はるのいぶきとともに

鈴木怜

はるのいぶきとともに

 6がつ12にち はれ

 きょうからにっきをつけます。おとおさんが、つづけることはだいじだよっていってくれました。にっきにょうもかってくれたよ。

 まだなにをかこうかまよってるけど、いっぱいになるまでかきたいな。


「……ふふっ」

「どうしたの?」


 私が日記帳を開いていると、お母さんが部屋に入ってきた。


「昔の日記帳を見返してたの。懐かしいなって」

「あら、そう……」

「今でも覚えてるんだ、お父さんが日記帳を買ってきてくれた日のこと」

「続けることは大事だって、言ってたものね」

「うんうん。まさか、高校卒業まで一日も欠かさず続けることになるとは思ってもなかったけどね」


 3ヶ月に1冊のペースで新しくなってきた日記帳は、今や50冊はある。我ながら、よく続いたものだ。

 お母さんも、目を細める。


「そうね。……そろそろ出るんでしょう? お父さんとお話してきなさい」

「はーい」


 そういって私はリビングに出る。そこにあるのは仏壇だ。

 私は手をあわせた。


(お父さん、私、大学生になります。ここまでこれたのは、私を支えてくれたみんなのおかげです。もちろん、それにはお父さんも入ってるよ。上京するから、この家からはしばらく離れるけれど、これからも見守ってください。当然、これからも日記は書くよ。お父さんに伝えたいことは、全部そっちに書くからね。……今まで、ありがとうございました。これからも、よろしくお願いします)

 ああそうだ、と私は最後につけ加える。

(今年も桜が咲きました。お父さんが好きだった花です。写真は日記帳に貼るから、またいつか一緒に見ようね)


 そうして私は仏壇の前から離れた。

 感謝の気持ちを、お母さんにも言うために。

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はるのいぶきとともに 鈴木怜 @Day_of_Pleasure

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