第4話
そして大学に入り、これまたひたすら勉強した。
それまでの寄宿学校と違い、今度は男子も交じっていた。
私はできるだけ地味な格好で授業を受け、実験に参加した。
そう、私が進んだのは科学の道だった。
医者の道を進んでも良かったのだが、寄宿学校の教師にこう言われた。
「貴女はとても素晴らしい頭の持ち主だけど、残念ながら決して対人仕事には向いていない」
教師は言葉を濁したが、要するに、患者を驚かせる様な顔では困ると言いたかったのだろう。
正直、私の顔で心臓麻痺を起こされても困る。
納得したので、臨床医師はあきらめ、基礎医学の方に進んだ。
*
この分野に進んだ学生は、男女問わず実に現実的だった。
彼等彼女等は、私の顔を見て、どの様な色素構成になっているのか、と純粋に疑問に思ったらしい。
私は自分の皮膚を採取させてやったことが何度もある。
どうせなら、と私はそれを卒業論文にした。
結果、そうなった原因が何処にあるのか、という問題と、出身地方の言い伝えから、故郷に皮膚を害するものがあるのではないか、という話にまで発展した。
その時に出会ったのが、後に夫となったリヒャルトだった。
彼は地質科学を専攻しており、私と合同研究にあたる機会があった。
彼と私は恐ろしく気が合った。
そして彼はそもそも、私の顔に関して、何とも思っていなかった。
そもそも彼は瓶底眼鏡の近眼だったのだ。
「皮一枚の造作なんてどうでもいいよ。それよりキスした時に口が臭いほうがよっぼど嫌だ」
なるほど、と私は何かもの凄く納得した。
「君はもの凄く歯を大事にしているよな」
何かポイントはそこだったらしい。
確かに私は歯はちゃんと磨くし、甘いものも昔からそう与えられなかったので虫歯も無い。
「ということで付き合おう」
「なるほど」
ということで私も納得して付き合うことにした。
そしてとんとんとん拍子に結婚の話まで進んだ。
興味深い話をいつまでもしていたいのに、時間が足りない。だったらもう結婚してしまおう、というのが彼の弁だった。
「それだけでいいの? 私のこれ、遺伝するかもよ」
「君、子供欲しい?」
「正直、そういう意味で怖いから欲しくない」
「だったらそれでいいさ。僕は所謂家庭には向いていないってもう学生の時から自覚しててさ。たぶん子供が居ると駄目だと思う。ずっと二人で居ればいい」
思わず私は彼に抱きついた。
伯母に紹介したら、もう涙を流して喜んでくれた。
彼女は私が結婚できるとは思ってなかったらしい。
だからこそ、勉学をあれほど応援したのだ。
「でも子供は作らないつもりですよ」
「私にだって居ないわよ、でも貴女を育てていたから貴女が子供のつもりだったわ」
伯母には本当に感謝してもしきれない。
「でもやはり、実家には一度行っておかなくてはね」
「駄目ですか?」
「……あまり気が進まないけど、でもけじめというか。そこでまた困ったことが起きたら、すぐに伝えなさいね」
伯母のその言い方に、私はやや奇妙な感を覚えた。
「そう言えば、アマーリエもいい歳だと思うんですが……」
「それがね、縁談のあった人に次々と逃げられてしまって」
「えっ」
私は目の玉が飛び出すのではないかと思うくらい大きく見開いた。
あの綺麗な妹が。
「だから、そういうこともあって娘の一人が結婚できるって言うのは一応伝えておいた方がいい…… かも…… しれない…… かなって」
「伯母様、何かもの凄く心配になるんですが」
「いえね、最近全然行けていないのよ。貴女を引き取って以来、別にこれといって用事も無いから。でも話は飛び込んでくるのよ。ほら、地方だから、何かと話題が一つあると何処からともなく飛び込んでくるでしょう」
それでなかなか縁談がまとまらない妹の件も耳に入ったのだという。
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