第49話 最初で最後の同族喰らい

 現代領の魔帝領―――魔帝の城の裏手に、住民の登録ができる役所ができている。

 そこで、登録を済ませ、住む所を物色していると。

 脳裏に始祖カインの声が聞こえた(会った事は無いが本能で分かった)

 《重要な会議があるため、自分の氏族を持つものと3王は集まる事》

 場所が脳裏に浮かぶ。私も自分の氏族を持つものだ。行かなければ。


 その場所―――現代ベールゼブブ領の森の中―――に行った私は困惑した。

 濃霧が出ており、ほとんど視界が効かないのだ。

 なのにあちらこちらから悲鳴のような声や怒号が聞こえる。

「アリケル!ジャントリー!エルカゴ!プレイヤー!ゴウガー!」

 叫んであちこちを回ってみるが、一向に誰も出てこない。


「リリス様!」

 そう叫んだ時だった。濃霧の中からリリス様がよろりと姿を現したのは。

「ライラック………」

 私は倒れそうなリリス様を慌てて支える。

 彼女は全身傷だらけで―――致命傷を負っていた。私にも癒せない。

 だが蘇生なら施せるかもしれない、いや、ヴァンパイアには無理だ。


「ライラック………多くを語るには時間がありません。破壊の蛇の陰謀なの。貴女は私を同族喰らいして頂戴。私の全てを貴女にあげるわ」

 あまりに唐突な事に逡巡していると、リリス様が急かす。

「早く!私が死んでは意味がない。私の経験も能力も人格さえも貴方に託す!」

 私は意を決して、彼女の喉首に噛みついた。

 途中から血がなくなり、血というよりも魂をすする感覚。

 それも無くなった時、脳裏でかちりという音が響き、同族喰らいが完了した。


 リリス様の全てが私の中で渦巻く。

 融合のショックに耐えかね、私はまた休眠した。


 まずわかった事が一つ。

 私のこれまでの人生で悲惨な事が多かった―――今もまだ多い―――のは、リリス 様達が「破壊の蛇」と呼ぶもののせいであったこと。


 この世界(宇宙)はマザー世界と呼ばれる。

 階層型の世界であり、今いる場所は第一階層。最も浅層に位置する。

 今、宇宙の意志である「グランドマザー」は弱っており代替わりが必要である。

 その代替わりする者を導くためには「船」が必要である。

 魔界、天界、人界(惑星ラータルカ)はその3つの要素全てで「船」たりえる。


 「グランドマザー」の体であるこの宇宙にも、弱っている弊害が出ている。

 つまりは、体が弱って、色々な機能が暴走しているのだ。

 本来、秩序と無秩序のバランスをとる役目だった「蛇」も暴走した。

 秩序を捻じ曲げ、無秩序(自然)は削除するようになったのだ。それが「破壊の蛇」


 自然は壊され、そこに歪んだ秩序を持つ者たちが住み着いて行く。

 私はそれを邪魔できる存在なのだという。力さえつければ、だが。

 だから私は徹底的に悲劇に遭わせられ、発狂するように仕向けられたのだと。

 なんでも、私は死なないらしい。死んでもすぐ蘇るという。

 ふざけるな、じゃあ今までの「死が怖い」という意思は何なんだ!


 無意味………だったの?いや、それでも私は死が怖い。

 そこには「破壊の蛇」は関係ない。


 リリス様は天界魔界人界を創るためにある存在から産み落とされた。

 その存在は「リトルマザー」と呼ばれる、代替わりのグランドマザーだ。

 リトルマザーが「船」を作るために創り出されたのだ。

 だが、上手く行かず、次の「リリス」に後を託し自由の身となった。

 それから10人ほどの「リリス」が誕生した。

 ようやく成功したのは、初代の魔帝と天帝と人帝の3人に能力を分散したから。


 その一人が、私の知る初代魔帝だったわけだ。


 ちなみにリリス様はカインに恋したわけではない。

 血の縛り―――グールを作る時にするあれだ―――で愛を強要されていただけ。

 だからだろうか?彼女の人格は私の中に溶けてしまったようで、何も残ってない。

 記憶はある。半ば諦めながらも、カインをずっと恨んでいた。


 今回の事は自分が襲われた事から「破壊の蛇」の仕組んだ事と予想している。

 だが、他の者は?わからない。不可思議な霧で皆分断されてしまっている。

 ただ、ディアボロス、エレオス、リエゴ、カヴァッロは不参加だったのは確か。

 リリス様を霧の外に逃がしたのはヴォールクだった。

 

 わたしはヴォールクと連絡が取れないか、休眠場所から意識だけを飛ばしてみた。

 ………わからない。どうも戦魔領にいるようだが………

 イザリヤの気配は引退ルキフェル領にある。今回の事はノータッチだろう。

 さっきから意識せずに使っていたのだが、どうも私は血族の者の居場所がある程度把握できるようになったようだ。いくつか見知った気配が感じられる。


………これからわたしはどうしたらいい?

答えは簡単だ。強くなって「破壊の蛇」を返り討ちにできるようになってみせる。

リリス様を取り込んだ私は、もはや最上級悪魔にカテゴリされるだろう。

まずは休眠状態を一刻も早く脱し、拠点を作ろう。自分の要塞を。

「破壊の蛇」はマザー世界内でしか行動できないと分かっている。


なら、死んだ他世界の残骸が、丁度こちらに流れてきている。アレを使おう。

使いでがあるから全部捕獲してしまおう。異世界空間に拠点を作るのだ。

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