第28話 魔王城、脱出!



 僕らはようやく、魔王城の端っこまでやってきた。架け橋が見える。

 ユークリッドと別れたあの橋に、とてもよく似てる。同じ橋なんじゃないかと思う。


「うーん。時間軸が違ってるけど、同じ場所?」

「かーくん。ぽよぽよの短い手で腕組みしてないで、行くぞ」

「短いはよけいだよぉ」


 戦闘もそうとうしたよ。罪人の塔を出たあとだけでも、たぶん、三百くらい。

 ここまで来るのに、爆つまみ食いしながら来たから、僕と猛の数値はほとんどの項目がふりきってしまった。僕はおもにMPと知力を、猛は素早さ、器用さ、幸運を食った。猛はなぜかマスターボーナスもついたままなので、あまった数字を小説を書くで力と知力にふりわける。


「もうつまみ食いする意味ないくらい、あがりきっちゃったね」

「今まで、魔王城でつまみ食いすると、ユダじゃないことがバレると思って、やってなかったんだよな。やっぱ、数値高い連中からとると、あがるの早いなぁ」


 まあ、僕は余剰ぶんを仲間にわけあたえられるから、食えるだけ、せっせと食っておこう。


「橋に見張りがいるかなぁ? 中ボス」

「いるかもな。ていうか、囚人が逃げだしたんだ。ふつうなら、まっさきに警備を配置する場所だよな」

「だよね」


 警戒しながら近づいていったんだけど、誰の姿も見えない。変だな。でもまあ、ボスがいないならラクでいいか。


「今のうちに渡ってしまお」


 僕がピョコピョンピョン走って渡ろうとしたときだ。柱のかげから、するりと人影が現れた。


「だ、誰?」


 一瞬、身がまえる。けど、ホッとした。スリーピングだ。なんだろ? 見送りに来てくれたのかな?


 でも、その瞬間、猛が叫ぶ。

「かーくん、そいつから離れろ!」

「えっ?」

「あやつりの冠をつけてる!」


 あやつりの冠? たしかに、さっきまでしてなかった細い銀の冠をひたいにつけてる。孫悟空の輪っかみたいな、もっとオサレなやつね。そんで、目が赤く光って……。


 いきなり、スリーピングの腕がムチみたいに伸びてきた。


「危ない! かーくん!」


 猛がとびだしてくる。僕の体を橋のほうへつきとばすと、スリーピングの腕を押さえこむ。


「逃げろ。かーくん。ここはおれに任せて!」

「で、でも、猛は捕まったら処刑されちゃうんだよ」

「兄ちゃんは大丈夫だ。早く!」


 スリーピングのようすがおかしい。体のあちこちから触手みたいなのが出てきて、猛に食いつこうとする。あのままじゃ兄ちゃんがいいようにやられてしまうだけだ。


「アニキ、行くっす!」

「で、でも……」


 ぽよちゃんに押されても、僕はためらっていた。いや、わかってる。ここにいるかぎり、僕をかばう猛がよけいにピンチなんだって。

 すると、ジョーンズさんがかけてきて、僕をかかえあげた。違う! 耳だ。両耳をつかまれてしまった!


「ぽよ〜」


 はぁ、なさけない。こうなると、自分ではどうにもできない。

 ジョーンズさんは僕をつかんだまま橋を渡りだす。そのあとをぽよちゃんと三村くんが追ってきた。


 ああ、兄ちゃんが遠くなっていくうー!


「ぽよ〜」


 猛の声が響いた。

「あとから必ず行く! 約束の場所で会おう!」

「ぽよ〜」


 に、兄ちゃーん!

 哀れ。兄弟、生き別れ。

 猛は橋のむこうがわ。僕らは橋を進んでいく。

 直後、グニョンと空間の伸びるあの感覚に襲われた。


 気がつくと、僕らは暗い洞くつのなかにいた。まわりには、ぽよちゃん、三村くん、ジョーンズさんが倒れてる。

 猛は……いない。


 くすん。兄ちゃんとはぐれちゃった。

 猛、大丈夫かなぁ? スリーピングに捕まったら、また牢屋につれられてしまうじゃないか。せっかく助けだしたのに。せめて、どうにか逃げだしてきてほしい。あとで必ず来るって言ってたし。


 約束の場所がなんとかかんとか。そういえば、前に約束した気がする。もしも兄弟が離ればなれになってしまったら、この世界で最初に出会った場所で落ちあおうって。


 最初に出会った場所?

 うん。マーダー神殿だな。

 猛。待ってるよ。絶対、絶対に来てね。マーダー神殿に……。

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