第60話 ペイモンという男

 第3王子、水玉すいぎょくが試練の穴に入って5千年。


 水玉すいぎょく王子がいない間には様々な事が起きたが、特筆すべきは「異界の魔王」ベルゼーヴァが放った蘇りの秘術―――3代大戦で死んだ者を全て蘇らせる秘術だろう。

 それで人口が一気に戻った戦魔領は、6代のベフィーモスである昴ちゃん(女性)の御旗のもとに、凄い回復ぶりを見せていた。


 その頃、私はようやく斃れたベール大公の領地に行くことが増えていた。

 ここには未知の知識が沢山ある。

 ベール大公が「蛇」に汚染(「蛇」になってはいなかった)されていたので、「蛇」の知識も手に入ると踏んで、地下に張り巡らされた遺跡群を回っていたのだ。


 だが問題は、私は関わり合いになる気がなく、人界に避難していた「ドッペルゲンガー現象」というものを解決し、はれてベール大公領と昴ちゃん(現ベフィーモス、女性)をGETした、天才悪魔ペイモン。

 ベルゼーヴァの秘術による蘇り組である。


 なんと、大戦での死を避けられそうにないと思ったペイモンは。

 必ず蘇れる、と自身の英知を持って―――「ペイモン」としての能力は、人に召喚された時しか使えないので、本当に自身の英知だ―――戦魔領で死んだそうだ。

 嘘か本当か?私は「時戻り」で見たから知っている。全て本当である。


 まあ、それは関係ないと言えばない。

 彼が、遺跡の掘り出しをやっていることが問題なのだ。

 先日私は、ペイモンの「連帯領地経営者」である「ディース」と顔を合わせてしまうところまで行ってしまった。


 ペイモンと昴ちゃんの息子であるエラム君が、迷宮に迷い込んできたのである。

 危険地帯だったので、さすがに放っておけず近づいた私にエラム君は一言。

 「お姉さん、助けて!」と言った。これは私が悪い。

 この状況ではどんな子供でもそう言うに違いない。

「………助けるから、泣き止もうね」

 私はこの子を探している者がいないか、地上も含め『教え:観測:捜索』する。


 いた。「共同経営者」のディースがいる。1代期の悪魔であるが、時戻りを何度も何度も重ねている私には「坊や」だ。だから性格に難があるのは把握していた。

 しかし、今は状況が状況。この子を『テレポート』させてもいいが、あまりそういう乱暴な事はしたくなかった、なぜか。

 「彼ら」とは引き合う運命だったのかもしれない。


 『こっちだ―――』ディースに声をかける。地下から。

 『こっちだ―――』『そこを右に―――』『その階段を下れ―――』

「はい、こんにちは。散歩に連れ出すなら子供から目を離しちゃダメだよ?」

 過去見で分かった事だ。ディースは仕事が空き、エラム君に構っていたのだ。


「ああ………悪いな、あんたは―――」

「私の事はいいのよ坊や?それよりこの子をちゃんと面倒見てあげて」

 「ディースおじさん!」と笑顔で抱っこされているエラム君を見やる。

「そうだが―――」

「じゃあね」

 私は闇に溶けて消えた。


再会は早かった。からである。

そう、わたしは普段ヴァンパイアとしての自分を受け入れ、あまり普通の悪魔と同じことはしない。だから遺跡探索中でも、石棺とかがカラならお邪魔して、特殊な術で閉じ、安全を確保したら寝る。


そのときもそうだった。夜を検知して起き、私は寝起きが悪いので(起きれはするが機嫌が悪い)10分ほど置いて、何故か人の声がする外を確かめようと棺を開ける。

はい「「おはよう」」

とっさにテレポートしようかと、どれだけ思ったか。

しなかったのは『予感』が「無駄だ」と告げていたからだ。


私はペイモンの邸宅―――凄いガチガチに固められた魔法建造物だ。家族以外は出入りできないだろうな―――に招かれた。ディースは現場監督に残る。


ペイモンは、物凄い数の「頭付きの蛇」につつかれているがケロリとしている。


だが、昔はそうではなかった。やることなすこと上手く行かなかったことがあった時期は「蛇」が邪魔をしたのだろう。見て来たのだから間違いない。

そう言うと「そんなものが居るのかね?」と言いつつ、青筋が浮いている。

私は量産している「銃」と「蛇」避けの「メビウスリング」をいくつかと、「精霊玉1つ」で邸内を不可視にし、入口にメビウスリングを置いておく様アドバイスする。


それから、私はペイモンと密会を重ねた。彼は研究者として知識を共有するのに申し分ない人物だった。「蛇」については、彼と私は同志である。消えちまえ、と。

私は「蛇」の狂った精霊界についての調査の共闘を持ちかけた。

だが困ったことがある。


「蛇」は口に出した一部の事から全てを察してしまう事。

これではどれだけ頑張っても、彼に知識を伝えるには限度があった。


私が提案したのは―――それだけ彼を買っていたのだ―――魂交歓だった。

魂を重ね合わせ、一瞬だけ同化する荒っぽい方法。

リスク………というか嫌なのは、相手に自分の全てを知られる事か。

それは向こうも同様だと思われるが―――考え込んだのち、承諾が出た。


まさか彼が応じてくれるとは思わなかったので(いや、言ったのは予感があったからなのだが)少々驚いたが―――。

お互い、どうしても知られたくない事や、今はまだ知るべきではないという事に「ブラックボックス」と「キーワード」を設定するための準備期間を設けたのだった。

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