第56話 ビッグカンガルー(グランマ)戦2



 あっ、それどころじゃなかったな。ボス戦中だった。


 カンガルーおばあさん、あせってる。

 さ、まだまだ行くよ。数値の貯蓄ができるとわかったら、どんどん、もらうからね。


「次は知力ね」


 チューチュー。チューチューチューチューチュー。チュチューのチューチュー。


 MP、体力、器用さ、幸運。HP以外はみんなもらう。


「よし! これで、もう全滅は回避したよ」


 が、そのときだ。


「モーン!」


 カンガルーおばあさん、特徴的な鳴き声。

 急にお腹の袋に手をつっこむと、こっちにむかって、なんかなげてきた。


「なっ?」

「かーくん! 袋から出すってやつちゃうか?」

「あったね! そんな技」


 この状況でわかるのは、袋から出すってのが、ターンや行動順に関係なく発動できる特技ってことだ。僕の小説を書くとかが、それ。


 にしても、何なげてきたんだ?


「あ、イテテ」

「バーン!」

「ミミー」

「コアラやで。かーくん」


 カンガルーの袋から、なぜコアラが? 同じ有袋類ゆうたいるいだから?


 コアラなのに、やけに素早くパンチやキックしてくる。僕は全部よけてるけど、みんなは、いいようになぐられてる。


 カンガルーのお供か? ステータスを見ようとするけど、なぜか見れない。

 これ、もしかして、付属物? 僕のミニコみたいなもんかな? でも、この感じだと、たぶん一匹ずつのステータスが、カンガルーばあちゃんの十分の一くらい。


「みんな、たくさん足ぶみして。スピードファイターの魔法で器用さがあがれば、回避できるから」


 助言がちょっと遅かった。防御力の低いシルバンが倒れた。三村くんとトーマスも、フラフラしてきてる。


 急いでコアラから力を吸いとろうとしたものの、ストローのさし口がない。付属物だから、ターゲットとして個別に選択できないみたいだ。


「ど、どうしよう」


 悩んでいると、ふむふむとホムラ先生が思案する。


「まだターンはこっちのものだね。かーくん。君の行動順だ」

「ですね。動作はできます」

「では、全体魔法を使いたまえ。おそらく、付属物も本体と同時にダメージを受ける」

「全体魔法かぁ」


 あれ? 僕、ろくな全体攻撃魔法を知らないぞ?

 今まで商人系をきわめたり、オーロラドラゴンをマスターするのに時間かかってたからな。まだ、オーロラドラゴン、マスターしてないけど。今はオークキングだ。キング職マスターしたら、もしかしたら、ぽよぽよ王になれるかもだし。


 大賢者や大魔法使い、大魔道戦士などの魔法使い系はほとんどマスターしてなかった。さっき魔法書でおぼえた『魔神の怒り』くらいか。


「魔神の怒りー!」


 顔文字はコレ。


 \\\٩(๑`^´๑)۶////


 ダークな黒い雷があたりにとびかった。でも、コアラたち、倒れてない。


 すかさず、ホムラ先生のアドバイス。

「かーくん。魔王軍の魔物は闇魔法への耐性を持つ場合が多い」

「なるほど」


 僕のあとを追って、ミニコが「ミミミ〜」と呪文を唱える。ミニコは魔神の怒りを知らないから、雷神の怒りだ。ミニコの知力三万。以前はチートすぎると思ったけど、今はまあ効いてる、くらい。今度、たくさん歯車ひろってきて、食べさせよう。


「こんなとき、山びこ職ならなぁ。ミニコとエンドレス魔法攻撃できたのに」


 なんかのバグらしくって、ふつうは自分の呪文を一回、復唱するだけの山びこ効果だけど、ミニコと僕が連携すると、敵が全滅するまで自動でくりかえしてしまうんだよね。

 残念ながら、戦闘途中で転職できない。


 とつぜん、ホムラ先生が笑いだす。


「ハッハッハッ! こんなときにこそ、アレだよ。君」

「なんですか?」

「次は、就労特性召喚だ!」

「ああ、なんか、ありましたね。そんな魔法」


 ホムラ先生からカジノのコインで買いとった魔法書。魔法にしては変わった名前だよね。就労特性召喚……就労特性?


「就労特性って、その職業についてるときだけ自動で発動する特性ですよね? たとえば、盗賊だったら、たまにモンスターがドロップするアイテムを盗んでる」

「それだ」

「就労特性なんか呼びだしてどうす——」


 僕はハッとした。ついさっき、考えたばっかりじゃないか。山びこの特性があればよかったなって。


「そういうことか!」

「一回の戦闘中に召喚できる特性は三つまでだ。逆に言えば、現在就労中の職業とあわせ、四つの特性を備えられる!」

「スゴイ!」


 就労特性だけは、どんなに便利でも、その職についてるときしか効果がなかった。それを職につかずして呼びだせる。つまり、今、オークキングを就労中の僕が、ぽよぽよ神や山びこの特性を持てるんだ。


「就労特性召喚! 山びこ〜!」


 そのあと、僕はミニコとのコラボをひさしぶりにキメた。魔神と雷神の怒りがコアラもカンガルーばあちゃんもまとめてやっつけた。

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