第61話 私の養子

 2人で定めた魂交歓の準備期間は終わった。


 私達は見合って魂の防御を解除し、重ね合わせる。融合、のち両者激しく拒絶。

 双方ともに猛烈な痛みと吐き気でその場に崩れ落ちる。

 成功だ。が、拒絶反応も絶大だった。

 私達は似た者同士だと、受け入れた魂の情報からもよく分かった。


 膨大な情報をやり取りした上、吐き気の止まらない私達は、再会を約束し別れる。

 その後、私は度々されたので、「無駄だ」という予感の的中を知る。


 ペイモンは、昴ちゃんと晴れて一緒に住む事になった。何故か?

 昴ちゃんが過労で倒れたからだ。


 戦魔領は多くの改革がなされており、人材も育ってはいたが、蘇り組にも次のベフィーモスになれるほど強いものはいなかった。

 昴ちゃん自身も2代期生まれの悪魔で、当時の戦魔領でも屈指の実力者だったので当然と言える。そこで、引退ルキフェル様からの頼みで、イザリヤが立候補した。


 昴ちゃんが最後の力を振り絞り、イザリヤと対戦。結果はイザリヤの勝利だった。

 だが、かなりいい勝負だった。

 イザリヤは昴ちゃんと盟友の誓いを交わしていた。


 今度こそ完全に力を使い果たした昴ちゃんは引退した。

 で、ペイモンはエラム君をディースに任せて「昴を看病する」という名目で―――まあ実際看病は必要だったのだが―――2人で密室に引っ込んでしまったのだ。

 絶対に、ペイモンは看病というより、2人きりになりたいだけだと断言できるが。


 ディースだけに任せるのは不安すぎる。私はディースの前に姿を現す事にした。

「発掘」の時に会っているのでもういいかと思ったのである。

 ディースは私が来ると計算していたのだろうか?頭の中を覗くと、私が来たから悪だくみを一時中止して、大人しくエラム君の面倒を見る気になったようだった。

 呼び方はディースはレイズエルと呼び捨て、エラム君からはお姉さんと呼ばれた。


 5千年(6カ月ってところかな)も引きこもっていた二人には呆れた。


 そして1つ目の運命の日がやってきた。

 その日、私はシュトルム公爵家の近くの空間にやって来た。

 隣接するワーウルフの住む森に用があって外せなかった。

 私はワーウルフ達とのコネクションを広げていたので招待されたのだ。


 その帰り。シュトルム公爵家はスレンデル家と戦争(いや虐殺か)状態になっていた。シュトルム公爵家では、魔界の為にある儀式を行うのだが、その儀式を行った直後、当主は無防備になる。スレンデル家は特殊な術でその日を予測していたのだ。

 しかも、奥方の出産と重なる、最悪のタイミングを突かれた。


 残る家臣たちはスレンデル家の虐殺を止められなかった。

 当主が殺され、奥方は息子を産み落とした直後に、夫を殺した直後のスレンデル家当主に襲われた。逃げるが重傷。死を前にして―――どうやったのか彼女は私のいる空間を引っ掴み、私の足首を握りしめて叫んだ「この子を!」と。


 私は母親ごと、異空間にを引き込んで言った。

「貴女が私の生贄になるなら、助けましょう」

「この子をあなたが育ててくれるなら、生贄とやらになるわ」


生贄とは「ミラの儀式場」という禁呪で、異空間にある血の祭壇で捧げられることを意味する。生贄の魂を糧に儀式場では奇跡が起こせるのだ。

生贄には条件がある。

自分以外を利する願いであること、長い黒髪であること、女であることの3つを満たす者のみが、生贄として自分の魂の必要分を削り願いを叶えられる。

私の利益はその残った魂で自分の願いを叶えられる事だ。それはいつでもいい。


私はあなたの母親に延命処置をしながら儀式場に連れて行き、彼女はピラミッドの頂点にある祭壇から、階段を転げ落ち―――願いと引き換えに死んだ。

そしてあなたは私の養子になった。

後は知っているでしょう?


え?

知りたいの―――?

未来を?


そう、どうしても知りたいの?

口に出すと未来は確定してしまうのよ、それでもいいの?

え?私が未来から来た「私」だと知っている?

鋭いのね、私の坊や。

分かったわ。

話しましょう。

もう少しだけ「ある少女のモノガタリ」を


母親の願いを私は叶え、あなたは私の養子になった。

その日から、あちこちをいつものように飛び回りながらの子育てが始まった。

私はあなたに相応しく雷鳴らいなという名をつけ、できるだけ一緒にいた。

昼間は分身に任せたりしたけど、夜には必ず歌で寝付かせた。


それまでは家の中で、練習として歌っていた歌に観客ができて嬉しかった。

でも何度も「蛇」にあなたをさらわれた。何故か?

あなたを門として、「蛇」の使役するレイスが家に入れるようになってしまったの。

さらわれる度に取り戻したけど、いつも私、泣いてしまっていたわね。

これ以上失うのは嫌だったのよ。あなただけは、って。


でもあなたは、私をこれ以上泣かせたくないと言って、過酷な修行の道を選んだ。

渋る私を何とか説得して、私の騎士になると―――役に立ちたいと。

私はあなたが諦めないと『勘』で知っていた。だから受け入れた。


そして今、あなたは私の特訓を受けているのよね―――

ここから先は、私の知る未来のお話。

私の知っている未来までたどり着いたら、今度こそお話は終わりよ?

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