第11話 大賢者が仲間になった



 とりあえず、旅再開だ。

 僕は二人に話を持ちかけてみる。このままじゃ、また全滅しちゃうかもだからね。


「あの、おたがい二人ずつなので、合流しませんか? ここをぬけだすまででもいいので」

「賢者さま。キュイキュイ言ってます」

「エンリコ。あなたも精霊語を話せるようにならないと、さきざき不便ですよ」

「キュイキュイですよ? キュイキュイ。そんなの、ふつうの人間にはわかんないよ!」


 まあ、僕も人間のときはわかんなかったよね。


「僕らと合流してくれたら、清めのお札をあげますよ?」

「賢者さま。なんかくれるって言った?」

「エンリコ。なんで、そこだけわかるんですか?」

「勘!」


 ……さすがは、もと孤児だ。いや、この世界では違うのかもだけどさ。もらえるものに貪欲だなぁ。


「ほら、清めのお札。呪い攻撃を回復してくれるアイテムです。MPを節約できますよ?」


 百枚ずつビラリと出すと、エンリコはもちろん、大賢者も僕の前にひざまずいた。ていうか、ロンドは可愛いモフモフに目がないみたいだ。


「わたくしは可愛ければ、それでよしです。ともに参りましょう」

「賢者さま! このぽよぽよ、なんかわかんないけど、ものすっごくお金持ちですよ! ずっとペットにできないんですかね?」


 エンリコ。このまま成長すると、ヤバイ気がする……。


 何はともあれ、仲間が増えたので、そのあとは楽勝だ。一人が呪いにかかったら、すぐに清めのお札で解くって形で乗りきる。さまよえる魂も、思い出っていうモンスターも、攻撃力じたいはさほどじゃない。怖いのは呪いと即死攻撃だけだ。


「ロンドさんは大賢者って呼ばれてますよね? でも、職業は賢神なんだ。大賢者より上位職」

「大賢者は宮中での地位なのでね」

「ボイクド城の宮廷魔法使い的な?」


 ロンドはうなずく。


「じゃあ、なんで旅なんてしてるんですか?」

「魔王城を探してるんですよ。ワレスさまと約束したので」

「ああ。そういう」


 たしかに最終決戦するにしても、魔王がどこにいるのかわからないと、どうにもならないもんね。


「それで、見つかったんですか?」

「まだなんですよねぇ。でも、妙なウワサは聞きました」

「どんな?」

「魔王の四天王は四人ではなく、ほんとは三人なんじゃないかって」

「えっ? 四人いるから四天王ですよね?」


 このさい、悪魔の数は柱だとか、そういう細かいとこは無視してもらって。冒険録はそういうかたくるしい話じゃないんで。


「キュイキュイだって。可愛いなぁ」

 これはエンリコだ。


「そこらへんがよくわからないんですが、そもそも、魔王というのがいなかったみたいなんです。はるか古代、精霊族の女神と結婚した者が魔族の王になると四人でとりきめて、いざ、その王を決するときに、なんらかの争いが起こったみたいなんですよね」


 うーん。さっきから、なんだろう? この気になるワードのオンパレードは?

 魔王って、四天王のなかの誰かなんだ? てことは、誰かが魔王と四天王の二役をかねてる?

 それに、争いがあった……ユークリッドは誰かにだまされて封印されたんだよね? だから、四天王が三人しかいないんじゃ? 一人、封印されて欠けてる?


 ああっ! めちゃくちゃ物語の核心に迫ってるじゃないか!

 しかもだよ? すでに四天王のうち、悪のヤドリギと、豪のゴドバは僕らが倒しちゃってるんだよね。残るは義のホウレンだけ。


「てことは、義のホウレンが魔王?」

「わたくしは悪のヤドリギじゃないかと考えていたんですけどね」


「キュイキュイだよ。キュイキュイ」


「悪のヤドリギと豪のゴドバは、僕らがワレスさんと協力して倒しました」

「あら、ほほほ。辺境ばっかり旅していたら、すっかり世俗になって。ぽよぽよちゃん。あなたはワレスさまの知りあいなんですね?」

「力をあわせて魔王を倒す約束をしてます」

「じゃあ、わたくしがたまたま通りかかって助けられたのも、きっと運命なんでしょうね」


「キュイキュイ。キュキュウ。けっこう、おしゃべりなウサギさんだなぁ。ウサギって声帯ないんじゃなかったっけ?」


 えい、エンリコ。僕らのうしろでウルサイな。今、すっごく大事な話してるのに。


「でも、だとしたら、すごくマズイ事態になってるかもしれません。じつは、ここに落下してくる前——」


 僕はノームの地下鉱脈で起きた一連の出来事を語った。そこに封印されていた魔神が解放されてしまったこと。そして、おそらく、その魔神が裏切りのユダだということを。

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