第10話 大賢者と弟子



 ここで、ロンドか。

 ずうっと前にさ。大賢者と呼ばれる人が旅に出たまま帰ってこないんだって、どっかの街のウワサで聞いたよね。いつか出会うんだろうなって、そのときも思ったんだ。


 大賢者ってだけはあった。ちょちょいと魔法で、さまよえる魂Cを倒してくれた。チャラチャラ勝利音楽鳴って、戦いが終わる。僕は動けるようになった。


「ありがとうございます! よかった。全滅しないですんだ。ぽよちゃん、死なないでー!」

「ハッ! ぽよ、また花畑を歩いてたっす!」

「ぽよちゃーん」

「アニキー」


 泣いて喜ぶぽよぽよたち〜

 いや、かたっぽ、僕なんだけどね。


「気をつけてくださいね。このあたりのモンスターは強い呪い技を持つものばかりです。誰かがやられたら、すかさず治しておかないと、油断すると全滅しますよ」


 ああ、まさか、あのロンドにいさめられる日が来るとは……。

 たしかに、ユークリッドはたくさんお札を買っとけって言ってた。これのせいだったのかぁ。


「賢者さま。ぽよぽよって、食べられますか?」


 あ、僕らのこと食糧を見る目で凝視する人物が約一名。

 食べられたらたまらないので、そっと、ミャーコのなかから、以前、キヨミンさんにもらったお菓子を出した。特製プリンだったかな。そうとう前にもらったやつだったんだけど、匂いは変じゃない。ふへへ。


「賢者さま! プリンだ!」

「プリンですね!」


 僕はプリンを二人の前にさしだす。


「今、ボイクド国の首都シルバースターで大人気の高級スイーツ店のプリンです。しかも、店主のキヨミンさんがじきじきに作ってくれた特製です。よければ、助けてくれたお礼に、どうぞ」


 プリンは三個あった。ヨダレをたらす大賢者とその弟子に一個ずつ、僕とぽよちゃんで半分ずつ食べよっかな。けど、ぽよちゃんは首をふる。


「ぽよ、人間の食べ物はいらないっす。ぽよぽよ草が食いたいっす」

「そうだったね。ぽよちゃんは草食系男子。じゃあ、僕が遠慮なく食べるね」


 ぽよぽよ草は持ってないんで、ぽよちゃんには素早さのタネをあげた。数値あがるやつ、大事にとっといてよかった。まだまだタネあるんで、ぽよちゃんの食糧にしても、数日はもつ。


 僕らは石筍にすわって、プリンを食べた。

 はぁ、ほっこり。あいかわらず、キヨミンさんのスイーツは絶品だぁ。特製です、ぐふふとか言ってたのが気になるけど、美味ければよし!


「シルバースターですかぁ。なつかしいですねぇ。旅に出てもう何年になるかしら? ワレスさまは元気でしょうかねぇ?」


 食べながら、ロンドが語りだす。一人語り。僕らは食べ物に夢中。


「こっちの世界のワレスさんって、ちょっと若いころなんですよねぇ。今でも変わらず超絶美形なんでしょうねぇ。ウフフ。こっちにはクルウさんもいるし。ハシェドさんがいないのは残念ですが、デギルさんみたいな可愛いかたもいますもんね」


 ああ、まともに見えたけど、やっぱりおネェなんだ。そこは同じか。

 ロンドも黙ってれば優しそうな美形なんだけどな。瞳はベビーブルー。ファンタジー世界にすごくめずらしい一重まぶただ。でも、まつげは長い。


「はあっ、美味かった! もっと食べたいけど……何しろ、三日前に携帯食がなくなってから、なんにも食べてないし。ああ、この薬草がプリンだったら、よかったのに!」


 エンリコも可愛いんだけど、今はまだ食い気一色だ。五年もすれば、すごい美少女になるであろう。

 いや、そこじゃないんだ。エンリコがそう言った瞬間だ。なぜか、彼女の手にしていた薬草が、ピカッと光って、プリンに! プリン変化へんげ〜!


「プ、プリン!」

「薬草がプリンになりましたね? エンリコ、あなた、いつのまにそんな魔法を?」

「ええー? ボクの力なの?」


 違った。キヨミンさんの力だ。

 なんと、プリンを食べた三人全員に、プリンって特技ができていた。お腹が減ったとき、任意のアイテムをプリンにできる……んだそうだ。

 恐るべし、夢の巫女の力!

 戦闘にはぜんぜん関係ないムダ特技なんだけど、空腹には役立つ。前にもらった、なくならないクッキーもあるし、なんとか食いつなげそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る