第5話 スキルとアイテム
「ついては──」
男は一向に静かな口調のまま言った。
「君が転生するときに必要なスキルとアイテムをいくつかあげよう。いや、この世界では皆、何らかのスキルは生まれながらに持っていることになっているのだが、有意義に使っている者はそう多くない……まず、スキルは何がいい?」
「ええと……じゃあ、武力、知力全部チートスキルで」
と、オレはコー○ーの『三国志』あたりに出てくるような文武両道の有能な武将をイメージして、悪びれずに言った。
すると、男は
「悪いが、そういうのは無いな」
と言った。
あ~、さすがに無理か。
「そもそもオレの転生先ってどんな世界なんですか? それによりますよね」
と、オレ。
だって、そうだろう?
どんな気候風土、どんな文明レベルの世界であるかによって、必要とされる特技や能力は変わってくるはずだ。
「そうだな。いいところに気がついたな」
と、男は意外そうに言った。えっ、オレって、そんなバカに見えてたの?
「だって、そうでしょ? たとえば、敵味方がレーザー銃で撃ち合ってる世界で、剣術のスキルが高くてもたいして役に立つとは思えませんから」
「よろしい、なかなか冷静な考えだ。いや、こういう時に、自分の興味本位で実際には役に立たないスキルを選ぶ者も多いんだよ。でも、スキルはこの世界で生き残る
あっ、もしかしてオレ、
男は少し考えてから、この世界について簡単に説明を始めた。
「そうだなぁ……君が元いた世界と比べると、文明の水準は低い──まあ、君がいた世界なら中世ヨーロッパのイメージに近いかな。皇帝、貴族、平民という身分制社会だし」
「何だか異世界ファンタジー小説か歴史シミュレーションゲームの世界みたいですね」
オレはこの手の小説やゲームもわりと好きだから、それなりに予備知識として生かせそうだ。
男は言った。
「そうだね。しかし、その世界はこれでリアルな現実だ。そしてそこでも人は生まれ、生き、そして死ぬ」
そう言われると、気が引き締まる思いがして思わず神妙な返事をした。
「はい」
「その一方で、この世界はいうなれば『剣と魔法の世界』だ」
「と、言うと……?」
「妖精とか魔法とか、君たちの世界ではファンタジーの世界にしかないものが、現実に存在している」
「しゅごい! じゃあ、エルフとかゴブリンとか、魔女とかドラゴンとか、本当に存在してるんですか!」
オレは嬉しくなって舌を噛みつつ大声を上げてしまった。
しかし、男は少し苦笑いをしながら言った。
「ああ。しかし、この世界では基本、自分の身は自分で守らなければならないんだよ」
「どういうことですか?」
「君がもといた世界に比べると、社会秩序は維持されていない。つまり、治安はお世辞にもいいとは言えないし、そもそも人間の勢力範囲は限られている。その、妖精とか魔物とか、いろいろいるからね」
「『剣と魔法の世界』ならば、何か武術や魔術の心得があれば有利ですよね?」
「まあ、そう考えるのは自由だがな」
「仇討ちって、要するに決闘ですよね?」
「まあね」
「じゃあ、まず剣術! 剣術の能力をください!」
「よかろう。剣術レベルCランクでスタートだ」
なんですか? Cランクって。
思わず声に出た。
「それって、やっぱりAランクが一番強いんでしょ? えっ、Aランクじゃないんですか?」
「不服か?」
男は不満そうにオレを睨んだ。あっ、この男、オレに初めてそんな顔をした。
それから男は説明を始めた。
「皆、どんなスキルでも普通はFランクからスタートだ。スキルはF→E→D→C→B→A→Sという七段階だ。だいたい、FランクからEランクに上がるだけでも大変な経験と努力が必要なんだぞ。それがCランクからだからな。たいへんな厚遇だ。それを君の持って生まれた素質として進呈しよう」
と、男は言った。
なるほど、そういうことならいいか。
まるで、大学のランキングだな。Fランは恥ずかしい。いや、しかし。
「それがどれくらい強いのか、さっぱり見当がつきません」
「そうだな……大きな街でも剣術Cランクなんて、そう滅多にいないぞ」
いったい、「大きな街」というのがどの程度の大きさなのか、「そう滅多にいない」というのがどの程度の割合なのか、突っ込みどころがたくさんある大雑把な発言だが、オレは黙っていた。それを訊いたら、おそらく「面倒くさいやつ」と思われるだけだろうと思ったからだ。
おそらく、経験を積むことで自動的に上へ上がっていけるようなシステムなのだろう。まるで、昭和の年功序列の会社組織のようだ。
「次だ。じゃあ、アイテムはもちろん剣がいいかな?」
「そうですね」
「ほら、この中から好きなのを選べ」
と、男は上着のポケットからカタログのようなものを取り出すと、オレに差し出した。まるで何かのセールスマンのようだ。
オレはそれを受け取ると、ざっと眺めた。
「え~と……このブロードソードが柄頭や鞘の飾りもシンプルで、かえって闘いやすそうで良いかも」
と、オレは一本の地味な剣を指した。
男はそれをちらっと覗くと、
「そうか……なかなか渋い趣味だな。よろしい、すぐに手配しよう。サービスとして剣に軽量化と切れ味UPを付与しておくよ。」
と言った。
なんだか、大天使というよりどこかの店の店員の話を聞いているように思えてきた。
あと、男は「この世界で生きていくためには必要だろう」と言って、オレに特殊スキル「解読」をやると言った。
「君は自分の命を犠牲にして女性を守っただろう? そういうのはポイント高いんだ。特別にサービスしとく」
と、言うんだ。
あ、真里ちゃんのことか。
「あの時、あの娘が刺されていてもおかしくなかった」
そうかぁ。そういうことなら納得だ。
「でも、『解読』という能力はどう使えるのか……」
「それは君しだいだ……何の役にも立たないかも知れないが、世界一役に立つかもしれない」
さっぱり要領を得ない。
「いいか……能力を磨いて、復讐に備えるのだ。もちろんだが、相手も何かスキルを持ってるはずだからな」
そう言われると、オレは何だか身体からアドレナリンが湧いてくるような感じがした。
ちくしょう、オレはその加藤洋とかいう男に見事、復讐してやるぞ! そして、何としても元の世界へ戻るんだ!
「わっ、わかりました。いろいろありがとうございましたっ!」
とオレは思わず男に向かって最敬礼をした。
頭を上げると──目の前にいたはずの男は、影も形も無かった。
◇ ◇ ◇
第五話まで読んでいただきありがとうございました。
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