第三章 はざまの世界をぬけだして

第29話 ぽよぽよ大冒険は続く



 兄ちゃんと離れてしまった。でも、約束した場所に行けば、きっとまた会える。だって、約束したから。猛はこれまで、僕との約束やぶったことないんだよ? 一回もね。


 僕は気をとりなおして、とにかく前に進む。

 あらためて見ると、ここは、アレだ。まだ洞くつのなかだとわかる。回復の泉あたりで、ロンドたちと別れた、はざまの世界。


「あっ、回復の泉だ」


 僕らは回復の泉のすぐそばに倒れていた。ぽよちゃんや三村くんもすぐに目をさます。


「な、なんや? ここ? ああー! せやった。最初、ここんなか迷っとったんや。ほんで、グニョンで気づいたら城で、魔物に見つかって牢屋入れられたんや!」


「オーノー、ここは、はざま世界ですねぇ」と、これはジョーンズ。

「はざま世界では、あらゆる場所プレイスに通じているらしいでぇす。なので、その場所へ行きたいと思う無意識のウィッシュ——願望が形になるのだと聞きましたねぇ」


 やっぱりか。そうじゃないかと、うっすら感じてたんだよね。


 さっきまでいた魔王城は、僕が猛を助けたいと願ってたから、一時的につながった仮の架け橋だったんだ。ユークリッドさんも途中でいろんな場所を通るかもって言ってた。

 でも、魔封玉に入れられたままなら、猛は確実に処刑されてた。玉から出せただけでも天地の差がある。

 そうだよね? 兄ちゃん……。


 ということは、僕らはほんとはまだ、はざまの洞くつをさまよってたんだ。

 回復の泉の下に、石にはさんで手紙が置かれていた。


『かーくんさんへ。二日待っていましたが戻ってこられないので、私たちはさきにボイクド城へ帰ります。今度は外で会いましょう。大賢者ロンド』


 たぶん、ロンドの母国語のユイラ語らしき文字でつづられてる。でも、毎度のことながら読める。この世界のこういうアバウトなとこが好きだ。


「じゃあ、今度こそ、この洞くつを脱出しよう。ロランたちも心配だし」

「ああっ、せやったー! 地下がくずれてもうたんやったな。ロランら、どないなったんやろ思っててん。そしたら、急に変な城に」


 つまり、仲間が魔王と戦ってるかも、なんて考えてしまったから、そこに行っちゃったわけか。三村くんらしい。

 ちなみに、さっきから三村くんが僕と会話してるふうになってるが、ほんとは違う。僕がしゃべると自動翻訳機ジョーンズさんが、都度、三村くんにゴニョゴニョ耳打ちしてる。


 僕らはとりあえず、回復の泉で休憩した。魔王城突破したからね。さすがに疲れた。


「じゃあ、回復したから、行こうか」

「うっす!」

「レディゴーですねぇ」


 なんて話してたときだ。

 僕らのほうに歩いてくる人影が。フラフラしてるなぁと思えば、パタリとそこで倒れた。


「あっ、行き倒れだ」

「人間っすかねぇ?」

「オー、ヘルプですね」


 近づいてみると、なんと、アンドーくんだ。


「アンドーくーん! しっかり!」

「み、水……」

「はいはい。回復の泉があるよ。好きなだけ飲んで」


 回復の泉の近くでよかった。

 アンドーくんは水を飲むと意識をとりもどした。


「あれ? かーくんだ? ぽよぽよになっただね?」

「アンドーくんは……変わりなしか」


 なんで、みんな、心の形がふだんの自分なんだ? 僕だけ? ぽよぽよ変化……。


「大丈夫? アンドーくん」

「はぁ。もう何日、迷っちょったか。よかった。かーくんやつに会えて。死ぬかと思ったがね」


 なるほど。あの魔神の前にいたメンバー、みんな、ここに落っこちてきてはいるのか。

 ユークリッドがほとんどの人は願いの国までたどりつけないって言ってたな。もしかして、願いの国へ行けない人たちは、ここでさまようハメに?


 だとしたら、蘭さんやトーマスやランスたちも。クマりんやケロちゃんや、モンスターたちはどうしたんだろう? そういえば、ミニコもいないけど。


「仲間を探さないと、出られない」

「せやな」

「僕はオバケ店主さんからもらったホワイトフェニックスの羽を持ってるから、このなかを歩きまわっても迷わない。僕が行くから、みんなはここで待ってて。この回復の泉を集合場所にしよう」


 たぶん、この洞くつの迷路は心の闇だ。つねに形が変わってると思ったほうがいい。正しい道をさし示す道具がないと、絶対にぬけだせないんだと思う。


「アニキが行くなら、ぽよも行くっすよ。ぽよは疲れてないっす」

「ありがとう。ぽよちゃん!」

「ほな、おれも行こか。ぽよぽよにだけ任しとかれへん」


 アンドーくんは疲労しきってるので、そこで休んでもらう。ジョーンズさんと二人で残した。


 みんな、無事でいてくれるといいんだけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る