第6話 もとの世界めざして



 ああ、けっきょく、この場所に戻ってきた。しかも、かなりの早さで。せめて、女神さまくらいには会いたかったなぁ。

 真っ暗な洞穴に入っていく。先頭にダークさん。僕、ぽよちゃんの順番だ。


「僕、お城には仲間を探しに行ったんだけど、みんな、あそこにはいなかったのかなぁ?」

「いないよ」と、ダークさんは、やけにハッキリ断言する。


「なんでわかるんですか?」

「よそ者が入りこめば、すぐに報告が来るからだ」

「ふうん。ダークさんって、ほんとはエライ人なんでしょ?」

「さあ、どうだろうなぁ」


 ハハハと笑ってごまかす。

 こういう鷹揚おうようなとこも、なんとなく猛っぽいんだよねぇ。だから、つい信用しちゃうんだ。


 カンテラくんが照らす景色はどこまで進んでも、ずっと同じ。両側を岩にはさまれた一本道だ。


「僕の目がさめたの、このへんだったかな。ほら、僕の足跡が」


 ぽよぽよのちんまりした足跡が、苔の上に残ってる。


「じゃあ、ラッキーだったな。おまえ一人であのダンジョンに迷いこんでたら、永遠にさまよってたぞ」

「え? そう?」


 洞くつのなかで、何度か、思い出ってモンスターと戦闘になったけど、すぐに逃げてったよ? もしも、そうとう強い敵が出たとしても、僕のステータスなら、そうそう負けはしないんだけどな。


 そして、しばらく行くと、前方に何か見えた。柱? 扉? いや、違う。橋だ。


「うわぁ、地底の橋!」

「この橋は二つの世界をつないでいる。とても重要な拠点だ」

「二つの世界って、ですか?」

「願いの国と、自身の世界だ」

「えーと、あの世とこの世のような?」

「まあ、そうなるか」


 僕の場合なら……ん? どっちの世界になるんだろ? 魔王軍と戦ってるこの異世界? それとも、京都五条で暮らす現実? ここで現実に帰ると、異世界旅は終わっちゃうのか? そこはなんとか、にとどめてほしいものだ。


「この橋を渡ると、とても深いラビリンスが広がっている。ほとんどの者は途中で行き倒れる。夢見る力を持つ者だけが渡りきることができるんだ」


 ダークさんはそう言って、橋のさきを指さした。

 すごく長い橋だ。形は古い石造の眼鏡橋みたいなやつ。でも、途中で雲に包まれて、さきが見えないんだけど?


 よく見ると、橋は絶壁の上にかかってる。下をのぞいてみたら、とてつもなく深い闇がわだかまってる。底が……底が見えない。落ちたら確実に死ぬぞ。


「この下は、どうなってるんですか?」


 すると、ダークさんは悲しそうな顔をした。


「おれが眠ってる」

「え?」


 ま、まさか、あなたはオバケ? オバケでしたかッ? ほんとは死んじゃってる? ああー! 願いの国じたいが死者の住処すみか的な? そういえば、オバケ店主もいた!


 僕がそうとう青ざめてたんだろう。ダークさんは苦笑を浮かべる。


「まだ死んでない。だが、死んだようなものだな。おれの本体は封印されている」


 ん? 何その気になるワード? つい最近、どっかで見聞きしたような……?


は、おれのなかに残る善き心だ。はるかいにしえ、絶望と憎悪に染まり、おれは魔神となった。だが、今でも幸福だったあのころの思い出を忘れられない自分がいる。それが、だ。だから、お願いだ。おれの悪しき心を滅ぼしてくれ」


 そ、それって、やっぱり……?


 僕は悲しげな顔つきのダークさんを見つめた。


「あなたのほんとの名前は……」

「ユークリッド。親しい者たちは、ユダと呼んでいた」


 やっぱりかぁーッ!

 ユダって、魔王の四天王だよね? 裏切りのユダってやつ?

 それに、深い地底の岩盤に封印されていた、あの魔神。僕らを崩壊にまきこんで覚醒した、あの巨大な古代の像。橋の下で眠ってるっていうの、それじゃない?

 だとしたら、覚醒したの、ユダだったんだ? 僕はてっきり、女神さまと恋仲だったっていう魔族の王かと思ってたんだけどな。


 とにかく、これは一大事だ。一刻も早く、ワレスさんや蘭さんに知らせないと。


 それに、気になるのは、猛だ。猛はなぜか、こっちの世界に召喚されたとき、一人だけ魔王軍のなかにいて、裏切りのユダって呼ばれたらしい。そのまま、ユダのふりしてるけど、覚醒したのが本物のユダだとしたら、マズくないか?


 そういえば、一回、夢からさめたとき、兄ちゃんが言ってたような? ユダは裏切り者だって裁判にかけられることになったんだよ。もしかしたら、兄ちゃん、処刑されてしまうかも……とかなんとか。

 そりゃ、本物が現れたら、猛は偽者確定なんだから、処刑されるよね?


(に、兄ちゃんを助けないと!)

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