1 第六感ー独白

 夢の中を自由に探索することができた。そこは現実のような世界。

 微かな記憶違いがこの世界を許容する。ある一つの例外を除いて。

 私はまさにその例外の前に佇んでいた。そこは現実と違わぬ場所。

 その場所には明確なルールが存在した。そこは明日事故が起きる。

 今日その場にいたのは老人一人だった。帰る途中で起こるらしい。

 

 「今日はもう帰るの?」と聞かれたが。老人を助けにいかないと。

 今の私には一刻の時間も惜しいほどだ。遅くなれば間に合わない。

 今までそんなことは一度たりとてない。だが私は常に焦っていた。

 「もし」という感情が私を駆り立てる。今日は「用事」があって。

 そう告げてその場を足早に立ち去った。彼に少し悪い気もしたが。

 

 私の「用事」は命がかかっているのだ。自分の胸に言い聞かせる。

 私はいつも通り事故現場に到着したが。今までとは明らかに違う。

 普段の私が目にするのは事故の瞬間だ。決して事故の後ではない。

 だが今回は事故が起きた後だったのだ。彼と話したからだろうか。

 気にはなったが私はその場を後にした。老人は救急の人に任せて。


 その晩、私は見たことのない夢を見た。そこには誰もいなかった。

 「例外」の夢は何度か見てきたのだが。こんな事は初めての事だ。

 私が立っている場所は近所の大通りだ。普段なら誰かしらがいる。

 だが私がどこを探しても見当たらない。だが夢なら間違いもある。

 それにここ数日疲れているだけのはず。そのようにして納得した。


 そんなことを考えていたからだろうか。翌日私は酷く疲れていた。

 酷い顔で通学途中にある大通りに出た。赤い信号に気付かぬまま。

 私の夢は次の犠牲者を指し示していた。誰もいないわけではない。

 私だけはその大通りに確かにいたのだ。今気付いてももう遅いが。

 それに気付けない程疲れていたらしい。そんなことを考えていた。

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