第3話 天才治癒師は殴られる

僕がすんなり婚約破棄を受け入れた事を聞くと二人は嬉しそうな顔をするだろうなぁと思っていたらそんな反応でも無かった事に驚いた。


『なんでそんな直ぐに受け入れるのですか!?泣いて縋るくらいしなさい!!』とジョセフィーヌに言われたけど、別に政略結婚だし、愛そうと努力はしたけど結局愛せなかったので正直言って悲しい気持ちは無かった。


強いて言うなら、ジョセフィーヌの為に使った無駄な時間を領地経営の時間に当てたかったなぁぐらいかな?


言うと余計に話が進まなくなるから何も言わないと余計に腹が立ったのがギャーギャー喚いていた。


『あんまり叫び過ぎるとお腹の赤ちゃんに触るよ?』なんて言ったら逆鱗に触れたのか思いっきり殴りかかられた。


護身術を身に付けて居たから、受け身は取れたけど流石に女の子(しかも妊婦)に護身術を使うのが紳士として恥ずかしいと思ったから殴られ続けていると数分後にジョセフィーヌを執事やメイド達が取り抑えてくれて、何とか数回殴られるだけで済んだけど何故僕が殴られたんだろう?

ただ心配しただけなのに…


そんな僕らのやり取りを見ていた父上が突然座っていたソファから立ち上がった。

因みに今この部屋に居るのは僕、父上、義母、レスター、ジョセフィーヌ、執事、メイドの7人である。

もう一人居たメイドはジョセフィーヌを止めた後、救急箱を取りに部屋から出ていったから居ない。


父上は顔を真っ赤にしながら『婚約者の浮気も見抜けない腑抜けには後継者など不可能だ!!お前を後継者から下ろし廃嫡する!!直ぐに荷物を纏めて出て行け!!』と言われてしまった。


婚約破棄なんかよりもずっとショックだった…


ずっと今まで父上や領民の為に汗水掻いて働いたと言うのに自分の努力は何だったのか?

全てが無駄に終わったら流石に僕も凹む。


でも、父上は伯爵家当主。


当主の宣言は絶対だ。


僕は静かに『分かりました。今までお世話になりました。ありがとうございます。』そう言い残して部屋にある少ない荷物を纏めて家を出て行こうとした。


出て行こうとした時に限界にはレスターと義母がとても嬉しそうな顔で待ち構えて居た。


『貴方みたいな役立たずが家から出て行ってくれてせいせいします!早く出ていきなさい』


今まで殆どの領地経営をして居た僕に対してなかなか酷い事を言うなぁと思ったけど、もう廃嫡されたからこの家とは関係無くなったので返答もせず出て行こうとしました。


するとレスターが『最近盗賊が増えたらしいから気をつけなよー?』とニヤニヤしながら伝えて来た。


僕はレスター、父上は達が聴こえるか聞こえないかのギリギリの声で『ああ…』と答えて扉を閉めた。

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