第4話 まずは旅支度しなくちゃね



 酒場を出ると、ダークさんはすぐそばにある店屋にむかった。武器防具屋だ。

 ま、まさか、あの店のなかに異次元をぬけだすゲート的なものが? おおっ、ファンタジー! さすがは夢のなか。


「店屋のなかに道が……」

「ない。買い物しとかないと、あのダンジョンをぬけられないからだ」


 てへっ。かーくん、勘違い。

 まあいい。めずらしいもの置いてあるかもだから、店屋には行っときたい。ちゃんとミャーコポシェット(今はリュックになってるけど)もあるから、お金は持ってる。たんまりとね。へへへ。


「いらっしゃいませぇ」


 ダークさんについて入った僕はカウンターに立つ男を見て驚愕きょうがくした。あっ、ビックリしたって言えばよかったかな? 驚愕って、ぽよぽよにしては言葉がかたい。さっきまで耳つかまれて『ぽよ〜』しか言えなくなってたぽよぽよとは思えない。


 いや、そうじゃない! 店主の顔に見おぼえあったからだ。


「廃墟城のオバケ店主!」


 そう言えば、僕らに呼びだしブザーみたいなアイテムくれてたっけな。いつでも店主を呼びだせるっていう。だから……ってわけでもなさそうだ。


「やぁ、可愛いぽよぽよですねぇ。ユークリッドさまのペットですか?」

「しいっ。今のおれは

「えっと、でも、ユークリッドさまですよね?」

「違う。違う。ダークさん!」

「ダークさん?」

「ダークさん」

「……いらっしゃいませ。ダークさん!」


 僕を無視してゴチャゴチャ話すダークさんとオバケ店主。全部、聞こえてるんだけど。ダークさんの本名はユークリッドらしい。しかも、店主のあのようすからすると、身分の高い人みたいな?


 というか、オバケ店主が僕をおぼえてない?


「オバケ店主さん」

「えっ? 私? オバケじゃないよ?」

「でも、僕が知ってる店主さんはオバケなんですけど」


 オバケ店主は気楽にハハハと笑った。

「それはもしかしたら、未来の私かもしれないな。ここは時間のない世界だから」


 そうなのか。じゃあ、この店主はオバケになる前の生前の店主? よく見れば、体、透けてない。廃墟で会ったときは三百年ぶりの客だとか言って、すっごいゴリ押し接客してきたけど、今はふつうだ。


「なんか、めずらしいものありますか?」

「めずらしいかどうかはわからないけど、このへんが品ぞろえですよ」


 お品書きが出される。

 この店主の店の品物はどうせ全部、呪われてるんだよな。でも、一点物のものすごく貴重な商品が多かった……ん?


「呪われてない!」

「ハハハ。ヤダな。呪いつきの商品なんか売り物になりませんよ。ぽよぽよさん」


 あんた、未来で呪いつきしか売らなくなるからね?

 やっぱり、あれはオバケになったからかな? オバケにとって呪いはあって当然なのか? 意外と怖いオバケ店主!


「えーと、精霊騎士の剣、精霊騎士の弓、精霊騎士の盾、精霊騎士の——」


 全部、精霊騎士シリーズだ!

 初めて見るなぁ。精霊騎士シリーズ。

 オバケから見てここが過去ってことは、もしかして、廃墟になる前のお城? その当時、商店で売ってた商品かな。


(ここが過去の古代城なら、もしかして、伝説の女神さまと王さまが住んでるんじゃ? あの話の真相がわかるかも?)


 いっきにワクワクで胸が高鳴る。


 昔々、精霊族の女神と、魔族の王が愛しあい、両国の堺に二人で暮らすためのお城を築いた——っていう伝説だ。

 前に廃墟で見つけた古い絵本に書かれてた内容なんだけど、どうもそのへんが魔王の復活に関係してそうなんだよなぁ。魔王を倒すためには必須の情報のような気がする。


 とりあえず、それはともかく、精霊騎士シリーズの性能はっと。


「ああーっ! 何これ? 防御力999? めっちゃ性能いいんだけど! し、しかも、魔法、ブレス攻撃ダメージ半減効果がついてる! あっ、でも、精霊族しか装備できないんだ」

「お客さん、精霊職マスターしてないんですか? マスターしてたら着れますよ?」


 ん? 精霊職? そういえば、前にノームの村で、クピピコにコビット王の剣で小さくしてもらったとき、精霊って職業につけるって気づいて、お祈りだけはしてもらったっけ。まだマスターはしてないけど。


 前に蘭さんのために買った精霊王のよろいによく似た、半透明のガラスみたいに華奢きゃしゃな防具が、今まで手に入れたどの装備品より性能高い。


「一個十万円か。じゃあ、これ、百個ずつください。剣、槍、弓、かぶと、よろい、胸あて、盾、ブーツ全種類ね」

「えッ? 全種類、百個?」

「仲間全員、精霊職マスターしさえすればいいんで」

「でも、百個ずつだと八千万もするよ?」

「なんだ。八千万か。千個ずつでもいいくらいだけど、まあ、そんなにあっても仲間が百人以上になるとは思えないしね」

「八千万だよ?」


 念を押してくる店主の前に、僕はそっと一億円金貨を置いた。


「ふっ。釣りはいらねぇ……いや、いらないです」


 店主は目を丸くして言葉にならない。ふう。気持ちいいなぁ。爆買い。

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