第55話 世界移行 2

 そうだなぁ、ナースの勉強をしてもらおうか。

 その中でも素養がありそうな子は、医者になる勉強を………。


 そう思いながら私は研究所内で寝泊まり出来て、本の代わりにデータで学べる環境 を作る。こんな事が思っただけで出来るなんて、本当に遠くに来たものだ。

 食べ物は必要かと聞くと気分転換に食べます、との事。

 なら、さっきのハンナに練習がてら作ってもらって持ってきましょう。

 連絡用の分身を残して、彼らには勉強をしてもらいます。


 私が「家」に帰ると、宇宙空間から呼ばれているような気がした。

 「多分この座標」というところに行くと、7人の女性が立っていた。

「来ましたね、リリス」

 一番年かさ(それでも30代ぐらい)の女性が言う。

「私はそんな名前じゃないわ」

「あなたの真名です。Perfect-Type Great Wingのリリス。種族名「プルト」

「それは………私の名前だわ。今思い出した」


「あなたたちは?まさか私の過去を教えにやって来たんじゃないでしょう?」

「結果的にはそうなるかもしれません」

「私達は、今後貴女に天界・魔界・人界を守ってもらう代わりに、あなたに身を捧げに来たのです。私達の力を貴女に。人格は貴女の奥底で眠ります」


「私に力を譲り渡した後、生贄の祭壇で死んでもいいということ?あなたたちが同じ思いを抱いてここに来たなら全員条件が一致するわ。でも、なんで?」

「その通り、全員意見が一致しているのです。可愛い末っ子たちが命を懸けて作った各界を壊したくない。最後まで星船の役割をやり届けて欲しいのです」

「私にそれを助けて欲しいと?」

「できませんか?貴女ならできるはず。あまたの神を受け入れて、それでも自我を保つ貴女なら。私達は「星船」を作るのに失敗した身。この身は惜しくありません」


 私は魔界だけならともかく、他の2界を守るつもりはなかった。

 何故なら、3界全てを守るなら、ラータルカ以外の人界を守る事になるからだ。

 だが、感じていた………いつか私は自発的にそうするだろうと。

 世界を守る?このわたしが?

 確かに大切なものはある。だが………


「今の私には動機がない。でもいつかそうなるとあなたたちが信じるのなら、話をお受けしましょう。その突拍子もない話を。―――儀式場に行きましょうか」


そして私は、創世神7人分の力を身に受け、儀式場はその強大な血を吸った。

儀式場の地面は紅く染まり、畑の様になった地表には血が満ちた。

畑から採れる麦の粒は紅く―――血が凝縮されていた。

死んだ女たちは透けているとはいえ、魂を具現化させることができるようになった。

儀式場が使われるたびに、女たちは魂を使いつくされ減っていくのだが―――。


 私は力を馴染ませるために、イザリヤの隣で眠った。

 久しぶりに安らかな眠りだった。原因がどれかはわからない。

 起きた私は、確実に前より3界に愛着を覚える様になっていた。

 リスクを冒したのだ、これぐらいは仕方ないか。

 まだ寝ているイザリヤを優しく撫でて、私は術を使った。


『幻影術:全てを覆い隠す幻影』

天界、魔界、ラータルカの3つの姿を完全に隠したのである。

皆が眠りから覚めても、まだ科学王国ルベリアと魔法王国フィーウには及ばない。

侵略されないように、隠しておくのだ。対抗できる日まで。

勿論住民はこの庇護に気付かないようにしてある。


さて、問題は「破壊の蛇」だ。

今回得た情報を基に、奴らから身を守る「メビウスリング」の他にも術があることに気付いた。確実なのは奴らが非実体の状態なら追い払う術が作れることが分かった。問題はどう形にするかだ。

一番大事なのは、具現化した奴らを倒せる武器の構想だ。絶対作る。


だが決まったことがある。私は当分表舞台に出ない。

なぜかというと、私がその研究を完成させて表に出てくるぐらいなら、奴らは天魔帝に総攻撃をかけてくるだろうからだ。それが何とかできないうちは出てはダメだ。


今後私は裏から3界を守ってゆく。イザリヤとの交流は、私の神経の為に続けるが。


3代魔帝の子である天帝と魔帝が即位した。

緩やかな治世だった。まるで先代で負った傷を癒すかのように。


わたしはというと、人と会わないように亜空間を歩きつつ(それでも空間を超えて助けを求められたりもするが)様々な情報を仕入れる。

それか研究室にこもりきり。

もしくは自分の生まれたよりも以前の世界を探求する毎日。

ハンナが心配して血を持って来てくれるのに癒される。


イザリヤがいなければ、私の生活は、もっと孤独だったに違いない。

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