第60話 モンスター神官
ちなみに、お店のおじさんは、どう見てもボイクド国北西部、竜の岬あたりでよく見かけるガブガブ草のモンスター、ガブキングだ。草のオバケがタネを売るシュールな絵づら。
「ブラックドラゴン? どうやってなるの?」
「ドラゴンはモンスターの憧れなんだよ。ぽよぽよなんかにゃわからんかもしれんがな」
「僕はただのぽよぽよじゃないよ。ぽよぽよ神だよ?」
「少しは鍛えたようだな。ならば、裏の教会でモンスター神官さまに頼んで転職させてもらうといい。お金を払えばお祈りしてくださる」
「……」
そっか。モンスター神官ってお金とるんだ。だからモンスターって、生まれた種族の職業にしかついてないのかな?
ぽよぽよでありながら、ドラゴンやネコりんやオークをマスターしたぽよちゃんは、モンスターのなかでは貴重なのかも。
おじさんは一億円金貨をにぎりしめて走っていった。
「ブラックドラゴンになるのに一億円かかるんですね」と、蘭さん。
「地獄のさたも金しだいって言うけど、魔物世界も世知がらいんだね。強くなるためにはお金がいるんだ」
猛がやたらとお金を欲しがったのは、そのせいなのか?
「僕らも行ってみませんか? ツボがあればモンスター職につけるけど、ツボにはない職業もあるかもしれませんよ?」
蘭さんがそう言うんで、僕らはおじさんのあとを追いかけた。路地裏に黒い壁、黒い屋根の建物がある。黒い竜の彫像。モンスターたちの教会のようだ。
「神官さまー! おれをブラックドラゴンにしてくれ!」
入口の扉をあけて、かけこむおじさんの声が表まで聞こえる。
「ブラックドラゴン? ドラゴンをマスターしてなければなれないな」
「じゃあ、ドラゴンからのブラックドラゴン!」
「百万円だせば、ドラゴンにしてやろう」
「ほらよ! 百万円!」
「うむ。ドラゴンの気持ちになって祈るがよいわー!」
のぞくと、祭壇に角の生えた二足歩行のヤギがいる。西洋の映画に出てくる悪魔そのもの。
「これより、そなたはドラゴンじゃ」
「おおー! これで、おれもドラゴン族に!」
スゴイ盛りあがってるなぁ。
ガブキングだったおじさんが、お祈りとともに細長いトカゲみたいなドラゴンに変わった。モンスターって転職すると姿も変わるんだ。
あれ? ぽよちゃんは変わらなかったけど?
「ぽよちゃんはドラゴン職のときも、ぽよぽよだったよね?」
「ぽよは、ぽよぽよのなかのぽよぽよっすからね!」
つまり、自分がこだわりのある姿ならそのままなんだ?
「じゃ、待ってろよ。神官さま。ドラゴン、マスターしてくるぜ!」
おじさんは外にとびだしていった。
薄暗い教会には、ほかに誰もいない。扉のすきまからうかがう僕らを、神官がながめる。
「そなたらも迷える子羊か? ならば、私が祈ってしんぜよう。金はもらうがな」
強欲だ。聖職者の風上にも……いや、モンスターなら悪徳が尊ばれるのかも?
「ほう。ぽよぽよ神か。よくぞ、そこまで鍛えたものだ。そっちはオーロラドラゴン。オーロラドラゴンは現代では絶滅したという話だが、素晴らしい。まだ存在していたとは」
ああ。僕ら、やたらとオーロラドラゴンのツボ、職神さまからもらったけど、もしかしたら種族が絶滅してるからなのか。それでツボの数が多かったんだ。
「あの、神官さま。ほんとにお金払えば転職してもらえますか?」
「うむ。むろん、資質がなければ転職はできんがな」
「どんな職業につけますか?」
「今、あきがあるのは、こんなところだ」
あき? なんの?
とりあえず、お品書きを見る。
ぽよぽよ(無限)
ぽよぽよ戦士(無限)
ぽよぽよ王(1/1)
ぽよぽよ神(1/1)
スライム(無限)
スライムウィッチ(無限)
スライムキング(102/1000)
ガーゴイル見習い(無限)
ガーゴイル(無限)
ガーゴイル隊長(57802/100000)
竜兵士見習い(無限)
竜兵士(無限)
竜隊長(14399/30000)
オーク市民(無限)
オーク貴族(3487/10000)
オークキング(1/100)
まだまだほかにも、バジリスクだのサラマンダーだの、動く死体だの、僕らも戦ったモンスターの名前がならんでるんだけど、かーくんは気づいたね。
「もしかして、この職業のよこにカッコで書いてある数字が、その職業につける最大数と現在就労中の数ですか?」
「なかなか、めざといな。そのとおりじゃ」
ということは、ぽよぽよ王とぽよぽよ神は1/1だから、僕とぽよちゃんで定員か。だから、僕はぽよぽよ王になれなかったのかも?
「へえ。スライムにスライムウィッチって職業あるんだね。知らなかった」
「モンスターのほうが職業の数多いですね。種族ごとに系統の職業があるから」
「なんや、おもろそうやなぁ。おれ、バジリスクになってみよかな。石化攻撃できるんかな?」
三村くんが言うと、モンスター神官は手をさしだした。
「バジリスクなら十万円」
十万か。僕には小銭だけど、ふつうのモンスターたちには、たぶん大金だよね。序列が金の力で決まってしまうシビアな世界。それが、魔界なのか。
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