第58話 死者の都

………余計な事をしたのは魔帝である。

何と、科学王国ルベリアに核(さらに魔法で強化されている)を打ち込もうとしたのだ。いや、実際に撃ちこんだ。異世界戦争の真っ只中なのに。


爆発前に私が回収、そして異次元空間で爆発させなければ、確実に惑星ルベリアに着弾・爆発していただろう。何を考えていた!?

………キレて思考を読みかけたが我慢。気付かれるのはまずい。

だいぶ後に、魔界を滅ぼそうとする試みの一環として、実に気楽にやったものだと判明した。自殺願望もあったようだ。


これで私の存在が疑われたようで、各所に防いだ者の捜索が命じられた。

魔帝の意に背く存在としてだ、殺意………いやこの魔帝だと悪意か。

とにかく悪意全開である。だが誰も私を見つけられなかった。

私は全魔界の者(魔帝城は除くが)の思考を常時読んでいるのだ、当然だった。


唯一察知したのはイザリヤだ。近況報告し合っていたから、私自身がバラしたのだ。

もちろんイザリヤは私の味方だ。

何より今代魔帝をイザリヤは凄く嫌っている。本能的に危険と悪意を感じるらしい。

それは間違ってない。アレは世界にとっての害悪だ。


魔帝を排除するべきか悩んだが『勘』は不要だと言っている。

仕方がないので自己の研鑽に力を注ぐことにした。


故郷、惑星カタリーナに「死の道」というものがある。

冥府の王タナトス。彼が座する「死者の都」へ行くのだ。

死の精霊から、死者の都の前には、ヴァンパイアの体があると聞いたからである。イザリヤも一緒に行くと言った。


「死の道」はまるでエジプトの「死者の書」に記されているような試練続きであり、イザリヤと一緒でなければ挫折していたかもしれない。


結果から言うと、「13君」は全て健在。「3王」は全て死去だった。

3代期の、霧の中の出来事で、3王は誰かに弑されたのだ、と分かった。

分かった理由は、道中私が突然、意識を失ったことがあったのだが、その時そう口走ったのだとイザリヤが教えてくれた。「予言」ではないが、恐らく正しい。

イザリヤはお前がそう言うならそうなのだと信じる、と言ってくれた。

いい親友を持ったな、私………


整然と並ぶヴァンパイアの「

死ぬと魂まで滅ぶヴァンパイアは、一生「死者の都」には入れない。

物悲しい光景だと思った。輪廻を蹴りつけているようなもの。

他の星で「抱擁」されたヴァンパイアもみんなここに


どう思われているのだろう?タナトスの玉座の方を見ると手招きされた。

首を横に振ると、唇の動きで「可哀想な子」と言われた。

彼は―――死の神タナトスは優しく微笑んでいた。

私はもう一度首を横に振る。自分を可哀想だと思うのは止めたのだ。


帰りは何の妨害もなかった。ただ洞窟を歩いていただけだが収穫があった。

横穴があり、その先はそれなりに広い部屋になっている。ここから外が見えた。

洞窟の中には、鮮やかで濃いピンク色の、小さな薔薇をつけた蔦がびっしりと生えている。かなり分厚く層ができているようだが、注目に値するのは別の事だ。


『教え:観測:説明書』によると、花を散じ染めた指で、蔦のトゲを指に突き刺す。

常人なら気が狂う程の痛みが発生するが『勘』は私が何とか耐えると言っている。

それはそれで、苦行として修練に取り入れるまでだが、それだけではない。

トゲを落とした蔦を繊維に加工し編めば、どんな呪いも解呪する奇跡の服ができる。

人形にすれば(どんな病もではないが)病は胸に押し当てるだけで癒す。

苦行と合わせていい修業の場だと言った私を、イザリヤは呆れた目で見て来た。

………おかしいかな?私。


まあ、とにかくそこの横穴から出てみると、結構ショートカットできていた。

私はここに「ワープの拠点」として機能するアイテムを置いておくことにする。

何故かと言うと、ここは「能力制限空間」であり、魔法の道具のみ機能するからだ。

きっとこれから、しょっちゅうここを使うだろうから設置したのである。


イザリヤと別れて、私はここに残った。

私が今、魔界にいない方がいいと『勘』が囁くからだ。

もし戻っていたら、あまりの惨事に手を出していただろうことが後でわかった。


わたしは苦行に打ち込んだ。瞑想し、血の涙を流しながら。


そして、痛みがぬるく感じられるようになった頃、到達したのだ。


ヴァンパイアから「解脱」できるようになったと『勘』はいう。

生者に戻れるかもと?確かその人の「本質」を現す種族になれるのだったか。

だが今は、あまり私にとって意味のあることではない。

私は「期」を待つために「解脱」は行わないことにした―――。


帰ったら異界の侵略者は駆逐され引き上げたのが分かった。

その代わり、天魔大戦が勃発していたが………


事の起こりは、天界が滅びかけの異界の天界を受け入れたことに始まる。

だが異界の天帝が避難する前(彼女―――異界の天帝は大した力を持たないただの女性だったらしい)に、魔帝が彼女をさらってしまう。

魔帝は彼女を後宮に放りこみ、ほぼ性奴隷の扱いをした。

激怒した天帝が宣戦布告―――とあいなった。


ちなみに魔帝には非公式に王妃がおり、彼女は現アスモデウスである。

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