようとする。

俺と【美咲様】が接吻を交わしそうになったとき横槍が入る。ルリアだ。「ちょっと待ったー!なにしてんのあんたらは。ルックスのキスは私の特権なのよ!ルクス君はみんなのルックスのなのよ!」

「そういえば言っていませんでしたわね。ルックスがあなた達の中で一番好きな女性は誰か?それは私とルリアなのですわ。そして、この中で誰より強い女性がこの【クレア】でありますの。この世界で【ルックスに最も近い人間】が私なのでありますわ」

「そうですの。だから私はルクスさんの事が大好きですの。だから私のことをルリアと同じくらいに好きにさせてしまうんですの。そしたらルクスさんは私の事を愛さずにはいられないんですの」

俺はルリアがルクスの事が好きだという発言で驚きを隠せなかったが、それよりも気になったのは俺がこの世界にきてルリアが一番最初に出会っているという事である。そんなことを考えていると【クレア】が俺をじっと見つめて口を開く。

「【真白】。あなたはこの世界を救いたいと願っているはずですね?ならあなたがやるべきことはわかっていると思いますが?それに今この世界では魔王が現れようとしているところなのです。あなた達が元の世界に帰るためには魔王を倒す必要がありますから、その力を身につける必要があるでしょう。そのために【真伝流転の真伝剣技 双龍剣舞術】を習得することが今の貴方がなすべきことであることは間違いありませんよ。この技は今使える技の中で最も難易度が高いのですがあなたは既に覚えることができますよ。それどころかあなたはその技を使う事ができるようになってきていますし。あなたの持っている剣は『龍神の宝剣』といい特別な力が宿っています。それを使いこなすことがあなたの今できることです。ですので早く私達のところに来なさい。私達がこの世界を救う為に協力しあいましょう。それと、この世界でのあなたの恋人は私ですのでそこだけは覚えておいてくださいね。それを忘れてしまった時はお仕置ですからね」

そんな言葉を吐いた後に、彼女は微笑みかけてから俺と唇を重ねてきたのである。ルリアとルチア、ルーアとリーファとルリアがその様子を見て怒りをあらわにするがそんなものは関係無いと言わんばかりに【クレア】は俺に深い口づけをし続けてきたのだ。

そんな彼女から逃げることなどできるわけもないのだ。そもそも逃げられるような状況ではなかったのである。それからしばらく時間が過ぎていく中でようやく解放されると俺は彼女の腕の中に倒れ込む。するとその隙を待っていたかのように今度は目の前に現れた【聖獣の王 ユニコーン】によって強引に唇を奪われると俺が今までに感じたことのないような快感が全身を襲い俺はそのまま意識を失ってしまうのであった。

目を覚ますと俺はベッドに寝ており目の前にはとても美しい女神がいた。その女神は俺のことを見て「やっと起きましたの?」と声をかけてくるのだった。俺は、自分がなぜこんな状態になっているのかを思い出そうとするが思い出せない。

俺が記憶を整理しているとその女神は言葉を続ける。

「私があなたを助けたのは偶然ですの。この世界に勇者として召喚されて来たのはあなたが初めてではないですの。そして私の力であなたを治療しこの世界に連れ帰ったのです。ですので、私がこの世界でのあなたの婚約者候補になりましたの。私はあなたと一緒にいたいんですの。ダメですか?」

目の前にいる女神から俺に婚約を申し込まれてしまったのだ。しかも女神の言う通り俺の目の前にいる女神は、とても美しく魅力的である。

しかし俺はルキアの事を思い出したのである。俺はそのルキアとの思い出を振り払うとルキアが俺に言葉をかけてきたのだ。

「ルクスよ。ルリアとルチアのことは忘れなさい。あいつらはお前を利用して自分勝手に振舞っていただけの奴等じゃぞ。ルリアとルキアはわしと同じような者だったんじゃ。ルリアとルキアの事は嫌いになる必要はないがもう過去の話だと思って諦めよ。それに、お主はまだルリアとルキアのことを忘れられないじゃろ?だからルクス。お主の心を救えるのはわししかいないのじゃ。じゃから、お主には、わしがついておるからな」

ルキアのその言葉になぜか納得してしまいそうになるが俺はそれをどうにか押し止めて反論を試みる。

「それはできない。俺は俺の意志を貫くだけだ」俺がそういうとルキアは悲しそうな表情を見せると、「それが、どんな結果を生むとしても、なのか?」と、言葉を続けた。俺は、それに答えることなくルシアの所へ行くことにするのであった。そして俺は自分の心を取り戻すことに成功したのだ。そしてそれと同時にルクスは【クレア】という女性に無理やり接吻されてしまう。

その後【美咲様】がルクスに近づいてきてこう口にするのであった。

「ルクスさん?ルクスさんはこの世界に来た時と今では随分と違う顔をするようになりましたね。そんな顔をされたら私惚れちゃうじゃないですか」

【美咲様】の言葉を聞いて俺は嬉しく思い、この世界に来てよかったと思うのだった。

「ありがとうございます」

「ふぅ〜やっぱりあなたには私と結ばれて欲しいですね。でもあなたが、その気になられてからにしませんか?まだ時間もかかるでしょうから。その前にあなたはこの世界の問題を解決しなければなりませんよ。なのでまずあなたには私の力の全てを受け渡さなければなりません。いいですかルクスさん?」

「はい。わかりました」

「じゃあ始めますよ」

そう言った【美咲様】に俺は口づけされてしまったのだ。

そんな【美咲様】と俺のやり取りを見ていた他の四人も動き出す。ルティアが俺の唇を奪うとリーファスと【クレア様】が続いて俺の唇を奪い始めたのであった。そんな三人からの口付けが終わると俺の視界が暗転し俺の体は俺のものではなくなってしまったのだ。

そして俺の意識は俺自身から離れていってしまう。俺が目を開けた時俺はルリアに膝枕をされていたのだ。そんなルリアに向かって【クレア】の姿を借りている女性が話しかけてくる。「ルリア?この子を解放してあげるのは構いませんけど私の物にするべきですわよ?この世界を救う為に協力して欲しいんですもの」

そんな【クレア】の言葉を聞いたルリアは笑顔になるとこう言い放ったのである。

「え?なんで私の名前を知ってるのかな?ルックスから聞いていたから知ってたとかじゃないんだよね?それともなにか証拠でもあるのかしら?」

「な、何を言っていますの?あなたがこの子を自分の恋人にするのなら問題ありませんが、この子は私と結ばれるために存在していると言っても過言ではありませんの。その邪魔をするなら許せませんからそのつもりでいて欲しいものですわね」

そんな二人の会話を聞きながら俺は体を動こうとすると体が思うように動かない。そんな時に【クレア様】に後ろから抱かれる形で俺は拘束されてしまっている。

「ちょっと何やってんのよ!私のルックスに触らないで!」

そんな【クレア様】に文句を言い放ちながらもルリアは行動に移る。「ルックスから離れてよ。この人の相手は私がやるの!」

「あなたは、この方とは相性が悪いみたいですね。この方を私の物にするために協力してくださいよ」

「いやよ!あんたみたいなやつに協力したくないわ!」

「この私に楯突くつもり?あなたと私は同等の立場だと思いますわ。それでもあなたは私に協力する気はないと言うのかしら?」

「もちろんよ」

その言葉を最後に二人は俺の事を睨みつけてくる。

「ルックスの事を幸せにするのは私の役目なのにどうして私達のルクスがあんた達に取られるの?ふざけないでほしいわ」

そんな二人に俺はどうすることもできなかったのである。

そんな時だった。俺は急に体の自由を取り戻してしまう。そしてルキアの声が聞こえて来る。「まったく。この馬鹿どもが。このお方が困っておるではないか。おぬし達には本当にがっかりしたわい。そんなおぬし達がこの世界を守ることができるのかどうか疑問になって来たぞ?この世界を守りたいという意志を持っているのはルクスだけではないのじゃぞ?少しは頭を冷やしてよく考えてから行動に移すがよい。この世界で魔王が現れるということじゃ。その魔王が現れた時には魔王と対抗できる力を持つ者が魔王と戦わねばならぬのじゃ。魔王を倒せるほどの力を身に着けたお主たちがそのようなことをしていて良いと思っているのじゃろうな?」

ルキアがそんな言葉を吐いた後、【美咲様】が俺のことを見つめると「ルクスさん。あなたの気持ちはよく分かりましたよ。あなたは、この世界を救いたいと願っているはずですよね?」と言い俺に対して口を開くのであった。

その言葉を受けた俺は【美咲様】の目を見つめると、「あなたを信じることはできない。俺は俺の力で世界を救いたいんだ。それに、あなたの言っている事が真実なのかどうか俺が判断する事ができない」という返事を返すと彼女は「そうですか。残念です。あなたならば信じてくれると思っていたんですけどね。仕方がないです。あなたはあなたを想っている人達の為に、私が与えた力で戦うしかないのかもしれませんね」と言葉を口にすると俺の頬に手を当ててからキスしてくる。その口づけは、ルキアとの口づけよりも長く濃厚なものであり、俺の思考回路は真っ白になってしまった。

その後俺は、ルキアが俺の耳元に顔を寄せて俺だけに聞こえるように小声で「お主の考えていることは間違っておらぬのじゃがな」と言った言葉を聞いて俺の心の闇が取り除かれていくような感覚に陥った。俺はこの世界で生きている人たちが好きだし、この世界に愛着を持ち始めている。だから俺の力が誰かの役に立つのであれば使いたい。この世界を俺は守りたい。だからこそ俺は、俺が救うべき人を俺の力で守るんだ。と心の中で思ったのだった。

俺は目を覚まして周りを確認すると俺に膝枕をしているルリアと【聖獣の王 ユニコーン】の姿を発見することができた。

俺は身体を起こすと「あれ?」と口にする。なぜなら【クレア】がいないからだ。【クレア】がいなくなったことで俺の中にルティアが宿る。そして俺は【聖獣の王 ユニコーン】に向かってこう言葉をかけた。「お前は俺の仲間だよな?」と。その言葉に【ユニコーン】は答える。

「はい。その通りです。私は、ルキア様と契約を交わしていますから。私が契約している存在は【ルキア】だけです。【クレア】などという名前の女性と契約することは絶対にないんですよ。あの方は神界の神様だから私の主人じゃないのに、私の主従関係を無理やり断ち切り私の中に入り込んでくる始末。あんな人なんて大嫌いだわ」

その言葉を聞いて俺の中にある違和感の正体を確かめてみた。なぜだろう?何故か知らないが俺は目の前にいる【ユニ子】を信用することができないのだ。そんな時俺の耳に【クレア様】の声が入ってくる。

「【聖王の神 クレア】は、この【世界を救う女神】の器になり得る存在として、異世界から呼び出された女性であり、ルミアさんや、ルーちゃんの本当の母に当たる存在です。この【クレア】をあなたに託しても良いかと思っていましたが、私の考えが変わりましたよ。【クレア】は危険すぎます。このままルティアさんに預けるのが良いのかもしれないと」

俺は【クレア様】が俺にそう言うと【クレア様】の言葉に疑問を感じた俺は思わずこう言葉を発してしまっていた。

「どうして俺なんですか?」と。そんな俺に向かって【クレア様】は「ルクスさん?今更何を言っていますの?ルクスさんは既に、ルリアさんの事を【クレア】と呼んでましたよね?それにルリアさんは、あなたの事を愛していましたよ?あなたと【クレア】が入れ替わっているのを知ったらルリアさんは怒り狂うでしょうね。ルリアさんとルクスさんの関係を壊したのは【クレア】なんですから」と言ってからルチアの方へと歩いて行ってしまう。その言葉を聞いた俺は、確かにルリアの事をクレアと呼んだりしていた記憶はあるなぁ〜と思いながらもどうしてこんなにも俺は冷静に物事が考えられるようになっているのか疑問に思う。だけどルキアの言葉によってその疑問は消えてしまった。

「お主には妾の力の一部を与えたからじゃ。今のお主は【ルキア=レグリア】と融合することによって【神】になったのじゃ。まぁ今はルキアが力を与えて制御しておるがのう」という言葉を俺はルキアに聞いたからこそルティアと【クレア様】のやり取りを聞くことができていた。そうでもなければ【クレア様】の言葉は理解することができなかったのであろうと思う。俺はそう考えると俺をルキアが助けてくれていたことに気付かされる。俺はルキアと融合したことによってルティアの体を借りることなく、【ルキア】と対話することができた。俺が【クレア】にキスされた時に俺の心の中の闇が消えたのはそのせいだと思う。【クレア】の唇が触れた瞬間に俺の中にあった不安感のようなものが無くなりそれと同時に【クレア】が何をしようとしているのかわかったために俺は【クレア】がやろうとしていることを止めることができたのだろうと推測できたのだ。

そして俺は【クレア】に「クレア?あなたはいったいなんの目的で俺に接触して来たんだ?どうしてルティアに取り憑いているんだ?どうして俺に接触をしてきたんだ?それに、あなたは何のためにこの世界を【クレア】に託そうとしていたんだ?」という質問をするとクレアがルチアの方を指差してからこう答えたのである。

「ルシアが私を裏切ったのです。ルディアの封印を解き私の命を狙う。ルキアは、そのことを阻止するために、私の力を奪いルキアの魂の力を私に移してまでルギアを守ってくれようとしていた。なのにルティアを使ってルキアを殺そうとするだなんて、信じられません」

その言葉をルキアに聞いていた俺は、「ルチアは本当にルキアを殺すつもりなのか?」と問いかけるとルキアは「そんなことはないのじゃが、もしルアが暴走してしまった場合どうなるのか分からぬからルビアはルティアとルキアが出会うことがないように立ち回って欲しいと思っておったのじゃ。しかしどうやらその願いは叶わなかったようじゃ」と呟く。その言葉を聞いてから俺は「なら早く止めに行こう。【ルチア】のことは心配ないから」と口にすると【ルキア】と【クレア】を連れて【ルシア】がいる所へ向かうのであった。

俺とルリアと【ユニコーン】はルチアのところへ向かって行くと、ルチアの前にルティアが立ち塞がり、ルチアの目の前には【ルシア】と【クレア】がルティアを守るようにしてルリア達に立ち向かっているのが目に映っていた。

俺はルティアと【ルリア】の2人に向かって「お前達が戦う理由はないだろ?お前達の気持ちが分かるとは言わないが俺の大切な人に手を出すのだけはやめてほしい。俺の目の前にお前達が立つのであれば俺は戦うしかない」という強い口調で言った後俺は剣を抜きルティア達に向ける。

すると【クレア様】とルキアの2人はこう言う。

「この子達と戦う必要はありません。私はもう諦めています。私は私を裏切り私を陥れたルティアを恨みそして殺そうとした。その行動でルリアがどれだけ傷ついたかも知っているしルキアの気持ちも分かっているわ。でもこの子は【私】の子。たとえ【クレア様】であっても殺す事は許しません。私は自分の娘を殺したくはない。例えそれが、私が産んだルシアが望んだ行動だとしてもね」と【クレア様】は言い【クレア】を庇いながら俺の攻撃を防御する。俺はルティアに近づき、俺の攻撃を【クレア】とルチアは、ただじっと見ていた。俺は攻撃を止めずに何度も【クレア】に攻撃を仕掛けた。だが【クレア】はルティアを庇い続けるだけだった。俺はそれでも【クレア】に対して何度も切りかかる。その光景を見て【ルリア】はルティアを後ろに隠しながら俺に対してこう言葉を発する。

「いい加減にしなさい!ルクス君!それ以上やったらルキアが傷つくじゃないですか!?」と俺を睨みつけるような視線を俺に向けてくる。その表情からは俺に対する憎悪が感じられたが、今の俺の感情を支配できるほどのものではなかったのだろうと思う。

俺は【クレア】を【ルキア】を守るために必死になって俺に抗っているとしか思えなかったからだ。

だから俺は、俺を慕ってくれる者達を守りたい。そんな思いで戦っているだけなのだ。だから俺は戦い続けた。俺の剣が【クレア】の腕を斬り落とすとその腕は粒子となり俺の体内に吸い込まれて行くのが確認できて、それと同時にルチアは「どうしてそこまでこの子を庇うの?その子がルキアさんの娘だって分かってるの?」と【クレア】がルシアの実の娘である事を俺に突きつけてくる。

その言葉で【クレア】とルティアは目を見開き俺の顔をじっと見つめてきたのだ。その目はまるで、【自分とルシアが実の親子だとは知らなかった】と言っているように俺の目には見えてしまうのであった。俺は【クレア】が俺の事を愛していてくれた事を嬉しく思ったのだが。

「ああ。そうだよな。お前のその気持ちはとても嬉しいが、お前は自分のことをルシアの母親なんだと自分で認めたからこそ、その事を隠し続けていた。それを知っているのは、俺だけだ。お前は俺のことを信じてその事を伝えてこなかった。俺はそんなお前の事を愛しているんだよ。だからお前が何を言おうと俺はお前がどんな存在だったのか知ってしまったが、それでもお前が俺のことをずっと見守ってくれていた事実は変わらない。だからこそ俺は、俺の事を好きになる女の子達は全員守るんだ」と言うと彼女は涙を流し始める。

「私はあなたが好きになったの。初めて会った時一目惚れしたの。それからあなたが私の全てになっていった。私の初めての男性になった。でも私はあなたに酷い言葉をぶつけたりしてしまったの。私があなたの事を心から信用できない時もあったけどあなたが側に居るだけでとても幸せな気持ちになれたわ」

そう【クレア】は泣き叫び始めてしまった。そんな彼女を見ながら【ルリア】は何も出来ずにいる【クレア】の元へと近づいて行き抱き締めると共に俺を憎々しいと言った顔をしながら見つめてきていたが俺はそれに動じることはなかった。そして俺は、ルティアの方を見るとルリアと戦闘を始めてしまっていた。

ルリアは【ルシア】がルキアと俺に向かって攻撃を仕掛けてこようとしたところを防ごうとしていたのだ。俺は【ルリア】の手助けをしてルキアとルシアの戦闘を止めるべく2人の方へと向かい始めた。

「ルミア。あなたはどうして私に敵対しようとするの?私と【クレア様】はあなたのために今まで生きて来たのよ?あなたを生かすためにあなたに尽くしてきた。なのに、どうして、私達の想いを踏み躙るような真似をするの?お願いだから目を覚まして」

ルキアが俺に向かってそう言うとルリアが「ふざけんなよ。俺とルリアと【ルリア】と【ルティア】がこの世界で生きているんだぞ?どうしてそれを【クレア様】が否定するんだ?この世界に【クレア】が居ないからこそ、俺達4人は出会えたんだ。それはルキアが一番よく知ってる事じゃないか?」

その言葉を言われたルキアは何も言えないといった顔をして俺から視線を逸らす。

「ルミアさんはきっと今自分が見ているものが正しいと思い込みすぎてしまっておかしくなっているんですよ」

「でもあの子の瞳を見ればわかりますよね?」というと【リザリー】が口を挟むとルシアもそれに続く。

「うん。僕にはわかる。彼女の心を救えることができるのは、同じ女性である【レグリア姉妹】だけだと思うから僕は君達にお願いしたい事がある」と口にした後ルティアは「ルリア。もうあなたと戦う理由がない。あなたは本当は何が目的でこんなことを始めたの?あなたが私達を裏切るなんて思ってなかったのに」と【ルリア】を説得しようと話しかけるとルリアは俺のほうを向き俺の顔を見た後に、ルティアの問いかけに答え始める。

「私に【クレア様】を殺す気はないんですがどうにもルキアが言うように私がルチアと入れ替わっているのは間違いなさそうなのですよね。ですから今は一旦引き下がることにしますが、次に出会った時は覚悟してくださいね」というとルリアの肉体は光の粒となって消滅し始めて【ルリアの身体】の中から現れた人物がいた。

その女性は【ルーティ】に似ていたが、どうやら本物のようだとすぐに分かった俺は彼女を落ち着かせる事にする為に抱きしめるとそのまま頭を撫でる。彼女は俺の事を見て涙を流すも少しすると落ち着きを取り戻し「ありがとうございます」とお礼を言われてから、ルリアの姿に戻ったのを確認して俺は、皆の元に戻ろうとしたら、目の前に【ルシア】が姿を現す。

「お兄様がこの世界に来てからもう1ヶ月近くが経ちました。この世界と私達の世界を行き来できるのは【ルシアお姉様】だけなんです。私と【クレア様】はルシアお姉様を待ち続けていました。なのに貴女達が来たことで【ルシア】の居場所は奪われ、私達はこれから先どうなるのでしょうか?【ルシア】がいなければ私は【クレア】として生きていかなければならない。その事で頭がいっぱいになってしまう。だからどうかこれ以上ルシアを苦しめないであげてほしいの」と懇願されたのであった。

【クレア】は目の前に現れた自分の分身とも言える少女に「ルティアちゃんは本当にそれで良いの?私はあなたの本当の母親よ。それなら私が守ってあげるから大丈夫だからね」と言い優しく微笑みかけたのを見て、ルティアは泣き出しそうになっていた。そんなルティアを抱き締め「私は、自分の気持ちに嘘はつきたくない。それに私は【クレア様】と【ルシア】と一緒にいる時間の方が好きなんだ。【ルシア】は私が必ず助けて見せる。そして私は【クレア】にルシアを殺させやしない。ルキアだってもうすぐ来るはずだから心配いらないさ」と笑顔で言うとルティアは俺の事を見つめてきた後ルリアのところに走っていき「私達は絶対に【クレア】を守るわ。それが【クレア様】の願いだもの。私はこの世界の人間と【クレア様】を守るために【クレア様】に全てを捧げるの」と【ルリア】に対して宣言をしていた。

そのやり取りを俺は見ていたのであるが、この会話はまるでこの【ルシア】が【クレア】と自分の娘【ルリア】の2人が自分の子供だということを知っていると言わされているような気がするのだ。

俺は【クレア】を後ろに乗せると「ルティア。とりあえずお前は【クレア】とここで待っていてくれ。あいつらが俺の仲間たちを傷つけるようであれば容赦はするつもりはないからな」と言ってから【ユニコーン】のところへと向かうのだった。

俺はユニコーンに乗り込んだと同時にルティアの悲鳴を耳にして【剣姫の騎士】の2人と【剣王】は戦闘を開始した事が分かると、まずは俺が【クレアの剣聖】と戦わないといけなくなり、俺は【剣聖】と対峙することにしたのである。【剣姫の勇者】とは戦ったが俺の実力不足もあって勝つことはできなかったのだけど、この【クレアの剣聖】に勝てば、他の者達も戦う意志を失ってくれるのではないかと考えたから俺はそうする事にしたのだ。そうしないと俺の仲間達が殺されると思ったから。

しかし、俺には目の前にいる女性の考えている事が全く分からなくて、俺のことをじっと見つめながら口を開く。

「私は【クレア】とこの子のために戦い続けるつもりなのであなたは消えてくれませんか?」と言われてしまう。だけど俺だって簡単にこの人の言いなりになるわけにはいかない。この人も大切な仲間なのだから、この人をこの世界に残したまま俺だけ元の世界に戻る訳には行かないからだ。

「悪いけど俺の友達に手を出すような奴はこの世界に一人も残すことはできない。俺はそんなことを許してはいけないと思っているんだよ。あんたと話をしている時間が無駄だったみたいだしこれで終わりにするよ」と俺は言うと腰に差している剣を抜き取り攻撃体勢に入る。【クレアの勇者】と戦った時とは違い今の俺には【クレアの魂】がついているのだ。【勇者】の力を完全に使いこなせるようになった俺ならば勝てるはず。そう考えた俺は全力で彼女を叩き潰そうと攻撃を仕掛けるもあっさりかわされてしまい【クレアの剣聖】から攻撃を繰り出され俺は咄嵯にその攻撃を受け流した。そして俺は、【クレアの勇者】の時のようにはならないと心の中で強く誓い【クレアの剣神】との戦いが始まる。そして、何度も彼女の剣を受け流し反撃を繰り返すが一向に【クレアの剣聖】は倒れることなく俺に立ち向かってきた。そして俺はその姿を見てある疑問を抱いた。なぜ【クレアの剣聖】の【HP】ゲージが1つもないのに彼女はこんなにも余裕なのか?【クレア】は【ルリア】と戦っていた時にはHPが全快していたはずなのに、俺との戦いではダメージを受けるどころか、俺の攻撃は彼女の体に当たる前に防がれてしまっている状態。俺には彼女が何をしたいのかがわからないのである。俺は目の前の【クレア】を見ながら【剣王】が使っていたあの力を発動する準備を整えたのだった。

俺は右手の掌を開き「我が名はレオン。我の求めに応じよ。来れ、我が契約者たちよ。【精霊術師 】」と詠唱する。すると俺の周りに炎が現れ始める。その光景を目にした目の前の人物は驚愕しながら動きを止める。そのタイミングを狙って俺はすぐに行動を開始することにしたのだ。「喰らえ!これが奥の手だよ」と言い放ちつつ、左手で握り拳を作るとその拳の中に火を圧縮させてそれを目の前の女性目掛けて放った。

その攻撃を見た瞬間に彼女は俺に向かって攻撃を仕掛けてきたが、それは俺の読み通りでしかなかった為難なく避けてみせることに成功する。そして目の前で起きていた異変に気付いた女性は自分の腕を見てからその変化を確認するとすぐにその現象を理解して俺の方へと顔を向けたのだがすでに遅い。俺は既に次の行動を起こそうとしている最中な上に俺の腕から溢れ出た炎がこの女性を燃やし始めていたからな。この炎に触れてしまえばこの世界最強の剣士であろうとも一瞬にして消し炭となる。それくらい凄まじい炎の渦が巻き起こっているということだ。

この魔法の名前は【フェニックス】と言う。その名の通り【不死鳥】をイメージして作り上げたオリジナル魔法。これを使うと俺は一時的にMPを消耗しすぎてしまった為にもう何もすることができない状態にさせられてしまう。しかし、俺はこの【クレア】を救うためには使う必要があったのである。【クレアの剣聖】をこの世から消滅させるのにこの魔法が必要だった。そう。俺の大事な親友を救い出すためにはこの女性の存在が必要。だからこそこの魔法の発動を俺は躊躇わずに行った。この女性を救うことが【クレア】を助けることに繋がっていく。そして【ルシア】を解放する手段に繋げられる可能性があると考えていたからである。

この魔法の効果を受けて苦しんでいたはずの女性だったが「私の負けね」と呟き俺の前に座り込みそのまま気絶してしまう。その姿を見て俺自身も体力を使い果たしてしまったため、俺もまた意識を失うのであった。

俺の目の前に現れた人物を見て俺は思わず叫んでしまう。「ルシア!?なんでこんなところに」と口走るも目の前にいる人物が自分の分身だという事はすぐに理解できて俺は「ここは【異世界 】だ。だからここに居るルリアさんは本物じゃないぞルキア」と声をかける。その言葉を聞いてルキアは困惑の表情を見せるもすぐに落ち着きを取り戻した後に俺のことを見るも俺はそんな彼女に「今はお前も落ち着いてくれないと話にならないから、とにかく今は【ルーティアの身体】の中に入っていて貰えないかな?俺はこの子と話をしてくる」と言い残してからルーティアを連れて【ルーティアの身体】の元へと向かう。そして俺の言葉にルティアは「分かりました」と言ってからルシアの姿に戻った。俺はその姿をみて少しの間だけでもこの子に会えたことで安堵するも目の前の女の子はどうして良いか分からないとばかりにおろおろしており俺に抱きついてくる。俺はとりあえずこの子が安心できるように頭を撫でることにしたのだった。しばらくそうしていると俺の仲間達が合流したのでルティアは俺達の元から離れるのだった。ルリアも【クレアの分身】と話をするために【ルリア】の所へと向かうのだった。そして残された【ルーティア】と話をすることにした。

「ルリア。ちょっと【ルティア】のそばに居てくれ。あいつは【クレア】の分身のような存在だから」とだけ告げると「分かったわ。私もこの人と話がしてみたいのよ」と言い残すとその場から離れてくれた。俺はそれから【ルーティア】に声をかける事にしたのであった。俺は【ルーティア】が俺に語りかけて来た時、違和感を覚えた。【クレア】から聞いた情報ではルシアの記憶と性格をそのまま引き継いでいるはずなのに、俺に話しかけてきた内容は【クレア】とは全くの別物であり俺はそれが何を意味するのかを考えながらも会話を続けたのである。俺は【クレア】に質問をしたところ、目の前にいる女性が【ルーティア】ではない事が判明すると同時に目の前にいる女性の事をルティアと呼んだのがそもそもおかしかったのだ。

俺は目の前にいる女性の事を【クレア】と呼びかけてみると【ルチアーナ】と呼ばれる。そして俺はこの世界に存在している人達について詳しく教えてほしいとお願いすると「あなた達から【クレア】を奪い返さないと私達がこの世界に居られないの。ごめんなさいね、こんな事に巻き込んでしまって」と謝罪された。

【ルティア】とルシアの本当の両親はこの【クレア】であり【ルリア】の2人は彼女によって産み出された存在。だがその事を知ってしまったルリア達は自分の両親を殺したのも彼女だと思ってしまいその事実から目を背けようとしたらしい。そのため自分の中に眠っている本来のルリアとルリアはルリア達を生かすためにルシアの肉体を借りるような形で現世に姿を現したという事を聞かされた。

俺が【ルーシア】に質問をしてみたら答えが帰ってこなかったために「君は一体誰だ?」と問いかけたところ彼女はこう口にしたのである。『私はあなたの味方。だからこの世界に来てくれたあなたには幸せになって欲しい』と そうして俺は彼女と別れることになるも俺は、【ルティア】がなぜ、【クレア】のふりをしていたのか?この【ルリア】に聞かないと分からなかったのである。そして、俺がこの世界に来るきっかけを作ってしまったルミアについても俺は聞きたかったが、この【ルティア】が知っているとは思えなかった。なので俺は何も言わず、彼女の前を去った。俺がルティの元に戻ろうとするもルリアとルディアとルティアの三姉妹が集まっていたから俺はそこに合流すると「そっちも終わったんだな?」と聞くと3人が俺のところへ近寄ってきて「【勇者】を倒せたのね」と【勇者】との戦いの決着をつけたのかを確認される。

俺は大きくため息を吐くと思い切り【クレア】の胸に飛び込むと抱きしめるのであった。その行動に驚いた【ルティア】は戸惑った様子で俺のことを見てくるがそんなことは関係ない。今の俺はただこうして甘えたいだけなのだ。

「俺は君のために【勇者】と戦ったけど俺は君に傷を一つつけることもできなかった」と伝える。【クレア】はその言葉を受け止めた上で「それでも戦ってくれただけで十分よ」と言ってくれたのである。そのあとで俺は【勇者】から託された指輪のことについて【クレア】に尋ねると、この【勇者の剣】を俺は装備することができるようになった。そのことを伝え、俺は【勇者の剣】を右手で握りしめることで剣から力が溢れ出して来るのを感じたのである。この力は確かに強大だと感じていた。しかしそれと同時にその力を扱いこなすことができないような気がしていたのだった。俺はそのことを【クレア】に伝えた後、俺は剣を腰に差してからルーリアに剣を渡した後ルーディアと一緒に家に帰ることにしたのである。【クレア】もルーティアと話し合いをしたあとにルティアを呼んで一緒に家に戻ってくることになるのだった。

俺達はルーディアとルーリアを先に家に戻すことにした。ルーティアが「【レオン】。私の【クレア】を守ってくれてありがとう。これからもずっと傍に居てくれると嬉しいな」と言ってきやがったが俺がそれに返事をする間もなく、ルシアは「お礼を言いに来ただけだから、これで帰るよ」と告げて姿を消した。その後、ルリアが「じゃあ私達の家に戻ろう」と言い出してきたので俺は素直に「わかった」と一言だけ告げて、ルティアの手を握って俺の仲間たちの後を追うことにしたのだった。そして、家に帰る前に俺は、【クレア】のステータスを確認する。

名前 【クレア】

性別 【女】

種族 【エルフ族】

年齢 20歳 レベル 540 体力 10500000/10500000 魔力 15305000/1550500 筋力 390000000 敏捷 6808008 ▲ by ex_ukon ■この話の前のあらすじ。【異世界】の【勇者】の【ルーシア】の分身と対峙することになった【勇者 ルーシア 】の幼馴染【ルーシア】はルーシアと戦うことを決意するのであった。そしてルーシアは【ルーシア】に対して、ルーシアは「ルーシアちゃんがルーシア様ならそれでいいじゃない」と告げる。それを聞いたルーシアは自分の中で葛藤する気持ちを抱きながら【魔王 ルシア】の魔法で作り出された自分の影と戦いを始める。その最中【クレア】が突然姿を現す。

俺が【勇者】のステータスを見ているのを気が付いたルーティアは、「私のステータスも確認したいんでしょう?どうせなら私の部屋でゆっくりと見せ合うことにしない?私達だってまだ出会ったばかりだし、お互いに理解を深め合わないと」と言われた俺はその言葉に少し警戒するも「まぁ別に俺は構いはしねぇよ」と返す。その言葉を受けて【ルーティア】の瞳の色が変わった瞬間にルーティアはルーリアに姿を変える。そしてルーリアの格好をしているルティアは俺に向かって手を伸ばしてきた。

そして、俺が彼女の腕を掴むと俺はルーティアに連れられて【ルーティアの部屋】に行くことになったのだった。俺はルーティアに「ルーリアの姿をしていても中身は別人なんだろ?」と聞くと、ルーティアに姿を変えたルシアの口元に指を当てることで「しー。今は何も言う必要はないよ」と俺に伝える。

その光景を見てから俺は【ルーティア】について考えてしまう。【ルーティア】は俺のことを異性として見ていたように思う。そんな【ルーティア】がどうしてルーリアに化けて俺の前に現れたのか?それが全く分からないのである。ルーティアはそんな俺の心の動きを読み取ったかのように微笑むと俺のことを見てきながら「私はあなたの味方。私はこの世界に居られなくなるのも嫌だった。だから【勇者】に協力してあげてるの。私達の本当の両親は私達が生きているのに邪魔だった。だから殺された。そしてその復讐のためだけに【クレア】はあの人に協力しているの。私達がこの世界に居るにはそうやって誰かの力を借りないと駄目だったから」と語りかけられた。

ルーティアの話は、正直なところあまり納得できる話ではなかったのだが俺は目の前で俺に抱きついている少女が【勇者】であることは間違いないと思っていた。だからその話は一応は受け入れておくことにする。俺は目の前に座ったまま【ルーティア】に話があると口に出すと彼女は首をかしげていた。そんな彼女に俺は「お前にお願いがあってきた」と言う。

すると【ルーティア】の顔色が明らかに変わる。俺が何を話すのかを察してくれたのか俺の言葉を聞いてから【ルーティア】の身体が震え始めてしまう。そんな彼女を見た俺は「大丈夫だよ。もう俺はお前のことは敵視してはいないからさ。それよりも俺はある人物と会ってみたいと思ってな。それができれば俺の目的は完遂するんだ。でもその為にはどうしても【クレア】の助けが必要でね。だからあいつに頼まれてくれないか?」と頼み込む。

【クレア】はこの世界に存在する人達を救うためにもこの【勇者】を利用するつもりらしい。そのために彼女も【ルーティア】に頼んでいると言っていたが。俺は自分のことを好きになってくれる女性が自分を犠牲にしてまで助けたい人たちを助けようとしている姿を見ていて俺もまた彼女の手助けをしたくなっていたのだ。しかし俺は目の前に【勇者】という脅威が存在する。だが【勇者】の願いが叶えば俺も目的を達成する事が可能かもしれないと考えたのだ。

「わ、わかりました。私の力が必要だと言うのであれば私は喜んでその役を果たします」と俺の提案に承諾してくれる【ルーティア】の頭を撫でながら、彼女の髪の毛に触れようとしたらその手を掴まれてしまった。俺は慌てて謝りつつ彼女から離れると「本当にすいません。その癖で無意識に女性を触ろうとするのはやめてください。私の心も体もあなたの所有物です。あなたがしたい時に好きなだけ弄んでくだされてもいいんですよ?」と彼女は言って俺の事を抱きしめてくれた。

「それは流石に遠慮させてもらうよ。だけど、俺は君のことを大切にするよ」そう俺が告げると【ルティア】が嬉しそうに笑みを浮かべる。それから俺と彼女は自分の部屋に帰りベッドの上で寝ることになった。そして俺は【ルティア】と唇を重ねる。

そして俺は目を覚ましてからルーティアと別れてから【勇者】と話をするためにある場所へと向かっていた。その場所とは【ルーティア】と初めてあった森の中にある湖。そして俺が湖の前まで歩いていくと【勇者】が待っていた。そして俺は彼女と対峙することになる。

「君が【勇者】だったのか?」と聞くと、【勇者】は自分の姿をルーシアの見た目に変えていく。それに合わせて【クレア】も俺の視界の中に姿を現す。そこで【クレア】が何か言おうとしていたようだが【勇者】は俺の方を睨んできた。その眼光の鋭さに思わず怯んでしまう。だが【クレア】の視線で我を取り戻すことができた俺は【クレア】を後ろに下げさせてから剣を抜き取り、俺のことを見ている相手に敵意がないことを伝える為に俺は剣を地面に置き、そのままの状態で【勇者】に語りかける。すると「それで、あんた何しに来たんだ?」と話しかけてくる。

俺は素直にここに来た経緯を話す。しかし彼女は「悪いけど、私がその話に乗るメリットはない。それにこの世界で生きて行くために【クレア】に協力する必要はあると思っている。だけどあんたに協力しようと思うほどの義理もないんだよ。わかってくれるかい?」と言ってきたのである。

「わかった。だったら【勇者】、俺と取引をしないか?」俺がそう提案をしたら【勇者】は興味を持ったようで「どういう意味だい?」と聞き返してくる。俺と【勇者】の間で取り決めをしてお互いの条件を飲み込む事を提案する。俺と彼女が交わす約束は、お互いにお互いの望みを聞き入れそれを叶えて貰うというものだった。そしてその条件を俺が提示してから、少し時間が経った後、彼女は【勇者】の姿から元に戻ると「いいだろう。その契約受けて立つよ」と言ってくれたのであった。こうして俺は彼女と契約を結んだ。そして俺は、【勇者】が求めていた情報を一つ提供したのである。俺の出した要求は【クレア】に教えて貰った俺の仲間達についての情報だった。そして、その話を聞いた【勇者】は目を大きく開いて驚いたような表情を見せていた。そして、俺は【勇者】に告げる。

「これで【勇者】。お前の目的に協力ができるぞ。だからこの世界のためにも、【クレア】と協力して頑張って欲しい」と【勇者】に言うと、彼女は何も言わずに俯いてしまう。そしてしばらくの沈黙の後、ようやく顔を上げたと思ったら「ありがとう」と一言告げられた。俺は【勇者】が【魔王 ルーシア】を倒せば元の世界に帰れると言った時の【クレア】の言葉を思い出す。俺とルーティアの本当の両親がどうなったのかを知るまでは帰るわけにはいかないとも言っていたのを思い出した。俺はそんな【クレア】の為にできることはないのかと改めて考えてしまう。そして俺の目の前にいる少女は、今まで俺が出会ったどんな女の子よりも綺麗だと感じたのであった。

「じゃあな。俺はそろそろ帰るよ」と俺は告げた。その言葉に反応するように、【ルーティア】は俺の背中に自分の体を押し付けてきたのである。そして、「私は貴方の事が好き。だから一緒に居てほしい。私は【クレア】と違ってこの世界に長く滞在する事ができる存在なの」と彼女は俺に向かって訴えかけてきたのであった。

俺は【ルーティア】を優しく引き離すと「お前と一緒にいると他の奴らが心配するんだ。俺に仲間がいるように、俺の傍には仲間たちがいてやるって決めているから」と言うとその瞳からは大粒の水滴が流れ落ちていた。俺はそんな彼女を慰めるためにその頭に手を置く。そして俺は彼女の事を抱きしめていた。そんな風にして俺達はしばらくの間二人っきりの時間を過ごしていると背後の方から人の気配を感じ取る。

俺は後ろを振り返るとそこには俺達が【クレア】と呼んでいた人物が立っていたのだ。俺はその姿を目にすると慌ててルーティアから離れようとするのだがルーティアは俺のことを引き留めたのだ。そして俺は【クレア】を目の前にして彼女に話しかける。「久しぶり。【クレア】、俺のところに来てくれてありがとう。おかげで俺は俺の使命を達成できるよ」と言う。すると、俺のことを見つめて微笑む【クレア】。その表情を見た瞬間に俺のことを抱きしめてきた。

俺が【クレア】を【ルーティア】に紹介しようと振り返ろうとした時だった。俺のことを【ルーティア】が抱きしめた瞬間に俺の体は地面から浮いていた。そして【ルーティア】と【クレア】の二人に引き寄せられてしまい俺とルーティアの二人が空中に浮かび上がってしまう。その現象に対して驚いてしまった俺は声を出すことすらできなくなっていた。俺が動揺している間も二人の美女が争うようにキスを交わし始める。

そしてルーティアは、俺の事を放り投げると俺に向かって飛び掛かってくる。そして俺は彼女を抱き止める。それから、【ルーティア】は俺の頬に触れるだけの優しい口づけを行う。俺の顔に彼女の柔らかな胸の感触が伝わってきて、その感覚によって俺の心臓の鼓動が早くなってしまう。俺に密着した状態のままルーティアは囁くように言った。「私だって本当は、こんな風に抱き締められるんじゃなくて貴方に抱き着いたりとか、そういうことをしてみたいの。でも私は、貴方の事を信用しきれてなかった。そんな状態で貴方と肌を重ね合わせることなんてできないもの」そんなことを言ってから俺の顔を見上げながら笑顔で「これからもよろしくね」と【ルーティア】は言い残して消えていったのである。

残された俺は【クレア】の事を眺めると「さっきから何を見ていたのですか?私をそんなに見つめて」と言う【クレア】。そして彼女は何かを察してしまったようで「ルーティアと随分仲良くなっているようですね。まさか、私が知らない間にあの子と関係を持ってしまいましたか?」と問いかけてくる。俺は、先程起きた出来事を全て説明すると【クレア】はため息を漏らしながら頭を抱えていた。それからしばらくして落ち着いたのか「まぁ、仕方がないですよね。私のお願いもちゃんと聞いてくれていましたからね。許してあげます」と口にした後、【クレア】が俺のことを抱き寄せて俺と【クレア】が二人で湖の上に浮かぶ。それから、彼女は俺の顔を覗き込んできて「これからも宜しくね。愛していますよ【ユート】さん」と言うと【クレア】が消えた。

俺の身体に残っていた【クレア】の力を使い切るためにも俺が【クレア】に渡したのは【ルティナ】の記憶であり、【勇者】の願いを聞き入れるためにも俺は彼女の願いを聞くことにしたのだ。俺の【クレア】と交わした取引内容は、【クレア】がこの世界を生き抜いていくための手伝いをしてもらう代わりに、俺はこの世界の情報を教えるという内容だ。俺が伝えた情報とは【クレア】の過去に関わる事である。それを伝える事で彼女は自分のことを理解できたのかもしれない。

それから【勇者】が俺の元を訪れた。【クレア】から得た情報を俺は彼女に提供すると「ありがとう。これで私の目的を果たすことができるよ」と彼女は言ってくれた。それからすぐに俺は自分の家に戻ることにしていた。

俺はルーティアと出会ってからの日々の中でルーティアは俺が思っている以上に色々な経験を積んでいたらしい。ルーティアは俺が【ルーティア】として接している時は【ルーティア】を演じていたのだが、本来の【ルーティア】の姿に戻ってからは素の【ルーティア】の態度を取る事が多くなっている。俺に対しても【クレア】の時のように接するようになっているのである。そして、俺とルーティアの付き合いが長くなっていくにつれて俺達の関係に変化が訪れたのであった。ルーティアは俺との子供を欲しがり始めたのである。そして、彼女は俺の子供を生むことを強く望んだのであった。

俺と【ルーティア】は【クレア】に頼んで【ルティ】という女の子に【ルーティア】の力を譲渡することになってしまった。俺は【ルティナ】を死に追いやった元凶の一人である【ルティ】を救うことができればいいと思って【クレア】に提案を持ち掛けた。だが、【クレア】から提案された事は予想もしていなかった内容であった。そして【クレア】の提案を受けた結果、俺はある決断を下さなければならない時が来たのだと悟った。俺はその日がいつ来てもいいように準備をしていた。俺は俺なりにやるべきことを考えていた。俺はルーティアと共に旅をしている時に立ち寄った場所で購入した武器の手入れを念入りに行ったのである。俺はその時の事を思い出す。

ルーティアが突然、剣を買ってきた時の話である。その日の夜は俺は、ルーティアと一緒に眠りについたのだがルーティアがなかなか眠ってくれなかったので困っていたのであった。そして俺はルーティアに尋ねたのだ。「一体どうしたというんだ?」と、ルーティアはしばらく悩んだ後、こう言った。

「貴方が最近使っているその武器は私が使う事が出来ていたものなのでしょう?」と彼女は言った。どうやら彼女は、俺の持っている短刀が自分専用のものであるということを知っているらしくそれを俺に伝えてくれたのだ。しかし彼女が知っている【クレア】という人物は自分の使っていた武器の扱い方を熟知していたわけではないはずなのだ。彼女はこの世界の人間だから俺よりもこの世界での知識を持っていただろうけれどこの世界の人間が【勇者クレア】として振る舞えるような能力を持っているとは考えられないからだ。だから彼女は俺のことを【クレア】だと思い込んでしまったのではないかと考える事ができるのではないだろうか? だからルーティアはこの世界には存在しない武器を扱えて俺にそのことを伝えることが出来たのだろう。そしてこの事実を確かめたかったのだと思う。ルーティアがこの世界に存在しない俺の仲間達の装備を所持していたという事実は俺を不安にもさせた。ルーティアが自分の意思ではなく【クレア】の魂に支配されているという可能性を考えると、ルーティアがこのまま俺の目の前に現れる事が怖くなってしまったのだった。だからこそ俺は彼女に俺とルーティアの関係について説明をするべきだと思ったのだ。

それから、俺とルーティアはお互いの存在を確かめるかのように触れ合い始めるのであった。そして俺が眠っている時、夢の中に【ルーティア】が現れた。そして【ルーティア】は俺に向かって告げる。「ごめんなさいね。本当は、貴方ともっと一緒に居てあげたかったんだけど、どうしても貴方の傍を離れなくちゃいけない理由ができてしまったから、貴方のことを放置する形になっちゃってごめんね」と彼女は謝りの言葉を告げると、【ルーティア】は俺の額にキスを落とすと俺から離れて行ってしまう。俺は慌てて彼女のことを追いかけようとするが俺と彼女の距離は離れてしまうばかり。

俺が目を開けると、俺に抱きしめられているはずのルーティアがいない。ルーティアを探すと彼女は俺の枕に頭を乗せている状態になっており俺の顔を見て微笑んでいたのだ。俺は慌てて彼女の手を握ってしまう。

ルーティアが「貴方は、本当に心配性なんだから、でも、そんな貴方のことを好きになった私がいるんだよ」と言う。

俺は彼女の事を引き寄せる。すると俺の胸の中に納まるルーティア。そして俺は彼女に対して質問を行ったのだ。「俺はお前の事を裏切らないからな。安心してくれ」と言う。

俺に抱きしめられた状態のルーティアは幸せそうな表情を浮かべると俺に口づけをしてくるのである。俺はルーティアの体に触れながら彼女を見つめると彼女は俺の目を見ながら言った。「私はもう大丈夫。それに貴方のおかげで私が何者なのか分かった気がしたから、私が今までやってきた事は決して無駄なんかじゃなかったの」と言うと俺に向かってキスをして消えていったのである。

ルーティアの本当の姿が俺の頭の中に浮かび上がってくるのだがそれと同時に別の人物の記憶が頭に流れてくるのである。その光景が【ルーティ】の記憶だということを理解するまでにそれほど時間はかからなかったのだが同時に疑問が生まれたのであった。どうして俺の前に姿を現した【ルーティ】がこんな行動をとる必要があったのかと不思議に思った。そのせいか、俺はしばらくの間、動けなくなってしまうのであった。そして俺は自分の身体を確認すると先程まで自分が見ていた光景を思い出した瞬間だった。俺が意識を取り戻した時には【クレア】の姿がそこにはあり彼女は俺のことを抱き締めてくれていたのである。俺は彼女の胸に抱かれている状態で【クレア】と言葉を交わした。

【ルーティア】の身体がどんどん衰弱していき彼女の命は尽きようとしていくのが目に見えて分かるくらいになっていくのがはっきりと確認できていた。そんな中で俺は【ルーティア】に問いかけてみた。「これから、どこに行きたい?君さえ望むのならどこでも連れて行くよ」と言うと【ルーティア】は笑みを見せてから「貴方と一緒にいられるのであればそれでいいよ」と言ってくれたのである。俺は、そんな彼女をベットの上で休ませてあげるために俺の家に転移することにしたのであった。

俺は目を覚ますと【ルーティア】の状態がかなり悪くなっていることに気が付き慌てて駆け寄ろうとしたが【クレア】が俺を止めると彼女は「私には時間が無いことは分かっているからそんな顔をしないで」と俺に向かって言う。そんな俺の様子に彼女は笑いかけると「私が死ぬことが分かっていて私がこんなことを言うと思う?」と、それから【クレア】は少し寂しそうにして「そろそろ私がいなくなるのは理解できたかな?」と俺に向かって聞いてきた。

それから【クレア】が語り始めた内容はこの世界を救い出すための物語であり、彼女は自分のことを俺に全て教えてくれた。そして、彼女が語った話を聞いて俺に一つの決心がついたのだった。それから、【クレア】の話を聞き終えた後、彼女と別れの言葉を告げてから俺は【ルティナ】の家へと戻り【ルーティア】の様子を伺うことにしたのだ。

俺の家の中に入ると【ルティナ】の姿はなく。俺は急いで彼女の元へと向かうことにしたのである。彼女の元に辿り着いた俺は彼女が倒れているベッドの近くにあった椅子の上に座った後に彼女のことを見たのだ。ルーティアの手を握ったまま眠るルティナの姿を見ている俺は今から起こる事を受け入れなければならない状況になっていることに気付かされてしまった。このままではルティナの命も危ないと理解した俺は、俺自身の【クレア】の力を全て使う覚悟を決める。

それからしばらくして俺は自分の体の方に違和感を感じてしまう。俺は慌てて【ルーティア】の部屋を出ていく。

自分の部屋に入った俺は【クレア】の力を使ったことで体に負荷がかかるのではないかと心配になってしまうのだが俺が思っていたような事態に陥ることは無かった。そればかりか俺は自分の肉体を取り戻すことができたのである。俺は自分の身体を手に入れることに成功したのだ。俺はその事実を知って喜びを感じていた。それからすぐにルーティアのことを起こそうとしたのだが彼女はまだ眠っており。起きるのを待つことにしたのであった。それから数分経った頃、彼女はゆっくりと瞼を開くと俺のことをじっと見つめて言ったのだ。

「おはよう」

俺達はルーティアの提案を受けて旅に出る準備をしていたのである。俺とルーティアは二人で準備を行っている時に【クレア】の事を思い出さなければ、ルーティアと二人きりの世界が広がっていてもおかしくは無かった。

そして準備が整った俺とルーティアは旅立とうとした瞬間に扉の開く音が聞こえてきたのであった。そして現れた人物を見て俺は驚いたのであった。なぜなら俺とルーティアの前に現れたのは俺の仲間の一人で俺のことをよく気にかけてくれていた女の子【アリサ】の姿であった。俺はその姿を見て心の中で「あぁ、やっぱり」と声に出してしまっていたのである。

【ルティ】は【クレア】の生まれ変わりだという事は【アリサ】が目の前に現れた時点で俺にとっては確定していたのだ。

【クレア】に会った時は、【ルーティア】としてではなく、普通の人としてしか見ていなかったが、今の【クレア】を見ると俺の心が反応してしまい。この世界を救う勇者であると改めて感じてしまったのである。そして俺とルーティアがこの村から旅立つ日を迎えたのだが俺はどうしても【ルーティア】を一人にしたくないと思ったので俺とルーティアの二人が、この村に残り【アリサ】と共に暮らすことになったのであった。この世界に俺の知り合いが他にいなかったからである。俺達二人は、この村の人々に歓迎され。その事に関しては本当に感謝しているのであった。しかし、ルーティアに好意を抱いていた人物もいたようだったのでその事だけは不安であったが。まぁそれはそれで仕方がない事だ。

それからしばらくの時が流れ。俺とルーティアが【ルティナ】のいる宿屋に顔を出す事になりそこで俺は信じられない光景を目撃してしまう。俺が出会った人物は紛れもなくこの世界にいるべきはずのない人物であったのだ。

俺が出会った相手はルーティアの体に乗り移っている女性と【アリサ】だった。ルーティアの体が乗っ取られているという可能性は否定出来ない事実だと知った俺は彼女達が敵であることを理解し警戒心をあらわにした。そしてルーティアに宿の中に入ることを促すのだがルーティアが拒否してしまった。ルーティアはこの中に入りたくなかったようだ。俺は無理矢理にでも彼女を連れ込もうとした。

すると【クレア】が俺に攻撃を仕掛けてきてしまったのである。そして【クレア】の攻撃は俺が身につけていた服を貫いていく。俺はとっさに自分の体を入れ替えようとしたが、なぜか俺の身体を【ルーティア】が動かせず、【クレア】によって吹き飛ばされて壁に衝突してしまうのであった。俺はそのまま地面に落ちそうになるとルーティアが自分の身体を使って俺の事を受け止めたのだ。俺は慌てて【ルーティア】の安否を確認するために彼女の名前を呼んだのである。だが彼女は気絶しており、呼びかけに反応してくれない状態だった。【クレア】の方は俺に向かって再び攻撃を仕掛けようとしていた。

「私は貴方のことを待っていたのよ。勇者様、貴方なら私の気持ちが分かってくれると思ったからこそ貴方が私の事を裏切ったという現実に苦しんでいるんだよ」

【クレア】の言葉にルーティアは何も言い返せなくなってしまっていたのである。ルーティアは自分が何もできなかった事を悔いており。自分自身に対する怒りに満ちている事が分かった。だから俺はルーティアに対して「今はルーティアは戦えないんだ。だからここから逃げて安全な場所に隠れていて欲しい」と言うと俺は【クレア】と戦う事に決めたのだ。【クレア】がどうしてルーティアの体を手に入れたのかは分からないのだが。【ルーティア】は今の状況ではとても戦力にはならないだろう。そんな状態で俺とルーティアは二人で戦ったとしても勝ち目なんて存在しないのでルーティアだけでも逃げるようにしてもらったのだ。

それから、俺はルーティアの身体に憑依して、戦いの準備を整えると【クレア】が持っている力を確かめるために俺は彼女の攻撃を受け止めることにした。ルーティアの身体を使っている【クレア】が本気で戦うとなると俺を殺しかねない勢いなのだが。俺が生きている以上。彼女がルーティアの身体を傷付けることは無いと確信していたので。俺の体は大丈夫だろうと思えた。【クレア】の攻撃を自分の力で受け止めた瞬間。俺の力が弱まっていることに気付かされた。俺の力をルーティアが吸収していたからなのか。それともルーティア自身の魔力が高まっていたせいか。理由は俺にはわからないのだが俺の力がルーティアに流れ込んでいるような気がした。

そして【クレア】の剣技を見切り始めた俺の脳裏に彼女の能力に関する情報が頭の中に入ってきたのだ。どうやら俺の記憶にある情報を俺に見せるためにルーティアは身体を一時的に預けてくれたようで俺の身体を操ることができるのかもしれない。

【クレア】の能力を知った俺は自分の身体で戦える自信が無くなったのである。俺がこの世界の人であれば問題無いが俺のような異世界からやってきた人間が使うのには【クレア】の能力はあまりにも強力すぎると感じたからだ。それから【クレア】が本気を出し始めると俺の肉体がボロボロになっていく。ルーティアが俺の身体を操作していた時とは違って明らかに【クレア】の動きは違っていた。

俺は【ルーティア】に身体を返すようにお願いをする。

「ルーティア、俺の言うことを聞けば君も無事に【クレア】から解放されることを約束するよ」と言うと【ルーティア】は自分の体の主導権を取り戻したのである。

それから俺と【クレア】は互いの武器をぶつけ合いながら激しい攻防戦を繰り返していた。

【クレア】の表情を見る限りではまだ何か奥の手を残しているように見える。

【クレア】の力の底が読めないが、俺に負けるようなことはないと思っていたのであった。

俺は【クレア】の力を利用してルーティアと入れ替わった後。【クレア】に向かって【光魔法】による攻撃を行い。それと同時に自分の姿を【ルーティア】の姿へと変化させるのであった。それから俺の放った攻撃は全て【クレア】に回避されてしまったのである。俺の【ルーティア】への姿を変えるという戦法が通用しなかったのだ。

「【アリサ】が言っていたが【ルティナ】の身体を奪った時に【ルーティア】に俺と同じことをしようとしたらしいが。やはり【クレア】に【ルーティア】の力は効かないってことだな」

「【ルティナ】の身体に【クレア】の魂が乗り移った時は驚いたけど。今更【ルティナ】の体を取り返したからといって私の目的は果たされているのよね」

「何が目的なんだ?」

「私にとっての一番の目的を果たすためには貴方の体が必要不可欠ということ。つまり、貴方を殺してしまえばこの世界も終わり。そして貴方と私の計画も達成されるの。さぁ勇者さん。早く死んでくれないかしら?私が勇者を殺したという事実だけでこの世界に平和がもたらされるわ。その功績を持ってこの世界に住まう人間たちは私を認めてくれるでしょうね。そうすることで勇者を倒した勇者として私はこの世界で崇められる存在になれる。その証拠がこの世界の住民全てが見ている前での殺害になるのだけど、この世界の住民がこの真実を知ることが無いから問題は起こらないはずよ」

【クレア】が言ったことは本当のことであると理解した俺は【クレア】がこの世界に何をしようとしているのかを理解してしまう。この世界に生きるすべての人が見ている前で、【アリサ】を殺すことによって世界を救う。そして【アリサ】を殺されたことで世界を救いに来た勇者を俺は殺めた悪の権化となることで俺は人々から英雄視されることになるのだと。そして【アリサ】を殺されることによりこの世界に存在する全ての生物がこの【クレア】によって救われることに繋がっている。【アリサ】の犠牲によってこの世界に住む人たちが救われるというのは許せない。【アリサ】はそんな風に救ってほしいと思っていなかったはずだから。

【アリサ】と【ルティ】は二人共俺にとってはかけがえのない大切な存在だったのだ。【アリサ】が死んだのならば俺だって生きていけなくなるのにそれを分かっていながら【クレア】は【アリサ】を殺そうとしているのだ。だから俺の心の中にある殺意は【クレア】に向けられることになる。しかし【クレア】はその俺の気持ちを読み取っているようで余裕な態度を見せてきたのである。そして俺が【クレア】に勝てない理由がもう一つ判明してしまった。それは、この世界に転生してきたばかりの時の記憶を俺は思い出したのだ。あの時は【クレア】の体を使って俺が戦っており【アリサ】と戦っていたわけではない。しかし今の俺は自分の意思では【クレア】の体を乗っ取ることはできないのだ。だからこそ俺にこの場で【クレア】を止める方法は存在しないのである。

【クレア】の言葉を聞いてしまった以上、俺も覚悟を決めなければならないようだ。このまま【アリサ】を見殺しにするぐらいなら俺がこの身を犠牲にして【クレア】を倒してやると思い、この場にいる皆を守るために行動しようと思ったのであった。

それから俺は【クレア】に勝つためにどうすればいいのか考えたのだ。その結果俺はこの村で得た力を総動員させて全力で戦い、【クレア】の力を封じ込めようと決める。だが、この世界が生み出した力によって【クレア】は生み出された存在であるため。その力を無効化することは容易いとは思えなかった。それに【クレア】はこの村の村長を簡単に殺すことができてしまうような化け物だ。普通の方法では彼女をどうにかできるとは思えない。そしてそんな【クレア】に対して俺ができる方法は一つしか思いつかなかった。俺がこの世界のために今まで積み上げてきた努力を全て費やしても彼女には届かないかもしれない。でもやらないよりかはマシだと思い。俺は【クレア】に向かって突撃することにしたのである。そしてその行動をとるとすぐに【クレア】は攻撃を仕掛けてきてしまい。俺が身に付けていた鎧が破壊されたのだ。

俺は自分の体を入れ替えようとするが。俺はある事実に気付かされてしまうのである。自分の肉体が【ルーティア】によって操作されてしまっていることに俺は絶望してしまったのだ。俺はルーティアと自分の体に起きている異変について調べようと考えるが。目の前には俺のことを嘲笑しながら攻撃を仕掛けてくる【クレア】の姿があるのであった。

それから【クレア】の猛攻によって俺の体は少しずつ削られていき体力が無くなっていってしまう。だが俺はまだ負けを認めるわけにはいかなかったのだ。俺はまだルーティアが生き返らせるために使った回復薬の効果が完全に切れていなかったのだ。俺はまだ負けていない。俺は諦めてなるものかと思う。そしてルーティアが俺の為に流し続けてくれている涙が地面に落ちていってしまったのだ。その雫が地面に触れた瞬間。地面に亀裂が走り始めると大地が動き始めてしまった。そして【クレア】の立っている場所にだけ大きな落とし穴ができていく。【クレア】はすぐに地面に落ちないようにと空に舞い上がった。だがその時にはもう俺の手の中に一つの玉が生成されていたのである。その瞬間。ルーティアと入れ替わったことで俺はルーティアの記憶を思い出せていた。そしてこの世界の地形がどういう状況になっているのかを理解することができたのだ。この村にたどり着いたときに俺は【クレア】の攻撃を受け止めた際に【ルーティアの記憶】を一時的に取り込むことになったのだ。それによりルーティアは自分が元々居た世界でどんな扱いをされているのかを知り悲しむと同時に【クレア】を倒すための手段を考えていた。ルーティアがこの村に来てくれたお陰で【クレア】に対する対抗策を考えつかれたのだ。

「ルーティアが俺の体の主導権を奪い返してきてくれれば」

「私はこの世界の人々の力を借りて【アリサ】さんを助け出します。そして、私と一緒に【クレア】の野望を止めてください」

「わかった。俺にできるのはここまでしかないから。ルーティア、後は任せたよ」

俺はそう言い残すと意識を失い【ルーティア】の体に魂を移すことになる。それからルーティアが身体の主導権を取り戻すために身体を乗っ取ろうとしたが。【クレア】はそうはさせまいと攻撃を繰り出した。その攻撃をなんとか防いだもののルーティアは劣勢になってしまう。

俺は意識を手放すことになってしまい【ルーティア】が自分の力で自分の体に戻るまで【クレア】と戦わなければならない。だが俺はルーティアと入れ替わり【クレア】に自分の身体が戻るまでにルーティアと入れ替わることができるかどうか不安になった。俺はルーティアが俺を想ってくれたからこの身体に【ルーティア】として戻ることができた。俺がここでルーティアにバトンを渡すことが出来なければルーティアは死んでしまう。それだけは絶対に阻止しなければと考えたのである。

そして【クレア】が【ルーティア】の身体に攻撃しようとした時に【アリサ】の肉体は光輝き始めて、この空間には光が溢れ出した。その光を見て【クレア】が戸惑っている隙を狙ってルーティアは自分の身体と【アリサ】が作り出した魂を融合させたのである。

「勇者よ。これで私の役目は全て終わった。お前に私と同じような運命を辿って欲しくなかったからこそ、私は自らの意志で命を捨てたのだ。私がこの世界に存在した理由はただ勇者に幸せになって欲しいという思いだけだった。それなのに私という存在がいなくなれば勇者が傷つく未来しか訪れなくなってしまうだろう。それは嫌だったからな。だからこそ、この世界は救われることになる」

そう言って【アリサ】は消えていったのであった。

それからルーティアの体が【クレア】に攻撃されたことによって壊れそうになる。それでもなおルーティアが耐え続けていた。しかし【クレア】はそんなルーティアのことを完全に消滅させようとしていたのだ。このままではまずいと焦りを覚えた俺の耳に【クレア】の言葉が届く。そして【クレア】の魂は俺と入れ変わると【クレア】の体が徐々に消滅し始めたのである。その様子を見た俺の口からは無意識のうちに言葉がこぼれ出てしまう。すると、なぜか【クレア】は微笑みかけてくれたのだ。

「やっと貴方も私の気持ちが分かってくれたようね」

「何を言っているんだ?」

「この世界に存在するすべての生物の魂は私の一部だということよ。そしてその魂が勇者の肉体に乗り移る。それが本来の私達のやろうとしていたこと。だけど貴方のおかげで魂を二つも手にすることが出来たわ。本当にありがとう。私の計画は成功したも同然よ」

「そうやって【クレア】はまた俺達を裏切るのか」

「えぇ。私はこの世界を滅ぼすわ」

「そんなことをさせるわけにはいかない」

「あらそう、なら勇者さんは今ここで死んで頂戴。そうすれば私は世界を救える。私は英雄になれるのよ」

そう言って俺を殺そうとした【クレア】であったが、俺のことを殺そうとした次の瞬間に彼女は自分の胸を剣のような物で突き刺したのであった。それによって【クレア】の命が絶たれてしまい俺は自分の目で見て【クレア】が死ぬところを確認できたのである。そして彼女の体は徐々に粒子となって散っていったのであった。こうして俺はようやく【クレア】を倒した。俺は【アリサ】が作り出し、ルーティアの力で復活したこの世界を守るために。俺は自分の力を限界突破してこの世界を破滅しようとする【クレア】を止めるために。俺の意識は闇の中に吸い込まれてしまうのだった。俺と【クレア】がぶつかり合い、俺が勝利したことでこの世界に存在する全ての生命は救われると思っていた。だがしかし。それは叶わなかったのである。なぜならばこの世界のどこかにいる魔王【リザラクト】によって滅ぼされてしまったから。【アリサ】も、【クレア】も【ルーティア】もこの世界を救うために力を使い果たしてこの世界を守ることはできなかったのだ。そして俺はそんな無残に滅びてしまった世界の中でただ一人生き残ることになるのである。

そしてこの世界の【ルーティア】に憑依している俺の前に一人の女の子が姿を現してきた。その女の人はとても美しい顔をしており年齢は俺とあまり変わらないように感じたのである。この人が誰なのか俺は不思議に思っていると、俺の目の前に現れた女の人は涙を流しながら声を出した。

「どうして?【アリサ】と私達が戦わなくても、勇者が頑張ってくれれば、この世界に生きている生物全てが救えたのに」

「俺は俺にできる最善の方法を選択したつもりだ。俺はルーティアの願い通りに動くことに決めたんだ」

「貴方が勇者なんだよね」

「そうだ」

俺は自分がこの世界で最強の人間だと知っている。だからこの女の人の問いに対して俺は即答したのである。俺がルーティアの肉体でこの世界を救った。その結果。俺の体に異変が起きた。俺の目の前にいる女性は涙を流しながらも嬉しそうな笑みを見せてくる。その顔を見ると俺はどうしてもこの女性の事を忘れたくないと思ってしまう。この女性のことを忘れない為にはどうしたらいいのかと考えていると。ルーティアの記憶が蘇ってきたのだ。

俺の視界に入ってきた記憶の中には【クレア】にこの村が滅ぼしつくされてしまっている姿が映し出されていた。この村の人たちも全員が殺されたのであろうか?そんな光景を見ているだけで俺は怒りを覚えていた。この村の人たちは全員良い人だった。この村の人々を殺した【クレア】が許せなかったのだ。この村の人々は俺と【ルーティア】のために色々と良くしてくれた。この村は俺たちの世界が作り上げたもう一つの異世界であり俺にとっては第二の家族と言ってもいいぐらいの大切な場所であったのだ。そんな場所で好き勝手やった挙句。この村の人達を殺すようなまねをした【クレア】の事を俺は絶対に許せない。そう思ったのだ。

それから【ルーティア】はこの村の住民達に自分の身体に【クレア】を封じ込めるのに成功したことを告げる。

そしてルーティアは【クレア】の力を全て封印することができているかを確かめるために、俺に肉体の操作権を譲り渡してくれることになる。その途端に俺の体に激痛が走り俺の精神は身体から切り離されていく。

俺は【ルーティア】の身体と入れ替わったことを確認するとすぐに行動に移る。この世界の人々に危険が迫っていることを知っている俺は【ルーティア】の記憶にある【クレア】が生み出した魔獣に殺される前に俺の力で倒すことにしようと思い【クレア】が作り出した魔物を一瞬にして倒した。すると村人たちが俺に向かって頭を下げて感謝の意を示してくれる。だがその時の【ルーティア】の顔を見て俺は何もできない自分の非力さに嫌気がさしてしまう。

(やっぱり俺じゃダメなのだろうか?)

俺にはもうこれ以上この村を【クレア】の配下から守ることはできないのではないのだろうかと思う。そう考えてしまっていた俺のもとに村の住人である女性が俺に話しかけてきてくれたのだ。

その女性はルーティと名乗り、【ルーティア】の母親なのだと言った。その瞬間にルーティアがなぜあんなに優しく穏やかな性格をしていたのかを知ることができたのである。この世界ではルーティアと同じような優しい心を持っている者などいないだろうと考えていたのだ。だけどこの世界にはまだルーティアと同じ心の持ち主がいるかもしれないと思い始めていた矢先に。俺はある疑問を感じ始める。この世界に存在している生き物が俺だけならばどうしてこの女性だけがこの村に辿り着くことができたのか?ということが不思議だった。それに気になってしまった俺は【ルーティア】の体に宿っている時に質問することにしたのだった。

それからルーティアの身体を借りることになった俺は。この世界に存在しているはずの生き物の姿を見かけていないことに疑問を感じていたため、ルーティアの母親だという女から情報を聞くことにしたのだ。そこでわかったことは俺がまだ遭遇していないだけの話だが、ルーティアのように魔力や魂を体内に保有することができる存在を感知する能力をもっている種族がいないという事を教えてもらったのだ。そのことからルーティアも魂を保有している可能性が高いと考え始めるようになるのだが今はそのことを考えている暇は無いと判断するしかなかった。そしてこの世界には【クレア】が作った魔獣が大量に存在していて【クレア】に恨みを抱いている者たちが次々と命を落としていってしまう。そんな現状を知っていて何もできない自分を責め続ける日々を送っていた俺に一つの光明が見えてきたのである。この世界を救う方法はこの世界に存在する【アリサ】という女神様が俺の協力者になってくれるというのだ。そして【アリサ】が作り出した精神生命体として存在する【ルーティナト】は俺の手助けをしたいとまで言ってくれるようになったのである。そんな話をしているうちに【アリサ】が作り出している俺専用の肉体が準備されていることを知りそれを有効に使おうと考えた。

それから【クレア】の魂を封じ込めている【アリサ】の作った俺専用肉体を、【アリサ】が作り出した【聖龍皇剣エクスセイバリオンソード 通称エクセス】の特殊能力を発動させてこの世界を救いたいと考えるのであった。その【クレア】の魂は肉体を失い。この世界の中で彷徨い続けていたのだ。

そんな【クレア】を【アリサ】と俺と【ルーティナ】の三人で肉体を復活させようとすることになったのである。そうすることで【クレア】の魂を封じている器を用意することに成功したのだ。それから【アリサ】に作ってもらった【ルーティアの魂】が入った容器と【クレア】の魂の入った【クレア】が使っていたと思われる【肉体】と融合した状態でこの世界の【アリサ】が作り出してくれた肉体に魂を移すことで【クレア】の魂を再び【アリサ】が作り出し俺が乗っ取ることで【クレア】を完全に消滅させることが可能になったのである。そして俺達は【クレア】の討伐にとりかかった。そうしてついに【クレア】を倒すことに成功する。俺はこの世界を破滅させようとする【クレア】を止めることに成功し安堵するのである。

そうして俺達の世界は【クレア】の手によって滅亡の道を進むことなく、俺と【ルーティア】が守り抜いたこの世界を、これからも守っていくことを俺は誓った。

そうしてルーティアの体を使って世界を平和にした勇者は【ルーティア】と共に旅立ったのだ。この世界には二人の勇者が存在していたが、一人はその使命を果たす為。そしてもう一人は愛する家族を守り抜く為に。勇者【アリサ】がこの世界で作り出した【アリサ】と【ルーティア】によって作られた二つの世界。そして勇者【クレア】が生み出した魔獣によって滅ぼされようとしていた二つの世界を守る為に、【ルーティア】の身体を使っている勇者は新たな世界へと旅立つ。

勇者は新しい世界に降り立つと同時に自分と一緒にいるルーティアの事を大切に思っていることを再確認することができたのである。なぜならこの世界に来る前からルーティアのことばかりを考えていたのだから当然のことである。だがこの勇者とルーティアは二人だけで行動することはなく。もう一人の同行者と行動を共にしていくことになる。その同行者は、ルーティアが作り上げた異世界でルーティアによって作り出された人物でルーティアと同じように、その肉体に別の魂を入れられているのだ。つまり、勇者はこの世界の創造神ルーティアと、ルーティアによって生み出されたもう一人の異世界の女性と力を合わせて魔王である【クレア】が作り出した【クレア】の眷属によって滅ぼそうとしていた二つのうちの一つの世界を守ることに成功したのである。

そしてもう一つの異世界を守ることができた勇者とルーティアは二人で協力して、この世界を守る為に、魔王【リザラクト】の力を借りることを決めた。こうしてこの世界の勇者とこの世界の魔王による力を合わせることによって。もう一つの世界にいる魔王【リザラクト】の呪いを解き放つために、ルーティアと【クレア】は協力することになるのであった。

それからルーティアが【リザラクト】の事を詳しく教えてくれる。まずはこの世界に存在している全ての生きとし生けるものに等しく死を与えることができると言われている【魔王】が作り出した【クレア】の部下の一人。その男が今現在【リザラクト】に掛けられている呪いを解くために必要な物を集めているというのだ。

その集めようとしている物の一つが【賢者の聖水】というらしい。【ルーティア】によると、この【クレア】から渡された世界に存在する三つの宝石の中に【リザラクト】の持っている【宝箱】のカギを入れると【クレア】から貰った指輪が光輝きだし、この世で最も美しいと言われる女性が姿を現して、その女性が俺と握手するとその女性から光が漏れだした。その時にこの世界に来てから一度も見ることがなかった俺とルーティアの【絆の証】が俺の左手に浮かび上がり、その浮かび上がった【絆の証】に吸い込まれるようにして消えたのを確認したのだ。

俺とルーティアがルーティアにこの世界を守って欲しいという願いを聞き届けてこの世界に来ているのだと改めてルーティアに告げられた。そして俺とルーティアがこの世界に来た理由がわかったのだ。

そういえば俺とルーティアの目の前にいるこの女性がこの世界で何者なのかを俺はまだ知らなかった。

「あなたは何という人なんですか?」

俺はそう聞くとルーティアは自分の事を、女神【クレアティアナ】だと名乗るのである。そのルーティアから聞かされた言葉に俺はもちろん、この世界の誰もが驚きを隠すことができないでいた。その驚きの中にはもちろん、ルーティアの本当の名前が明かされたことも含まれているが、それだけではなかった。

俺が知っているルーティアと言う名の女性は確かに【ルーティア】という名前で間違いないのだが。俺とこの世界の人間たちとの間には認識の違いがあるのだと思い知らされる出来事が起こるのであった。この世界に生きる人々は、ルーティアのことをこう呼ぶのだ。【ルーティナト】という名を、ルーティアの母親でもある【ルーティア】が名付けたルーティアの名を呼んだのだ。それは俺がルーティアと呼んでいるルーティアが【クレアティナ】の魂を持つルーティアであることを証明するようなものだった。俺にとって【ルーティア】と【クレアティナ】の違いを見分ける事ができるのだ。だがそれでも、目の前に現れた女性が本当にルーティアなのではないかと思う時もある。その女性の名前はルアンナという名前であり。

そして俺にこの世界を守る為に力を貸して欲しいと言ってきた。

だがこの世界の人達には力を貸したくないと思ってしまう自分がいたのだった。なぜならこの世界を壊そうとした人物がもう既にこの世にはいないとはいえ存在しているからだ。この世界を壊してしまった張本人でもある存在の力など必要ないと俺は思ってしまったからである。そしてその考えは間違っていなかった。ルアンナが言うにはこの世界はもうすぐ終わりを迎えてしまうのだということを聞いてしまったのだ。そして俺はこの世界を守ろうとするルアンと約束をする。もしもこの世界が【クレアティナ】に奪われそうになった時は、俺は自分の身を犠牲にしても【クレアティナ】からこの世界を守る事を決める。そして俺のこの世界を守る戦いが幕を開けたのだった。それからこの世界にやって来たルーティアと【クレアティナ】の娘である【リーティアナ】と協力して俺は【クレアティナ】が作った【クレア】の魔獣たちと戦う事になるのだった。

俺がこの世界を守る為の力を貸して欲しいと言われても俺は断るつもりでいたのだが。【ルーティア】と【クレアティナ】の娘。つまり、ルーティアの遺伝子を受け継いだ存在である【リーティアナ】と、ルーティアが作り上げた肉体と【クレアティナ】の肉体の遺伝子を引き継いだ娘である【ルーティナ】。そんな二人にお願いをされてしまい断ることができなくなってしまった。そして俺はその頼みを受け入れることにしたのである。そうすることでルーティアを守れるのであれば、俺には拒否することなどできなかったのだ。それにこの世界の人々のことを救う為にルーティアに力を貸すことにしたのである。

ルーティアに【クレアティナ】の記憶が引き継がれているのかを確認する。そしてルーティアは【クレアティナ】の事を母親だと認めたのだ。俺と【ルーティア】は、【ルーティア】の肉体の製で作られたこの世界で作り出された肉体と、俺と【クレアティーナ】が作り出している肉体が合わさった肉体を、この世界で作り出したルーティア専用の肉体へと【ルーティア】を移行させることによってこの世界に再び舞い戻ってきた。

その目的はただ一つ。この世界が【クレア】の手に渡るのを阻止する為だ。そのために俺は、【クレア】の作った魔獣と戦い続けるのだった。それからこの世界で知り合った人たちと一緒に行動して【クレア】が作った魔獣たちを倒しながらこの世界の人々を守り抜こうとするが。俺達はあまりにも強大な力を持つ【クレア】の前に敗北を喫してしまう。

それから俺と仲間達の力を合わせなければ倒すことはできないほどの圧倒的な強さを誇る魔王。俺達はこの世界を守るために。魔王の力を借りることにしたのである。だが、その代償は高くついていた。俺達は、魔王に忠誠を誓いこの世界の魔王である魔王【クレアティーナ】と契約を交わした。その結果俺は魔王の配下として戦うことになることになったのだ。

この世界の人々を護るために魔王である【クレア】に協力をしたはずだった。なのになぜ魔王に協力して戦わなくてはならないのだ。そう思いながら俺はこの世界の魔王である魔王【クレアティーナ】の力を借りることによって、この世界の【クレア】の眷属である【リザラク】という魔物を倒すことに成功する。

だが俺は【リザラク】を倒すために、この世界の【クレア】が作り出した魔族の一人が作り出した魔道具である【聖剣デュランダードソード 通称デューダレット】を使い。【リザラク】の体内の中にある核を破壊したのだ。俺はその瞬間に俺が倒さなければいけない相手が【リザラクト】だと理解する。そうして、この世界に新たにやってきたルーティアと共に【リザラクト】を探し出すことに成功。そしてこの世界では最強の種族と言われる竜人である【アルクドラ】族の力を借りて【リザラクト】の居場所を特定することに成功したのであった。

それからルーティアと俺は【リザラクト】がいるとされる大陸へと向かうのであった。

俺は目の前にいる女性が、本当に【クレア】ではないと思いながらもその女性の名前を口にする。すると目の前にいる女性が、ルーティアであると告げてきたのだ。だが、その女性は、自分のことを、ルーティアであると認めつつも【クレア】と名乗っている。

目の前にいるルーティアを名乗る人物が自分の事を、ルーティアではなく【クレア】と名乗り続けている理由を考えているうちに俺とクレアさんとの間には少しばかりのすれ違いが生じていると気付く。

この世界が俺と【クレア】が作り出してこの世界の魔王となった人物によって滅ぼし尽くされる運命にあるというのを知ったのは。俺と【クレア】の娘であるリーティアナから話を聞いたからである。その話の内容によるとこの世界は一度滅ぼされかけているのだという。その滅ぼされかけていた世界を救った英雄こそルーティアだった。この世界で最強だと言われていた勇者よりもさらに強かったというルーティアはこの世界が滅びる原因になった一人の魔王をたった一人で倒し世界を救い出したのだという。それからこの世界の人々は【クレア】という勇者の存在に救われる事になる。

俺達がこれから行く場所は、そのルーティアが魔王と化した元凶とも言える人物が眠っている場所である【大墳墓】と呼ばれている場所らしい。その大墳墓を探索していた冒険者達から聞いた噂では、この世界にかつて存在したとされている魔王の一人【邪神リザラクト】という者が眠っていたのがその大墳墓だったという話だ。

そう、ルーティアの話によれば。その【リザラクト】という魔王はかつて存在していたと言われているが。ルーティアとリザラクトの手によって討伐されて今はこの世界からその存在は消滅しているという。だからこそこの世界に新たな【リザラクト】が生まれてくるはずがないらしいのだ。だからルーティアはその【リザラクト】は別人だという事を証明する為に【クレア】と名乗ったのだという。だがそれでも目の前にいるルーティアと名乗る女性が、俺がこの世界に召喚される前に一緒に暮らしていた幼馴染の【ルティナ】にそっくりなのである。俺がこの世界に呼ばれた時にこの世界を守って欲しいと言っていた少女がルティナだったというのを改めて知る事になったのである。俺と【ルティナ】との思い出が頭の中に次々と流れ込んできたのだ。だがその懐かしい記憶の中で、俺とルティナの間に流れていた時間の流れが違ったのだと感じたのである。俺の知っているルティナの時間の流れとは違い俺の感覚で言えば一秒程度しか経過していなかったはずの出来事も俺がこの世界にやってきた時の時間の速さを考えると最低でも百倍以上の年月が経過していたように感じられたのである。

そして俺はその違和感を払拭できないままその大墳墓に向かって歩き続けていた。そういえばこの世界で暮らしている人たちは皆その見た目で歳を取ることはないということを聞いたことがある。

「それってどうなっているんですか?」

俺は不思議そうにしていると【ルーティ】が、俺の質問に答えてくれたのである。その話を詳しく聞くとこの世界には様々な生き物が存在していて。その中には寿命が存在せず。老いによる死が訪れることも無い【永遠種】と呼ばれる存在達が存在しているのだと。

だがこの世界の人々に【永遠種】と呼ばれて崇められ、敬われている【永久種の者】も存在しているらしい。この【ルーティ】もその一人で。この世界の創造主でもあり支配者でもあったルーティアが作り出した存在だと説明してくれたのだった。

そうしてルーティアに色々と聞いてみると俺がいた世界とは違うことがいくつも存在することを理解する。その一つとして、まず最初に、俺はこの世界でルーティアのことをルティナと呼ぶことにしていたが。【ルティナ】という名前は、俺の世界の人間には発音することができないらしく、ルーティアという名前を呼ぶ時は【ルーティ】という言葉になるみたいである。

次にこの世界の魔法に関しての説明を聞く。そして、この世界に存在するほとんどの人間には【魔法の才覚】というものが備わっているらしい。その才覚には種類がありその才覚によって使える魔法の属性が決まるというのだ。そしてその属性というのはこの世界の住人には大きく分けて四種類存在するという。その四大魔法と、光と闇の二極の魔導師に【古代魔法】と【固有魔法】が存在しており。

それぞれを扱える人は、その属性を扱える中でもごく僅かであるという。その四大魔法が火と水と風と土であり、それ以外のものはその適性があっても使えないという。またこの世界には存在しないが。ルーティ曰く俺やルーティが住んでいた世界で言うところの雷属性と似たようなものである【エレキ】というものがあるのだとルーティが教えてくれる。

この世界にも【エレクター】と呼ばれるものが存在していて、それはこの世界特有の生物なのだと教えてくれた。だが【エレクター】については詳しくは知らないのでその詳細を教えて欲しいと言ってみたところ、その詳しい内容を語ってくれた。

そしてその【エレクター】というのがルーティアにとっては、とても可愛い存在でペットのような存在なんだと楽しそうに語りかけてきたのである。それから俺はその【エレクターラプソディア】について尋ねてみると【エレクターラプンツ】という名前で【ルーティ】が名付けた名前だと言われ。その名前は、【ルーティア】が初めて出会った時にルーティアに優しくしてくれて可愛がってもらえた存在だと、嬉しそうに語るのだった。そしてその【エレクターラプソディア】はルーティアにとっての初めてできた友達だったらしい。その【エレクタラプン】の名前はルーティアのお母さんが付けたんだとも、ルーティアは言ってくれる。

それから【ルーティ】からこの世界で暮らしていくために必要な知識などを学びながら進んでいく。だが俺の中にはずっと気になっていることがあった。それは俺がルーティアと出会った時。ルーティアの瞳が一瞬赤くなりそして元の青色に戻ったという事だ。その事をルーティアに尋ねるのだが。まだルーティアは話すことはできないらしい。そして俺は、この世界を救うことができたとしてもその先も俺はルーティアと一緒に過ごすことができるのか不安になってしまう。

そんなことを考えていると。俺は自分が今何をすればいいのかわからなくなってしまい。これから何を目標にこの世界を救えばいいのだろうかと考える。

だが俺は、ルーティが俺に対して【魔王の眷属が作り出した魔物の核を破壊したのは間違いなくあなたよ。あなたはもうこの世界において英雄の一人と言えるほどの存在を証明したわ。だけど安心しなさい。私が、必ず世界を守って見せるから】と言ってくれた。

俺は、ルーティの言葉を聞いてこの世界の人々を守るために戦うことを決意する。

俺は、ルーティアの力によってこの世界で英雄だと認めてもらい。俺はこの世界で、ルーティアが魔王と化した理由である、【魔王リザラクト】が作り出し。この世界を滅ぼすために作り出したという魔道具【魔道具】と【魔核】と戦える力を身に着けることに成功した。俺はこの【クレア】と名乗る女性が【リザラクト】だと確信した。俺がルーティアだと信じている【クレア】は俺に【聖剣デュランダードソード 通称デューダレット】という剣を俺に渡してその剣を扱えと俺をこの世界に呼び出してからこの世界を守るために協力しろという理由を付けて俺とこの世界に暮らす人達を守ろうとしてくれたのだ。だからこそ俺は、【リザラクト】に操られて【リザラクト】が作り出した【魔道具】を使いこの世界を襲う魔獣たちと戦おうと思う。

そう決意をした俺は、ルーティアがこの大墳墓へと続く門を開き中に入ろうとすると、【リザラクト】は【大墳墓内部】にいると思われると言ったのだ。俺はそのことを疑問を抱きルーティアに確認する。すると、リザラクトの魂が眠る場所は大墳墓の内部に存在している【邪神の墓守石】と呼ばれている宝石の中にあるという。

この【ルーティ】と名乗る女性は【邪神】と呼ばれている。邪神は遥か太古の昔から存在していたという神話の種族であり。かつて世界を滅ぼしかけたとも言われている邪悪なる存在であるらしいが、今の俺から見るとその話を信じろといわれても信じられなかった。なぜなら俺の前に姿を現してその話を語るルーティアの姿に嘘偽りがないと思ったからである。だがそれと同時に俺はこの世界を救うために戦うことを改めて心に誓うのであった。【リザラクトを倒さなければ本当の意味で救われることは無いだろうからな】と思いながら─── 俺はリザラクトを倒す為の準備を整えていたのである。この大墳墓に入るためには【邪神の石板】と呼ばれるアイテムが必要らしく、それを大墳墓内に入って入手することが必要であるようだ。そのアイテムを手に入れるためには冒険者ギルドでクエストを受ける必要があると教えられたので冒険者になることに決めたのである。そして俺は冒険者登録をする為に冒険者の街と呼ばれる場所に向かう。

冒険者の街に到着するとそこは冒険者が大勢おり、この冒険者達の集まりこそが冒険者と呼ばれる人たちが集まる街だということを認識するのだった。俺はその中を通り抜けると、受付の場所を見つけそこにいた人に話しかけると。この冒険者の街は初心者冒険者が利用する場所で、冒険者はこの都市の冒険者に認められた冒険者で無いとこの場に立ち寄ることは認められないという事を知ったのである。だから冒険者になってこの世界を救うためには、この都市のランクの高い冒険者から認められるような実績を残さなければならないのだと分かった。そうしなければ、この世界の救世主として認められず。リザラクトを倒した後、この世界に俺達を呼び出した人物が俺達にどんな見返りを与えるのかという保証もないという事になるのだと。だから俺はこの都市で実績を積み。その上位に上がる必要があったのだ。だがこの世界の救済のためにこの世界に来てくれた俺の大事な家族であるルーティを元の世界に帰すにはこの世界を守り。リザラクトを倒してルーティが本来暮らしていた場所に無事に帰れるような状況を作り上げる必要があると考えたのだ。そうすることでようやく俺は元の世界に戻れるのではないかと俺は思ったのである。

俺はそう思いこの世界の人々のため、この世界の人々を幸せにしてあげたいと改めて強く思う。

それから俺はルーティアからもらったお金を使って【冒険者カード】という物を発行してもらう。そしてこのカードは【レベル】と【スキル】という数値が表示され。更にはステータスと、俺自身の強さが分かる優れものだった。

まず俺はこの世界の人間じゃない。だから、この世界に来てからはレベルが上がることもなく。この世界に来る前の数値で俺の強さは固定されていたのだが。俺には俺自身が強くなっているのか弱いのか分からなくなっていたのである。だが、この世界に俺が来たことによって【ルーティの呪い】が解けており、俺自身はルーティの力を借りずに自由に動くことが出来るようになった。そうする事によってこの世界の人々の力になれればいいと考えていて。そのためにもこの世界の人々と仲良くして信頼を得る必要があると感じたのである。

俺はルーティと一緒に行動することを決めたためルーティと一緒に行動することにしルーティにこの世界を案内してもらうことにしたのだ。その時に冒険者の仕組みや常識を教えて貰いこの冒険者の街の事も教えてもらったりして情報を集めていくのだった。その時に知ったことが幾つかあるのだが、どうやら俺は冒険者として登録できるギリギリ年齢だったらしいということや。冒険者には階級があるらしい。それは上からSSS級冒険者とS級冒険者であり。S級以上の冒険者は、国からの依頼が受けることができるということを知った。それからこの世界で確認されている最高級の金属【ミスリル鉱石】というものはこの世界において貴重なものであり、そしてそれを持っている人物は一人しかいないということをこの世界で初めて知るのだった。その人物はこの世界最強の称号を欲しいままにしている人物【聖騎士アルフ】という人物だという事を俺が知っている限りではあるが説明してくれた。

その話を聞いた時。俺はルーティに質問をすることにしたのである。この世界になぜ最強の剣士や魔法使いがいないのにこの世界で最強とまで呼ばれているのは何故なのかと、ルーティはその事に答えるようにこう答えた。【この世界に存在する英雄の中でこの世界に存在する全ての武器を極めたと言われるほどの使い手であると。その人が【伝説の鍛冶師】と呼ばれているから。この世界は英雄を生み出す世界と言われているの】という風に言ってくれた。

この【ルーティ】は本当にこの世界で英雄として扱われているのだと俺はそう感じたのである。そして俺自身もこの【ルーティ】のように強い心を持ってこの世界で頑張ろうと思う気持ちを強く持った。俺はルーティアが言う通りこの世界を救うためにも自分の命をかけてこの世界を守るために戦い続けるのである。

ルーティアと共に行動を開始した俺は、ルーティアに冒険者が主に受ける仕事は何なのか聞いてみたところ、ルーティアが教えてくれた。それはルーティア自身が冒険者をやって体験したことを俺に伝えてくれただけに過ぎない。この世界での【ルーティア】という女性は有名な存在であるが。他の世界でどのように有名になっているのかは不明なので、この世界でどういう存在だったのか分からないのも事実だ。だからこそ俺はこれから【ルーティア】と言う女性が俺と同じ名前を名乗っているという事を利用して活動しようと考える。

「ルーティさんはこれからどうするつもりなんですか?」

その俺の問いかけに彼女は少し考えた素振りを見せるが、直ぐに考えをまとめてくれる。

そして彼女が答えたことに俺は耳を疑った。

『そうね、この世界に私の名前と容姿で現れているということは、私と同じような能力と力を持つ何者かがいるということになると思うのよね』

俺には、彼女の言った言葉の意味がよく理解できなかったが。この世界に何かが起きようとしており。その状況を変えようと動いている者が、俺達の敵となり。この世界に現れようとしているのではないかと考えていた。

そして俺は、このルーティアを名乗る【女性】が、リザラクトの手によって作り出された人なのかどうかを確認する。

だが俺がいくら彼女に確認しようとも彼女から帰ってくるのは曖昧な返事ばかりだったのである。そんなやり取りをしていたときだ。この世界に何が起こっているのか。この世界では一体何が起ころうとしているのだろうか。それを知る手がかりとなる人物が目の前に現れたのである。

俺は、この世界の救世主として召喚された少年が【邪神リザラクト】を封印するためのアイテムを手に入れて。この世界の危機を救えるような英雄に成長したという。俺に取っては非常に重要な情報を耳にして俺は思わず驚いてしまった。

俺はその話を詳しく聞くためにその冒険者と思われる男性に声をかけた。その冒険者の名前は【シンディ】と名乗ったのである。そして俺は【この冒険者の街に最近やってきた冒険者でルーティアという名を持つ女がここに居たりしないか】という問いに対して、この【シエンナ】は驚いた顔をして、【あの人は、ルーティさんの知り合いなの? ならルーティさんと一度会って話しをしてほしいの。ルーティさんの様子がおかしかったのよ】という返答をしてくれたのだ。

やはりルーティアと名乗る女性が、この世界に存在し。しかもこの世界に異変が起きていると確信することが出来た。俺はそう思った瞬間。この世界の人々に危険が迫っていると知り俺は、自分がこの世界に来たことでこの世界に平和を取り戻す為のチャンスが訪れたと思い。この世界を救うためならば何でもやる覚悟を決め。そしてこの世界を救うためにリザラクトを倒すことを決めるのだった。俺はまず、この世界で起こるはずのない異常事態がこの世界で起きようとしていることを知り、リザラクトが生み出した魔族達との戦いが始まる前にリザラクトを倒す必要があると感じていた。だから俺はこの世界の救世主となったルーティという女性の力を借りて、この世界に脅威をなそうとするリザラクトと戦うことを決意するのである。

だが俺はリザラクトがどんな奴かもわからない以上、この世界での知名度を上げなければ戦う事ができないと思い俺は、まず冒険者になりレベルを上げてステータスを向上させることを優先させることにする。俺はそう決めると、冒険者になる為にルーティアに紹介してもらい、受付で手続きを行い冒険者カードの発行を行うと俺は冒険者の街と呼ばれるこの場所で活動することになったのだった。

そして冒険者になるために冒険者登録を行った俺はこの世界での自分の実力を把握することにしたのである。俺が使えるのはルーティアの加護の力だけであり、それ以外の力で俺の力が通用するかどうかは不明だった。それに俺自身の力はレベルが低くても、レベルが1億を超えていればそれなりにステータスは向上していたはずだが。この世界に来てから一度もレベルが上がった感覚がなく。レベルは100前後しか上昇していなかった。俺はそれが不安でしかなかったのだ。だが、ここで冒険者として活動することにより、俺は強くなっていくはずであり、最終的にはレベル1000の力を身に着けることが、世界を救うための近道なのだと考える。俺はそう考えると、ルーティアの加護の力を使いこなし。冒険者ランクをあげることを優先することにする。だがこの世界での冒険者は最低のランクGランクの冒険者からスタートすることになってしまうのである。俺はこの世界で強くなる為にこの冒険者に登録してこの世界で名をあげようと考えている。この世界の人々の為に俺は頑張りたいとそう思い俺は、冒険者として活動をしていくのであった。

俺がこの冒険者登録を行うために冒険者ギルドに向かう。この冒険者街は冒険者の活動拠点となっており。この街のギルドに登録している冒険者は全員Aクラス以上の実力を持っている冒険者であると言われている。つまりはここの実力者が冒険者達の中では上位の強さを誇ることになる。だから俺のような子供が、この場所にやってきたという事で、俺が弱者にしか見えないらしく俺が子供だというだけで見下した態度を取ってきたのだ。

「おいガキ。ここは子供の遊び場じゃねえんだよ。今のうちにママの元に帰りやがれ」

「うっせえぞこのくそ野郎が! このお方が誰なのか知らねぇようだから俺様が特別に教えてやらぁ。よく聞きやがれ!」

その男に向かってルーティアの口調で俺がそう言い放つと俺の前にいた男は目を見開いて驚くと。すぐに俺に謝罪をした。

だが俺の後ろにいた女性二人が騒ぎ始めると。ルーティの姿をした俺に喧嘩を売ってきたのだ。俺はそれを見ても動じることなく。その二人に話しかける。

俺に話しかけてきた二人は双子であり。名前はそれぞれ【ラティ】と【ラミリス】と言いこの都市にいる有名な双子の姉弟だったのだ。この双子の噂を聞いているが。冒険者の世界でもこの双子の姉の方が圧倒的な力を持っていて、弟はこの世界に存在するどの魔法よりも強いとされる属性魔法の使い手と言われているほど優秀な魔術師だった。だからこそ、冒険者の中において【賢者の姉】と【大魔術士の弟】は最強の兄弟として名前が知れ渡っている存在でもあるのである。そんな有名どころの兄弟と揉めればどうなるのか分かっているのか。そんな風に言われた。俺はそれでも特に動揺する事なく、ただ目の前の人物達を見て思う事は、こいつらは本当に自分達が強いと勘違いして生きている連中のようで、こんなところで遊んでいるようなやつらがルーティアの加護の力を使えば一瞬で終わらせることができる程度の力しかない相手である。だからと言って俺はその事をわざわざ口にするようなことはしなかったのだ。

「あんたらみたいな三下に私が興味があるとでも思っているの? はぁー本当に馬鹿な連中で頭が痛いわね。いいわ貴方達は私達が相手にならないから。早く消えなさいよ」

俺がそう言うと、ラティはルーティアの顔を見ながら笑みを浮かべると、ルーティに対して勝負を申し込んだのである。それに対して、ラミリスも同じ様にルーティアに戦いを挑んだのだ。その結果、結果は見えていた。俺が【ルーティア】を名乗ることによって【ルーティア】という英雄がどれだけ有名で強い存在か知っているものならばこの双子も俺を襲おうなどとは考えないだろう。俺に絡んで来たこの双子の目的はルーティアと戦い勝つ事だけだろう。俺もまさか【この世界】では俺に絡んで来る存在がいようとは思っていなかったのだが、この【ルーティ】の姿になっていることでこの世界は俺に敵対しようとしてくる者が現れるかもしれないと考え。これからの行動を考えていくのである。そしてこの世界に【リザラクト】という魔族が現れて。俺達の世界を滅ぼそうとしていることをこの【ルーティア】の名を利用しながらこの世界に危機が訪れる事を伝え、この世界に住まう人達に俺に敵対することがどれほど危険なことかを知らせ、俺に協力してもらえるように頼む。そして俺はこの世界で最強と名高い【賢師の弟子】と、【大魔術士の弟】と言われるほどの力を持つ双子を軽くあしらい【ルーティア】が如何に強く恐ろしいかを見せつける。俺の予想通りにこの世界の住人達は俺に協力してくれそうな気配を見せた。だがそこで問題が起こったのである。俺達の話に割って入るようにこのギルド職員と思われる男がこのギルド支部の責任者として、ギルド本部に俺のことを報告しても良いのかと聞いてきたのである。俺は正直言って困った事態になってしまった。この世界で俺の存在を公にし、さらにこの世界の人々に協力してもらうためには、俺の名前と顔をある程度は公表する必要があると思った。俺は【ルーティア】としてこの世界では活動していくことになるが、本名をこの世界で明かしてしまった場合は、この世界では俺の存在は悪評となってしまう可能性があると考えたのである。

この世界の人々はリザラクトを信仰している。だからリザラクトが生み出す魔族は人々にとっては邪悪な存在である為、リザラクトが生み出した魔族と戦う俺の存在が、リザラクトが生み出した存在と同等だと認識されかねない恐れもあったからだ。俺としてはそれはまずい。俺には魔族に対抗する為の力を手に入れる為。俺はどうしてもリザラクトと戦う必要があった。俺はこの世界を救うために絶対に戦わなければならない敵がいる。俺にとって一番の邪魔になるのは、俺が倒したいと思える敵である。俺は、この世界の人々の味方となる必要がある。そして、ルーティアとして行動している時に、ルーティアの名が傷つく様な行為は慎むべきなのだと理解できた。だが俺は、この世界に来てまだ何も成し遂げていない。

それなのに俺の名前を世間に知らしめてしまうというのは。俺自身納得できない部分が多々あるのだ。俺は、俺が本来なるべき姿を取り戻せる日を待っている間に、この世界で【俺がなれる最高の英雄像】を目指していくことを決めるのだった。俺に【リザラクト】を倒すという目的が定まった瞬間だった。

この世界の人間であるルーティが、自分の正体がこの世界の人間のルーティアだと名乗り。俺が元々、この世界を救う為の勇者だったとこの世界の人に教えた瞬間。冒険者の街と呼ばれているこの冒険者街に、大きなざわめきが起きた。そしてこの冒険者ギルドで働いているこの冒険者ギルドのトップが俺に近づいてきたのである。その人物は、見た目から判断するに四十代半ば程の人物だった。彼は、冒険者カードを発行する窓口の横に設けられている応接室へ、この世界を救うため、俺の手伝いをしてほしいという申し出を受けてもらう為に向かい。そして、この世界で起こっている異変について説明を行う。この世界の魔族達の存在とその目的を説明すると、ギルド長は俺の説明をしっかりと最後まで聞くと俺に向かって言ったのである。

俺がこの冒険者の街に来るまでの事を、俺はこのギルド長に伝えたところ、俺は冒険者カードを発行され。ランクAのカードを手渡された。このカードは、Aクラス以上の冒険者にのみ与えられる物らしく。ランクAは冒険者の頂点を示す。つまりは俺の実力を認めてくれたと言う事だった。そして、ギルドマスターはこの世界に起きた異常現象の調査を行ってくれる事になった。その異常の起きている場所は。この世界で【勇者召喚】が行われようとしていると俺に教えてくれ。俺もそれに同意した。だが俺はその調査をするよりも、【この世界で自分がやろうとしていることに、協力者を集めるために】ランクSの実力を身につけなければならないと思い。俺は【賢者の試練場】に向かう事にしたのである。

俺は賢者の加護の能力で、賢者の力を手に入れたのだが。この世界で賢者の力を使うのなら、賢者としての修行をしなければならないと考えていたのだ。だから賢者の試練場に向ったのである。この賢者の試練場で俺はレベルを上げて、賢者のスキルを身に付ける必要があると判断した。俺は、【この世界の魔族を駆逐するために】この【この世界の人々を救おう】と考えている。

そして、俺はこの賢者の力で世界を救う力を手に入れる。その為にもレベルを上げる必要性があると感じ。俺はこの世界の危機を救うため、ここでレベルを上げようと思っている。それには、俺と一緒に世界の為に戦ってくれる存在が必要になってくるのは当然の事なのだから。だからこそ賢者の力を使って強くなっていく必要がある。俺はそう考えた。そして賢者の力を鍛える上で、俺はルーティアの力ではなく。【俺】としての力を磨きたいと思っていたのである。なぜなら俺が目指す理想の英雄とは。本来の自分としての姿を取り戻してからこそ。俺は、本当の意味で強いと思える存在でありたいと考えているからである。ルーティアはルーティアである俺なのだから。だから俺が目指したい姿がある。

【俺】がなるべき英雄の姿。その【俺】は【この世界にいる人々から認められる強さを持つ者】になりたい。その思いを抱きながら、俺は【賢者の試練場】でレベル上げを開始することにしたのである。

俺は、この【ロード】と名乗る人物が俺に向かってそう問いかけてきた時。

彼女はこの世界で【ロード】の名を名乗ったのだ。

この名を知っているものは【この世界で生きる者達の中でも、極僅か】しかいないはずだが、彼女は【その名前は偽名】であり。

本当は【別の名前】を名乗り。【別の名前で生きてきた】のだと俺に伝えてきたのである。そんな事はあり得ない事であり。彼女の言っていることが事実であるならば、【この女性にそんな事は不可能に近いこと】であったはずなのに。彼女からは確かに【俺と同じ匂い】が漂っていた。

(まぁそうだよな。こんな【力】を持った存在がこの世界に現れるわけがないよな)

『貴方はもう気がついていたみたいだけど。私がルーティアだって言っても驚かないみたいね』

俺の表情を見た女性はそう言い。そしてルーティアの姿に変身していた女性の瞳が、【赤い輝き】を放ち始めた。その途端俺は、【何か】が自分の中に入り込んできたような感触を感じたのだ。だが俺は、それを不快に感じる事はなく受け入れてみることにする。この女性が何者かは分からないが。今俺に出来ることは、目の前にいるルーティアと名乗った女の話を信じる以外に選択肢がないだろう。

「あんたの言葉を素直に信じてみる事にするよ。それで、あんたがルーティアじゃないとしたらあんたらは一体何者なんだ? ルーティアじゃなければ、この世界には、ルーティアとあんたらの他にも別の存在がいるって事になるよな?」

俺の質問に対して目の前の女性は、少し間を置くと、口を開き語り始める。

『私の本名はリザラクト。魔族の王にして魔王の称号を持つ魔導を極め。全ての魔法の始祖と呼ばれるほどの偉大な魔法使いで、そして私達の世界の管理者でもあり。魔導士ギルドのトップでもあるリザラクト=マクス=アルフラートがこの世界に【この世界の管理権限を譲渡する代わりに、リザラクトを滅する事】を条件に】契約を行い生み出された最強の存在であるわ。そしてその隣に立つこの子がこの世界の【大魔術士ルーティア】ということになっているんだけど、この子の言うことを全て真実と受け取って良いのか判断に迷っているって所かしら。それとこの子は、ルーティアと名乗っているけど。本当は違う名前なの。私はこの子の記憶の中からルーティアという名前を探り当てることに成功したけど。ルーティアっていう女の子は存在しないのよね。

そもそもその記憶の中には私に良く似た少女が存在していたらしいけれどその子の素性は全くわからない状態になっていたのよね。ただわかることがあるとするのならこの子が、ルーティアを名乗るようになってから【何故かしら】リザラクト様の様子が変わり始めてね』

そこまで聞いたところで俺は思わず言葉を漏らすようにつぶやく、「なるほどな」と

「どういうことだ? まさかルーティアの正体をお前は知っているのか?」

ルーティアと名乗っていた女性に俺はそう尋ねると。ルーティアと名乗った女は首を縦に振ったのである。

「なっ、それって本当なのか! リザラクトって言ったよな。それって魔導を極めた最強の魔法使いって奴の名前だよな? そのリザラクトと契約をして作られた存在って事は。あんたとルーティアとリザラクトは知り合いだったてことになるんだよな? いやでもそれはおかしいんじゃないか? 俺は魔族とかの存在を知らないんだが、俺の世界でも、この世界でも【魔族は人類に敵対的な魔物】という認識になっているぞ? なのになんでルーティアをリザラクトが作り出しているんだよ。それこそあり得ないだろう!」

俺がこのリザラクトに抱いた疑問をルーティアと名乗った女性にぶつけると。その言葉を聞いてリザラクトは苦笑を浮かべたのである。そしてルーティアは俺にこう言った。

「その通りよ。本来、魔導は【魔法とは違うもの】であり。魔導を扱う者同士は互いの正体を隠し。決して互いを信用せず敵対する。それが本来のこの世界のあり方だった。その考えは、私たちの【リザラクト】も同じ。しかし【例外的な存在がいたのがこの世界のリザラクトだった】の。リザラクトは元々【魔法の研究をしていた学者でもあった】の。この世界で起こる様々な事象の解決の為に自ら研究を重ね、【自分の生み出した魔道具】を利用してこの世界に降り立つようになった。その結果が今の魔族という種族の始まりなのよ」と俺に教えてくれたのだ。そこで俺は思ったのである。つまりルーティは自分の意志に関係なくリザラクトによって作られてしまったのではないかと。

「ちょっといいか。あんた達がこの世界で行っている事は分かったし。そういう事なら、リザラクトがどうしてそんな事をしたかも理解できた。だけどそうなると、あんたらはどうやってこの場所まで来たんだよ?」

俺のこの言葉を聞いた二人の女性はそれぞれ顔を見合わせると言い辛そうな態度をとる。そして最初に声を発したのはリザラクトと名乗る女性であった。

『貴方に嘘をついても無駄だから、正直に話しておくわ。まずこの世界では【ルーティアと私】以外はこの【ロードの試練場】に入ることが【できない】ようになっているのよ。そして、この空間に来るための入口はこのルーティアにしか作る事が出来ない。そのルーティアがこの試練場の【扉】を開く事を拒否した場合は。私達はこの【ロードの試練場】に足を踏み入れる事が出来なくなってしまうの。そしてこの試練場に入れる人間は、【ルーティア】【賢者】の資格を持ち、この世界の為に【何かを成したいと思う者】だけがこの試練場に入る事が出来るのよ。ここまでの話を聞く限りでは【この試練場は、勇者の試練場ではない】と言うことは理解できるでしょう?』と、リザラクトはそう言って俺の顔を見たのである。

この世界の魔族について俺はまだ詳しく知らない。だからこそ魔族についてもこの場でしっかりと確認する必要があると感じたのである。だから俺が「ああ、そうだ。確かに俺の世界には【魔族は存在しない】存在なんだが。あんたらは俺に【魔族が人間を襲う理由は分かるか?】俺達の世界だと、魔族や魔人は悪者として考えられているんだが、そいつらの行動原理を知りたい。それにはやっぱり本人達に聞かないと駄目なんじゃないか? 魔族が人を殺す理由について俺はその理由が知りたい」と言ったら。リザラクトとルーティアは少しの間無言になったのである。

(この二人が何かを言い出す前に、俺から何か質問をするべきなのか?)と俺が思案し始めた時だ。二人はお互いに目を合わせるとルーティアの方が先に口を開けたのである。

「【ロードの試練場に訪れることができる者の中で、最も強くなければならない】と言われているからこそ、その強さを確かめに来たのがリザラクトなの。リザラクトの目的は、ロードがどれだけの強さを有しているかを調べるためにやってきたって訳。だけどリザラクトは、ルーティアの作った入り口から試練場に入り込むことはできなかった。だからこそ、リザラクトは別の方法で入り込もうとしていたの。その時に、【ある人物の存在】と【とある魔道具】が手に入った事でこの世界に新たな魔族が誕生した。リザラクトはその魔族の長であり最強の魔導士。私に負けないほどの強力な力を持つ存在で、私がこの世界に現れるまでは、私以上に優秀な魔導師だった。

リザラクトの【目的は、この世界のバランスの崩壊を未然に防ぐ為に必要な【魔導士としての力を持った子供を作り出せるように】魔族を生み出したいと思ったから】というのがこの世界を魔族が襲撃するようになった理由ね。

それと魔族を生み出している原因なんだけど。この世界の管理権限を持っているのは【ロードとルーティアの二人だけ】なのよ。だけどルーティアはリザラクトとの契約を解除する意思がなく、ルーティアに【力ずくでリザラクトを倒して、管理者の座を手に入れるつもり】よ。そうでなければ管理者になんてならない。そのルーティアが管理者にこだわる理由がリザラクトを消滅させる事で得られる【特別な力】が欲しいからだと思っている。私に勝てなければ、ルーティアは力を得ることができないと考えているの。だからルーティアは管理者の地位を得る事よりも【自分が一番強くなることを優先して、他の者達のことはどうでもいいと考えている節がある】の。この考え方の違いのせいで、【リザラクトが作り出した魔族は、自分達の目的を成し遂げるために、人間を虐殺し始めている】ってわけなのよね。これが魔族の行動の根底にある理由よ」

リザラクトの説明を聞いていた俺は思わず口を挟んでしまったのである。

「ちょとまってくれ! それってつまりはどういうことなんだ? 魔族が暴れまわっている理由は理解できた。だけど俺にはあんたたちがなぜ魔族のトップに立とうとしているかがわからないんだよ。そもそもあんたら魔族の目的は何なんだよ。その答えを知ることができれば、あんたらと戦う必要性が無いかもしれないだろ?」

すると今度はリザラクトが「魔族が、魔族を作ったのは、ルーティアと【ロード以外の魔族全員と、リザラクトだけの秘密にしている事】だから教えられる事はできないわ。ただ、ルーティアに勝つ為に、この試練場に侵入してリザラクトを倒しに来る可能性が高いというだけで【私はルーティアが危険な存在だと考えている】という事を知っておいて欲しいわね。もし、この【ロード】の【願い】を聞いてくれるのであれば。私はこの【ロードを守る為に全力を尽くすことを誓うわ】でもその代わりルーティアとは戦いたくないから、どうにか話し合いの場を持ってくれないかしら?」と言われてしまう事になったのだった。

そして俺は思ったのだ。【この二人】に対しての疑問は残るけど。今は目の前の問題に集中するしかないようだと。

『わかったよ。この世界に来てまだ一日ぐらいしか経って無いんだろうけど。あんたが必死に守ろうとしている【ロードという存在】の力がどれほどのものなのか、俺は見極めさせてもらうことにするよ』と、俺が言うとリザラクトは安心したような表情を見せて、俺にこう言ったのである。

「それはよかったわ。それでこそ私の主となる資格のある【ロード】って事ですね。よろしくお願いします。ところで、先ほどルーティアが口にしていた、リザラクトが作り出している魔物の事ですが。ルーティアの言っている【魔道具】と言う物が関係しています。ルーティアが魔道具を使って作り出す魔物は【この世界で生きる全ての魔物より遥かに強い存在になります】。しかし、ルーティアにその魔物を倒すだけの力はありません。リザラクトが魔導を極め、ルーティアがその魔導を極めたとしても、そのリザラクトでも魔導の力で倒せる相手ではないんです。その魔物をリザラクトが倒すためには【ロードが持っている特別な魔導具を使う事によって初めて可能になるのです】」

俺はリザラクトの言葉を聞いて、リザラクトがこの世界に来た理由を改めて確認する事ができたのである。

(この魔族が、リザラクトが作った理由は俺の予想通りのものだった。そして俺が持つ【神魔器】の魔道具と、リザラクトがルーティアの魔道具が揃えば魔族と対等な立場になれ、ルーティアがこの世界に来ようとする目的を止めることが出来るんだろう)そう考えた時、俺は自分の役割を理解する事ができていたのだった。

そしてその後の話を聞くと。どうやら俺は本当に勇者の資格を持つ者のようでルーティアもリザラクトもこの世界の勇者として認定されていたようである。

(まさかそんな事があるはずがないと思ってたんだが、どうやら間違い無いみたいだな)俺はまだルーティア達が嘘を話しているという可能性も完全に捨てることはできないと思っていたのだが。俺自身が勇者だと認識できていることが事実なので信じる事にしたのだ。

(とりあえず俺は勇者という事で納得するしかないんだろうな。俺としては勇者としてこの世界で戦える力があれば文句はないんだけどな)

俺はそう思うと、この世界に存在する魔導の力を確認する為に【魔力】を確認しようとした。しかし俺の体からはなんの反応も無かったのである。その事を不思議に思いながらも。【スキルを発動しようとした】のだ。しかしその試みも失敗に終わった。

(【鑑定のスキル】すら使えなくなっていて、俺のステータスの確認ができない状態なのか?)と思ったその時だ。俺はふと思った。今俺の頭の中に【ステータス画面】というものが存在していることに気がつき、その画面に目をやったのである。そこには【レベル1 称号【異世界人】

職業【魔剣使い】】と、俺のレベルと【称号】と、俺の今の【状況】が記されていたのである。

【俺の称号欄が【異界の英雄 魔剣士】に変化していた。】と。俺が驚いていたのが伝わったのだろうか?

「あの。何か問題でもありましたか? 私が勇者として選んだ【ロード】様がどのような方なのか気になってしまって。少しの間様子を見させていただいたんですよ」と。ルーティアはそう言って笑みを浮かべたのであった。俺はルーティアのその言葉に「問題は無い。だけど【魔剣の使い方を教えてくれないか?】」と言ったのである。するとルーティアは「もちろんです。では私と一緒に試練場の中に入って下さい」と言って俺に手招きをしたのだった。

俺がルアンナに話しかけようかと悩んでいた時に、いきなり攻撃された俺だったが。俺はその攻撃をなんとか回避することができた。そしてその男は「お前は何者だ!」と大声で叫び声を上げながら、再び短刀を構え始めた。

「待ってください。あなたはいったい何者なのですか?」ルーティアが突然の攻撃を行った人物に問いかけると。そいつは笑い出し、「ははははっ! 何者だとは失礼ではないかルーティア。僕は君と同じ魔王軍の一員だよ。だから僕の質問には【素直】に答えても構わないからさ」とその男は自分のことを話し始めたのである。

「なるほど、わかりました。そういうことならまずは私達の仲間のフリをしていてくれたことに感謝をしましょう。だけどどうしてここにいる事が分かったのかしら?」

その質問を聞いた時、その男は「へぇ、君は意外と冷静なんだね。普通はもっと動揺したりしないのかな?」とニヤリと笑うと、続けて「そうだね、君の言う通り【この場所】を【知っている人間は限られて】いてね。だから【君の仲間の一人】の気配を感じ取ってね。その人物に近づこうとしていたところに【この少年】がいたんだよ。それで、僕に襲いかかってきたって訳なんだ」と、そこまで言ったあと、さらに話を続けて「この少年には悪いけれど。その邪魔をしたのはこの世界の管理者【リザラクト】と、その配下達を始末しようとしてね。ちょうどこの世界の管理権限がこの世界に存在しない【ルーティアの手に渡る事を恐れたリザラクトが、管理者の地位を得るために、【この世界に入り込んだ存在を排除するために】動き出したんだよ」と語った後にまたニヤリとした表情でこちらを見てきたのだった。

俺はその男の話を聞いた直後に思わず口を開いてしまったのだ。それはなぜかというと答えは単純で【あまりにもタイミングよく現れて俺に対して攻撃を仕掛けてくるなど不自然極まりないからなのだ】

(まるで誰かが俺たちの行動を読んでいたような、そんな感じなんだよな。そしてこいつは俺とリザラクトが会話をしている間ずっと見ていたよな。だけどリザラクトが俺に接触しようとしているなんて事はリザラクトが【ルーティアと会う事を避ける為に、他の仲間に頼んで、俺をここまで連れてきてくれた】という可能性もある。それならば俺とルーティアに接触する為に近づいてきていたとも考えられるが、俺には【ルーティアにはリザラクトに会いたい理由があるようには思えなかった】のだ。なぜなら、ルーティアが俺を見る目に殺意とか憎悪のようなものは全く感じることが出来なかったからだ。だからこそ俺はこいつも信用できないと感じたんだ。だってルーティアの瞳の中には、リザラクトに対する憎しみの感情があったからだ。まあそれはいい。だが、それよりも、俺は目の前にいる男に【リザラクトがこの世界に入ってきたという事実がばれてはまずい】と思ったのだ。この男がルーティア達にリザラクトの情報を伝えた後、もしリザラクトにその事実を知られたのであれば。間違いなく【リザラクトとルーティア】による戦いが始まってしまうからな)

そんな事を考えながらも俺は目の前の男をどうにかする方法を頭の中で考えていたのである。そしてその考えが纏まった直後俺はある【行動】を起こす事にした。

(この男がリザラクトの部下だと仮定して、【俺とルーティアが一緒にいることに問題があるという事を知っていて俺を攻撃した】ということが、もしも本当なら。俺がルーティアを守る為に戦う必要があるかもしれないと考えた俺は、ルーティアを庇うように立ったのだった。)

(えっと。私は【この人に何かしたのでしょうか?】。もしかしたら【私がこの人の居場所を察知できる魔道具を使って探そうとした】事で。この人の怒りを買ってしまった可能性はあるんですけど。でも。【この人から殺気が感じられるほど、強く怒りを感じなかったんです】)

(ルーティアが俺の後ろに立っている。だが今はこの男の対処をしなければ)そう考えた俺は【とりあえずルーティアとこの場を離れようと考えてルーティアの方を向くと、そのルーティアの顔を見て俺の動きは止まってしまった。なぜかというと【ルーティアの美しい青い瞳】からは涙が溢れ出していたのだ。)

俺は、その涙を見た瞬間、ルーティアがなぜ泣いているのかが理解できてしまったのだ。ルーティアはこの世界に転移させられてきて、おそらくは俺よりもこの世界のことを詳しく知らない状態で【この世界を守るためにリザラクトと戦おうとしている】のである。そんなルーティアのことを考えると俺が守ってやらなければと思うと同時に、この【リザラクトの配下である】と思われる【勇者のような見た目をした奴が敵なのか味方なのか判断がつかない状態のまま戦っていいのだろうか?】とも考えるようになったのである。

(俺は、この勇者のように思える人物に、敵意がない事を確認するためにある提案をする事にした。この勇者のように見える人物とは敵対せずに話し合いができる関係になる方がいいと俺は思ったからだ。それに、俺の考えが正しい場合、俺とリザラクトが会話をしている事をリザラクトの配下の人間が知っているはずがないと思ったからである。だから俺はこの人物に質問することにした。)

俺はルーティアの方を振り向き、ルーティアと視線を合わせると。ルーティアは驚いた顔をしてから。涙を流している。そして「リザラクトとルーティアの関係を教えてくれないか? 」と言うと。勇者のように見える人物はルーティアに視線を移した。その後「ふぅん。君はルーティアの知り合いなのかい? 」と言い。続けて「まぁそんなところだな」と言った後に俺の事を値踏みするような目付きで見ながら。「そうだな。僕の口から言えることは【ルーティアと魔王軍の四天王の一人であり魔導の王の称号を持っているルーティアと魔王軍は敵対している。そして僕が君たちを探しに来た理由は【リザラクトに命令されたからなんだ】ということだね」と笑顔を見せてきた。その言葉を聞いていたルーティアは少しだけ悲しそうな表情を見せたのだが、すぐに「わかったわ。あなたは私たちがこの世界を魔王軍に支配されないように【私達が協力することを望んでいるのでしょう】」と言って俺の横を通り過ぎていくと、そのまま試練場の扉に手をかけて開け始めたのである。俺は慌ててそのあとを追いかけた。するとそのあとに【魔族の男】もついて来た。

試練場内に入ると、試練場内にいた全ての人間と魔族達は俺達の姿を見て唖然としていたが。ルーティアはそんな周りを気にせず、自分の前にいる【魔王軍の幹部であろう人物と話をするために歩み寄っていった】。俺もそれに続いていくと、魔族の男は俺を【魔剣使い】として召喚されたことを聞いてから、俺に向かって「ルーティアはリザラクト様から勇者の称号を与えられていて、勇者の称号を得たものは魔族の王に【力を与えられる】と伝承されているんだ」と。そしてルーティアの【勇者としての実力はリザラクトと同等である】という事を伝えて来たのである。そしてその言葉が終わるとルーティアが「【リザラクトは私と【ルーティアを殺すことを狙っている】のです。その事実に【嘘はない】ですか?」と問いかけたのだった。

ルーティアの言葉に、目の前の勇者らしき人物は自分の耳を疑い驚いていたが。ルーティアは話を続けたのであった。その話は要約するとこういう内容だったのである。

まず。リザラクトは【自分が作り出したこの世界の支配者になろうと考えている事】、次に。

【リザラクトは自分の配下であるはずのこの世界の管理者を騙し、この世界に侵入し、この世界の管理者が【自分よりも圧倒的に弱い存在だった為に】乗っ取ってしまったという事】。それから 《この世界の管理者は、元々この世界を管理していたわけではなく、リザラクトが【自分の思い通りに動くように洗脳して作り上げた駒に過ぎない存在だった】》らしい。

この世界の管理者は元は【魔族の王の右腕的な存在で最強の魔法剣士として有名な人物だったそうだ】そして

「そして【リザラクトがこの世界の管理者になった際、すでにいた魔族の王はリザラクトの手によって殺されており、今現在リザラクトが【この世界で絶対的な強者である支配者となっている】」という事をルーティアから聞いたのだ。その話を聞いた後に俺はその話をしてくれたルーティアの方に視線を向けると。「この【真実を知ったからといって。貴方がどうこうできる問題ではないのはわかっているんです】。それでも、知っておいて欲しかった。【この世界には私と、私の愛しい人の敵しか残っていないということを】とルーティアの口が開き、ルーティアの目には今まで感じられなかった明確な怒りを感じるようになっていた。そして、それと同時にルーティアが口を開いたあとすぐに 目の前に居る魔王軍の男に対して 攻撃を行おうとした ように見えた俺を制止しようと ルーティアの手が動いたが。

俺はその手を握りしめると。

俺の意思を感じ取ったルーティアの手の動きを止めて ルーティアの行動に対して 無言で抗議した。俺はそのあとに俺の考えを説明するために【俺とルーティアとの関係性】を話し始めていったのである。

俺の説明が終わってすぐ、目の前にいる魔王軍の男に話しかけられた時に、一瞬だが目の前にいる【俺達を殺そうとした勇者の格好をしている者】に隙が生まれていることを感じ取れたので。俺は、このチャンスを逃すまいと思い、俺は目の前の男の首元めがけて【聖剣を鞘から抜き、全力の斬撃を放とうとしたのだ。】だがその攻撃をしようとした瞬間に、目の前にいる【勇者の姿になっている者と同じ種族であろう者達】の視線が俺とルーティアの事を見ていたことに気がついたのである。そしてその時に俺とルーティアは、俺と勇者の【同じ種族だろう者達】の視線が交じわり、俺の思考は完全に止まりかけた。なぜなら【俺に殺気が向けられていたから】なのだ。だが俺はその【俺に向けれられている殺意】に飲み込まれる事はなく、俺が感じたことを正直に伝える為に。【目の前に立っている男に向けて、今の状況を伝えたのだ】。その言葉で俺は目の前の男に殺意を剥き出しにして向かっていこうとしているルーティアを止める事に成功した。

(俺は目の前の男に殺意を剥き出しにしていたルーティアの体に触れて【ルーティアと俺がこの勇者の【正体がわかる前ならば】ルーティアは間違いなく俺よりもこの【リザラクトの部下と思われる奴を優先させる行動】をしていたはずだ。だから俺の考えは間違っていない。)

そんな事を考えながら、ルーティアが勇者と話をしている間に、俺も、この場から離れようと考えていたのだったが。俺はこの場を離れようとした際にルーティアから【待ったをかけられたのである】。ルーティアの視線は勇者の方に向いていたが。その表情からはルーティアの強い意志を感じ取ることができたのである。

そしてルーティアが俺を引き止めた後に「【勇者の振りをして私達を攻撃しようとしている者が居るかもしれないので。【警戒するように伝えたかったんです】」という事を伝えてきたのである。俺はその事を聞き納得をしたのだが、ルーティアが【リザラクト側の情報に詳しい人間なのかどうかは、今のところは俺の判断ではわからない状態だ】ので俺はルーティアを守れる位置に立ち。いつでも【勇者の攻撃に対応が出来る体制を整えてから勇者に話しかける事にしたのだ】。

「ふぅん。ルーティアとリザラクトの関係か。僕から答えられることといえば、リザラクトはこの世界を支配するための準備を行っている。リザラクトはこの世界に転移させられる前に、この世界の事や、魔族の王がどのような人物なのか。そして、魔王軍に所属している者たちが、どのように生活を送っているのか。それらの事を事前に知るために。僕の配下に、僕と一緒に【この世界に転移させられた人物】と、その人物と共に僕の元にやってきていた他の配下の二人をこの世界に派遣させていたのだよ。この二人の役割は僕の部下である【魔導王】を護衛すること。そしてこの魔導王の護衛の任務を完璧にこなす事ができれば【この世界で生きるための力が身に付けられるようになる】と言われていたんだ」

そう言うと。勇者の格好をしている【魔導王の男】が【魔剣を抜き俺達に斬りかかってきた】のだ。そして俺とルーティアもそれぞれの武器を構えて戦闘体勢を取ったのであった。そして戦いが始まってから一時間後、俺と魔導王は互角に近い勝負を繰り広げ、お互いの力は五分と五分と言った状況になっていた。俺の体は全身が傷だらけになっていて、俺と同じように全身に怪我を負わせていた【魔導王の男も同じだったのだが】。

「なかなかやるね。さすがは【魔王軍の四天王と、この世界の勇者だと言うだけあるよ。君達は素晴らしい実力の持ち主であると思う。だけど残念なことにも。【僕の方が強い】んだ。だからそろそろ【死んでくれないかな?】

」と勇者の服を着ている魔導王の男が言いながら俺とルーティアを追い詰めようとしていたのだ。

そんな魔導王の言葉を聞いたルーティアの口角が上がった。そして魔導王に向かって【自分の持っている力を解放する為の言葉】を叫んだのである。

その言葉を言い終えたルーティアが 魔力の渦の中に包み込まれ そしてそのあとに俺の目の前に姿を現した【俺の妻であるルーティアとは別人のような雰囲気を放つルーティア】がそこに現れたのである。その姿は俺がよく知っているルーティアとは、かけ離れていた容姿であり、そして何よりも圧倒的な存在感がそこにはあった。そして魔導王はルーティアの変貌ぶりを見て驚愕し動きを止めてしまっていたのだった。俺はそんな魔導王に近づき、【ルーティアの事を愛おしく感じていた気持ちを伝えるために、その言葉を投げかけた】。その言葉を聞くと同時にルーティアは、【俺の言葉に返事をするかのように、俺の体を優しく抱きしめてくれたのであった】

それからしばらく時間が過ぎ、勇者の姿をしている魔王軍の男との戦いが終わり。俺はこの試練場にいる人達全員に【試練を乗り越えることが出来た者】が誰であるかを告げていった。すると、俺の前にいた男に【勇者の振りをして俺達を殺しに来た魔族の仲間】が、仲間になりたいという意思表示を行い。男は【仲間にする】ということを、その魔族に問いかけたのであった。その問いかけに対してその【ルーティアに殺されかけた】という男は【自分の意思は変わりない】と【ルーティアの仲間になる】ことを宣言し、【俺の前から去っていった】のである。

そして、その次に、ルーティアの前にいた男に話しかけられ、俺は男から【この国の王の居場所】についての情報を手に入れたのだった。俺はその情報を俺がこの国の王だという証拠を見せることによって、男に伝え、男は俺がこの国の王である事を認め、その情報を教えると約束してくれたのである。

俺は、俺と話を終えた勇者風の魔族の男が【この場の全員の意識を集中させている場所】に向かうためにその場を離れたことを確認すると。【この部屋の一番大きな部屋にいた者達が集うこの場所で俺の話が終わった】タイミングを見計らってルーティアの側に近づいていき、ルーティアに話し掛けたのである。

「ルーティアさん。あなたの今の状態だと、【この世界で魔王軍の残党と戦えば間違いなく、あなたは負けてしまうだろう】」俺はそう言ってルーティアの顔を見た。俺はこの時。【なぜ、この世界にいる全ての人々がルーティアの事を知っているのに。誰もルーティアに対して敵意を向けた目を向けることが無かったのだろうか?】と疑問に感じていたのでルーティアに【今のルーティアには【戦う力はもう残されていない事】を伝えたのだ。

その話を聞いたルーティアの目には再び涙が浮かび上がり。俺が抱き締めていないと倒れてしまいそうなほどに体の力が完全に抜け切っている状態でルーティアは泣き始め。ルーティアを【妻であるルーティアの体を強く抱き寄せ】俺は、この場でルーティアに【俺の妻になって欲しい】とプロポーズした。俺の告白を聞いたルーティアの口から

『私は貴方を愛しています』と聞こえ、その後すぐにルーティアの【心が壊れるような叫び声】が俺とルーティアしかいないこの空間に響き渡り。そのあとはしばらくの間。俺はルーティアが落ち着いたのを確認できたらルーティアを抱き上げ。俺はルーティアを俺の家に連れて行き、俺は【ルアンナ】とルーティアとの三人で暮らす事に決めたのであった。

そして、俺はこの世界に来てからの【ルーティアが今まで過ごしてきた時間を取り戻すような幸せな日々を送る事】にしたのであった。

ルーティアの体調が良くなるまで【一週間】ほどの時間が必要で、その間は俺は、俺の家の敷地内で薬草などを採取する作業を一人で行っていた。ルーティアの看病はルーティアの母である【シルビア】が行い。シルビアの娘であるルシアは、俺の手伝いとして。俺が育てた作物の世話などを積極的に行うようになっていたのである。その行動のおかげで、俺の仕事は少し楽になり俺はこの世界にきてから久しぶりに、ゆっくりとした時間を過ごせていたのである。

そして、この世界に来てから【俺が一番忙しい毎日を過ごしていたのだが】ルーティアの看病が終わり。俺は自分の仕事を再開させる為にこの世界に来る前に俺が住んでいた世界に戻る為に準備をしていた。だが、ルーティアから、

「リザラクト。私は【魔王軍から世界を守るために旅を続けるつもりだ】のです。なので私と【結婚してほしい】と伝えておきます。それと。私の体は既にボロボロな状態になっている。ですので私と結婚をしたとしても、【私と夫婦関係になった瞬間に私が死んでしまう】可能性が高くなるのですよ。その事を知っていて本当にそれでも良いのか? リザラクトは、私と【結婚したいと思えますか?】と、聞いてきました」と、ルーティアが真剣な表情をしながら俺に伝える。俺は、そんなルーティアの不安を取り除くように。俺は自信満々な態度でこう言ったのだ。「そんな事は関係ない。【例えどんな状況であろうとも、僕は君を守り続けるだけだ】から安心して欲しい。君にもしも何かあれば必ず【僕の手で助けに行くから】。君は何も心配する事はないんだよ」

その言葉を聞いていたルーティアの表情からは。悲しみなどの負の感情は消え去りとても嬉しそうな顔をしてくれていた。そしてルーティアのお母さんである【シルビア】からも。娘が選んだ相手であればと認めてもらい。ルーティアのお父さんでもある【セシア】の事も、俺とルーティアとの結婚を認める事を伝えてくれていた。その言葉を聞きながらルーティアの口角は上がっており。俺はそんなルーティアを見て幸せを噛みしめるようにルーティアに笑いかけていたのであった。

それから俺は、俺が元いた世界に【この異世界での出来事や、魔王軍の幹部との戦いで得た知識を全て俺が作り出した記録媒体】に記憶させて。この世界での記憶を忘れてしまわないために、俺と、そして、ルーティアの事をしっかりと覚えていられるように。その二つの道具を持って。俺は俺がもともと住んでいた場所に戻ろうとしたのだ。

その帰り道に。ルーティアは俺と一緒に、俺が暮らしていた世界に行ってみたいと言っていたので俺は、ルーティアと二人で、【俺の暮らしている世界】に向かって移動を開始していた。そして、しばらく歩いていた後に突然ルーティアが立ち止まり。ルーティアは、目の前に見える景色に見入っておりその光景を見て涙を流している。そしてルーティアの頬を流れている水を見て俺は慌ててルーティアに話しかけたのである。ルーティアは泣いていたがそのルーティアはとても美しく、俺の目を惹き付けていたのであった。それからしばらくしてルーティアが落ち着きを取り戻した後、俺は、俺が元々暮らしていた家に向かうことにしたのであった。

ただ、この家に帰って来てから気付いたことがあったのだが。俺はこの世界に来てからは俺の体を綺麗にしていてくれた。この世界で俺が暮らし始めた時にはこの家に、風呂が備え付けられていていなかった。だから、俺は俺の妻であるルーティアがお湯を作る為に魔法を使って水を沸かしてくれた。そして俺はそのお湯に【タオル】を入れ。体を清潔に保つ為に必要な【石鹸】を入れておけば、簡単に体が洗えると言うことに気づいたのである。

俺とルーティアが暮らす家は。俺がルーティアと出会った街である。この世界の中心都市であり、【魔王軍と、その残党との戦いが繰り広げられている場所】に程近い所にあった。そして、俺とルーティアはその街で、この家で暮らさないかと提案したのであるが。

この世界に【魔族が住んでいる】という事実は知られておらず。この世界で暮らしている人々は、この家が魔族と関係がある家であるということは知らなかったのだ。ただ、この世界で、魔族に関係する家は【魔族の血を引いている】人達が住む場所であるということだけはこの世界の人は知っていたのである。

その為、俺はこの家から、ルーティアをあまり人目に触れさせないようにしていこうと思っていたのだが。俺はその日、俺の家に帰ってきた時。俺達の前に一人の【この世界の住人と思われる少年】が立ってこちらを睨んでいた。この少年は一体何者なんだろうか?と、疑問に感じた俺はその男の子の方に歩き始める。

そして俺はこの子が俺とルーティアの子供だと思ったのだ。何故ならばこの子の顔立ちが。ルーティアの見た目年齢よりも若い気がしたが。俺が【魔王を倒した勇者の姿に変化】すると、その子供も俺の姿に驚くことなく俺を見つめており。この子は俺がこの世界にやってきたときに出会ったあの少年だと俺は判断してこの子との思い出を思い出していたのである。

そのあと俺はこの子供がこの世界では見かけたことが無い容姿をしている事から。【ルーティアが俺の世界から連れてきた存在ではないか】と考えてルーティアの方を見るとルーティアは少し悲しげな顔をしながら。その子供の事を【ルーア】という名前をその子に伝えていたのであった。

俺達がルーティアを俺の家まで送ってくれたという女の子に俺が事情を聞くと。この女の子が俺の家に住んでいるルーティアという女性に対して好意を抱いているとの事だった。俺の子供達が、俺の知らないところで俺以外の誰かに好意を抱いていた事に俺はショックを感じていたのだが。俺はルーティアにその女の子はどういった人なのか聞いてみると。ルーティアは俺の妻であるルーティアが【魔王軍に殺された恋人であるルキアさんによく似ている】らしい。

(もしかして、俺がこの世界に来たのはこの世界にルティアがいたからかもしれない)そう思いながらルーティアが俺と別れてからのことを話し始めたルーティアの言葉を聞いていると。

その話の内容が、まるで【俺の未来を予知するかのような内容】だったために。ルーティアが話した内容を疑う気持ちにはなれなかった。

そして、ルーティアの話の内容によると。【その女性は俺の娘では無く。俺がこの世界に来てしまった事でこの世界に現れてしまった別の世界の人間】だということ。ルーティアが出会った少女がルーティアと行動を共にしてルーティアを守ってくれていたらしく。そしてその少女が、ルーティアとこの世界を魔王軍から守ろうとしてくれる。この世界の人々が求めている【魔王軍を打ち倒す事ができる存在になれる可能性を持った人物】だと言っていたのだ。その言葉を聞いた時。俺がこの世界に来てから俺の目に写った不思議な出来事が全て納得できたのであった。

俺はこの子に。俺が元いた世界に戻りたいと願っていた。そして【その願いを叶えるために必要な力を俺に与えたのではないのか?】と。

そして、その話を聞いた俺は、自分の力で出来ることはあるはずだと考え。俺は、自分の体を調べた結果【今の俺でもできる事は何かないか?と】探り始めていくと。この世界にある【魔石】の力を利用して自分の体に【身体能力強化】と、【自動回復】を付与することができたのである。その事を知った俺は。【その魔石を使えば、俺がルーティアを助ける事のできなかった【あの場面】も何とかなるのではないかと考えた】のだ。

ただ、俺がルーティアの婚約者として相応しい存在である事を証明するためには、俺が、【ルーティアに相応しい力を身に付けなければダメなんだ。だから、この世界から去る前に、俺がルーティアを守る事が出来るぐらい強くなって。俺はこの世界に再び戻ることを誓おうと思う】そして、俺とルーティアがこの世界から去ろうとしたときに俺の【妻の一人になるはずの人だった】。【ミルスティナ】が、俺の目の前に現れたのである。その姿を見て。俺がルーティアと出会ってからの出来事が走馬灯のように流れ出した時に、 俺は、俺の心の中で【ミルスの事を愛おしく感じる気持ちが湧いてくる感覚】を感じ取ってしまい、俺はルーティアの事を心の奥底に押しやって。ルーティアとこの場から【転移で逃げようとした】のであった。

俺はルーティアに俺が元々いた世界に戻る為に必要な魔力は十分すぎるほど蓄える事ができていたので。俺は俺と、ルーティアがいる場所に、ルーティアと一緒にこの世界と俺がもともと暮らしていた世界とを繋ぐ門を作り出すことに成功する。

その魔法を使う際に俺は【自分がルーティアと共に暮らしていた世界に帰るために、そしてこの世界に来る事の無かったルーティアの本来の運命を俺が変えてみせるんだ】と、自分に言い聞かせながら。俺とルーティアは俺の元々暮らしていた世界に【戻って行く】

俺が【魔王城での戦いで俺の身に何が起きたかを全て覚えたまま】。俺は元の世界に戻ってくる事に成功したのであった。

俺は【元の姿のまま】。【この世界に来る前に住んでいた家】に戻って来る事ができたのである。そして俺の隣にいる、ルーティアに話しかけると。【俺はルーティアが元々暮らしていた世界。この世界で言えば。【ルーティアが本来生きていた世界である】と俺は確信を持って答えることが出来たのだ。俺のそんな言葉を、聞いたルーティアはとても嬉しそうな顔をしてくれていて。そんなルーティアを見て。俺は改めてルーティアへの愛情が強くなっていく。俺は俺が元いた世界に戻れた事が嬉しいと感じながらも。【元の世界ではルーティアと一緒に暮らせなくなるんだよな。これから俺の住んでいる世界には。魔族と戦うことができる【特別な能力】を持つ者達が存在しているのは間違いないのだし。だからこそ。俺の持っているこの【異世界の記録媒体】を。俺が元の世界に帰ったら。その記録媒体の中に俺が知り得る情報を全て記憶させることが出来るのだろうかと】不安になりながらルーティアを見つめていた。すると俺の考えを察知してくれたルーティアは俺を安心させてくれるように笑顔で答えてくれたのである。

俺とルーティアの二人で俺が暮らしていた部屋を後にすると。ルーティアと二人で俺が住んでいた家から出て行った。そして、俺とルーティアは【この世界で暮らして行く】為にこの世界の人達と交流しながら、俺の元々暮らしていた世界で生活するための準備を始めるために行動を開始したのであった。

ただ。俺は、ルーティアの事を【魔王軍の残党と戦ってくれるであろう特殊な力を持つ者】として見られる事になるだろうと予想しているのだが。それは、ルーティア自身が俺の妻である【ルーティアが元々過ごしていた世界】と。ルーティアが本来暮らしていた世界【ルーティアの本来の生活が営まれている世界の2つがある】とルーティアから聞いていたからであった。

俺はルーティアと一緒に俺が【元々住んでいた】世界の中に存在する都市に向かうことにした。

俺は俺が暮らしている家の外に出た後、俺とルーティアと俺の目の前に現れた【この世界の人々】に挨拶をする為。この都市で一番大きな広場に向かい歩いていく。すると、俺がこの都市に向かってくる途中。俺に声を掛けてきていた。【この都市に住む、ルーティアが元々暮らしていた世界から俺達の世界に引っ越してきた女性と会う】

俺達が歩いていると突然、俺の目の前に【勇者に倒されてしまったはずの魔王軍幹部であるバハムートが突如現れて俺の体を斬り裂こうとしてきたのだ】。しかし、【バハムートの攻撃を事前に知っていたかのように避けたのだ】。その攻撃を避けられたことで、一瞬だけ動きを止めていたバハムートはすぐさま攻撃を仕掛けてきたのだ。だがその時にはもうすでに俺達の周りには誰もおらずそのバハムートの斬撃は空を切っていたのだ。そしてバハムートの攻撃を避けた俺は反撃を開始するべく。まずは、バハムートに対して、

「お前の目的はなんなんだい?」俺は俺を襲ってきた存在に話し掛ける。

「くそ。貴様のせいで計画が台無しだ。まあ良い。どうせ勇者もここにいる。そして勇者の仲間だった女もいるのだから、こいつらがいれば、私の計画は成功するのだよ」そう言ってバハムートはその姿を俺達に見られたことでその場から離脱していったのである。

(勇者に倒されたはずなのになんでこの世界にまた姿を現している? しかも計画ってなんだ? あいつの言っていた言葉も気になるが。それよりも俺はルーティアがこの世界に来てから勇者と戦ったという話を聞いたことがないんだけどな。

一体ルーティアは何をしているんだ?)と俺はルーティアのことが少し心配になって来たので【今すぐにでも俺の所に来てくれているはずだと思っていた】。するとルーティアは【俺の元に現れて俺の事を見つめて微笑んでくれて】いたので。ルーティアの顔を見ただけで【今まで抱いていたモヤモヤした気持ちが一気に吹き飛んだような感じになったんだ】俺は心の底から幸せを感じることが出来たのである。そして、俺は再びルーティアと手を繋いで【一緒に元居たところに行こうとしていたのだが】、 【魔王軍の関係者だと思われる人物が俺達の前に突然現れて。そして俺のことを殺そうとしたんだ】そしてその攻撃に対して俺が避ける前に、俺のことを庇うようにして【その人物は、その攻撃を喰らい俺の代わりにその攻撃を受けたんだ】。

その瞬間。俺に襲いかかってきた人物に俺の命を助けられた事に対する感謝と、助けることが出来なくてすまないと言う想いが入り混じり。その攻撃を受けてくれた存在に俺の心の中では謝り続けていた。そしてその攻撃を受けていた者が、俺がこの世界で初めて出会う事となる、【ルーティアの本当の世界】から来た。【この世界の人とは違う容姿をした少女だった】のだ。そして俺は俺をかばってくれている少女が【俺と同じ【特殊な能力を授かった特別な存在である事に気づいたのであった】

そして俺はルーティアの側に寄り添いルーティアの側を離れることが無いようにすると同時に、【この世界で新たに出来た。この世界の住人である少女の事が、俺の元々いた世界の住民に見つからないよう警戒して行動する】ことを決めた。そして【俺達が元いた場所に戻ろうとしていた時に俺の目の前に再び魔王軍の幹部を名乗る人物が現れたが。今度はしっかりと【この世界にやってきた理由】を伝えることができ。そして俺と俺の妻になろうとする女性がこの世界に再び戻ってきた。その事を証明するために、魔王軍が襲撃してきても問題無いように、この世界の人々は、俺の住んでいた場所の近くに住んでいる人々には【俺が元々住んでいた世界に行くための力】を与える代わりに。その力を悪用するような人間が現れないように見張っている事と、その力を悪用しようとした人間が、俺の住んでいる世界に訪れて、俺の事を襲おうとした場合に【俺が元の世界に戻る為に必要な魔力を使わせないために俺を守ってほしい。

だからどうか俺と、俺が妻に迎え入れるはずだった。この世界の女性の力になってくれないか? 俺と、この世界で新しく出来た俺の家族と一緒に、この世界で共に生きていかないか?】と言って俺達はこの世界に来た時の格好をして、俺の元々暮らしていた世界に【この世界で知り合った人達と、俺の元々の暮らしをしていた世界に帰る為に向かった】

俺の元々いた世界に到着した俺は。ルーティアと一緒に【俺が住んでいた家】に帰ることにしたのである。

俺と、ルーティアと、この世界で知り合いになった人達と、俺と元々いた世界で暮らすことに同意してくれた。俺の新しい家族は、この世界から、ルーティアの暮らしていた世界に【俺と共に】移住する事を選んだので。この世界の【魔族と、魔物、そして普通の人間達】とは、これから【別れを告げることになるので】。

この世界の者達との友好を深める意味も含めて。俺はこの世界の者達の前から姿を消した方が良いと思った。この世界にはまだ俺が元々暮らしていた世界でも俺に敵意を向ける者や、利用しようと考える者が存在する。その者達を【俺の力で、俺やこの世界の人々が暮らす事が可能な。この世界の新しい世界を創造しようと決意する】

俺の【ルーティアと一緒に、元々住んでいた家に帰ってきた】のであった。

【私が住んでいた世界に来てしまった勇者の仲間の女性に私は自分の体を張って彼女を守りました。その結果。彼女は私に対してとても優しくしてくれています】【この世界での初めての友達であり仲間でもあり。一番の親友でもある、彼女の、セシアと一緒に、元の世界に帰る事に成功した。だけど私は元の世界に戻ると。なぜか【体が縮み。子供の姿に戻っていたのです】。そしてそんな私に。私が元の世界に来る前の、本来生きてきた世界で出会った、この世界の人達が。私の事を優しく迎え入れてくれて。私はそこで【私の本来の年齢よりも幼い女の子として。【元の私の家に住む事になったんです】。

元の私の住んでいた世界にいる時、私は、この世界に来て。この世界に住む人々と仲良くなる過程で。元の世界に戻れなくなってしまったらどうしよう? と考えていたこともあります。しかし今は、この世界で出来た大事な友人と離れることは考えられませんし。

何よりこの世界に残りたいと思っている。大切な、私の恋人が待っていてくれるこの世界から離れたくないと思っています。ただそれでもやっぱり、私をずっと守ってくれていた、大好きな人が暮らしている。この世界での。この世界での初めてで、たった一人の【恋人】であるルシアン様の住んでいるこの世界を離れなければいけないことは。正直に言うと、寂しいと思う事もあります。ですがこの世界から離れるのが辛いという理由はそれだけでなく。この世界での思い出を大切にしたい。この世界の人達ともっと接したいという想いもあるのだと、今なら思うことが出来ます。

【ルーティアさんが僕と僕の妹とルーティアの3人で暮らしていた家を出てから、数日後】僕は、魔王軍の残党と戦おうと【勇者の仲間である人達が暮らしている都市に向かい歩いていました】。

【勇者の仲間の人】は。魔王軍に殺されたはずなのになぜ魔王軍の関係者が生きているのかと疑問には思いましたが。

その疑問については考えるだけ無駄だと思いまして、気にしないことにして、魔王軍の残党と戦おうとする人達に声を掛ける事にしました】。

「貴方達の目的はなんなんですか? 勇者に倒され死んだはずのあなた達が、なぜまたこの世界に戻ってきたのでしょうか?」と、【勇者の仲間であると思われる、僕に攻撃を仕掛けてきた男性に向かって話し掛けました】。すると僕の質問に対して。

その人は、まるで何も知らないと言わんばかりの表情をした後にこう答えた。

「何を言っているのですか。我々は既に、【あの世に行ってきた】のですよ」

そう言い残して。魔王軍の関係者と思われる男は【その場から姿を消していった】のでした。

【私に話しかけてくる人が現れた事で私は。【勇者が死んでしまって】。その仇討ちの為にこの世界に訪れた。元勇者の仲間の生き残りが、復讐の為だけにこの世界に訪れていて。その人物に勇者が殺されてしまったことでこの世界の住人の心に勇者という存在への恐怖心が植え付けられてしまい。勇者の仲間の人達は【自分達が生きていた時代には存在しなかった特殊な能力を使うことができる】存在だった事。そしてその能力を使って。勇者に倒された後にこの世界に再出現した、魔王軍の幹部達を倒すことが出来る存在を探していた事を理解したうえで。勇者が命を賭けて倒した敵は魔王軍幹部だけじゃないということを、勇者が、【この世界にいた勇者が死んでしまった後に生まれた】。【勇者と同じ力を宿している少女が持っている特殊なスキルを使えば倒すことができるという事も伝えようとしたのでしたが】。

勇者が亡くなってからの時間が経ちすぎていることもあってか、勇者という力を持った者が。自分と同じように【特殊な力を使えるようになった勇者がいるということを知らないままでいるみたいでしたので。私はそれ以上は何も話さないことにしました】

「魔王軍の残党か何かはわからないけど。お前達の計画は失敗に終わる」僕は魔王軍の男に向けて話し掛けると【男がその場を立ち去ろうとしたので】、僕はその場に立ち止まり【自分の持つ剣を男の背中に向けた状態で】構えるのでした。すると、【魔王軍の残党と思われる男性が、突然現れた【私にとって、元の世界で一番親しい人だった。お姉ちゃん】のことを睨んできて。

その視線に気づいた。お兄ちゃんも、私の事を守ろうとして。魔王軍の関係者の男の方に体を向けながら、私の事を庇うようにしながら 【私の事を見つめてきました】。

【私にとっては、この世界で。一番頼りにしていた。私に好意を持ってくれている、唯一の異性】だった。その人の顔を見て、思わず涙が流れ出しそうになる気持ちを抑えることが出来ませんでした。

私は【私の事が、元の世界で唯一愛していた人の顔と声を持つその人物】の事を抱きしめようとしますが。

そんな事をしたらこの世界に。その人を呼び出してしまう可能性があるのでは? ということを考えて行動できずにいると。その人が、【この世界の人に召喚されてしまった異世界の人】であることを私に伝えると、その人の言葉通り。私をこの世界に引き込む前に存在していた【この世界に存在する。本来のルーティアの住んでいた世界と繋がる場所】を私と。そして私が大好きなお姉ちゃんに作ってもらえないか? と言われましたの。

そのお願いされたことが、凄く嬉しいと思ったのです。

なぜなら【お母様に会えるかもしれない】と考えただけで。嬉しくなってしまったの。そして私

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魔王の勇者様 〜異世界で魔王が復活しちゃったみたいです〜 あずま悠紀 @berute00

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